説明

転移性結腸直腸化学療法に対する反応の遺伝子予測因子

本発明は、所与の治療レジメンに対して反応する腫瘍において発現し、その発現がその治療レジメンに対する反応性と相関する遺伝子の同定を提供する。本発明の遺伝子の1種または複数種をマーカーとして用いて、治療レジメンによってうまく治療される可能性が高い患者を同定することができる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般に癌生物学の分野に関する。本発明は、特に、薬物療法に対する癌患者の反応性を示す遺伝子発現プロファイルに関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
結腸直腸癌(CRC)は、世界中で毎年945,000件の新たな症例が発生している、最も多く見られる悪性疾患の一つであり、世界的に見て癌に関連した死亡の原因の第4位である(492,000例の死亡/年)(Weitz J, et al., 2005, Lancet 365(9454):153-65)。CRCは、限局していれば手術によって治癒できる場合が多いが、転移性疾患患者の予後は依然として不良である。治癒目的の切除は、肝転移の10〜15%にしか行うことができない。転移患者の大部分において、標準的治療法は緩和的化学療法にとどまっている。過去40年間、フルオロウラシルに基づく治療が、転移性結腸直腸癌の主な治療法であった。イリノテカン(Vanhoefer U, et al., 2001, J Clin. Oncol. 19(5):1501-18)またはオキサリプラチン(Pelley RJ, 2001, Curr. Oncol. Rep. 3(2):147-55)などの新規細胞毒性薬を含むレジメンの導入により、大きな進展がなされた。一般的に用いられる組み合わせ、例えば、イリノテカン、フルオロウラシル、およびロイコボリン(FOLFIRI)、ならびにオキサリプラチン、フルオロウラシル、およびロイコボリン(FOLFOX)は、客観的奏功率約50%に到達し得る(Douillard JY, et al., 2000, Lancet 355 (9209):1041-7;Goldberg RM, et al., 2004, J Clin. Oncol. 22(1):23-30)。しかし、これらの新規な組み合わせも半数の患者では依然として活性が得られず、加えて、最初は反応したほぼすべての患者において、治療に対する抵抗性が現れる。つい最近になって、2つのモノクローナル抗体、血管内皮増殖因子を標的化するモノクローナル抗体であるAvastin(登録商標)(ベバシズマブ)(Genentech Inc.、カリフォルニア州、サウスサンフランシスコ)、および上皮増殖因子受容体を標的化するモノクローナル抗体であるErbitux(登録商標)(セツキシマブ)(Imclone Inc. ニューヨークシティー)が、転移性結腸癌の治療用に認可されたが、これらは常に標準的化学療法レジメンと併用して用いられる(Cunningham D, et al., 2004. N. Engl. J. Med. 351(4):337-45;Hurwitz H, et al., 2004, N. Engl. J. Med. 350(23):2335-42)。
【0003】
臨床上の主要な課題は、転移および補助の状況で化学療法から恩恵を受ける患者の小集団を同定することである。過去10年間で抗癌剤および多剤混合薬の数は実質的に増加したが、治療は、引き続き試行錯誤手法により経験的に適用されている。臨床経験から、いくつかの異なる種類の化学療法薬に対して感受性のある腫瘍もあれば、ある種の薬物に対して選択的感受性を示し、その他の薬物に対しては抵抗性を示す、同様の組織像を有する癌もあることが示される。薬物療法に対する反応の予測因子を決定するため、多くの試みが行われてきた。チミジル酸合成酵素、ジヒドロピリミジン脱水素酵素、およびチミジンホスホリラーゼをコードする遺伝子における遺伝子発現、タンパク質発現、および多型変種の変化が、フルオロウラシルに対する反応を予測すると考えられた(Iacopetta B, et al., 2001, Br. J. Cancer 85(6):827-30;Salonga D, et al., 2000, Clin. Cancer Res. 6(4):1322-7;Kornmann M, et al., 2003, Clin. Cancer Res. 9(11):4116-24)。同様に、マイクロサテライト不安定性状態は、フルオロウラシルに基づく補助化学療法の独立した予測因子である可能性がある(Ribic CM, et al., 2003, N. Engl. J. Med. 349(3):247-57)。トポイソメラーゼI発現は、イリノテカン反応の予測因子として検討された(Paradiso A, et al., 2004, Int. J. Cancer 111(2):252-8)。除去修復交差相補げっ歯類修復欠損、相補群1(excision repair cross-complementating rodent repair deficiency, complementation group 1)(重複アンチセンス配列を含む)(「ERCC1」)およびチミジル酸合成酵素(「TS」)のmRNA高発現は、オキサリプラチン+フルオロウラシルによる進行性疾患の治療に対する反応不良を予測する(Shirota Y, et al., 2001, J. Clin. Oncol. 19(23):4298-304)。しかし、予測因子の試験は活気に満ちた研究分野であるものの、臨床診療には未だ日常的に適用されていない(Adlard JW, et al., 2002, Lancet Oncol. 3(2): 75-82;Ahmed FE., 2005; Expert Rev. Mol. Diagn. 5(3):353-75)。さらに、結腸細胞の反応の予測に関するインビトロ研究から、単一ではなく複数のマーカー遺伝子の測定によって、より正確な薬物反応が得られることが実証された(Mariadason JM, et al., 2003, Cancer Res.63(24):8791-812)。いくつかの代替的治療法の選択肢から、医師が患者に最適な化学療法を選択することを支援し得る検査は、重要な臨床的進歩となると考えられる。
【0004】
癌分野へのマイクロアレイ技術の適用は、臨床試料において大規模発現プロファイルを得ることを可能にした。遺伝子発現プロファイリングは、臨床転帰を予測するため、または腫瘍の分子サブタイプを分類するための戦略となっている。いくつかの研究がすでに公表されており、結腸直腸癌の進行および予後に関与する遺伝子(Bertucci F, et al., 2004 Oncogene 23(7):1377-91;Birkenkamp-Demtroder K, et al., 2002, Cancer Res. 62(15):4352-63;Wang Y, et al., 2004, J. Clin. Oncol. 22(9):1564-71;Notterman DA, et al., 2001, Cancer Res. 61(7):3124-30;Eschrich S, et al., 2005, J. Clin. Oncol. 23(15):3526-35)、または他の癌型、特に乳癌における薬物反応を予測するための遺伝子(Chang JC, et al., 2003, Lancet 362(9381):362-9;Iwao-Koizumi K, et al., 2005, J. Clin. Oncol. 23(3):422-31;Jansen MP, et al., 2005, J. Clin. Onco. 23(4):732-40)を同定する実行可能性が示されている。しかし、結腸癌において薬物反応を予測するためのこのアプローチの有用可能性に関する兆候は、現在のところ得られていない(Mariadason JM, et al., 2004, Drug Resist. Updat. 7(3):209-18)。最近の研究から、遺伝子発現プロファイリングが、術前化学放射線療法に対する直腸腺癌の反応予測に寄与し得ることが示されたに過ぎない(Ghadimi BM, et al., 2005, J. Clin. Oncol. 23(9):1826-38)。
【0005】
最初に適切な治療法を選択する能力は、結腸直腸癌などの癌の治癒と再発の違いをもたらす可能性がある。本発明は、患者の腫瘍試料中の反応性遺伝子の1種または複数種の差次的発現を評価することによる、薬物療法から恩恵を受ける可能性が最も高い患者の同定を提供する。
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
本発明は、一般に、分子遺伝学、薬理遺伝学、および癌治療の分野に関する。本発明は、特に、遺伝子発現を検出し、特定の遺伝子の存在または非存在を化学療法に対する反応性と関連づける方法に関する。本発明の態様は、治療に対する腫瘍の反応性を判断する方法を含む。特定の態様において、本方法は、患者から腫瘍試料を得る段階;表3中に同定された1種または複数種のマーカーの発現に関して該試料を評価する段階;および該試料中のマーカー発現の評価に基づいて、治療に対する腫瘍の反応性を判断する段階を含む。本明細書におけるマーカーとは、その発現が治療に対する癌の反応、陽性反応(完全病理学的寛解)または陰性反応(病変残存)と関連している遺伝子または遺伝子産物(RNAまたはポリペプチド)を指す。マーカーの発現は、試料に由来するポリヌクレオチドまたはポリペプチドを検出することによって、評価することができる。より具体的には、本発明は、結腸直腸癌患者において、表3に収載される遺伝子の1種または複数種の発現を決定し、該発現を化学療法レジメンに対する反応性と関連づける方法に関する。検出された遺伝子発現の強度は、患者が化学療法レジメンに対して反応するかまたは反応しないかを示し得る。本発明は、治療に反応する患者および反応しない患者の悪性結腸直腸組織(原発腫瘍)由来の組織中の遺伝子発現を調べることにより、特定の薬学的レジメンに反応する結腸直腸癌患者に付随する遺伝子発現プロファイルを同定する。本発明はまた、治療反応および薬効に対する有用な診断マーカーとして役立つ発現プロファイルも同定する。本発明はまた、好ましくは、薬物療法に対する転移性結腸直腸癌患者の反応性を判断する方法も提供する。
【0007】
本発明の特定の局面において、腫瘍は結腸直腸癌を含む。さらなる他の局面では、吸引、生検、または外科的切除により腫瘍を試料採取する。本発明の態様は、1種または複数種のマーカーに由来するmRNAを検出することによって、該1種または複数種のマーカーの発現を評価する段階を含む。好ましい態様において、検出はマイクロアレイ解析を含み、より好ましくは、マイクロアレイはAffymetrix Gene Chipである。本発明の他の局面において、検出は、核酸増幅、好ましくはPCRを含む。なおさらなる局面において、検出はインサイチューハイブリダイゼーションによる。さらなる態様において、1種または複数種のマーカーの発現を評価する段階は、マーカーとして同定された遺伝子に由来するタンパク質を検出することによる。タンパク質は、免疫組織化学、ウェスタンブロッティング、または他の公知のタンパク質検出手段によって、検出することができる。
【0008】
さらなる態様は、化学療法を受けている癌患者をモニターする方法を含む。癌患者をモニターする方法は、化学療法中の該患者から腫瘍試料を得る段階;腫瘍試料中の表3の1種または複数種のマーカーの発現を評価する段階;および化学療法に対する癌患者の反応性を判断する段階を含む。化学療法中の様々な時点において(例えば、薬物治療前、治療中、および治療後)、腫瘍試料を繰り返し取得し、評価し、判断することができる。
【0009】
したがって、特定の局面においては、所与の治療薬または所与のクラスの治療薬に対する反応に関する予後遺伝子を表す遺伝子および/または遺伝子産物を同定することが有用であると考えられる。その結果、どの患者が特定の治療レジメンから恩恵を受けるかを決定すること、および重要なことには、やるとしても、該治療レジメンが、所与の患者に対していつその有効性を失い始めるかを決定することが可能となり得る。そのような予測を行う能力により、従来の方法によってその有効性の喪失が明らかになる前に、その有効性を十分に失った治療レジメンを中止することが可能になる。
【0010】
本発明は、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、以下の群LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される1種または複数種の遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法を含む。
【0011】
本発明の別の局面は、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される2種またはそれ以上の遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法を含む。「2種またはそれ以上」、「3種またはそれ以上」などの用語は、表3に収載される遺伝子から2種もしくはそれ以上、または3種もしくはそれ以上の遺伝子を、任意の順または組み合わせで選択できることを意味する。
【0012】
本発明の別の局面には、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される3種またはそれ以上の遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法が含まれる。
【0013】
本発明のさらなる局面は、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される4種またはそれ以上の遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法を含む。
【0014】
本発明はまた、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される5種またはそれ以上の遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法も含む。
【0015】
本発明の別の局面は、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される6種またはそれ以上の遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法を含む。
【0016】
本発明はまた、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される7種またはそれ以上の遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法も含む。
【0017】
本発明の別の局面は、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される8種またはそれ以上の遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法を含む。
【0018】
別の局面において、本発明は、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される9種またはそれ以上の遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法を含む。
【0019】
本発明の1つの態様は、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される10種またはそれ以上の遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法を含む。
【0020】
本発明の別の態様には、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される11種またはそれ以上の遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法が含まれる。
【0021】
本発明のさらなる態様は、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される12種またはそれ以上の遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法を含む。
【0022】
本発明のさらに別の局面は、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される13種またはそれ以上の遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法を含む。
【0023】
本発明の別の局面は、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される14種またはそれ以上の遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法を含む。
【0024】
本発明はまた、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法も含む。
【0025】
本発明の別の態様では、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法を用いることができる。
【0026】
本発明の別の態様は、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法を含む。
【0027】
本発明のさらなる態様は、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法を含む。
【0028】
本発明の別の局面は、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法を含む。
【0029】
本発明のさらに別の態様は、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法を含む。
【0030】
本発明の別の局面は、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法を含む。
【0031】
本発明のさらなる局面は、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法を含む。
【0032】
本発明の別の態様は、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法を含む。
【0033】
本発明の別の態様は、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法を含む。
【0034】
本発明はまた、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法も含む。
【0035】
本発明の別の局面は、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の組織試料から、群BOLLおよびZNF583より選択される遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す方法を含む。
【0036】
本発明のさらなる局面は、イリノテカン、フルオロウラシル、およびロイコボリンの薬学的レジメンを患者に施す段階を含む化学療法に対する、ヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測する方法を含む。本方法はまた、オキサリプラチン、フルオロウラシル、およびロイコボリンの薬学的レジメンを患者に施す段階を含む化学療法に対する、ヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を予測するために、用いることもできる。
【0037】
本発明はまた、ヒトの試料に由来する、マーカーとして同定された遺伝子に由来するタンパク質を検出することによって、表3中の遺伝子の1種または複数種の発現を評価する方法も提供する。
【0038】
いくつかの局面において、本発明は、ヒト転移性結腸直腸癌患者に対して化学療法レジメンを決定する方法を提供し、本方法は、該患者の結腸腫瘍組織試料から、LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される遺伝子の発現を検出する段階であって、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す段階;ならびに該患者の腫瘍組織試料による表3の遺伝子14種の発現に適用した(SVM学習アルゴリズムを用いてあらかじめ決定された)予測因子分類子が、該患者を反応者患者として分類する場合に、イリノテカン、フルオロウラシル、およびロイコボリンを含む薬学的レジメンを該患者に施す段階を含む。
【0039】
サポートベクターマシン(SVM)は、Vapnik(1995)によって考案され、その後マイクロアレイデータ解析に適用された、新しい種類の学習アルゴリズムである(Ben-Dor et al., 2000, Journal of the Computational Biology, 7, 559-583;Brown et al., 2000, Proc. Natl. Acad. Sci USA 97:262-267)。まず、本アルゴリズムの目的は、データを2つのクラスに分類する最良の超平面を求めることである。この超平面は、サポートベクターとも称される最も近い学習点間の距離を最大化するという意味において最適である。新たな観測点の分類は、超平面に関するその位置によって決まる。
The nature of statistical learning theory. Springer edition.
【0040】
SVMアルゴリズムは、分類に用いられる場合、データを2つのクラス(反応者および非反応者)に分離する超平面を作成する。
【0041】
本発明は、ヒト転移性結腸直腸癌患者に対して化学療法レジメンを決定する方法を提供し、本方法は、該患者の腫瘍組織試料から、LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される遺伝子の発現を検出する段階であって、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す段階;ならびに該患者の腫瘍組織試料による表3の遺伝子14種の発現に適用した(SVM学習アルゴリズムを用いてあらかじめ決定された)予測因子分類子が、該患者を非反応者患者として分類する場合に、オキサリプラチン、フルオロウラシル、およびロイコボリンを含む薬学的レジメンを該患者に施す段階を含む。
【0042】
本発明は、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応をモニターする方法であって、該患者に薬学的レジメンを施す段階;該患者の腫瘍組織試料から、LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される遺伝子の1種または複数種の発現を検出する段階;ならびに検出された該患者の遺伝子発現を、結腸直腸腫瘍細胞を含む細胞集団による遺伝子発現と比較する段階を含む方法をさらに提供する。1つのそのような薬学的レジメンは、イリノテカン、フルオロウラシル、およびロイコボリンを投与する段階を含み得る。別のそのような薬学的レジメンは、オキサリプラチン、フルオロウラシル、およびロイコボリンを投与する段階を含み得る。
【0043】
別の局面において、本発明は、ヒト転移性結腸直腸癌患者に対して化学療法治療法を修正する方法であって、該患者に薬学的レジメンを施す段階;該患者の結腸腫瘍組織試料から、LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される遺伝子の1種または複数種の発現を検出する段階;ならびに同定した1種または複数種の遺伝子が発現される場合にFOLFIRIを投与するか、または同定した1種または複数種の遺伝子が発現されない場合にFOLFOXを投与する段階を含む方法を提供する。
【0044】
本発明はまた、化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を検出する方法も意図する。
【0045】
本方法は、本発明の方法の1つまたは複数を実行するのに有用なキットをさらに含む。いくつかの好ましい態様において、キットは、1種または複数種のオリゴヌクレオチドが結合している1つまたは複数の固体支持体を含み得る。固体支持体は、高密度オリゴヌクレオチドアレイであってよい。キットは、アレイとともに用いるための1つまたは複数の試薬、1つまたは複数のシグナル検出装置および/またはアレイ処理装置、1つまたは複数の遺伝子発現データベース、ならびに1つまたは複数の解析およびデータベース管理ソフトウェアパッケージをさらに含み得る。
【0046】
本発明はまた、ヒト転移性結腸直腸癌患者に対して、いくつかの代替的治療選択肢から最適な化学療法を選択するために用いるためのキットであって、
a. 以下の遺伝子LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583のうちの1種または複数種の発現を評価するために、該ヒトの試料に由来するmRNAを検出するためのマイクロアレイ;ならびに
b. 該マイクロアレイを使用する方法を記載した使用説明書
を含むキットも提供する。
【0047】
本発明の他の態様は、マイクロアレイがAffymetrix(登録商標) Gene Chipであるキットを伴う。本発明はまた、インサイチューハイブリダイゼーションによる検出、および核酸増幅による検出も意図する。
【0048】
本発明の意図する別の態様は、ヒト転移性結腸直腸癌患者に対して、いくつかの代替的治療選択肢から最適な化学療法レジメンを選択するために用いるためのキットであって、
a. 以下の遺伝子LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583のうちの1種または複数種の発現を評価するために、該ヒトの試料に由来するタンパク質を検出するためのマイクロアレイ;ならびに
b. 該マイクロアレイを使用する方法を記載した使用説明書
を含むキットである。
【0049】
本発明の他の態様は、タンパク質をウェスタンブロッティングによって、または免疫組織化学によって検出するキットを含む。
【0050】
本発明はまた、ヒト転移性結腸直腸癌患者に対して、いくつかの代替的治療選択肢から最適な化学療法を選択するために用いるためのキットも提供する。
【0051】
本明細書に記載される任意の方法または組成物は、本明細書に記載される任意の他の方法または組成物に関して実行できることが意図される。
【0052】
特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、二者択一のみを指すことを明示しているか、または選択肢が互いに排他的である場合を除き、「および/または」を意味するために用いられるが、本開示は、二者択一のみおよび「および/または」を指すという定義を支持する。
【0053】
本出願を通して、「約」という用語は、その値を決定するために使用した装置または方法に関する誤差の標準偏差を含む値を示すために用いられる。
【0054】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかし、この詳細な説明から、本発明の精神および範囲の範囲内での様々な変更および修正が当業者に明白となることから、詳細な説明および具体例は、本発明の具体的態様を示すものであるが、単に例証のために提供されることが理解されるべきである。
【0055】
発明の詳細な説明
現在、病期I〜IIIの結腸直腸癌に対して一般的に用いられる術前または術後化学療法レジメンは少なくとも4種ある。本発明より前には、化学療法を開始する前に、個体に対して最良のレジメンを選択するための検査はほとんど存在しなかった。典型的に、治療は試行錯誤手法により経験的に評価された。結腸(および所属リンパ節)からの結腸直腸癌の完全な病理学的根絶により、治癒が高精度で予測される。しかし、この終点は、経験的に選択された化学療法が完了して初めて得られる。FOLFIRI化学療法の場合、治療過程は3〜6ヵ月間続き、患者の45〜55%が客観的反応(完全寛解+部分寛解)を示すに過ぎない。Douillard JY, Cunningham D, Roth AD, et al., Lancet 355:1041-1047, 2000;Toumigand C, Andre T, Achille E, et al., J Clin Oncol 22:229-237, 2004。
【0056】
最初に適切な治療法を選択する能力は、結腸直腸癌(例えば、転移性結腸直腸癌)などの癌の治癒と再発の違いをもたらし得る。本発明は、患者の腫瘍試料中の反応性遺伝子の1種または複数種の差次的発現を評価することによる、FOLFIRI化学療法などの治療から恩恵を受ける可能性が最も高い患者の同定を提供する。一例として、個体は、推定100%の陽性予測値および90%の陰性予測値で、FOLFIRI療法に対する完全病理学的寛解を経験することが推定される。本明細書で使用する「予測値」とは、特定の治療結果を有すると予測され、実際にその予測された治療結果を有する患者の割合である。治療結果は治癒から効果なしの範囲であってよく、これには、腫瘍増殖の遅延、腫瘍量の減少、病理学によって決定される腫瘍の根絶、およびその他の治療結果が含まれ得る。このことは、FOLFIRI化学療法によって完全または部分寛解(および治癒可能性)を達成する確率が、非検査患者における45〜55%から、本発明の独創的方法に基づきFOLFIRI化学療法を受けるよう選択された患者における80%にまで倍増したことを表す。
【0057】
FOLFIRIで治療した集団における、予測される客観的奏功率は50%である。本発明によって得られた遺伝子サインによって、実施例5に示すように、約80%〜95%の精度で、反応者患者(R)の100%および非反応者患者(NR)の約92%の分類が可能になる。
【0058】
多くの患者にとって、FOLFIRIレジメンは、治療法を非選択的に使用する場合を上回る、最善の治癒可能性を示す。本発明の意図する予測検査を用いて、術前または術後治療としてのこの治療レジメンに関して、患者を選択することができる。単独のまたは組み合わせのこれらの遺伝子はまた、結腸直腸癌に対する新規薬物を開発するため、または既存の治療薬の活性を調節するおよび増大させるための治療標的として用いることもできる。
【0059】
同定された反応性遺伝子または反応性遺伝子によってコードされるタンパク質の一組またはその一部の発現レベルを用いて:1) 腫瘍が、薬剤または薬剤の組み合わせによってうまく治療され得るか、またはうまく治療される可能性が高いかどうかを決定する;2) 腫瘍が、薬剤または薬剤の組み合わせによる治療に反応するかどうかを決定する;3) 腫瘍を治療するための適切な薬剤または薬剤の組み合わせを選択する;4) 現在行われている治療の有効性をモニターする;および5) 新たな治療法(単一の薬剤または薬剤の組み合わせ)を同定することができる。特に、同定された反応性遺伝子は、適切な治療を決定するため、有効性に関して試験が行われている薬物の臨床治療試験およびヒト試験をモニターするため、ならびに新たな薬剤および治療組み合わせを開発するためのマーカー(代替的および/または直接的)として使用することができる。
【0060】
特定の態様において、方法および組成物は、所与の治療薬に対して反応する癌細胞において発現し、その発現(発現増加または発現減少)が治療薬に対する反応性と相関する遺伝子を含む。表3を参照されたい。本明細書で使用する「反応性遺伝子」または「遺伝子マーカー」とは、その発現増加または発現減少が、特定の治療に対する細胞の反応と相関する遺伝子である。反応は、治療反応(感受性)または治療反応の欠如(病変残存、耐性を示し得る)であってよい。したがって、治療薬によってうまく治療される可能性の高い腫瘍および腫瘍細胞を同定するためのマーカー(または代替マーカー)として、本発明の遺伝子の1種または複数種を用いることができる。加えて、本発明のマーカーを用いて、治療に対して抵抗性となったか、または抵抗性となるリスクのある癌を同定することもできる。本発明の局面は、治療に反応するまたは反応しない可能性の高い患者を同定し得るマーカーセットを含む。
【0061】
1つの態様において、遺伝子発現は、(1) 1種または複数種の標的遺伝子に由来する標的核酸のプールを提供する段階;(2) 核酸試料をプローブのアレイ(対照プローブを含む)とハイブリダイズさせる段階;および(3) 核酸のハイブリダイゼーションを検出し、相対的発現(転写)レベルを評価する段階によって、評価される。本発明は、核酸プローブが、組織化された配列で固体支持体上に固定化されている方法を提供する。オリゴヌクレオチドは、リソグラフィーを含む種々の工程によって、支持体上に結合させることができる。当技術分野では、そのようなアレイを「チップ」と称することが一般的である。
【0062】
本明細書では、腫瘍細胞を含む癌細胞は、治療薬と接触させなかった場合のその増殖と比較して、治療薬と接触させた結果として、その増殖速度が阻害されるかまたは腫瘍細胞が死滅する場合に、治療薬に対して「反応性」である。治療薬に対する反応性の質は可変的であり、異なる腫瘍は異なる条件下で、所与の治療薬に対して様々なレベルの「反応性」を示す。本発明の1つの態様において、腫瘍は、対応する反応性マーカーの1種または複数種が発現された場合に、薬剤に対して反応する傾向があると考えられる。
【0063】
腫瘍細胞を含む癌は、治療薬と接触させなかった場合のその増殖と比較して、治療薬と接触させた結果として、その増殖速度が阻害されない(または非常に低い程度に阻害される)かまたは細胞死が誘導されない場合に、治療薬に対して「非反応性」である。治療薬に対する非反応性の質は高度に可変的であり、異なる腫瘍は異なる条件下で、所与の治療薬に対して様々なレベルの「非反応性」を示す。
【0064】
本明細書では、腫瘍細胞を含む癌とは、新生物細胞または過形成細胞を指す。癌には、これらに限定されないが、中皮腫、肝胆道癌(肝管および胆管)、原発性もしくは二次性CNS腫瘍、原発性もしくは二次性脳腫瘍(下垂体腫瘍、星状細胞腫、髄膜腫、および髄芽腫を含む)、肺癌(NSCLCおよびSCLC)、骨癌、膵癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚もしくは眼球内黒色腫、卵巣癌、結腸癌、直腸癌、肝癌、肛門部癌、胃癌、胃腸(胃、結腸直腸、および十二指腸)、乳癌、子宮癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣癌、外陰癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、消化管間質腫瘍(GIST)、膵内分泌腫瘍(褐色細胞腫、インスリノーマ、血管作動性腸管ペプチド腫瘍、島細胞腫瘍、およびグルカゴノーマを含む)、カルチノイド腫瘍、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、精巣癌、慢性もしくは急性白血病、慢性骨髄性白血病、リンパ球性リンパ腫、膀胱癌、腎臓癌もしくは尿管癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)新生物、原発性CNSリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、脊髄軸腫瘍、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、副腎皮質癌、胆嚢癌、多発性骨髄腫、胆管癌、線維肉腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、血管腫瘍(血管腫、血管肉腫、血管芽腫、および小葉毛細血管腫などの、良性および悪性腫瘍を含む)、または前述の癌の1つもしくは複数の組み合わせが含まれる。
【0065】
多くの生物機能は、転写調節(例えば、開始の調節、RNA前駆体の供給、RNAプロセシングなどによる)および/または翻訳調節により、種々の遺伝子の発現を変化させることによって、達成される。例えば、細胞周期、細胞分化、および細胞死などの基本的な生物学的過程は、遺伝子の群の発現レベルの変化によって特徴づけられる場合が多い。
【0066】
アッセイ法
本発明は、癌が、特定の治療またはレジメンに対して感受性がある可能性が高いか、または耐性である可能性が高いかを決定する方法を提供する。マイクロアレイ解析により、試料中の何千もの遺伝子の発現レベルが決定されるが、これらの遺伝子のうちの一部のみが、治療に対して異なる結果を有する細胞間で有意に差次的に発現される。臨床結果を予測するために、差次的に発現されるこれらの遺伝子のうちどれを用いることができるのかを同定するには、さらなる解析が必要である。
【0067】
本発明に記載の遺伝子は、化学療法、例えばFOLFIRIに対して感受性がある腫瘍と、化学療法に対して反応しないかまたは反応性が低い腫瘍との間で、所定量だけ発現が異なる遺伝子である。同定された遺伝子は、所与の試料中の1種の遺伝子または複数種の遺伝子の発現を検出または定量するために、種々の核酸検出アッセイ法において用いることができる。以下に、本発明における関心対象の遺伝子の詳細な説明を提供する。遺伝子の相同体および多型変種もまた意図されることに留意されたい。本明細書に記載するように、これらの遺伝子の相対的発現は、核酸ハイブリダイゼーション、例えばマイクロアレイ解析により測定することができる。しかし、遺伝子の発現を決定するその他の方法もまた意図される。例えば、伝統的なノーザンブロッティング法、ヌクレアーゼ保護法、RT-PCR法、およびディファレンシャルディスプレイ法を用いて、遺伝子発現レベルを決定することもできる。そのような方法は、本発明のいくつかの態様に有用である。以下の遺伝子用のプローブは、表3に記載される遺伝子の全長核酸配列の任意の適切な断片を用いて設計することができることにも留意されたい。
【0068】
当業者が利用できる任意の方法で、遺伝子発現データを収集することができる。典型的に、いくつかの、さらには何千ものまたはそれ以上の異なる転写産物とハイブリダイズするプローブのアレイを使用することによって、遺伝子発現データが得られる。そのようなアレイは、アレイの各位置の大きさに応じて、マイクロアレイまたはマクロアレイとして分類される場合が多い。
【0069】
RNAの調製およびRNAの質の評価
当業者は、1種または複数種の遺伝子の転写レベル(およびひいては発現レベル)を評価するために、mRNA転写産物に由来する核酸試料を提供することが望ましいことを理解するであろう。本明細書では、mRNA転写産物に由来する核酸とは、その合成のために、mRNA転写産物またはその部分配列が最終的に鋳型となった核酸を指す。したがって、mRNAから逆転写されたcDNA、cDNAから転写されたRNA、cDNAから増幅されたDNA、増幅DNAから転写されたRNAなどはすべて、mRNA転写産物に由来する。そのような由来産物の検出により、試料中の元の転写産物の存在および存在量が示される。したがって、適切な試料には、これらに限定されないが、1種または複数種の遺伝子のmRNA転写産物、mRNAから逆転写されたcDNA、cDNAから転写されたcRNAなどが含まれる。
【0070】
試料中の1種または複数種の遺伝子の転写レベルを定量することが所望される場合、該1種または複数種の遺伝子のmRNA転写産物の濃度は、その遺伝子の転写レベルに比例する。同様に、ハイブリダイゼーションシグナル強度が、ハイブリダイズした核酸の量に比例することが好ましい。本明細書に記載するように、対照を実行して、試料調製およびハイブリダイゼーションに導入された変動を補正することができる。
【0071】
当業者に周知のいくつかの方法のいずれかに従って、試料から核酸を単離することができる。当業者は、1種または複数種の遺伝子の発現レベルを検出しようとする場合に、RNA(mRNA)を単離することが好ましいことを理解するであろう。全mRNAを単離する方法は、当業者に周知である。例えば、核酸の単離および精製の方法は、参照により本明細書に組み入れられる、Sambrook et Al., (1989) Molecular Cloning - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載されている。フィルターに基づくmRNAの単離方法もまた、当技術分野において公知である。フィルターに基づく市販のRNA単離システムの例には、RNAqueous(登録商標)(Ambion)およびRNeasy(Qiagen)が含まれる。当業者は、ホモジネートを使用し得る前に、ホモジネート中に存在するRNaseを阻害または破壊することが望ましいことを理解するであろう。
【0072】
多くの場合、ハイブリダイゼーションの前に核酸試料を増幅することが望ましい。いかなる増幅法を用いるにせよ、定量的な結果が所望される場合には、増幅される核酸の相対的頻度を維持または調節する方法を用いるように注意を払わなくてはならないことを、当業者は理解するであろう。
【0073】
「定量的」増幅の方法は、当業者に周知である。例えば、定量的PCRは、公知の量の対照配列を同時に増幅する段階を含む。これにより、PCR反応を較正するために用い得る内部標準が得られる。そこでアレイは、増幅核酸を定量化するための内部標準に特異的なプローブを含み得る。
【0074】
その他の適切な増幅法には、これらに限定されないが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(Innis, et al., 1990)、リガーゼ連鎖反応(LCR)(Wu and Wallace, 1989;Landegren, et al., 1988;Barringer et al., 1990を参照されたい)、転写増幅(Kwoh, et al., 1989)、および自律的配列複製(Guatelli, et al., 1990)が含まれる。
【0075】
1つの態様において、核酸試料は、生体試料から単離された全mRNAである。本明細書で使用する「生体試料」という用語は、生物から、または生物の成分(例えば、細胞)から得られた試料を指し、これには腫瘍、新生物、または過形成などの罹患組織が含まれる。試料は、任意の生物に由来する任意の生物組織もしくは生体液または細胞、ならびに細胞株および組織培養細胞のようなインビトロで生育させた細胞のものであってよい。多くの場合、試料は、患者由来の試料である「臨床試料」である。そのような試料には、これらに限定されないが、血液、血球細胞(例えば、白血球)、組織生検試料もしくは細針吸引生検試料、尿、腹水、および胸水、またはそれらに由来する細胞が含まれる。生体試料にはまた、組織検査の目的で採取された凍結切片またはホルマリン固定切片のような組織切片も含まれ得る。
【0076】
特定の態様では、SuperScript II(Invitrogen)などの逆転写酵素、ならびにオリゴdTおよびファージT7プロモーターをコードする配列からなるプライマーを用いて試料mRNAを逆転写させて、第1鎖cDNAを作製する。DNAポリメラーゼ、DNAリガーゼ、およびRNase Hの存在下で、第2鎖DNAを重合させる。得られた二本鎖cDNAは、T4 DNAポリメラーゼを用いて平滑末端化し、フェノール/クロロホルム抽出により精製することができる。次に、二本鎖cDNAをcRNAに転写させる。RNAのインビトロ転写の方法は当技術分野において公知であり、例えば、いずれも参照により本明細書に組み入れられる、Van Gelder, et al. (1990)、ならびに米国特許第5,545,522号;第5,716,785号;および第5,891,636号に記載されている。
【0077】
所望であれば、転写時に、cRNAに標識を取り込むことができる。当業者は、核酸を標識する方法に精通している。例えば、ビオチン-リボヌクレオチドの存在下でcRNAを転写させることができる。BioArray High Yield RNA Transcript Labeling Kit(Enzo Diagnostics)は、cRNAをビオチン化するための市販のキットである。
【0078】
上記の直接転写法によってアンチセンス(aRNA)プールが提供されることが、当業者によって理解されるであろう。アンチセンスRNAを標的核酸として用いる場合、アレイに提供されるオリゴヌクレオチドプローブは、アンチセンス核酸の部分配列と相補的であるように選択する。逆に、標的核酸プールがセンス核酸のプールである場合には、センス核酸の部分配列と相補的であるように、オリゴヌクレオチドプローブを選択する。最後に、核酸プールが二本鎖である場合には、標的核酸はセンス鎖およびアンチセンス鎖を両方含むため、プローブはいずれのセンスであってもよい。
【0079】
ハイブリダイゼーションを検出するには、適切な検出手段と併用して核酸を使用することが有利である。プライマーに取り込まれた、増幅中に増幅産物に取り込まれた、またはプローブに結合させた認識部分は、核酸分子の同定において有用である。これらに限定されないが、フルオロフォア、発色団、放射性担体(radiophore)、酵素タグ、抗体、化学発光、電気発光、およびアフィニティー標識を含むいくつかの様々な標識を、この目的のために用いることができる。当業者は、本発明においてこれらおよびその他の標識を首尾よく用いることができることを認識するであろう。
【0080】
アフィニティー標識の例には、これらに限定されないが以下のものが含まれる:抗体、抗体断片、受容体タンパク質、ホルモン、ビオチン、ジニトロフェニル(DNP)、またはアフィニティー標識に結合する任意のポリペプチド/タンパク質分子。
【0081】
酵素タグの例には、2、3挙げるとすれば、ウレアーゼ、アルカリホスファターゼ、またはペルオキシダーゼなどの酵素が含まれる。相補的核酸を含む試料との特異的ハイブリダイゼーションを同定するために、比色指標基質を用いて、ヒトの目に可視であるかまたは分光光度的な検出手段を提供することができる。
【0082】
フルオロフォアの例は、これらに限定されないが、Alexa 350、Alexa 430、AMCA、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665、BODIPY-FL、BODIPY-R6G、BODIPY-TMR、BODIPY-TRX、カスケードブルー、Cy2、Cy3、Cy5、6-FAM、フルオレセイン、HEX、6-JOE、オレゴングリーン488、オレゴングリーン500、オレゴングリーン514、パシフィックブルー、REG、ローダミングリーン、ローダミンレッド、ROX、TAMRA、TET、テトラメチルローダミン、およびテキサスレッドが含まれる。
【0083】
上記したように、転写時に、核酸、例えばcRNAに標識を取り込むことができる。例えば、ビオチン-リボヌクレオチドの存在下でcRNAを転写させることができる。BioArray High Yield RNA Transcript Labeling Kit(Enzo Diagnostics)は、cRNAをビオチン化するための市販のキットである。
【0084】
そのような標識を検出する手段は、当業者には周知である。例えば、写真用フィルムまたはシンチレーションカウンターを用いて、放射性標識を検出することができる。他の例では、放射光を検出するために光検出器を用いて、蛍光マーカーを検出することができる。なおさらなる例では、酵素に基質を提供し、基質に対する酵素の作用によって生成された反応産物を検出することにより、酵素標識を検出し、有色標識を単に可視化することにより、比色標識を検出する。
【0085】
いわゆる「直接標識」とは、ハイブリダイゼーション前に、標的(試料)核酸に直接結合させるかまたは取り込まれる検出可能な標識である。対照的に、いわゆる「間接標識」は、ハイブリダイゼーション後にハイブリッド二重鎖に連結させる。多くの場合、間接標識は、ハイブリダイゼーション前に標的核酸に結合させた結合部分に結合させる。したがって、例えば、ハイブリダイゼーション前に、標的核酸をビオチン化することができる。ハイブリダイゼーション後、アビジン結合フルオロフォアは、ビオチン含有ハイブリッド二重鎖と結合し、容易に検出される標識を提供する。核酸を標識し、ハイブリダイズした標識核酸を検出する方法の詳細な総説に関しては、Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology (1993)を参照されたい。
【0086】
ハイブリダイゼーション
核酸ハイブリダイゼーションは、単に、プローブとその相補的標的が相補的塩基対合により安定したハイブリッド二重鎖を形成し得る条件下で、プローブと標的核酸を接触させる段階を含む(例えば、Lockhart et al., 1999,WO 99/32660を参照されたい)。次に、ハイブリッド二重鎖を形成しない核酸を洗浄除去し、検出しようとするハイブリダイズした核酸を残すが、この検出は、典型的には結合している検出可能な標識の検出による。核酸は、温度を上げるか、または核酸を含む緩衝液の塩濃度を下げることにより変性することが、一般的に認識されている。
【0087】
低ストリンジェンシー条件(例えば、低温および/または高塩濃度)下では、アニールする配列が完全に相補的でない場合でさえ、ハイブリッド二重鎖(例えば、DNA-DNA、RNA-RNA、またはRNA-DNA)が形成される。
【0088】
したがって、ハイブリダイゼーションの特異性は低ストリンジェンシーで減少する。逆に、高ストリンジェンシー(例えば、高温または低塩濃度)であるほど、ハイブリダイゼーションがうまく起こるために必要なミスマッチ数は少なくなる。ハイブリダイゼーション条件を選択して、任意の程度のストリンジェンシーを提供できることを、当業者は理解するであろう。ストリンジェンシーはまた、ホルムアミドなどの薬剤の添加により増大させることもできる。ハイブリダイゼーションの特異性は、試験プローブとのハイブリダイゼーションを、存在し得る種々の対照(例えば、発現レベル対照、正規化対照、ミスマッチ対照など)とのハイブリダイゼーションと比較することにより、評価することができる。
【0089】
概して、ハイブリダイゼーションの特異性(ストリンジェンシー)とシグナル強度とは、二律背反する関係である。したがって、好ましい態様では、一貫した結果をもたらし、かつバックグラウンド強度の約10%を超えるシグナル強度を提供する最も高いストリンジェンシーで、洗浄を実行する。したがって、好ましい態様では、ハイブリダイズしたアレイを高ストリンジェンシー溶液で連続して洗浄し、各洗浄の間に読み取る。このようにして作成されたデータセットの解析により、それを超えるとハイブリダイゼーションパターンが認め得るほどに変化せず、かつ関心対象の特定のオリゴヌクレオチドプローブに適切なシグナルを提供する洗浄ストリンジェンシーが明らかとなる。
【0090】
本明細書では、「ハイブリダイゼーション」、「ハイブリダイズする」、または「ハイブリダイズし得る」は、二本鎖もしくは三本鎖の分子、または部分的に二本鎖もしくは三本鎖の性質を有する分子の形成を意味すると理解される。本明細書で使用する「アニールする」という用語は、「ハイブリダイズする」と同義語である。「ハイブリダイゼーション」、「ハイブリダイズする」、または「ハイブリダイズし得る」という用語は、「ストリンジェントな条件」または「高ストリンジェンシー」という用語、および「低ストリンジェンシー」または「低ストリンジェンシー条件」という用語と関連がある。
【0091】
本明細書で使用する「ストリンジェントな条件」または「高ストリンジェンシー」とは、相補配列を含む1つまたは複数の核酸鎖の間またはその中でのハイブリダイゼーションを可能にするが、ランダムな配列のハイブリダイゼーションを不可能とする条件である。ストリンジェントな条件は、核酸と標的鎖との間のミスマッチをほとんど許容しない。そのような条件は当業者に周知であり、高い選択性を必要とする適用に好ましい。非限定的な適用は、mRNAまたはその核酸断片などの核酸を単離する段階、または少なくとも1つの特定のmRNA転写産物またはその核酸断片を検出する段階を含む。
【0092】
ストリンジェントな条件は、約0.02M〜約0.15M NaCl、約50℃〜約70℃の温度により提供されるような、低塩濃度および/または高温条件を含み得る。所望のストリンジェンシーの温度およびイオン強度は、一部には、特定の核酸の長さ、標的配列の長さおよび核酸塩基の内容、核酸の電荷組成、ならびにハイブリダイゼーション混合物中のホルムアミド、塩化テトラメチルアンモニウム、またはその他の溶媒の存在または濃度によって決まることが理解される。
【0093】
ハイブリダイゼーションに関するこれらの範囲、組成、および条件は、非限定的な例として言及するに過ぎず、特定のハイブリダイゼーション反応に関して所望されるストリンジェンシーは、1つまたは複数の陽性または陰性対照との比較により経験的に決定される場合が多いこともまた理解される。想定される適用に応じて、標的配列に対する核酸の様々な程度の選択性を達成するために、様々なハイブリダイゼーション条件を使用することが好ましい。非限定的な例において、ストリンジェントな条件下で、核酸とハイブリダイズしない関連標的核酸の同定または単離は、低温および/または高イオン強度でのハイブリダイゼーションによって達成され得る。このような条件は「低ストリンジェンシー」または「低ストリンジェンシー条件」と称され、低ストリンジェンシーの非限定的な例には、約0.15M〜約0.9M NaCl、約20℃〜約50℃の温度で行われるハイブリダイゼーションが含まれる。当然のことながら、特定の適用に適合するように、低ストリンジェンシーまたは高ストリンジェンシー条件をさらに修正することは、当業者の技術の範囲内である。
【0094】
選択されるハイブリダイゼーション条件は、特定の状況に依存する(例えば、G+C含量、標的核酸の種類、核酸の供給源、およびハイブリダイゼーションプローブの大きさに依存する)。関心対象の特定の適用に関するハイブリダイゼーション条件の最適化は、当業者に周知である。代表的な固相ハイブリダイゼーション法は、米国特許第5,843,663号、第5,900,481号、および第5,919,626号に開示されている。本発明の実施において用いることができるハイブリダイゼーションのその他の方法は、米国特許第5,849,481号、第5,849,486号、および第5,851,772号に開示されている。
【0095】
シグナルの検出
ハイブリダイズした核酸は、典型的に、試料核酸に結合している1つまたは複数の標識を検出することによって検出する。標識は、当業者に周知のいくつかの手段のいずれかにより取り込むことができる(例えば、Affymetrix GeneChip(登録商標) Expression Analysis Technical Manualを参照されたい)。
【0096】
DNAアレイおよび遺伝子チップ技術は、固体基板上に固定化された種々の一本鎖DNAプローブとハイブリダイズする能力に関して、多数の核酸試料を迅速にスクリーニングする手段を提供する。これらの技法は、多数の遺伝子を迅速かつ正確に解析する定量的方法を含む。この技術は、一本鎖DNAの相補的結合特性を利用して、ハイブリダイゼーションにより核酸試料をスクリーニングする(Pease et al., 1994;Fodor et al., 1991)。基本的には、DNAアレイまたは遺伝子チップは、一連の一本鎖DNA分子が結合している固体基板からなる。スクリーニングのために、チップまたはアレイを一本鎖核酸試料(例えば、cRNA)と接触させるが、これによりストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせることができる。次に、チップまたはアレイをスキャンして、どのプローブがハイブリダイズしたかを決定する。
【0097】
ポリヌクレオチドプローブを固体基板上で直接合成する、または固体基板にポリヌクレオチドプローブを結合させる能力は、当技術分野で周知である。例えば、いずれも参照により明確に組み入れられる、米国特許第5,837,832号および第5,837,860号を参照されたい。プローブを基板に永久にまたは除去可能に結合させるために、種々の方法が用いられている。例示的な方法には、ビオチン化核酸分子のアビジン/ストレプトアビジンコーティング支持体への固定化(Holmstrom, 1993)、短い5'リン酸化プライマーの化学修飾ポリスチレンプレートへの直接共有結合(Rasmussen et al., 1991)、またはポリスチレンもしくはガラス固相のポリL-LysもしくはポリL-Lys、Pheによるプレコーティング、およびそれに続く二官能性架橋試薬を用いるアミノもしくはスフフィドリル修飾オリゴヌクレオチドの共有結合(Running, et al., 1990;Newton et al., 1993)が含まれる。プローブは、基板に固定化された場合に安定し、したがって繰り返し用いることができる。
【0098】
一般論として、ハイブリダイゼーションは、固定化核酸標的上で、またはニトロセルロース、ナイロン膜、もしくはガラスなどの固体表面に結合させたプローブ分子上で行う。強化ニトロセルロース膜、活性化石英、活性化ガラス、二フッ化ポリビニリデン(PVDF)膜、ポリスチレン基板、ポリアクリルアミドに基づく基板、例えばポリ(塩化ビニル)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ジメチルシロキサン)、フォトポリマー(標的分子と共有結合を形成し得る、ナイトレン、カルベン、およびケチルラジカルなどの光反応種を含む)などのその他のポリマーを含む、その他多数の基質材料を用いることができる。
【0099】
プローブアレイのハイブリダイゼーションおよびスキャンには、Affymetrix GeneChipシステムを用いることができる。好ましい態様では、Affymetrix U133Aアレイを、データ収集および予備解析のためのMicroarray Suite 5.0と併用して用いる。
【0100】
正規化対照
正規化対照とは、核酸試料に加えられる標識参照オリゴヌクレオチドと相補的なオリゴヌクレオチドプローブである。ハイブリダイゼーション後に正規化対照から得られたシグナルは、ハイブリダイゼーション条件、標識強度、「読み取り」効率、およびハイブリダイゼーションのシグナルがアレイ間で異なる原因となり得るその他の要因のばらつきに関する対照を提供する。例えば、アレイ内の他のすべてのプローブから読み取られたシグナルを、対照プローブからのシグナル(例えば、蛍光強度)で割ることによって、測定値を正規化することができる。
【0101】
実質的に、あらゆるプローブが正規化対照として役立ち得る。しかし、ハイブリダイゼーション効率は塩基組成およびプローブ長によって異なることが認識されている。好ましい正規化プローブは、アレイ内に存在する他のプローブの平均長を反映するように選択されるが、ある範囲の長さをカバーするように選択することもできる。正規化対照はまた、アレイ内の他のプローブの(平均)塩基組成を反映するように選択することもできるが、1つの好ましい態様では、1つまたは少数の正規化プローブのみが用いられ、それらは良好にハイブリダイズし(すなわち、二次構造を生じない)、いずれの標的特異的プローブとも一致しないように選択される。正規化プローブは、アレイ内の任意の位置に、またはハイブリダイゼーション効率の空間的ばらつきについて調節するためにアレイ内の複数の位置に位置してよい。
【0102】
特定の態様では、Affymetrix Gene Chipアレイを用いる場合、ハイブリダイゼーション効率について調節するために、Affymetrixによって提供される標準プローブ混合物をハイブリダイゼーションに添加する。
【0103】
発現レベル対照
発現レベル対照とは、試料中の構成的に発現された遺伝子と特異的にハイブリダイズするプローブである。発現レベル対照は、cRNA調製の効率を評価するために用いることができる。
【0104】
構成的に発現される実質的にあらゆる遺伝子が、発現レベル対照の適切な標的となる。典型的に、発現レベル対照プローブは、構成的に発現される「ハウスキーピング遺伝子」の部分配列と相補的な配列を有する。
【0105】
1つの態様では、特定のハウスキーピング遺伝子と特異的にハイブリダイズする3'発現レベル対照プローブおよび5'発現レベル対照プローブについて得られたシグナルの比を、cRNA調製の効率の指標として用いる。比1〜3は、許容可能な調製を示す。
【0106】
データベース
任意の適切なコンピュータプラットフォームを用いて、データベース中の、または入力として提供された配列情報、遺伝子発現情報、および任意の他の情報間の必要な比較を行うことができる。例えば、多数のコンピュータワークステーションおよびプログラムが、種々の製造業者から入手可能であり、例えばAffymetrixから入手可能なものなどがある。
【0107】
統計的手法
広範な一連の転写産物にわたる遺伝子発現のプロファイルを組み合わせることは、任意の単一遺伝子に依存するよりも、潜在的により大きな分類予測能を有する。この主張は、遺伝子間相互作用の複雑な性質、および全ゲノムRNA発現で得られた多くの予想される分子的特徴に暗に依存している。組織試料間の遺伝子発現レベル間の差の有意性は、発現データ、およびマイクロアレイの有意性解析(SAM)法などの多くの統計的検定を用いて評価することができる(Tusher VG, et al., 2001, Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 98(9):5116-21)。SAMは、一連の遺伝子特異的t検定を取り入れることにより、発現が統計的に有意に変化する遺伝子を同定する。各遺伝子は、その遺伝子の反復測定値の標準偏差に対する遺伝子発現のその変化に基づいて、スコアが割り当てられる。閾値よりも大きなスコアを有する遺伝子は、潜在的に有意であると見なされる。偶然に同定されたそのような遺伝子の割合は、偽発見率(FDR)である。FDRを推定するには、測定値の順列を解析することにより無意味な遺伝子を同定する。閾値は、より小さなまたはより大きな遺伝子セットを同定するように調整することができ、各セットについてFDRが計算される。
【0108】
キット
本明細書に記載する組成物の任意のものを、キットに含めることができる。非限定的な例では、表3に収載される遺伝子14種のうちの1種または複数種の遺伝子型を決定するための試薬をキットに含める。キットは、表3の遺伝子に収載される遺伝子14種のうちの1種または複数種の特定の核酸配列を増幅および/または検出し得る個々の核酸をさらに含んでよい。キットはまた、DNA単離緩衝液、増幅緩衝液、またはハイブリダイゼーション緩衝液など、1つまたは複数の緩衝液も含んでよい。キットはまた、DNA鋳型を調製するため、および試料からDNAを単離するための化合物および試薬も含んでもよい。キットはまた、種々の標識用の試薬および化合物も含んでよい。
【0109】
キットの成分は、水性媒体中に、または凍結乾燥形態で包装することができる。キットの容器手段は一般に、その中に成分を配する、および好ましくは適切に等分することができる少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、瓶、注射器、またはその他の容器手段を含む。キット中に2つ以上の成分が存在する場合(標識試薬と標識は一緒に包装することができる)、キットは一般に、その中にさらなる成分を別々に配することができる第2、第3、またはその他のさらなる容器も含む。しかしながら、バイアル中に成分の種々の組み合わせを含めることも可能である。本発明のキットは典型的に、商業的販売用に密封された、核酸を収容するための手段、および任意の他の試薬容器も含む。そのような容器には、その中に所望のバイアルを保持する射出成形または吹き込み成形のプラスチック容器を含まれ得る。
【0110】
キットの成分が、1つおよび/または複数の液体溶液中に提供される場合、液体溶液は水溶液であり、無菌水溶液が特に好ましい。しかし、キットの成分は乾燥粉末として提供されてもよい。試薬および/または成分が乾燥粉末として提供される場合、適切な溶媒の添加により粉末を再構成することができる。溶媒を別の容器手段中に提供し得ることも想定される。
【0111】
キットはまた、キット成分の使用に加え、キットに含まれない任意の他の試薬の使用に関する説明書も含む。説明書は、実行可能な変更を含んでもよい。
【0112】
そのような試薬が本発明のキットの態様であることが意図される。しかしながら、そのようなキットは、先に同定された特定の品目に限定されず、表3に収載される遺伝子全14種の検出において直接または間接的に用いられる任意の試薬を含み得る。
【0113】
実施例1
患者、試料、および治療
患者の選択
以下の適格基準に従って患者を選択した:
組織学的に証明された結腸直腸癌を有する患者;
‐第一次治療として、FOLFIRIスケジュールに従ってイリノテカンおよび5FUの併用による治療を受けた患者;
‐臨床データおよび組織病理学的データが入手可能;
‐WHO(またはRECIST)基準または反応の評価を可能にするデータに従って決定される化学療法反応が入手可能でなければならない;および
‐凍結腫瘍材料またはRNA試料が入手可能
【0114】
以下の場合には、研究から患者を排除した:
‐以前に、トポイソメラーゼI阻害剤(イリノテカン、トポテカン)による治療を受けた
‐転移の治療のために、以前に化学療法を受けた
‐臨床データおよび組織病理学的データが入手不可能
‐凍結腫瘍材料またはRNA試料が入手不可能。
‐単離時のRNAの質または量が不適切。
【0115】
包含手順
以下の指針に従って、臨床データおよび試料(凍結腫瘍またはRNA)の収集を行った:
‐凍結腫瘍試料が入手可能な結腸直腸癌患者の人数を決定する
‐該患者の中で、第一次治療としてFOLFIRIによる治療を受けた、同時転移を有する結腸直腸癌患者の人数を決定する
‐凍結腫瘍材料またはRNA試料を回収し、できるだけ速やかに試料をドライアイス上に移す。
‐(必要に応じて)RNAを抽出し、RNA 6000 Nano LabChips(登録商標)でアッセイして、実験室で設定された標準手順に従って、RNAの質に関する信頼性のある情報を得る
‐十分に質の高いRNAが得られたならば、データ収集シートに示されるように、対応する患者の全臨床データおよび組織病理学的データに注釈をつける。
‐次に、腫瘍のパラフィン包埋材料を収集する。
【0116】
腫瘍試料の検証は、凍結材料が、腺腫成分を含まない真の浸潤癌を示すことを確実にするために必須な段階である。さらに、この解析は、腫瘍細胞、壊死、および線維症の割合の正確な決定に重要である。最終的に、この段階によって、解析される組織の特異性が決定され、利用可能な材料の量が保証される。
【0117】
同時のかつ切除不能な肝転移を有する結腸直腸癌患者29名は、第一次治療として、フランス、CRLC Val d'Aurelleにおいて、イリノテカン、フルオロウラシル、およびロイコボリンの併用(FOLFIRI)による治療を受けた。患者10名は、第一次転移性結腸直腸癌患者において、簡易なロイコボリン(「LV」)およびフルオロウラシル(「5FU」)レジメンと併用したイリノテカンの用量増加(180から260mg/m2へ)の有効性および安全性を評価することを目的とした、多施設前向き第II相臨床試験(高用量FOLFIRI)への参加者であった。残りの患者は、標準用量のイリノテカン(180mg/m2)によるFOLFIRIレジメンを受けた。患者1名に関しては、静脈内5-FUが、経口剤形の5-FU(ウラシルまたはUFTを含む5-フルオロウラシル(5-FU)プロドラッグテガフール)と置き換えられた。患者は全員、任意の化学療法の前に、原発腫瘍を切除するための手術を受けた。本発明者らは、質の高いRNAを得るために、標準手順に従って結腸腫瘍試料29例を収集した。RNAの質の不良(2例)、RNAが少量であること(1例)、およびチップ発現の質の不良(2例)に基づき、試料5例を排除した。原発腫瘍が2つ異なって局在した単一患者による試料2例、および治療中に死亡した患者による試料1例もまた排除した。したがって、試料21例のみがさらなる転写解析に適格であった。
【0118】
腫瘍反応評価における標的病変の測定を、固形腫瘍における癌治療の評価に関する世界保健機関(WHO)の推奨に従って行った(Miller AB, et al., 1981 Cancer 47(1):207-14)。各4サイクルまたは6サイクルの化学療法の前および後に、コンピュータ断層撮影スキャンを用いて、転移性腫瘍の大きさを二次元測定値(最大垂直直径の積)から推定して、基準からの変化の割合を算出した。転移性腫瘍の大きさが50%を超えて減少した患者を反応者(R)と分類し、転移性腫瘍の大きさが50%未満減少したか、または病変の大きさが増加した患者を非反応者(NR)として分類した、患者21名の腫瘍反応の評価を表1にまとめる。
【0119】
(表1)腫瘍反応の評価

CR=完全寛解、PR=部分寛解(≧50%の減少)、SD=病勢安定(PR基準にもPD基準にも適合しない)、PD=病勢進行(≧25%の増加または新たな病変の出現);CRおよびPRは、4週目に確認する必要がある
R=反応者;NR=非反応者
【0120】
実施例2
臨床反応の評価
遺伝子発現の解析を行う前に、WHO基準に従い解剖学的指標(腫瘍病変)に基づいて、反応者患者および非反応者患者を定義した。本発明者らは、第一次化学療法に対する最良反応を考慮した。患者21名のうち9名(43%)は、52%〜94%の転移サイズの減少を示してFOLFIRI治療に対して感受性があり、12名(57%)は、44%以下の腫瘍サイズの減少、または最大25%の腫瘍サイズの増加を示して非反応者と見なされた(表1)。
【0121】
反応者患者と非反応者患者との臨床病理学的特徴の相違を評価するため、本発明者らは、質的変数についてフィッシャーの直接確立検定を、および量的変数についてウィルコクソン検定を用いた。表2に示されるように、両群の間で、患者および腫瘍の特徴は有意に異ならなかった。
【0122】
(表2)患者の臨床的および病理学的特徴


【0123】
実施例3
アッセイ法
組織試料はすべて、RNA抽出時まで-180℃(液体窒素)または-80℃で維持し、ホモジナイズする前に秤量した。次に、Mixer Mill(登録商標) MM300(Qiagen、カリフォルニア州、バレンシア)を用いて、組織試料を溶解緩衝液中へ直接破壊した。溶解緩衝液中に存在する変性剤は、RNAの完全性を維持しつつ、細胞または組織の破壊中に細胞のヌクレアーゼを不活化する。RNeasy(登録商標)ミニキット(Qiagen)を用いて組織溶解物から全RNAを単離し、この抽出過程において、全試料に対してさらなるDNAse消化を行った(RNeasy(登録商標)ミニスピンカラムでのDNase処理に関するRNase-Free DNase Set(商標)手順、Qiagen)。各抽出後、全RNA調製物のごく少量を採取して、試料の質および全RNAの収量を決定した。UV分光法、およびAgilent RNA 6000 Nano LabChip(登録商標)キットおよびAgilent 2100バイオアナライザー(Agilent Technologies、カリフォルニア州、パロアルト)を用いた全RNAプロファイルの解析により対照を実行して、RNAの純度、質、および完全性を決定した。
【0124】
実施例4
遺伝子発現の解析
標準的なAffymetrixの手順に従って、全RNAを標識した(Affymetrix GeneChip(登録商標) Expression Analysis Technical Manual;Affymetrix Inc.、カリフォルニア州、サンタクララを参照されたい)。通常、第一鎖cDNA合成反応で、全RNAまたはmRNAをまず、T7-オリゴ(dT)プロモータープライマーを用いて逆転写させた。RNase Hを介した第二鎖cDNA合成後、二本鎖cDNAを精製し、これを次のインビトロ転写(IVT)反応における鋳型とした。相補的RNA(cRNA)増幅およびビオチン標識のため、T7 RNAポリメラーゼおよびビオチン化ヌクレオチド類似体/リボヌクレオチド混合物の存在下で、IVT反応を行った。次いでビオチン化cRNA標的を浄化し、断片化し、GeneChip(登録商標)発現アレイとハイブリダイズさせた。各試料について、標識プローブを、十分に実証された約33,000のヒト遺伝子に由来する39,000を超える転写産物を表す44,298個のプローブセットを含むAffymetrix Human Genome U133 Set(HG-U133;Affymetrix Inc.、カリフォルニア州、サンタクララ)とハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーションは、Affymetrix GeneChip(登録商標)ステーションを用いて行い、その条件は、Affymetrix GeneChip(登録商標) Expression Analysis Technical Manualに推奨される通りであった。ハイブリダイゼーション後、チップをストレプトアビジン・フィコエリトリンコンジュゲートで染色し、GeneChip(登録商標)スキャナー3000またはGeneArray(登録商標)スキャナーによりスキャンしたが、この場合、570 nmでの発光量は、プローブアレイ上の各位置に結合した標的の量に比例する。Affymetrixによって提供される、アレイに共通している変動の少ない一連の標準遺伝子を使用し、ある倍率を各アレイに適用することにより、アレイ間の正規化を行った。各プローブセットに対して転写物存在量に対応する強度を割り当てるAffymetrix GeneChip(登録商標)ソフトウェアを用いて、最終的なデータセットファイルを蓄積した。
【0125】
44298個のプローブセットからなるAffymetrix U133AおよびBチップを用いて、発現プロファイリングを行った。統計解析のため、1つの群による患者の少なくとも50%に存在する遺伝子をさらなる解析に考慮し、19365個の遺伝子のリストが得られた。
【0126】
実施例5
遺伝子サインの決定
SAMを用いて、反応者と非反応者との間で差次的に発現される遺伝子を決定した。20%の関連FDRに基づき、統計的有意性に従って、約5000個の識別遺伝子が選択され順位づけされた。各遺伝子について、ノンパラメトリック手順を用いて、全面積(AUC)を推定し、受信者動作特性(ROC)曲線下の部分面積(pAUC)を決定した。pAUCの推定は、特異度が少なくとも90%である領域のみに限定した。次に、AUC値およびpAUC値に基づいて遺伝子を順位づけし、本発明者らは、各指標についてトップ40の遺伝子を保持した。試料20例の訓練セットを用いて、この過程を21回繰り返した(毎回、1つの試料が抽出された)。安定したサインを確立するため、本発明者らは、21のAUCリストに共通した遺伝子(遺伝子8種)、および21のpAUCリストに共通した遺伝子(遺伝子11種)を選択した。最終的には、いくつかの遺伝子が最終AUCリストおよびpAUCリストの両方に共通していたため、識別遺伝子14種の一組が保持された(表3)。選択された14種の遺伝子に対して教師なし階層的クラスタリングおよび主成分分析を適用した結果、両解析で、反応者患者と非反応者患者が明確に分離された(図1)。
【0127】
(表3)FOLFIRIに対する反応を予測する14種の遺伝子サイン


*pAUCにより選択された遺伝子;**AUにより選択された遺伝子
【0128】
SVM学習アルゴリズムを用いて予測因子分類子を定義し、その性能を「LOOCV」により評価した。治療に対する反応の95%という全体精度で、反応者9名の全員(特異度100%)および非反応者12名のうち11名(感度92%)が正確に分類された。
【0129】
予測値

TP=真陽性;FP=偽陽性;FN=偽陰性;TN=真陰性
【0130】
感度は、「真陽性率」として見なされるTP/(TP+FN)と定義される。感度(Se)は、NR患者のうちの陽性結果の割合に対する割合に対応する。

【0131】
特異度は、「真陰性率」として見なされるTN/(TN+FP)と定義される。特異度(Sp)は、R患者のうちの陰性結果の割合に対応する。

【0132】
診断検査の陽性予測値(PPV)は、サインが陽性結果を提供する場合の、NR状態の確率に対応する。これは、以下により算出される:

(式中、「prv」は、集団内のNR患者の割合によって推定される、NR状態の普及率に対応する)。この例では、

である。

PPV=100%
【0133】
診断検査の陰性予測値(NPV)は、サインが陰性結果を提供する場合の、R状態の確率に対応する。これは、以下により算出される:

NPV=90%
【0134】
誤分類率を評価するため、参照により本明細書に組み入れられる、Michiels S, Koscielny S, Hill C: Prediction of cancer outcome with microarrays: a multiple random validation strategy. Lancet 365:488-492, 2005に従って、Michiels 31により記載されるアプローチを利用する。
【0135】
この方法により、平均誤分類率の決定が可能となり、対応する訓練セットサイズに応じて、検証セットにおける誤分類のこの割合がプロットされる(図2を参照されたい)。
【0136】
この方法は、データセットを、各結果の患者を少なくとも1名含む、異なるサイズ(試料5〜19例)の訓練セットに分割することに存する。残りの試料を検証セット(サイズ16〜2)と見なした。500の無作為訓練セットが、各試料サイズと関連づけられた。所与の訓練セットに関して、選択された遺伝子14種を用いてSVMにより分類子が構築され、指定の検証検査で試験された。図2に示されるように、最小の訓練セットを用いた場合でさえ、誤分類率はわずか25.6%(95 CI 19%〜33.8%)であり、>13の訓練セットでは誤分類率は7.5%以下であった。
【0137】
本発明者らはまず、いずれの1つの群による患者の少なくとも50%に存在すると判定された遺伝子のみを考慮した。残った遺伝子19,365個でデータ解析を行い、反応者患者を予測し得る発現プロファイルを決定した。「マイクロアレイの有意性解析」法(SAM28)を用いて、反応者と非反応者との間で差次的に発現される遺伝子を検出した。このアプローチによって、古典的分母に因子が付加されたスチューデントの統計量に対応するd-スコアが計算された。次に、このスコアおよび統計的有意性に従って遺伝子を分類した。20%の関連「偽発見率」(FDR)を有する一組の遺伝子もまた同定した。
【0138】
次に、受信者動作特性(ROC)曲線下の実験的面積(AUC)、および臨床的に関連のある偽陽性率の適切な範囲に限定された実験的部分AUC(pAUC)を計算することにより、SAM法の結果として選択された遺伝子を順位づけた29。pAUCは識別の指標であり、選択された偽陽性率の区間によって、反応者集団を特に良好に検出するために高特異度を考慮することが可能となる。次に、サポートベクターマシンアルゴリズムにより、分類規則が定義された30。カーネル関数(RBF)、およびソフトマージンの侵害に関するペナルティの大きさという、2つのパラメータが必要とされた。最後に、1個抜き交差検定(LOOCV)を用いて、出力クラス予測規則の性能および精度を評価した。LOOCVでは、1つの試料が抜き取られ、残りの試料を用いて予測因子分類子が構築され、これを用いて抜き取られた試料が分類される。
【0139】
実施例6
サイン由来の遺伝子14種の機能分類
サイン由来の遺伝子14種はすべて、反応者腫瘍において過剰発現された。これらの遺伝子は、耐性腫瘍と比較して感受性腫瘍において1.3〜160倍の発現増加という幅広い比率を示した。ジーンオントロジー分類によると、差次的に発現されるこれら遺伝子の機能クラスには、RNAスプライシング(U2AF1L2)、転写調節(ZNF32およびZNF582)、細胞接着(F8、ガレクチン-8、PSG9)、細胞分化(SERPINE2、BOLL)、イオン輸送(ATP5O)、シグナル伝達(DRD5)、発生(ANGPTL2)、および視覚認知(EML2)が含まれた。GOLGIN-67は、機能が未知である膜ゴルジタンパク質である。
【0140】
遺伝子14種のうち、3つの遺伝子、ガレクチン-8、PSG9、およびSERPINE2(またはPN-1)は、接着過程に関与すると考えられる。ガレクチン-8は、細胞外状況に応じて、細胞接着を正または負に調節するマトリクス細胞タンパク質である35。さらに、一連の結腸癌標本におけるガレクチン-8の免疫組織化学的発現の定量的決定から、広範囲に浸潤した結腸癌が、局所的浸潤結腸癌よりも有意に少ないガレクチン-8を示すことが明らかに示された36。結腸癌細胞によりインビボで異所的に上方制御されるPSG9は37、N末端ドメイン内の保存的領域内に、これらの遺伝子がインテグリンの接着認識シグナルとして機能する可能性があり、接着-認識過程に関与することを示唆するRGDモチーフを有する38。セリンプロテイナーゼ阻害剤SERPINE2は、結合組織マトリックスの完全性の維持に関与すると考えられる。SERPINE2は、腫瘍細胞媒介性の細胞外マトリックス破壊を阻害することが示されている39。2つの他の遺伝子、FVIIIおよびANGPTL2は、腫瘍血管新生を反映し得る。実際に、腫瘍内血管新生は通常、第VIII因子に対するモノクローナル抗体による免疫組織学的染色を用いる微小血管密度測定により定量される40。ANGPTL2タンパク質は血管内皮細胞の出芽を誘導し41、血管新生を促進する42。要するに、これらの結果は、反応者の腫瘍は、非反応者の腫瘍よりも接着性および血管新生化が高いようであるという考えを支持するものである。
【図面の簡単な説明】
【0141】
本特許の書類は、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面を含む本特許の複写は、請求および必要な手数料の支払いに応じて、米国特許商標庁によって提供される。
【図1】(A)教師なしクラスタリングおよび(B)主成分分析による遺伝子発現サインの解析を示す。 (A):各縦列は腫瘍試料を表し、各横列は遺伝子を表す。赤色および緑色は、それぞれ比較的高いおよび低い発現を示す。 (B):主成分分析(PCA)は、空間的次元の縮小に際して最大限のデータ情報を表す数学的手法を含む。この図は、3つの主成分のみによる情報の80%を提供する。
【図2】対応するトレーニングセットサイズに応じた、検証セットにおける誤分類の割合を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学療法に対するヒト結腸直腸癌患者の反応を予測する方法であって、該患者の腫瘍組織試料中の、LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583からなる群より選択される1種または複数種の遺伝子の発現を検出する段階を含み、該遺伝子発現が化学療法に対する該患者の反応を示す、方法。
【請求項2】
発現が2種またはそれ以上の遺伝子の発現である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
発現が3種またはそれ以上の遺伝子の発現である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
発現が4種またはそれ以上の遺伝子の発現である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
発現が5種またはそれ以上の遺伝子の発現である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
発現が6種またはそれ以上の遺伝子の発現である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
発現が7種またはそれ以上の遺伝子の発現である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
発現が8種またはそれ以上の遺伝子の発現である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
発現が9種またはそれ以上の遺伝子の発現である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
発現が10種またはそれ以上の遺伝子の発現である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
発現が11種またはそれ以上の遺伝子の発現である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
発現が12種またはそれ以上の遺伝子の発現である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
発現が13種またはそれ以上の遺伝子の発現である、請求項1記載の方法。
【請求項14】
遺伝子が、以下の群SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項15】
遺伝子が、以下の群ANGPTL2、ATP50、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
遺伝子が、以下の群ATP50、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
遺伝子が、以下の群PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
遺伝子が、以下の群EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
遺伝子が、以下の群F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
遺伝子が、以下の群U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
遺伝子が、以下の群U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
遺伝子が、以下の群DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される、請求項21記載の方法。
【請求項23】
遺伝子が、以下の群GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
遺伝子が、以下の群ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される、請求項23記載の方法。
【請求項25】
遺伝子が、以下の群PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される、請求項24記載の方法。
【請求項26】
遺伝子が、以下の群BOLLおよびZNF583より選択される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
化学療法が、イリノテカン、フルオロウラシル、およびロイコボリンのレジメンを患者に施す段階を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
化学療法が、オキサリプラチン、フルオロウラシル、およびロイコボリンの薬学的レジメンを患者に施す段階を含む、請求項1〜26のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
遺伝子LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583のうちのいずれか1種または複数種の発現を評価する段階が、患者の腫瘍組織試料中の該遺伝子に由来するタンパク質を検出する段階であって、該遺伝子発現が化学療法に対する該患者の反応を示す段階を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
以下の段階を含む、ヒト結腸直腸癌患者に対して化学療法レジメンを決定する方法:
a) 該患者の腫瘍組織試料から、以下の群LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される1種または複数種の遺伝子の発現を検出する段階であって、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す段階;ならびに
b) 該患者において、段階(a)に挙げた遺伝子のうちの1種または複数種が検出される場合に、イリノテカン、フルオロウラシル、およびロイコボリンを含むレジメンを該患者に施す段階。
【請求項31】
以下の段階を含む、ヒト結腸直腸癌患者に対して化学療法レジメンを決定する方法:
a) 該患者の組織試料から、以下の群LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される1種または複数種の遺伝子の発現を検出する段階であって、該遺伝子発現が化学療法に対する反応を示す段階;ならびに
b) 該患者において、段階(a)に挙げた遺伝子のうちの1種または複数種が検出されない場合に、オキサリプラチン、フルオロウラシル、およびロイコボリンを含むレジメンを該患者に施す段階。
【請求項32】
以下の段階を含む、ヒト結腸直腸癌患者に対して化学療法治療法を修正する方法:
a) 該患者に化学療法レジメンを施す段階;
b) 該患者の組織試料から、以下の群LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583より選択される1種または複数種の遺伝子の発現を検出する段階;ならびに
c) (b)で同定した1種または複数種の遺伝子が発現される場合に、イリノテカン、フルオロウラシル、およびロイコボリンを投与するか、または(b)で同定した1種または複数種の遺伝子が発現されない場合に、オキサリプラチン、フルオロウラシル、およびロイコボリンを投与する段階。
【請求項33】
化学療法に対するヒト転移性結腸直腸癌患者の反応を検出する段階を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
薬学的レジメンが、イリノテカン、フルオロウラシル、およびロイコボリンを患者に投与する段階を含む、請求項30〜32のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
薬学的レジメンが、オキサリプラチン、フルオロウラシル、およびロイコボリンを患者に投与する段階を含む、請求項30〜32のいずれか一項記載の方法。
【請求項36】
ヒト結腸直腸癌患者に対して、いくつかの代替的治療選択肢から最適な化学療法を選択するために用いるためのキットであって、
a. 以下の遺伝子LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583のうちの1種または複数種の発現を評価するために、該ヒトの試料に由来するmRNAを検出するためのマイクロアレイ;ならびに
b. 該マイクロアレイを使用する方法を記載した使用説明書
を含むキット。
【請求項37】
マイクロアレイが遺伝子チップである、請求項36記載のキット。
【請求項38】
ヒト結腸直腸癌患者に対して、いくつかの代替的治療選択肢から最適な化学療法を選択するために用いるためのキットであって、
a. 以下の遺伝子LGALS8、SERPINE2、ANGPTL2、ATP50、PRYM、EML2、F8、U2AF1L2、DRD5、GOLGIN-67、ZNF32、PSG9、BOLL、およびZNF583のうちの1種または複数種の発現を評価するために、該ヒトの試料に由来するタンパク質を検出するためのウェスタンブロットキット;ならびに
b. 該ウェスタンブロットキットを使用する方法を記載した使用説明書
を含むキット。
【請求項39】
ヒト転移性結腸直腸癌患者に対して、いくつかの代替的治療選択肢から最適な化学療法を選択するために用いるための、請求項36〜38のいずれか一項記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−528061(P2009−528061A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−557349(P2008−557349)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【国際出願番号】PCT/US2007/005176
【国際公開番号】WO2007/100859
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(508259478)ファイザー プロダクツ インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】