説明

軸受用樹脂組成物

【課題】
高速高荷重下での耐摩擦摩耗性に優れる軸受用樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】
(A)熱可塑性樹脂100重量部に対して、(B)球状充填材1〜50重量部、(C)固体潤滑剤1〜50重量部含有する軸受用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受用樹脂組成物に係わる。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、OA部品等はコストダウンのため金属から樹脂への代替が進められている。その中でも、樹脂軸受材については使用特性上、潤滑油またはグリス接触下での耐久性が求められるのみならず、高温域から低温域、多湿域から乾燥域を組み合わせた厳しい自然環境下においても、不具合の生じない耐久性が求められている。特に部品の種類によっては、10年間メンテナンス不要が目標基準となっているものもあり、樹脂軸受材に求められる性能は年々厳しくなっている。
【0003】
従来、これらの軸受用途には、熱可塑性樹脂に炭素繊維、ガラス繊維等の繊維状フィ
ラーおよびフッ素樹脂、ニ硫化モリブデン等の固体潤滑剤を含有した樹脂組成物が検討されてきたが(特許文献1参照)、高速、高荷重下等の過酷な条件下では耐摩擦摩耗性が充分でなく、使用が制限されてきた。
【特許文献1】特開平5−78687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記欠点を解決して、高速高荷重下での耐摩擦摩耗性に優れる軸受用樹脂
組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
これらの問題点を解決するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、
(A)熱可塑性樹脂100重量部に対して、(B)球状充填材1〜50重量部、(C)固体潤滑剤1〜50重量部含有する軸受用樹脂組成物が、高速高荷重下での耐摩擦摩耗特性を大幅に改良することができ、軸受用途として好適であることを見出し、本発明に至った。
【発明の効果】
【0006】
本発明の(A)熱可塑性樹脂100重量部、(B)球状充填材1〜50重量部、(C)固体潤滑剤成分1〜50重量部からなる軸受用樹脂組成物は耐摩擦摩耗性に優れるため、高速高負荷軸受用の樹脂として好適に使用することができ、これら軸受に使用した場合、摩耗量が極めて小さいとの効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の樹脂組成物に使用される(A)熱可塑性樹脂は、強度および耐熱面からいわゆるエンジニアリングプラスチック類が好ましく、例えばポリアリーレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール等の結晶性樹脂、さらには芳香族ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル等の非晶性樹脂がある。これらの中でも、強度、耐熱、成形加工性のバランスよりポリアリーレンスルフィド樹脂および芳香族ポリアミドイミド樹脂が特に好ましい。
【0008】
本発明の樹脂組成物に使用されるポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、PAS樹脂と略記)とは、式[−Ar−S−](但し、−Ar−は、アリーレン基である。)で表されるアリーレンスルフィドの繰り返し単位を主たる構成要素とする芳香族ポリマーである。[−Ar−S−]を1モル(基本モル)と定義すると、本発明で使用するPASは、この繰り返し単位を通常50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含有するポリマーである。アリーレン基としては、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、置換フェニレン基(置換基は、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、またはフェニル基である。)、p、p’−ジフェニレンスルホン基、p、p’−ビフェニレン基、p、p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフチレン基などを挙げることができる。PASとしては、主として同一のアリーレン基を有するポリマーを好ましく用いることができるが、加工性や耐熱性の観点から、2種以上のアリーレン基を含んだコポリマーを用いることもできる。
【0009】
これらのPASの中でも、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を主構成要素とするPPSが、加工性に優れ、しかも工業的に入手が容易であることから特に好ましい。こ
の他に、ポリアリーレンケトンスルフィドなどを使用することができる。コポリマーの具
体例としては、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位とm−フェニレンスルフィドの 繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンケトンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンスルホンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマーなどを挙げることができる。これらのPASは、結晶性ポリマーであることが好ましい。また、PASは、靭性や強度の観点から、直鎖状ポリマーであることが好ましい。このようなPASは、極性溶媒中で、
アルカリ金属硫化物とジハロゲン置換芳香族化合物とを重合反応させる公知の方法(例え
ば、特公昭63−33775号公報に記載されている。)により得ることができる。
【0010】
アルカリ金属硫化物としては、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムなどを挙げることができる。反応系中で、NaSHとNaOHを反応させることにより生成させた硫化ナトリウムなども使用することができる。ジハロゲン置換芳香族化合物としては、例えば、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、p−ジブロモベンゼン、2,6−ジクロロナフタリン、1−メトキシ2,5−ジクロロベンゼン、4,4’−ジクロロビフェニル、3,5−ジクロロ安息香酸、p、p’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジクロロジフェニルスルホキシド、4,4’−ジクロロジフェニルケトンなどを挙げることができる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0011】
PASに多少の分岐構造または架橋構造を導入するために、1分子当たり3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロゲン置換芳香族化合物を少量併用することができる。ポリ ハロゲン置換芳香族化合物の好ましい例としては、1,2,3−トリクロロベンゼン、1,2,3−トリブロモベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリブロモベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリブロモベンゼン、1,3−ジクロロ−5−ブロモベンゼンなどのトリハロゲン置換芳香族化合物、及びこれらのアルキル置換体を挙げることができる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、経済性、反応性、物性などの観点から、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、及び1,2,3−トリクロロベンゼンがより好ましい。
【0012】
極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン、1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン、テトラアルキル尿素、ヘキサアルキル燐酸トリアミドなどに代表されるアプロチック有機アミド溶媒が、反応系の安定性が高く、高分子量のポリマーが得られやすいので好ましい。本発明で使用するPASは、温度310℃、剪断速度1200/秒で測定した溶融粘度が、通常、10〜600Pa・s、好ましくは40〜550Pa・s、より好ましくは50〜550Pa・sである。溶融粘度が異なる2種以上のPASをブレンドして使用する場合には、ブレンド物の溶融粘度が前記範囲内 にあることが好ましい。PASの溶融粘度が小さすぎると、機械的強度や靭性などの物 性が不充分となる恐れがある。PASの溶融粘度が大きすぎると、溶融流動性が不充分となり、射出成形性や押し出し成形性が不充分となる恐れがある。
【0013】
本発明で使用するPASは、重合終了後の洗浄したものを使用することができるが、さらに、塩酸、酢酸などの酸を含む水溶液、あるいは水−有機溶剤混合溶液により処理したものや、塩化アンモニウムなどの塩溶液で処理を行ったものなどを使用することが好ましい。特に、アセトン:水=1:2(容積比)に調整した混合溶媒中でのpHが8以下を示すようになるまで洗浄処理したPASを用いると、樹脂組成物の溶融流動性及び機械的物性をより一層向上させることができる。
【0014】
本発明で使用するPASは、100μm以上の平均粒子径を有する粒状物であることが望ましい。PASの平均粒子径が小さすぎると、押し出し機による溶融押し出しの際、フィード量が制限されるため、樹脂組成物の押し出し機内での滞留時間が長くなり、樹脂組成物の劣化等の問題が生じる恐れがある。また、製造効率上も望ましくない。
【0015】
本発明の樹脂組成物に使用される芳香族ポリアミドイミド樹脂は、芳香族トリカルボン
酸無水物(一部、芳香族テトラカルボン酸無水物を含む場合も含む。)とジイソシアネ
ート化合物より合成される。一般には、重合温度、反応時間、触媒添加方法を適切に行
うことによりアミド化反応とイミド化反応を制御することにより行うことが出来るが、
基本的にはアミド基の生成反応が実質的に終了するまでイミド基の生成反応が起こらな
い条件でアミド化反応を行い、ついでイミド化反応を行う条件で実施するのであれば差
し支えない。
【0016】
本発明で使用される芳香族ポリアミドイミド樹脂を得るため、アミド化反応終了後、イミド化反応をさせる方法としては、重合温度を制御する方法が簡便である。即ち、芳香族トリカルボン酸無水物(一部芳香族テトラカルボン酸無水物を含む場合も含む)とジイソシアネート化合物を溶媒中50〜100℃、好ましくは60〜100℃、更に好ましくは、80〜100℃の温度範囲で反応させ、アミド化反応が70%以上、好ましくは80%、更に好ましくは90%、最も好ましくは、95%以上終了してから、通常100〜200℃、好ましくは、105〜180℃、更に好ましくは110〜180℃の温度範囲でイミド化反応を行わせる方法である。
【0017】
芳香族トリカルボン酸無水物(一部、芳香族テトラカルボン酸無水物を含む場合も含
む。)とジイソシアネート化合物との反応温度は、重要な条件であり、これを制御することにより、本発明に使用される樹脂組成物を構成する芳香族ポリアミドイミド樹脂を製造することが出来る。各段における温度は、その温度範囲内であれば、いかように設定しても構わない。例えば、昇温させても、一定温度に保っても、またこの組み合わせであっても構わないが、一定温度に保つのが望ましい。各段の温度がこの範囲より低い場合は、アミド及び、イミド基の生成反応が完結せず、その結果、得られた芳香族ポリアミドイミド樹脂の重合度があがらないため、本発明の樹脂組成物が脆いものとなる。
アミド化の温度が上記範囲より高い場合は、アミド基の生成反応とイミド基の生成反応が同時期に起こるため、得られた芳香族ポリアミドイミド樹脂は溶融流動性及び滞留安定性の劣ったものになる。
【0018】
芳香族トリカルボン酸無水物とジイソシアネート化合物との反応時間は、アミド化反
応は40分〜5時間、好ましくは、40分から2時間であり、イミド化反応は、40分から10時間、好ましくは1時間から8時間である。反応時間がこれよりも短すぎると、得られた芳香族ポリアミドイミドの重合度があがらないため、本発明の樹脂組成物が脆いものとなる。一方、反応時間が長すぎると、得られた芳香族ポリアミドイミド樹脂は溶融流動性の劣ったものとなる。アミド基の成分とイミド基の成分を重合反応の間追跡する必要があるが、この方法は、公知の赤外分光法、ガスクロマトグラム法等により可能である。
【0019】
本発明を構成する樹脂組成物に使用する芳香族ポリアミドイミド樹脂を製造するため
に使用する芳香族トリカルボン酸は、次の一般式で示される化合物である。
【0020】
【化1】


(式中のArは、少なくとも1つの炭素6員環を含む3価の芳香族基を示す。)
【0021】
Arの具体例としては、以下のものが例示されるが、2種以上の化合物を混合して使
用することもできる。
【0022】
【化2】

これらのうち、芳香族トリカルボン酸無水物としては、トリメリット酸無水物が好ま
しい。
【0023】
上記芳香族トリカルボン酸無水物の0〜50モル%を芳香族テトラカルボン酸無水物
に代えることも可能である。しかし、上記範囲より、芳香族テトラカルボン酸無水物が
多いと、得られる芳香族ポリアミドイミド樹脂が脆くなる傾向がある。芳香族テトラカ
ルボン酸無水物は、下記一般式で表される化合物である。
【0024】
【化3】


(式中、Arは、少なくとも1つの炭素6員環を含む3価の芳香族基を示す。)
【0025】
芳香族テトラカルボン酸無水物の具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0026】
【化4】



【0027】
本発明を構成する樹脂組成物に用いられる芳香族ポリアミドイミド樹脂を製造するた
めに使用するジイソシアネート化合物とは下記一般式で示される化合物である。
【0028】
〈化5〉
O=C=N−R−N=C=O
(式中、Rは、2価の芳香族及び/又は脂肪族基)
【0029】
その具体例としては、以下のものが挙げられるが、2種以上の化合物を混合して用い
ることもできる。
【0030】
【化5】



【化6】

【化7】

【0031】
特に好ましいものとして、m−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソ
シアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、メチレンジ(4−フェニルイソシアネ
ート)を挙げることが出来る。
【0032】
本発明に用いる樹脂組成物に好適な芳香族ポリアミドイミド樹脂を製造するためには、芳香族トリカルボン酸無水物成分(前述のジカルボン酸、テトラカルボン酸無水物を含むことが出来る)とジイソシアネート成分は、それぞれのモル数をA、Bとしたとき両
者のモル比は、0.9<A/B<1.1に保たれることが望ましく、より好ましくは、0.99<A/B<1.01に保たれることである。
【0033】
本発明においては、芳香族ポリアミドイミド樹脂を円滑に製造するため、溶媒が使用
される。使用される溶媒は、ジイソシアネート化合物に対して、不活性なものであれば、特に限定無く、具体的には、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等の生成する芳香族ポリアミドイミドに相溶性を有する溶媒及びニトロベンゼン、ニトロトルエン等の生成する芳香族ポリアミドイミドと相溶性を有しない極性溶媒を挙げることが出来る。
これらは単独で使用しても、混合して使用しても差し支えない。好ましいものは、ポリ
アミドイミドと相溶性を有するN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等の溶媒で
ある。また、これらの溶媒は、モノマー原料の溶媒に対する割合で、0.1〜4モル/リットルで使用する。
【0034】
本発明に用いる樹脂組成物を構成する芳香族ポリアミドイミド樹脂の製造には、各種
触媒を使用できるが、溶融時の成形加工性を損なわないためには、その使用量は最小限に止めるべきであり、重合速度が十分な水準にある限りは、使用しないことが望ましい。
触媒の具体例を例示するならば、ピリジン、キノリン、イソキノリン、トリメチルアミン、N,Nージエチルアミン、トリエチルアミン、等の第3級アミン、酢酸コバルト、ナフテン酸コバルト等の弱酸の金属塩、重金属塩、アルカリ金属塩等を挙げることが出来る。
【0035】
また、溶媒、モノマー等から構成される重合系の含有水分は、500ppm以下に保つことが望ましく、より好ましくは、100ppm以下、最も好ましくは、50ppm以下に保たれる。系内の含有水分量が500ppmを越えると、本発明の芳香族ポリアミドイミドの重合度が上がらないので好ましくない。
【0036】
本発明の樹脂組成物を構成する芳香族ポリアミドイミド樹脂は、メタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ヘプタン、トルエン等の脂肪族、芳香族炭化水素類により沈殿、洗浄することにより粉末として回収されるが、重合溶媒を直接濃縮してもかなわない。さらには、ある程度まで濃縮した後、押し出し機等で減圧下に溶媒を除去しペレット化する方法を行うこともできる。
【0037】
本発明に用いる樹脂組成物に好適な芳香族ポリアミドイミド樹脂の重合度は、ジメチルホルムアミド中40℃で濃度1g/dlで測定した還元粘度で表示するならば、0.15dl/g〜10dl/gが好適に用いいられ、より好ましくは、0.2dl/g〜0.6dl/gが、最も好ましくは、0.2〜0.5dl/gである。
【0038】
本発明の樹脂組成物の成分(A)として好ましいポリアリーレンスルフィド樹脂と芳香族ポリアミドイミド樹脂は、ポリアリーレンスルフィド樹脂単独で使用しても良いし、ポリアリーレンスルフィド樹脂と芳香族ポリアミドイミド樹脂を併用しても良い。
ポリアリーレンスルフィド樹脂と芳香族ポリアミドイミド樹脂を併用する場合は、両者の合計100重量部に対して、芳香族ポリアミドイミド樹脂が60重量部以下であることが好ましい。芳香族ポリアミドイミド樹脂がこの量より多いと溶融時の流動性が低下し、成形加工性が劣る。
【0039】
本発明の樹脂組成物の(B)成分である球状充填材は、例えば、セラミックバルーン、シラスバルーン、ガラスバルーン、金属バルーン等の中空状充填材やセラミック粉末、シリカ、ガラスビーズ、金属粉末等の粒子状充填材が挙げられるが、いずれも荷重負荷時の強度を保持するために圧縮強度は30MPa以上有する物が好ましい。
また、粒径については、平均粒径で10〜200μmの範囲のものが好ましく、更に好ましくは10〜100μmである。
これら充填材は成形体表面に存在することで、金属軸との接触において真実接触面を減少させ、摩擦を軽減する効果がある。
【0040】
また、これら球状充填材を配合する割合としては、成分(A)100重量部に対して1〜50重量部であることが好ましく、更に好ましくは1〜30重量部である。1重量部未満では、所望の耐摩擦摩耗性が得られず、50重量部を超えて配合すると成形体の靭性および流動性が低下するので好ましくない。
【0041】
これら球状充填材は、1種又は2種以上併用することができる。特に、中空状充填材と粒子状充填材を併用することにより強度と摺動性を兼備することができるので好ましい。
【0042】
さらに、これら球状充填材の表面は、樹脂との界面密着性向上を目的として、有機シラン、有機ボラン、有機チタネート等を使用して表面処理を施すこともできる。
【0043】
本発明の樹脂組成物の(C)成分である固体潤滑剤の一つであるフッ素樹脂については、潤滑性の付与を目的とした添加剤で、主鎖に炭素鎖を有し、側鎖にフッ素原子の結
合を有する重合体、またはそのような重合体を有する共重合体である。具体例としては、
ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと略称する。)、テトラフルオロエチレ
ン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下、PFAと略称する。)、テ
トラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下、FEPと略称する。)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(以下、ETFEと略称する。)、テトラフルオロエチレン−フルオロアルキルビニルエーテル−フルオロオレフィン共重合体(以下、EPEと略称する。)、エチレン−トリクロロフルオロエチレン共重合体(以
下、ECTFEと略称する。)などが挙げられる。
【0044】
フッ素樹脂は、その炭素鎖が完全にフッ素化されたPTFEが潤滑性に優れていて特に好ましく、市販のPTFEとして、成形用の粉末やディスパージョン用の粉末を使用できる。また、分子量としては高分子量タイプ、低分子量タイプ共に用いることができ、流動性が要求される場合は低分子量タイプを、機械的強度が要求される場合は高分子量タイプを用いることが好ましい。
【0045】
また、これら固体潤滑剤を配合する割合としては、成分(A)に対して1〜50重量部であることが好ましい。この所定量未満では、所望の潤滑性が得られず、所定量を超えて配合すると成形体の機械強度および流動性が低下するので好ましくない。
【0046】
本発明の樹脂組成物には、耐摩擦摩耗性の改善を目的として滑剤を添加することも効果的である。滑剤としては、鉱物油、シリコン油、エチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ステアリン酸又はモンタン酸金属塩、ステアリン酸又はモンタン酸エステル、ステアリン酸又はモンタン酸アミドなどの脂肪酸誘導体が代表的なものとして挙げられる。これら滑剤は成形体表面に存在し、摺動面の摩擦熱により液状化され、軸と軸受け間に油膜を作ることにより摩擦が軽減されるものと推測している。
【0047】
また、これら滑剤を配合する割合としては、0.1〜10重量部であることが好ましい。この所定量未満では、所望の潤滑性が得られず、所定量を超えて配合すると成形体の機械強度の低下並びに成形品表面への滑剤のブリードアウトを引き起こすので好ましくない。
【0048】
本発明の樹脂組成物には、機械的強度の改良を目的として請求項に記載した以外の各
種充填材を配合しても良く、充填材の例としては、ウオラストナイト、マイカ、タルク、カオリン、二酸化珪素、クレー、アスベスト、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、ケイソウ土、グラファイトに代表される鉱物質充填材;ガラス繊維、炭素繊維、ミルドファイバー、チタン酸カリウム繊維、ボロン繊維、炭化珪素繊維等の繊維状充填材を挙げることが出来る。充填材は、樹脂組成物の1〜70重量%使用することが出来る。好 ましい充填材としては、ガラス繊維、ミルドファイバー、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維であるが、耐摩耗性で選択すると硬度の小さいマイカ、タルク、グラファイト等である。
【0049】
また、本発明の樹脂組成物に耐衝撃性を付与する目的でエラストマーを配合することができる。エラストマーの例としては、ポリスルフィドゴム、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリエステルアミドエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、シリコンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。
【0050】
上記以外の添加剤としては、着色剤を挙げることが出来る。着色剤の例としては、カ
ーボンブラック、酸化チタン、硫化亜鉛、酸化亜鉛等が例示できる。
【0051】
本発明において、上記のような(A)熱可塑性樹脂100重量部に対して、(B)球状充填材1〜50重量部、(C)固体潤滑剤1〜50重量部含有する軸受溶樹脂組成物の成形は、通常の射出成形法によって行われ、シリンダー温度は、290〜320℃の範囲で行い、金型は十分な耐熱性を得るために120〜160℃にすることが望ましい。また、耐熱性を改良し、且つ残留応力を取り除く目的で成形後に熱処理することが望ましい。特に、金型温度が120℃より低い温度で成形した場合は熱処理するのが好ましい。熱処理の方法は、特に限定されるものではなく、例えば通常の熱風式オーブンを用いる。熱処理温度は、好ましくは、180〜280℃、最も好ましくは、200〜260℃で1時間〜36時間常圧もしくは減圧で行うことができる。
【実施例】
【0052】
本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、下記の実施例および比較例に用いる物質は下記のもの及び合成例で製造したものである。
【0053】
〈合成例1〉
(芳香族ポリアミドイミド樹脂の製造)
含水量15ppmのN−メチルピロリドン、3リットルを5リットルの撹拌機、温度計、先端に塩化カルシウムを充填した乾燥管を装着した環流冷却管を備えた反応器に仕込んだ。ここに無水トリメリット酸555g(50モル%)、続いて2、4−トリレンジイソシアネート503.3g(50モル%)を加えた。無水トリメリット酸添加時の系内の水分は、40ppmであった。最初、室温から20分を要して内容物温度を90℃とし、この温度で50分間重合を行った。重合を行いながら、2、4−トリレンジイソシアネートのイソシアネート基の減少量とイミド基の生成量をを測定した。測定方法は、少量の反応液を注射器でサンプリングし赤外分光法でイソシアネート基の2276cm−1の吸収を定量することにより行った。50分間重合を行ったところイソシアネート基の量は、50モル%に減少した。この時のイミド基の吸収は全く認められなかった。これによりイミド化の反応が起こるまでにアミド化反応が終了したことを確認した。この後、15分を要して115℃に昇温し、この温度に保ったまま重合を8時間継続した。重合終了後、ポリマー溶液を6リットルのメタノール中に強力な撹拌下に滴下した。析出したポリマーを吸引濾別し、さらにメタノール中に再分散させて良く洗浄し濾別後、135℃で6時間乾燥を行いポリアミドイミド粉末を得た。ジメチルホルムアミド溶液(濃度10g/dl)でこのものの40℃における還元粘度を測定したところ0.25dl/gであった。
【0054】
〈実施例1〜4、比較例1、2〉
PPS樹脂(融点285℃、310℃における剪断速度1200/秒で測定した溶融粘度が50Pa・s)80重量部に対し、ポリテトラフルオロエチレン(中分子量未焼成品、平均粒径17μm)およびセラミックバルーン(太平洋セメント製 E−SPHERES SL75:SiO/Al=6/4比、平均粒径45μm、圧縮強度70MPa)、ガラスバルーン(ポッターズバロティーニ製 EGB731D 平均粒径13μm、圧縮強度69MPa)、炭素繊維(ピッチ系、平均繊維径13μm)、ガラス繊維(チョップドストランド、平均繊維径10μm)を表1に示す割合でブレンドし、さらに場合により滑剤(脂肪酸エステル)を加え、二軸押し出し機を用いて320℃で溶融混錬りしてペレット化し樹脂組成物を製造した。このペレットを用いて短冊片を成形し、摩耗量(窪み量)を測定した。評価には、スラスト摩擦摩耗試験機(オリエンテック株式会社製;EFM−III−EN)を用い、以下の条件にて評価した。
(試験条件)
軸形状および材質:4mmφ鋼材(S45C)
試験温度:室温、試験速度:1,850rpm、荷重:30kgf
試験環境:(1)グリス有(グリス種:ポリαオレフィン油+リチウムセッケン系)
(2)グリス無
試験時間:1hr
【0055】
〈実施例5〜8、比較例3、4〉
合成例1で製造した芳香族ポリアミドイミド樹脂40重量部とPPS樹脂(融点285℃、310℃における剪断速度1200/秒で測定した溶融粘度が、50Pa・s)40重量部に対し、ポリテトラフルオロエチレン(中分子量未焼成品、平均粒径17μm)およびセラミックバルーン(太平洋セメント製 E−SPHERES SL75:SiO/Al=6/4比、平均粒径45μm、圧縮強度70MPa)、ガラスバルーン(ポッターズバロティーニ製 EGB731D 平均粒径13μm、圧縮強度69MPa)、炭素繊維(ピッチ系、平均繊維径13μm)、ガラス繊維(チョップドストランド、平均繊維径10μm)を表2に示す割合でブレンドし、さらに場合により滑剤(脂肪酸エステル)を加え、二軸押し出し機を用いて320℃で溶融混錬りしてペレット化し樹脂組成物を製造した。その後、実施例1と同様の方法にて短冊片を成形し、評価した。
【0056】
〈比較例5〜8〉
合成例1で製造した芳香族ポリアミドイミド樹脂、PPS樹脂(融点285℃、310℃における剪断速度1200/秒で測定した溶融粘度が、50Pa・s)、ポリテトラフルオロエチレン(中分子量未焼成品、平均粒径17μm)、セラミックバルーン(太平洋セメント製 E−SPHERES SL75:SiO/Al=6/4比、平均粒径45μm、圧縮強度70MPa)を表3に示す割合でブレンドし、2軸押し出し機を用いて320℃で溶融混錬りしてペレット化し 樹脂組成物を製造した。その後、実施例1と同様の方法にて短冊片を成形し、評価した。
【0057】
【表1】

PPS:ポリフェニレンスルフィド樹脂
PAI:芳香族ポリアミドイミド樹脂
SB:セラミックバルーン
GB:ガラスバルーン
PTFE:ポリテトラフルオロエチレン
滑剤:脂肪酸エステル
CF:炭素繊維
GF:ガラス繊維
【0058】
【表2】

PPS:ポリフェニレンスルフィド樹脂
PAI:芳香族ポリアミドイミド樹脂
SB:セラミックバルーン
GB:ガラスバルーン
PTFE:ポリテトラフルオロエチレン
滑剤:脂肪酸エステル
CF:炭素繊維
GF:ガラス繊維
【0059】
【表3】

PPS:ポリフェニレンスルフィド樹脂
PAI:芳香族ポリアミドイミド樹脂
SB:セラミックバルーン
GB:ガラスバルーン
PTFE:ポリテトラフルオロエチレン
滑剤:ステアリン酸カルシウム
CF:炭素繊維
GF:ガラス繊維
【0060】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜8の樹脂組成物においては、磨耗量が小
さい値を示した。これに対して、比較例1〜8に示す樹脂組成物の場合は、実施例に比
べて磨耗量の増大が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂100重量部に対して、(B)球状充填材1〜50重量部、(C)固体潤滑剤1〜50重量部含有することを特徴とする軸受用樹脂組成物。
【請求項2】
(A)熱可塑性樹脂が、ポリアリーレンスルフィド樹脂である請求項1記載の軸受用樹脂組成物。
【請求項3】
(A)熱可塑性樹脂が、ポリアリーレンスルフィド樹脂及び芳香族ポリアミドイミド樹脂である請求項1記載の軸受用樹脂組成物。
【請求項4】
(B)球状充填材の平均粒径が、10〜200μmである請求項1記載の軸受用樹脂組成物。
【請求項5】
(B)球状充填材が、中空状充填材及び/又は粒子状充填材である請求項1〜4何れか1項記載の軸受用樹脂組成物。
【請求項6】
中空状充填材がセラミックバルーン、シラスバルーン、ガラスバルーン及び金属バルーン
から選ばれる少なくとも一種である請求項5記載の軸受用樹脂組成物。
【請求項7】
粒子状充填材がセラミック粉末、シリカ、ガラスビーズ及び金属粉末から選ばれる少なくとも一種である請求項5記載の軸受用樹脂組成物。
【請求項8】
(C)固体潤滑剤がフッ素樹脂である請求項1記載の軸受用樹脂組成物。




【公開番号】特開2007−327009(P2007−327009A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161451(P2006−161451)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】