説明

軸受荷重調整装置

【課題】軸受荷重を簡易且つ精度よく調整することができる軸受荷重調整装置を提供する。
【解決手段】軸受荷重調整装置1は、推進軸2を支持する軸受8を備えている。この軸受荷重調整装置1では、軸受8の軸受荷重がロードセル10によって計測され、荷重表示計17に表示される。これと共に、軸受8に設けられた油圧ジャッキ9によって、軸受8の位置が調整される。このように、軸受荷重調整装置1においては、ロードセル10で直接的に精度よく軸受荷重が計測されて確認されながら、軸受8の位置調整が油圧ジャッキ9で実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶における推進軸の軸受荷重を調整する軸受荷重調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶においては、例えば下記特許文献1に記載されているように、主機(メインエンジン)とプロペラとが推進軸で連結され、この推進軸によって主機の出力がプロペラに伝達されている。また、推進軸の荷重を支えるため、該推進軸には適当個数の軸受(軸受部)が配置されている。このような軸受荷重を調整する場合、推進軸の剛性を利用した方法(Jack−Up法)が広く利用されている。
【0003】
この従来方法では、例えば推進軸の据付時において、まず、油圧ジャッキによって推進軸が上方へ持ち上げられる。このとき、油圧ジャッキに作用する反力と推進軸の上下方向の移動距離との相対的関係に基づいて、軸受荷重が推定されて確認される。確認された軸受荷重と軸系アライメント計算等で計画された設定値(以下、単に「設定値」という)との間にずれが生じている場合、軸受部の高さ位置が所定量調整される。そして、かかる軸受荷重の確認と軸受部の位置調整とが繰り返され、軸受荷重が設定値に合わせられることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−301275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術では、前述のように、軸受荷重の確認と軸受部の位置調整とを同時実施できないため、軸受荷重の調整が煩雑となっている。また、一般的に、航行時のトラブルを防止するためには、軸受部における軸受荷重を設定値に精度よく合わせることが重要視されている。
【0006】
そこで、本発明は、軸受荷重を簡易且つ精度よく調整することができる軸受荷重調整装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る軸受荷重調整装置は、船舶における推進軸の軸受荷重を調整する軸受荷重調整装置であって、推進軸を支持する軸受部と、軸受部の軸受荷重に関する情報を取得する情報取得手段と、軸受部に設けられ、軸受部の位置を調整する位置調整手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
この軸受荷重調整装置では、情報取得手段が装置に組み込まれていることから、軸受荷重を推定するのではなく直接的に精度よく計測して確認することができる。そして、位置調整手段が装置に組み込まれていることから、軸受荷重を確認しながら軸受部の位置調整を実施することが可能となっている。従って、軸受荷重を簡易且つ精度よく調整することが可能となる。
【0009】
また、情報取得手段及び位置調整手段は、推進軸に対し非接触に構成されていることが好ましい。ここで、航行中において例えば船舶の喫水が変化したときには、船体に反り等の変形が生じることがあり、軸受部の軸受荷重が変化してしまう場合がある。この場合、上述した従来技術により軸受荷重を調整するときには、エンジンを一旦停止する必要がある。この点、本発明では、上記のように情報取得手段及び位置調整手段が推進軸に対し非接触となっている。よって、例えば航行時において航行を維持したままの状態で(メインエンジンを停止させることなく)、軸受荷重を監視・確認してその良好性を常時把握し、そして、軸受荷重に異常が発生した際には、かかる軸受荷重が適切なものとなるよう軸受部の位置を調整することが可能となる。
【0010】
また、位置調整手段は、軸受部に複数設けられており、複数の位置調整手段は、軸受部の異なる位置にそれぞれ設けられていると共に、それぞれ独立して軸受部の位置を調整可能とされていることが好ましい。これにより、複数の位置調整手段を適宜協働させることによって軸受部の傾きをも調整することができる。
【0011】
また、情報取得手段は、軸受部が載置されたロードセルであり、位置調整手段は、軸受部が載置されたジャッキであることが好ましい。この場合、軸受荷重をロードセルで直接的に計測し把握しながら、ジャッキを高さ方向に伸縮させて軸受部の位置調整を好適に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、軸受荷重を簡易且つ精度よく調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係る軸受荷重調整装置が搭載された船舶の船尾側を示す概略側面図である。
【図2】実施形態に係る軸受荷重調整装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、「前」「後」「上」「下」「左」「右」の語は、船舶の前後方向、上下方向、左右方向にそれぞれ対応するものである。
【0015】
図1は、実施形態に係る軸受荷重調整装置が搭載された船舶の船尾側を示す概略側面図であり、図2は、実施形態に係る軸受荷重調整装置を示す構成図である。図1に示すように、本実施形態の軸受荷重調整装置1は、船舶20に搭載され、推進軸2の軸受荷重を調整するものである。
【0016】
ここでの軸受荷重調整装置1は、船舶20の船尾20b側において隔壁3によって画成された機関室4内に設置されている。推進軸2は、船舶20の推力を伝達するために配置された回転軸であって、ここでは、機関室4内の主機(メインエンジン)Eとプロペラ5とを互いに連結し、主機Eの動力(トルク)をプロペラ5へ伝達する。この推進軸2は、前後方向に沿って延在しており、プロペラ5側のプロペラ軸2x、及び該プロペラ軸2xに対し前側に同軸で連結された中間軸2yを有している。機関室4は、その床部が船底外板及び内底板6(図2参照)による二重底構造とされている。
【0017】
図2に示すように、軸受荷重調整装置1においては、内底板6に固定された軸受台7上に、推進軸2の中間軸2yを回転可能に支持する軸受(軸受部)8が設けられている。そして、軸受8と軸受台7との間には、油圧ジャッキ(ジャッキ)9及びロードセル10が、上からこの順で積層されるようにして介在されている。
【0018】
軸受台7は、軸受8を支持するものであり、ここでは、井桁状に構成されている。油圧ジャッキ9は、軸受8の位置を調整するものであり、軸受8が載置されるよう該軸受8の下面8aに調整ライナ19を介して複数設けられている。ここでの油圧ジャッキ9は、軸受8の下面8aの四隅に設けられ、軸受8を4点支持している。
【0019】
調整ライナ19は、油圧ジャッキ9と軸受8との相対位置関係を調整するものである。ここでの調整ライナ19は、例えば据付時等において、4つの油圧ジャッキ9の支持点が水平面上に位置するように調整されている。
【0020】
また、油圧ジャッキ9には、該油圧ジャッキ9に油圧を付与するものとして、油圧供給ユニット11が接続されている。油圧供給ユニット11は、油圧ポンプ12及び油圧ヘッダ13を有している。油圧ポンプ12は、油圧ヘッダ13にオイルを圧送する。油圧ヘッダ13は、油圧ポンプ12で圧送されたオイルをその内部に貯留し、このオイルをフレキシブルホース14を介して4つの油圧ジャッキ9にそれぞれ独立して供給する。なお、油圧ヘッダ13には、貯留したオイルの圧力(つまり油圧)を計測する圧力計16が設けられている。
【0021】
フレキシブルホース14のそれぞれには、油圧供給ユニット11から油圧ジャッキ9へのオイルの供給を制御するものとして、止め弁V1が設けられている。また、油圧ポンプ12と油圧ヘッダ13との間には、油圧ポンプ12から油圧ヘッダ13へのオイルの供給を制御するものとして止め弁V2が設けられている。止め弁V1,V2としては、機械式又は電磁式の何れのものを用いることができる。
【0022】
ロードセル10は、軸受8の軸受荷重を計測するものであり、軸受8が載置されるよう4つの油圧ジャッキ9の下面9aそれぞれに設けられている。このロードセル10は、ケーブルCを介して荷重表示計17に接続されており、計測した軸受荷重を荷重表示計17に表示させる。
【0023】
ところで、通常の船舶20においては、例えば、航行時にて雨や嵐等の天候悪化により海面状態が変化したり、積荷の積下ろし等により船舶20の喫水が変化し、船舶20自体が変形(船体に反りや撓みが発生)してしまうことがある。そのため、軸受荷重が変化して軸受荷重に異常が発生し、軸受8に焼付きが生じるおそれがある。
【0024】
この点、本実施形態では、例えば航行時において主機Eが作動し推進軸2が回転しているとき、ロードセル10により軸受8における軸受荷重が直接的に計測され、この軸受荷重が荷重表示計17に表示される。これにより、軸受荷重が常時監視(確認)され、軸系アライメントの良好性が常時把握される。これに併せて、監視下にある軸受荷重に異常が発生した際には、航行が維持されたまま(主機Eが停止されることなく)軸受8の位置調整が行われる。
【0025】
具体的には、止め弁V2が開とされ、油圧ポンプ12で油圧ヘッダ13にオイルが供給され、油圧ヘッダ13内の油圧が所定圧まで高められる。続いて、ロードセル10で計測された軸受荷重に応じて、4つのフレキシブルホース14それぞれに設けられた止め弁V1が適宜開閉され、4つの油圧ジャッキ9に所定圧のオイルが供給される。
【0026】
その結果、油圧ジャッキ9のそれぞれが独立して高さ方向に伸縮され、軸受8の高さ位置及び傾き(つまり、前後方向回りの回転角、上下方向回りの回転角、左右方向回りの回転角)が所望に変更される。その結果、軸受荷重が設定値に修正されて軸受荷重の異常が解消され、軸系アライメントが適切な状態へと精度よく修正されることとなる。
【0027】
また、本実施形態においては、例えば据付時にも、ロードセル10により軸受8の軸受荷重が直接的に計測されて確認されつつ、ロードセル10が作動されて軸受8が位置調整され、軸受荷重が設定値になるように調整されることとなる。
【0028】
以上、本実施形態によれば、従来手法のように軸受荷重を推定して求めるのではなく、ロードセル10で直接的に且つ精度よく軸受荷重を計測して確認することができる。さらに、従来手法のように軸受荷重の確認と軸受8の位置調整とを別途に実施するのではなく、軸受荷重を確認しながら軸受8の位置調整を油圧ジャッキ9で実施することが可能となっている。従って、軸受荷重を簡易且つ精度よく調整することが可能となり、その結果、作業時間の短縮を実現することができる。
【0029】
また、本実施形態では、ロードセル10及び油圧ジャッキ9が推進軸2に対し非接触に構成されており、上述したように、主機Eが作動し推進軸2が回転しているときにも、軸受荷重の確認及び軸受8の位置調整が行われる。すなわち、本実施形態によれば、航行を維持したまま(主機Eを停止させることなく)、軸受荷重を監視・確認してその良好性を常時把握し、そして、軸受荷重に異常が発生した際には、かかる軸受荷重が適切なものとなるよう軸受8の位置を調整することができる。
【0030】
なお、通常、航行中に船舶20自体が変形した場合、推進軸2が比較的長いものであると、当該変形が推進軸2で柔軟に吸収されることがある一方、推進軸2が比較的短いものであると、当該変形が推進軸2で吸収しきれないことが多く、軸受荷重の変動が大きくなってしまう。よって、航行を維持したまま軸受荷重を確認し調整するという上記効果は、推進軸2が短い場合に特に有効といえる。
【0031】
また、本実施形態では、上述したように、複数の油圧ジャッキ9が軸受8の異なる位置にそれぞれ設けられ、そして、これら油圧ジャッキ9が、それぞれ独立して軸受8の位置を調整している。よって、軸受8の高さ位置だけでなく、軸受8の傾きをも好適に調整することができる。
【0032】
ちなみに、前述のように、軸受荷重調整装置1が機関室4に設置されていることから、軸受荷重調整装置1の操作のために乗組員は容易に駆けつけることができるため、その簡便性が高まっている。
【0033】
また、本実施形態は、推進軸系(船舶20の推進をつかさどる全体のシステム)における軸受荷重をアライメント計算に基づき計画された荷重に調整・修正するため、中間軸2yを支持している軸受8の位置調整を実施する装置といえる。なお、ここでいう軸受荷重の軸受とは、中間軸2yを支持する軸受8、及び主機E内に装備されているクランク軸を支持する軸受(不図示)を意味している。
【0034】
以上において、ロードセル10が情報取得手段を構成し、油圧ジャッキ9が位置調整手段を構成する。
【0035】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明に係る軸受荷重調整装置は、実施形態に係る上記軸受荷重調整装置1に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0036】
例えば、上記実施形態では、油圧供給ユニット11及び荷重表示計17を機関室4に設置したが、これらは機関室4以外の区画に設置してもよく、例えば荷重表示計17をブリッジ(操舵室)に設置してもよい。
【0037】
また、上記実施形態では、位置調整手段として油圧ジャッキ9を用いているが、これに代えて、水圧や空気圧等を利用するジャッキや、ジャッキボルト等を用いてもよい。また、情報取得手段としてロードセル10を用いているが、ひずみゲージ等の軸受8の相対変位量を計るものを用いてもよい。
【0038】
また、上記実施形態では、複数の油圧ジャッキ9がそれぞれ独立して軸受8の位置を調整しているが、これらを一体的に機能させ、軸受8の高さ位置のみを調整する場合もある。
【0039】
また、止め弁V1を電磁弁とし、該止め弁V1にその開閉を制御する制御手段を設ける場合もある。この場合、制御手段では、例えばロードセル10で計測された軸受荷重に基づいて各止め弁V1の開閉が自動制御され、軸受荷重が設定値となるよう軸受8の位置が自動調整される。
【符号の説明】
【0040】
1…軸受荷重調整装置、2…推進軸、8…軸受(軸受部)、9…油圧ジャッキ(位置調整手段,ジャッキ)、10…ロードセル(情報取得手段)、20…船舶。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶における推進軸の軸受荷重を調整する軸受荷重調整装置であって、
前記推進軸を支持する軸受部と、
前記軸受部の軸受荷重に関する情報を取得する情報取得手段と、
前記軸受部に設けられ、前記軸受部の位置を調整する位置調整手段と、を備えたことを特徴とする軸受荷重調整装置。
【請求項2】
前記情報取得手段及び前記位置調整手段は、前記推進軸に対し非接触に構成されていることを特徴とする請求項1記載の軸受荷重調整装置。
【請求項3】
前記位置調整手段は、前記軸受部に複数設けられており、
前記複数の位置調整手段は、前記軸受部の異なる位置にそれぞれ設けられていると共に、それぞれ独立して前記軸受部の位置を調整可能とされていることを特徴とする請求項1又は2記載の軸受荷重調整装置。
【請求項4】
前記情報取得手段は、前記軸受部が載置されたロードセルであり、
前記位置調整手段は、前記軸受部が載置されたジャッキであることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項記載の軸受荷重調整装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−178364(P2011−178364A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47489(P2010−47489)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(503218067)住友重機械マリンエンジニアリング株式会社 (55)