説明

軸受用鋼球の転動疲労評価方法およびスラスト型転動疲労試験機。

【課題】本発明は、玉軸受に使用される軸受用鋼球の転動疲労強度の評価方法を提供する。
【解決手段】回転する上下の板面で、同心円状に等間隔に配置した複数の鋼球、好ましくは3球以上を挟持しつつ加圧して、前記鋼球を転動する際、上下の板面の一方を平面とし、他方を半径方向に一定の角度、好ましくは2度以上を有する斜面とする。複数の鋼球を転動可能なように同心円状に保持する保持板と、前記保持板の上下に配置され、前記鋼球を挟持する板材を有し、前記板材は上下方向から前記鋼球を加圧しつつ、回転可能で、前記保持板と前記板材が同軸状に配置し、上下の板材の鋼球を挟持する板面の一方が平面で、他方が径方向に一定の角度を有する斜面とするスラスト型転動疲労試験機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受に使用される軸受用鋼球の転動疲労強度の評価方法およびスラスト型転動疲労試験機に関し、特に短時間での評価に好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
炭素鋼や軸受用鋼の転動疲労強度の評価は、ラッピング研磨した平板材を試験片とし、研磨面上において数個の球を、垂直方向から荷重をかけながら、同じ軌道上で転送させて行う。球と試験片は特定の微小領域(ヘルツの応力円)で接触しており、球には環状の走行跡が形成されるが、転動する軌道が固定されてしまい、実際に使用されている玉軸受球のように、あらゆる方向に自由に運動している状態を模擬していることにならず、実機における転動疲労強度を評価できない。破壊は主に表面剥離の形で板材に発生し、破壊までの回転数によって転動疲労強度が評価される。
【0003】
一方、軸受用球の寿命評価は実際に玉軸受に組み上げて、荷重をかけながら高速回転させる試験方法により行われている。
【0004】
特許文献1は軸受用球の寿命評価方法に関し、球の欠陥を走行跡内に留めるため、被試験球の表面の一箇所に球の中心に向かう穴をあけ、自転軸を固定したアンバランス球を用いることを提案している。
【特許文献1】特許第3319488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の方法では、実際に使用されている玉軸受球のように、あらゆる方向に自由に運動している状態を模擬していることにならず、実機における動転疲労強度を評価できない。
【0006】
また、軸受用球の穴加工は容易でなく、軸受用球の寿命評価に用いる試験機も極めて特殊で軸受けメーカーが各様の方法により製作しているのが実体であり、汎用的な試験方法とは言い難い。
【0007】
そこで、本発明は、転動疲労試験に良く利用されているスラスト型転動疲労試験機を用いて、球の転送面が固定されずに転送面幅を有し、球の転動疲労強度の評価が可能な試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の課題は以下の手段により達成できる。
1.回転する上下の板面で、同心円状に等間隔に配置した複数の鋼球を挟持しつつ加圧して、前記鋼球を転動するスラスト型転動疲労試験方法において、上下の板面の一方が平面で、他方が半径方向に一定の角度を有する斜面であることを特徴とするスラスト型の転動疲労試験方法。
2.鋼球が3球以上であることを特徴とする1記載の軸受用鋼球の転動疲労評価方法。
3.斜面の傾斜角度が2度以上であることを特徴とする1または2記載の軸受用鋼球の転動疲労評価方法。
4.複数の鋼球を転動可能なように同心円状に保持する保持板と、前記保持板の上下に配置され、前記鋼球を挟持する板材を有し、前記板材は上下方向から前記鋼球を加圧しつつ、回転可能で、前記保持板と前記板材が同軸状に配置されているスラスト型転動疲労試験装置において、上下の板材の鋼球を挟持する板面の一方が平面で、他方が径方向に一定の角度を有する斜面であることを特徴とするスラスト型転動疲労試験機。
5.鋼球が3球以上であることを特徴とする4記載のスラスト型転動疲労試験機。
6.斜面の傾斜角度が2度以上であることを特徴とする4または5記載のスラスト型転動疲労試験機。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ラボ型転動疲労試験において、鋼球の転送幅を大きくすることが可能で、実機における鋼球の転動疲労強度が正確に予測でき産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、鋼球が接触する板面を斜面として鋼球の転送面の幅を拡大すること特徴とする。
【0011】
図1に本発明の一実施例に係るスラスト型転動疲労試験機の概略構造を示す。図において1は鋼球、2は鋼球1を下方から支持する下板材、3は鋼球1を保持する保持板、4は鋼球1を上方から支持する上板材、5は上板材4を回転させる回転軸、6は回転軸5の回転方向を示す矢印、7は下板材に加圧される荷重を示す矢印、21は下板材2で鋼球1に接触する板面、41は上板材4で鋼球1に接触する板面を示す。
【0012】
図示した試験装置では、鋼球1は3球又は6球で1セットで保持板3で同心円状に等間隔で保持する。鋼球1は上下に配置された上板材4と下板材2の2枚の板材によって挟持される。
【0013】
下板材2には、半径方向に一定の角度θを有する斜面が加工される。斜面の径方向の傾きは正負いずれでも良く、本発明では特に規定しない。例えば、下板材2の回転軸心を頂点とした円錐状を凹凸のいずれかとなるように加工する。
【0014】
上板材4には回転軸5が取り付けられ、下板材2は荷重7が加圧され、その状態で回転可能な機構を有するため、上板材4が回転方向6で回転すると、保持板3も同方向に回転する。回転軸5は回転と停止とを交互に繰り返し可能で、下板材2は、回転しない機構とする。
【0015】
保持板3は、上板材4の回転軸5と同軸状に鋼球1を保持し、鋼球1は保持板3にそれぞれが回転可能なように保持されるので、上板材4が回転すると、複数の鋼球1もそれぞれが回転する。鋼球1が回転すると、その表面に走行跡が形成される。
【0016】
図2は保持板3の構造を示す横断面図で、鋼球1を保持するための穴部を有する。穴部は鋼球1を回転可能に嵌合できれば良く、特に形状を規定しないが、その下面に鋼球1の径より若干大きい径(例えば鋼球1の径の105〜110%)d1の穴加工、その上面に鋼球1の径の80〜85%となる穴径d2の穴加工を施すことが好ましい。尚、鋼球の数は実機を再現するため3球以上とすることが好ましい。
【0017】
図3は、鋼球1に、環状に巻着される走行跡11を模式的に示す図で、図において鋼球1の転動による転送軌道の幅はWで定義される。
【0018】
本発明によれば、上板材4が回転軸5によって回転すると、それにつれて鋼球1も回転するが、下板材2には傾斜がついているので、常に斜面に沿って転がり落ちようとする力が作用する。
【0019】
一方、鋼球1には回転の際、遠心力が働き、外側に向かって押し付けられる。回転軸5は回転と停止とを交互に繰り返すと、回転が停止する、あるいは十分遅い回転速度まで回転を遅くなると、斜面に沿って転がる力が、鋼球1が斜面に沿って転がり落ちようとする力が遠心力よりも大きくなり転送方向(鋼球1の回転方向)とは違う向き、すなわち、回転軸5の回転中心に向かって運動する。
【0020】
次に回転を再開し、十分早い回転速度とすると、遠心力が斜面を転がり落ちようとする力よりも大きくなり、回転軸5の回転中心から遠ざかるように運動する。これを繰り返すことによって鋼球の転送面(転送軌道の幅w)は拡大し、鋼球の試験対象面積が増加する。
【0021】
尚、上板材4で鋼球と接する板面41、下板材2の鋼球と接する板面21はラッピングによって研磨仕上げを施すことが好ましく、荷重7は下方から上方へ押し付けるようにして載荷することが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、実施例に従って説明する。転動疲労試験機として代表的なスラスト型疲労試験機を利用した。
【0023】
供試材は、軸受鋼(JIS SUJ2)による市販軸受用鋼球でサイス゛は3/8インチ(9.525mm)径のものである。これを3個を1セットとして試験を実施した。
【0024】
保持板は外径60mm、厚さ4mmの真鍮製円盤で作成した。前記円板上に、鋼球の転送軌道と同じ大きさの円内で120度間隔で穴をあけて、穴内に鋼球が入ることで、等間隔に保持できるようにした。
【0025】
上板材はSUJ2を用いて、外径φ60mm×厚さ5mmの円板を切り出し、焼入れ焼き戻しを施して、硬さはHRcで65とした。この板の片側の面をラッピング研磨までおこない、仕上げ面粗さRmax≦0.2μmとした。
【0026】
下板材はSUJ2を用いて、外形φ60mm×厚さ5mmの円板に切り出し、その後円中心に向かって傾斜をつけるようにNC旋盤で加工した。傾斜角度θは1、2、3、4、5、6度を作成した。その後焼入れ焼き戻しをおこない硬さを上板材と同じとし、傾斜の付いている面のラッピング研磨をおこなった。仕上げ面粗さは上板材と同じにした。
【0027】
試験機の運転条件は、回転数1200rpm、荷重はヘルツ応力が5.3Gpaとなるように与え、潤滑油はタービン油を用いて、室温環境下で運転した。また3hおきに回転を止めて、再度運転する間歇運転を実施した。鋼球が転送軌道を1回転すればn=1をカウントする。
【0028】
板が剥離した場合は板を交換する。交換の場合には鋼球の転送面が変わらないように保持板に固定して抜き出し、板を交換した。いずれかの玉が剥離した時点で運転は終了し、剥離に至らない場合でもn=30000で終了した。
【0029】
図4に試験後の鋼球の転送面を観察し、転送面の幅(転送軌道の幅w)を測定した結果を示す。傾斜が付与されると転送面の幅(転送軌道の幅w)は拡大し、特に傾斜角度が3度以上になると急激に拡大することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例を示す図。
【図2】本発明の一実施例を示す図。
【図3】本発明の一実施例を示す図。
【図4】本発明の一実施例を示す図。
【符号の説明】
【0031】
1 鋼球
2 下板材
3 保持板
4 上板材
5 回転軸
6 回転方向
7 荷重方向
21 板面(下板材)
41 板面(上板材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する上下の板面で、同心円状に等間隔に配置した複数の鋼球を挟持しつつ加圧して、前記鋼球を転動するスラスト型転動疲労試験方法において、上下の板面の一方が平面で、他方が半径方向に一定の角度を有する斜面であることを特徴とするスラスト型の転動疲労試験方法。
【請求項2】
鋼球が3球以上であることを特徴とする請求項1記載の軸受用鋼球の転動疲労評価方法。
【請求項3】
斜面の傾斜角度が2度以上であることを特徴とする請求項1または2記載の軸受用鋼球の転動疲労評価方法。
【請求項4】
複数の鋼球を転動可能なように同心円状に保持する保持板と、前記保持板の上下に配置され、前記鋼球を挟持する板材を有し、前記板材は上下方向から前記鋼球を加圧しつつ、回転可能で、前記保持板と前記板材が同軸状に配置されているスラスト型転動疲労試験装置において、上下の板材の鋼球を挟持する板面の一方が平面で、他方が径方向に一定の角度を有する斜面であることを特徴とするスラスト型転動疲労試験機。
【請求項5】
鋼球が3球以上であることを特徴とする請求項4記載のスラスト型転動疲労試験機。
【請求項6】
斜面の傾斜角度が2度以上であることを特徴とする請求項4または5記載のスラスト型転動疲労試験機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−184169(P2006−184169A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379386(P2004−379386)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】