説明

転造ネジ加工方法

【課題】潤滑性の良好な非塩素系の潤滑油を使用しながら、特殊な回転数によらずネジ山頂部の凹みが小さいネジを製造することができる転造ネジ加工方法を提供する。
【解決手段】(A)基油に(B)塩基性カルシウムスルホネートを0重量%を超え1.5重量%以下含有する非塩素系の潤滑油を使用して、回転数100〜300rpmにて加工する。または、(A)基油に(B)塩基性カルシウムスルホネートを2.0〜2.5重量%含有する非塩素系の潤滑油を使用して、回転数180rpm以上にて加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転造ネジ加工用として好適に配合された非塩素系の潤滑油を使用した転造ネジ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料を加工する方法としては、転造加工、切削加工、研削加工、鍛造加工、プレス加工、引き抜き加工、および圧延加工などがある。その際、工具の磨耗や欠損を防ぎ、かつ金属材料の加工精度や品質向上などのために潤滑油が使用される。したがって、このような潤滑油には主として高い潤滑性が要求される。このことは、転造によりネジ山を形成する場合でも同じである。従来は、金属材料の加工の際に使用される潤滑油として、潤滑性や耐焼付性などに優れている塩素系潤滑油が使用されることが多かった。しかし、塩素系潤滑油を使用すると、加工時あるいは経時的にその中に含まれる塩素系添加剤成分が分解して金属材料や工具が錆びる、焼却処理時にダイオキシンなどの有害物質が発生して環境に悪い、および焼却炉が腐食・損傷して寿命が短くなるなどの問題が指摘されている。したがって、塩素系の添加剤を含有せず、しかも塩素系潤滑油と同等又はそれ以上の潤滑性を有する金属材料加工用潤滑油が望まれている。ここで、転造加工において高い潤滑性等を有する非塩素系の潤滑油として、特許文献1ないし特許文献4が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭57−42797号公報
【特許文献2】特開平11−181458号公報
【特許文献3】特開2001−348588号公報
【特許文献4】特開2006−249369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、転造加工によりネジを製造する場合、転造工具を回転させて被加工材料を塑性成変形させることでネジ山及びネジ溝を形成している。例えば雌ネジを製造するには、転造タップを回転させてネジ下穴の内周面を塑性変形させ、図1に示すようなネジ山1を隆起させている。このとき、ネジ山1は褶曲作用によって転造工具の形状に沿って周りの素材が寄り集まるように隆起してくるので、図1に示すごとくネジ山1の頂部2には寄り集まり切らなかった陥没状の凹み3が形成されることが多い。そうすると、頂部2の機械的強度が弱くなり、雄ネジとの締結時に頂部2が欠ける心配がある。そのうえ、締結時に頂部2が欠けた破片がネジの嵌め合い部(雄ネジのフランクと雌ネジのフランク4との間)に噛み込まれると、締付結トルクと軸力のバランスが崩れて軸力(締結力)が低下したり、焼付きによる取り外し作業が困難となる問題もある。また、締結時の円滑な摺動や確実な締結力を担保するため、雌ネジと雄ネジのフランク角度は同一に設計されている(JIS B0205に規定する一般用メートル並目ネジでは60°)が、ネジ山頂部2の凹み3が大きいとフランク角度やネジ山の高さ寸法に誤差が生じる危険性もある。このような問題は、凹み3が大きければ大きいほど重大であり、潤滑油の潤滑性と共に転造回転数も大きく影響する。
【0005】
これに対し、特許文献1〜4には転造加工にも好適に使用できる潤滑油が提案されているものの、これらはネジ山を形成する際の転造用として開発されたものではない。したがって、これらの潤滑油は高い潤滑性を有するものの、転造によるネジ山は褶曲作用によって隆起してくるので、潤滑性が高すぎると反って褶曲作用が生じ難くなり、ネジ山頂部の凹み寸法も大きくなる傾向にある。しかも、ネジ山の隆起(高さ)寸法及び凹み寸法は転造時の回転数も影響するが、特許文献1〜4では転造回転数については特に着目しておらず、これにより形成されるネジ山頂部の凹みの大きさについても特に検討していない。
【0006】
しかし、ネジ山頂部の凹みを小さくするために、一般的にはあまり実施しないような特殊な回転数により転造するのでは現実的ではない。すなわち、転造時の回転数が低すぎると生産性が悪く、回転数が高すぎるとコスト増や工具及び加工材料の欠損が多くなり歩留まりが悪化することが懸念される。したがって、特殊な回転数とせずとも、ネジ山形成に適した潤滑性を担保しながらネジ山頂部の凹みをできるだけ小さくできる転造方法が求められる。
【0007】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、潤滑性の良好な非塩素系の潤滑油を使用しながら、特殊な回転数によらずネジ山頂部の凹みが小さいネジを製造することができる転造ネジ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の転造ネジ加工方法は、(A)基油と、(B)塩基性カルシウムスルホネートとを有し、前記(B)成分を0重量%を超え1.5重量%以下含有する非塩素系の潤滑油を使用して、回転数100〜300rpmにて加工することができる。
【0009】
また、本発明の別の転造ネジ加工方法は、(A)基油と、(B)塩基性カルシウムスルホネートとを有し、前記(B)成分を2.0〜2.5重量%含有する非塩素系の潤滑油を使用して、回転数180rpm以上にて加工することができる。
【0010】
被加工材としては、低炭素鋼であることが好ましい。使用する潤滑油は、前記(A)成分と(B)成分に加え、(C)油性剤と(D)硫黄系極圧剤とを含んでなり、前記(C)成分を1〜5重量%含有し、前記(D)成分を10〜20重量%含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、非塩素系の潤滑油を使用するので、環境に優しく工具や焼却炉の耐年数が短くなることも避けられる。そのうえで、転造ネジ加工用に適した配合としているので、特殊な回転数とすることなく良好な潤滑性を保ちながら、ネジ山頂部の凹み、具体的にはその幅寸法L(図1参照)を0.3mm以下に小さくできる。すなわち、潤滑油が基油(A)に対して塩基性カルシウムスルホネート(B)を0重量%を超え1.5重量%以下含有していれば、一般的な回転数100〜300rpmにて転造加工しても、ネジ山頂部の凹みの幅寸法Lを0.3mm以下に留めることができる。また、潤滑油が基油(A)に対して(B)成分を2.0〜2.5重量%含有していれば、回転数180rpm以上にて転造加工してもネジ山頂部の凹みを0.3mm以下に留めることができ、生産速度を上げることができる。良好な潤滑性を有していれば、ネジ山の表面粗度も良好になる。
【0012】
ネジ加工の被加工材として低炭素鋼を使用していれば、中炭素鋼や高炭素鋼と比べて伸びが良いので、より精度良いネジ山を形成できる。潤滑油に油性剤(C)と硫黄系極圧剤(D)を適量添加しておけば、潤滑油の性状がより向上する。また、このような比較的簡素な組成としていれば、潤滑油に種々の特性を担持させようと複雑な組成とした場合に、ネジの品質は向上できるが反ってネジ山頂部の凹みが大きくなるような危険性を避けられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[潤滑油について]
本発明の潤滑油は、転造ネジ加工に適した組成となっており、基本的には潤滑油の主体成分たる基油(A)と、潤滑剤としての塩基性カルシウムスルホネート(B)とを含んでいる。
【0014】
(A)基油
基油の種類は特に限定されず、例えば鉱油や合成油など、金属材料加工で一般的に使用されているものを広く使用できる。これらは単独で用いてもよいし混合して用いてもよい。鉱物油としては、原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫黄洗浄、白土処理などの処理を1つ以上行って精製したものが挙げられる。合成油としては、ポリα−オレフィン、α−オレフィンコポリマー、ポリブテン、アルキルベンゼン、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、シリコーンオイル等が挙げられる。
【0015】
(B)塩基性カルシウムスルホネート
カルシウムスルホネートはアルカリ土類金属のスルホン酸塩の一種であり、例えば石油留出成分中の芳香族成分をスルホン化して得られる石油スルホン酸、または、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸等の合成スルホン酸のCa塩等を挙げることができる。本発明では塩基性カルシウムスルホネートを使用している。塩基性カルシウムスルホネートは、中性カルシウムスルホネートに対して過剰量の水酸化カルシウムを添加してその後炭酸ガスを吹き込むことによって生成される。当該塩基性カルシウムスルホネートを基油に添加することにより、転造ネジ加工に適した良好な潤滑性を担保しながら、ネジ山頂部に生じる凹みを0.3mm以下にできる。カルシウムスルホネートの塩基価(TBN)は、250mgKOH/g以上が好ましく、より好ましくは280mgKOH/g以上である。塩基価が250mgKOH/g未満であると、良好な潤滑性を担保できないおそれがある。塩基性カルシウムスルホネートは、1種類を単独で用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。
【0016】
塩基性カルシウムスルホネートは、転造時の回転数に応じた適量を添加する。具体的には、回転数100〜300rpmにて転造加工する場合は0重量%を超え1.5重量%以下とし(潤滑油X)、回転数180rpm以上にて転造加工する場合は2.0〜2.5重量%(潤滑油Y)とする。100〜300rpmでの転造加工時に塩基性カルシウムスルホネートの含有量が1.5重量%を超えていたり、180rpm以上での転造加工時に塩基性カルシウムスルホネートの含有量が2.5重量%を超えていたりすると、潤滑性が高くなり過ぎてネジ山頂部の凹みが比較的大きくなってしまう。但し、この場合でもJIS2級(0.5mm以下)を満たすネジ山を形成することは可能なので、製品としては使用できる。塩基性カルシウムスルホネートを添加していなかったり、180rpm以上での転造加工時に塩基性カルシウムスルホネートの含有量が2.0重量%未満であると、良好な潤滑性を担保できず、表面粗度や耐焼付性も低下する。
【0017】
また、潤滑油の基油には上記(B)成分に加えて、本発明の目的を阻害しない範囲で、例えば油性剤、硫黄系極圧剤、粘度調整油、防錆剤、酸化防止剤、防食剤、着色剤、消泡剤、香料等の各種公知の添加物を適宜配合することができる。但し、多数の添加剤を添加した複雑な組成すると、ネジの品質や潤滑油の性状自体は向上できるが、反面ネジ山頂部の凹みが大きくなる危険性を有する。そこで、転造ネジ加工用として最低限の潤滑油特性を担保させた組成とすることが好ましく、上記各添加剤の中でも、油性剤と硫黄系極圧剤とを添加する程度の簡素な組成とすることが好ましい。
【0018】
(C)油性剤
油性剤としては、エステル基を有した各種合成エステル化合物のほか、牛脂、豚脂、アマニ油、サフラワー油、大豆油、ごま油、コーン油、菜種油、綿実油、オリーブ油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、及びこれらの水素化物等が使用できる。油性剤は潤滑油を調性するものでなので、その含有量は転造時の回転数に関係なく1〜5重量%程度であればよい。エステル化合物としては、例えばカプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ウンデシレン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアロール酸、ノナデカン酸、アラキン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸、ナフテン酸、アビエチン酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、トリメリット酸、ラノリン脂肪酸、アルケニル琥珀酸、酸化ワックス等のカルボン酸と各種のアルコール類から合成されたエステル化合物を挙げることができる。
【0019】
エステル化合物の合成に採用されるアルコール類としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、カプリルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール、ネオペンチルグルコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセリン、ポリアルキレングリコール等を挙げることができる。
【0020】
(D)硫黄系極圧剤について
硫黄系極圧剤は硫黄原子により極圧効果を発揮するものであり、例えば硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ポリサルファイド類、チオカーバメート類、硫化鉱油、ZnDTPなどを挙げることができ、これらのうち1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。具体的には、硫化油脂は硫黄と油脂(ラード油,鯨油,植物油,魚油等)を反応させて得られるものであり、硫化ラード、硫化なたね油、硫化ひまし油、硫化大豆油などを挙げることができる。硫化脂肪酸としては硫化オレイン酸などを、硫化エステルの例としては、硫化オレイン酸メチルや硫化米ぬか脂肪酸オクチルなどを挙げることができる。ポリサルファイド類としては、ジベンジルポリサルファイド、ジ−tert−ノニルポリサルファイド、ジドデシルポリサルファイド、ジ−tert−ブチルポリサルファイド、ジオクチルポリサルファイド、ジフェニルポリサルファイド、ジシクロヘキシルポリサルファイドなどを挙げることができる。チオカーバメート類としては、ジンクジチオカーバメート、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネートなどを挙げることができる。硫化鉱油は鉱油に単体硫黄を溶解させたものである。
【0021】
この(D)成分の含有量は、転造時の回転数に関係なく10〜20重量%、好ましくは12〜18重量%とする。(D)成分の含有量が10重量%未満であると、有効に極圧効果を発揮することができなくなる。一方、(D)成分の含有量が20重量%を超えると、被加工物にシミや錆びなどが発生したり、潤滑性が高くなり過ぎたりするおそれがある。
【0022】
このように、(A)成分と(B)成分、及び必要に応じて(C)成分や(D)成分などを有する潤滑油Xや潤滑油Yを、回転数に応じて適宜選択使用できる。このとき、潤滑油X及び潤滑油Yの40℃動粘度は、10〜20mm/sが好ましく、12〜18mm/sがより好ましい。
【0023】
[転造加工について]
転造加工は、転造タップを用いて下穴の内周面を塑性変形させ、褶曲作用によって転造工具の形状に沿って周りの素材が寄り集まるように隆起させる周知の方法により行えばよい。このときのネジ山とその頂部の凹みの形成原理は先に説明したとおりである。被加工物たるネジ材料は、低炭素鋼とすることが好ましい。炭素鋼には炭素含有量が約0.3mass%以下の低炭素鋼、約0.3〜0.7mass%の中炭素鋼、約0.7mass%以上の高炭素鋼があるが、炭素含有率が上昇するにしたがって硬度が高くなるが脆くなる傾向がある。反面、炭素含有率が低いと、伸びや絞りが良好である。したがって、材料を塑性変形させる転造ネジ加工においては、低炭素鋼が好ましい。そのうえで、転造ネジ加工に当たって、その回転数に応じて的確に配合した上記潤滑油を使用することで、ネジ山頂部の凹みを小さくすることができる。
【0024】
転造加工は、一般的に回転数100〜300rpm程度で行われるが、回転数はネジ山頂部の凹み形成に大きく影響する。つまり、同じ潤滑油を使用していても、その回転数によってネジ山頂部の凹みの大きさも変わってくる。したがって、ネジ山頂部の凹みを小さくしたい場合は、潤滑油の特性を改良するのみでは足りず、回転数も調整することが必要となる。しかし、一般的に行われていない回転数により転造加工するのでは種々の問題が生じ得る。そこで本発明の潤滑油は、一般的な回転数による転造加工に合わせて適切に配合された潤滑油を使用することで、特殊な回転数とすることなくネジ山頂部の凹みを小さくできる点が注目される。具体的には、比較的回転数の低い100〜300rpmで転造加工する場合は、塩基性カルシウムスルホネートとを0重量%を超え1.5重量%以下含有する潤滑油Xを使用し、比較的回転数の高い180rpmで転造加工する場合は、塩基性カルシウムスルホネートとを2.0〜2.5重量%含有する潤滑油Yを使用すればよい。潤滑油Yを使用して転造加工する場合の回転数の上限は特に限定されないが、好ましくは400rpm程度、より好ましくは300rpm程度とすればよい。
【0025】
ここで、JIS2級ではネジ山頂部の凹みの幅寸法が0.5mm以下と規定されている。よって、特に品質を考慮しなければ、凹みの幅寸法が0.5mm以下であればネジ製品としては成り立つ。なお、凹みの幅寸法が大きければ、これに伴いその深さも深くなる。したがって、凹みの幅寸法が大きければ、凹み自体も大きいことになる。しかし、品質の良いネジとするには、ネジ山頂部の凹みができるだけ小さい方が好ましい。例えば凹みの幅寸法が0.5mmに近ければ、基本的には使用に際して大きな不都合がなくても、時には締結不良が生じることもあった。このことは、一般家庭で使用する場合には大きな問題とはなくても、例えば自動車部品など高い精度が求められる部品として使用する場合には信頼性が低い。これに対し、ネジ山頂部の凹みの幅寸法を0.3mm以下にできれば、締結不良の可能性を極めて下げることができる。これは、本発明者らの経験上からも実証されている。そのうえで、転造時の回転速度に応じて、これに適した潤滑性を有する潤滑油Xと潤滑油Yとを適宜使い分けることで、ネジ山頂部の凹みの幅寸法を0.3mm以下とすることができる。
【0026】
(実施例)
<潤滑性試験>
まず、表1に示す組成からなる各潤滑油を使用して、種々の回転数(具体的には100rpm、140rpm、170rpm、200rpm、280rpm)によって、転造加工したときのトルクを計測した。その結果を図2に示す。なお、ここでは塩基価280mgKOH/gの塩基性カルシウムスルホネートを使用した。また、潤滑油3が先の潤滑油Xに相当し、潤滑油4が先の潤滑油Yに相当する。
【0027】
このときの転造加工は次の条件により行った。
転造加工装置:日立精工製マニシングセンタ VG45型
タップ:3/4−16UNF RH11―P 7558 OSG HSSE UD−8117−6
ワーク:材料;SOHE−P 下孔径;80mm 長さ;5mm
トルク測定機:日本キスラー製 タップ加工用4成分動力計9272
【0028】
【表1】

【0029】
図2の結果から、塩素系の潤滑油1や塩基性カルシウムスルホネートを含有していない潤滑油2に比べて塩基性カルシウムスルホネートを含有する潤滑油3及び潤滑油4の方が、どのような回転数でもトルクが低かった。これにより、潤滑油に塩基性カルシウムスルホネートを添加すると、潤滑性を向上できることがわかる。また、潤滑油3と潤滑油4とを対比すると、塩基性カルシウムスルホネートの含有量が多い方がトルクが低かった。これにより、塩基性カルシウムスルホネートの含有量が多い方が、潤滑性が高いことがわかる。なお、回転数が増すにつれてトルクが低くなる傾向にあることがわかった。
【0030】
<凹み大きさ>
次に、先の潤滑性試験によって製造された各ネジ山頂部の凹みの幅寸法L(図1参照)を測定した。その結果を図3に示す。
【0031】
図3の結果から、塩基性カルシウムスルホネートを含有していない潤滑油1及び潤滑油2の方が、塩基性カルシウムスルホネートを含有する潤滑油3及び潤滑油4と比べて、どのような回転数でも凹みの幅寸法Lが小さいことがわかる。これにより、ネジ山頂部の凹みを小さくするには敢えて潤滑油の潤滑性が低い方が好ましいことがわかる。これは、転造加工が褶曲作用による塑性変形であることに由来する。しかし、潤滑性が低いと加工自体を円滑に行えなくなる。これに対して潤滑油3では、どのような回転数でもネジ山頂部の凹みの幅寸法Lが0.3mm以下となっており、良好な潤滑性を有しながらも凹みが小さく精度良いネジ山を形成できることがわかる。すなわち、潤滑油Xによれば一般的な回転速度でも精度良いネジ山を形成できることがわかる。一方、潤滑油4では、回転数100rpm、140rpm、及び170rpmでは凹みの幅寸法Lが0.3mmを超えていたことに対し、回転数200rpm及び280rpmでは凹みの幅寸法Lが0.3mmを下回っていた。これにより、潤滑油Yの場合は、回転数180rpm程度以上で転造加工すれば、精度良いネジ山を形成できることがわかる。また、潤滑油4より塩基性カルシウムスルホネート含有率の低い潤滑油3の方が凹みを小さくできる結果から、回転数100〜300rpmで転造加工する場合、潤滑油の塩基性カルシウムスルホネート含有率は1.5重量%程度以下とすればよいことが導きだせる。一方、回転数180rpm以上で転造加工する場合は、2.0〜2.5重量%程度とすればよいことも導きだせる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ネジ山の断面図である。
【図2】回転数とトルクの関係を示すグラフである。
【図3】回転数と凹みの幅寸法との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0033】
1 ネジ山
2 ネジ山の頂部
3 ネジ山頂部の凹み
4 フランク
L 凹みの幅寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)基油と、(B)塩基性カルシウムスルホネートとを有し、
前記(B)成分を、0重量%を超え1.5重量%以下含有する非塩素系の潤滑油を使用して、
回転数100〜300rpmにて加工する転造ネジ加工方法。
【請求項2】
(A)基油と、(B)塩基性カルシウムスルホネートとを有し、
前記(B)成分を2.0〜2.5重量%含有する非塩素系の潤滑油を使用して、
回転数180rpm以上にて加工する転造ネジ加工方法。
【請求項3】
被加工材が低炭素鋼である請求項1または請求項2に記載の転造ネジ加工方法。
【請求項4】
前記(A)成分と(B)成分に加え、(C)油性剤と(D)硫黄系極圧剤とを含んでなり、
前記(C)成分を1〜5重量%含有し、前記(D)成分を10〜20重量%含有する潤滑油を使用して加工する、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の転造ネジ加工方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−50899(P2009−50899A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−221012(P2007−221012)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(000115083)ユシロ化学工業株式会社 (69)
【Fターム(参考)】