説明

転移性疾患の治療

【課題】転移性腫瘍細胞の増殖を阻害する抗体を提供する。
【解決手段】a)チロシン・リン酸化したタンパク質を哺乳動物のリンパ節に注射し、b)リンパ節細胞を上記哺乳動物から採取し、c)上記リンパ節細胞をミエローマ細胞と融合して、ハイブリドーマを形成し、d)EphA2の細胞外エピトープに特異的に結合する抗体を産生する少なくとも1のハイブリドーマを選び、そしてe)上記抗体を単離することを含む転移性腫瘍細胞の増殖を阻害する抗体の作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、転移性疾患の診断及び治療に関する。より特に、本願発明は、転移性疾患の診断及び治療の標的としての、転移性癌細胞内に過剰発現される上皮細胞チロシン・キナーゼの細胞外エピトープの使用に関する。最も特に、本願発明は、上皮細胞チロシン・キナーゼと相互作用し、そしてその発現を変える化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景及び概要
癌は、異常なシグナル伝達による疾患である。癌の最も危険な状態は、体内の離れた部位に転移する悪性細胞である。転移性細胞は、原発腫瘍から逸脱する能力を獲得し、離れた部位に移動し、そして離れた及び異なる微小環境にコロニーを作る。癌細胞の転移は、1)原発腫瘍から分離し、2)局所組織中を遊走及び浸潤し、3)(リンパ液又は血液を介して)体内の遠位に場所を移し、4)異質な部位にコロニー形成し、そして5)この異質な環境の中で増幅及び生き残る細胞の能力を必要とする。これらの性質の全てが細胞接着に関係している。細胞接着は、細胞とその微環境との物理的相互作用を制御する。細胞接着は、腫瘍細胞の増殖、死、及び分化を命令するシグナルをも惹起する。細胞レベルでは、転移性細胞は、物理的結合、及び細胞間の接触により伝達されたシグナルから生じる細胞増殖、及び遊走に対する制限を克服している。悪性細胞は、転移のいくつかの側面を促進する結合とシグナルを提供する周囲の細胞外マトリックス(ECM)タンパク質との増加された相互作用をしばしば有する。
【0003】
タンパク質チロシン・リン酸化のレベルは、上皮細胞における細胞−細胞接着と細胞−ECM接着の間のバランスを調節する。上昇したチロシン・キナーゼ活性は、細胞−細胞接触を弱め、そしてECM接着を促進する。チロシン・リン酸化レベルの変化は、腫瘍細胞の侵襲性に重要であると考えられている。チロシン・リン酸化は、細胞膜チロシン・キナーゼにより制御され、そしてチロシン・キナーゼの発現増加は転移性癌細胞において発生することが知られている。
【発明の開示】
【0004】
EphA2は、成熟上皮で発現される130kDa の受容体型チロシン・キナーゼである。エフリン(Ephrins)として知られるチロシン・キナーゼのEphファミリーの仲間であるEphA2は、膜結合リガンドをもつ膜貫通受容体チロシン・キナーゼである。EphA2発現は、肺、乳房、大腸、及び前立腺腫瘍を含む多くの転移性細胞において変更されていることが発見されている。加えて、EphA2の分布、及び/又はリン酸化が、転移性細胞において変更されている。さらに、EphA2を過剰発現するように形質転換した細胞は、悪性増殖を示し、そしてEphA2刺激は、悪性増殖及び侵襲を取り消すのに十分である。EphA2は強力な腫瘍性タンパク質である。本発明は、転移性癌の診断及び治療に関してEphA2を標的とした化合物、及び方法に向けられる。
【0005】
癌治療に対する1の方法は、前もって同定された腫瘍抗原に対して前もって形成された抗体の投与である。この処置は、受動抗体治療(passive antibody treatment)として知られる。受動抗体治療の一例は、乳房癌の治療へのHerceptin(商標)の使用である。Herceptin(商標)は、Her2/Neuの細胞外ドメインに対して特異的な、ヒト化された形のマウス・モノクローナル抗体である。Herceptin(商標)による治療の根拠は、25〜30%の転移性乳房細胞がHer2/Neu受容体型チロシン・キナーゼを過剰発現していることである。Herceptin(商標)は、治療において良好な許容性を示し、そして転移性乳房癌の保全と軽減に対して多くの望みを示した。
【0006】
癌治療のための有効な受動免疫療法は、1)転移性腫瘍において過剰発現される抗原を標的とする;2)上記抗原の細胞外エピトープを標的とする;3)患者の循環におけるあらゆる他の抗原と交差反応性でない;そして4)殺腫瘍性又は腫瘍停止活性を示す抗体の単離及び同定が必要である。
【0007】
好ましい態様において、本願発明は、EphA2の細胞外エピトープに特異的な抗体の選択及び使用に関する。本願発明の方法は、癌治療についてのEphA2特異的抗体の調製、選択、及び使用を含む。
【0008】
癌治療に対する他の方法は、発現を刺激するアゴニストの使用である。例えば、免疫グロブリンH鎖に連結されたエフリンA1(ephrinA1)の細胞外ドメイン、エフリンA1−F(EphrinA1−F)(Miao, H., et al., EphA2 kinase associates with focal adhesion kinase and upon activation, inhibits integrin-mediated cell adhesion and migration, Nature Cell Biol 2, 62-69 (2000)を参照のこと)は、EphA2のリン酸化チロシンを増加させるために使用されうる。したがって、他の好ましい態様において、本願発明は、転移性細胞におけるEphA2の発現を変化させるためのアゴニスト又はアンタゴニストの使用に関する。
【0009】
したがって、本願発明は、EphA2の発現を変化させるためのアゴニスト及びアンタゴニストの使用に向けられる。EphA2は、人工的な又はハイブリッド形態のタンパク質、タンパク質阻害剤、アンチセンス・オリゴヌクレオチド又は低分子阻害剤の使用により標的化されうる。また、一方の好ましい態様は、本技術分野で知られるモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、人工的な及びハイブリッド抗体の使用に向けられる。EphA2を標的化するための本技術分野で知られた技術の使用は、本願発明の範囲内にあることは、理解されうる。
【0010】
本願発明の1の側面は、EphA2を過剰発現する哺乳動物の転移性腫瘍治療用医薬組成物であり、それは転移性疾患を減少させるために有効な量で、EphA2の細胞外エピトープに対して特異的に相互作用する化合物、及び医薬として許容しうる担体を含む。好ましい態様において、前記医薬組成物は、EphA2の細胞外エピトープに特異的に結合する抗体である、抗体B2D6を含む。
【0011】
本願発明の他の側面は、EphA2を過剰発現する転移性腫瘍をもつ患者の治療方法である。前記方法は、EphA2の細胞外エピトープに結合する化合物の治療有効量を患者に投与することを含む。好ましい態様において、前記化合物は抗体である。
【0012】
本願発明の第3の側面は、転移性細胞の存在の検出方法である。前記方法は、EphA2の細胞外エピトープに特異的な標識された抗体の使用を含む。細胞サンプルを、前記抗体と一緒にインキュベートし、結合しなかった抗体を取り除き、そして結合した標識抗体を検出する。
【0013】
本願発明のさらなる側面は、EphA2の細胞外エピトープに結合することにより転移性腫瘍の増殖を阻害する抗体の作製方法である。この方法は、チロシン・リン酸化タンパク質を哺乳動物のリンパ節に注射し、そのリンパ節を採取し、そのリンパ節細胞をミエローマ細胞と融合して、ハイブリドーマを形成し、そしてEphA2に特異的な抗体を産生するハイブリドーマを選ぶことを含む。
【0014】
本願発明のさらに他の態様において、哺乳動物の転移性腫瘍の治療用医薬組成物が提供され、その組成物は、上述の癌の転移性増殖を減少させるために有効な量で、EphA2の発現を変える化合物、及びその医薬として許容しうる担体を含む。好ましい態様において、前記組成物は、エフリンを含む。
【0015】
本発明のさらなる特徴は、目下わかっている本発明実施のベストモードを具体化する、以下の好ましい態様の詳細な記載を考慮して、当業者に明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の詳細な記載
EphA2は、正常な細胞と転移性細胞で異なって発現される。正常な乳房及び前立腺上皮細胞においてEphA2は、細胞接着部位に濃縮される。逆に転移性前立腺細胞においてEphA2は拡散性に分布し、そして転移性乳房癌細胞においてEphA2は、膜のひだに再分布する。EphA2発現は、肺及び大腸の悪性腫瘍において変更されていることも知られ、そしてEphA2の変更された発現は、他の種類の転移、特に上皮悪性腫瘍に存在すると考えられている。したがって、EphA2発現を変えることを意図した一連の処理方法は、転移性疾患の診断及び治療に利用されうる。
【0017】
好ましい態様において、癌細胞におけるチロシン・リン酸化タンパク質に特異的な抗体が単離され、そして受動免疫療法における標的癌細胞に対して使用される。この方法は、多くのチロシン・キナーゼ、例えばHer2/Neuが癌遺伝子により発現され、そしてその結果癌細胞において過剰発現されているという事実に基づいている。本発明は、チロシン・キナーゼEphA2の細胞外エピトープを認識し、そして特異的に結合しうる抗体の作製及び使用に向ける。前記抗体は、応答性ハイブリドーマの感受性及び多様性を増すことを意図した特定の接種プロトコルに供した動物から採取したリンパ節細胞とミエローマ細胞の融合の産物である選択されたハイブリドーマにより産生される。
【0018】
それらのハイブリドーマを作製するために、Ras形質転換ヒト上皮細胞からのチロシン・リン酸化タンパク質がリン酸化チロシン特異性を示す抗体を用いたアフィニティー・クロマトグラフィーにより単離される。そのチロシン・リン酸化タンパク質は、次に図1に説明された手順によるモノクローナル抗体製造のための抗原として使用される。低用量のチロシン・リン酸化タンパク質を、1日おきに10日間の間哺乳動物のリンパ節近位に注射する(RIMMS法)。次に腫れたリンパ節からのB細胞を単離し、そしてBcl−2過剰発現ミエローマ細胞と融合し、融合後のアポト−シスを最小限に抑える。この方法は、多様性、特異性、及びハイブリドーマ製造の費用効率の増加をもたらす。前記ハイブリドーマは、通常の癌細胞と悪性の癌細胞を区別しうる抗体を産生するハイブリドーマを同定するためにスクリーニングされる。
【0019】
EphA2に特異的な抗体を産生するハイブリドーマが選択される。RIMMS法の使用は、EphA2に特異的に結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの多様性という成果をもたらす。現在までに、悪性癌細胞を正常癌細胞と区別しうる抗体を産生する、少なくとも450株のハイブリドーマが同定されている。特徴づけされた最初の4の上述のハイブリドーマのうち、2がEphA2上の独立するエピトープを認識する。1つ目のD7は、細胞内エピトープを認識する抗体を産生する。2つ目のB2D6は、選ばれた転移性腫瘍の診断及び治療に対するその有効な使用を可能にすることを特徴とする、EphA2の細胞外エピトープに特異的に結合する抗体を産生する。
【0020】
RIMMS法は、EphA2特異的抗体の作製に有用であることが証明される一方で、特定の抗原に対する抗体作製のための他の技術が本技術分野で知られ、そしてそれらの技術は本願発明の範囲内にある。
【0021】
特定のタンパク質の存在又は過剰発現を検出するために抗体を使用することは本技術分野で知られる。転移性細胞においてEphA2が過剰発現されるので、本発明のEphA2特異性抗体を、この過剰発現の検出に使用し、そして、こうして転移性疾患を検出しうる。上述の技術は、これだけに制限されることなく、ウエスタン・ブロッティング、沈殿、凝集、及びELISAアッセイを含む。これらの技術は本技術分野で周知である。また、本願発明のEphA2特異性抗体の細胞外エピトープ特異性は、転移と関連するEphA2局在性の変化を検出するために利用されうる。転移性細胞ではEphA2分布が変更されているにもかかわらず、正常な乳房及び前立腺上皮細胞ではEphA2は、細胞接着部位に濃縮される。転移性前立腺細胞において、EphA2は、拡散性に分布し、そして転移性乳房癌細胞においてEphA2は、膜のひだに再分布する。EphA2発現は、肺及び大腸の悪性腫瘍において変更されていることも知られ、そしてEphA2の変更された発現は、他の種類の転移、特に上皮悪性腫瘍に存在すると考えられている。一連の処理技術、例えば免疫組織学的染色又は免疫蛍光顕微鏡検査は、本技術分野で周知であり、そしてEphA2分布を視覚化するために使用されうる。例えば米国特許第5,514,554号を参照のこと。
【0022】
EphA2の過剰発現又は変更された分布を検出するために、EphA2特異的抗体は、多くの知られた検出可能な標識、すなわち本技術分野で知られるような蛍光又は放射性物質のいずれかにより、共有結合的又は非共有結合的に標識されうる。あるいは、本願発明の抗体に特異的な2次抗体が、知られた検出可能な標識により標識され、そして前記技術においてEphA2特異的抗体を検出するために使用される。したがって、本願発明の抗体は、転移性形質転換の検出方法を提供する。
【0023】
本発明は、治療用組成物に、EphA2の細胞外エピトープに特異的な抗体及び使用方法も利用する。インビボにおける治療のために使用された場合、患者に投与される医薬組成物は、医薬として許容しうる担体内に治療有効量でEphA2特異的抗体を含む。好ましい態様において、前記EphA2特異的抗体は、「ヒト化(humanized)」されている。ヒト化抗体は、妥当な抗原特異性のマウス(又は他の哺乳動物)抗体の遺伝子を妥当な生理活性のヒト抗体分子の遺伝子と一緒にスプライシングすることにより作製した「キメラ抗体」を含む。上述の技術は、本技術分野で知られる。例えば米国特許第5,811,098号を参照のこと。抗体に加えて、EphA2を特異的に標的化する天然又は人工的なリガンド、ペプチド、アンチセンス、ATPアナログ又は低分子を利用しうる。
【0024】
EphA2標的化の他の方法の一例は、EphA2を活性化又は阻害するエフリンの使用である。例えば免疫グロブリンH鎖に連結されたエフリンA1の細胞外ドメイン、エフリンA1−Fは、EphA2のリン酸化チロシン量を増加させる。エフリンA1−Fは、EphA2形質転換された細胞の悪性の性質を無効にする。したがって、本願発明の他の好ましい態様は、治療有効量で投与される、エフリン又はエフリンのハイブリッド型を含む医薬組成物である。
【0025】
治療有効量(therapeutic amounts)は、患者の腫瘍の苦痛を除く若しくは軽減する、又は転移性細胞の増殖を妨げる若しくは減らす量である。用量は、腫瘍の性質、患者の病歴、患者の容態、他の癌溶解性物質の併用の可能性、及び投与方法を含む多くのパラメーターに依存するであろう。投与方法は、前記抗体を、無毒性の医薬として許容しうる担体、例えば水、生理的食塩液、リンゲル液、デキストロース溶液、5%ヒト血清アルブミン、不揮発性油、エチルオレート又はリポソーム中に調製するところの注射(例えば非経口、皮下、静脈内、腹腔内等)を含む。典型的な用量は、約0.01〜約20mg/kg、そしてより好ましくは約0.1〜約10mg/kgの範囲でありうる。他の投与方法は、経口、及び経皮投与を含む。本発明に従う経口摂取のための許容しうる担体は、医薬として許容しうる液状担体中に又は錠剤、カプセル、カプレット若しくはゲル封入の形で医薬として許容しうる固形担体と取合わせて、従来技術を用いて調合されうる。他の有効な投与方法及び用量は、慣例の実験により決定され、そして本願発明の範囲内にある。
【0026】
EphA2特異的抗体を利用する治療方法は、腫瘍の種類、患者の容態、他の健康問題、及びさまざまな因子に依存して、化学療法、手術、及び放射線療法と取合わせられうる。前記方法は、免疫毒素介在療法を目的として、免疫複合体をも含むことができ、ここで本願発明の抗体はさまざまな細胞毒性物質に共有又は非共有的に結合され、さらに標的とした細胞に対する毒性を増進する。例えば米国特許第5,872,233号を参照のこと。上述の物質は、さまざまな細菌毒(例えばシュードモナス・エキソトシン(Pseudomonas exotoxin))、リシン(ricin)A鎖、ダウノルビシン(daunorubicin)、メトトレキセート(methotrexate)、及びリボソーム阻害剤(例えばトリコサンチン(trichosanthin))を含む。また、本願発明の抗体は、放射線療法を目的として免疫複合体を生じる、アルファ、ベータ又はオージェ電子エミッタにより標識されうる。
【0027】
したがって、EphA2特異的抗体は、転移性疾患を検出及び治療するためのさまざまな方法及び組成物に使用されうる。
【実施例】
【0028】
実施例1
転移性細胞におけるEphA2発現の特徴づけ
Ras形質転換ヒト上皮細胞からのチロシン・リン酸化タンパク質を用いたRIMMS法に引き続き、ハイブリドーマをスクリーニングし、そしてEphA2に特異的な抗体を単離した。この抗体を非形質転換前立腺上皮細胞及び前立腺腫瘍細胞におけるEphA2発現レベルの評価に使用した。低レベルのEphA2発現を非形質転換前立腺上皮細胞において確認したが、しかしこのEphA2発現は細胞−細胞接触部位に濃縮され、そして細胞結合リガンドと相互作用していた。非形質転換細胞との比較において、2つの特徴が転移性前立腺癌細胞におけるEphA2を識別する:1)EphA2は過剰発現されている;2)EphA2は拡散性に分布され、そしてリガンドと相互作用していないようである。これらのデータを確認するために、前記EphA2特異的抗体を用いてウエスタン・ブロットを行った。ヒト前立腺癌細胞(LNCAP,DU145,PC3)におけるEphA2過剰発現とそれらの侵襲性をインビトロ及びインビボにおいて直接的に相関させる。試験した3菌株の中で、LNCAPは最も攻撃的ではなく、DU145はそれよりも攻撃的であり、そしてPC3は最も攻撃的である。図2で理解されるとおり、DU145細胞は、LNCAPより高いEphA2発現レベルを示し、そしてPC3はさらに高いEphA2発現レベルを示す。同様に図2B及び2Cに示すとおり、EphA2発現は、癌遺伝子K−Ras又はX線照射により形質転換されたヒト前立腺上皮細胞の変異体において高められている。図2Bの3つのレーンは、「正常」MCL前立腺上皮細胞、並びにそれから誘導されたK−Ras、及びX線形成転換された細胞株を示す。同様に、図2Cの3つのレーンは、「正常」267B1前立腺上皮細胞、並びにそれから誘導されたK−Ras及びX線形質転換された細胞株を示す。図2B及び2Cに見られるとおり、前記形質転換細胞全てが、高められたEphA2レベルを示した。イヌからの前立腺癌細胞株を用いたことを除いて、図3は類似のウエスタン・ブロットを示す。図3に示すとおり、ヒト細胞の結果と一致して、EphA2は、自然発生的な前立腺癌であるイヌから得られた転移性前立腺悪性腫瘍細胞において過剰発現されている。
【0029】
転移性前立腺細胞株は3つの種類に分けることができ、それは:1)原発前立腺腫瘍から得られた細胞;2)インビボにおいて転移性に乏しい転移から得られた細胞;3)インビボにおいて転移性の高い転移から得られた細胞である。EphA2特異的抗体を用いたウエスタン・ブロットは、EphA2発現が転移から得られた全ての細胞において高められていて、そして(無胸腺マウス・モデルを用いて評価されたとおり)細胞における最高のEphA2発現は、インビボにおける転移の可能性を有するということを明らかにした。興味深いことに、B2D6検査は、同じ患者の原発腫瘍から確立された細胞株に比べ、前立腺癌転移においてEphA2が過剰発現されていることを示した。総合すれば、これらの結果全ては、転移性前立腺腫瘍細胞におけるEphA2過剰発現を明らかにする。
【0030】
類似のEphA2発現パターンが乳房癌細胞に見出された。正常な哺乳動物の上皮細胞において、EphA2は、細胞−細胞ジャンクションに濃縮されている。それに対して、非転移性乳房癌細胞はEphA2を発現しておらず、一方で転移性乳房癌細胞はEphA2を過剰発現している。転移性乳房癌細胞において、EphA2は、膜のひだに再分布しており、そしてそのため、それは、抗体の結合に使用できる。
【0031】
実施例2
転移性細胞のインビトロにおける標的化
EphA2過剰発現は、転移性細胞をEphA2の細胞外エピトープに特異的な本抗体による抗体を介した選択的殺傷の作用を受けやすくさせる。一方正常細胞はEphA2を発現するが、リガンドを結合し又は細胞−細胞接触部位に集まることで正常細胞において細胞外エピトープをふさぎ、そしてEphA2の細胞外エピトープに特異的な抗体にそれらを近づけないようにさせると考えられる。本発明の抗体の腫瘍選択性は、転移性癌を標的化するHerceptin(商標)のそれに張り合うか又は上回ると考えられている。
【0032】
EphA2過剰発現は、EphA2特異的抗体による転移性癌細胞の標的化に対する基礎を提供する。EphA2の細胞外エピトープに特異的な抗体、例えばハイブリドーマB2D6により産生されたものは、転移性癌細胞の増殖又は侵襲特性を(正常細胞に対して)選択的に変えるために使用されうる。転移起源及び実験的な誘導形質転換の両方において、非侵襲性細胞は低レベルのEphA2発現を有するのに対して、EphA2過剰発現は、侵襲性と相関する。
【0033】
細胞増殖に対するB2D6の効果を計測するために、細胞を精製B2D6と一緒にインキュベートし、そして細胞増殖を(血球計算板を用いて)顕微鏡検査により細胞をカウント、及びDNA合成を計測することにより計測する。例えば通常の増殖培地にB2D6及びBrdVを補足し、そしてその後4時間にわたってBrdV取込みを計測する。さらに長時間にわたってB2D6の効果を計測するために、インキュベートの最後の4時間にBrdVを培地に加えながら、24時間おきにサンプルをカウントする。細胞増殖の3つ目の計測として、ソフト・アガーにおける転移性細胞の増殖に対するB2D6の効果を測定した。ソフト・アガー平板培養アッセイを使用し、ここで2×104 個の転移性細胞を、B2D6の存在又は不存在下(0〜10nM)、アガー上に平板培養し、そして、その後3日おきにコロニー増殖を評価する。
【0034】
B2D6は転移性細胞の増殖を減少させると考えられている。予備試験の結果はB2D6がEphA2と一体になり、そしてインキュベートの最初の4時間にわたり(EphA2を過剰発現してもいる)転移性乳房癌細胞の増殖を約50%妨げることを明らかにする。EphA2は、転移性乳房癌細胞においてチロシン・リン酸化されないが、チロシン・リン酸化は、これらのB2D6処理された細胞を回復させる。したがって、B2D6は、正常のEphA2の機能を回復すると考えられる。
【0035】
転移性癌細胞を用いたさらなる研究を、より長くB2D6と一緒にインキュベートした場合、転移性細胞をさらに阻害するか測定するために行っている。転移性細胞よりはずっと少ないが、非形質転換上皮細胞は多少のEphA2を発現しているので、非形質転換細胞に対する多少の毒性がありうる。本願発明の1の側面による抗体の最少の有効用量、そして最大の非毒性用量のレベルは、慣例の実験により確認されうるが、しかし好ましくは、典型的な用量が約0.1〜約20mg/患者の体重kgの範囲であろう。前記の好ましい用量は、腫瘍の性質、患者の病歴、患者の容態、他の癌溶解性物質の併用の可能性、及び投与方法を含む多くのパラメーターに依存するであろう。正常と転移性細胞を最もよく識別する抗体レベルがEphA2タンパク質を過剰発現する転移性腫瘍の治療に使用されるであろう。
【0036】
実施例3
インビトロにおける抗体を介した細胞毒性
予備実験の結果は、EphA2抗体が転移性細胞の増殖を妨げることを証明する。抗体誘導された細胞毒性を計測するために、好ましくは、塩化ユーロピウム(EuCl3 )、及びジエチレントリアミン−五酢酸(DTPA)により標識した標的細胞(正常又は転移性前立腺上皮細胞)を用いた非放射性版の51Cr放出アッセイ(51Cr−release assays)を行う。取込まれなかったEu3+を洗い流した後、ナフトイルトリフルオロアセトン(NTA)及びトリオクチルホスフィン・オキシド(trioctylphosphine oxide)を細胞溶解物質と一緒にインキュベートし、そして上清をアッセイした。合成された三要素複合体(Eu3+/NTA/トリオクチルホスフィン・オキシド)の冷光現象を、冷光現象マイクロプレート・リーダーを用いて計測する。補体を介した細胞溶解についてのこのEu3+放出アッセイの感度は、51Cr放出アッセイに比べ5倍良好であると報告されている。特異的な細胞溶解を測定するために、同じ性質をもつサンプルを滅菌水を加えることにより低張性にして溶解する。無処理サンプル及びアイソタイプ適合抗体を陰性対照として使う。
【0037】
インビトロにおける補体を介した死滅をモデル化するために、細胞をB2D6により標識し、そして熱不活化していない血清に晒した。抗体依存細胞毒性(antibody dependent cellular cytotoxicity(ADCC))について、対照とB2D6処理前立腺細胞の両方を末梢血単核細胞(PBMC;10:1 E/T比)と一緒にインキュベートする。
【0038】
補体及びADCCの両者は転移の特異的な殺傷を促進すると考えられている。抗体用量は、転移性及び正常細胞について、LD50量を確定するために変更されうる。転移性細胞(PC3,267−Ras,267−X)の特異的殺傷を最大とし、一方で非転移性前立腺上皮(267,MLC)の死滅を最小にする抗体濃度を慣例の実験により決定する。また、サンプルを細胞壊死因子(TNF)により処理することにより、さらに腫瘍殺傷を促進するためにADCCを補体と一緒に取合わせうる。TNFが、EGFR及びHer2特異的抗体による腫瘍細胞の殺傷を助長することを証明する。本願発明のヒト化抗体が補体又はADCCよりも良好な結果を提供することが期待される。
【0039】
B2D6は補体カスケード又はADCCを通じて腫瘍細胞を殺傷すると考えられている。しかしながら従来技術の細胞毒性物質への本抗体の共有又は非共有結合は、標的細胞に対する毒性をさらに促進しうる。免疫複合に適切な毒物の例は、シュードモナス・エキソトキシン又はリシンA鎖を含む。
【0040】
実施例4
インビボにおける転移性細胞の標的化
本EphA2抗体、特にハイブリドーマB2D6により産生したものは、インビボにおける前立腺癌細胞の増殖及び侵襲の阻害に有効である。マウスでのPC3腫瘍細胞の皮下移植を用いて原発前立腺腫瘍の増殖阻害へのB2D6の有効性を皮下モデルの使用により測定する。皮下モデルの主な利点は移植とそれに続く腫瘍サイズの観察の容易さである。5×105 個のPC細胞を無菌操作を用いて右頭蓋側方胸部(right craniolateral thorax)(腋の下)に皮下接種する。腫瘍を3〜4日ごとにバーニア・ノギス(vernier calipers)を用いてそれらが0.2〜0.3cm3 の容積に達するまで計測する。その時は、マウスを4つの群(8〜10匹ずつ)に分ける:群1(媒質対照)、群2〜4を、0.1,1.0又は10mg/kgのB2D6により処理し、それを週2回腹腔内投与する。前記マウスをその後腫瘍容積(バーニア・ノギスにより)、体重、及び寿命を計測するために3日ごとに観察する。移植後60日を超えないうちに、その動物を屠殺し、そして移植腫瘍の計測及び計量を含む腫瘍形成、並びに軟部組織(リンパ節及び肺)について腫瘍の肉眼的評価を含むリンパ節近位の死後の評価、そして原発腫瘍及び組織のホルマリン固定を行う。前記組織を、前記腫瘍におけるEphA2発現のレベルを測定するためにD7(免疫組織化学を容易にしうる他のEphA2特異的抗体)を用いた免疫組織化学により評価する。特に、B2D6処理を逃れた腫瘍細胞を、それらが低レベルのEphA2発現を有するかどうか確認するために検査する。また、個々の動物におけるEphA2発現を、腫瘍侵襲性と相関させる。
【0041】
標的−特異性についての陰性対照として、非常に低レベルのEphA2を発現するDU145細胞を用いて並列検査を行う。PC3腫瘍の増殖がB2D6に対して感受性であると考えられているのに対して、DU145によりもたらされる腫瘍は非感受性であると考えられている。腫瘍形成、全般の転移頻度、及び遠位転移の頻度のB2D6阻害の統計上の有意性を、P<0.05ならば有意と判断される相異点により、コンピュータの統計パッケージ(PC/SAS Ver.6.04)を使用して試験する。
【0042】
皮下移植は、腫瘍細胞増殖のモデル化に関して一般的な、そして有益な方法である一方、皮膚と前立腺の間の微小環境の差異は、細胞の性質にかなり劇的な差異をもたらしうる。例えば、PC3細胞は、(同所性)前立腺内移植が転移性を促進するのに対して、皮下移植された場合に、まれに転移する。したがって、前立腺を開腹術によりあわらにし、そして外科用顕微鏡を用いて前立腺内に腫瘍細胞を接種することによりPC細胞を移植する。7日後、前記マウスに先に記載のとおりB2D6による処理を与え始め、そして移植後60日未満(又は動物が瀕死となったとき)で屠殺する。前記腫瘍を3〜5日おきに触診し、腫瘍サイズ、動物の体重、及び生存についての経時データを集める。前記のとおり(肺及び局所的なリンパ節への)転移の可能性に対するB2D6の効果を特に重要視して、死後の評価をも行う。B2D6は、用量依存的に原発腫瘍及びPC3細胞の転移の可能性を妨げると考えられる。
【0043】
系統又はクローンの特異的効果の確認を最小限に抑えるために、他のモデル系を用いた確認分析を利用しうる。例えば、K−Ras又はX線形質転換された267B1の移植により生じた腫瘍の増殖又は転移に対するB2D6の効果を、MLCヒト前立腺上皮細胞株に対する効果と比較しうる。
【0044】
実施例5
「第2世代」EphA2に基づく抗体治療法の開発
転移性前立腺癌細胞におけるEphA2の過剰発現は、乳癌におけるHerceptin(商標)に匹敵する選択度を提供する一方で、EphA2の特有の標本は、さらにいっそう選択的な標的化を許すと考えられる。特に、非形質転換上皮の表面のEphA2は、転移性細胞のEphA2が拡散性に分布されているのに反して、細胞−細胞接触にしっかり集められている。正常な前立腺上皮においてEphA2のいくつかのエピトープは、転移に利用しうるが、しかしリガンドにより防がれているように思われる。正常と転移性前立腺上皮との最適な識別を提供するEphA2抗体が選ばれる。
【0045】
前もって作製された抗体の一団を、細胞表面に見出されるEphA2のエピトープについてスクリーニングする。フロー・サイトメトリーの使用により、さまざまな「正常」(例えば267B又はMLC細胞)及び転移性細胞(PC3細胞)におけるEphA2発現を比較する。例えば正常及び転移性細胞の集密単層培養をB2D6により標識する。転移性細胞における利用しうるエピトープではなく正常細胞における利用できないエピトープに特異的な抗体が選ばれていることを保証するために、図4に示すとおり、転移性細胞においてその結合が一定数を維持する抗体ではなく、細胞密度の増加により正常細胞においてその結合が減少する抗体を選択する。フルオレセイン2次抗体により標識後、EphA2発現をフロー・サイトメトリーを用いることにより評価する。正常細胞と転移性細胞とを最も効果的に区別する抗体を選択する。EphA2に対する特異性をウエスタン・ブロッティング及び免疫沈降調査により確認する。最高の選択性を示す抗体を次に従来技術の手法を用いてヒト化する。
【0046】
実施例6
形質移入により変更されたEphA2発現
EphA2過剰発現の重要性を評価するために、MCF−10A細胞をヒトEphA2 cDNA(EphA2)又はベクター対照(ベクター)により形質移入した。EphA2の安定した過剰発現を有するMCF−10Aの培養確立後、顕微鏡による評価はベクター形質移入対照細胞と比較した際に、細胞形態学的な差異を明らかにした(未掲載)。非形質転換MCF−10A細胞は、上皮形態を示し、そして低い細胞密度であってもお互いに相互作用し合う。それに反して、EphA2過剰発現MCF−10A細胞(MCFEphA2 )は、線維芽細胞様の形態をとり、そして高い細胞密度においても細胞−細胞接触を形成しない。間充織がクローン変異を表さないことを確認するために、EphA2 cDNAにより形質移入されたMCF−10A細胞の分別サンプルは同一の結果を生じた。
【0047】
細胞−ECM接着を、細胞をECM上にて37℃で30分間インキュベートし、その後弱い接着細胞を除くための強力な洗浄することにより評価した。これらのアッセイは、ベクター形質移入対照(P<4×10-4)と比較して、MCFEphA2 細胞におけるECM接着において24倍の増加を明らかにした。細胞−細胞接着を、細胞を懸濁状態にてインキュベートし、そして細胞コロニーの平均サイズを観察することによりアッセイした。ベクター形質移入MCF−10A細胞が4.1細胞の平均サイズをもつコロニー内でお互いに相互作用するのに対し、MCFEphA2 細胞の平均コロニー・サイズを、1.3細胞まで減らす(P<3×10-3)。
【0048】
安定な細胞−細胞接触は細胞−細胞接触部位に濃縮されるEphA2に由来するので、EphA2の細胞局在を特異的抗体による免疫染色により評価した。非形質転換MCF−10A細胞のEphA2は近隣の細胞と接触していない膜のわずかな染色をともなう、直接接触している近隣細胞のところの細い線に限定された。それに反して、MCFEphA2 細胞でのEphA2染色のパターンは、細胞−細胞接触のわずかな染色をともない拡散性であった。
【0049】
MCFEphA2 細胞における細胞−細胞接触内のEphA2の欠損は、魅力的である、なぜならEphA2は細胞膜に固定されるリガンドにより刺激されるからである。EphA2刺激を計測するために、免疫沈降EphA2のリン酸化チロシン含量をリン酸化チロシン特異的抗体を用いたウエスタン・ブロット分析により計測した。ベクター形質移入MCF−10細胞においてEphA2がチロシン・リン酸化されていたのに対して、MCFEphA2 細胞においてEphA2はチロシン・リン酸化されていなかった。減少したリン酸化チロシン含量を、複合EphA2抗体による免疫沈降(D7,B2D6)及び異なるリン酸化チロシン特異的抗体(4G10,PY20)によるウエスタン・ブロット分析を用いて確認した。
【0050】
実施例7
EphA2形質移入による悪性腫瘍及び転移
インビトロにおける悪性への形質転換を検討し、そしてソフト・アガーにコロニー形成するMCFEphA2 細胞を見い出した。ベクター形質移入MCF−10A細胞は、高電力場(high−power field)当たり0.3個のコロニーを形成したのに対して、一方でMCFEphA2 細胞は、ソフト・アガーにおいて増加されたコロニー増殖を示し、そして高電力場当たり平均3.0個のコロニーであった(P<3×10-7)。ベクター及びEphA2過剰発現MCF−10A細胞をMatrigel(Collaborative, Bedford, MA)と相互作用することを許した。非形質転換MCF−10A細胞は、Matrigel上で培養した場合、すぐに球状コロニーを構成し、それに対してMCFEphA2 細胞は、転移性細胞(例えばMDA−MB−231,MDA−MB,435)の振る舞いと見分けがつかない星状構造をとった。
【0051】
形質転換のインビトロにおける分析は、インビボにおける腫瘍形成の可能性を必ずしも予測するとは限らないので、対照又はEphA2過剰発現MCF−10A細胞を無胸腺(nu/nu)マウスに移植した。MCFEphA2 細胞の皮下注入は、4日の内に19匹中19匹のマウスに触診可能な腫瘍の形成を引き起こした。得られた腫瘍の中央値は、移植された細胞数に関係し、そして(5×106 細胞を注入したサンプルについては)10日のうちに平均300mm3 に達した(表I)。死体解剖は、前記腫瘍が腋の下の筋肉の下にしっかりと接着し、そして線維性の組織により取り囲まれていたことを明らかにした。組織学的には、新生物細胞は侵襲し、そして線維性結合組織により結合されていた。これらの新生物細胞は、わずかな細胞質及び核の多形性を示し、そして形成異常の管及び分泌構造を形成した。対照実験において、ベクターDNAにより形質移入された細胞は無胸腺マウス内で増殖できず(13匹中0匹;表I)、そして死体解剖ではそれらの細胞のわずかな増殖又は侵襲も確認できなかった。
【0052】
最も高いEphA2レベルは、インビボにおいて転移性であるところの乳癌細胞でそろって見出されたため、1×106 個の対照又はMCFEphA2 細胞を無胸腺マウスの尾静脈に注射した。7日間のうちに、死体解剖が、MCFEphA2 細胞を注射したマウス4匹中2匹に大血管(large vessels)の中の肺微小転移巣を明らかにした(表I)。転移は、一般的に血管壁(vessel wall)を破らずに大血管をふさぐことが知られている。サイトケラチン抗体を用いた免疫組織化学染色は、血栓の上皮の性質を裏づけ、そして抗トロンビン染色の欠如は、その血栓が内皮細胞の異常な又は不規則な生長を表わさなかったことを明らかにした。対照MCF−10A細胞を注射したマウスにおいて肺でのコロニー形成は観察されなかった(表I)。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例8
EphA2アゴニストを用いた転移の標的化
EphA2がアゴニストにより刺激されうるか試験するために、MCFEphA2 細胞を0.5mg/mLエフリンA1−Fcの存在又は不存在下、ソフト・アガー内に懸濁した。エフリンA1−FcはEphA2のリン酸化チロシン含量を増やし、そしてエフリンA1−Fc処理は媒質処理対照に比べ49%程、ソフト・アガー内のコロニー形成を減らした(P<5×10-6)。EphA2刺激が、Matrigel上で細胞の振る舞いを変えうるか試験するために0.5mg/mLエフリンA1−Fcにより処理されたMCFEphA2 細胞は、非形質転換MCF−10A細胞に類似した球状の表現型を取り戻した。したがって、EphA2刺激は、EphA2過剰発現の効果を明らかにする。エフリンA1−Fc。その内因性リガンドと相互作用できないにもかかわらず、MCFEphA2 細胞のEphA2は外因性刺激に応答した。
【0055】
本発明を好ましい態様に対する言及により詳細に記載したが、バリエーション及び変更は、上記請求項に記載し、そして定めた本発明の範囲及び本質の中にある。
【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、RIMMS法の大要であり、これにより本願発明の抗体を産生する。
【図2】図2A〜Cは、ヒト細胞株におけるEphA2発現を示す一連のウエスタン・ブロットを示し;図2Aは、さまざまなヒト前立腺癌細胞株におけるEphA2発現を示すウエスタン・ブロットである;図2Bは、ヒト前立腺上皮細胞株及び癌遺伝子K−Ras又はX線照射による形質転換後の細胞株におけるEphA2発現を示すことを除いて、図2Aと類似する;図2Cは、他のヒト前立腺上皮細胞株及び癌遺伝子K−Ras又はX線照射による形質転換後の細胞株におけるEphA2発現を示すことを除いて、図2Bと類似する。
【図3】図3は、イヌ前立腺癌細胞におけるEphA2発現を示すことを除いて、図2と類似する。
【図4】図4は、EphA2の細胞外エピトープに特異的な抗体に対するスクリーニング手順における、細胞密度に対してプロットされた予想される抗体結合を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転移性腫瘍細胞の増殖を阻害する抗体の作製方法であって、
a)チロシン・リン酸化したタンパク質を哺乳動物のリンパ節に注射し、
b)リンパ節細胞を上記哺乳動物から採取し、
c)上記リンパ節細胞をミエローマ細胞と融合して、ハイブリドーマを形成し、
d)EphA2の細胞外エピトープに特異的に結合する抗体を産生する少なくとも1のハイブリドーマを選び、そして
e)上記抗体を単離する、
ことを含む上記作製方法。
【請求項2】
転移性腫瘍細胞の増殖を阻害する抗体の作製方法であって、
a)チロシン・リン酸化したタンパク質を哺乳動物のリンパ節近位に注射し、
b)リンパ節細胞を上記哺乳動物から採取し、
c)上記リンパ節細胞をミエローマ細胞と融合して、ハイブリドーマを形成し、
d)EphA2の細胞外エピトープに特異的に結合する抗体を産生する少なくとも1のハイブリドーマを選び、そして
e)上記抗体を単離する、
ことを含む上記作製方法。
【請求項3】
チロシン・リン酸化したタンパク質がEphA2を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法によって作製した抗体。
【請求項5】
ハイブリドーマ細胞株B2D6。
【請求項6】
単離されたハイブリドーマ細胞株B2D6。
【請求項7】
ハイブリドーマ細胞株B2D6によって産生されたモノクローナル抗体。
【請求項8】
ハイブリドーマ細胞株B2D6によって産生された単離されたモノクローナル抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−306938(P2007−306938A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−211840(P2007−211840)
【出願日】平成19年8月15日(2007.8.15)
【分割の表示】特願2001−516518(P2001−516518)の分割
【原出願日】平成12年8月17日(2000.8.17)
【出願人】(591204241)パーデュー・リサーチ・ファンデーション (4)
【氏名又は名称原語表記】PURDUE RESEARCH FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】1063 Hovde Hall,West Lafayette,Indiana 47907−1063,United States of America
【出願人】(397009934)グラクソ グループ リミテッド (832)
【氏名又は名称原語表記】GLAXO GROUP LIMITED
【住所又は居所原語表記】Glaxo Wellcome House,Berkeley Avenue Greenford,Middlesex UB6 0NN,Great Britain
【出願人】(501345323)ザ ユニバーシティ オブ ノース カロライナ アット チャペル ヒル (52)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF NORTH CAROLINA AT CHAPEL HILL
【住所又は居所原語表記】308 Bynum Hall,Campus Box 4105,Chapel Hill,North Carolina 27599−4105, United States of America
【Fターム(参考)】