軸受装置および情報記録再生装置
【課題】スペーサ70の姿勢を安定的に保持するとともに、転がり軸受30の性能を確保することが可能な、軸受装置10を提供する。
【解決手段】スペーサ70は、軸方向の外側に向かって外輪40を押圧することで、転がり軸受30に予圧を付与し、スペーサ70の軸方向の端面に形成されたスペーサ突部72が、外輪40の内側の端部に形成されたスペーサ保持部47に内挿されて、スペーサ70がシャフト20と同軸状に配置され、リテーナ50のリング部52は転動体35の軸方向の外側に配置され、内側シールド60aと転動体35の中心Qとの距離Waが、外側シールド60bと転動体35の中心Qとの距離Wbより短くなるように、内側シールド60aが配置されている。
【解決手段】スペーサ70は、軸方向の外側に向かって外輪40を押圧することで、転がり軸受30に予圧を付与し、スペーサ70の軸方向の端面に形成されたスペーサ突部72が、外輪40の内側の端部に形成されたスペーサ保持部47に内挿されて、スペーサ70がシャフト20と同軸状に配置され、リテーナ50のリング部52は転動体35の軸方向の外側に配置され、内側シールド60aと転動体35の中心Qとの距離Waが、外側シールド60bと転動体35の中心Qとの距離Wbより短くなるように、内側シールド60aが配置されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受装置および情報記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種の情報をディスク(磁気記録媒体)に記憶・再生させるハードディスクなどの情報記録再生装置が知られている。一般的に、情報記録再生装置は、ディスクに信号を記録再生するスライダを備えたヘッドジンバルアセンブリと、ヘッドジンバルアセンブリを先端側に装着したアーム(回動部材)とを備えている。このアームは、基端側に設けられた軸受装置によって回動可能とされている。アームを回動させることにより、スライダをディスクの所定位置に移動させ、信号の記録や再生を行うことができる。
【0003】
特許文献1に記載された軸受装置は、シャフト(回転軸)と、シャフトに外挿され、シャフトの軸方向に並んで配置された一対の転がり軸受と、シャフトと同軸状に配置され、一対の転がり軸受の軸方向の内側に配置された円筒状のスペーサ(外輪間座)と、を備えている。この軸受装置における一対の転がり軸受およびスペーサの外周に、上述した情報記録再生装置のアームが外挿される。
【0004】
図13(a)は第1従来技術に係る軸受装置の説明図であり、図3のP部に相当する部分の拡大図である。図13(a)に示すように、第1従来技術に係る軸受装置810は、特許文献1発明と同様にシャフト20と、転がり軸受30と、スペーサ70とを備えている。転がり軸受30は、シャフト20に固定された内輪36と、スペーサ70の軸方向の端面に当接する外輪40と、内輪36と外輪40との間に配置された複数の転動体35と、転動体35の前記軸方向の両側に配置され内輪36と外輪40との隙間を封止する一対のシールド(内側シールド60aおよび外側シールド60b)と、を備えている。内側シールド60aと転動体35との距離Wa1は、外側シールド60bと転動体35との距離Wb1と同等に形成されている。なお、転がり軸受30の円滑な回転を補助するため、内輪36と外輪40との隙間にはグリースが充填されている。またスペーサ70は、一対の転がり軸受30の軸方向の外側に向かって外輪40を押圧することで、一対の転がり軸受30に予圧を付与し、転がり軸受30のがたつきを防止している。
【0005】
ところで、スペーサ70の中心軸がシャフト20の中心軸からずれて、転がり軸受30の外輪40の外周面からスペーサ70がはみ出すと、情報記録再生装置のアームが外挿できなくなる。そこで、スペーサ70の軸方向の端面に形成されたスペーサ突部72を、外輪40の軸方向の内側の端部に形成されたスペーサ保持部47に内挿することで、スペーサ70の姿勢をシャフト20と同軸状態に保持している。
ただし、転がり軸受30の外輪40における軸方向の内側には内側シールド60aが配置されるので、スペーサ突部72の挿入代R1を十分に確保することができない。そのため、スペーサ70の中心軸がシャフト20の中心軸からずれやすくなり、スペーサ70の姿勢を安定的に保持するのが困難である。
【0006】
図13(b)は第2従来技術に係る軸受装置の説明図であり、図3のP部に相当する部分の拡大図である。図13(b)に示すように、第2従来技術に係る軸受装置910は、内側シールドを廃止することで、外輪40のスペーサ保持部47へのスペーサ突部72の挿入代R2を確保して、スペーサ70の姿勢を安定的に保持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3689962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図13(b)に示す第2従来技術では、内側シールドが廃止され、内輪36と外輪40との隙間が開放されているので、その隙間に充填されたグリースが流出するおそれがある。なおグリースの流出を抑制するため、リテーナ50のリング部52を転動体35の内側に配置しているが、グリースの流出を完全に防止することはできない。グリースが流出すると、転がり軸受30が焼き付いて円滑な回転が不可能になり、転がり軸受30の性能を確保できなくなるという問題がある。
また、内輪36と外輪40との隙間が開放されているので、その隙間にゴミが入り込むおそれがある。これにより、転がり軸受の円滑な回転が不可能になり、転がり軸受の性能を確保できなくなるという問題がある。
【0009】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、スペーサの姿勢を安定的に保持するとともに、転がり軸受の性能を確保することが可能な、軸受装置および情報記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の問題を解決するために、本発明の軸受装置は、シャフトと、前記シャフトに外挿され、前記シャフトの軸方向に並んで配置された一対の転がり軸受と、前記シャフトと同軸状に配置され、前記一対の転がり軸受の前記軸方向の内側に配置された円筒状のスペーサと、を備え、前記転がり軸受は、前記シャフトに固定された内輪と、前記スペーサの前記軸方向の端面に当接する外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された複数の転動体と、前記転動体を転動自在に保持するリテーナと、前記転動体の前記軸方向の両側に配置され前記内輪と前記外輪との隙間を封止する一対のシールドと、を備え、前記リテーナは、前記シャフトと同軸状に配置されたリング部と、前記リング部から前記軸方向に伸びて前記転動体を保持する転動体保持部と、を備え、前記スペーサは、前記一対の転がり軸受の前記軸方向の外側に向かって前記外輪を押圧することで、前記一対の転がり軸受に予圧を付与し、前記スペーサの前記軸方向の端面に形成されたスペーサ突部が、前記外輪の前記内側の端部に形成されたスペーサ保持部に内挿されて、前記スペーサが前記シャフトと同軸状に配置され、前記リテーナの前記リング部は、前記転動体の前記外側に配置され、前記一対のシールドのうち前記内側に配置された内側シールドと前記転動体との距離が、前記一対のシールドのうち前記外側に配置された外側シールドと前記転動体との距離より短くなるように、前記内側シールドが配置されていることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、外側シールドに加えて内側シールドを備えているので、内輪と外輪との隙間が閉塞される。これにより、その隙間からのグリースの流出や、その隙間へのゴミの侵入等がなくなるので、転がり軸受の性能を確保することができる。しかも、リテーナのリング部が転動体の外側に配置されることで、内側シールドと転動体との距離が外側シールドと転動体との距離より短くなっている。そのため、内側シールドの軸方向の内側において、スペーサ突部を挿入するためのスペースが広くなる。これにより、スペーサ突部の軸方向の長さを長くして、外輪のスペーサ保持部への挿入代を確保することができる。したがって、スペーサの中心軸がシャフトの中心軸からずれにくくなり、スペーサの姿勢を安定的に保持することができる。
【0012】
また、前記外輪の前記スペーサ保持部の前記外側には、前記内側シールドが内挿保持される内側シールド保持部が形成され、前記内側シールド保持部の内径は、前記スペーサ保持部の内径より小さく形成されていることが好ましい。
この場合、内側シールドを内側シールド保持部に挿入する際に、内側シールドの外周部がスペーサ保持部の内周面に当接することがない。そのため、スペーサ保持部の内周面が削れたり、スペーサ保持部の内周面に異物が付着したりすることがない。これにより、そのスペーサ保持部の内周面にスペーサ突部を挿入しても、スペーサの中心軸がシャフトの中心軸からずれることがない。したがって、スペーサの姿勢を安定的に保持することができる。
【0013】
一方、本発明の情報記録再生装置は、上述した軸受装置と、前記シャフトに接続されたハウジングと、前記外輪に接続された回動部材と、前記回動部材に装着され、磁気記録媒体に情報の記録および再生を行うスライダと、を備えたことを特徴とする。
この発明によれば、スペーサの姿勢が安定的に保持された軸受装置を備えているので、軸受装置の外輪に対して回動部材を簡単かつ確実に接続することができる。また、転がり軸受の性能を確保することが可能な軸受装置を備えているので、回動部材を円滑に回動させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の軸受装置によれば、外側シールドに加えて内側シールドを備えているので、内輪と外輪との隙間が閉塞される。これにより、その隙間からのグリースの流出や、その隙間へのゴミの侵入等がなくなるので、転がり軸受の性能を確保することができる。しかも、リテーナのリング部が転動体の外側に配置されることで、内側シールドと転動体との距離が外側シールドと転動体との距離より短くなっている。そのため、内側シールドの軸方向の内側において、スペーサ突部を挿入するためのスペースが広くなる。これにより、スペーサ突部の軸方向の長さを長くして、外輪のスペーサ保持部への挿入代を確保することができる。したがって、スペーサの中心軸がシャフトの中心軸からずれにくくなり、スペーサの姿勢を安定的に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】情報記録再生装置の斜視図である。
【図2】図1のA−A線における側面断面図である。
【図3】第1実施形態に係る軸受装置の側面断面図である。
【図4】図3のP部の拡大図である。
【図5】リテーナの説明図であり、(b)は平面図であり、(a)は(b)のB−B線における側面断面図である。
【図6】シールドの説明図であり、(a)は平面図である。(b)はシールドの装着方法の説明図であり、(a)のC−C線に相当する部分における側面断面図である。
【図7】第1実施形態に係る軸受装置の製造方法の説明図である。
【図8】第1実施形態に係る軸受装置の製造方法の説明図である。
【図9】第1実施形態に係る軸受装置の製造方法の説明図である。
【図10】第1実施形態に係る軸受装置の製造方法の説明図である。
【図11】転がり軸受に予圧が付与された状態の説明図であり、図3のP部に相当する部分の拡大図である。
【図12】第2実施形態に係る軸受装置の説明図であり、図3のP部に相当する部分の拡大図である。
【図13】(a)は第1従来技術に係る軸受装置の説明図であり、図3のP部に相当する部分の拡大図である。(b)は第2従来技術に係る軸受装置の説明図であり、図3のP部に相当する部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
(情報記録再生装置)
図1は情報記録再生装置の斜視図であり、図2は図1のA−A線における側面断面図である。図1に示すように、この情報記録再生装置1は、記録層を有するディスク(磁気記録媒体)Dに対して、書き込みおよび読み取りを行う装置である。情報記録再生装置1は、アーム(回動部材)8と、アーム8の先端側に支持されたヘッドジンバルアセンブリ4と、ヘッドジンバルアセンブリ4の先端に装着されたスライダ2と、ヘッドジンバルアセンブリ4をスキャン移動させるアクチュエータ(VCM:ボイスコイルモータ)6と、ディスクDを回転させるスピンドルモータ7と、情報に応じて変調した電流をスライダ2に供給する制御部5と、これら各構成品を内部に収容するハウジング9と、を備えている。
【0017】
ハウジング9は、アルミニウム等の金属材料からなり、上部に開口部を有する箱型形状のものであって、平面視四角形状の底部9aと、底部9aの周縁部から垂直に立設された周壁(不図示)とで構成されている。周壁に囲まれたハウジング9の内側には、上述した各構成品を収容する凹部が形成される。底部9aの略中心には、上記スピンドルモータ7が取り付けられており、該スピンドルモータ7に中心孔を嵌め込むことでディスクDが着脱自在に固定されている。
【0018】
ディスクDの側方には、軸受装置10が配置されている。図2に示すように、軸受装置10はスリーブ8aに挿入され、スリーブ8aの外周面にアーム8が固着されている。図1に示すように、軸受装置10を挟んでアーム8の一方側は、上述したアクチュエータ6に接続されている。またアーム8の他方側はディスクDの表面と平行に延設され、その先端にヘッドジンバルアセンブリ4が接続されている。ヘッドジンバルアセンブリ4は、サスペンション3と、サスペンション3の先端に装着され、ディスクDの表面に対向配置されたスライダ2とを備えている。スライダ2は、ディスクDに対する情報の書き込み(記録)を行う記録素子と、ディスクDから情報の読み取り(再生)を行う再生素子とを備えている。
【0019】
上記のように構成された情報記録再生装置1において、情報の記録または再生を行うには、まずスピンドルモータ7を駆動して、中心軸L2の周りにディスクDを回転させる。またアクチュエータ6を駆動して、軸受装置10の中心軸L1の周りにアーム8を回動させる。これにより、ヘッドジンバルアセンブリ4の先端に配置されたスライダ2を、ディスクDの表面の各部にスキャン移動させることができる。そして、スライダ2の記録素子または再生素子を駆動することにより、ディスクDに対する情報の記録または再生を行うことができる。
【0020】
(第1実施形態、軸受装置)
図3は、第1実施形態に係る軸受装置の側面断面図である。第1実施形態に係る軸受装置10は、シャフト20と、シャフト20に外挿され、シャフト20の軸方向に並んで配置された一対の転がり軸受(第1転がり軸受31および第2転がり軸受32)と、シャフト20と同軸状に配置され、一対の転がり軸受31,32の前記軸方向の内側に配置された円筒状のスペーサ70と、を備えている。
【0021】
なお本願では、軸受装置10の中心軸(すなわちシャフト20の中心軸)L1に沿った方向を「軸方向」と呼ぶ。また本願では、一対の転がり軸受31,32の軸方向の内側(一対の転がり軸受31,32のうち一方の転がり軸受から見て他方の転がり軸受側、各転がり軸受31,32のスペーサ70側)を「軸方向の内側」と呼び、一対の転がり軸受31,32の軸方向の外側(一対の転がり軸受31,32のうち一方の転がり軸受から見て他方の転がり軸受の反対側、各転がり軸受31,32のスペーサ70とは反対側)を「軸方向の外側」と呼ぶ。
【0022】
シャフト20は、アルミニウムやステンレス等の金属材料により略円柱形状に形成されている。シャフト20の軸方向の一方側にはフランジ25が形成され、フランジ25の前記一方側には雄ねじ27aが形成されている。図2に示すように、シャフト20に形成された雄ねじ27が、ハウジング9の底部9aに形成された雌ねじ9bに螺合することで、シャフト20がハウジング9に固定される。
【0023】
(転がり軸受)
図2に示すように、転がり軸受30として、シャフト20の軸方向の一方側に配置された第1転がり軸受31と、シャフト20の軸方向の他方側に配置された第2転がり軸受32とを備えている。なお、第1転がり軸受31および第2転がり軸受32は同形状であって、面対象に配置されている。第1転がり軸受31は、内輪36の側面がフランジ25に当接した状態で配置されている。
【0024】
図4は、図3のP部の拡大図である。図4に示すように、転がり軸受30は、シャフト20に固定された内輪36と、スペーサ70の軸方向の端面に当接する外輪40と、内輪36と外輪40との間に配置された複数の転動体35と、転動体35を転動自在に保持するリテーナ50と、転動体35の軸方向の両側に配置され内輪36と外輪40との隙間を封止する一対のシールド(内側シールド60aおよび外側シールド60b)と、を備えている。
【0025】
内輪36および外輪40は、金属材料により略円筒形状に形成されている。
内輪36の外周面における軸方向の中心には、転動溝38が形成されている。転動溝38は、内輪36の全周にわたって形成されている。転動溝38の内面が転動面38fとされ、転動面38fの断面は円弧状に形成されている。
外輪40の軸方向の中央付近には、外輪本体部45が形成されている。外輪本体部45の内周面のうち外輪40の軸方向の中心には、転動溝48が形成されている。転動溝48は、外輪本体部45の全周にわたって形成されている。転動溝48の内面が転動面48fとされ、転動面48fの断面は円弧状に形成されている。
【0026】
転動体35は、金属材料により球状に形成されている。転動体35は、各転動溝38,48の内部に配置され、各転動溝38,48に沿って転動するようになっている。各転動面38f,48fの曲率半径は、転動体35の外面の曲率半径と同等に形成されている。
【0027】
外輪本体部45における軸方向の内側の側面45aと転動体35の中心Qとの距離は、外輪本体部45における軸方向の外側の側面45bと転動体35の中心Qとの距離より短くなっている。そして、外輪本体部45の軸方向の外側には、外側シールド60bを保持する外側シールド保持部40bが形成されている。一方、外輪本体部45の軸方向の内側には、内側シールド60aを保持する内側シールド保持部40aが形成されている。内側シールド保持部40aの軸方向の内側には、後述するスペーサ突部72を保持するスペーサ保持部47が形成されている。
【0028】
外輪40の外径は、外輪40の軸方向の全体について同等に形成されている。一方、外輪40の内径は、外輪本体部45の内径が最小となるように形成されている。内側シールド保持部40aの内径および外側シールド保持部40bの内径は同等であって、外輪本体部45の内径より大きく形成されている。またスペーサ保持部47の内径は、内側シールド保持部40aの内径と同等に形成されている。
【0029】
(リテーナ)
図5はリテーナの説明図であり、図5(b)は平面図であり、図5(a)は図5(b)のB−B線における側面断面図である。図5に示すように、リテーナ50は、樹脂材料等により王冠状に一体成型されている。リテーナ50は、シャフトと同軸状に配置されるリング部52と、リング部52から軸方向の一方側に伸びて転動体を保持する転動体保持部54と、を備えている。
【0030】
図5(a)に示すように、リング部52の径方向の厚さは、転動体の直径よりも小さく形成されている。リング部52の軸方向の一方側の端部には、複数の半円状の切り欠き53が形成されている。切り欠き53の曲率半径は、転動体の外面の曲率半径と同等に形成されている。
【0031】
転動体保持部54は舌片状に形成され、一対の転動体保持部54が、リング部52の周方向における切り欠き53の両端部から、軸方向の一方側に向かって延設されている。一対の転動体保持部54の内面は、切り欠き53と同等の曲率半径で、切り欠き53から連続して、切り欠き53を覆うように形成されている。図5(b)に示すように、一対の転動体保持部54の内面および切り欠き53の内面は、転動体の外面と同等の曲面に形成されている。
【0032】
一対の転動体保持部54および切り欠き53の内側には、転動体収容部55が形成されている。一対の転動体保持部54の先端の開口から、転動体収容部55に転動体を挿入すると、挿入された転動体は一対の転動体保持部54によって転動体収容部55に保持される。なお、金属材料からなる転動体と樹脂材料からなるリテーナ50との摩擦係数は小さいので、転動体は転動体収容部55に回動自在に保持される。
【0033】
図5に示すように、本願では、リング部52の軸方向の一方側(転動体が挿入される開口が形成された側)を、リテーナオープン側50aと呼ぶ。図4に示すように、本実施形態の軸受装置では、リテーナ50のリング部52が転動体35の外側に配置され、リテーナオープン側50aが転動体35の内側に配置されている。
【0034】
なお図5(a)に示すように、リング部52の軸方向の一方側であって、隣接する転動体収容部55の間の谷部は、グリースが供給されるグリース供給部58として機能する。グリース供給部58に供給されたグリースは、隣接する転動体収容部55の間の谷部で保持されつつ、少しずつ転動体に向かって流出し、転動体の潤滑に寄与する。
【0035】
(シールド)
図6はシールドの説明図であり、図6(a)は平面図である。また図6(b)は、シールドの装着方法の説明図であり、図6(a)のC−C線に相当する部分における側面断面図である。図6(a)に示すように、シールド60はリング状に形成されている。
【0036】
図6(b)に示すように、シールド60は、外輪本体部45の軸方向の側面45a,45bに当接する当接部63と、当接部63の径方向の内側に配置され、内輪36と外輪40との隙間を封止する封止部61と、当接部63と封止部61との間を連結する連結部62とを備えている。またシールド60は、当接部63の外周から、転動体35とは反対方向に立設された爪部65を備えている。なお第1実施形態では、内側シールド60aおよび外側シールド60bは同形状であって、面対象に配置されている。
【0037】
図6(a)に示すように、爪部65は、シールド60の周方向に等角度間隔で複数(本実施形態では5個)形成されている。図6(b)に示すように、内輪36と外輪40との間に内側シールド60aを圧入すると、外輪40の内側シールド保持部40aの内周面に爪部65が当接し、内側シールド60aの径方向の内側に向かって爪部65が屈曲(弾性)変形する。これにより、内側シールド保持部40aの内周面に内側シールド60aが保持される。外側シールド60bについても同様に保持されている。
【0038】
このように、図6(b)に示す本実施形態に係る軸受装置は、外側シールド60bに加えて内側シールド60aを備えている。これにより、内輪36と外輪40との隙間が閉塞されるので、その隙間に充填されたグリースが流出するのを防止することができる。これにより、転がり軸受30が焼き付いて円滑な回転が不可能になることがなく、転がり軸受30の性能を確保することができる。また、流出したグリースが磁気記録媒体の表面に付着して書き込みエラーや読み取りエラーが発生するのを防止することができる。さらに、内輪36と外輪40との隙間が閉塞されるので、その隙間にゴミが入り込むのを防止することができる。これにより、転がり軸受30の円滑な回転が不可能になることがなく、転がり軸受30の性能を確保することができる。
【0039】
なお図6(b)に示すように、転がり軸受30の外輪40に外側シールド60bを圧入すると、外側シールド60bの爪部65が外輪40の内周面を径方向の外側に押圧するので、外輪40が拡径する。図13(b)に示す第2従来技術では、内側シールドが廃止され外側シールド60bだけが装着されているので、外輪40の軸方向の外側だけが拡径することになる。これにより、転動面48fに歪が生じて、転がり軸受30の円滑な回転が不可能になり、転がり軸受30の性能が低下するおそれがある。なお図2に示すように、外輪40とスリーブ8aとの間を接着剤で固定する場合に、歪が生じた外輪40とスリーブ8aとの間には接着剤が過剰に入り込む。そのため、接着剤を加熱して硬化させる際に、接着剤が膨張および収縮し、転動面の歪が助長されるおそれがある。
【0040】
これに対して、図6(b)に示す本実施形態に係る軸受装置は、外側シールド60bに加えて内側シールド60aを備えている。これにより、外輪40の軸方向の内側および外側の両側が拡径することになる。そのため、転動面48fの歪が抑制され、転がり軸受が円滑に回転するので、転がり軸受の性能を確保することができる。また図2に示すように、外輪40とスリーブ8aとの間を接着剤で固定する場合でも、歪のない外輪40とスリーブ8aとの間には接着剤が過剰に入り込まない。したがって、接着剤の膨張および収縮により転動面の歪が助長されるのを防止することができる。
【0041】
上述したように、図4に示す外輪本体部45の軸方向の内側の側面45aと転動体35の中心Qとの距離は、軸方向の外側の側面45bと転動体35の中心Qとの距離より短くなっている。そして、軸方向の内側の側面45aに内側シールド60aの当接部63が当接し、軸方向の外側の側面45bに外側シールド60bの当接部63が当接している。これにより、内側シールド60aと転動体35との距離は、外側シールド60bと転動体35との距離より短くなっている。すなわち、内側シールド60aの封止部61と転動体35の中心Qとの距離Waは、外側シールド60bの封止部61と転動体35の中心Qとの距離Wbより短くなっている。なお上述したように、リテーナ50のリング部52が転動体35の軸方向の外側に配置され、リテーナオープン側50aが転動体35の軸方向の内側に配置されているので、内側シールド60aはリテーナ50と干渉しない。そのため、内側シールド60aと転動体35との距離を、外側シールド60bと転動体35との距離より短くすることができる。
【0042】
このように、本実施形態の軸受装置10では、内側シールド60aと転動体35との距離が、外側シールド60bと転動体35との距離より短くなっている。これにより、図13(a)に示す第1従来技術と比べて、転がり軸受30の内輪36と外輪40との隙間のうち、一対のシールド60a,60bで閉塞された空間(以下「転動空間」という。)Sの体積が小さくなる。そのため、転動空間S内へのグリース充填量を第1従来技術と同じにしても、転動空間S内のグリース充填率を増加させることができる。これにより、転動体35の潤滑性能を向上させるさせことができる。逆に、転動空間S内のグリース充填率を第1従来技術と同じにすれば、転動空間S内へのグリース充填量を少なくすることができる。これにより、転動体35の潤滑性能を同等に維持しつつ、グリースから放出されるアウトガス量を少なくすることができる。
【0043】
図3に示すように、スペーサ70は、金属材料により円筒状に形成されている。スペーサ70の外径は、転がり軸受30の外輪40の外径より若干小さく形成されている。図4に示すように、スペーサ70の軸方向の両端面には、スペーサ突部72が形成されている。スペーサ突部72は、スペーサ70と同軸のリング状に形成されている。スペーサ突部72の外径は、外輪40の内側シールド保持部(スペーサ保持部)40aの内径と同等に形成されている。
【0044】
(軸受装置の製造方法)
次に、第1実施形態に係る軸受装置の製造方法について説明する。
図7〜図10は、第1実施形態に係る軸受装置の製造方法の説明図である。
まず図7に示すように、シャフト20に第1転がり軸受31を固定する。具体的には、まずシャフト20に第1転がり軸受31を外挿し、シャフト20のフランジ25に第1転がり軸受31の内輪36を当接させる。次に、シャフト20の外周と第1転がり軸受31の内輪36とを接着剤で固定する。
【0045】
次に図8に示すように、シャフト20にスペーサ70を外挿する。このとき図3に示すように、スペーサ70のスペーサ突部72を、第1転がり軸受31の外輪40のスペーサ保持部47に内挿する。
次に図9に示すように、シャフト20に第2転がり軸受32を外挿する。このとき図3に示すように、スペーサ70のスペーサ突部72を、第2転がり軸受32の外輪40のスペーサ保持部47に内挿する。
【0046】
上述したように、図4に示す本実施形態の軸受装置10では、内側シールド60aと転動体35との距離が、外側シールド60bと転動体35との距離より短くなっている。そのため、内側シールド60aの軸方向の内側において、スペーサ突部72を挿入するためのスペースが広くなる。これにより、スペーサ突部72の軸方向の長さを長くして、外輪40のスペーサ保持部47への挿入代Rを確保することができる。したがって、スペーサ70の中心軸がシャフト20の中心軸からずれにくくなり、スペーサ70の姿勢を安定的に保持することができる。
【0047】
次に図10に示すように、予圧付与治具90を使用して、第1転がり軸受31および第2転がり軸受32に予圧を付与する。予圧付与治具90は円筒状に形成され、その内径はシャフト20の外径より大きく形成され、その外径は内輪36の外径より小さく形成されている。予圧付与治具90により、第2転がり軸受32の内輪36を軸方向の内側に向かって押圧する。これにより、一対の転がり軸受31,32の内輪36間の距離は短くなるが、外輪40間の距離はスペーサ70によって維持される。その結果、各転がり軸受31,32の外輪40は、内輪36より軸方向の外側にずれた状態となる。すなわちスペーサ70は、一対の転がり軸受31,32の軸方向の外側に向かって外輪40を押圧することで、一対の転がり軸受31,32に予圧を付与している。この状態で、シャフト20の外周と第2転がり軸受32の内輪36とを接着剤で固定する。
【0048】
図11は転がり軸受に予圧が付与された状態の説明図であり、図3のP部に相当する部分の拡大図である。図11に示すように、予圧付与治具90によって第2転がり軸受32の内輪36を軸方向の内側に押圧することで、内輪36は外輪40より軸方向の内側にずれた状態となる。これにより、内輪36の転動面38fと転動体35とは、常に転動体35の中心Qより軸方向の外側の接触点39で点接触する。また、外輪40の転動面48fと転動体35とは、常に転動体35の中心より軸方向の内側の接触点49で点接触する。これにより、第2転がり軸受32の内輪36および外輪40と、転動体35とのがたつきがなくなり、第2転がり軸受32の剛性を向上させることができる。第1転がり軸受についても同様である。
以上により、本実施形態に係る軸受装置10が完成する。
【0049】
上述したように、外輪40の転動面48fと転動体35とは、常に転動体35の中心より軸方向の内側の接触点49で点接触する。しかも、本実施形態の軸受装置10では、内側シールド60aと転動体35との距離が、外側シールド60bと転動体35との距離より短くなっている。そのため、内側シールド60aの爪部65が外輪を径方向の外側に押圧するときの作用点69aは、外側シールド60bの爪部65が外輪を径方向の外側に押圧するときの作用点69bより転動体35に近くなる。これにより、支点である接触点49から作用点69aまでの距離(モーメントの腕の長さ)Maが極めて短くなるので、内側シールド保持部40aに内側シールド60aを圧入しても、転動面48fに歪を発生させることがない。したがって、転がり軸受が円滑に回転するので、転がり軸受の性能を確保することができる。
【0050】
以上に詳述したように、図4に示す本実施形態に係る軸受装置では、外側シールド60bに加えて内側シールド60aを備えているので、内輪36と外輪40との隙間が閉塞される。これにより、グリースの流出やゴミの侵入等がなくなるので、転がり軸受の性能を確保することができる。しかも、リテーナ50のリング部52が転動体35の外側に配置されることで、内側シールド60aと転動体35との距離が外側シールド60bと転動体35との距離より短くなっている。そのため、内側シールド60aの軸方向の内側において、スペーサ突部72を挿入するためのスペースが広くなる。これにより、スペーサ突部72の軸方向の長さを長くして、外輪40のスペーサ保持部47との挿入代Rを確保することができる。したがって、スペーサ70の中心軸がシャフト20の中心軸からずれにくくなり、スペーサ70の姿勢を安定的に保持することができる。
【0051】
(第2実施形態)
図12は、第2実施形態に係る軸受装置の説明図であり、図3のP部に相当する部分の拡大図である。図4に示す第1実施形態では、転がり軸受30の外輪40における内側シールド保持部40aの内径とスペーサ保持部47の内径とが同等に形成されていたが、図12に示す第2実施形態では、内側シールド保持部40aの内径Daがスペーサ保持部47の内径Dsより小さく形成されている点で異なっている。なお第1実施形態と同様の構成となる部分については、その詳細な説明を省略する。
【0052】
図12に示す第2実施形態では、内側シールド保持部40aの内径Daが、スペーサ保持部47の内径Dsより小さく形成されている。なおスペーサ保持部47の内径Dsは、外側シールド保持部40bの内径Dbと同等に形成されている。これに伴って、内側シールド60aの外径が、外側シールド60bの外径より小さく形成されている。そして、内側シールド60aの爪部65で内側シールド保持部40aの内周面を押圧しつつ、内側シールド60aが内側シールド保持部40aに圧入されている。
【0053】
図4に示す第1実施形態では、内側シールド60aを内側シールド保持部40aに圧入する際に、内側シールド60aの爪部65をスペーサ保持部47の内周面に当接させながら圧入するので、スペーサ保持部47の内周面が削れたり、スペーサ保持部47の内周面に異物が付着したりする可能性がある。そのスペーサ保持部47の内周面にスペーサ突部72を挿入すると、スペーサ70の中心軸がシャフト20の中心軸からずれて、スペーサ70の姿勢を安定的に保持することが困難になる。
【0054】
これに対して、図12に示す第2実施形態では、内側シールド保持部40aの内径Daがスペーサ保持部47の内径Dsより小さく形成されているので、内側シールド60aを内側シールド保持部40aに挿入する際に、内側シールド60aの爪部65がスペーサ保持部47の内周面に当接することがない。そのため、スペーサ保持部47の内周面が削れたり、スペーサ保持部47の内周面に異物が付着したりすることがなくなる。これにより、スペーサ保持部47の内周面にスペーサ突部72を挿入する際に、スペーサ70の中心軸がシャフト20の中心軸からずれるのを防止することができる。したがって、スペーサ70の姿勢を安定的に保持することができる。
【0055】
また第2実施形態では、内側シールド保持部40aの内径Daをスペーサ保持部47の内径Dsより小さく形成しつつ、スペーサ保持部47の内径Dsを外側シールド保持部40bの内径Dbと同等に形成した。これにより、内側シールド保持部40aおよびスペーサ保持部47が径方向に厚くなって、両者の剛性が高くなる。内側シールド保持部40aの剛性が高くなるので、内側シールド保持部40aに内側シールド60aを圧入しても、転動面48fに歪を発生させることがない。したがって、転がり軸受30が円滑に回転し、転がり軸受30の性能を確保することができる。またスペーサ保持部47の剛性が高くなるので、スペーサ70の姿勢を安定的に保持することができる。
【0056】
なお第2実施形態の変形例として、内側シールド保持部40aの内径Daをスペーサ保持部47の内径Dsより小さく形成しつつ、内側シールド保持部40aの内径Daを外側シールド保持部40bの内径Dbと同等に形成してもよい。この場合には、内側シールド60aを外側シールド60bと共用できるので、コストを削減することができる。
【0057】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な材料や構造などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
例えば、情報記録再生装置の具体的な構成は、実施形態の構成に限られない。また、軸受装置のシャフトの具体的な形状も、実施形態の形状に限られない。また、実施形態では転がり軸受のシールドを外輪に固定したが、内輪に固定してもよい。
【符号の説明】
【0058】
D…ディスク(磁気記録媒体) 1…情報記録再生装置 2…スライダ 8…アーム(回動部材) 9…ハウジング 10…軸受装置 20…シャフト 30…転がり軸受 31…第1転がり軸受 32…第2転がり軸受 35…転動体 36…内輪 40…外輪 40a…内側シールド保持部 40b…外側シールド保持部 47…スペーサ保持部 50…リテーナ 52…リング部 54…転動体保持部 60…シールド 60a…内側シールド 60b…外側シールド 70…スペーサ 72…スペーサ突部
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受装置および情報記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種の情報をディスク(磁気記録媒体)に記憶・再生させるハードディスクなどの情報記録再生装置が知られている。一般的に、情報記録再生装置は、ディスクに信号を記録再生するスライダを備えたヘッドジンバルアセンブリと、ヘッドジンバルアセンブリを先端側に装着したアーム(回動部材)とを備えている。このアームは、基端側に設けられた軸受装置によって回動可能とされている。アームを回動させることにより、スライダをディスクの所定位置に移動させ、信号の記録や再生を行うことができる。
【0003】
特許文献1に記載された軸受装置は、シャフト(回転軸)と、シャフトに外挿され、シャフトの軸方向に並んで配置された一対の転がり軸受と、シャフトと同軸状に配置され、一対の転がり軸受の軸方向の内側に配置された円筒状のスペーサ(外輪間座)と、を備えている。この軸受装置における一対の転がり軸受およびスペーサの外周に、上述した情報記録再生装置のアームが外挿される。
【0004】
図13(a)は第1従来技術に係る軸受装置の説明図であり、図3のP部に相当する部分の拡大図である。図13(a)に示すように、第1従来技術に係る軸受装置810は、特許文献1発明と同様にシャフト20と、転がり軸受30と、スペーサ70とを備えている。転がり軸受30は、シャフト20に固定された内輪36と、スペーサ70の軸方向の端面に当接する外輪40と、内輪36と外輪40との間に配置された複数の転動体35と、転動体35の前記軸方向の両側に配置され内輪36と外輪40との隙間を封止する一対のシールド(内側シールド60aおよび外側シールド60b)と、を備えている。内側シールド60aと転動体35との距離Wa1は、外側シールド60bと転動体35との距離Wb1と同等に形成されている。なお、転がり軸受30の円滑な回転を補助するため、内輪36と外輪40との隙間にはグリースが充填されている。またスペーサ70は、一対の転がり軸受30の軸方向の外側に向かって外輪40を押圧することで、一対の転がり軸受30に予圧を付与し、転がり軸受30のがたつきを防止している。
【0005】
ところで、スペーサ70の中心軸がシャフト20の中心軸からずれて、転がり軸受30の外輪40の外周面からスペーサ70がはみ出すと、情報記録再生装置のアームが外挿できなくなる。そこで、スペーサ70の軸方向の端面に形成されたスペーサ突部72を、外輪40の軸方向の内側の端部に形成されたスペーサ保持部47に内挿することで、スペーサ70の姿勢をシャフト20と同軸状態に保持している。
ただし、転がり軸受30の外輪40における軸方向の内側には内側シールド60aが配置されるので、スペーサ突部72の挿入代R1を十分に確保することができない。そのため、スペーサ70の中心軸がシャフト20の中心軸からずれやすくなり、スペーサ70の姿勢を安定的に保持するのが困難である。
【0006】
図13(b)は第2従来技術に係る軸受装置の説明図であり、図3のP部に相当する部分の拡大図である。図13(b)に示すように、第2従来技術に係る軸受装置910は、内側シールドを廃止することで、外輪40のスペーサ保持部47へのスペーサ突部72の挿入代R2を確保して、スペーサ70の姿勢を安定的に保持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3689962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図13(b)に示す第2従来技術では、内側シールドが廃止され、内輪36と外輪40との隙間が開放されているので、その隙間に充填されたグリースが流出するおそれがある。なおグリースの流出を抑制するため、リテーナ50のリング部52を転動体35の内側に配置しているが、グリースの流出を完全に防止することはできない。グリースが流出すると、転がり軸受30が焼き付いて円滑な回転が不可能になり、転がり軸受30の性能を確保できなくなるという問題がある。
また、内輪36と外輪40との隙間が開放されているので、その隙間にゴミが入り込むおそれがある。これにより、転がり軸受の円滑な回転が不可能になり、転がり軸受の性能を確保できなくなるという問題がある。
【0009】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、スペーサの姿勢を安定的に保持するとともに、転がり軸受の性能を確保することが可能な、軸受装置および情報記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の問題を解決するために、本発明の軸受装置は、シャフトと、前記シャフトに外挿され、前記シャフトの軸方向に並んで配置された一対の転がり軸受と、前記シャフトと同軸状に配置され、前記一対の転がり軸受の前記軸方向の内側に配置された円筒状のスペーサと、を備え、前記転がり軸受は、前記シャフトに固定された内輪と、前記スペーサの前記軸方向の端面に当接する外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された複数の転動体と、前記転動体を転動自在に保持するリテーナと、前記転動体の前記軸方向の両側に配置され前記内輪と前記外輪との隙間を封止する一対のシールドと、を備え、前記リテーナは、前記シャフトと同軸状に配置されたリング部と、前記リング部から前記軸方向に伸びて前記転動体を保持する転動体保持部と、を備え、前記スペーサは、前記一対の転がり軸受の前記軸方向の外側に向かって前記外輪を押圧することで、前記一対の転がり軸受に予圧を付与し、前記スペーサの前記軸方向の端面に形成されたスペーサ突部が、前記外輪の前記内側の端部に形成されたスペーサ保持部に内挿されて、前記スペーサが前記シャフトと同軸状に配置され、前記リテーナの前記リング部は、前記転動体の前記外側に配置され、前記一対のシールドのうち前記内側に配置された内側シールドと前記転動体との距離が、前記一対のシールドのうち前記外側に配置された外側シールドと前記転動体との距離より短くなるように、前記内側シールドが配置されていることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、外側シールドに加えて内側シールドを備えているので、内輪と外輪との隙間が閉塞される。これにより、その隙間からのグリースの流出や、その隙間へのゴミの侵入等がなくなるので、転がり軸受の性能を確保することができる。しかも、リテーナのリング部が転動体の外側に配置されることで、内側シールドと転動体との距離が外側シールドと転動体との距離より短くなっている。そのため、内側シールドの軸方向の内側において、スペーサ突部を挿入するためのスペースが広くなる。これにより、スペーサ突部の軸方向の長さを長くして、外輪のスペーサ保持部への挿入代を確保することができる。したがって、スペーサの中心軸がシャフトの中心軸からずれにくくなり、スペーサの姿勢を安定的に保持することができる。
【0012】
また、前記外輪の前記スペーサ保持部の前記外側には、前記内側シールドが内挿保持される内側シールド保持部が形成され、前記内側シールド保持部の内径は、前記スペーサ保持部の内径より小さく形成されていることが好ましい。
この場合、内側シールドを内側シールド保持部に挿入する際に、内側シールドの外周部がスペーサ保持部の内周面に当接することがない。そのため、スペーサ保持部の内周面が削れたり、スペーサ保持部の内周面に異物が付着したりすることがない。これにより、そのスペーサ保持部の内周面にスペーサ突部を挿入しても、スペーサの中心軸がシャフトの中心軸からずれることがない。したがって、スペーサの姿勢を安定的に保持することができる。
【0013】
一方、本発明の情報記録再生装置は、上述した軸受装置と、前記シャフトに接続されたハウジングと、前記外輪に接続された回動部材と、前記回動部材に装着され、磁気記録媒体に情報の記録および再生を行うスライダと、を備えたことを特徴とする。
この発明によれば、スペーサの姿勢が安定的に保持された軸受装置を備えているので、軸受装置の外輪に対して回動部材を簡単かつ確実に接続することができる。また、転がり軸受の性能を確保することが可能な軸受装置を備えているので、回動部材を円滑に回動させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の軸受装置によれば、外側シールドに加えて内側シールドを備えているので、内輪と外輪との隙間が閉塞される。これにより、その隙間からのグリースの流出や、その隙間へのゴミの侵入等がなくなるので、転がり軸受の性能を確保することができる。しかも、リテーナのリング部が転動体の外側に配置されることで、内側シールドと転動体との距離が外側シールドと転動体との距離より短くなっている。そのため、内側シールドの軸方向の内側において、スペーサ突部を挿入するためのスペースが広くなる。これにより、スペーサ突部の軸方向の長さを長くして、外輪のスペーサ保持部への挿入代を確保することができる。したがって、スペーサの中心軸がシャフトの中心軸からずれにくくなり、スペーサの姿勢を安定的に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】情報記録再生装置の斜視図である。
【図2】図1のA−A線における側面断面図である。
【図3】第1実施形態に係る軸受装置の側面断面図である。
【図4】図3のP部の拡大図である。
【図5】リテーナの説明図であり、(b)は平面図であり、(a)は(b)のB−B線における側面断面図である。
【図6】シールドの説明図であり、(a)は平面図である。(b)はシールドの装着方法の説明図であり、(a)のC−C線に相当する部分における側面断面図である。
【図7】第1実施形態に係る軸受装置の製造方法の説明図である。
【図8】第1実施形態に係る軸受装置の製造方法の説明図である。
【図9】第1実施形態に係る軸受装置の製造方法の説明図である。
【図10】第1実施形態に係る軸受装置の製造方法の説明図である。
【図11】転がり軸受に予圧が付与された状態の説明図であり、図3のP部に相当する部分の拡大図である。
【図12】第2実施形態に係る軸受装置の説明図であり、図3のP部に相当する部分の拡大図である。
【図13】(a)は第1従来技術に係る軸受装置の説明図であり、図3のP部に相当する部分の拡大図である。(b)は第2従来技術に係る軸受装置の説明図であり、図3のP部に相当する部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
(情報記録再生装置)
図1は情報記録再生装置の斜視図であり、図2は図1のA−A線における側面断面図である。図1に示すように、この情報記録再生装置1は、記録層を有するディスク(磁気記録媒体)Dに対して、書き込みおよび読み取りを行う装置である。情報記録再生装置1は、アーム(回動部材)8と、アーム8の先端側に支持されたヘッドジンバルアセンブリ4と、ヘッドジンバルアセンブリ4の先端に装着されたスライダ2と、ヘッドジンバルアセンブリ4をスキャン移動させるアクチュエータ(VCM:ボイスコイルモータ)6と、ディスクDを回転させるスピンドルモータ7と、情報に応じて変調した電流をスライダ2に供給する制御部5と、これら各構成品を内部に収容するハウジング9と、を備えている。
【0017】
ハウジング9は、アルミニウム等の金属材料からなり、上部に開口部を有する箱型形状のものであって、平面視四角形状の底部9aと、底部9aの周縁部から垂直に立設された周壁(不図示)とで構成されている。周壁に囲まれたハウジング9の内側には、上述した各構成品を収容する凹部が形成される。底部9aの略中心には、上記スピンドルモータ7が取り付けられており、該スピンドルモータ7に中心孔を嵌め込むことでディスクDが着脱自在に固定されている。
【0018】
ディスクDの側方には、軸受装置10が配置されている。図2に示すように、軸受装置10はスリーブ8aに挿入され、スリーブ8aの外周面にアーム8が固着されている。図1に示すように、軸受装置10を挟んでアーム8の一方側は、上述したアクチュエータ6に接続されている。またアーム8の他方側はディスクDの表面と平行に延設され、その先端にヘッドジンバルアセンブリ4が接続されている。ヘッドジンバルアセンブリ4は、サスペンション3と、サスペンション3の先端に装着され、ディスクDの表面に対向配置されたスライダ2とを備えている。スライダ2は、ディスクDに対する情報の書き込み(記録)を行う記録素子と、ディスクDから情報の読み取り(再生)を行う再生素子とを備えている。
【0019】
上記のように構成された情報記録再生装置1において、情報の記録または再生を行うには、まずスピンドルモータ7を駆動して、中心軸L2の周りにディスクDを回転させる。またアクチュエータ6を駆動して、軸受装置10の中心軸L1の周りにアーム8を回動させる。これにより、ヘッドジンバルアセンブリ4の先端に配置されたスライダ2を、ディスクDの表面の各部にスキャン移動させることができる。そして、スライダ2の記録素子または再生素子を駆動することにより、ディスクDに対する情報の記録または再生を行うことができる。
【0020】
(第1実施形態、軸受装置)
図3は、第1実施形態に係る軸受装置の側面断面図である。第1実施形態に係る軸受装置10は、シャフト20と、シャフト20に外挿され、シャフト20の軸方向に並んで配置された一対の転がり軸受(第1転がり軸受31および第2転がり軸受32)と、シャフト20と同軸状に配置され、一対の転がり軸受31,32の前記軸方向の内側に配置された円筒状のスペーサ70と、を備えている。
【0021】
なお本願では、軸受装置10の中心軸(すなわちシャフト20の中心軸)L1に沿った方向を「軸方向」と呼ぶ。また本願では、一対の転がり軸受31,32の軸方向の内側(一対の転がり軸受31,32のうち一方の転がり軸受から見て他方の転がり軸受側、各転がり軸受31,32のスペーサ70側)を「軸方向の内側」と呼び、一対の転がり軸受31,32の軸方向の外側(一対の転がり軸受31,32のうち一方の転がり軸受から見て他方の転がり軸受の反対側、各転がり軸受31,32のスペーサ70とは反対側)を「軸方向の外側」と呼ぶ。
【0022】
シャフト20は、アルミニウムやステンレス等の金属材料により略円柱形状に形成されている。シャフト20の軸方向の一方側にはフランジ25が形成され、フランジ25の前記一方側には雄ねじ27aが形成されている。図2に示すように、シャフト20に形成された雄ねじ27が、ハウジング9の底部9aに形成された雌ねじ9bに螺合することで、シャフト20がハウジング9に固定される。
【0023】
(転がり軸受)
図2に示すように、転がり軸受30として、シャフト20の軸方向の一方側に配置された第1転がり軸受31と、シャフト20の軸方向の他方側に配置された第2転がり軸受32とを備えている。なお、第1転がり軸受31および第2転がり軸受32は同形状であって、面対象に配置されている。第1転がり軸受31は、内輪36の側面がフランジ25に当接した状態で配置されている。
【0024】
図4は、図3のP部の拡大図である。図4に示すように、転がり軸受30は、シャフト20に固定された内輪36と、スペーサ70の軸方向の端面に当接する外輪40と、内輪36と外輪40との間に配置された複数の転動体35と、転動体35を転動自在に保持するリテーナ50と、転動体35の軸方向の両側に配置され内輪36と外輪40との隙間を封止する一対のシールド(内側シールド60aおよび外側シールド60b)と、を備えている。
【0025】
内輪36および外輪40は、金属材料により略円筒形状に形成されている。
内輪36の外周面における軸方向の中心には、転動溝38が形成されている。転動溝38は、内輪36の全周にわたって形成されている。転動溝38の内面が転動面38fとされ、転動面38fの断面は円弧状に形成されている。
外輪40の軸方向の中央付近には、外輪本体部45が形成されている。外輪本体部45の内周面のうち外輪40の軸方向の中心には、転動溝48が形成されている。転動溝48は、外輪本体部45の全周にわたって形成されている。転動溝48の内面が転動面48fとされ、転動面48fの断面は円弧状に形成されている。
【0026】
転動体35は、金属材料により球状に形成されている。転動体35は、各転動溝38,48の内部に配置され、各転動溝38,48に沿って転動するようになっている。各転動面38f,48fの曲率半径は、転動体35の外面の曲率半径と同等に形成されている。
【0027】
外輪本体部45における軸方向の内側の側面45aと転動体35の中心Qとの距離は、外輪本体部45における軸方向の外側の側面45bと転動体35の中心Qとの距離より短くなっている。そして、外輪本体部45の軸方向の外側には、外側シールド60bを保持する外側シールド保持部40bが形成されている。一方、外輪本体部45の軸方向の内側には、内側シールド60aを保持する内側シールド保持部40aが形成されている。内側シールド保持部40aの軸方向の内側には、後述するスペーサ突部72を保持するスペーサ保持部47が形成されている。
【0028】
外輪40の外径は、外輪40の軸方向の全体について同等に形成されている。一方、外輪40の内径は、外輪本体部45の内径が最小となるように形成されている。内側シールド保持部40aの内径および外側シールド保持部40bの内径は同等であって、外輪本体部45の内径より大きく形成されている。またスペーサ保持部47の内径は、内側シールド保持部40aの内径と同等に形成されている。
【0029】
(リテーナ)
図5はリテーナの説明図であり、図5(b)は平面図であり、図5(a)は図5(b)のB−B線における側面断面図である。図5に示すように、リテーナ50は、樹脂材料等により王冠状に一体成型されている。リテーナ50は、シャフトと同軸状に配置されるリング部52と、リング部52から軸方向の一方側に伸びて転動体を保持する転動体保持部54と、を備えている。
【0030】
図5(a)に示すように、リング部52の径方向の厚さは、転動体の直径よりも小さく形成されている。リング部52の軸方向の一方側の端部には、複数の半円状の切り欠き53が形成されている。切り欠き53の曲率半径は、転動体の外面の曲率半径と同等に形成されている。
【0031】
転動体保持部54は舌片状に形成され、一対の転動体保持部54が、リング部52の周方向における切り欠き53の両端部から、軸方向の一方側に向かって延設されている。一対の転動体保持部54の内面は、切り欠き53と同等の曲率半径で、切り欠き53から連続して、切り欠き53を覆うように形成されている。図5(b)に示すように、一対の転動体保持部54の内面および切り欠き53の内面は、転動体の外面と同等の曲面に形成されている。
【0032】
一対の転動体保持部54および切り欠き53の内側には、転動体収容部55が形成されている。一対の転動体保持部54の先端の開口から、転動体収容部55に転動体を挿入すると、挿入された転動体は一対の転動体保持部54によって転動体収容部55に保持される。なお、金属材料からなる転動体と樹脂材料からなるリテーナ50との摩擦係数は小さいので、転動体は転動体収容部55に回動自在に保持される。
【0033】
図5に示すように、本願では、リング部52の軸方向の一方側(転動体が挿入される開口が形成された側)を、リテーナオープン側50aと呼ぶ。図4に示すように、本実施形態の軸受装置では、リテーナ50のリング部52が転動体35の外側に配置され、リテーナオープン側50aが転動体35の内側に配置されている。
【0034】
なお図5(a)に示すように、リング部52の軸方向の一方側であって、隣接する転動体収容部55の間の谷部は、グリースが供給されるグリース供給部58として機能する。グリース供給部58に供給されたグリースは、隣接する転動体収容部55の間の谷部で保持されつつ、少しずつ転動体に向かって流出し、転動体の潤滑に寄与する。
【0035】
(シールド)
図6はシールドの説明図であり、図6(a)は平面図である。また図6(b)は、シールドの装着方法の説明図であり、図6(a)のC−C線に相当する部分における側面断面図である。図6(a)に示すように、シールド60はリング状に形成されている。
【0036】
図6(b)に示すように、シールド60は、外輪本体部45の軸方向の側面45a,45bに当接する当接部63と、当接部63の径方向の内側に配置され、内輪36と外輪40との隙間を封止する封止部61と、当接部63と封止部61との間を連結する連結部62とを備えている。またシールド60は、当接部63の外周から、転動体35とは反対方向に立設された爪部65を備えている。なお第1実施形態では、内側シールド60aおよび外側シールド60bは同形状であって、面対象に配置されている。
【0037】
図6(a)に示すように、爪部65は、シールド60の周方向に等角度間隔で複数(本実施形態では5個)形成されている。図6(b)に示すように、内輪36と外輪40との間に内側シールド60aを圧入すると、外輪40の内側シールド保持部40aの内周面に爪部65が当接し、内側シールド60aの径方向の内側に向かって爪部65が屈曲(弾性)変形する。これにより、内側シールド保持部40aの内周面に内側シールド60aが保持される。外側シールド60bについても同様に保持されている。
【0038】
このように、図6(b)に示す本実施形態に係る軸受装置は、外側シールド60bに加えて内側シールド60aを備えている。これにより、内輪36と外輪40との隙間が閉塞されるので、その隙間に充填されたグリースが流出するのを防止することができる。これにより、転がり軸受30が焼き付いて円滑な回転が不可能になることがなく、転がり軸受30の性能を確保することができる。また、流出したグリースが磁気記録媒体の表面に付着して書き込みエラーや読み取りエラーが発生するのを防止することができる。さらに、内輪36と外輪40との隙間が閉塞されるので、その隙間にゴミが入り込むのを防止することができる。これにより、転がり軸受30の円滑な回転が不可能になることがなく、転がり軸受30の性能を確保することができる。
【0039】
なお図6(b)に示すように、転がり軸受30の外輪40に外側シールド60bを圧入すると、外側シールド60bの爪部65が外輪40の内周面を径方向の外側に押圧するので、外輪40が拡径する。図13(b)に示す第2従来技術では、内側シールドが廃止され外側シールド60bだけが装着されているので、外輪40の軸方向の外側だけが拡径することになる。これにより、転動面48fに歪が生じて、転がり軸受30の円滑な回転が不可能になり、転がり軸受30の性能が低下するおそれがある。なお図2に示すように、外輪40とスリーブ8aとの間を接着剤で固定する場合に、歪が生じた外輪40とスリーブ8aとの間には接着剤が過剰に入り込む。そのため、接着剤を加熱して硬化させる際に、接着剤が膨張および収縮し、転動面の歪が助長されるおそれがある。
【0040】
これに対して、図6(b)に示す本実施形態に係る軸受装置は、外側シールド60bに加えて内側シールド60aを備えている。これにより、外輪40の軸方向の内側および外側の両側が拡径することになる。そのため、転動面48fの歪が抑制され、転がり軸受が円滑に回転するので、転がり軸受の性能を確保することができる。また図2に示すように、外輪40とスリーブ8aとの間を接着剤で固定する場合でも、歪のない外輪40とスリーブ8aとの間には接着剤が過剰に入り込まない。したがって、接着剤の膨張および収縮により転動面の歪が助長されるのを防止することができる。
【0041】
上述したように、図4に示す外輪本体部45の軸方向の内側の側面45aと転動体35の中心Qとの距離は、軸方向の外側の側面45bと転動体35の中心Qとの距離より短くなっている。そして、軸方向の内側の側面45aに内側シールド60aの当接部63が当接し、軸方向の外側の側面45bに外側シールド60bの当接部63が当接している。これにより、内側シールド60aと転動体35との距離は、外側シールド60bと転動体35との距離より短くなっている。すなわち、内側シールド60aの封止部61と転動体35の中心Qとの距離Waは、外側シールド60bの封止部61と転動体35の中心Qとの距離Wbより短くなっている。なお上述したように、リテーナ50のリング部52が転動体35の軸方向の外側に配置され、リテーナオープン側50aが転動体35の軸方向の内側に配置されているので、内側シールド60aはリテーナ50と干渉しない。そのため、内側シールド60aと転動体35との距離を、外側シールド60bと転動体35との距離より短くすることができる。
【0042】
このように、本実施形態の軸受装置10では、内側シールド60aと転動体35との距離が、外側シールド60bと転動体35との距離より短くなっている。これにより、図13(a)に示す第1従来技術と比べて、転がり軸受30の内輪36と外輪40との隙間のうち、一対のシールド60a,60bで閉塞された空間(以下「転動空間」という。)Sの体積が小さくなる。そのため、転動空間S内へのグリース充填量を第1従来技術と同じにしても、転動空間S内のグリース充填率を増加させることができる。これにより、転動体35の潤滑性能を向上させるさせことができる。逆に、転動空間S内のグリース充填率を第1従来技術と同じにすれば、転動空間S内へのグリース充填量を少なくすることができる。これにより、転動体35の潤滑性能を同等に維持しつつ、グリースから放出されるアウトガス量を少なくすることができる。
【0043】
図3に示すように、スペーサ70は、金属材料により円筒状に形成されている。スペーサ70の外径は、転がり軸受30の外輪40の外径より若干小さく形成されている。図4に示すように、スペーサ70の軸方向の両端面には、スペーサ突部72が形成されている。スペーサ突部72は、スペーサ70と同軸のリング状に形成されている。スペーサ突部72の外径は、外輪40の内側シールド保持部(スペーサ保持部)40aの内径と同等に形成されている。
【0044】
(軸受装置の製造方法)
次に、第1実施形態に係る軸受装置の製造方法について説明する。
図7〜図10は、第1実施形態に係る軸受装置の製造方法の説明図である。
まず図7に示すように、シャフト20に第1転がり軸受31を固定する。具体的には、まずシャフト20に第1転がり軸受31を外挿し、シャフト20のフランジ25に第1転がり軸受31の内輪36を当接させる。次に、シャフト20の外周と第1転がり軸受31の内輪36とを接着剤で固定する。
【0045】
次に図8に示すように、シャフト20にスペーサ70を外挿する。このとき図3に示すように、スペーサ70のスペーサ突部72を、第1転がり軸受31の外輪40のスペーサ保持部47に内挿する。
次に図9に示すように、シャフト20に第2転がり軸受32を外挿する。このとき図3に示すように、スペーサ70のスペーサ突部72を、第2転がり軸受32の外輪40のスペーサ保持部47に内挿する。
【0046】
上述したように、図4に示す本実施形態の軸受装置10では、内側シールド60aと転動体35との距離が、外側シールド60bと転動体35との距離より短くなっている。そのため、内側シールド60aの軸方向の内側において、スペーサ突部72を挿入するためのスペースが広くなる。これにより、スペーサ突部72の軸方向の長さを長くして、外輪40のスペーサ保持部47への挿入代Rを確保することができる。したがって、スペーサ70の中心軸がシャフト20の中心軸からずれにくくなり、スペーサ70の姿勢を安定的に保持することができる。
【0047】
次に図10に示すように、予圧付与治具90を使用して、第1転がり軸受31および第2転がり軸受32に予圧を付与する。予圧付与治具90は円筒状に形成され、その内径はシャフト20の外径より大きく形成され、その外径は内輪36の外径より小さく形成されている。予圧付与治具90により、第2転がり軸受32の内輪36を軸方向の内側に向かって押圧する。これにより、一対の転がり軸受31,32の内輪36間の距離は短くなるが、外輪40間の距離はスペーサ70によって維持される。その結果、各転がり軸受31,32の外輪40は、内輪36より軸方向の外側にずれた状態となる。すなわちスペーサ70は、一対の転がり軸受31,32の軸方向の外側に向かって外輪40を押圧することで、一対の転がり軸受31,32に予圧を付与している。この状態で、シャフト20の外周と第2転がり軸受32の内輪36とを接着剤で固定する。
【0048】
図11は転がり軸受に予圧が付与された状態の説明図であり、図3のP部に相当する部分の拡大図である。図11に示すように、予圧付与治具90によって第2転がり軸受32の内輪36を軸方向の内側に押圧することで、内輪36は外輪40より軸方向の内側にずれた状態となる。これにより、内輪36の転動面38fと転動体35とは、常に転動体35の中心Qより軸方向の外側の接触点39で点接触する。また、外輪40の転動面48fと転動体35とは、常に転動体35の中心より軸方向の内側の接触点49で点接触する。これにより、第2転がり軸受32の内輪36および外輪40と、転動体35とのがたつきがなくなり、第2転がり軸受32の剛性を向上させることができる。第1転がり軸受についても同様である。
以上により、本実施形態に係る軸受装置10が完成する。
【0049】
上述したように、外輪40の転動面48fと転動体35とは、常に転動体35の中心より軸方向の内側の接触点49で点接触する。しかも、本実施形態の軸受装置10では、内側シールド60aと転動体35との距離が、外側シールド60bと転動体35との距離より短くなっている。そのため、内側シールド60aの爪部65が外輪を径方向の外側に押圧するときの作用点69aは、外側シールド60bの爪部65が外輪を径方向の外側に押圧するときの作用点69bより転動体35に近くなる。これにより、支点である接触点49から作用点69aまでの距離(モーメントの腕の長さ)Maが極めて短くなるので、内側シールド保持部40aに内側シールド60aを圧入しても、転動面48fに歪を発生させることがない。したがって、転がり軸受が円滑に回転するので、転がり軸受の性能を確保することができる。
【0050】
以上に詳述したように、図4に示す本実施形態に係る軸受装置では、外側シールド60bに加えて内側シールド60aを備えているので、内輪36と外輪40との隙間が閉塞される。これにより、グリースの流出やゴミの侵入等がなくなるので、転がり軸受の性能を確保することができる。しかも、リテーナ50のリング部52が転動体35の外側に配置されることで、内側シールド60aと転動体35との距離が外側シールド60bと転動体35との距離より短くなっている。そのため、内側シールド60aの軸方向の内側において、スペーサ突部72を挿入するためのスペースが広くなる。これにより、スペーサ突部72の軸方向の長さを長くして、外輪40のスペーサ保持部47との挿入代Rを確保することができる。したがって、スペーサ70の中心軸がシャフト20の中心軸からずれにくくなり、スペーサ70の姿勢を安定的に保持することができる。
【0051】
(第2実施形態)
図12は、第2実施形態に係る軸受装置の説明図であり、図3のP部に相当する部分の拡大図である。図4に示す第1実施形態では、転がり軸受30の外輪40における内側シールド保持部40aの内径とスペーサ保持部47の内径とが同等に形成されていたが、図12に示す第2実施形態では、内側シールド保持部40aの内径Daがスペーサ保持部47の内径Dsより小さく形成されている点で異なっている。なお第1実施形態と同様の構成となる部分については、その詳細な説明を省略する。
【0052】
図12に示す第2実施形態では、内側シールド保持部40aの内径Daが、スペーサ保持部47の内径Dsより小さく形成されている。なおスペーサ保持部47の内径Dsは、外側シールド保持部40bの内径Dbと同等に形成されている。これに伴って、内側シールド60aの外径が、外側シールド60bの外径より小さく形成されている。そして、内側シールド60aの爪部65で内側シールド保持部40aの内周面を押圧しつつ、内側シールド60aが内側シールド保持部40aに圧入されている。
【0053】
図4に示す第1実施形態では、内側シールド60aを内側シールド保持部40aに圧入する際に、内側シールド60aの爪部65をスペーサ保持部47の内周面に当接させながら圧入するので、スペーサ保持部47の内周面が削れたり、スペーサ保持部47の内周面に異物が付着したりする可能性がある。そのスペーサ保持部47の内周面にスペーサ突部72を挿入すると、スペーサ70の中心軸がシャフト20の中心軸からずれて、スペーサ70の姿勢を安定的に保持することが困難になる。
【0054】
これに対して、図12に示す第2実施形態では、内側シールド保持部40aの内径Daがスペーサ保持部47の内径Dsより小さく形成されているので、内側シールド60aを内側シールド保持部40aに挿入する際に、内側シールド60aの爪部65がスペーサ保持部47の内周面に当接することがない。そのため、スペーサ保持部47の内周面が削れたり、スペーサ保持部47の内周面に異物が付着したりすることがなくなる。これにより、スペーサ保持部47の内周面にスペーサ突部72を挿入する際に、スペーサ70の中心軸がシャフト20の中心軸からずれるのを防止することができる。したがって、スペーサ70の姿勢を安定的に保持することができる。
【0055】
また第2実施形態では、内側シールド保持部40aの内径Daをスペーサ保持部47の内径Dsより小さく形成しつつ、スペーサ保持部47の内径Dsを外側シールド保持部40bの内径Dbと同等に形成した。これにより、内側シールド保持部40aおよびスペーサ保持部47が径方向に厚くなって、両者の剛性が高くなる。内側シールド保持部40aの剛性が高くなるので、内側シールド保持部40aに内側シールド60aを圧入しても、転動面48fに歪を発生させることがない。したがって、転がり軸受30が円滑に回転し、転がり軸受30の性能を確保することができる。またスペーサ保持部47の剛性が高くなるので、スペーサ70の姿勢を安定的に保持することができる。
【0056】
なお第2実施形態の変形例として、内側シールド保持部40aの内径Daをスペーサ保持部47の内径Dsより小さく形成しつつ、内側シールド保持部40aの内径Daを外側シールド保持部40bの内径Dbと同等に形成してもよい。この場合には、内側シールド60aを外側シールド60bと共用できるので、コストを削減することができる。
【0057】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な材料や構造などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
例えば、情報記録再生装置の具体的な構成は、実施形態の構成に限られない。また、軸受装置のシャフトの具体的な形状も、実施形態の形状に限られない。また、実施形態では転がり軸受のシールドを外輪に固定したが、内輪に固定してもよい。
【符号の説明】
【0058】
D…ディスク(磁気記録媒体) 1…情報記録再生装置 2…スライダ 8…アーム(回動部材) 9…ハウジング 10…軸受装置 20…シャフト 30…転がり軸受 31…第1転がり軸受 32…第2転がり軸受 35…転動体 36…内輪 40…外輪 40a…内側シールド保持部 40b…外側シールド保持部 47…スペーサ保持部 50…リテーナ 52…リング部 54…転動体保持部 60…シールド 60a…内側シールド 60b…外側シールド 70…スペーサ 72…スペーサ突部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、
前記シャフトに外挿され、前記シャフトの軸方向に並んで配置された一対の転がり軸受と、
前記シャフトと同軸状に配置され、前記一対の転がり軸受の前記軸方向の内側に配置された円筒状のスペーサと、を備え、
前記転がり軸受は、前記シャフトに固定された内輪と、前記スペーサの前記軸方向の端面に当接する外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された複数の転動体と、前記転動体を転動自在に保持するリテーナと、前記転動体の前記軸方向の両側に配置され前記内輪と前記外輪との隙間を封止する一対のシールドと、を備え、
前記リテーナは、前記シャフトと同軸状に配置されたリング部と、前記リング部から前記軸方向に伸びて前記転動体を保持する転動体保持部と、を備え、
前記スペーサは、前記一対の転がり軸受の前記軸方向の外側に向かって前記外輪を押圧することで、前記一対の転がり軸受に予圧を付与し、
前記スペーサの前記軸方向の端面に形成されたスペーサ突部が、前記外輪の前記内側の端部に形成されたスペーサ保持部に内挿されて、前記スペーサが前記シャフトと同軸状に配置され、
前記リテーナの前記リング部は、前記転動体の前記外側に配置され、
前記一対のシールドのうち前記内側に配置された内側シールドと前記転動体との距離が、前記一対のシールドのうち前記外側に配置された外側シールドと前記転動体との距離より短くなるように、前記内側シールドが配置されていることを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
前記外輪の前記スペーサ保持部の前記外側には、前記内側シールドが内挿保持される内側シールド保持部が形成され、
前記内側シールド保持部の内径は、前記スペーサ保持部の内径より小さく形成されていることを特徴とする請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
請求項1に記載の軸受装置と、
前記シャフトに接続されたハウジングと、
前記外輪に接続された回動部材と、
前記回動部材に装着され、磁気記録媒体に情報の記録および再生を行うスライダと、
を備えたことを特徴とする情報記録再生装置。
【請求項1】
シャフトと、
前記シャフトに外挿され、前記シャフトの軸方向に並んで配置された一対の転がり軸受と、
前記シャフトと同軸状に配置され、前記一対の転がり軸受の前記軸方向の内側に配置された円筒状のスペーサと、を備え、
前記転がり軸受は、前記シャフトに固定された内輪と、前記スペーサの前記軸方向の端面に当接する外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された複数の転動体と、前記転動体を転動自在に保持するリテーナと、前記転動体の前記軸方向の両側に配置され前記内輪と前記外輪との隙間を封止する一対のシールドと、を備え、
前記リテーナは、前記シャフトと同軸状に配置されたリング部と、前記リング部から前記軸方向に伸びて前記転動体を保持する転動体保持部と、を備え、
前記スペーサは、前記一対の転がり軸受の前記軸方向の外側に向かって前記外輪を押圧することで、前記一対の転がり軸受に予圧を付与し、
前記スペーサの前記軸方向の端面に形成されたスペーサ突部が、前記外輪の前記内側の端部に形成されたスペーサ保持部に内挿されて、前記スペーサが前記シャフトと同軸状に配置され、
前記リテーナの前記リング部は、前記転動体の前記外側に配置され、
前記一対のシールドのうち前記内側に配置された内側シールドと前記転動体との距離が、前記一対のシールドのうち前記外側に配置された外側シールドと前記転動体との距離より短くなるように、前記内側シールドが配置されていることを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
前記外輪の前記スペーサ保持部の前記外側には、前記内側シールドが内挿保持される内側シールド保持部が形成され、
前記内側シールド保持部の内径は、前記スペーサ保持部の内径より小さく形成されていることを特徴とする請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
請求項1に記載の軸受装置と、
前記シャフトに接続されたハウジングと、
前記外輪に接続された回動部材と、
前記回動部材に装着され、磁気記録媒体に情報の記録および再生を行うスライダと、
を備えたことを特徴とする情報記録再生装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−50126(P2013−50126A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187138(P2011−187138)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
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