説明

軸一体型樹脂製ローラー

【目的】 寸法精度のよい軸一体型樹脂製ローラーを生産性よく製造できるようにすることを目的とする。
【構成】 中空射出成形法による中空部3を有し、しかもローラー部1の直径(R)と軸部2の直径(r)の比(R/r)が1.0〜4.0の一体成形品とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、軸一体型樹脂製ローラーに関する。更に詳しくは、当該ローラーの寸法精度の向上に関する。
【0002】
【従来の技術】ローラーは、自動車、一般機械、精密機械、電気・電子機器等の各分野における機構部品として幅広く用いられている。そして、樹脂が成形性に富み、軽量で、しかも錆びないという理由から、樹脂製のローラーの利用が拡大してきている。
【0003】ローラーとしては、軸一体型のものが汎用されており、従来、この軸一体型で樹脂製のローラーは、軸に金属シャフトを用いたインサート成形、もしくは樹脂の丸棒等からの切削加工により製造されている。
【0004】上記前者は、ローラー部と軸部を共に樹脂で一体成形したのでは、成形時の樹脂の収縮によるひけが大きくなって寸法精度(円筒度)が悪化することから、軸部を金属シャフトとし、ローラー部である樹脂部の肉厚が小さくなるようにして、ひけを押えているものである。
【0005】また、上記後者は、切削加工によるため、前者のようなひけの問題を考慮することなく寸法精度の高い軸一体型樹脂製ローラが得られる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記前者であるインサート成形では、インサート成形時に金属シャフトを金型にセットするための手間がかかり、また上記後者である切削加工では、周囲を少しずつ切削して行かなければならないので、いずれも生産性に劣る問題がある。
【0007】本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、寸法精度のよい軸一体型樹脂製ローラーを生産性よく製造できるようにすることを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段及び作用】このために本発明では、図1に示されるように、ローラー部1の直径(R)と軸部2の直径(r)の比(R/r)が1.0〜4.0で、内部に中空部3を有する一体成形品の軸一体型樹脂製ローラとしているものである。
【0009】本発明における軸部2とは、ローラー部1が作動する時に、その回転が安定するよう、例えば軸受部品等の他部品に支持される部分である。
【0010】本発明では、ローラー部1の直径(R)と軸部2の直径(r)の比(R/r)が1.0〜4.0であることが必要で、好ましくは1.0〜3.0である。この比が大きくなり過ぎると、成形品の形状と中空部3の形状の差が大きくなる結果、肉厚変動が大きくなって、中空部3を形成したことによるひけ防止が不十分となって、寸法精度が悪化する。
【0011】本発明における中空部3は、成形品内に中空部を生じさせる成形方法によって形成されるもので、この中空部3は巣(ボイド)や発泡剤による気泡とは相違するものである。
【0012】成形品内に中空部3を発生させる成形方法はどのようなものでもよいが、接合部を残すことなく1回の射出で成形でき、しかもバリの発生が少ないことから、中空射出成形法が好ましい。
【0013】上記中空射出成形法とは、射出成形において、射出した金型キャビティ内の溶融樹脂中に加圧流体を圧入し、必要な保圧及び冷却後、圧入した加圧流体を排出することで中空成形品を成形する方法である。
【0014】加圧流体としては、常温常圧でガス状又は液状のもので、射出成形の温度及び圧力下で、成形に用いる溶融樹脂と反応又は相溶しないものが使用される。例えば窒素、炭酸ガス、空気、ヘリウム、グリセリン、流動パラフィン等であるが、通常ガスが使用され、特に窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガスが好ましい。
【0015】以下、加圧ガスを用いる場合を例に更に説明する。
【0016】加圧流体として加圧ガスを用いる中空射出成形は、通常の射出成形機とガス圧入装置の組み合わせによって行われる。
【0017】ガス圧入装置は、金型キャビティ内の溶融樹脂中に加圧ガスを圧入するためのもので、金型キャビティ内の溶融樹脂中に、配管を通して加圧ガスを圧入し、設定時間このガス圧を保持(保圧)する装置である。
【0018】ガス圧入装置は、予め高圧に圧縮してアキュームレーターに蓄えた加圧ガスを、加圧ガス圧入時に金型キャビティ内の溶融樹脂中に供給する方式のものでも、加圧ガス圧入時に、ガスをポンプで金型キャビティ内の溶融樹脂中に送り込んで加圧して行く方式のものでもよい。
【0019】加圧ガスの圧入は、射出ノズルに内蔵させたガスノズルや金型に設けたガスノズルを介して行うことができる。また、加圧ガスの圧入は、金型キャビティに対して直接行う他、スプルーやランナーに対して行ってもよい。スプルーやランナーに圧入された加圧ガスは、ゲートを介して金型キャビティ内の溶融樹脂中へと圧入されることになる。
【0020】加圧ガス圧入のタイミングは、金型キャビティを満たすに充分な量の溶融樹脂を射出(フルショット)した後、もしくは、金型キャビティを満たすに足りない量の溶融樹脂を射出(ショートショット)した後のいずれでもよい。特にショートショットの場合、一部の溶融樹脂の射出後、残りの溶融樹脂の射出と共に加圧ガスの圧入を行うこともできる。
【0021】フルショットの場合、樹脂の冷却による収縮につれて、その収縮量に応じて加圧ガスが圧入されることになる。また、ショートショットの場合、溶融樹脂の未充填容積と樹脂の収縮量に応じた加圧ガスが圧入されることになる。
【0022】即ち、この中空射出成形によると、樹脂の収縮量に応じて加圧ガスが圧入されることで、収縮によるひけの発生が抑えられ、寸法精度が向上する。
【0023】加圧ガスの圧入によって形成される中空部3の大きさは、中空率が10〜70%となる大きさであることが好ましく、更に好ましくは中空率が20〜60%となる大きさである。中空率が低過ぎると、樹脂の収縮抑制が不十分となって、寸法精度が損なわれやすい。また、中空率を大きくし過ぎると、成形品の形状と中空部3の形状の差が大きくなる結果、肉厚変動が大きくなって、中空部3を形成したことによるひけ防止が不十分となって、寸法精度が悪化する。
【0024】尚、中空率とは次式によって定義される。
【0025】中空率(%)={(V×ρ−M)/(V×ρ)}×100
【0026】但し、上記式において、Vは得られた中空の成形品の見掛け上の体積、ρは使用樹脂の比重、Mは得られた中空の成形品の質量である。
【0027】上述のように、本発明では、成形品の形状と中空部3の形状ができるだけ相似形で、かつ比較的中空率が大いことが好ましい。このような成形品の成形を容易にする上で、金型キャビティに溶融樹脂を射出してから、一方の軸部2の端面部分から加圧ガスを圧入すると共に、他方の軸部2の端面部分から、金型キャビティ内の余剰の溶融樹脂もしくは余剰の溶融樹脂と余剰の加圧ガスを金型キャビティ外へ流出させることが好ましい。
【0028】上記成形は、一方の軸部2の端面部分にガスノズルを開口させ、他方の軸部2の端面部分に、金型キャビティ内で余剰となって押し出される溶融樹脂もしくは溶融樹脂と加圧流体を受け入れる副キャビティを接続しておくことで容易に行うことができる。副キャビティとしては、例えば特開平3−121820号公報に記載されているようなものが知られている。
【0029】図中、4は加圧流体の圧入によって形成された圧入孔であり、5は余剰の溶融樹脂と共に余剰の加圧流体が金型キャビティ外(副キャビティ)へ押し出されることで形成された流出孔である。
【0030】上述の中空射出成形法は、熱硬化性樹脂に対しても適用可能で、本発明に係る軸一体型ローラーを熱硬化性樹脂で構成することも可能であるが、本発明に係る軸一体型ローラーを構成する樹脂は通常熱可塑性樹脂である。
【0031】熱可塑性樹脂としては、通常の射出成形が可能なものであればよく、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネイト、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0032】特にポリアセタール樹脂及びポリアミド樹脂は耐熱性が高く、機械的物性にも優れ、更には摺動性にも優れるため、ローラー用の樹脂として汎用されており、本発明においても好適に用いられる。
【0033】本発明では、内部に中空部3を有するので、耐熱性、機械的強度等をアップする目的で、必要に応じて無機及び/又は有機の充填材を樹脂に配合することができる。
【0034】好適な充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウム、アスベスト、炭化ケイ素、セラミック、窒化ケイ素、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、ゼオライト、マイカ、雲母、ネフェリンシナイト、タルク、アタルパルジャイト、ウオラストナイト、PMF、フェライト、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化鉄、二硫化モリブテン、黒鉛、石こう、ガラスビーズ、ガラスパウダー、ガラスバルーン、石英、石英ガラス等の強化充填材を挙げることができる。これらは中空であってもよく、2種以上を併用することもでき、必要により、シラン系、チタン系等のカップリング剤で予備処理して使用することができる。
【0035】
【実施例】
実施例1〜10全長200mm(ローラー部160mm、両端の軸部各20mm)で、ローラー部の直径が10、15、20、30、40mmの5種類、軸部の直径が10mmの軸一体型ローラーを作製した。
【0036】樹脂としては、ポリアセタール樹脂コポリマー(旭化成工業社製「テナック−C4520」:POM)もしくはポリアミド樹脂(旭化成工業社製「レオナ1300S」:PA)を用い、金型温度はいずれも80℃、シリンダー設定温度は各々200℃、290℃で中空射出成形を行った。また、樹脂の計量値を変えることで中空率を変化させた。
【0037】樹脂中に圧入する加圧ガスには窒素ガスを用い、ガスノズルはシリンダーの射出ノズル内に設けた。このときシリンダーへの加圧ガスの侵入(金型と反対方向への侵入)を防止する目的でガスノズルのスクリュー側(ホッパー側)にシャットオフ弁を設けた。
【0038】ガス圧入装置に窒素ガスを導入し、100kg/cm2 に昇圧してアキュームレーターに蓄え、溶融樹脂射出後に配管を通して溶融樹脂中に圧入した。加圧ガスは、射出ノズルからスプルー、ランナーを通って、軸一体型ローラーを成形する金型キャビティ中に導入された。
【0039】このときの条件は、ガス圧入遅延時間(溶融樹脂の射出後、加圧ガスを圧入するまでの時間)を1.0秒、ガス圧入時間(加圧ガス圧入を行う時間)を5秒、圧力保持時間(加圧ガスの圧入を止め、ガス系を閉じた状態で保持する時間とガス圧入時間を加えた時間)を50秒とした。型開きは圧力保持時間終了から5秒後に行い、成形品を取り出した。
【0040】また、いずれの場合もゲートは一方の軸部端面部に位置させ、このゲートとは反対側の軸部端面部に副キャビティを接続して成形を行った。
【0041】得られた軸一体型ローラーのローラー部の中央部、端部(樹脂の入口側)の平均直径を測定した。中央部と端部の直径差が小さいほど寸法精度に優れ、正確に作動するローラーといえる。
【0042】得られた結果を表1及び表2に示す。
【0043】比較例1〜5及び7実施例1〜7で用いた金型(ローラー部の直径が10、15、20mmの3種類)を用い、加圧ガスの圧入は行わず、溶融樹脂の射出、樹脂保圧、冷却といった通常の射出成形で成形を行った。尚、通常の射出成形であるので、副キャビティは使用しなかった。
【0044】シリンダーの設定温度、金型温度等は実施例と同じで、樹脂保圧は800kg/cm2 、保圧時間は51秒、冷却時間は5秒とし、実施例とサイクル時間が同じになるよう設定した。
【0045】得られた結果を表1及び表2に示す。
【0046】比較例6ローラー部の直径を50mmとした以外は実施例と同様にして成形を行った。
【0047】得られた結果を表2に示す。
【0048】
【表1】


【0049】
【表2】


【0050】
【発明の効果】以上説明した通り、本発明に係る軸一体型樹脂製ローラーは、ローラー部の中央部と端部の直径差が小さく、良好な寸法精度を有し、ローラーとして優れた形状を有するものである。また、中空射出成形法で容易に成形できるので、製造効率の良い生産性に優れたものである。
【0051】従って、自動車、一般機械、精密機械、電気・電子機器等の各分野の機構部品、例えばファクシミリやコピー等の紙送り部品等として有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る軸一体型樹脂製ローラーの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 ローラー部
2 軸部
3 中空部
4 圧入孔
5 流出孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ローラー部の直径(R)と軸部の直径(r)の比(R/r)が1.0〜4.0で、内部に中空部を有する一体成形品であることを特徴とする軸一体型樹脂製ローラ。
【請求項2】 中空部が、中空射出成形法によって形成されたものであることを特徴とする請求項1の軸一体型樹脂製ローラー。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開平7−100961
【公開日】平成7年(1995)4月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−272920
【出願日】平成5年(1993)10月6日
【出願人】(000000033)旭化成工業株式会社 (901)