説明

軸受の潤滑装置

【課題】 潤滑対象である外輪とは別に、固定手段に固定することができる軸受の潤滑装置であって、厳密な寸法管理をしなくても、外輪に対する潤滑供給部材の接触に偏りが生じない軸受の潤滑装置を提供すること。
【解決手段】 支持軸7に相対回転自在にした外輪6の外側に設けるケーシング1と、このケーシング内に設け、潤滑剤を含浸させてなる潤滑供給部材4とを備え、ケーシング1を固定手段に固定したとき、上記潤滑供給部材4と上記外輪6とが外輪6の回転中心の軸線L0に平行に接触して外輪6の外周面に潤滑剤を塗布する軸受の潤滑装置において、上記ケーシング1には、上記固定手段に取り付けるための固定部3を設けるとともに、外輪6の外周面に対する上記潤滑供給部材4の接触面を通る直線L2が外輪6の回転中心の軸線と平行になる方向に揺動可能にする調心機構19を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カムフォロアなどの外輪に潤滑剤を供給する軸受の潤滑装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、支持軸に回転自在にした外輪の外周面に潤滑剤を供給するために、潤滑剤を含浸した潤滑供給部材を保持したケーシングを外輪の外側に設ける軸受の潤滑装置が知られている。
例えば、特許文献1の軸受の潤滑装置は、上記潤滑供給部材を収容したケーシングに、外輪の支持軸を貫通させる軸孔を備えている。そして、この軸孔に上記支持軸を貫通させて、支持軸を固定部材に取り付けることにより、外輪とケーシングとを一体的に固定するようにしている。
【0003】
先に出願した特願2009−211467は、特許文献1に示す装置を改良したもので、これを図7に示す。
この図7に示す潤滑装置Aのケーシング1の本体2内には、潤滑剤を含浸させた潤滑供給部材4とともに、この潤滑供給部材4をフォロア軸受Bの外輪6側へ押圧する板ばね5を組み込んでいる。
なお、この潤滑装置Aを用いるフォロア軸受Bは、図7に示すように、支持軸7の周囲に外輪6を回転自在に設けるとともに、支持軸7の一端にはねじ部7aを設け、このねじ部7aを上記外輪6の軸方向外方に突出させている。なお、外輪6の軸方向とは、外輪6の回転中心の軸線方向のことである。
このようなフォロア軸受Bは、図8に示すように外輪6の転動面となる相手側転動面Mを支持するものである。
【0004】
そして、図8に示すように固定部材8の貫通孔8aに支持軸7の一端を貫通させ、その貫通した支持軸7のねじ部7aにナット9をねじ止めして固定すると、フォロア軸受Bの外輪6は相手側転動面Mに転がり接触し、固定部材8と相手側転動面Mとが相対移動する。
また、図7に示すように図中符号10の六角穴は、フォロア軸受Bの固定の際、上記ねじ部7aにナット9を締め付ける時の共回りを防ぐために使うもので、この六角穴10に図示していない六角レンチをはめ込んでフォロア軸受Bを固定してナット9で締め付ける。
【0005】
なお、図7に示すように上記ケーシング1内の底面12の両側には側面13,13を形成し、この側面13,13のそれぞれには、抜け止め段部14,14を形成している。
また、このケーシング1に組み込む潤滑供給部材4は、オープンポアから成る多孔質構造の焼結樹脂部材などで形成され、その空隙率は例えば40〜50%のものを使用でき、その多孔部にタービン油などの潤滑油を含浸したものである。この潤滑供給部材4は、ポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性樹脂材の粉末と、潤滑油あるいはグリースからなる潤滑剤とを混合して加熱後、固形化した固形潤滑剤を使用してもよい。
【0006】
そして、この潤滑供給部材4は、ケーシング1に組み込んだ状態において、外輪6と対向する凹面に、所定の間隔を保持した一対の突部15,15を、外輪6の回転中心の軸線に平行に設けるとともに、これら突部15,15を外輪6の外周面と接触させるが、それらの接触面を円筒面にしている。このようにした突部15,15の円筒面を外輪6の外周面に接触させることにより、外輪6の外周面に潤滑剤を塗布するとともに、このときに外輪6の外周面に付着した潤滑剤で、上記相手側転動面M(図8参照)も同時に潤滑できる。
【0007】
さらに、上記潤滑供給部材4は、上記突部15,15を形成した凹面とは反対側の面に、凹部16,16を形成するとともに、この凹部16,16の外側には、ケーシング1に組み込んだ潤滑供給部材4が脱落しないように、上記抜け止め段部14,14に引っ掛かる掛け止め突部17,17を形成している。
上記のようにした潤滑供給部材4は、上記底面12との間に板ばね5を介在させてケーシング1に組み込むが、この板ばね5は、その断面形状を山形にして両端に一対の突片5b、5bを有するとともに、その頂部5aが、ケーシング1の底面12に形成した位置決め凹部18に一致する構成にしている。
【0008】
そして、上記潤滑供給部材4をケーシング1に組み込むときには、板ばね5に形成した突片5b,5bの間に潤滑供給部材4を設け、上記板ばね5と潤滑供給部材4とを一体的に扱い、ケーシング1内において、潤滑供給部材4の掛け止め突部17,17を、ケーシング1に形成した抜け止め段部14,14より底面12側になるように押し込む。
このように、ケーシングの軸孔に支持軸を挿入して固定する潤滑装置は、それを既存の軸受に取り付けるためには、固定部材から支持軸を一旦取り外さなければならない。そのため、一旦取り付けた潤滑装置に不具合が発生した場合にも、外輪の支持軸を取り外さなければ、潤滑装置を取り外すことができない。
【0009】
上記の問題を解消するものとして、上記支持軸をケーシングに貫通させない、特許文献2の軸受の潤滑装置が知られている。
このようなものとして、図9に示す潤滑装置Cのケーシング1は、本体2と固定部3とを一体成形したものである。
【0010】
外輪6を潤滑するための潤滑供給部材4を保持するケーシング1は、本体2の外周に固定部3を形成しているが、この固定部3には、貫通孔3aを形成している。この貫通孔3aにねじ部材11を挿入し、潤滑装置Cを固定部材8にねじ止め固定するが、上記固定部材8には雌ねじを形成した固定用ねじ孔8bを設け、この固定用ねじ孔8bに上記ねじ部材11を挿入し、ねじ止め固定するようにしている。
このように構成した潤滑装置Cは、図9に示すように、外輪6の支持軸7を固定した固定部材8に、支持軸7とは別に上記ケーシング1の固定部3を介して固定される。そのため、すでに固定部材8に固定されたフォロア軸受Bに、後から潤滑装置Cを取り付けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4278659号公報
【特許文献2】特開平09−089078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記潤滑装置Cは、図9に示すように、固定部材8に対し、外輪6の支持軸7とは別々に固定するようにしている。すなわち、フォロア軸受Bの支持軸7を固定部材8の貫通孔8aに挿入することによって固定し、それとは別に、潤滑装置Cのケーシング1の固定部3を、ねじ部材11によって固定用ねじ孔8bに固定している。
【0013】
上記のように、フォロア軸受Bと軸受の潤滑装置Cとを固定部材8に別々に固定したとき、上記潤滑供給部材4の上記突部15を上記外輪6の外周面に均等に接触させるためには、以下の関係が必要である。それは、外輪6の回転中心である軸線L0と、潤滑供給部材4側である、固定部材8に設けた貫通孔8a及び固定部3の貫通孔3aの中心を通る軸線L1とが所定の関係を維持し、潤滑供給部材4の突部15と外輪6との接触面と、軸線L0が平行を保っている必要がある。このような、外輪6と潤滑装置Cとの平行関係を維持するためには、上記軸線L1と、固定部材8の固定用ねじ孔8aの軸線方向を正確に管理しなければならない。
そのためには、固定部3や固定部材8の寸法精度や取り付け精度を必要として、加工コストが嵩んでしまうという問題がある。
【0014】
一方、固定部材8側の寸法精度が悪く、フォロア軸受Bの支持軸7に対して潤滑供給部材4の接触面が平行でない方向に取り付けられた場合には、外輪6に上記潤滑供給部材4の突部15が偏って接触することになる。そのため、潤滑剤が外輪6の外周面に均等に供給されないで、潤滑不良になったり、潤滑剤の過剰供給によるべたつきや潤滑剤切れが発生してしまったりすることがある。
この発明の目的は、潤滑対象である外輪とは別に、固定手段に固定することができる軸受の潤滑装置であって、厳密な寸法管理をしなくても、外輪に対する潤滑供給部材の接触に偏りが生じない軸受の潤滑装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の発明は、支持軸に相対回転自在にした外輪の外側に設けるケーシングと、このケーシング内に設け、潤滑剤を含浸させてなる潤滑供給部材とを備え、上記ケーシングを固定手段に固定したとき、上記潤滑供給部材と上記外輪とが上記外輪の回転中心の軸線に平行に接触して上記外輪の外周面に上記潤滑剤を塗布する軸受の潤滑装置において、上記ケーシングには、上記固定手段に取り付けるための固定部を設けるとともに、上記外輪の外周面に対する上記潤滑供給部材の接触面が上記外輪の回転中心の軸線と平行になる方向に揺動可能にする調心機構を備えたことを特徴とする。
【0016】
第2の発明は、第1の発明を前提とし、上記ケーシングの内面であって、上記潤滑供給部材に対向する面に形成され、上記潤滑供給部材側に突出した曲面からなる調心用突部と、この調心用突部と接触する上記潤滑供給部材側に備えた接触部とによって上記調心機構を構成したことを特徴とする。
【0017】
第3の発明は、第1の発明を前提とし、上記潤滑供給部材であって、上記ケーシングの内面と対向する側の面に形成され、上記ケーシング側に突出した曲面からなる調心用突部と、この調心用突部と接触する上記ケーシング側に備えた接触部とによって上記調心機構を構成したことを特徴とする。
【0018】
第4の発明は、第1または第2の発明を前提とし、上記外輪と対向する上記ケーシングの内面との間に、上記潤滑供給部材を上記外輪へ押圧するばね部材を介在させるとともに、このばね部材に、上記調心用突部と接触する上記接触部を設けたことを特徴とする。
【0019】
第5の発明は、第1の発明を前提とし、上記外輪と対向する上記ケーシングの内面との間に、上記潤滑供給部材を上記外輪へ押圧する上記ばね部材を介在させるとともに、このばね部材に上記ケーシング側あるいは上記外輪側に突出した曲面からなる調心用突部を設け、この調心用突部と、この調心用突部と接触する上記ケーシング側あるいは上記潤滑供給部材側の接触部とによって上記調心機構を構成したことを特徴とする。
なお、上記ばね部材に設けた調心用突部には、ばね部材と一体的に形成したもののほか、ばね部材と別部材で構成されるものも含むものとする。
【発明の効果】
【0020】
この発明の軸受の潤滑装置は、調心機構を備えたので、固定手段に固定するだけで、潤滑供給部材と外輪の外周面との接触面が外輪の回転中心の軸線と平行になる。従って、外輪に対する潤滑剤の塗布ムラが発生することがなく、長期にわたって最適な潤滑状態を維持することができるとともに、特に高い寸法精度や取り付け精度を保つ必要がないので、そのための製造コストが嵩むこともない。
【0021】
第2の発明は、ケーシングに形成した調心用突部によって調心機構を構成でき、潤滑剤の塗布ムラを防止できる。また、ケーシング以外の構成は従来と同じにすることもできる。
第3の発明は、潤滑供給部材に形成した調心用突部によって調心機構を構成でき、潤滑剤の塗布ムラを防止できる。また、潤滑供給部材以外の構成は従来と同じにすることもできる。
【0022】
第4の発明によれば、外輪に対する潤滑供給部材の調心を実現しながら、ばね部材によって、外輪に対する潤滑供給部材の押圧力をさらに安定化することができる。
【0023】
第5の発明によれば、ばね部材に設けた調心用突部によって潤滑供給部材の調心機構を構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は第1実施形態の断面図である。
【図2】図2は図1の部分拡大図である。
【図3】図3は図1のIII-III線断面における第1実施形態の断面図である。
【図4】図4は第2実施形態の断面図である。
【図5】図5は図4のV-V線断面における第2実施形態の断面図である。
【図6】図6は本発明の軸受の潤滑装置の外観斜視図である。
【図7】図7は従来例の斜視図である。
【図8】図8は図7の従来例の取り付け状態を示した断面図である。
【図9】図9は他の従来例の取り付け状態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1〜図3に示す第1実施形態の軸受の潤滑装置Dは、上記図7〜9に示す従来の軸受の潤滑装置A、Cと同様に、図7に示すフォロア軸受Bの外輪6に潤滑剤を塗布する装置である。そして、この潤滑装置Dは、後で詳しく説明する調心機構を備えた点を特徴とするが、それ以外の構成は、上記従来の潤滑装置Aと同じである。そこで、この第1実施形態の説明にも、上記従来の潤滑装置Aと同じ構成要素には同じ符号を用い、従来例と同じ構成要素についての詳細な説明は省略する。
【0026】
図1に示す軸受の潤滑装置Dは、ケーシング1の本体2内に、潤滑剤を含浸させた潤滑供給部材4と板ばね5とを組み込むとともに、本体2の外周に突出した固定部3を備え、この固定部3には、さぐり3bを設けた一対の貫通孔3a,3aを形成している。そして、この軸受の潤滑装置Dを、カムフォロア軸受Bに用いる場合には、上記貫通孔3a,3aにねじ部材11を挿入し、このねじ部材11をこの発明の固定手段である固定部材8にねじ止めして、上記ケーシング1を固定する。この点は、従来と同じである(図9参照)。
【0027】
但し、この第1実施形態の潤滑装置Dは、ケーシング1の、本体2の底面12の中央に調心用突部19を備えている。
この調心用突部19は、図3に示すように、その軸方向断面が円弧を形成する曲面からなる突部である。また、上記調心用突部19は、その中央に、軸方向に伸びる位置決め凹部18を備え、従来と同様に上記板ばね5の頂部5aをこの位置決め凹部18に一致させる構成にしている。
【0028】
そして、上記位置決め凹部18の両側において、調心用突部19の曲面が、ばね部材5に接触する。
なお、上記軸方向とは、ケーシング1を外輪6に対向させて設けたとき、外輪6の支持軸7と平行な直線が伸びる方向のことである。
このように、第1実施形態の潤滑装置Dは、ケーシング1の底面12に曲面からなる調心用突部19を設けているので、これに接触している板ばね5は、上記調心用突部19の曲面に沿って図3の矢印αのように揺動可能である。
【0029】
この第1実施形態の軸受の潤滑装置Dを、軸受の潤滑に用いる場合には、上記ケーシング1を外輪6の外周に対向させて、図9に示す従来と同様に、固定部3に形成された貫通孔3aに挿入したねじ部材11で固定部材8に固定するが、このように、ケーシング1を固定すると、図3に示した上記貫通孔3aの中心軸線L1が固定されることになる。
一方、板ばね5は、上記したように図3の矢印αのように揺動可能である。そして、上記潤滑供給部材4は、この板ばね5によって外輪6(図1,図2参照)の方向へ押圧されているので、この潤滑供給部材4は、ばね部材5と一体的に、上記矢印αのように揺動可能である。
【0030】
そのため、上記ケーシング1を固定部材8に固定して、潤滑供給部材4の突部15を外輪6の外周面に接触させたとき、潤滑供給部材4の接触面を通る直線L2と、上記固定部3の貫通孔3aの中心軸線L1とで成す角度が、自動的に調整される(図3参照)。
従って、ケーシング1の固定部3を固定部材8に固定したときに、固定部3の貫通孔3aの中心軸線L1が、外輪6の回転中心である軸線に対して平行にならなかったとしても、上記揺動によって上記潤滑供給部材4の接触面を通る直線が、外輪6の回転中心である軸線と平行になるように調整されることになる。
【0031】
このように、上記調心用突部19に対して、板ばね5が揺動することによって潤滑供給部材4の、外輪6との接触面が、外輪6の回転中心である軸線と平行になるので、潤滑供給部材4が外輪6に対して均等に押圧される。そのため、外輪6の外周面に塗布される潤滑剤の塗布ムラが発生するようなことがなく、長期にわたって最適な潤滑状態を維持することができる。
このように、上記第1実施形態においては、上記ケーシング1に形成した調心用突部19とこれに接触する板ばね5の接触部とによってこの発明の調心機構を構成している。
また、固定部3や、固定部材8側の寸法精度を高く保つ必要もなく、製造コストを抑えることができる。
【0032】
なお、上記実施形態では、山形の板ばね5を用いて潤滑供給部材4を外輪6側へ押圧するようにしているが、潤滑供給部材4を押圧する手段は板ばねに限らない。
また、ばね部材などの、潤滑供給部材4を外輪6側へ押圧する手段は必須の構成要素ではない。板ばね5などを用いない場合には、ケーシング1の調心用突部19と潤滑供給部材4とが直接接触し、これら調心用突部19と潤滑供給部材4とによって調心機構を構成することになる。
【0033】
図4,5に示した第2実施形態の軸受の潤滑装置Eは、ケーシング1に調心用突部を設けないで、潤滑供給部材4に調心用突部20を設けた点が、第1実施形態と異なるが、その他の構成は第1実施形態同じである。
第1実施形態と同じ構成要素には、図1〜3と同じ符号を用い、個々の要素についての説明は省略する。以下には、第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0034】
図4、5に示すように、第2実施形態の軸受の潤滑装置Eは、ケーシング1の底面12に調心用突部を設けないで、板ばね5の頂部5aを位置させる位置決め凹部18を底面12に直接設けている。
そして、上記板ばね5の両突片5b、5b間に設ける潤滑供給部材4に、上記板ばね5側に突出した曲面からなる調心用突部20を備えている。
なお、上記調心用突部20は、上記潤滑供給部材4と同一素材で一体的に形成し、潤滑剤を含浸させるようにしてもよいし、別素材で形成した突部を上記潤滑供給部材4に設けて調心用突部20としてもよい。
【0035】
上記調心用突部20は、図5に示す軸方向断面が円弧を形成する曲面を有する突部であり、この曲面に上記板ばね5が接触するようにしている。なお、上記軸方向とは、ケーシング1を外輪6に対向させて設けたとき、外輪6の指示軸7と平行な直線が伸びる方向のことである。
従って、上記位置決め凹部18で位置決めされた板ばね5に対し、潤滑供給部材4は、矢印βのように揺動可能である。
【0036】
上記のように、この第2実施形態の軸受の潤滑装置Eは、潤滑供給部材4が上記板ばね5に対して揺動可能、すなわちケーシング1に対して揺動可能なので、潤滑供給部材4を自動的に調心することができる。
従って、上記ケーシング1の固定部3を固定部材8に固定したときに、図5に示す固定部3側の貫通孔3aの中心軸線L1が、外輪6の回転中心である軸線と平行にならなかったとしても、潤滑供給部材4が揺動するので、外輪6との接触面となる上記突部15を外輪6の回転中心である軸線と平行に保つことができる。
そのため、この第2実施形態の軸受の潤滑装置も、固定部3や、それを固定する固定部材8側の寸法や取り付け精度を厳密に管理しなくても、潤滑供給部材4の接触面と外輪6の回転中心である軸線とを平行に保って、外輪6の外周面に潤滑剤を偏りなく塗布することができる。
【0037】
このように、上記第2実施形態においては、上記潤滑供給部材4に形成した調心用突部20とこれに接触する板ばね5の接触部とによってこの発明の調心機構を構成している。
なお、上記第2実施形態でも、山形の板ばね5を用いて潤滑供給部材4を外輪6側へ押圧するようにしているが、潤滑供給部材4を押圧する手段は板ばねに限らない。
また、ばね部材などの、潤滑供給部材4を外輪6側へ押圧する手段は必須の構成要素ではない。板ばね5などを用いない場合には、ケーシング1の底面12と潤滑供給部材4の調心用突部20とが直接接触し、これらケーシング1の底面12と調心用突部20とによって調心機構を構成することになる。
【0038】
また、上記第1、第2実施形態では、ケーシング1あるいは潤滑供給部材4のいずれかに調心用突部19,20を設けているが、調心用突部は、その他の部材に設けてもよい。
例えば、上記板ばね5に、ケーシング1の底面12側に突出する曲面からなる調心用突部を形成し、この調心用突部と上記底面12の接触部とによって調心機構を構成することもできる。あるいは、上記板ばね5に、上記潤滑供給部材4側に突出する曲面からなる調心用突部を形成し、この調心用突部と潤滑供給部材4の接触部とによって調心機構を構成することもできる。
さらに、板ばね5とケーシング1との間や、板ばね5と潤滑供給部材4との間などに、ボールなど突曲面を有する部材を介在させ、それを調心用突部とすることもできる。
要するに、上記調心機構は、上記ケーシング1内で潤滑供給部材4が外輪6の回転中心である軸線に対して揺動可能になる構成であれば、どのように構成したものでもよい。
【0039】
なお、図6は、上記第1、第2実施形態の軸受の潤滑装置D,Eの使用状態の外観斜視図である。
これらの潤滑装置D,Eの固定部3は、ケーシング1の外周に一体で形成しており、その外形幅寸法は外輪6の直径寸法よりも小さい。その結果、潤滑対象の軸受Bが隣接して配置されている場合でも、軸受よりも外形幅寸法が小さい潤滑装置の固定部3同士は干渉しない。
【0040】
そして、固定部3の形状は、ケーシング1から固定部3に向かって徐々に幅が狭くなるように台形状にしている。このような形状にしたため、仮に、潤滑装置DまたはEを図8、図9に示す相手側転動面Mと平行な姿勢で取り付けられない場合でも、潤滑供給部材4の突部15を外輪6の外周面に接触させながら、外輪6の回転中心を基準に回転させて配置するときに、外輪6の幅寸法内に収めることができる回転範囲が得られる。
また、潤滑装置D,Eにおいて、上記固定部材8に対向する取付面は、固定部3から本体2まで同一平面で形成されており、ケーシング1に内蔵された潤滑供給部材4に対して、ほぼ直角を成している。そのため、固定部材8に対して潤滑装置D,Eは、ケーシング1の固定部3から本体2に形成されている取付面の全面で密着し、安定した位置決めを実現する。
【0041】
さらに、固定部3には、ざぐり3bを備えた2個の貫通孔3aが一直線上に設けられており、最も少ない固定箇所数である2箇所で固定することで、潤滑装置D,Eが、回転する外輪6と共回りすることを防止できる。また、潤滑装置D,Eの位置決めを容易にする。
さらにまた、上記ざぐり3bを備えたことにより、固定用のねじ部材11として短いものを使用可能にしていると同時に、固定用のねじ部材11の頭部がざぐり3b内に隠れて周辺スペースに突出しないようになっている。
【0042】
なお、フォロア軸受Bは、外輪6に荷重が負荷されると曲げモーメントが生じて、支持軸7には曲げ応力が発生する。従って、部品の強度を考慮して、荷重が負荷されたときに上記応力が部品材料の許容応力を超えないで、安全な運転を可能にする荷重の限度値を決めている。
上記図7、図8に示したような、従来の潤滑装置Aを用いる場合には、ケーシング1の軸孔にフォロア軸受Bの支持軸7を貫通させて潤滑装置を軸支して固定部材8に共締め固定する。その結果、固定部材8と支持軸7で挟むケーシング1の板厚分だけ荷重が負荷される外輪6の位置が支持軸7の六角穴の方向へ移動する。その結果、支持軸7の、固定部材8から突出する長さが増えて、支持軸7に発生する曲げ応力が大きくなる。
【0043】
上記の理由から、フォロア軸受Bに潤滑装置Aを用いる場合には、潤滑装置Aを使用しない通常の使用の場合に負荷できる荷重の限度値よりも小さい荷重として、例えば80%以下の荷重で使用するように制限している。これに対し、上記第1、第2実施形態のようにケーシング1に固定部3を備えた潤滑装置D,Eを用いる場合には、潤滑装置を使用しないファロア軸受Bと同じ支持軸7の突出長さとなり、同じ荷重まで負荷できる。
【0044】
なお、上記では、図9に示す固定部材8が、上記ケーシング1を固定する固定手段であり、この固定部材8に外輪6の支持軸7を固定している例について説明したが、上記ケーシング1を固定する固定手段は、上記支持軸7を固定した部材とは別部材であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
この発明は、フォロア軸受などの外輪に潤滑剤を供給する軸受潤滑部材であって、フォロア軸受とは別に固定できる潤滑装置における潤滑供給部材の調心を、単純な構造で実現できる。
【符号の説明】
【0046】
B フォロア軸受
D,E 潤滑装置
1 ケーシング
2 本体
3 固定部
3a 貫通孔
4 潤滑供給部材
5 板ばね
6 外輪
7 支持軸
8 (固定手段である)固定部材
19 調心用突部
20 調心用突部
L0 (外輪の回転中心である)軸線
L2 (外輪の外周面に対する潤滑供給部材の接触面を通る)直線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持軸に相対回転自在にした外輪の外側に設けるケーシングと、このケーシング内に設け、潤滑剤を含浸させてなる潤滑供給部材とを備え、上記ケーシングを固定手段に固定したとき、上記潤滑供給部材と上記外輪とが上記外輪の回転中心の軸線に平行に接触して上記外輪の外周面に上記潤滑剤を塗布する軸受の潤滑装置において、上記ケーシングには、上記固定手段に取り付けるための固定部を設けるとともに、上記外輪の外周面に対する上記潤滑供給部材の接触面が上記外輪の回転中止の軸線と平行になる方向に揺動可能にする調心機構を備えた軸受の潤滑装置。
【請求項2】
上記ケーシングの内面であって、上記潤滑供給部材に対向する面に形成され、上記潤滑供給部材側に突出した曲面からなる調心用突部と、この調心用突部と接触する上記潤滑供給部材側に備えた接触部とによって上記調心機構を構成した請求項1に記載の軸受の潤滑装置。
【請求項3】
上記潤滑供給部材であって、上記ケーシングの内面と対向する側の面に形成され、上記ケーシング側に突出した曲面からなる調心用突部と、この調心用突部と接触する上記ケーシング側に備えた接触部とによって上記調心機構を構成した請求項1に記載の軸受の潤滑装置。
【請求項4】
上記外輪と対向する上記ケーシングの内面との間に、上記潤滑供給部材を上記外輪へ押圧するばね部材を介在させるとともに、このばね部材に、上記調心用突部と接触する上記接触部を設けた請求項2または3に記載の軸受の潤滑装置。
【請求項5】
上記外輪と対向する上記ケーシングの内面との間に、上記潤滑供給部材を上記外輪へ押圧する上記ばね部材を介在させるとともに、このばね部材に上記ケーシング側あるいは上記外輪側に突出した曲面からなる調心用突部を設け、この調心用突部と、この調心用突部と接触する上記ケーシング側あるいは上記潤滑供給部材側の接触部とによって上記調心機構を構成した請求項1に記載の軸受の潤滑装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−207691(P2012−207691A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72112(P2011−72112)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】