軸受嵌入装置および軸受嵌入方法
【課題】 2つの軸受の各々が有する外輪のそれらが組み付けられるハウジングへの嵌入作業を、迅速に行うことが可能な軸受嵌入装置を提供する。
【解決手段】 軸受嵌入装置を、上記2つの外輪30,32の各々をハウジング12に設けられた軸受収容凹所46,48の各々の軸線上の外側に位置するように保持する2つの保持具152,250と、それらの保持具を接近させる方向に相対移動させる保持具相対移動装置104とを備えるように構成し、その保持具相対移動装置によって2つの保持具を相対移動させることによって2つの外輪を相対接近させ、2つの外輪をハウジングに一度に嵌入させる。その軸受嵌入装置を用いれば、2つ保持具の相対接近移動という1つの動作によって、2つの外輪を一時期に嵌入させることができ、2つの外輪の嵌入作業を迅速に行うことが可能となる。
【解決手段】 軸受嵌入装置を、上記2つの外輪30,32の各々をハウジング12に設けられた軸受収容凹所46,48の各々の軸線上の外側に位置するように保持する2つの保持具152,250と、それらの保持具を接近させる方向に相対移動させる保持具相対移動装置104とを備えるように構成し、その保持具相対移動装置によって2つの保持具を相対移動させることによって2つの外輪を相対接近させ、2つの外輪をハウジングに一度に嵌入させる。その軸受嵌入装置を用いれば、2つ保持具の相対接近移動という1つの動作によって、2つの外輪を一時期に嵌入させることができ、2つの外輪の嵌入作業を迅速に行うことが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸体を軸保持体に回転可能に保持させる2つの軸受若しくはそれの外輪を軸保持体に嵌入するための装置、および、2つの軸受若しくはそれの外輪を軸受保持体に嵌入するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転可能な軸体を有する組立体においては、軸体を軸保持体に回転可能に保持させるために、軸受が用いられる。ラジアル方向の荷重を受ける状態で軸体を軸保持体に保持させるためには、通常、2つの軸受が軸線方向に離間した位置において互いに同軸的に配設される。その場合、それら軸受は、軸保持体に互いに背向して形成された2つの軸受収容凹所に嵌入(例えば、圧入)させらた状態で組み込まれることが一般的である。2つの軸受が1対のアンギュラ軸受である場合には、それらアンギュラ軸受の外輪(アウタレース)のみが、先行して嵌入させられることも多い。このような2つの軸受を有する組立体の組立において、2つの軸受あるいはそれの外輪(以下、「軸受等」と略する場合がある)の軸保持体への嵌入は、現状では、1個ずつ行われている。詳しく言えば、2つの軸受等の一方のみを嵌入させ、その嵌入後に、2つの軸受等の他方を嵌入させることが、一般的に行われているのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように、2つの軸受等を1個ずつ軸保持体に嵌入させることは、組立体の組立作業における作業工数を増加させる一因となっている。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、2つの軸受等の軸保持体への嵌入作業を迅速に行うことが可能な軸受嵌入装置および軸受嵌入方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、軸体を軸保持体にそれを貫通する状態で回転可能に保持させるべくそれらの間に軸線方向において互いに離間して配設されて少なくともラジアル力を受ける2つの軸受等の各々を、前記軸保持体に軸線方向において互いに背向して設けられた2つの軸受収容凹所の各々に嵌入させる作業に適用されるものであり、本発明の軸受嵌入装置は、2つの軸受等の各々をそれらが2つの軸受収容凹所の各々に対応する所定の位置に位置するように保持する2つの保持具と、それらの保持具を接近させる方向に相対移動させる保持具相対移動装置とを備えて、その保持具相対移動装置によって2つの保持具を相対移動させることによって2つの軸受等を接近させ、2つの軸受等を軸保持体に嵌入させることを特徴とする。また、本発明の軸受嵌入方法は、2つの軸受等の各々を2つの軸受収容凹所の各々に対する所定の位置に位置させ、それら2つの軸受等を互いに接近する向きに相対移動させることによって、それら2つの軸受等を軸保持体に嵌入させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の軸受嵌入装置によれば、上記2つ保持具の相対接近移動という1つの動作によって、2つの軸受等を一時期に軸保持体に嵌入させることができ、また、本発明の軸受嵌入方法によれば、上記2つの軸受等の相対接近という1つのプロセスによって、2つの軸受等を一時期に軸保持体に嵌入させることができる。したがって、本発明の軸受嵌入装置あるいは軸受嵌入方法によれば、2つの軸受等の軸保持体への嵌入作業を迅速に行うことが可能となる。
【発明の態様】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、以下の各項において、(1)項ないし(6)項の各々が請求項1ないし請求項6の各々に相当し、(11)項ないし(13)項の各々が請求項7ないし請求項9の各々に相当する。
【0007】
(1)軸体を軸保持体にそれを貫通する状態で回転可能に保持させるべくそれらの間に軸線方向において互いに離間して配設されて少なくともラジアル力を受ける2つの軸受若しくはそれの外輪の各々を、前記軸保持体に軸線方向において互いに背向して設けられた2つの軸受収容凹所の各々に嵌入させる軸受嵌入装置であって、
(A)前記2つの軸受若しくはそれの外輪の一方を、前記2つの軸受収容凹所の一方の外側において軸線上に位置させる状態で保持する第1保持具と、(B)前記2つの軸受若しくはそれの外輪の他方を、前記2つの軸受収容凹所の他方の外側において軸線上に位置させる状態で保持する第2保持具と、(C)前記第1保持具と前記第2保持具とを、軸線方向においてそれらが接近する向きに相対移動させる保持具相対移動装置とを備え、その保持具相対移動装置によって第1保持具と前記第2保持具とを相対移動させることで、前記2つの軸受若しくはそれの外輪を、軸線方向においてそれらが接近する向きに相対移動させて、それらの各々を前記2つの軸受収容凹所の各々に嵌入させることを特徴とする軸受嵌入装置。
【0008】
本項にいう「保持具相対移動装置」は、上記2つの保持具を別個独立に移動させるものではなく、1つの動作によって2つの保持具を相対移動させるものを意味する。そのような保持具相対移動装置によって、2つの保持具を相対接近移動させれれば、それら2つの保持具の各々に保持された2つの軸受等の各々を、軸保持体に、詳しくは、軸保持体に設けられた上記2つの軸受収容凹所の各々に、1つの動作によって一時期に嵌入させることが可能となる。したがって、本項の態様の軸受嵌入装置によれば、迅速に2つの軸受等を軸保持体に嵌入させることが可能となる。
【0009】
本項の軸受嵌入装置が嵌入の対象とする軸受等は、滑り軸受であってもよく、転がり軸受であってもよい。また、ラジアル軸受であっても、アンギュラ軸受であってもよい。具体的には、例えば、玉,ころ,ニードル等を転動体とするラジアル転がり軸受,アンギュラ転がり軸受が対象となる。特に、アンギュラ転がり軸受等では、それが有する外輪のみが軸保持体に嵌入される場合があり、そのような場合において、上記2つの軸受等の一方あるいは両方として、それらの軸受が有する外輪を、本項の軸受嵌入装置の嵌入の対象とすることが可能である。
【0010】
一般に、軸受収容凹所に軸受等を嵌入させる場合、軸受等の嵌入端が軸受収容凹所の底部に当接するまで嵌入させる。そのことに鑑みれば、2つの保持具の相対接近距離を、嵌入後における2つの軸受等の嵌入端の離間距離に応じて設定することにより、2つの軸受等の各々の嵌入深さを適切な深さとすることが可能となる。また、2つの軸受等の両者の嵌入端が軸受収容凹所の底部に当接した時点において、2つの保持具の相対移動に対する負荷が急増することになるため、その負荷の変化を検知することによっても、適切な嵌入深さの嵌入が実行可能である。
【0011】
(2)前記2つの軸受若しくはそれの外輪の各々の前記2つの軸受収容凹所の各々への嵌入時において、前記第1保持具と前記保持具相対移動装置とが軸線方向に相対移動不能とされるとともに、前記保持具相対移動装置が、前記第2保持具を前記第1保持具に向かって移動させる構造とされた(1)項に記載の軸受嵌入装置。
【0012】
嵌入時において、つまり、嵌入の動作を保持具相対移動装置が行っている時において、2つの保持具の両者を保持具相対移動装置に対して軸線方向に移動可能な構造とすることもできるが、本項の態様のように、嵌入時において一方の保持具と保持具相対移動装置との相対移動が不能な構造とすることにより、当該軸受嵌入装置の構造の簡便化が図れることになる。なお、本項の態様は、嵌入時以外において、上記第1保持具と保持具相対移動装置との相対移動を許容するような構造が排除されるものではない。例えば、嵌入動作が開始される位置までの第1保持具の軸保持体への接近動作、嵌入完了後の第1保持具の軸保持体からの退避動作等において、第1保持具と保持具相対移動装置との相対移動が行われる態様も、本項の態様に含まれるのである。
【0013】
(3)前記軸保持体を支持する軸保持体支持具を備えるとともに、その軸保持体支持具と前記保持具相対移動装置との軸線方向における相対移動を許容する支持具・装置相対移動許容機構を備えた(2)項に記載の軸受嵌入装置。
【0014】
2つの軸受等を互いに背向する2つの軸受収容凹所の各々に嵌入させる場合、径,嵌入代等の相違によって、一方の軸受等の一方の軸受収容凹所への嵌入抵抗と、他方の軸受等の他方の軸受収容凹所への嵌入抵抗とが相違する場合がある。そのような場合、いずれかの軸受等の嵌入が先行して行われ、その嵌入後に残る軸受等の嵌入が行われるといった現象が生じ得る。本項の態様は、そのような実情に考慮してなされたものであり、本項の態様によれば、そのような現象が生じる場合であっても、2つの軸受等の適切な嵌入が担保される。なお、軸保持体支持具は、軸保持体が載置される台のようなものが相当するが、軸保持体を直接的に支持するものに限定されず、搬送用パレット等、何らかの部品,部材を介在させた状態で、軸保持体を間接的に支持するものであってもよい。
【0015】
(4)前記軸保持体支持具が軸線方向に移動不能とされ、前記保持具相対移動装置が軸線方向に移動可能とされた(3)項に記載の軸受嵌入装置。
【0016】
本項の態様は、上記態様において、軸保持体支持具の位置を固定し、保持具相対移動装置の移動を許容する態様である。軸保持体の脱着,搬出入を考慮した場合、作業性の観点からは、軸保持体支持具の位置が固定されていることが望ましい。本項の態様によれば、軸保持体支持具が軸線方向に移動不能とされているため、作業性の良好な軸受嵌入装置が実現する。
【0017】
(5)前記第1保持具および前記第2保持具の各々が、軸線方向に貫通する貫通穴を有するものとされ、
前記保持具相対移動装置が、(a)前記第1保持具および第2保持具との両者を貫通可能とされ、それら両者を貫通する状態において前記第2保持具の前記第1保持具とは反対側に位置する部分を掛止可能な掛止部を有するロッドと、(b)そのロッドを軸線方向に移動させるロッド移動装置とを含んで構成され、前記掛止部が前記第2保持具を掛止する状態において前記ロッドを前記第2保持具から第1保持具に向かう方向に移動させることによって、前記第1保持具と前記第2保持具とをそれらが接近する向きに相対移動させる構造とされた(2)項ないし(4)項のいずれかに記載の軸受嵌入装置。
【0018】
本項の態様は、簡単に言えば、2つの保持具にロッドを貫通させ、一方の保持具に向かって他方の保持具を引き込むようにして2つの軸受等を嵌入させるように構成した態様である。したがって、本項の態様は、第1保持具の側に保持具相対移動装置の殆どの部分を配設して嵌入作業が行えるという利点を有する。例えば、軸保持体の形状等によって他方の側における嵌入作業が困難な場合等において、有効な態様となる。また、本項に記載の態様によれば、ロッド対しては、軸線方向に沿った引張力のみが作用することになり、軸線に対して傾くような力が作用しないことから、比較的容易にかつ適正な嵌入作業が実行可能である。
【0019】
(6)前記ロッド移動装置が、前記ロッドを、前記第1保持具と前記第2保持具との両者に貫通する位置と、前記第2保持具に貫通しない位置との間で軸線方向に移動させるものとされ、
前記保持具相対移動装置が、前記ロッドが前記第1保持具と前記第2保持具との両者を貫通する状態において、前記掛止部による第2保持具の掛止の有無を切換える掛止状態切換機構を有する(5)項に記載の軸受嵌入装置。
【0020】
上記ロッドを貫通させて嵌入を行う態様では、軸保持体の脱着等の際には、少なくとも一方の保持具からロッドが退避していることが望ましい。本項に記載の態様は、そのことを考慮した態様であり、嵌入動作が行われる場合には、ロッドが2つの保持具に貫通して一方の保持具を掛止する状態とし、嵌入動作が行われていない場合において、ロッドが少なくとも一方の保持具から抜き出された状態とすることを可能とする態様である。
【0021】
(11)軸体を軸保持体にそれを貫通する状態で回転可能に保持させるべくそれらの間に軸線方向において互いに離間して配設されて少なくともラジアル力を受ける2つの軸受若しくはそれの外輪の各々を、前記軸保持体に軸線方向において互いに背向して設けられた2つの軸受収容凹所の各々に嵌入させる軸受嵌入方法であって、
前記2つの軸受若しくはそれの外輪の各々を、前記2つの軸受収容凹所の各々の外側において軸線上に位置させ、
前記2つの軸受若しくはそれの外輪を、軸線方向においてそれらが接近する向きに相対移動させて、それらの各々を前記2つの軸受収容凹所の各々に嵌入させることを特徴とする軸受嵌入方法。
【0022】
本項にいう2つの軸受等の相対移動は、それらを別個独立に移動させることではなく、1つの動作によって2つの軸受等を相対移動させることを意味する。そのようにして2つの軸受等を相対接近させる本項の態様によれば、2つの軸受等の各々を、軸保持体に、1つのプロセスによって一時期に嵌入させることが可能となる。したがって、本項の態様の軸受嵌入方法によれば、迅速に2つの軸受等を軸保持体に嵌入させることが可能となる。
【0023】
本項を始めとする以下の態様は、軸受嵌入方法の各種態様である。請求可能発明としての軸受嵌入方法は、その技術的特徴が先に説明した軸受嵌入装置と共通するものであることから、軸受嵌入方法の説明については省略するものとする。また、具体的な態様の記載は省略するが、上記軸受嵌入装置の各態様の技術的特徴を取り入れた各種態様の軸受嵌入方法も、請求可能発明となり得る。
【0024】
(12)前記2つの軸受もしくはそれの外輪の一方と、それらの他方と、前記軸保持体とのうちのいずれか1つのものの軸線方向の移動を禁止する状態において、前記2つの軸受若しくはそれの外輪を、軸線方向においてそれらが接近する向きに相対移動させる(11)項に記載の軸受嵌入方法。
【0025】
本項の態様は、前述したところの、2つの軸受等の嵌入抵抗が異なる場合において、有効的な態様である。
【0026】
(13)前記軸保持体の軸線方向の移動を禁止する状態において、前記2つの軸受若しくはそれの外輪を、軸線方向においてそれらが接近する向きに相対移動させる(12)項に記載の軸受嵌入方法。
【0027】
本項に記載の態様によれば、先に説明したところの、軸保持体を固定することによる利点を享受することが可能である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0029】
<軸受嵌入装置の作業対象物>
実施例の軸受嵌入装置は、車両用の終減速装置の組立作業の一部を分担する装置である。その終減速装置の組立途中のものである中間組立体を、図1〜図3に示す。図1は正面図、図2は側面断面図であり、図3は、側面断面における分解図である。中間組立体10は、軸保持体としてのハウジング12と、ハウジング12に回転可能に保持される軸体としてのかさ歯車14(「ピニオン」と呼ぶこともできる)とを含んで構成されている。ハウジング12の中には、デファレンシャルケースとそれの内部に配置された差動小歯車および差動大歯車からななる差動装置(図示を省略)が配設され、かさ歯車14は、当該終減速装置における入力歯車としての減速小歯車として機能し、デファレンシャルケースの外部に設けられた減速大歯車と噛合するようにされている。
【0030】
ハウジング12には、保持穴16が設けられており、ハウジング12は、その保持穴16においてかさ歯車14を保持する。かさ歯車14は、軸部18と、軸部18の図における上端部に軸部18と一体に設けられた歯車部20と、軸部18の図における下端部に軸部18と一体的に形成されて外周にセレーションが形成されたセレーション部22とを含んで構成されており、軸部18が、ハウジング12の保持穴16に、2つのアンギュラ円すいころ軸受26,28(以下、単に、「アンギュラ軸受26,28」という場合がある)を介して保持されることで、かさ歯車14が、ハウジング12に対して回転可能とされている。
【0031】
さらに詳しく説明すれば、2つのアンギュラ軸受26,28は、それぞれ、外輪であるアウターレース30,32と、内輪であるインナレース34,36と、リテーナ38,40によって保持されてアウタレース30,32とインナレース34,36との間に介装された転動体としての複数の円すいころ42,44とを含んで構成されており、アウタレース30,32の各々が、ハウジング12に設けられた保持穴16の構成部分である軸受収容部46,48(それぞれが、「軸受収容凹所」として機能する)の各々に嵌め入れられ、インナレース34,36の各々に、かさ歯車14の軸部18における大径部50と小径部52の各々が嵌め入れられている。軸受収容部46と軸受収容部48との間の内径が小さくされている部分(以下、「接近禁止部54」と呼ぶことがある)、つまり、2つの軸受収容凹所の各々の底面によって区画された部分は、アンギュラ軸受26,28の各々のアウタレース30,32によって挟まれ、それらアウタレース30,32の相互接近を禁止する部分とされている。
【0032】
軸部18には環状のワッシャ56が嵌められており、そのワッシャ56は、図の上方に位置するアンギュラ軸受26のインナレース34とかさ歯車14の歯車部20の下端面との間に挟まれている。また、軸部18には、軸方向の中央部が全周にわたって径方向に突出する短い筒状のスペーサ58が嵌められており、そのスペーサ58は、アンギュラ軸受26,28の各々のインナレース34,36の間に挟まれている。さらに、軸部18の図における下部には雄ねじが形成された雄ねじ部60とされており、その雄ねじ部60に締付ナット62(六角ナットである)が螺合させられることで、インナレース34,36は、それらの間にスペーサ58が介装される状態で、歯車部20と締付ナット62とによって挟持されている。
【0033】
締付ナット62を回転させて2つのアンギュラ軸受26,28を締め付けることにより、インナレース34,36は相互に接近する方向の力を受ける状態となり、その状態において、かさ歯車14のハウジング12に対する軸方向の位置が固定されることになる。ちなみに、スペーサ58は、2つのアンギュラ軸受26,28が締め付けられた状態において、軸方向の寸法が縮むように塑性変形させられるが、スプリングバックにより、インナレース34,36が相互に離間する方向の力を発生させ、締付ナット62の緩みを効果的に防止している。
【0034】
本実施例の軸受嵌入装置は、上記中間組立体10の組付作業の一部であるアウタレース嵌入作業(軸受嵌入作業の一種である)を実行する。この作業は、図4(図4(a)は嵌入前の状態を、図4(b)は嵌入後の状態をそれぞれ示す)に示すように、ハウジング12に設けられた軸受収容部46,48の各々に、アンギュラ軸受26,28のアウタレース30,32に各々を嵌入させる作業である。なお、アウタレース30,32の各々の外径は、軸受収容部46,48の各々の内径より僅かに大きくされ、アウタレース30,32は、それぞれ、軸受収容部46,48に圧入によって嵌入させられる。
【0035】
なお、以後の説明において、アンギュラ軸受26,28およびそれらのアウタレース30,32を呼び分ける場合には、「上側アンギュラ軸受26」,「下側アンギュラ軸受28」、「上側アウターレース30」,「下側アウターレース32」と呼ぶこととし、軸受収容部46,48を呼び分ける場合には、「上側軸受収容部46」,「下側軸受収容部48」と呼ぶこととする。
【0036】
<軸受嵌入装置の構成>
本実施例の軸受嵌入装置の正面図を図5に、右側面図を図6にそれぞれ示す。軸受嵌入装置100は、大まかに言えば、装置本体102と、装置本体102に設けられて嵌入作業を行うための主要装置である嵌入作業実行装置104と、装置本体102の上部に配設された補助的な装置である上部装置106と、嵌入作業の対象となるハウジング12を作業位置に搬入するための搬入コンベヤ装置108と、ハウジング12を作業位置から搬出するための搬出コンベヤ装置110とを含んで構成されている。
【0037】
装置本体102は、ベース120と、ベース120に立設された4本のコラム(支柱)122と、それらコラム122によって支持された台板124と、台板124に立設され門型をなすフレーム126と、フレーム126に立設された2枚の支持板128とを含んで構成されている。台板124の中央部の上面には、概して板状に形成された1対の支持部材130が前後に平行に並ぶ状態で立設固定されており、それら支持部材130は、軸保持体支持具として機能し、断面が概してL字状をしたパレット132(後に詳しく説明する)に乗せられたハウジング102を、嵌入作業が行われる位置である嵌入作業位置において固定支持する。また、台板124には、搬入コンベヤ装置108,搬出コンベヤ装置110の各々の一端部が固定されている(図6では図示を省略)。ちなみに、2つの支持部材130の上面と搬入コンベヤ装置108および搬出コンベヤ装置110の搬送面とは同じ高さ位置とされており、パレット132がそれらの間を容易に乗り移れるようになっている。
【0038】
上部装置106は、装置本体102の2つの支持板128の上端部に固定された前後シリンダ装置140と、その前後シリンダ装置140によって前後に移動させられる上下シリンダ装置142と、上下シリンダ装置142によって上下に移動させられる上部保持具ユニット144とを含んで構成されている。本軸受嵌入装置100の要部の拡大断面図でを示す図7をも参照して説明すれば、上部保持具ユニット144は、上下シリンダ装置142のシリンダロッドの下端部に固定される基板146と、基板146から垂下固定された2本のガイドシャフト148と、ガイドシャフト148に沿って上下方向に移動可能とされた保持具支持部材150と、保持部支持部材150に固定支持された上部保持具152とを含んで構成されている。
【0039】
保持具支持部材150は、側方から見て概してL字状をなすともに、左右の各々に延び出す1対の延出部154が設けられている。この延出部154に設けられた貫通穴に2本のガイドシャフト148の各々が貫通する構造とされていることで、保持具支持部材150は、2本のガイドシャフト148にガイドされる状態となっている。また、2本のガイドシャフト148の各々の下端部には、それに下端が支持される状態で圧縮コイルスプリング156が配設されており、それら2本のスプリング156の各々の上端が1対の延出部154の各々を上方に向かって付勢している。そのため、保持具支持部材150の上端が基板146に当接する状態である上端位置に位置させられている。
【0040】
上部保持具152は、貫通穴158を有する概して環状のものとされており、その貫通穴158の軸線が上下方向に延びるような姿勢で、保持具支持部材150に支持されている。この上部保持具152は、外周部において、前述した上側アンギュラ軸受26のアウタレース30(上側アウターレース30)を保持するようにされている。詳しく説明すれば、上部保持具152の下端部には外周に沿って複数のボールプランジャ(図示を省略)が付設されており、それらボールプランジャによって、上側アウタレース30の内周面の下端部が掛止されることで、上側アウターレース30は、容易に下方に離脱させることが可能な状態で上部保持具152に保持される。
【0041】
嵌入作業実行装置104は概して板状の基台170と、基台170に取り付けられた機構部172および電動モータ174とを含んで構成されている。基台170には、4つの貫通穴が設けられており、それら貫通穴の各々に挿入する状態で、スリーブ176が設けられている。それら4つのスリーブ176の各々は、装置本体102を構成する4つのコラム122の各々を挿入させる状態とされており、嵌入作業実行装置104は、コラム122をガイドとして上下に移動可能とされている。ベース120には、4つのバランスシリンダ178が付設されており、基台170は、それらバランスシリンダ178によって支持されている。このような構造によって、嵌入作業実行装置104は、比較的小さな力で上下に移動可能とされている。
【0042】
図7をも参照して説明すれば、嵌入作業実行装置104の機構部172は、ボールねじが形成されたねじ付ロッド180と、ベアリングボールを保持してそのねじ付ロッド180に螺合するナット182とを含んで構成されており、簡単に言えば、上記電動モータ174によってナット182を回転させることで、ねじ付ロッド180が上下に移動するような構造とされている。
【0043】
詳しく説明すれば、ナット182は、概して円筒状のナットケース184に収容されるとともに上部が固定環186によって押さえられ、ナット182は、ナットケース184に対して回転不能かつ軸方向に移動不能とされている。このナットケースは184は、基台170の貫通穴に固定されたナットケース保持筒188に、2つのアンギュラ玉軸受190,192を介して、回転可能に保持されている。また、2つのアンギュラ玉軸受け190,192のアウタレースは固定リング194によってナットケース保持筒188に固定され、かつ、インナレースは固定ナット196によってナットケース184に固定されており、ナットケース184は、ナットケース保持筒188に対して、軸方向に移動不能とされている。このような構造により、ナット182は、基台170に対して、回転可能かつ軸方向に移動不能とされているのである。また、ナットケース184には、それの下部に、プーリ198が固定して取付られており、このプーリ198と、電動モータ174の主軸に固定して取付られたプーリ200とには、ベルト202が巻き掛けられている(図6参照)。電動モータ174を回転させることによって、その回転駆動力がベルト202によって伝達され、ナット182が回転させられる。なお、ナットケース保持筒188の上端部には、固定輪204にてロードセル206が取り付けられており、そのロードセル206は、ナット182に対して作用する上方へ付勢力を検出するものとされている。
【0044】
一方、ねじ付ロッド180は、ボールねじが形成されたねじ部210を有しており、そのねじ部210にてナット182と螺合させられている。また、ねじ付ロッド180の下端部は、基台170に垂下して固定された2本ガイドシャフト212に沿って上下に移動可能されたロッド支持板214によって支持されている。詳しく説明すれば、ロッド支持板214には、2つの貫通穴が設けられており、それら貫通穴の各々に嵌まり込むようにしてスリーブ216が付設されている。それら2つのスリーブ216にガイドシャフト212が挿通するようにされることで、ロッド支持板214が上下方向に移動可能とされている。また、ロッド支持板214には、貫通穴である支持穴218が設けられており、ねじ付ロッド180の下部がこの支持穴218を挿通する状態とされている。ねじ付ロッド180の下端部には、フランジ付端末筒220が嵌められて固定されており、このフランジ付端末筒220のフランジ部が、ロッド支持板214の下面に付設された挟持環222とロッド支持板214との間に緩やかに挟まれることによって、ねじ付ロッド180は、ロッド支持板214に対して、回転可能かつ軸方向に移動不能とされている。
【0045】
フランジ付端末筒220のフランジ部には、レバー224が固定されており、このレバー224は、ロッド支持板214に後端部が回転可能に支持されたロッド回転シリンダ226のシリンダロッドの先端部に、回転可能に連結されている。このロッド回転シリンダ226の作動が停止されている場合には、ねじ付ロッド180は、ロッド支持板214に対する回転が禁止され、ロッド回転シリンダ226が作動させられることによって、ねじ付ロッド180は、ロッド支持板214に対して回転させられることになる。なお、ロッド回転シリンダ226によって、ねじ付ロッド180は約90°回転させられ、フランジ付端末筒220を挟持する挟持環222は、その回転範囲においてレバー224が存在する部分が、切り欠かれた形状となっている。
【0046】
以上のような構造により、ねじ付ロッド180のロッド支持板214に対する回転が禁止された状態において、ナット182が回転させられる場合は、ねじ付ロッド180は、回転が禁止されれた状態で、ロッド支持板214とともにガイドシャフト212にガイドされて上下に移動し、また、任意の移動位置において、ロッド回転シリンダ226を作動させることにより、ねじ付ロッド180は、その位置において、90°回転させられることになる。
【0047】
嵌入作業実行装置104の機構部172は、ナットケース保持筒188を取り巻く状態で基台170の上面に固定された外筒240と、外筒240の上端部に固定された上部支持円板242と、上部支持円板242の中央に設けられた貫通穴に嵌められて固定された概して有底円筒形状をなす進出筒保持筒244とを備えている。進出筒保持筒244の底部には、貫通穴が設けられており、ねじ付ロッド180のねじ部210に連続してそれの上方に位置する部分は、その貫通穴を通って上部に延び出している。このねじ付ロッド180に外嵌するとともに進出筒保持筒244の内周面に保持される状態で、下端部にフランジ部を有する進出筒246(フランジ部の形状等については後述する)が配設されている。この進出筒246は、上下方向に移動可能に保持され、後に詳しく説明するが、進出筒保持筒244のより上方に進出するようにされている。なお、進出筒保持筒244の上端部には、後に詳しく説明するが、進出筒246の進出を制限するための係止環248が付設されている。
【0048】
上記進出筒246の上端部には、概して筒状の下部保持具250が固定支持されている。下部保持具250は、外周部において、前述した下側アンギュラ軸受28のアウタレース32(上側アウターレース32)を保持するようにされている。詳しく説明すれば、下部保持具250には外周に沿って複数のボールプランジャ(図示を省略)が付設されており、それらボールプランジャによって、下側アウタレース32の内周面の上端部が掛止されることで、下側アウターレース32は、容易に上方に離脱させることが可能な状態で下部保持具250に保持される。なお、下部保持具250の内周面で区画された空間は貫通穴として機能し、ねじ付ロッド180の上端部は、下部保持具250をも貫通して、それの上端から延び出している。
【0049】
ねじ付ロッド180は、詳しくは、ねじ付ロッド180のねじ部210に連続してそれの上方に位置する部分は、ねじ部210に直に連続する比較的大径部分である大径部260と、大径部の上方に位置する比較的小径部分である小径部262とを有している。小径部262は、進出筒246の上端部開口を挿通して上方に延び出しており、大径部260は、進出筒246の上端部開口内径より大きくかつ進出筒246の内径より若干小さくされた外径を有し、外周部に、摺動キー264が嵌められている。この摺動キー264は、それの幅より若干広い幅を有して進出筒246の内周面に軸方向に伸びて設けられたキー溝266に勘合しており、それら摺動キー264およびキー溝266によって、進出筒246は、ねじ付ロッド180に対して、回転不能とされ、かつ、軸線方向に移動可能とされている。
【0050】
電動モータ174の回転によって、ねじ付ロッド180が上方に移動させられた場合、ねじ付ロッド180の大径部260の上端が進出筒246の上端部開口の周囲に当接し、更なるねじ付ロッド180の移動によって、進出筒246は、大径部260によって持ち上げられるようにして、ねじ付ロッド180とともに上方に移動し、進出筒保持筒244の上端部より上方に進出する。図8(b)に示すように、進出筒246は、それの下端部に、軸線を挟んで互いに背向する1対のフランジ268が設けられたフランジ部を有しており(図11,図12を参照)、また、進出筒保持筒244の上端部開口270は、進出筒246のフランジ部の外形と略同じ形状をなし、その外形より若干大きくされている。したがって、進出筒246は、下端が進出筒保持筒244の上端を超えて上方に進出可能となっている。一方、係止環248は、進出筒246の外径より若干大きな内径の穴を有する環状ものとされていることから、進出筒246に設けられた1対のフランジ268が係止されることで、進出筒246の進出を制限するものとされている。なお、後に詳しく説明するが、進出筒246が進出端位置に位置する状態において、ロッド回転シリンダ266を作動させてねじ付ロッド180を90°回転させれば、進出筒246が90°回転し(図8(b)の2点鎖線参照)、その状態においては、進出筒246の1対のフランジ268が進出筒保持筒244の上端面に係止されることで、進出筒246の下降が禁止されることになる。
【0051】
また、ねじ付ロッド180の先端部272の形状は、図8(a)に示すように、軸線を挟んで互いに背向して張り出す1対の張出突起274を有している。後に詳しく説明するが、ねじ付ロッド180は、前述の上部保持具152をも貫通して、先端部272が上部保持具152の上方に臨み出るようにされている。上部保持具152に設けられた貫通穴158は、ねじ付ロッド180の小径部262より若干大きな穴とされるとともに先端部272の1対の張出突起274が挿通可能な1対の凹所276を有する形状とされており、先端部272が上部保持具152の上方に臨み出ている状態においてねじ付ロッド180がロッド回転シリンダ266によって回転させられ、その状態でねじ付ロッド180が下方に移動させられれば、1対の張出突起274の下端面が上部保持具152の上面に当接し、ねじ付ロッド180の先端部272が上部保持具152を掛止することになる(図8(a)の2点鎖線参照)。
【0052】
本軸受嵌入装置100は、図示を省略する制御装置(コンピュータを主体とする)によって制御作動させられる。なお、上記電動モータ174は、サーボモータであり、当該軸受嵌入装置100の作動中において電動モータ174の回転角度が常に把握されるように構成されており、その回転角度に基づいて、嵌入作業実行装置104が備えるねじ付ロッド180の上下方向の位置も把握可能とされている。
【0053】
<軸受嵌入作業と軸受嵌入装置の動作>
以下に、上記本実施例の軸受嵌入装置100を利用して行われるところの、2つの軸受の軸受嵌入方法(詳しく言えば、それらの軸受が有するアウタレースの嵌入方法)を説明する。本軸受嵌入装置100を用いた軸受嵌入作業では、まず、上側アウタレース30および下側アウタレース32が、それぞれ、上部保持具152,下部保持具250に装着される。図6は、上部保持具152が、上部装置106によって、詳しくは、前後シリンダ装置140によって前方移動端に、かつ、上下シリンダ装置142によって下方移動端に位置させられている状態を示しているが、上側アウタレース30の装着を行う際には、上部保持具152は、前方移動端かつ上方移動端に位置させられており、その位置において、上部アウタレース30の装着が行われる。また、嵌入作業実行装置104は、図7に示す状態とされており、その状態において、下側アウタレース32が、下部保持具250に装着される。
【0054】
次いで、搬入コンベヤ装置108によって、支持部材130の手前まで既に搬入されているハウジング12が、支持部材130に載置され、支持部材130上の所定位置である嵌入作業位置に固定される。ハウジング12はパレット132に固定されており、ハウジング12の支持部材130への載置はパレット132ごと行われ、ハウジング12の嵌入作業位置での固定は、図示を省略する固定機構によって、パレット132が所定位置に固定されることによって行われる。ハウジング12が嵌入作業位置に固定された状態が、図7に示す状態であり、その状態においては、ハウジング12に設けられた軸保持穴16の軸線、つまり、軸受収容部46,48の軸線は、上下方向に配向させられるとともに、それらの軸線は、嵌入作業実行装置104が備えるねじ付ロッド180の軸線と一致させられる。ハウジング12の嵌入作業位置への固定によって、下部保持具250に保持された下側アウタレース32は、軸受収容部48の軸線上における外側に位置させられることになる。なお、パレット132には、上記軸線を中心とした作業穴280が設けられており、この作業穴280を通って、嵌入作業実行装置104による嵌入作業が行われる。
【0055】
パレット12が嵌入作業位置に位置された後、図示を省略する起動スイッチが操作されることによって、当該軸受嵌入装置100の制御作動が開始される。制御作動が開始されえれば、まず、上部装置106が備える上下シリンダ装置142によって、上部保持具152が下方移動端に位置させられ、次いで、その位置において、前後シリンダ装置140によって、上部保持具152が後方移動端に位置させられる。上部保持具152が下方移動端かつ後方移動端に位置させられた状態が、図7に示す状態であり、その状態において、上部保持具152に保持された上側アウタレース30は、軸受収容部46の軸線上におおける外側に位置させられることになる。
【0056】
続いて、電動モータ174の回転が開始されることで、ナット182の回転が開始させられ、ねじ付ロッド180が上方に移動を開始する。なお、この動作においては、ナット182は、上方から見て時計回りに回転させられる。ナット182の回転およびねじ付ロッド180の上方移動によって、当該嵌入作業実行装置104は、図9に示す状態に至る。この状態は、ねじ付ロッド180の大径部260の上端面が、進出筒246の上端部開口の周囲に下側から当接する状態である。この状態を超え、さらにナット182が回転させ続けることで、ねじ付ロッド180とともに進出筒246も上方に進出し、進出筒246の上部に固定された下部保持具250も上方に移動する。これにより、下部保持具250に保持された下側アウタレース32も軸受収容部48に接近するように上方に移動させられ、また、ねじ付ロッド180の先端部272および小径部262の上方の部分が、上部保持具152の貫通穴158に貫通させられる。この動作は、図10に示す状態に至るまで行われ、図10に示す位置にねじ付ロッド180が位置した状態において、電動モータ174の回転が停止させられる。
【0057】
図10に示す状態では、進出筒246は、係止環248によって制限された進出端位置の僅かに手前に位置し、ねじ付ロッド180の先端部272は、上部保持具152の上方に、それの上面と先端部272の下端との間に少しの余裕をもって位置する。ねじ付ロッド180,進出筒246,下部保持具250が定置させられた状態において、ロッド回転シリンダ226が伸びるように作動し、ねじ付ロッド180が、上方から見て時計回りに90゜回転させられる。このねじ付ロッド180が回転させられた状態が、図11に示す状態である。
【0058】
図11に示す状態では、先に説明したように、ねじ付ロッド180の先端部272による上部保持具152の掛止が可能な状態とされ(図8(a)における2点鎖線参照)、また、進出筒保持筒244の上端面に進出筒246の1対のフランジ268が当接可能な状態とされることで、進出保持筒244による進出筒246の掛止が可能な状態とされる(図8(b)における2点鎖線参照)。なお、ねじ付ロッド180の回転により、ねじ付ロッド180は、自身に形成されたボールねじの1/4ピッチ分下降させられることになるが、上部保持具152の上面と先端部272の下端との間の余裕、および、進出筒246の1対のフランジ268と進出筒保持筒244の上端面との間の余裕は、その下降分を超えるものとされており、ねじ付ロッド180の回転に支障をきたすことはない。
【0059】
図11に示す状態が実現された後、電動モータ174が、先の回転とは逆方向の回転を開始させられ、ナット182の上方から見て反時計回りの回転が開始される。これにより、本軸受嵌入装置100によるアウタレース30,32の軸受収容部46,48への嵌入動作が開始される。この嵌入動作においては、ねじ付ロッド180が下方に移動させられ、それに伴って、上部保持具152がねじ付ロッド180の先端部272よって掛止されることで、ねじ付ロッド180に対する上部保持具152の上方に向かう相対移動が禁止され、かつ、進出筒246が進出保持筒244によって掛止られることで、進出保持筒244に対する進出筒246の、つまり、嵌入作業実行装置104の基台170に対する下部保持具250の下方に向かう相対移動が禁止されることになる。
【0060】
上部保持具152および進出筒244が掛止された状態において、さらにナット182の回転が持続させられることでねじ付ロッド180が下方へ移動させられれば、上部保持部152と下部保持具250とが互いに接近するように相対移動させられ、それによって、上側アウタレース30と下側アウタレース32が相対接近させれらる。このような嵌入動作によって、上側アウタレース30,下側アウタレース32が、それぞれ、ハウジング12の軸受収容部46,48に嵌入させられる。なお、保持部支持部材150によって支持された上部保持具152は、圧縮コイルスプリング156の圧縮を伴なう下方への移動が許容されており、ねじ付ロッド180の下方への移動に伴って、先端部272によって掛止された状態で、下方に移動させられる。
【0061】
上記嵌入動作において、通常、上側アウタレース30の軸受収容部46への嵌入抵抗と、下側アウタレース32の軸受収容部48への嵌入抵抗とが相違する。それら嵌入抵抗の相違によって、いずれかのアウタレース30,32の嵌入が先行して行われる。例えば、上側アウタレース30の嵌入が先行する場合、その嵌入が完了した時点で、ねじ付ロッド180の下方への移動が禁止されることになる。その場合、バランスシリンダ178によって嵌入作業実行装置104のコラム122に沿った上下方向への移動が許容されているため、ねじ付ロッド180の下方への移動が禁止された後には、嵌入作業実行装置104が上方に移動して、下側アウタレース32の嵌入が行われる。逆に、例えば、下側アウタレース32の嵌入が先行する場合には、嵌入作業実行装置104の上方移動による下側アウタレース32の嵌入が行われた後、嵌入作業実行装置104の上方への移動が禁止され、ねじ付ロッド180の下方への移動による上側アウタレース30の嵌入が行われることになる。本軸受嵌入装置100では、このように、嵌入作業実行装置104とハウジング12を固定支持する支持部材130との上下方向における相対移動が許容されていることで、適切な嵌入動作が行われるのである。
【0062】
2つのアウタレース30,32の嵌入が完了した状態が、図12に示す状態である。嵌入が完了した場合、つまり、上側アウタレース30が軸受収容部46に底付き、下側アウタレース32が軸受収容部48に底付いた場合には、電動モータ174の負荷が急激に増加する。電動モータ174への供給電流はモニタされており、本軸受嵌入装置100では、この電動モータ174への供給電流の急増を検知して、電動モータ174の回転を停止させるようにされており、その供給電流の急増の検知によって電動モータ174の回転が停止させられて嵌入動作が終了する。なお、本軸受嵌入装置100では、先に説明したロードセル206によって、ナット180の上方への付勢力、つまり、ねじ付ロッド180に作用する引張力を検知している。嵌入が完了した場合には、この引張力も急増するため、本軸受嵌入装置100では、この引張力が所定の値を超えた場合にも、電動モータ174の回転を停止するようにされており、電動モータ174の過負荷,嵌入作業実行装置104の機構部172への過負荷等が、冗長的に防止されている。
【0063】
嵌入動作が完了して電動モータ174の回転が停止させられた状態において、ロッド回転シリンダ266が縮むように作動し、ねじ付ロッド180が、上方から見て、反時計回りに回転させられる。これにより、ねじ付ロッド180が、自身に形成されたボールねじの1/4ピッチ分上昇させられつつ90゜回転し、ねじ付ロッド180の先端部272による上部保持具152の掛止、および、進出筒保持筒244による進出筒246の掛止が解除される。ねじ付ロッド180の先端部272による上部保持具152の掛止が解除されれば、圧縮コイルスプリング156の力によって、上部保持具152が、上側アウタレース30の保持を解きつつ上方に移動させられる。
【0064】
上記上部保持具152の上方への移動後、再度、ナット182が上方から見て反時計回りに回転するように電動モータ174が回転させられ、ねじ付ロッド180が下方に移動させられる。これにより、進出筒244および下部保持具250は、それらの自重により、下部保持具250による下側アウタレース32の保持を解きつつ、ねじ付ロッド180とともに下方に移動する。そして、制御作動が開始させられる前の位置にまでねじ付ロッド180が位置した状態で、電動モータ174の回転が停止させられ、嵌入作業実行装置104の作動が終了する。
【0065】
嵌入作業実行装置104の作動の終了後、上部装置106の前後シリンダ装置140によって、上部保持具152が前方移動端まで移動させられ、続いて、上下シリンダ装置142によって、上部保持具152が上方移動端まで移動させられ、それによって、本軸受嵌入装置100の制御作動が完了する。上記制御作動の完了を待って、支持部材130へのパレット132固定を解除し、ハウジング12をパレット132ごと、搬出コンベヤ装置110に載せ移して、本軸受嵌入装置110を利用した軸受嵌入作業の1つのルーチンをが完了する。
【0066】
<軸受嵌入装置の機能>
本軸受嵌入装置100では、下部保持具250が第1保持具とされ、上部保持具152が第2保持具とされており、嵌入作業実行装置104は、保持具相対移動装置として機能し、それら下部保持具250と上部保持具152とが保持する下側アウタレース32,上側アウタレース30の軸線方向においてそれらが接近する向きに、下部保持具250と上部保持具152とを相対移動させるような構造とされている。詳しく言えば、嵌入作業実行装置104は、嵌入動作が行われる際、上部保持具152を下部保持具250に向かって移動させる構造とされている。
【0067】
より詳しく言えば、下部保持具250と上部保持具152との両者とも、軸線方向に貫通する貫通穴を有しており、嵌入作業実行装置104は、それら貫通穴を貫通するねじ付ロッド180を利用して嵌入作業実行するようにされている。また、ねじ付ロッド180の先端部272は、上部保持具152を掛止する掛止部として機能し、上部保持具250がその先端部272によって掛止られた状態において、上部保持具152を下部保持具250に向かって移動させる構造とされている。すなわち、嵌入作業実行装置104は、ロッドであるねじ付ロッド180を上記軸線方向に移動させるロッド移動装置として機能するものであり、具体的には、電動モータ174,ナット182,ねじ付ロッド180のねじ部210等を含んで、ロッド移動装置が構成されているのである。
【0068】
また、嵌入作業実行装置104は、ねじ付ロッド180の回転によってそれの先端部272による上部保持具152の掛止の有無を切換えるようにされていることから、掛止状態切換機構を含むものとされている。具体的に言えば、ねじ付ロッド180の先端部272およびそれが貫通する上部保持具の貫通穴158,ねじ付ロッド180が回転可能とされた構造,ねじ付ロッド180を回転させるアクチュエータであるロッド回転シリンダ266等を含んで、掛止状態切換機構が構成されているのである。
【0069】
またさらに、本軸受嵌入装置100では、軸保持体支持具としての支持部材130に対しての、保持具相対移動装置としての嵌入作業実行装置104の上記軸線方向の移動が許容されており、本軸受嵌入装置100は、支持具・装置相対移動許容機構を備えるものとなっている。具体的には、装置本体102を構成するコラム122に沿って嵌入作業実行装置104が上下に移動可能とされた構造、嵌入作業実行装置104を装置本体102のベース120に支持させるためのバランスシリンダ178等を含んで、上記支持具・装置相対移動許容機構が構成されているのである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施例の軸受嵌入装置の作業対象物を示す正面図である。
【図2】図1に示す作業対象物の側面断面図である。
【図3】図1に示す作業対象物の側面断面における分解図である。
【図4】図1に示す作業対象物に関して本実施例の軸受嵌入装置が行う作業の概略を示す側面断面図である。
【図5】実施例の軸受嵌入装置を示す正面図である。
【図6】実施例の軸受嵌入装置を示す右側面図である。
【図7】実施例の軸受嵌入装置の要部を拡大して示す右側面断面図である。
【図8】図7におけるA−A断面およびB−B断面を示す図である。
【図9】実施例の軸受嵌入装置の要部を拡大して示す右側面断面図であり、制御作動を開始して初期段階にある状態を示す図である。
【図10】実施例の軸受嵌入装置の要部を拡大して示す右側面断面図であり、嵌入動作を行う位置まで動作させられた状態を示す図である。
【図11】実施例の軸受嵌入装置の要部を拡大して示す右側面断面図であり、嵌入動作が開始される状態を示す図である。
【図12】実施例の軸受嵌入装置の要部を拡大して示す右側面断面図であり、嵌入動作が完了した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
10:中間組立体 12:ハウジング(軸保持体) 14:かさ歯車(軸体) 26:上側アンギュラ円すいころ軸受 28:下側アンギュラ円すいころ軸受 30:上側アウタレース 32:下側アウタレース 46:軸受収容部(軸受収容欧凹所) 48:軸受収容部(軸受収容欧凹所) 100:軸受嵌入装置 102:装置本体 104:嵌入作業実行装置(保持具相対移動装置,ロッド移動装置) 106:上部装置 130:支持部材(軸保持体支持具) 152:上部保持具(第2保持具) 158:貫通穴 170:基台 172:機構部 174:電動モータ 178:バランスシリンダ(支持具・装置相対移動許容機構) 180:ねじ付ロッド(ロッド) 182:ナット 210:ねじ部 226:ロッド回転シリンダ(掛止状態切換機構) 246:進出筒 250:下部保持具(第1保持具)
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸体を軸保持体に回転可能に保持させる2つの軸受若しくはそれの外輪を軸保持体に嵌入するための装置、および、2つの軸受若しくはそれの外輪を軸受保持体に嵌入するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転可能な軸体を有する組立体においては、軸体を軸保持体に回転可能に保持させるために、軸受が用いられる。ラジアル方向の荷重を受ける状態で軸体を軸保持体に保持させるためには、通常、2つの軸受が軸線方向に離間した位置において互いに同軸的に配設される。その場合、それら軸受は、軸保持体に互いに背向して形成された2つの軸受収容凹所に嵌入(例えば、圧入)させらた状態で組み込まれることが一般的である。2つの軸受が1対のアンギュラ軸受である場合には、それらアンギュラ軸受の外輪(アウタレース)のみが、先行して嵌入させられることも多い。このような2つの軸受を有する組立体の組立において、2つの軸受あるいはそれの外輪(以下、「軸受等」と略する場合がある)の軸保持体への嵌入は、現状では、1個ずつ行われている。詳しく言えば、2つの軸受等の一方のみを嵌入させ、その嵌入後に、2つの軸受等の他方を嵌入させることが、一般的に行われているのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように、2つの軸受等を1個ずつ軸保持体に嵌入させることは、組立体の組立作業における作業工数を増加させる一因となっている。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、2つの軸受等の軸保持体への嵌入作業を迅速に行うことが可能な軸受嵌入装置および軸受嵌入方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、軸体を軸保持体にそれを貫通する状態で回転可能に保持させるべくそれらの間に軸線方向において互いに離間して配設されて少なくともラジアル力を受ける2つの軸受等の各々を、前記軸保持体に軸線方向において互いに背向して設けられた2つの軸受収容凹所の各々に嵌入させる作業に適用されるものであり、本発明の軸受嵌入装置は、2つの軸受等の各々をそれらが2つの軸受収容凹所の各々に対応する所定の位置に位置するように保持する2つの保持具と、それらの保持具を接近させる方向に相対移動させる保持具相対移動装置とを備えて、その保持具相対移動装置によって2つの保持具を相対移動させることによって2つの軸受等を接近させ、2つの軸受等を軸保持体に嵌入させることを特徴とする。また、本発明の軸受嵌入方法は、2つの軸受等の各々を2つの軸受収容凹所の各々に対する所定の位置に位置させ、それら2つの軸受等を互いに接近する向きに相対移動させることによって、それら2つの軸受等を軸保持体に嵌入させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の軸受嵌入装置によれば、上記2つ保持具の相対接近移動という1つの動作によって、2つの軸受等を一時期に軸保持体に嵌入させることができ、また、本発明の軸受嵌入方法によれば、上記2つの軸受等の相対接近という1つのプロセスによって、2つの軸受等を一時期に軸保持体に嵌入させることができる。したがって、本発明の軸受嵌入装置あるいは軸受嵌入方法によれば、2つの軸受等の軸保持体への嵌入作業を迅速に行うことが可能となる。
【発明の態様】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、以下の各項において、(1)項ないし(6)項の各々が請求項1ないし請求項6の各々に相当し、(11)項ないし(13)項の各々が請求項7ないし請求項9の各々に相当する。
【0007】
(1)軸体を軸保持体にそれを貫通する状態で回転可能に保持させるべくそれらの間に軸線方向において互いに離間して配設されて少なくともラジアル力を受ける2つの軸受若しくはそれの外輪の各々を、前記軸保持体に軸線方向において互いに背向して設けられた2つの軸受収容凹所の各々に嵌入させる軸受嵌入装置であって、
(A)前記2つの軸受若しくはそれの外輪の一方を、前記2つの軸受収容凹所の一方の外側において軸線上に位置させる状態で保持する第1保持具と、(B)前記2つの軸受若しくはそれの外輪の他方を、前記2つの軸受収容凹所の他方の外側において軸線上に位置させる状態で保持する第2保持具と、(C)前記第1保持具と前記第2保持具とを、軸線方向においてそれらが接近する向きに相対移動させる保持具相対移動装置とを備え、その保持具相対移動装置によって第1保持具と前記第2保持具とを相対移動させることで、前記2つの軸受若しくはそれの外輪を、軸線方向においてそれらが接近する向きに相対移動させて、それらの各々を前記2つの軸受収容凹所の各々に嵌入させることを特徴とする軸受嵌入装置。
【0008】
本項にいう「保持具相対移動装置」は、上記2つの保持具を別個独立に移動させるものではなく、1つの動作によって2つの保持具を相対移動させるものを意味する。そのような保持具相対移動装置によって、2つの保持具を相対接近移動させれれば、それら2つの保持具の各々に保持された2つの軸受等の各々を、軸保持体に、詳しくは、軸保持体に設けられた上記2つの軸受収容凹所の各々に、1つの動作によって一時期に嵌入させることが可能となる。したがって、本項の態様の軸受嵌入装置によれば、迅速に2つの軸受等を軸保持体に嵌入させることが可能となる。
【0009】
本項の軸受嵌入装置が嵌入の対象とする軸受等は、滑り軸受であってもよく、転がり軸受であってもよい。また、ラジアル軸受であっても、アンギュラ軸受であってもよい。具体的には、例えば、玉,ころ,ニードル等を転動体とするラジアル転がり軸受,アンギュラ転がり軸受が対象となる。特に、アンギュラ転がり軸受等では、それが有する外輪のみが軸保持体に嵌入される場合があり、そのような場合において、上記2つの軸受等の一方あるいは両方として、それらの軸受が有する外輪を、本項の軸受嵌入装置の嵌入の対象とすることが可能である。
【0010】
一般に、軸受収容凹所に軸受等を嵌入させる場合、軸受等の嵌入端が軸受収容凹所の底部に当接するまで嵌入させる。そのことに鑑みれば、2つの保持具の相対接近距離を、嵌入後における2つの軸受等の嵌入端の離間距離に応じて設定することにより、2つの軸受等の各々の嵌入深さを適切な深さとすることが可能となる。また、2つの軸受等の両者の嵌入端が軸受収容凹所の底部に当接した時点において、2つの保持具の相対移動に対する負荷が急増することになるため、その負荷の変化を検知することによっても、適切な嵌入深さの嵌入が実行可能である。
【0011】
(2)前記2つの軸受若しくはそれの外輪の各々の前記2つの軸受収容凹所の各々への嵌入時において、前記第1保持具と前記保持具相対移動装置とが軸線方向に相対移動不能とされるとともに、前記保持具相対移動装置が、前記第2保持具を前記第1保持具に向かって移動させる構造とされた(1)項に記載の軸受嵌入装置。
【0012】
嵌入時において、つまり、嵌入の動作を保持具相対移動装置が行っている時において、2つの保持具の両者を保持具相対移動装置に対して軸線方向に移動可能な構造とすることもできるが、本項の態様のように、嵌入時において一方の保持具と保持具相対移動装置との相対移動が不能な構造とすることにより、当該軸受嵌入装置の構造の簡便化が図れることになる。なお、本項の態様は、嵌入時以外において、上記第1保持具と保持具相対移動装置との相対移動を許容するような構造が排除されるものではない。例えば、嵌入動作が開始される位置までの第1保持具の軸保持体への接近動作、嵌入完了後の第1保持具の軸保持体からの退避動作等において、第1保持具と保持具相対移動装置との相対移動が行われる態様も、本項の態様に含まれるのである。
【0013】
(3)前記軸保持体を支持する軸保持体支持具を備えるとともに、その軸保持体支持具と前記保持具相対移動装置との軸線方向における相対移動を許容する支持具・装置相対移動許容機構を備えた(2)項に記載の軸受嵌入装置。
【0014】
2つの軸受等を互いに背向する2つの軸受収容凹所の各々に嵌入させる場合、径,嵌入代等の相違によって、一方の軸受等の一方の軸受収容凹所への嵌入抵抗と、他方の軸受等の他方の軸受収容凹所への嵌入抵抗とが相違する場合がある。そのような場合、いずれかの軸受等の嵌入が先行して行われ、その嵌入後に残る軸受等の嵌入が行われるといった現象が生じ得る。本項の態様は、そのような実情に考慮してなされたものであり、本項の態様によれば、そのような現象が生じる場合であっても、2つの軸受等の適切な嵌入が担保される。なお、軸保持体支持具は、軸保持体が載置される台のようなものが相当するが、軸保持体を直接的に支持するものに限定されず、搬送用パレット等、何らかの部品,部材を介在させた状態で、軸保持体を間接的に支持するものであってもよい。
【0015】
(4)前記軸保持体支持具が軸線方向に移動不能とされ、前記保持具相対移動装置が軸線方向に移動可能とされた(3)項に記載の軸受嵌入装置。
【0016】
本項の態様は、上記態様において、軸保持体支持具の位置を固定し、保持具相対移動装置の移動を許容する態様である。軸保持体の脱着,搬出入を考慮した場合、作業性の観点からは、軸保持体支持具の位置が固定されていることが望ましい。本項の態様によれば、軸保持体支持具が軸線方向に移動不能とされているため、作業性の良好な軸受嵌入装置が実現する。
【0017】
(5)前記第1保持具および前記第2保持具の各々が、軸線方向に貫通する貫通穴を有するものとされ、
前記保持具相対移動装置が、(a)前記第1保持具および第2保持具との両者を貫通可能とされ、それら両者を貫通する状態において前記第2保持具の前記第1保持具とは反対側に位置する部分を掛止可能な掛止部を有するロッドと、(b)そのロッドを軸線方向に移動させるロッド移動装置とを含んで構成され、前記掛止部が前記第2保持具を掛止する状態において前記ロッドを前記第2保持具から第1保持具に向かう方向に移動させることによって、前記第1保持具と前記第2保持具とをそれらが接近する向きに相対移動させる構造とされた(2)項ないし(4)項のいずれかに記載の軸受嵌入装置。
【0018】
本項の態様は、簡単に言えば、2つの保持具にロッドを貫通させ、一方の保持具に向かって他方の保持具を引き込むようにして2つの軸受等を嵌入させるように構成した態様である。したがって、本項の態様は、第1保持具の側に保持具相対移動装置の殆どの部分を配設して嵌入作業が行えるという利点を有する。例えば、軸保持体の形状等によって他方の側における嵌入作業が困難な場合等において、有効な態様となる。また、本項に記載の態様によれば、ロッド対しては、軸線方向に沿った引張力のみが作用することになり、軸線に対して傾くような力が作用しないことから、比較的容易にかつ適正な嵌入作業が実行可能である。
【0019】
(6)前記ロッド移動装置が、前記ロッドを、前記第1保持具と前記第2保持具との両者に貫通する位置と、前記第2保持具に貫通しない位置との間で軸線方向に移動させるものとされ、
前記保持具相対移動装置が、前記ロッドが前記第1保持具と前記第2保持具との両者を貫通する状態において、前記掛止部による第2保持具の掛止の有無を切換える掛止状態切換機構を有する(5)項に記載の軸受嵌入装置。
【0020】
上記ロッドを貫通させて嵌入を行う態様では、軸保持体の脱着等の際には、少なくとも一方の保持具からロッドが退避していることが望ましい。本項に記載の態様は、そのことを考慮した態様であり、嵌入動作が行われる場合には、ロッドが2つの保持具に貫通して一方の保持具を掛止する状態とし、嵌入動作が行われていない場合において、ロッドが少なくとも一方の保持具から抜き出された状態とすることを可能とする態様である。
【0021】
(11)軸体を軸保持体にそれを貫通する状態で回転可能に保持させるべくそれらの間に軸線方向において互いに離間して配設されて少なくともラジアル力を受ける2つの軸受若しくはそれの外輪の各々を、前記軸保持体に軸線方向において互いに背向して設けられた2つの軸受収容凹所の各々に嵌入させる軸受嵌入方法であって、
前記2つの軸受若しくはそれの外輪の各々を、前記2つの軸受収容凹所の各々の外側において軸線上に位置させ、
前記2つの軸受若しくはそれの外輪を、軸線方向においてそれらが接近する向きに相対移動させて、それらの各々を前記2つの軸受収容凹所の各々に嵌入させることを特徴とする軸受嵌入方法。
【0022】
本項にいう2つの軸受等の相対移動は、それらを別個独立に移動させることではなく、1つの動作によって2つの軸受等を相対移動させることを意味する。そのようにして2つの軸受等を相対接近させる本項の態様によれば、2つの軸受等の各々を、軸保持体に、1つのプロセスによって一時期に嵌入させることが可能となる。したがって、本項の態様の軸受嵌入方法によれば、迅速に2つの軸受等を軸保持体に嵌入させることが可能となる。
【0023】
本項を始めとする以下の態様は、軸受嵌入方法の各種態様である。請求可能発明としての軸受嵌入方法は、その技術的特徴が先に説明した軸受嵌入装置と共通するものであることから、軸受嵌入方法の説明については省略するものとする。また、具体的な態様の記載は省略するが、上記軸受嵌入装置の各態様の技術的特徴を取り入れた各種態様の軸受嵌入方法も、請求可能発明となり得る。
【0024】
(12)前記2つの軸受もしくはそれの外輪の一方と、それらの他方と、前記軸保持体とのうちのいずれか1つのものの軸線方向の移動を禁止する状態において、前記2つの軸受若しくはそれの外輪を、軸線方向においてそれらが接近する向きに相対移動させる(11)項に記載の軸受嵌入方法。
【0025】
本項の態様は、前述したところの、2つの軸受等の嵌入抵抗が異なる場合において、有効的な態様である。
【0026】
(13)前記軸保持体の軸線方向の移動を禁止する状態において、前記2つの軸受若しくはそれの外輪を、軸線方向においてそれらが接近する向きに相対移動させる(12)項に記載の軸受嵌入方法。
【0027】
本項に記載の態様によれば、先に説明したところの、軸保持体を固定することによる利点を享受することが可能である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0029】
<軸受嵌入装置の作業対象物>
実施例の軸受嵌入装置は、車両用の終減速装置の組立作業の一部を分担する装置である。その終減速装置の組立途中のものである中間組立体を、図1〜図3に示す。図1は正面図、図2は側面断面図であり、図3は、側面断面における分解図である。中間組立体10は、軸保持体としてのハウジング12と、ハウジング12に回転可能に保持される軸体としてのかさ歯車14(「ピニオン」と呼ぶこともできる)とを含んで構成されている。ハウジング12の中には、デファレンシャルケースとそれの内部に配置された差動小歯車および差動大歯車からななる差動装置(図示を省略)が配設され、かさ歯車14は、当該終減速装置における入力歯車としての減速小歯車として機能し、デファレンシャルケースの外部に設けられた減速大歯車と噛合するようにされている。
【0030】
ハウジング12には、保持穴16が設けられており、ハウジング12は、その保持穴16においてかさ歯車14を保持する。かさ歯車14は、軸部18と、軸部18の図における上端部に軸部18と一体に設けられた歯車部20と、軸部18の図における下端部に軸部18と一体的に形成されて外周にセレーションが形成されたセレーション部22とを含んで構成されており、軸部18が、ハウジング12の保持穴16に、2つのアンギュラ円すいころ軸受26,28(以下、単に、「アンギュラ軸受26,28」という場合がある)を介して保持されることで、かさ歯車14が、ハウジング12に対して回転可能とされている。
【0031】
さらに詳しく説明すれば、2つのアンギュラ軸受26,28は、それぞれ、外輪であるアウターレース30,32と、内輪であるインナレース34,36と、リテーナ38,40によって保持されてアウタレース30,32とインナレース34,36との間に介装された転動体としての複数の円すいころ42,44とを含んで構成されており、アウタレース30,32の各々が、ハウジング12に設けられた保持穴16の構成部分である軸受収容部46,48(それぞれが、「軸受収容凹所」として機能する)の各々に嵌め入れられ、インナレース34,36の各々に、かさ歯車14の軸部18における大径部50と小径部52の各々が嵌め入れられている。軸受収容部46と軸受収容部48との間の内径が小さくされている部分(以下、「接近禁止部54」と呼ぶことがある)、つまり、2つの軸受収容凹所の各々の底面によって区画された部分は、アンギュラ軸受26,28の各々のアウタレース30,32によって挟まれ、それらアウタレース30,32の相互接近を禁止する部分とされている。
【0032】
軸部18には環状のワッシャ56が嵌められており、そのワッシャ56は、図の上方に位置するアンギュラ軸受26のインナレース34とかさ歯車14の歯車部20の下端面との間に挟まれている。また、軸部18には、軸方向の中央部が全周にわたって径方向に突出する短い筒状のスペーサ58が嵌められており、そのスペーサ58は、アンギュラ軸受26,28の各々のインナレース34,36の間に挟まれている。さらに、軸部18の図における下部には雄ねじが形成された雄ねじ部60とされており、その雄ねじ部60に締付ナット62(六角ナットである)が螺合させられることで、インナレース34,36は、それらの間にスペーサ58が介装される状態で、歯車部20と締付ナット62とによって挟持されている。
【0033】
締付ナット62を回転させて2つのアンギュラ軸受26,28を締め付けることにより、インナレース34,36は相互に接近する方向の力を受ける状態となり、その状態において、かさ歯車14のハウジング12に対する軸方向の位置が固定されることになる。ちなみに、スペーサ58は、2つのアンギュラ軸受26,28が締め付けられた状態において、軸方向の寸法が縮むように塑性変形させられるが、スプリングバックにより、インナレース34,36が相互に離間する方向の力を発生させ、締付ナット62の緩みを効果的に防止している。
【0034】
本実施例の軸受嵌入装置は、上記中間組立体10の組付作業の一部であるアウタレース嵌入作業(軸受嵌入作業の一種である)を実行する。この作業は、図4(図4(a)は嵌入前の状態を、図4(b)は嵌入後の状態をそれぞれ示す)に示すように、ハウジング12に設けられた軸受収容部46,48の各々に、アンギュラ軸受26,28のアウタレース30,32に各々を嵌入させる作業である。なお、アウタレース30,32の各々の外径は、軸受収容部46,48の各々の内径より僅かに大きくされ、アウタレース30,32は、それぞれ、軸受収容部46,48に圧入によって嵌入させられる。
【0035】
なお、以後の説明において、アンギュラ軸受26,28およびそれらのアウタレース30,32を呼び分ける場合には、「上側アンギュラ軸受26」,「下側アンギュラ軸受28」、「上側アウターレース30」,「下側アウターレース32」と呼ぶこととし、軸受収容部46,48を呼び分ける場合には、「上側軸受収容部46」,「下側軸受収容部48」と呼ぶこととする。
【0036】
<軸受嵌入装置の構成>
本実施例の軸受嵌入装置の正面図を図5に、右側面図を図6にそれぞれ示す。軸受嵌入装置100は、大まかに言えば、装置本体102と、装置本体102に設けられて嵌入作業を行うための主要装置である嵌入作業実行装置104と、装置本体102の上部に配設された補助的な装置である上部装置106と、嵌入作業の対象となるハウジング12を作業位置に搬入するための搬入コンベヤ装置108と、ハウジング12を作業位置から搬出するための搬出コンベヤ装置110とを含んで構成されている。
【0037】
装置本体102は、ベース120と、ベース120に立設された4本のコラム(支柱)122と、それらコラム122によって支持された台板124と、台板124に立設され門型をなすフレーム126と、フレーム126に立設された2枚の支持板128とを含んで構成されている。台板124の中央部の上面には、概して板状に形成された1対の支持部材130が前後に平行に並ぶ状態で立設固定されており、それら支持部材130は、軸保持体支持具として機能し、断面が概してL字状をしたパレット132(後に詳しく説明する)に乗せられたハウジング102を、嵌入作業が行われる位置である嵌入作業位置において固定支持する。また、台板124には、搬入コンベヤ装置108,搬出コンベヤ装置110の各々の一端部が固定されている(図6では図示を省略)。ちなみに、2つの支持部材130の上面と搬入コンベヤ装置108および搬出コンベヤ装置110の搬送面とは同じ高さ位置とされており、パレット132がそれらの間を容易に乗り移れるようになっている。
【0038】
上部装置106は、装置本体102の2つの支持板128の上端部に固定された前後シリンダ装置140と、その前後シリンダ装置140によって前後に移動させられる上下シリンダ装置142と、上下シリンダ装置142によって上下に移動させられる上部保持具ユニット144とを含んで構成されている。本軸受嵌入装置100の要部の拡大断面図でを示す図7をも参照して説明すれば、上部保持具ユニット144は、上下シリンダ装置142のシリンダロッドの下端部に固定される基板146と、基板146から垂下固定された2本のガイドシャフト148と、ガイドシャフト148に沿って上下方向に移動可能とされた保持具支持部材150と、保持部支持部材150に固定支持された上部保持具152とを含んで構成されている。
【0039】
保持具支持部材150は、側方から見て概してL字状をなすともに、左右の各々に延び出す1対の延出部154が設けられている。この延出部154に設けられた貫通穴に2本のガイドシャフト148の各々が貫通する構造とされていることで、保持具支持部材150は、2本のガイドシャフト148にガイドされる状態となっている。また、2本のガイドシャフト148の各々の下端部には、それに下端が支持される状態で圧縮コイルスプリング156が配設されており、それら2本のスプリング156の各々の上端が1対の延出部154の各々を上方に向かって付勢している。そのため、保持具支持部材150の上端が基板146に当接する状態である上端位置に位置させられている。
【0040】
上部保持具152は、貫通穴158を有する概して環状のものとされており、その貫通穴158の軸線が上下方向に延びるような姿勢で、保持具支持部材150に支持されている。この上部保持具152は、外周部において、前述した上側アンギュラ軸受26のアウタレース30(上側アウターレース30)を保持するようにされている。詳しく説明すれば、上部保持具152の下端部には外周に沿って複数のボールプランジャ(図示を省略)が付設されており、それらボールプランジャによって、上側アウタレース30の内周面の下端部が掛止されることで、上側アウターレース30は、容易に下方に離脱させることが可能な状態で上部保持具152に保持される。
【0041】
嵌入作業実行装置104は概して板状の基台170と、基台170に取り付けられた機構部172および電動モータ174とを含んで構成されている。基台170には、4つの貫通穴が設けられており、それら貫通穴の各々に挿入する状態で、スリーブ176が設けられている。それら4つのスリーブ176の各々は、装置本体102を構成する4つのコラム122の各々を挿入させる状態とされており、嵌入作業実行装置104は、コラム122をガイドとして上下に移動可能とされている。ベース120には、4つのバランスシリンダ178が付設されており、基台170は、それらバランスシリンダ178によって支持されている。このような構造によって、嵌入作業実行装置104は、比較的小さな力で上下に移動可能とされている。
【0042】
図7をも参照して説明すれば、嵌入作業実行装置104の機構部172は、ボールねじが形成されたねじ付ロッド180と、ベアリングボールを保持してそのねじ付ロッド180に螺合するナット182とを含んで構成されており、簡単に言えば、上記電動モータ174によってナット182を回転させることで、ねじ付ロッド180が上下に移動するような構造とされている。
【0043】
詳しく説明すれば、ナット182は、概して円筒状のナットケース184に収容されるとともに上部が固定環186によって押さえられ、ナット182は、ナットケース184に対して回転不能かつ軸方向に移動不能とされている。このナットケースは184は、基台170の貫通穴に固定されたナットケース保持筒188に、2つのアンギュラ玉軸受190,192を介して、回転可能に保持されている。また、2つのアンギュラ玉軸受け190,192のアウタレースは固定リング194によってナットケース保持筒188に固定され、かつ、インナレースは固定ナット196によってナットケース184に固定されており、ナットケース184は、ナットケース保持筒188に対して、軸方向に移動不能とされている。このような構造により、ナット182は、基台170に対して、回転可能かつ軸方向に移動不能とされているのである。また、ナットケース184には、それの下部に、プーリ198が固定して取付られており、このプーリ198と、電動モータ174の主軸に固定して取付られたプーリ200とには、ベルト202が巻き掛けられている(図6参照)。電動モータ174を回転させることによって、その回転駆動力がベルト202によって伝達され、ナット182が回転させられる。なお、ナットケース保持筒188の上端部には、固定輪204にてロードセル206が取り付けられており、そのロードセル206は、ナット182に対して作用する上方へ付勢力を検出するものとされている。
【0044】
一方、ねじ付ロッド180は、ボールねじが形成されたねじ部210を有しており、そのねじ部210にてナット182と螺合させられている。また、ねじ付ロッド180の下端部は、基台170に垂下して固定された2本ガイドシャフト212に沿って上下に移動可能されたロッド支持板214によって支持されている。詳しく説明すれば、ロッド支持板214には、2つの貫通穴が設けられており、それら貫通穴の各々に嵌まり込むようにしてスリーブ216が付設されている。それら2つのスリーブ216にガイドシャフト212が挿通するようにされることで、ロッド支持板214が上下方向に移動可能とされている。また、ロッド支持板214には、貫通穴である支持穴218が設けられており、ねじ付ロッド180の下部がこの支持穴218を挿通する状態とされている。ねじ付ロッド180の下端部には、フランジ付端末筒220が嵌められて固定されており、このフランジ付端末筒220のフランジ部が、ロッド支持板214の下面に付設された挟持環222とロッド支持板214との間に緩やかに挟まれることによって、ねじ付ロッド180は、ロッド支持板214に対して、回転可能かつ軸方向に移動不能とされている。
【0045】
フランジ付端末筒220のフランジ部には、レバー224が固定されており、このレバー224は、ロッド支持板214に後端部が回転可能に支持されたロッド回転シリンダ226のシリンダロッドの先端部に、回転可能に連結されている。このロッド回転シリンダ226の作動が停止されている場合には、ねじ付ロッド180は、ロッド支持板214に対する回転が禁止され、ロッド回転シリンダ226が作動させられることによって、ねじ付ロッド180は、ロッド支持板214に対して回転させられることになる。なお、ロッド回転シリンダ226によって、ねじ付ロッド180は約90°回転させられ、フランジ付端末筒220を挟持する挟持環222は、その回転範囲においてレバー224が存在する部分が、切り欠かれた形状となっている。
【0046】
以上のような構造により、ねじ付ロッド180のロッド支持板214に対する回転が禁止された状態において、ナット182が回転させられる場合は、ねじ付ロッド180は、回転が禁止されれた状態で、ロッド支持板214とともにガイドシャフト212にガイドされて上下に移動し、また、任意の移動位置において、ロッド回転シリンダ226を作動させることにより、ねじ付ロッド180は、その位置において、90°回転させられることになる。
【0047】
嵌入作業実行装置104の機構部172は、ナットケース保持筒188を取り巻く状態で基台170の上面に固定された外筒240と、外筒240の上端部に固定された上部支持円板242と、上部支持円板242の中央に設けられた貫通穴に嵌められて固定された概して有底円筒形状をなす進出筒保持筒244とを備えている。進出筒保持筒244の底部には、貫通穴が設けられており、ねじ付ロッド180のねじ部210に連続してそれの上方に位置する部分は、その貫通穴を通って上部に延び出している。このねじ付ロッド180に外嵌するとともに進出筒保持筒244の内周面に保持される状態で、下端部にフランジ部を有する進出筒246(フランジ部の形状等については後述する)が配設されている。この進出筒246は、上下方向に移動可能に保持され、後に詳しく説明するが、進出筒保持筒244のより上方に進出するようにされている。なお、進出筒保持筒244の上端部には、後に詳しく説明するが、進出筒246の進出を制限するための係止環248が付設されている。
【0048】
上記進出筒246の上端部には、概して筒状の下部保持具250が固定支持されている。下部保持具250は、外周部において、前述した下側アンギュラ軸受28のアウタレース32(上側アウターレース32)を保持するようにされている。詳しく説明すれば、下部保持具250には外周に沿って複数のボールプランジャ(図示を省略)が付設されており、それらボールプランジャによって、下側アウタレース32の内周面の上端部が掛止されることで、下側アウターレース32は、容易に上方に離脱させることが可能な状態で下部保持具250に保持される。なお、下部保持具250の内周面で区画された空間は貫通穴として機能し、ねじ付ロッド180の上端部は、下部保持具250をも貫通して、それの上端から延び出している。
【0049】
ねじ付ロッド180は、詳しくは、ねじ付ロッド180のねじ部210に連続してそれの上方に位置する部分は、ねじ部210に直に連続する比較的大径部分である大径部260と、大径部の上方に位置する比較的小径部分である小径部262とを有している。小径部262は、進出筒246の上端部開口を挿通して上方に延び出しており、大径部260は、進出筒246の上端部開口内径より大きくかつ進出筒246の内径より若干小さくされた外径を有し、外周部に、摺動キー264が嵌められている。この摺動キー264は、それの幅より若干広い幅を有して進出筒246の内周面に軸方向に伸びて設けられたキー溝266に勘合しており、それら摺動キー264およびキー溝266によって、進出筒246は、ねじ付ロッド180に対して、回転不能とされ、かつ、軸線方向に移動可能とされている。
【0050】
電動モータ174の回転によって、ねじ付ロッド180が上方に移動させられた場合、ねじ付ロッド180の大径部260の上端が進出筒246の上端部開口の周囲に当接し、更なるねじ付ロッド180の移動によって、進出筒246は、大径部260によって持ち上げられるようにして、ねじ付ロッド180とともに上方に移動し、進出筒保持筒244の上端部より上方に進出する。図8(b)に示すように、進出筒246は、それの下端部に、軸線を挟んで互いに背向する1対のフランジ268が設けられたフランジ部を有しており(図11,図12を参照)、また、進出筒保持筒244の上端部開口270は、進出筒246のフランジ部の外形と略同じ形状をなし、その外形より若干大きくされている。したがって、進出筒246は、下端が進出筒保持筒244の上端を超えて上方に進出可能となっている。一方、係止環248は、進出筒246の外径より若干大きな内径の穴を有する環状ものとされていることから、進出筒246に設けられた1対のフランジ268が係止されることで、進出筒246の進出を制限するものとされている。なお、後に詳しく説明するが、進出筒246が進出端位置に位置する状態において、ロッド回転シリンダ266を作動させてねじ付ロッド180を90°回転させれば、進出筒246が90°回転し(図8(b)の2点鎖線参照)、その状態においては、進出筒246の1対のフランジ268が進出筒保持筒244の上端面に係止されることで、進出筒246の下降が禁止されることになる。
【0051】
また、ねじ付ロッド180の先端部272の形状は、図8(a)に示すように、軸線を挟んで互いに背向して張り出す1対の張出突起274を有している。後に詳しく説明するが、ねじ付ロッド180は、前述の上部保持具152をも貫通して、先端部272が上部保持具152の上方に臨み出るようにされている。上部保持具152に設けられた貫通穴158は、ねじ付ロッド180の小径部262より若干大きな穴とされるとともに先端部272の1対の張出突起274が挿通可能な1対の凹所276を有する形状とされており、先端部272が上部保持具152の上方に臨み出ている状態においてねじ付ロッド180がロッド回転シリンダ266によって回転させられ、その状態でねじ付ロッド180が下方に移動させられれば、1対の張出突起274の下端面が上部保持具152の上面に当接し、ねじ付ロッド180の先端部272が上部保持具152を掛止することになる(図8(a)の2点鎖線参照)。
【0052】
本軸受嵌入装置100は、図示を省略する制御装置(コンピュータを主体とする)によって制御作動させられる。なお、上記電動モータ174は、サーボモータであり、当該軸受嵌入装置100の作動中において電動モータ174の回転角度が常に把握されるように構成されており、その回転角度に基づいて、嵌入作業実行装置104が備えるねじ付ロッド180の上下方向の位置も把握可能とされている。
【0053】
<軸受嵌入作業と軸受嵌入装置の動作>
以下に、上記本実施例の軸受嵌入装置100を利用して行われるところの、2つの軸受の軸受嵌入方法(詳しく言えば、それらの軸受が有するアウタレースの嵌入方法)を説明する。本軸受嵌入装置100を用いた軸受嵌入作業では、まず、上側アウタレース30および下側アウタレース32が、それぞれ、上部保持具152,下部保持具250に装着される。図6は、上部保持具152が、上部装置106によって、詳しくは、前後シリンダ装置140によって前方移動端に、かつ、上下シリンダ装置142によって下方移動端に位置させられている状態を示しているが、上側アウタレース30の装着を行う際には、上部保持具152は、前方移動端かつ上方移動端に位置させられており、その位置において、上部アウタレース30の装着が行われる。また、嵌入作業実行装置104は、図7に示す状態とされており、その状態において、下側アウタレース32が、下部保持具250に装着される。
【0054】
次いで、搬入コンベヤ装置108によって、支持部材130の手前まで既に搬入されているハウジング12が、支持部材130に載置され、支持部材130上の所定位置である嵌入作業位置に固定される。ハウジング12はパレット132に固定されており、ハウジング12の支持部材130への載置はパレット132ごと行われ、ハウジング12の嵌入作業位置での固定は、図示を省略する固定機構によって、パレット132が所定位置に固定されることによって行われる。ハウジング12が嵌入作業位置に固定された状態が、図7に示す状態であり、その状態においては、ハウジング12に設けられた軸保持穴16の軸線、つまり、軸受収容部46,48の軸線は、上下方向に配向させられるとともに、それらの軸線は、嵌入作業実行装置104が備えるねじ付ロッド180の軸線と一致させられる。ハウジング12の嵌入作業位置への固定によって、下部保持具250に保持された下側アウタレース32は、軸受収容部48の軸線上における外側に位置させられることになる。なお、パレット132には、上記軸線を中心とした作業穴280が設けられており、この作業穴280を通って、嵌入作業実行装置104による嵌入作業が行われる。
【0055】
パレット12が嵌入作業位置に位置された後、図示を省略する起動スイッチが操作されることによって、当該軸受嵌入装置100の制御作動が開始される。制御作動が開始されえれば、まず、上部装置106が備える上下シリンダ装置142によって、上部保持具152が下方移動端に位置させられ、次いで、その位置において、前後シリンダ装置140によって、上部保持具152が後方移動端に位置させられる。上部保持具152が下方移動端かつ後方移動端に位置させられた状態が、図7に示す状態であり、その状態において、上部保持具152に保持された上側アウタレース30は、軸受収容部46の軸線上におおける外側に位置させられることになる。
【0056】
続いて、電動モータ174の回転が開始されることで、ナット182の回転が開始させられ、ねじ付ロッド180が上方に移動を開始する。なお、この動作においては、ナット182は、上方から見て時計回りに回転させられる。ナット182の回転およびねじ付ロッド180の上方移動によって、当該嵌入作業実行装置104は、図9に示す状態に至る。この状態は、ねじ付ロッド180の大径部260の上端面が、進出筒246の上端部開口の周囲に下側から当接する状態である。この状態を超え、さらにナット182が回転させ続けることで、ねじ付ロッド180とともに進出筒246も上方に進出し、進出筒246の上部に固定された下部保持具250も上方に移動する。これにより、下部保持具250に保持された下側アウタレース32も軸受収容部48に接近するように上方に移動させられ、また、ねじ付ロッド180の先端部272および小径部262の上方の部分が、上部保持具152の貫通穴158に貫通させられる。この動作は、図10に示す状態に至るまで行われ、図10に示す位置にねじ付ロッド180が位置した状態において、電動モータ174の回転が停止させられる。
【0057】
図10に示す状態では、進出筒246は、係止環248によって制限された進出端位置の僅かに手前に位置し、ねじ付ロッド180の先端部272は、上部保持具152の上方に、それの上面と先端部272の下端との間に少しの余裕をもって位置する。ねじ付ロッド180,進出筒246,下部保持具250が定置させられた状態において、ロッド回転シリンダ226が伸びるように作動し、ねじ付ロッド180が、上方から見て時計回りに90゜回転させられる。このねじ付ロッド180が回転させられた状態が、図11に示す状態である。
【0058】
図11に示す状態では、先に説明したように、ねじ付ロッド180の先端部272による上部保持具152の掛止が可能な状態とされ(図8(a)における2点鎖線参照)、また、進出筒保持筒244の上端面に進出筒246の1対のフランジ268が当接可能な状態とされることで、進出保持筒244による進出筒246の掛止が可能な状態とされる(図8(b)における2点鎖線参照)。なお、ねじ付ロッド180の回転により、ねじ付ロッド180は、自身に形成されたボールねじの1/4ピッチ分下降させられることになるが、上部保持具152の上面と先端部272の下端との間の余裕、および、進出筒246の1対のフランジ268と進出筒保持筒244の上端面との間の余裕は、その下降分を超えるものとされており、ねじ付ロッド180の回転に支障をきたすことはない。
【0059】
図11に示す状態が実現された後、電動モータ174が、先の回転とは逆方向の回転を開始させられ、ナット182の上方から見て反時計回りの回転が開始される。これにより、本軸受嵌入装置100によるアウタレース30,32の軸受収容部46,48への嵌入動作が開始される。この嵌入動作においては、ねじ付ロッド180が下方に移動させられ、それに伴って、上部保持具152がねじ付ロッド180の先端部272よって掛止されることで、ねじ付ロッド180に対する上部保持具152の上方に向かう相対移動が禁止され、かつ、進出筒246が進出保持筒244によって掛止られることで、進出保持筒244に対する進出筒246の、つまり、嵌入作業実行装置104の基台170に対する下部保持具250の下方に向かう相対移動が禁止されることになる。
【0060】
上部保持具152および進出筒244が掛止された状態において、さらにナット182の回転が持続させられることでねじ付ロッド180が下方へ移動させられれば、上部保持部152と下部保持具250とが互いに接近するように相対移動させられ、それによって、上側アウタレース30と下側アウタレース32が相対接近させれらる。このような嵌入動作によって、上側アウタレース30,下側アウタレース32が、それぞれ、ハウジング12の軸受収容部46,48に嵌入させられる。なお、保持部支持部材150によって支持された上部保持具152は、圧縮コイルスプリング156の圧縮を伴なう下方への移動が許容されており、ねじ付ロッド180の下方への移動に伴って、先端部272によって掛止された状態で、下方に移動させられる。
【0061】
上記嵌入動作において、通常、上側アウタレース30の軸受収容部46への嵌入抵抗と、下側アウタレース32の軸受収容部48への嵌入抵抗とが相違する。それら嵌入抵抗の相違によって、いずれかのアウタレース30,32の嵌入が先行して行われる。例えば、上側アウタレース30の嵌入が先行する場合、その嵌入が完了した時点で、ねじ付ロッド180の下方への移動が禁止されることになる。その場合、バランスシリンダ178によって嵌入作業実行装置104のコラム122に沿った上下方向への移動が許容されているため、ねじ付ロッド180の下方への移動が禁止された後には、嵌入作業実行装置104が上方に移動して、下側アウタレース32の嵌入が行われる。逆に、例えば、下側アウタレース32の嵌入が先行する場合には、嵌入作業実行装置104の上方移動による下側アウタレース32の嵌入が行われた後、嵌入作業実行装置104の上方への移動が禁止され、ねじ付ロッド180の下方への移動による上側アウタレース30の嵌入が行われることになる。本軸受嵌入装置100では、このように、嵌入作業実行装置104とハウジング12を固定支持する支持部材130との上下方向における相対移動が許容されていることで、適切な嵌入動作が行われるのである。
【0062】
2つのアウタレース30,32の嵌入が完了した状態が、図12に示す状態である。嵌入が完了した場合、つまり、上側アウタレース30が軸受収容部46に底付き、下側アウタレース32が軸受収容部48に底付いた場合には、電動モータ174の負荷が急激に増加する。電動モータ174への供給電流はモニタされており、本軸受嵌入装置100では、この電動モータ174への供給電流の急増を検知して、電動モータ174の回転を停止させるようにされており、その供給電流の急増の検知によって電動モータ174の回転が停止させられて嵌入動作が終了する。なお、本軸受嵌入装置100では、先に説明したロードセル206によって、ナット180の上方への付勢力、つまり、ねじ付ロッド180に作用する引張力を検知している。嵌入が完了した場合には、この引張力も急増するため、本軸受嵌入装置100では、この引張力が所定の値を超えた場合にも、電動モータ174の回転を停止するようにされており、電動モータ174の過負荷,嵌入作業実行装置104の機構部172への過負荷等が、冗長的に防止されている。
【0063】
嵌入動作が完了して電動モータ174の回転が停止させられた状態において、ロッド回転シリンダ266が縮むように作動し、ねじ付ロッド180が、上方から見て、反時計回りに回転させられる。これにより、ねじ付ロッド180が、自身に形成されたボールねじの1/4ピッチ分上昇させられつつ90゜回転し、ねじ付ロッド180の先端部272による上部保持具152の掛止、および、進出筒保持筒244による進出筒246の掛止が解除される。ねじ付ロッド180の先端部272による上部保持具152の掛止が解除されれば、圧縮コイルスプリング156の力によって、上部保持具152が、上側アウタレース30の保持を解きつつ上方に移動させられる。
【0064】
上記上部保持具152の上方への移動後、再度、ナット182が上方から見て反時計回りに回転するように電動モータ174が回転させられ、ねじ付ロッド180が下方に移動させられる。これにより、進出筒244および下部保持具250は、それらの自重により、下部保持具250による下側アウタレース32の保持を解きつつ、ねじ付ロッド180とともに下方に移動する。そして、制御作動が開始させられる前の位置にまでねじ付ロッド180が位置した状態で、電動モータ174の回転が停止させられ、嵌入作業実行装置104の作動が終了する。
【0065】
嵌入作業実行装置104の作動の終了後、上部装置106の前後シリンダ装置140によって、上部保持具152が前方移動端まで移動させられ、続いて、上下シリンダ装置142によって、上部保持具152が上方移動端まで移動させられ、それによって、本軸受嵌入装置100の制御作動が完了する。上記制御作動の完了を待って、支持部材130へのパレット132固定を解除し、ハウジング12をパレット132ごと、搬出コンベヤ装置110に載せ移して、本軸受嵌入装置110を利用した軸受嵌入作業の1つのルーチンをが完了する。
【0066】
<軸受嵌入装置の機能>
本軸受嵌入装置100では、下部保持具250が第1保持具とされ、上部保持具152が第2保持具とされており、嵌入作業実行装置104は、保持具相対移動装置として機能し、それら下部保持具250と上部保持具152とが保持する下側アウタレース32,上側アウタレース30の軸線方向においてそれらが接近する向きに、下部保持具250と上部保持具152とを相対移動させるような構造とされている。詳しく言えば、嵌入作業実行装置104は、嵌入動作が行われる際、上部保持具152を下部保持具250に向かって移動させる構造とされている。
【0067】
より詳しく言えば、下部保持具250と上部保持具152との両者とも、軸線方向に貫通する貫通穴を有しており、嵌入作業実行装置104は、それら貫通穴を貫通するねじ付ロッド180を利用して嵌入作業実行するようにされている。また、ねじ付ロッド180の先端部272は、上部保持具152を掛止する掛止部として機能し、上部保持具250がその先端部272によって掛止られた状態において、上部保持具152を下部保持具250に向かって移動させる構造とされている。すなわち、嵌入作業実行装置104は、ロッドであるねじ付ロッド180を上記軸線方向に移動させるロッド移動装置として機能するものであり、具体的には、電動モータ174,ナット182,ねじ付ロッド180のねじ部210等を含んで、ロッド移動装置が構成されているのである。
【0068】
また、嵌入作業実行装置104は、ねじ付ロッド180の回転によってそれの先端部272による上部保持具152の掛止の有無を切換えるようにされていることから、掛止状態切換機構を含むものとされている。具体的に言えば、ねじ付ロッド180の先端部272およびそれが貫通する上部保持具の貫通穴158,ねじ付ロッド180が回転可能とされた構造,ねじ付ロッド180を回転させるアクチュエータであるロッド回転シリンダ266等を含んで、掛止状態切換機構が構成されているのである。
【0069】
またさらに、本軸受嵌入装置100では、軸保持体支持具としての支持部材130に対しての、保持具相対移動装置としての嵌入作業実行装置104の上記軸線方向の移動が許容されており、本軸受嵌入装置100は、支持具・装置相対移動許容機構を備えるものとなっている。具体的には、装置本体102を構成するコラム122に沿って嵌入作業実行装置104が上下に移動可能とされた構造、嵌入作業実行装置104を装置本体102のベース120に支持させるためのバランスシリンダ178等を含んで、上記支持具・装置相対移動許容機構が構成されているのである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施例の軸受嵌入装置の作業対象物を示す正面図である。
【図2】図1に示す作業対象物の側面断面図である。
【図3】図1に示す作業対象物の側面断面における分解図である。
【図4】図1に示す作業対象物に関して本実施例の軸受嵌入装置が行う作業の概略を示す側面断面図である。
【図5】実施例の軸受嵌入装置を示す正面図である。
【図6】実施例の軸受嵌入装置を示す右側面図である。
【図7】実施例の軸受嵌入装置の要部を拡大して示す右側面断面図である。
【図8】図7におけるA−A断面およびB−B断面を示す図である。
【図9】実施例の軸受嵌入装置の要部を拡大して示す右側面断面図であり、制御作動を開始して初期段階にある状態を示す図である。
【図10】実施例の軸受嵌入装置の要部を拡大して示す右側面断面図であり、嵌入動作を行う位置まで動作させられた状態を示す図である。
【図11】実施例の軸受嵌入装置の要部を拡大して示す右側面断面図であり、嵌入動作が開始される状態を示す図である。
【図12】実施例の軸受嵌入装置の要部を拡大して示す右側面断面図であり、嵌入動作が完了した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
10:中間組立体 12:ハウジング(軸保持体) 14:かさ歯車(軸体) 26:上側アンギュラ円すいころ軸受 28:下側アンギュラ円すいころ軸受 30:上側アウタレース 32:下側アウタレース 46:軸受収容部(軸受収容欧凹所) 48:軸受収容部(軸受収容欧凹所) 100:軸受嵌入装置 102:装置本体 104:嵌入作業実行装置(保持具相対移動装置,ロッド移動装置) 106:上部装置 130:支持部材(軸保持体支持具) 152:上部保持具(第2保持具) 158:貫通穴 170:基台 172:機構部 174:電動モータ 178:バランスシリンダ(支持具・装置相対移動許容機構) 180:ねじ付ロッド(ロッド) 182:ナット 210:ねじ部 226:ロッド回転シリンダ(掛止状態切換機構) 246:進出筒 250:下部保持具(第1保持具)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体を軸保持体にそれを貫通する状態で回転可能に保持させるべくそれらの間に軸線方向において互いに離間して配設されて少なくともラジアル力を受ける2つの軸受若しくはそれの外輪の各々を、前記軸保持体に軸線方向において互いに背向して設けられた2つの軸受収容凹所の各々に嵌入させる軸受嵌入装置であって、
(A)前記2つの軸受若しくはそれの外輪の一方を、前記2つの軸受収容凹所の一方の外側において軸線上に位置させる状態で保持する第1保持具と、(B)前記2つの軸受若しくはそれの外輪の他方を、前記2つの軸受収容凹所の他方の外側において軸線上に位置させる状態で保持する第2保持具と、(C)前記第1保持具と前記第2保持具とを、軸線方向においてそれらが接近する向きに相対移動させる保持具相対移動装置とを備え、その保持具相対移動装置によって第1保持具と前記第2保持具とを相対移動させることで、前記2つの軸受若しくはそれの外輪を、軸線方向においてそれらが接近する向きに相対移動させて、それらの各々を前記2つの軸受収容凹所の各々に嵌入させることを特徴とする軸受嵌入装置。
【請求項2】
前記2つの軸受若しくはそれの外輪の各々の前記2つの軸受収容凹所の各々への嵌入時において、前記第1保持具と前記保持具相対移動装置とが軸線方向に相対移動不能とされるとともに、前記保持具相対移動装置が、前記第2保持具を前記第1保持具に向かって移動させる構造とされた請求項1に記載の軸受嵌入装置。
【請求項3】
前記軸保持体を支持する軸保持体支持具を備えるとともに、その軸保持体支持具と前記保持具相対移動装置との軸線方向における相対移動を許容する支持具・装置相対移動許容機構を備えた請求項2に記載の軸受嵌入装置。
【請求項4】
前記軸保持体支持具が軸線方向に移動不能とされ、前記保持具相対移動装置が軸線方向に移動可能とされた請求項3に記載の軸受嵌入装置。
【請求項5】
前記第1保持具および前記第2保持具の各々が、軸線方向に貫通する貫通穴を有するものとされ、
前記保持具相対移動装置が、(a)前記第1保持具および第2保持具との両者を貫通可能とされ、それら両者を貫通する状態において前記第2保持具の前記第1保持具とは反対側に位置する部分を掛止可能な掛止部を有するロッドと、(b)そのロッドを軸線方向に移動させるロッド移動装置とを含んで構成され、前記掛止部が前記第2保持具を掛止する状態において前記ロッドを前記第2保持具から第1保持具に向かう方向に移動させることによって、前記第1保持具と前記第2保持具とをそれらが接近する向きに相対移動させる構造とされた請求項2ないし請求項4のいずれかに記載の軸受嵌入装置。
【請求項6】
前記ロッド移動装置が、前記ロッドを、前記第1保持具と前記第2保持具との両者に貫通する位置と、前記第2保持具に貫通しない位置との間で軸線方向に移動させるものとされ、
前記保持具相対移動装置が、前記ロッドが前記第1保持具と前記第2保持具との両者を貫通する状態において、前記掛止部による第2保持具の掛止の有無を切換える掛止状態切換機構を有する請求項5に記載の軸受嵌入装置。
【請求項7】
軸体を軸保持体にそれを貫通する状態で回転可能に保持させるべくそれらの間に軸線方向において互いに離間して配設されて少なくともラジアル力を受ける2つの軸受若しくはそれの外輪の各々を、前記軸保持体に軸線方向において互いに背向して設けられた2つの軸受収容凹所の各々に嵌入させる軸受嵌入方法であって、
前記2つの軸受若しくはそれの外輪の各々を、前記2つの軸受収容凹所の各々の外側において軸線上に位置させ、
前記2つの軸受若しくはそれの外輪を、軸線方向においてそれらが接近する向きに相対移動させて、それらの各々を前記2つの軸受収容凹所の各々に嵌入させることを特徴とする軸受嵌入方法。
【請求項8】
前記2つの軸受もしくはそれの外輪の一方と、それらの他方と、前記軸保持体とのうちのいずれか1つのものの軸線方向の移動を禁止する状態において、前記2つの軸受若しくはそれの外輪を、軸線方向においてそれらが接近する向きに相対移動させる請求項7に記載の軸受嵌入方法。
【請求項9】
前記軸保持体の軸線方向の移動を禁止する状態において、前記2つの軸受若しくはそれの外輪を、軸線方向においてそれらが接近する向きに相対移動させる請求項8に記載の軸受嵌入方法。
【請求項1】
軸体を軸保持体にそれを貫通する状態で回転可能に保持させるべくそれらの間に軸線方向において互いに離間して配設されて少なくともラジアル力を受ける2つの軸受若しくはそれの外輪の各々を、前記軸保持体に軸線方向において互いに背向して設けられた2つの軸受収容凹所の各々に嵌入させる軸受嵌入装置であって、
(A)前記2つの軸受若しくはそれの外輪の一方を、前記2つの軸受収容凹所の一方の外側において軸線上に位置させる状態で保持する第1保持具と、(B)前記2つの軸受若しくはそれの外輪の他方を、前記2つの軸受収容凹所の他方の外側において軸線上に位置させる状態で保持する第2保持具と、(C)前記第1保持具と前記第2保持具とを、軸線方向においてそれらが接近する向きに相対移動させる保持具相対移動装置とを備え、その保持具相対移動装置によって第1保持具と前記第2保持具とを相対移動させることで、前記2つの軸受若しくはそれの外輪を、軸線方向においてそれらが接近する向きに相対移動させて、それらの各々を前記2つの軸受収容凹所の各々に嵌入させることを特徴とする軸受嵌入装置。
【請求項2】
前記2つの軸受若しくはそれの外輪の各々の前記2つの軸受収容凹所の各々への嵌入時において、前記第1保持具と前記保持具相対移動装置とが軸線方向に相対移動不能とされるとともに、前記保持具相対移動装置が、前記第2保持具を前記第1保持具に向かって移動させる構造とされた請求項1に記載の軸受嵌入装置。
【請求項3】
前記軸保持体を支持する軸保持体支持具を備えるとともに、その軸保持体支持具と前記保持具相対移動装置との軸線方向における相対移動を許容する支持具・装置相対移動許容機構を備えた請求項2に記載の軸受嵌入装置。
【請求項4】
前記軸保持体支持具が軸線方向に移動不能とされ、前記保持具相対移動装置が軸線方向に移動可能とされた請求項3に記載の軸受嵌入装置。
【請求項5】
前記第1保持具および前記第2保持具の各々が、軸線方向に貫通する貫通穴を有するものとされ、
前記保持具相対移動装置が、(a)前記第1保持具および第2保持具との両者を貫通可能とされ、それら両者を貫通する状態において前記第2保持具の前記第1保持具とは反対側に位置する部分を掛止可能な掛止部を有するロッドと、(b)そのロッドを軸線方向に移動させるロッド移動装置とを含んで構成され、前記掛止部が前記第2保持具を掛止する状態において前記ロッドを前記第2保持具から第1保持具に向かう方向に移動させることによって、前記第1保持具と前記第2保持具とをそれらが接近する向きに相対移動させる構造とされた請求項2ないし請求項4のいずれかに記載の軸受嵌入装置。
【請求項6】
前記ロッド移動装置が、前記ロッドを、前記第1保持具と前記第2保持具との両者に貫通する位置と、前記第2保持具に貫通しない位置との間で軸線方向に移動させるものとされ、
前記保持具相対移動装置が、前記ロッドが前記第1保持具と前記第2保持具との両者を貫通する状態において、前記掛止部による第2保持具の掛止の有無を切換える掛止状態切換機構を有する請求項5に記載の軸受嵌入装置。
【請求項7】
軸体を軸保持体にそれを貫通する状態で回転可能に保持させるべくそれらの間に軸線方向において互いに離間して配設されて少なくともラジアル力を受ける2つの軸受若しくはそれの外輪の各々を、前記軸保持体に軸線方向において互いに背向して設けられた2つの軸受収容凹所の各々に嵌入させる軸受嵌入方法であって、
前記2つの軸受若しくはそれの外輪の各々を、前記2つの軸受収容凹所の各々の外側において軸線上に位置させ、
前記2つの軸受若しくはそれの外輪を、軸線方向においてそれらが接近する向きに相対移動させて、それらの各々を前記2つの軸受収容凹所の各々に嵌入させることを特徴とする軸受嵌入方法。
【請求項8】
前記2つの軸受もしくはそれの外輪の一方と、それらの他方と、前記軸保持体とのうちのいずれか1つのものの軸線方向の移動を禁止する状態において、前記2つの軸受若しくはそれの外輪を、軸線方向においてそれらが接近する向きに相対移動させる請求項7に記載の軸受嵌入方法。
【請求項9】
前記軸保持体の軸線方向の移動を禁止する状態において、前記2つの軸受若しくはそれの外輪を、軸線方向においてそれらが接近する向きに相対移動させる請求項8に記載の軸受嵌入方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−15039(P2007−15039A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−197195(P2005−197195)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(591092615)豊精密工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(591092615)豊精密工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]