説明

軸受保護装置

【課題】内燃機関のカムシャフトを支持する転がり軸受を好適に保護する。
【解決手段】内燃機関のカムシャフト4を支持する転がり軸受30を保護するための軸受保護装置に関する。軸受保護装置は、バルブリフトを可変にするためのバルブリフト可変機構50と、バルブリフト可変機構50に油圧を供給するための油路20と、転がり軸受30および油路を連通する連通路Rと、連通路Rに設けられ、転がり軸受30の異常振動に応答して機械的に開弁する保護弁40とを備える。保護弁40の開弁時に油路のオイルが転がり軸受30に供給される。またバルブリフト可変機構50が高リフト側になるのを防止し、転がり軸受30に対するバルブリフト荷重を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軸受保護装置に係り、特に、内燃機関のカムシャフトを支持する転がり軸受を保護するための軸受保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関のカムシャフトをすべり軸受に代わって転がり軸受で支持する構造が検討されている。転がり軸受はすべり軸受よりも構造が複雑であるため、特にカムシャフト支持部のような振動の多い環境下では、損傷を防止或いは抑制すべく積極的に保護する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−347401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる状況に鑑みて創案されたものであり、その一の目的は、内燃機関のカムシャフトを支持する転がり軸受を好適に保護し得る軸受保護装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一の態様によれば、
内燃機関のカムシャフトを支持する転がり軸受を保護するための軸受保護装置であって、
バルブリフトを可変にするためのバルブリフト可変機構と、
前記バルブリフト可変機構に油圧を供給するための油路と、
前記転がり軸受および前記油路を連通する連通路と、
前記連通路に設けられ、前記転がり軸受の異常振動に応答して機械的に開弁する保護弁と、
を備えたことを特徴とする軸受保護装置が提供される。
【0006】
好ましくは、前記バルブリフト可変機構は、供給油圧が高いときに高リフト側に切り替わり、供給油圧が低いときに低リフト側に切り替わる。
【0007】
好ましくは、前記軸受保護装置が、
前記内燃機関の実際の吸入空気量を検出する検出手段と、
前記内燃機関の吸入空気量を推定する推定手段と、
前記バルブリフト可変機構を高リフト側に切り替えるための高リフト要求があったとき、前記検出手段によって検出された実際の吸入空気量と、前記推定手段によって推定された推定吸入空気量とを比較し、その比較結果に応じて前記転がり軸受が正常か異常かを診断する診断手段と、
をさらに備える。
【0008】
好ましくは、前記軸受保護装置が、
前記油路に油圧を供給するための可変油圧ポンプと、
前記油路に設けられた制御弁と、
前記診断手段によって前記転がり軸受が異常と診断されたとき、前記制御弁を常時開弁し、前記可変油圧ポンプをその吐出油量が所定値以下に制限されるよう制御する制御手段と、
をさらに備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、内燃機関のカムシャフトを支持する転がり軸受を好適に保護することができるという、優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態に係る内燃機関を示す概略図である。
【図2】本実施形態の要部を示す概略断面図である。
【図3】軸受保護装置の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】第1変形例を示す概略断面図である。
【図5】第2変形例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適実施形態を添付図面に基づき説明する。
【0012】
図1に、本実施形態に係る内燃機関を示す。内燃機関(エンジン)1は、自動車用多気筒エンジン(1気筒のみ図示)であり、ピストン、コンロッド、クランクシャフト等を収容するエンジン本体2を有する。エンジン本体2のシリンダヘッド3内には吸気カムシャフト4と排気カムシャフト5が収容されている。これら吸気カムシャフト4および排気カムシャフト5はそれぞれ図示しない吸気弁および排気弁を開閉するものである。
【0013】
エンジン本体2には吸気通路6と排気通路7が接続されている。吸気通路6にはサージタンク8、スロットルバルブ9およびエアフィルタ10が設けられている。
【0014】
エンジン1のクランクシャフトにより駆動される可変油圧ポンプ11が設けられ、この可変油圧ポンプ11はオイルパン17に貯留されたオイルOを吸引し、吐出する。可変油圧ポンプ11はその容量が可変である。吸気カムシャフト4の内部にシャフト内油路20が設けられ(図2参照)、このシャフト内油路20と可変油圧ポンプ11とがオイル配管12により接続されている。オイル配管12にこれを開閉する制御弁13が設けられている。なお制御弁13の設置位置はこれに限らず、オイル配管12とシャフト内油路20の接続部としても良い。シャフト内油路20とオイル配管12により本発明の油路が形成される。
【0015】
可変油圧ポンプ11と制御弁13が電子制御ユニット(ECU)100により制御される。またECU100には、エンジン1の実際の吸入空気量を検出するためのエアフローメータ14と、エンジン回転速度を検出するためのクランク角センサ15と、スロットルバルブ9の開度を検出するためのスロットル開度センサ16とが接続されている。
【0016】
図2には、シリンダヘッド3の上面部上に配置された吸気カムシャフト4の周辺構造を示す。なお以下の説明において、吸気カムシャフト4の中心軸Cに対し半径方向外側を図2の様子に対応させて「上」ともいい、半径方向内側を「下」ともいう。また中心軸Cの方向を単に「軸方向」ともいい、軸方向において図2の右側を「前」、図2の左側を「後」ともいう。
【0017】
吸気カムシャフト4の内部には、その軸方向に沿ってシャフト内油路20が設けられている。吸気カムシャフト4は複数(一つのみ図示)の転がり軸受(図示例ではローラベアリング)30によって回転可能に支持されている。また吸気カムシャフト4には、吸気弁のバルブリフトを可変にするためのバルブリフト可変機構50が気筒毎に配設されている。
【0018】
転がり軸受30は、吸気カムシャフト4の外周部に嵌められる内輪31と、内輪31の半径方向外側に位置された外輪32と、これら内外輪の間に配置された転動体としての複数のローラ33と、これら複数のローラ33を周方向等ピッチに保持する保持器34とを有する。
【0019】
特に本実施形態の場合、軸方向に隣接する一対の転がり軸受を共通の外輪32で一体化するように構成されており、外輪32の軸方向中間部には半径方向内側に突出する中間壁35が設けられている。そしてこの中間壁35の軸方向両側(前後)のスペースに、それぞれローラ33、内輪31および保持器34が設けられている。
【0020】
バルブリフト可変機構50は、吸気カムシャフト4に固設された低リフト側カム(以下、ローカムという)51と、ローカム51に隣接され、吸気カムシャフト4に対し半径方向に出没可能な高リフト側カム(以下、ハイカムという)52と、これらローカム51およびハイカム52を適宜連結する連結ピン53と、ハイカムシリンダ54内に設けられたバネ55およびバネ座56とを備える。
【0021】
ハイカム52の半径方向内側にはガイドピン57とバネ58が設けられ、ハイカム52はバネ58によって半径方向外側に常時付勢されている。ガイドピン57は、その一端(図中上端)がハイカム52に固定されており、吸気カムシャフト4を径方向に貫通するガイド穴59内をフリーに移動できる。ハイカム52の半径方向内側への没入移動を許容するため、吸気カムシャフト4には没入穴60が設けられている。ガイドピン57の他端(図中下端)はハイカム52の穴61にフリーに挿入されている。
【0022】
連結ピン53は、ローカム51内に設けられたローカムシリンダ57にピストンの如く軸方向摺動可能に配設されている。連結ピン53の軸方向後方においてローカムシリンダ57はシャフト内油路20に連通されている。
【0023】
シャフト内油路20からローカムシリンダ57に油圧が送られると、図示するように、連結ピン53が軸方向前方(図の右側)に動き、バネ座56を介してバネ55を圧縮し、連結ピン53の前端部がハイカムシリンダ54内に挿入される。こうしてローカム51とハイカム52が連結ピン53によって連結され、ハイカム52はローカム51よりも半径方向外側に突出するようになる。そしてバルブリフト可変機構50は、ハイカム52によって吸気弁の開閉を行う高リフト側に切り替えられることとなる。
【0024】
他方、図示しないが、ローカムシリンダ57から油圧が排出されると、連結ピン53がバネ55に押されて軸方向後方(図の左側)に戻され、連結ピン53の前端部がハイカムシリンダ54から抜かれる。こうなるとローカム51とハイカム52とは非連結状態となり、ハイカム52はフリー状態となる。このときハイカム52が無負荷であれば、ハイカム52はバネ58に押されて図示するような突出状態となるが、ハイカム52に吸気弁押し下げ時のバルブリフト荷重が加わると、ハイカム52はバネ58を圧縮して没入穴60内に没入した状態となる。こうしてバルブリフト可変機構50は、ローカム51によって吸気弁の開閉を行う低リフト側に切り替えられることとなる。
【0025】
図2にも概略的に示されているように、シャフト内油路20の上流側には制御弁13が設けられ、さらにその上流側には可変油圧ポンプ11が設けられている。エンジン運転時、可変油圧ポンプ11は制御弁13に油圧ないしオイルを供給する。ECU100は、エンジン運転状態に基づき制御弁13を開閉制御し、これによりバルブリフト可変機構50を切替制御する。
【0026】
バルブリフト可変機構50を高リフト側に切り替えるための高リフト要求があるとき、ECU100は制御弁13を開弁し、可変油圧ポンプ11からの油圧をシャフト内油路20を通じてローカムシリンダ57に供給させる。これにより前記したようにバルブリフト可変機構50は高リフト側に切り替わる。
【0027】
他方、バルブリフト可変機構50を低リフト側に切り替えるための低リフト要求があるとき、ECU100は制御弁13を閉弁する。すると可変油圧ポンプ11からの油圧はシャフト内油路20に送られなくなり、同時に、シャフト内油路20およびローカムシリンダ57内の油圧は、制御弁13の排出ポートからオイルパン12に向けて排出される。これにより前記したようにバルブリフト可変機構50は低リフト側に切り替わる。
【0028】
本実施形態ではエンジン回転速度に応じてバルブリフト可変機構50を切り替えるようにしており、エンジン回転速度が所定値未満のときにはバルブリフト可変機構50を低リフト側に切り替え、エンジン回転速度が所定値以上のときにはバルブリフト可変機構50を高リフト側に切り替えるようにしている。なおエンジン回転速度に加え、エンジン負荷にも応じてバルブリフト可変機構50を切り替えるようにしてもよい。この場合、エンジン負荷が所定値未満のときには低リフト側に、エンジン負荷が所定値以上のときには高リフト側に、バルブリフト可変機構50を切り替える。
【0029】
さて、本実施形態においては転がり軸受30を保護するための装置が設けられており、以下これについて詳細に説明する。
【0030】
転がり軸受30は、シリンダヘッド3の上面に立設された軸受ボス(図示せず)と、軸受ボスに上方からボルト等によって取り付けられる軸受キャップ21とにより、上下から挟持されるようになっている。そして軸受キャップ21の内部には、逆止弁からなる保護弁40が設けられている。
【0031】
保護弁40は、軸受キャップ21の内部に設けられた弁穴41と、弁穴41の内部に配置されたボールからなる弁体42とを備える。弁穴41は、カムシャフト半径方向すなわち図の上下方向に延びる中心軸を有し、その上端はプラグ22で塞がれている。弁穴41の下端にはテーパ面状の弁座43が形成され、弁体42は弁座43に常時押し付けられるようコイルバネ44によって付勢されている。コイルバネ44は、プラグ22と弁体42の間に圧縮状態で配置され、プラグ22から突出されたガイド軸23の周りに配置されている。
【0032】
外輪32の中間壁35には上下に延びる中間壁穴36が設けられている。中間壁穴36の上端は弁座43の中心部に開放され、中間壁穴36の下端は中間壁35の下端面ないし内周面に開放されている。この中間壁穴36の下端に連通するよう、シャフト内油路20から分岐された分岐油路24が、軸方向のほぼ同じ位置にて吸気カムシャフト4の外周面で開放されている。これら開放端同士の隙間は、中間壁穴36の下端の前後両側に設けられたシールリング38によってシールされる。
【0033】
一方、弁穴41と、軸方向前後のローラ33とを連通する各一対のキャップ穴25および外輪穴37が、軸受キャップ21および外輪32にそれぞれ設けられる。
【0034】
この構成によれば、分岐油路24、中間壁穴36、キャップ穴25および外輪穴37が、連通路Rを形成する。そしてこの連通路Rに保護弁40が設けられていることとなる。これら連通路Rおよび保護弁40内には常時オイルが満たされている。
【0035】
本実施形態の作動に関して、通常、弁体42が弁座43に押し付けられ、保護弁40が閉弁状態にある。バルブリフト可変機構50を高リフト側に切り替えるべくシャフト内油路20に油圧が供給されたとしても、保護弁40は閉弁状態に維持される。従って通常は保護弁40がバルブリフト可変機構50の作動に何等影響を及ぼさない。
【0036】
しかし、転がり軸受30に、ローラ33が偏摩耗したり脱落しかけたりするなどの異常(特に初期異常)が発生すると、転がり軸受30に異常振動が発生し、弁体42とローラ33の間の連通路R内の油圧(すなわち弁穴41、キャップ穴25および外輪穴37内の油圧)が著しく変動する。このとき、弁穴41内の油圧が低下したタイミングで、弁体42がコイルバネ44の力に逆らって上方に動き、保護弁40が開弁する。
【0037】
こうなると、シャフト内油路20のオイルが連通路Rおよび保護弁40を通過して転がり軸受30(特にそのローラ33)に流れ、転がり軸受30が積極的に給油されるようになる。よって、転がり軸受30の摩耗進行や異音発生を防止あるいは抑制でき、転がり軸受30を保護し、ひいてはその延命を図ることができる。
【0038】
一方、このときシャフト内油路20の油圧が低下するため、たとえ高リフト要求があったときでもバルブリフト可変機構50が実際に高リフト側に切り替わるのを抑制あるいは防止し、バルブリフト可変機構50を可能な限り低リフト側に維持することができる。そして、転がり軸受30に対するバルブリフト荷重を低減し、このことによっても転がり軸受30を保護することができる。
【0039】
このように、転がり軸受30の異常振動に応答して機械的に開弁する保護弁40を設けたので、転がり軸受30を好適に保護することが可能である。
【0040】
ところで、かかる保護弁40を設けた結果、転がり軸受30の異常振動発生時にバルブリフト量が正常時から変化する。従ってこの変化を検知することによって転がり軸受30の異常を検知することが可能である。
【0041】
本実施形態では、エンジン1の実際の吸入空気量をエアフローメータ14により検出すると共に、エンジン1の吸入空気量を別途ECU100によりエンジン運転状態に基づいて推定する。そして、バルブリフト可変機構50を高リフト側に切り替えるための高リフト要求があったとき、検出された実際の吸入空気量と推定された推定吸入空気量とを比較する。この比較結果に応じて転がり軸受30が正常か異常かを診断する。
【0042】
高リフト要求があったとき、転がり軸受30の正常時であればバルブリフト可変機構50が高リフト側に切り替えられ、実際の吸入空気量は多くなる。しかし、転がり軸受30が異常だとバルブリフト可変機構50が高リフト側に切り替えられず、実際の吸入空気量は正常時より少なくなる。よって実際の吸入空気量と推定吸入空気量とを比較し、前者が後者より少なければ、転がり軸受30を異常と判定することができる。
【0043】
ここで、推定吸入空気量は、例えばクランク角センサ15により検出されたエンジン回転速度と、スロットル開度センサ16により検出されたスロットル開度とに基づき、所定のマップから推定される。但し推定の基礎となるパラメータはこれら以外のものを用いてもよい。当然に、推定される吸入空気量の値は、転がり軸受30が正常という前提条件の下で算出される値である。
【0044】
ここで別法として、転がり軸受30の異常振動を振動センサで検知して転がり軸受の異常を診断することが考えられる(例えば特許文献1参照)。しかしこれだと、振動の多いシリンダヘッド内に、転がり軸受毎に振動センサを設けなければならず、また各振動センサからECUに至る複数のワイヤーハーネスを設けなければならない。よって、振動センサの故障やワイヤーハーネス断線の虞があり、振動センサの出力信号に多大なノイズが加わって誤検出する虞もある。さらに振動センサで異常振動を検知したときに転がり軸受に給油する給油装置を設けたとすると、給油装置を構成する弁や配管を転がり軸受周辺に設置しなければならず、構造が著しく複雑化し、周辺構造の剛性低下により軸受が故障しやすくなる可能性もある。
【0045】
本実施形態では、シリンダヘッド内に電気的構成を設けずに転がり軸受の異常を診断している。よってこれらの問題を一挙に解決することが可能である。
【0046】
ところで、転がり軸受30が異常と診断されたとき、転がり軸受30に対するバルブリフト荷重をできるだけ低減するのが好ましい。このため、本実施形態では、転がり軸受30が異常と診断されたとき、ECU100により制御弁13を常時開弁し、且つ可変油圧ポンプ11をその吐出油量が所定値以下に制限されるよう制御することとしている。
【0047】
制御弁13を常時開弁すると、高リフト要求があった場合のみならず、低リフト要求があった場合にも、可変油圧ポンプ11からバルブリフト可変機構50に油圧が供給されるようになる。ここで可変油圧ポンプ11はクランクシャフトによって駆動されるものであり、その容量が一定ならば、クランクシャフトの回転上昇(すなわちエンジン回転速度上昇)とともに、単位時間当たりに吐出される油量は増加する。従ってバルブリフト可変機構50に供給される油圧が上昇し、バルブリフト可変機構50が高リフト側に切り替わって、転がり軸受30に対するバルブリフト荷重が増大する虞がある。
【0048】
しかし、本実施形態では、バルブリフト可変機構50が高リフト側に切り替わらないよう、エンジン回転速度上昇時に可変油圧ポンプ11の容量を低下させ、可変油圧ポンプ11の吐出油量を所定値以下に制限する。
【0049】
こうすることで、バルブリフト可変機構50を低リフト側に維持し、転がり軸受30に対するバルブリフト荷重の増大を防止することができる。また制御弁13を常時開弁するので、可変油圧ポンプ11から吐出されたオイルを常時積極的に転がり軸受30に供給することができ、転がり軸受30のより積極的な保護を図ることができる。
【0050】
図3に、本実施形態に係る軸受保護装置の制御ルーチンを示す。このルーチンはECU100により所定の演算周期(例えば16msec)毎に繰り返し実行される。
【0051】
まずステップS101では、異常フラグがオンであるか否かが判断される。ノーのときはステップS102に進み、イエスのときはステップS108に進む。
【0052】
ステップS102では、高リフト要求があるか否かが判断される。すなわちECU100は、検出された実際のエンジン回転速度が所定値(例えば4000rpm)以上のときには高リフト要求ありと判断し、実際のエンジン回転速度が所定値未満のときには高リフト要求なし(すなわち低リフト要求あり)と判断する。
【0053】
高リフト要求なしと判断された場合、ステップS103に進んで制御弁13が閉弁される。これにより可変油圧ポンプ11からの油圧はバルブリフト可変機構50に供給されず、バルブリフト可変機構50は低リフト側とされる。
【0054】
他方、高リフト要求ありと判断された場合には、ステップS104に進んで制御弁13が開弁される。これにより可変油圧ポンプ11からの油圧がバルブリフト可変機構50に供給されるようになり、バルブリフト可変機構50は高リフト側とされる。
【0055】
次いでステップS105では、検出された実際の吸入空気量Gaと、推定された推定吸入空気量Gaeとが比較される。具体的には、推定吸入空気量Gaeから実際の吸入空気量Gaを減じてなる差Gae−Gaが、所定値α(>0)より大きいか否かが判断される。
【0056】
Gae−Ga>αの場合、実際の吸入空気量Gaが推定吸入空気量Gaeより顕著に少なく、その原因は転がり軸受30の異常にあるとみなして、ステップS106で異常フラグがオンされる。これにより転がり軸受30は異常と診断される。この場合、警告灯を点灯するなどして異常の事実をユーザに知らせるのが好ましい。
【0057】
他方、Gae−Ga≦αの場合、実際の吸入空気量Gaが推定吸入空気量Gaeにほぼ等しく、転がり軸受30は正常とみなして、ステップS107で異常フラグがオフされる。これにより転がり軸受30は正常と診断される。
【0058】
一方、ステップS101で異常フラグがオンと判断された場合、すなわち転がり軸受30が既に異常と診断されている場合、ステップS108に進んで制御弁13が開弁される。
【0059】
そしてステップS109に進んで、バルブリフト可変機構50が高リフト側に切り替わらないよう、可変油圧ポンプ11の容量ひいては吐出油量が制御され、その吐出油量が所定値以下に制限される。特にバルブリフト可変機構50を高リフト側に切り替えてしまうようなエンジン回転速度のときに、可変油圧ポンプ11の容量が正常時よりも低下され、その吐出油量が低下される。なお容量を低下させる代わりに、入力回転速度に対するポンプインペラ回転速度を低下させるようにしても良い。
【0060】
これによりバルブリフト可変機構50の高リフト側への切り替えを防止し、転がり軸受30をより積極的に保護することができる。
【0061】
次に、他の実施形態について説明する。
【0062】
図4には、第1変形例を示す。この第1変形例は、図2に示した基本実施形態と比較して、保護弁周辺の構造が異なるのみである。よって同一の構成要素には図中同一符号を付し、説明を省略する。
【0063】
この第1変形例にあっては、基本実施形態と比較して、保護弁40Aにおける弁体42の配置が上下逆であり、弁体42はコイルバネ44によって上方のテーパ状弁座43に常時押し付けられるよう付勢されている。これら弁体42およびコイルバネ44は、軸受キャップ21の内部に設けられた上下に延びる弁穴41に収容されている。
【0064】
弁座43は、弁穴41を上方から塞ぐプラグ22Aの下面に形成されている。プラグ22Aの内部にはプラグ内油穴26が形成されている。プラグ内油穴26は、弁座43の中心部に開放されると共に、二つのキャップ穴25にも開放され、弁穴41と二つのキャップ穴25とを連通する。
【0065】
この構成によれば、分岐油路24、中間壁穴36、プラグ内油穴26、キャップ穴25および外輪穴37が、連通路RAを形成する。そしてこの連通路RAに保護弁40Aが設けられていることとなる。
【0066】
この第1変形例の作動に関して、通常、弁体42が弁座43に押し付けられ、保護弁40Aが閉弁状態にある。そして仮に制御弁13が開弁されているとすると、エンジン回転速度が上昇するにつれ可変油圧ポンプ11からの供給油圧が高まり、当該供給油圧により弁体42を閉弁方向に付勢する力(すなわち閉弁力)が高まる。
【0067】
転がり軸受30が正常だが、エンジン回転上昇と共に転がり軸受30(特にローラ33)の振動が大きくなった場合、その振動によって弁体42およびローラ33間の油圧変動が大きくなり、基本実施形態の場合だとその油圧変動により弁体42が誤って開弁してしまう虞がある。
【0068】
しかし、第1変形例の場合だと、エンジン回転上昇と共に閉弁力が高まるので、弁体42が誤って開弁するのを防止することができる。
【0069】
他方、第1変形例の場合、エンジン回転速度が低いときには閉弁力も低いので、転がり軸受30の異常時、エンジン回転速度が低くローラ33の振動が小さい場合でも、その振動により弁体42を開弁し、ローラ33への給油を実行することが可能である。
【0070】
図5には、第2変形例を示す。この第2変形例は、図4に示した第1変形例と比較して、保護弁の構造が異なるのみである。よって同一の構成要素には図中同一符号を付し、説明を省略する。
【0071】
この第2変形例にあっては、第1変形例と比較して、保護弁40Bにおける弁体42がさらに1個追加されている点が異なる。すなわち、追加の下側弁体42Bは、コイルバネ44によって下方のテーパ状下側弁座43Bに常時押し付けられるよう付勢されている。第1変形例にもあった上側弁体42と、追加の下側弁体42Bと、コイルバネ44とは、軸受キャップ21の内部に設けられた弁穴41Bに収容されている。コイルバネ44は上側弁体42と下側弁体42Bとの間に、互いを対応する弁座に押し付けるよう配置されている。下側弁座43Bは、図2に示した基本実施形態と同様、弁穴41Bの下端に形成されている。
【0072】
この第2変形例の作動に関して、仮に制御弁13が開弁されているとすると、シャフト内油路20の油圧が下側弁体42Bを開弁させるような圧力(すなわち開弁圧)に達したとき、下側弁体42Bが開弁され、オイルが弁穴41B内に供給される。また制御弁13が閉弁されたり、シャフト内油路20の油圧が開弁圧より低下したりすると、下側弁体42Bが閉弁され、オイルが弁穴41B内に残留される。
【0073】
つまり、弁穴41B内には加圧オイルが常時充満されていることになる。よって仮に、制御弁13の閉弁時に転がり軸受30の異常振動が発生したとしても、上側弁体42を開いて、弁穴41B内の加圧オイルを転がり軸受30に供給できる。よって転がり軸受30の好適な保護を図ることができる。
【0074】
本発明はさらなる他の実施形態を採ることも可能である。例えば内燃機関の用途や形式等は任意であり、自動車用以外であってもよい。本発明が適用される転がり軸受は排気カムシャフトを支持するものであってもよいし、ボールベアリング等からなってもよい。バルブリフト可変機構の種類や構造も任意であり、上述のものに限定されない。上記オイル配管12の代わりに、エンジン本体内に形成した油路によって、可変油圧ポンプからのオイルをシャフト内油路に導いても良い。またバルブリフト可変機構に油圧を供給する油路は、シャフト内油路とせず、独立配管としてもよい。油圧ポンプは可変式が好ましいが、必ずしもそうでなくてもよい。
【0075】
本発明には、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 内燃機関
4 吸気カムシャフト
11 可変油圧ポンプ
12 オイル配管
13 制御弁
14 エアフローメータ
15 クランク角センサ
16 スロットル開度センサ
20 シャフト内油路
30 転がり軸受
31 内輪
32 外輪
33 ローラ
34 保持器
50 バルブリフト可変機構
40,40A,40B 保護弁
R,RA 連通路
100 電子制御ユニット(ECU)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のカムシャフトを支持する転がり軸受を保護するための軸受保護装置であって、
バルブリフトを可変にするためのバルブリフト可変機構と、
前記バルブリフト可変機構に油圧を供給するための油路と、
前記転がり軸受および前記油路を連通する連通路と、
前記連通路に設けられ、前記転がり軸受の異常振動に応答して機械的に開弁する保護弁と、
を備えたことを特徴とする軸受保護装置。
【請求項2】
前記バルブリフト可変機構は、供給油圧が高いときに高リフト側に切り替わり、供給油圧が低いときに低リフト側に切り替わる
ことを特徴とする請求項1に記載の軸受保護装置。
【請求項3】
前記内燃機関の実際の吸入空気量を検出する検出手段と、
前記内燃機関の吸入空気量を推定する推定手段と、
前記バルブリフト可変機構を高リフト側に切り替えるための高リフト要求があったとき、前記検出手段によって検出された実際の吸入空気量と、前記推定手段によって推定された推定吸入空気量とを比較し、その比較結果に応じて前記転がり軸受が正常か異常かを診断する診断手段と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の軸受保護装置。
【請求項4】
前記油路に油圧を供給するための可変油圧ポンプと、
前記油路に設けられた制御弁と、
前記診断手段によって前記転がり軸受が異常と診断されたとき、前記制御弁を常時開弁し、前記可変油圧ポンプをその吐出油量が所定値以下に制限されるよう制御する制御手段と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載の軸受保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−220303(P2011−220303A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93160(P2010−93160)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】