説明

軸シール構造とそれを用いたポンプ装置

【課題】リップ付きシールを逆姿勢で使用してリリーフ機能をもたせるシール部におけるシールリップ先端の径方向内側への変位を防止してそのシール部のリリーフ圧を安定させることを課題としている。
【解決手段】環状固定部5の径方向内端に、軸方向に延び出すリップ6を設け、そのリップを弾性体7で加圧して軸穴2に通された軸3の外周面に押し付けて軸穴2の内周面と軸3の外周面との間をシールする軸シール構造において、前記リップ付きシール4を、環状固定部5が液室8側に、リップ先端が大気開放部9側にそれぞれ位置する姿勢に配置し、さらに、リップ6の先端を支えてリップ先端の径方向内側への変位を規制する姿勢保持部材11を備えさせた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、相対運動を生じる部材間の隙間、例えば、回転軸とそれを貫通させた部材との間の隙間をシールする軸シール構造とそれを用いたポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキ液圧制御装置に用いる動力駆動のポンプ装置として、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。また、往復運動するロッドやピストンなどの外周シールに用いるシール構造体が下記特許文献2に開示されている。
【0003】
上記特許文献1のポンプ装置では、ポンプロータを回転させる駆動軸(回転軸)とそれを貫通させたハウジングとの間の隙間をシールする流体シール(オイルシール)として、リップ付きシールが逆姿勢にして用いられている。
【0004】
ここで言う逆姿勢とは、軸方向に延びだすリップの基端を液室側に、そのリップの先端を前記液室から隔される大気開放部側に配置する姿勢である。この逆姿勢の配置は、正姿勢(逆姿勢とは反対向きの姿勢)での使用に比べると液室からの液体の洩れ防止が難しいが、液室の圧力が所定値を越えて高まったときにリリーフ機能が得られることから、あえてその逆姿勢で使用することがある。
【0005】
上記特許文献1のブレーキ液圧制御装置に用いられているポンプ装置は、ハウジング内の吸入室(これはポンプの吸入口に通じている)に導入されるブレーキ液の外部への洩れを防止するために、前記吸入室と大気開放部との間に第1シール部と第2シール部を併設して2重シールを行っている。
【0006】
第2シール部は、第2シール部にポンプ吸入口の圧力が直接加わらないように吸入室と中間室(液室)との間をシールする。中間室は第1シール部と第2シール部間に設けられている。その第2シール部からブレーキ液が洩れた場合、そのブレーキ液は中間室に溜まる。その中間室からの大気開放部へのブレーキ液の洩れを第1シール部によって規制するようにしている。
【0007】
なお、吸入室は、ブレーキ液圧の制御状況に応じて変動し、正圧になったり、負圧なったり、大気圧になったりする。
【0008】
特許文献2に開示されたシール構造体は、U形シール材の凹溝に弾性体を挿入し、その弾性体の力で、内周リップ部をロッドやピストンなどの往復運動する部材の外周に、外周リップ部を流体機器の内周にそれぞれ押し付けている。また、前記凹溝の開口端を閉鎖する環状蓋材を設け、その環状蓋材に形成された突出部を凹溝に差し込んで前記弾性体を凹溝の奥部側へ押圧している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−278086号公報
【特許文献2】特開2009−299787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
逆姿勢で使用されるリップ付きシールについては、洩れだそうとする液体の圧力が、リップに対してそのリップをシール相手から引き離す方向に作用するので、リップをリップと軸との締代による緊迫力と弾性体(ガータースプリングが一般的)の力で加圧してシール相手に押し付ける方法が通常採られている。
【0011】
ところが、リップを弾性体で加圧したものは特に、リップの疲労によるクリープ変形(いわゆるへたり)が起こり易く、そのクリープ変形によりリップの先端(自由端)が径方向内側に変位し、それに伴う弾性体の縮径、それによる締付け力の低下によりリリーフ圧(開弁圧)の低下、それによる液洩れ防止機能の低下の問題が起こる。
【0012】
また、液室の圧力が大気圧よりも高まるとその圧力を受けてリップの基端側が膨らむように変形し、これにより、弾性体が大気開放部側に押し動かされるため、クリープ変形が生じていなくてもリップ先端の径方向内側への変位、それに伴う弾性体の縮径が生じることがあり、これによるリリーフ圧の低下と液洩れ防止機能の低下の問題が起こる。
【0013】
なお、上記特許文献2は、リップの先端側に凹溝の開口端を閉鎖する環状蓋材を設けているが、その環状蓋材には、内側に倒れようとする内周リップ部を受け止める機能がない。従って、この構造では、内周リップ部の径方向内側への変位(いわゆる倒れ)を阻止することができない。
【0014】
この発明は、リップ付きシールを逆姿勢で使用してリリーフ機能をもたせるシール部で問題となっているリップ先端の径方向内側への変位を防止してそのシール部のリリーフ圧を安定させることを課題としている。リリーフ圧が安定すれば液洩れ防止機能も安定する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するため、この発明においては、リップ付きシールを逆姿勢にして用いる軸シール部に以下の軸シール構造を適用する。
具体的には、軸穴の内周面に固定される環状固定部の径方向内端に、基端が前記環状固定部に連なり、その基端から自由端となる先端が軸方向に延び出すリップを設け、そのリップの外周に、当該リップを径方向内側に加圧して前記軸穴に通された軸の外周面に押し付ける弾性体を装着したリップ付きシールを用いて前記軸穴の内周面と前記軸の前記リップが摺接する外周面との間をシールする軸シール構造に以下の構成を加えた。すなわち、前記リップ付きシールの前記環状固定部を液室側に、前記リップの先端を大気開放部側にそれぞれ配置されたリップ付きシールのリップの先端を支えてリップ先端の径方向内側への変位を規制する姿勢保持部材を備えさせ、さらに、前記リップの先端面に、リップ先端が径方向内側に向けて変位するときに軸方向変位を伴う面を含ませ、その面を含む前記リップの先端面を前記姿勢保持部材に形成した第1当接部に当接させてリップ先端の径方向内側への変位を規制するようにした。
【0016】
かかる軸シール構造の好ましい形態を以下に記す。
(1)前記リップの先端部を、前記姿勢保持部材の組み付けが完了した位置でその姿勢保持部材から離間させたもの。
(2)前記リップ付きシールに補強環を含ませ、その補強環を前記リップの先端よりもリップの延出方向に突出させ、前記リップの先端が前記姿勢保持部材から離間した位置で前記補強環に前記姿勢保持部材を当接させたもの。
(3)前記姿勢保持部材に、前記リップの先端側外周面が当接する第2当接部を具備させ、その第2当接部でリップ先端の径方向外側への変位を規制するようにしたもの。
【0017】
この発明は、上記のシール構造とともに、下記のポンプ装置も併せて提供する。
そのポンプ装置は、軸穴を有するハウジングと、そのハウジングに内蔵された液体汲み上げ用のポンプと、前記軸穴に組み込まれて前記ポンプを駆動する回転軸と、前記軸穴と前記回転軸との間の隙間を閉じて前記ハウジング内のポンプ口に通じた吸入室を大気室から区画する第1シール部を有する。
また、前記第1シール部が上述したこの発明の軸シール構造を有し、前記リップ付きシールが、当該シールのリップ先端が前記大気室側に、環状固定部が前記吸入室側にそれぞれ置かれる向きにして前記回転軸の外周面と前記軸穴の内周面との間に装着されたものになっている。
【0018】
かかるポンプ装置は、前記吸入室と大気室との間に、中間室と、この中間室と前記吸入室との間で前記軸穴の内周面と前記回転軸の外周面との間をシールする第2シール部が設けられ、リップ付きシールを用いて形成されるこの発明のシール構造を有する前記第1シール部が、前記中間室と前記大気室との間に配置された構造にすると、前掲の特許文献1が開示しているようなブレーキ装置に、動力駆動の液圧源として採用することができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明のシール構造は、リップ付きシールのリップ先端部に当接してリップの倒れ(径方向内側への変位)を規制する姿勢保持部材を設けたので、リップの疲労や液圧による倒れが抑制され、その倒れに起因した弾性体の変位、それに伴う弾性体の縮径が起こり難くなる。
【0020】
また、リップの先端面に、リップ先端が径方向内側に向けて変位するときに軸方向変位を伴う面を含ませ、その面を含むリップの先端面を姿勢保持部材に形成した第1当接部に当接させてリップ先端の径方向内側への変位を規制しており、このことによって、リップの先端面が第1当接部に当接すると、それ以後はリップ先端の軸方向移動が許容されなくなる。そのために、リップの径方向内側への移動も阻止され、姿勢保持部材によるリップの倒れ防止が効果的になされる。これにより、弾性体による締付け力の変動が抑制されてリリーフ圧が安定し、液体の洩れ防止の信頼性も維持される。
【0021】
なお、リップの先端を、姿勢保持部材の組み付けが完了した位置でその姿勢保持部材から離間させたものは、離間部の隙間によってリップの先端に径方向への動きの自由度が付与され、軸の外周面に対するリップの密着状態が維持され易くなる。
【0022】
外周をシールする軸が回転軸であると、回転に伴う外周面の径方向への微小変位が不可避的に起こる。リップの先端に径方向への動きの自由度が有ればその微小変位に対してリップ先端が良好に追従し、これにより、軸の外周面に対するリップの密着状態が安定する。従って、このこともリリーフ圧の安定化と液洩れ防止の信頼性向上に役立つ。
【0023】
また、リップ付きシールに補強環を含ませ、その補強環をリップの先端よりも大気開放部側に突出させ、リップの先端が前記姿勢保持部材から離間した位置で前記補強環に前記姿勢保持部材を当接させたものは、前記補強環の大気開放部側への突出量によって離間部の隙間の大きさを調整することができる。
【0024】
姿勢保持部材の組み付けが完了した位置でリップの先端と姿勢保持部材との間に生じさせる離間部の隙間は、大きすぎるとリップの倒れ防止の効果が薄れ、小さすぎるとリップ先端の径方向動きの自由度が小さくなるためシビアな調整が必要になるが、そのシビアな調整を、補強環を利用して確実に行うことが可能である。
【0025】
さらに、前記姿勢保持部材に、リップの先端側外周面が当接する第2当接部を具備させたものは、リップ先端の径方向外側への変位を第2当接部で規制することができる。液室に発生した液圧などがきっかけになってリップが姿勢保持部材に押し付けられると、姿勢保持部材がリップの倒れを規制するため、リップ先端は逃げ場が無くなって径方向外側に膨らもうとする。その膨らみ(外周面変位)を第2当接部で規制することで軸の外周に対するリップの押し付け圧の低下を抑えることができ、このこともリリーフ圧の安定化に有効に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の軸シール構造の一例を示す断面図
【図2】この発明の軸シール構造の他の例を示す断面図
【図3】この発明の軸シール構造のさらに他の例を示す断面図
【図4】図3の軸シール構造の姿勢保持部材に第2当接部を設けた例を示す断面図
【図5】姿勢保持部材をリップ付きシールに装着した例を示す断面図
【図6】姿勢保持部材をリップ付きシールに装着した状態の他の例を示す断面図
【図7】図5の軸シール構造の姿勢保持部材に第2当接部を設けた例を示す断面図
【図8】図5の軸シール構造の姿勢保持部材にダストリップを設けた例を示す断面図
【図9】図7の軸シール構造の姿勢保持部材にダストリップを設けた例を示す断面図
【図10】この発明の軸シール構造を採用したポンプ装置の一例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の軸シール構造とそれを用いたポンプ装置の実施の形態を、添付図面の図1〜図10に基づいて説明する。
【0028】
図1は、軸シール構造の一例であって、部材1に設けられた軸穴2に軸3が通されている。軸3は回転軸と軸方向に往復運動する軸の2者が考えられる。ここでは、その軸3が回転軸であると考えて以下の説明を行なう。
【0029】
保持部材1に設けられた軸穴2と軸穴2に通された軸3との間にリップ付きシール4が設置され、そのリップ付きシール4によって軸穴2の内周面と軸3の外周面との間がシールされる。
【0030】
リップ付きシール4は、軸穴2の内周面に固定される環状固定部5と、この環状固定部5の一面側(大気開放部9に対面させる側の軸方向端面)の径方向内端に設けられたリップ6と、リップ6の外周に装着される弾性体7とで構成されている。このリップ付きシール4の環状固定部5は、弾性材料で形成された本体部5aに、冷間圧延鋼などで形成される補強環5b(これは必要に応じて設けられる)の一部を埋設してなる。
【0031】
このリップ付きシール4のリップ6は、本体部5aと同一材料を用いて本体部と一体に形成されている。このリップ6は、基端6aが本体部5aに連なり、その基端6aから自由端となる先端が軸方向に延び出している。このリップ6の先端面6bは、組み付けの初期状態おいて実質的に軸直角をなす面にしている。
【0032】
また、その先端面6bには、リップ6が倒れてリップ先端が径方向内側に向けて変位するときに軸方向変位を伴う面Eを含ませている。図1では、弾性体7の内径よりも径方向外側にある領域が、ここで言う軸方向変位を伴う面Eとなっている。
【0033】
リップ6の先端面6bのうち、弾性体7の内径よりも径方向内側にある部分は、リップ6が径方向内側に向けて倒れると弾性体7がリップ先端側に変位するため、軸直角向きに押し下げられ、実質的な軸方向変位が生じない。
【0034】
リップ6には、その内径側に、軸方向断面(シールの軸心を通る平面に沿って切断した断面)における形状が山形をなす摺接部が内向きに突出して設けられており、その摺接部の頂点6cが弾性体7による締付け力で軸3の外周面に押し付けられて軸3の外周とリップ付きシール4との間がシールされる。
【0035】
環状固定部5の本体部5aとリップ6は、一般的な流体シールと同様の弾性材料で形成されている。例えば、フッ素ゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴムなどの合成ゴムや、TPE,ゴム−プラスチックやゴム−充填材の複合材料などである。
【0036】
弾性体7は、ここでは、ガータースプリングを採用したが、そのガータースプリングに限定されない。リップ6を径方向内側に向けて締め付け得るものであればよく、リップ6と一体、或いは別体のゴムリングや、リング状のクリップばねなども利用できる。
【0037】
その弾性体7は、中心Oをリップ6の摺接部の頂点6cよりもリップ6の先端側(図1において右方)に偏らせている。この配置も、リップ付きシールを逆姿勢で使用するときの液洩れ抑制に有効である。
【0038】
このように構成されたリップ付きシール4が、環状固定部5を液室8側に、リップ6の先端を大気開放部9側にそれぞれ配置して軸穴2と軸3との間に組み付けられている。軸3は、軸受(図示せず)によって軸穴2と同軸上に回転可能に保持されている。
【0039】
図1の11は、この発明を特徴づける姿勢保持部材である。この姿勢保持部材11は、部材1に固定される部品に一体に構成されたものであってもよいし、専用の部品として設けられていてもよい。
【0040】
この姿勢保持部材11に設けた第1当接部11aを、リップ付きシール4のリップの、面Eを含む先端面6bの全域に対向させてその先端面6bの動きをこの第1当接部11aで拘束するようにしている。第1当接部11aの端面は、図示の軸直角な面でなくてもよく、径方向内端側がリップ6に近付く方向に傾斜した面も考えられる。
【0041】
リップの先端面6bは、第1当接部11aに接触した状態にして示したが、実際には、姿勢保持部材11の組み付けが完了した初期状態では、第1当接部11aから離間させるのがよい。離間部の隙間は、軸3の回転に伴う外周面の微小変位(いわゆる振れ)に対して、リップ6の先端に追従の自由度が与えられるものであればよく、微小隙間でも差し支えない。
【0042】
その離間の要求に応えたものが好ましいが、接触部にリップの先端の追従を阻害するほどの面圧が生じなければ、リップの先端面6bを第1当接部11aに接触させてもよい。
【0043】
リップ先端の第1当接部11aからの離間量は、図2のような構造にすると調整がし易い。図2の軸シール構造は、リップ付きシール4に補強環5bを含ませ、その補強環5bをリップ6の先端よりもリップ延出方向に突出させ、リップ6の先端が第1当接部11aから離間した位置で補強環5bに姿勢保持部材11を当接させるようにしている。また、姿勢保持部材11を専用の部品にして軸穴2に圧入して取り付けるようにしている。姿勢保持部材11には、液圧差や外力が作用しないので、圧入などによる固定力はさほど大きくなくてもよい。
【0044】
このような構造にすると、姿勢保持部材11を介してリップ付きシール4を軸穴2に押し込む方向でリップ付きシール4と姿勢保持部材11を定位置に組み付けることができる。これに加え、組み付け完了位置で、リップ6の先端を第1当接部11aとの間に所定の隙間を生じさせて第1当接部11aから離間させることもできる。
【0045】
図2の軸シール構造は、姿勢保持部材11に、リップ6の先端側外周面が当接する第2当接部11bをさらに備えさせている。その第2当接部11bは、初期状態ではリップ6から離反する位置に設けられている。
【0046】
既述の通り、液室に発生した液圧などがきっかけになってリップ6が姿勢保持部材11に押し当てられたときにリップ先端は、姿勢保持部材11による倒れ規制により逃げ場が無くなって径方向外側に膨らもうとする。その膨らみを第2当接部11bで規制することができ、リップ6の先端の径方向外側への逃げに起因したリップ6によるシール圧の低下が起こらない。
【0047】
図3の軸シール構造は、姿勢保持部材11をフッ素系樹脂などで形成してその姿勢保持部材11に軸3の外周に摺接するダストリップ12を一体に形成したもので、外部からの塵埃の吸い込みをダストリップ12によって阻止することができる。また、ダストリップ12とリップ摺接部の頂点6cとの間の空間にグリスなどの潤滑剤を充填することで、リップ6の摩耗低減を図ることもできる。
【0048】
なお、姿勢保持部材11は、図4に示すように、第1当接部11a、第2当接部11b、及びダストリップ12を共に備えるものにしてもよい。
【0049】
また、その姿勢保持部材11は、図5に示すように、補強環5bの内側に圧入して取り付けてもよく、図6に示すように、補強環5bの先端外周に圧入して取り付けることもできる。図6の取り付けは、板材をプレス成形した安価な姿勢保持部材11を使用することができる。
【0050】
図7に示すように、補強環5bの内側に圧入固定する姿勢保持部材11に上記第1当接部11aと第2当接部11bを備えさせてもよく、また、図8に示すように、ダストリップ12を備えさせたり、図9に示すように、第1当接部11aと第2当接部11bとダストリップ12を共に備えさせたりすることもできる。
【0051】
次に、この発明の軸シール構造を用いて回転軸の外周をシールしたポンプ装置の一例を、図10に基づいて説明する。図示のポンプ装置20は、軸穴22を有するハウジング21と、そのハウジング21の内部に設けられた液体汲み上げ用のポンプ24と、軸穴22に組み込まれるポンプ駆動用の回転軸23と、その回転軸23を駆動するモータ25を有する。モータ25は、出力軸を回転軸23に連結してハウジング21に固定されている。
【0052】
また、軸穴22と回転軸23との間の隙間を封止してハウジング21に設けられた吸入室26を大気室28から区画する第1シール部30及び第2シール部29と、両シール部29,30間に配置された中間室27を有する。
【0053】
ハウジング21には、ポンプケース21aとプラグ21bが含まれている。ポンプケース21aにポンプ24を収納してポンプユニットを構成し、そのポンプユニットをハウジング21に形成された収納室に挿入し、その収納室の入口をプラグ21bで閉鎖している。
【0054】
回転軸23は、複数個所を軸受31で支持して軸穴22に組み込まれている。この回転軸23に駆動されるポンプ24は、周知の内接歯車式のものを設けている。
【0055】
吸入室26は、ポンプ24の吸入口に連通している。この吸入室26と中間室27間に設置した第2シール部29は、周知のシール部であり、摩擦係数の小さなフッ素系樹脂などで形成された摺動シール材とゴムシールを組み合わせたシール部材29aを、回転軸23とプラグ21bに形成された軸穴22との間に配置して構成されている。この第2シール部29は、吸入室26から中間室27への液体の漏れを封止する。
【0056】
第2シール部29から液体が漏れた場合、漏れた液体は中間室27に溜る。その中間室27に漏れた液体の中間室27からの漏れを、第1シール部30で阻止するようにしている。
【0057】
第1シール部30は、既述のこの発明の軸シール構造を有するシール部とし、回転軸23の外周と軸穴22の内周面との間に、リップ6の先端が大気室28側に、環状固定部5が吸入室26側にそれぞれあるように配置して構成されている。
【0058】
前記特許文献2が開示しているポンプ装置は、ABS(アンチロック制御)やESC(車両安定化制御)など、電子制御による制動力制御機能を備えた車両用ブレーキ液圧制御装置に利用されており、その用途では、マスタシリンダで発生させた液圧が吸入室26に流れることがある。
【0059】
また、そのときに流入した液圧で第2シール部29のシール部材29aが中間室27側に動いて中間室27の圧力が必要以上に高まることがある。そのような状況に対してこの発明のシール構造が有効性を発揮し、リリーフ機能を得ながら中間室27からのブレーキ液の漏れを減少させることができる。
【0060】
なお、以上の説明は、内接歯車を用いたポンプ装置を例に挙げて行ったが、この発明を適用するポ
ンプ装置は、回転軸で駆動されるものであればよい。ベーンポンプや外接歯車式ポンプなども適用対象となる。
【符号の説明】
【0061】
1 部材
2 軸穴
3 軸
4 リップ付きシール
5 環状固定部
5a 本体部
5b 補強環
6 リップ
6a 基端
6b 先端面
6c 摺接部の頂点
7 弾性体
8 液室
9 大気開放部
11 姿勢保持部材
11a 第1当接部
11b 第2当接部
12 ダストリップ
20 ポンプ装置
21 ハウジング
21a ポンプケース
21b プラグ
22 軸穴
23 回転軸
24 ポンプ
25 モータ
26 吸入室
27 中間室
28 大気室
29 第2シール部
29a シール部材
30 第1シール部
31 軸受
E リップ先端の軸方向変位を伴う面
O 弾性体の中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸穴(2)の内周面に固定される環状固定部(5)の径方向内端に、基端(6a)が前記環状固定部(5)に連なり、その基端から自由端となる先端が軸方向に延び出すリップ(6)を設け、そのリップ(6)の外周に、当該リップ(6)を径方向内側に加圧して前記軸穴(2)に通された軸(3)の外周面に押し付ける弾性体(7)を装着したリップ付きシール(4)を用いて前記軸穴(2)の内周面と前記軸(3)の前記リップ(6)が摺接する外周面との間をシールする軸シール構造であって、
前記リップ付きシール(4)の前記環状固定部(5)を液室(8)側に、前記リップ(6)の先端を大気開放部(9)側にそれぞれ配置し、さらに、前記リップ(6)の先端を支えてリップ先端の径方向内側への変位を規制する姿勢保持部材(11)を備えさせ、さらに、前記リップ(6)の先端面(6b)に、リップ先端が径方向内側に向けて変位するときに軸方向変位を伴う面(E)を含ませ、その面(E)含む前記リップの先端面(6b)を前記姿勢保持部材(11)に形成した第1当接部(11a)に当接させてリップ先端の径方向内側への変位を規制するようにしたことを特徴とする軸シール構造。
【請求項2】
前記リップ(6)の先端を、前記姿勢保持部材(11)の組み付けが完了した位置でその姿勢保持部材(11)から離間させた請求項1に記載の軸シール構造。
【請求項3】
前記リップ付きシール(4)に補強環(5b)を含ませ、その補強環(5b)を前記リップ(6)の先端よりもリップ延出方向に突出させ、前記リップ(6)の先端が前記姿勢保持部材(11)から離間した位置で前記補強環(5b)に前記姿勢保持部材(11)を当接させた請求項2に記載の軸シール構造。
【請求項4】
前記姿勢保持部材(11)に、前記リップ(6)の先端側外周面が当接する第2当接部(11b)を具備させ、その第2当接部(11b)でリップ先端の径方向外側への変位を規制するようにした請求項1〜3のいずれかに記載の軸シール構造。
【請求項5】
軸穴(22)を有するハウジング(21)と、そのハウジング(21)に内蔵された液体汲み上げ用のポンプ(24)と、前記軸穴(22)に組み込まれて前記ポンプ(24)を駆動する回転軸(23)と、前記軸穴(22)と前記回転軸(23)との間の隙間を閉じて前記ハウジング(21)内のポンプ口に通じた吸入室(26)を大気室(28)から区画する第1シール部(30)を有するポンプ装置であって、
前記第1シール部(30)が、請求項1〜4のいずれか一項に記載の軸シール構造を有し、前記リップ付きシール(4)が、当該シールのリップ(6)の先端が前記大気室(28)側に、環状固定部(5)が前記吸入室(26)側にそれぞれ置かれる向きにして前記回転軸(23)の外周面と前記軸穴(22)の内周面との間に装着されたポンプ装置。
【請求項6】
前記吸入室(26)と前記大気室(28)との間に、中間室(27)と、この中間室(27)と前記吸入室(26)との間で前記軸穴(22)の内周面と前記回転軸(23)の外周面との間をシールする第2シール部(29)が設けられ、前記第1シール部(30)が、前記中間室(27)と前記大気室(28)との間に設けられた請求項5に記載のポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−172715(P2012−172715A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33180(P2011−33180)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】