説明

軸受診断方法及びシステム

【課題】 閾値の設定が不要になり、計測時の条件設定を簡素化できる軸受診断方法及びシステムを提供することにある。
【解決手段】 診断用最大振幅値取得部29は、n個の診断用周波数分析データからそれぞれm個の周波数帯域における最大振幅値を取得して、n×m個の最大振幅値を求める。相対最大振幅比演算部23は、m個の周波数帯域ごとに、該当する周波数帯域のn個の最大振幅値を該当する周波数帯域における基準平均値で除してそれぞれ相対化することによりm×n個の相対最大振幅比を演算する。存在率演算部125は、n個の診断用分割波形データのそれぞれに対応するm個の相対最大振幅比の中の最大値が属する周波数帯域の存在率を演算する。寿命判定部127は、パターン存在率に基づいて診断対象の回転機械の軸受の寿命を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アコースティックエミッションを用いて回転機械の軸受の寿命を診断する方法及びシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸受の診断には振動法及びアコースティックエミッション法(AE法)が多く用いられている。例えば、特開2004−233284号[特許文献1]には、振動センサ、アコースティックエミッションセンサ(本願明細書ではAEセンサと云う)等を検出手段として用いる「転がり軸受ユニットの診断装置及び方法」に関する発明が開示されている。また特開2002−188411号公報[特許文献2]及び特開平8−210347号公報[特許文献3]にも、AEセンサを用いて軸受の異常を診断する「異常診断装置」に関する発明や、「超低速回転軸受の損傷検出方法」に関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−233284号公報
【特許文献2】特開2002−188411号公報
【特許文献3】特開平8−210347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、計測値の大きさ及び周期解析により、軸受に依存する特性周波数が現れるか否かにより診断または評価をしているものが多い。振動法、AE法共に、対象機器により運転条件等が異なるため、一品一様に管理基準を設定して、正常時との相対評価をしている。そのため、センサの設置状況や対象機器の運転状況により信号が変化する可能性も有り、計測精度に問題があった。また、相対評価であるため、初見の対象機器では正常状態が把握できない問題があった。
【0005】
振動法は、一般的ではあるが、損傷が巨視的にならないと評価が難しい。そのため早期に損傷を検知ができない。これに対してAE法は、早期に検知できるが、現在のところ具体化した評価方法は確立されていない。またAE法、振動法共に、残存寿命推定技術については確立されていない。
【0006】
また従来のAE法の計測では、閾値を設定し、それを超える振幅値を持ったAE信号波形を計測する。図13は、発明者が発表した従来のAE法を用いてAE信号波形の振幅の変化から軸受の寿命を診断する方法で採用している基準を示している。AE信号波形の振幅は、残存寿命の約50%前後、20%前後で変化し最終破壊に至る。その初期は軸受の摺動面の疲労の初期であり、組織変化および微視的損傷が発生する。残存寿命20%以降では、比較的大きな損傷が発生する。このAEの変化を評価できれば、大まかな余寿命を評価可能になる。しかし従来は振幅の変化を判定するための閾値の設定変更により、AE信号の発生数や、多くのAEパラメータが変化する。そのため、従来の方法では、診断結果が作業者に依存するという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、閾値の設定が不要になり、計測時の条件設定を簡素化できる軸受診断方法及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、AE法を用いて回転機械内の軸受の寿命を診断する軸受診断方法を対象とする。
【0009】
基本的な本発明の方法では、正常な回転機械の軸受の近傍に装着したAEセンサから出力される所定の時間長さのAE波形データを所定の時間間隔でs(但しsは2以上の整数)分割してs個の基準分割波形データを取得する。ここでAEセンサとしては、100kHz〜500kHzの周波数範囲をカバーするAEセンサを使用する。所定の時間間隔は、対象とする軸受の軸が1回転以上する時間間隔とするのが好ましい。
【0010】
次に本発明の方法では、s個の基準分割波形データを周波数分析して、s個の基準周波数分析データを取得する。そして基準周波数分析データにおいて、損傷の発生が原因となって振幅値が大きくなるm(但しmは1以上の整数)個の周波数帯域を定める。m個の周波数帯域の定め方は、使用するAE信号及び診断対象に応じて、事前の試験により定めることになる。振幅値が大きくなる周波数帯域は、診断対象が異なっても最低1つは現れるので、本発明ではmを1以上とした。mの数は少ないよりも多いほうが、診断精度を上げることができるのは勿論である。
【0011】
次に、s個の基準分割波形データからそれぞれm個の周波数帯域におけるn個の基準最大振幅値を取得し、m個の周波数帯域におけるs個の基準最大振幅値の平均基準最大振幅値をm個求める。以上の処理は、以下の診断処理を実行するための基礎データを取得するためのものである。
【0012】
次に診断対象の回転機械の軸受の近傍にAEセンサを装着し、AEセンサから出力される所定の時間長さのAE波形データを所定の時間間隔でn(但しnは2以上の整数)分割してn個の診断用分割波形データを取得する。そしてn個の診断用分割波形データを周波数分析して、n個の診断用周波数分析データを取得する。このn個の診断用周波数分析データからそれぞれm個の周波数帯域における最大振幅値を取得して、n×m個の最大振幅値を求める。
【0013】
次に、m個の周波数帯域ごとに、該当する周波数帯域のn個の最大振幅値を該当する周波数帯域における前記平均基準最大振幅値で除してそれぞれ相対化することによりm×n個の相対最大振幅比を求める。そしてn個の診断用分割波形データのそれぞれに対応するm個の相対最大振幅比の中の最大値が属する周波数帯域の存在率を求め、存在率に基づいて診断対象の回転機械の軸受の寿命を判定する。
【0014】
軸受に発生する損傷の程度が進むにつれて、AE波形データの最大振幅値が大きくなることが知られている。しかしながらAE波形データの最大振幅値を観察しているだけでは、損傷の程度を知ることはできない。すなわち比較的短い時間で、軸受が破壊に至るのか、または軸受が破壊に至るまでに期間の余裕があるのかを、AE波形データの最大振幅値の観測だけで知ることができない。発明者は、軸受に発生する損傷の程度と、n個の診断用分割波形データのそれぞれに対応するm個の相対最大振幅比の中の最大値が属する周波数帯域の存在率との間に、相関関係があることを発見した。本発明はこの発見を基礎とするものである。また本発明では、相対最大振幅比に基づいて診断を行うため、アコースティックエミッション技術(AE技術)で必ず必要とされる診断のための閾値を用意する必要がない。そのため、データにバラツキがあっても、診断の精度に大きな影響を受けることがない。本発明によれば、前述の相関関係を事前の試験で確認しておくことにより、軸受の損傷の程度(または寿命に至るまでの残り期間)を診断することができる。
【0015】
本発明において、「軸受に発生する損傷の程度が進むにつれて、AE波形データの最大振幅値が大きくなる」ことの知見を併用してもよいのは勿論である。その場合には、上記の方法における事前処理において、s個の基準分割波形データからs個の基準最大振幅値を取得し、s個の基準最大振幅値から平均基準最大振幅値を求めておく。また診断対象の回転機械の軸受の近傍から所定の時間長さのAE波形データを所定の時間間隔でn分割してn個の診断用分割波形データを取得した後、n個の診断用分割波形データからn個の最大振幅値を取得する。そしてn個の最大振幅値を平均基準最大振幅値で除してn個の相対最大実振幅比を求め、n個の相対最大実振幅比をp(但しpは3以上の整数)種類の振幅レベルに置き換える。その上で、n個の診断用分析波形データのそれぞれに対応するm個の相対最大振幅比の中の最大値が属する周波数帯域と該当する診断用分割波形データの振幅レベルとの組合せパターンのパターン存在率を求める。そしてこのパターン存在率に基づいて診断対象の回転機械の軸受の寿命を判定する。このように振幅レベルを考慮したパターン存在率に基づいて診断を行うと、振幅レベルを考慮しない場合と比べて、診断精度を高めることができる。なお組合せパターンについては、予め試験を行って定めることになる。また組合せパターンの存在率と軸受の損傷の程度との相関関係も予め試験により確認しておけばよい。
【0016】
診断用周波数分析データ中に軸受の特定部位の損傷が原因となって発生する特性周波数のパルスが含まれている確率を損傷存在率と定めてもよい。この特性周波数については、軸受製造メーカが製造販売するベアリングのそれぞれについてデータを公表している。例えば、軸受が転がり軸受の場合には、内輪に損傷が発生した場合、外輪に損傷が発生した場合及び転動体に損傷が発生した場合に発生するパルスの特性周波数等についてのデータが公表されている。発明者の研究によると、パターン存在率が損傷存在率よりも大きくなることは、軸受が破壊にかなり近づいていることの一つの証であることが判っている。したがってパターン存在率と損傷存在率の対象関係を考慮して、パターン存在率に基づいて残存寿命を診断すると、パターン存在率だけで診断する場合よりも、診断精度を高めることができる。
【0017】
本発明の基本となる軸受診断システムは、基準分割波形データ取得部と、基準周波数分析データ取得部と、基準最大振幅値取得部と、基準平均値演算部と、診断用分割波形データ取得部と、診断用周波数分析データ取得部と、最大振幅値取得部と、相対最大振幅比演算部と、存在率演算部と、寿命判定部とを備えている。そして本発明のより具体的な軸受診断システムでは、さらに基準最大振幅値取得部と、平均基準最大振幅値演算部と、診断用最大振幅値取得部と、診断用相対最大値振幅比演算部と、振幅レベル決定部と、存在率演算部に代えてパターン存在率演算部を備えている。
【0018】
基準分割波形データ取得部は、正常な回転機械の軸受の近傍に装着したAEセンサから出力される所定の時間長さのAE波形データを所定の時間間隔でs(但しsは2以上の整数)分割してs個の基準分割波形データを取得する。基準周波数分析データ取得部は、s個の基準分割波形データを周波数分析して、s個の基準周波数分析データを取得する。基準最大振幅値取得部は、基準周波数分析データにおいて、損傷の発生が原因となって振幅値が大きくなるm(但しmは1以上の整数)個の周波数帯域を定めた上で、s個の基準周波数分析データからそれぞれm個の周波数帯域におけるs個の基準最大振幅値を取得する。基準平均値演算部は、m個の周波数帯域におけるs個の基準最大振幅値の基準平均値をm個演算する。診断用分割波形データ取得部は、診断対象の回転機械の軸受の近傍に装着したAEセンサから出力される所定の時間長さのAE波形データを所定の時間間隔でn(但しnは2以上の整数)分割してn個の診断用分割波形データを取得する。診断用周波数分析データ取得部は、n個の診断用分割波形データを周波数分析して、n個の診断用周波数分析データを取得する。最大振幅値取得部は、n個の診断用周波数分析データからそれぞれm個の周波数帯域における最大振幅値を取得して、n×m個の最大振幅値を求める。相対最大振幅比演算部は、m個の周波数帯域ごとに、該当する周波数帯域のn個の最大振幅値を該当する周波数帯域における基準平均値で除してそれぞれ相対化することによりm×n個の相対最大振幅比を演算する。存在率演算部は、n個の診断用分割波形データのそれぞれに対応するm個の相対最大振幅比の中の最大値が属する周波数帯域の存在率を演算する。そして寿命判定部は、パターン存在率に基づいて診断対象の回転機械の軸受の寿命を判定する。
【0019】
より具体的な診断システムで備える基準最大振幅値取得部は、s個の基準分割波形データからs個の基準最大振幅値を取得し、平均基準最大振幅値演算部はs個の基準最大振幅値から平均基準最大振幅値を求める。最大振幅値取得部は、n個の診断用分割波形データからn個の最大振幅値を取得し、平均最大振幅値演算部はn個の最大振幅値から平均最大振幅値を演算する。振幅レベル決定部は、n個の最大振幅値を前記平均基準最大振幅値で除してn個の相対最大振幅比を求め、n個の相対最大振幅比をp(但しpは3以上の整数)種類の振幅レベルに置き換える。そしてパターン存在率演算部は、n個の診断用分析波形データのそれぞれに対応するm個の相対最大振幅比の中の最大値が属する周波数帯域と該当する診断用分割波形データの振幅レベルとの組合せパターンのパターン存在率を演算する。寿命判定部は、パターン存在率に基づいて診断対象の回転機械の軸受の寿命を判定する。
【0020】
なお診断用周波数分析データ中に、軸受の特定部位の損傷が原因となって発生する特性周波数のパルスが含まれている含有率に基づいて損傷存在率を演算する損傷存在率演算部をさらに備えていてもよい。損傷存在率演算部を設ける場合、寿命判定部は、パターン存在率と損傷存在率の比率を考慮して、パターン存在率に基づいて残存寿命を診断するのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1の実施の形態の軸受診断システムの構成を示すブロック図である。
【図2】(A)はフィルタ処理したAEセンサの所定の時間長さのAE波形データ(計測波形)の一例を示しており、(B)は図2(A)のAE波形データWを所定の時間間隔Tで分割して得た基準分割波形データの一例を示す図である。
【図3】(A)は軸受が正常なときの基準分割波形データの一例を示しており、(B)は図3(A)の基準分割波形データをフーリエー変換等の公知の周波数分析技術を用いて分析して得た基準周波数分析データの一例を示す図である。
【図4】(A)及び(B)は、事前に試験を行ってデータを示す図である。
【図5】基準平均値演算部における演算と内蔵するメモリ部に記憶されるデータを説明するために用いる表である。
【図6】最大振幅値取得部内のメモリ部に記憶されるデータを説明するために用いる表である。
【図7】演算により得た相対最大振幅の演算結果の一例を示す表である。
【図8】周波数帯域を数値化する例を説明するために用いる図である。
【図9】損傷度評価基準の例を示す表である。
【図10】軸受の製造メーカが資料としてユーザに提供する軸受の特性周波数データの一例を示す表である。
【図11】評価基準の一例を示す表である。
【図12】本発明の軸受診断システムの第2の実施の形態の構成を示すブロック図である。
【図13】従来のAE法を用いてAE信号波形の振幅の変化から軸受の寿命を診断する方法で採用している基準を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下図面を参照して本発明の軸受診断システム及び方法の実施の形態を詳細に説明する。図1は、第1の実施の形態の軸受診断システム1の構成を示すブロック図である。なおこの実施の形態の主として演算部分及び判定部分は、コンピュータを利用して実現されている。この軸受診断システムは、AEセンサ3と、基準分割波形データ取得部5と、分割波形基準最大振幅値取得部7と、平均基準最大振幅値演算部9と、基準周波数分析データ取得部11と、基準最大振幅値取得部13と、基準平均値演算部15と、診断用分割波形データ取得部17と、診断用周波数分析データ取得部19と、最大振幅値取得部21と、相対最大振幅比演算部23と、パターン存在率演算部25と、寿命判定部27と、診断用最大振幅値取得部29と、診断用相対最大振幅比演算部31と、振幅レベル決定部33と、損傷存在率演算部35と、表示部39とを備えている。
【0023】
基準分割波形データ取得部5は、正常な回転機械NBの軸受の近傍に装着したAEセンサ3から出力される所定の時間長さのAE波形データを所定の時間間隔(例えば1msec)でs(但しsは2以上の整数)分割してs個の基準分割波形データを取得する。AEセンサ3としては、100kHz〜500kHzの周波数範囲をカバーするAEセンサを使用する。モータに使用されている複数の軸受を診断する場合には、まずモータが新品のうちに、各軸受の設置位置の近傍に位置するモータの外装ケースの上にAEセンサ3を実装する。このときできるだけ他の軸受の影響を受けない位置にAEセンサ3を実装するのが好ましい。本実施の形態では、ノイズと他の軸受の存在の影響をできるだけ除去するために、基準分割波形データ取得部5内にAEセンサ3の出力をフィルタ処理するフィルタを内蔵している。
【0024】
図2(A)はフィルタ処理したAEセンサ3の所定の時間長さの出力波形すなわちAE波形データ(計測波形)Wの一例を示している。そして図2(B)は、この所定の時間長さのAE波形データWを所定の時間間隔Tでs(但しsは2以上の整数)分割して得た基準分割波形データDWの一例を示している。本実施の形態では、所定の時間間隔Tを、診断対象とする軸受Bの軸が、1回転する時間間隔の約1.5倍の時間間隔としている。なお診断のための基礎データを取得するとき及び診断をするときには、モータを予め定めた一定速度で回転させる。
【0025】
基準周波数分析データ取得部11は、s個の基準分割波形データDWを周波数分析して、s個の基準周波数分析データFWを取得する。図3(A)は、軸受が正常なときの基準分割波形データDWの一例を示しており、図3(B)は図3(A)の基準分割波形データDWをフーリエー変換等の公知の周波数分析技術を用いて分析して得た基準周波数分析データFWの一例を示している。
【0026】
基準最大振幅値取得部13は、基準周波数分析データFWにおいて、損傷の発生が原因となって振幅値が大きくなるm(但しmは1以上の整数)個の周波数帯域を定めた上で、s個の基準周波数分析データFWからそれぞれm個の周波数帯域におけるs個の基準最大振幅値を取得する。m個の周波数帯域のデータは、基準周波数分析データFWからバンドパスフィルタを用いて得ることができる。なお軸受が転がり軸受を含む軸受の場合には、m=4とすることが好ましいことが試験の結果として判っている。したがって以下の説明では、一般論を説明するとき以外はm=4として説明する。m個の周波数帯域の定め方は、使用するAE信号及び診断対象の軸受の構造に応じて定めることになる。実際的には、診断対象となる軸受と同じ軸受で損傷している軸受を持つモータについて事前に試験を行って、図4(A)及び(B)に示すようなデータDW及びFWを得て定めることになる。ちなみに図3(B)の例では、4個の周波数帯域FB1〜FB4は、125kHz、200kHz、300kHz及び450kHzをそれぞれ中心周波数として所定の帯域幅を有している。図3(B)の例では、4つの周波数帯域FB1〜FB4は、連続するように設定してあるが、振幅値が大きくなる複数の帯域が離れている場合には、複数の周波数帯域を連続させる必要はない。基準最大振幅値取得部13は、各周波数帯域FB1〜FB4において最大となる振幅値を基準最大振幅値として取得する。具体的には、基準周波数分析データの波形の包絡線を求めて、4個の周波数帯域FB1〜FB4におけるそれぞれの包絡線の最大値を基準最大振幅値と定めている。この処理は、公知の包絡線設定技術と電圧測定技術を用いて実現される。そして処理結果は、基準平均値演算部15に内蔵されるメモリに順次記憶される。
【0027】
基準平均値演算部15は、4個(m個)の周波数帯域FB1〜FB4におけるs個の基準最大振幅値の基準平均値をm個演算する。図5は、基準平均値演算部15における演算と内蔵するメモリ部に記憶されるデータを説明するために用いる表である。図5において、データNoは、s個の基準周波数分析データFWに付したデータ番号である。そして「帯域1」乃至「帯域4」欄は、周波数帯域FB1〜FB4を意味している。「全域」欄は後に説明する基準周波数分析データFWの全域を意味する。「帯域1」乃至「帯域4」欄及び「全域」欄には基準最大振幅値a1 〜as4が記録されている。基準平均値演算部15は、4個(m個)の周波数帯域FB1〜FB4におけるs個の基準最大振幅値の基準平均値Ave1 〜4を演算して、その結果を内蔵するメモリ部に記憶する。
【0028】
分割波形基準最大振幅値取得部7は、s個の基準分割波形データDWの全域からs個の基準最大振幅値を取得する。基準最大振幅値も前述の基準最大振幅値を求めたのと同様の手法で求めることができる。図5に示した「全域」欄には、各基準分割波形データDWから取得した基準最大振幅値a1 〜asが記載されている。基準最大振幅値a1 〜asは、平均基準最大振幅値演算部9に内蔵されたメモリ部に記憶される。平均基準最大振幅値演算部9は、s個の基準最大振幅値a1 〜asの平均値を演算して演算結果を平均基準最大振幅値Ave0として内蔵するメモリ部に記憶する。
【0029】
診断用分割波形データ取得部17は、診断対象の回転機械の軸受Bの近傍に装着したAEセンサ3から出力される所定の時間長さのAE波形データを所定の時間間隔でn(但しnは2以上の整数)分割してn個の診断用分割波形データDW′を取得する。図4(A)は、損傷が発生している軸受から測定したAE信号データから得た基準分割波形データDWの一例を示しており、図4(B)は図4(A)の基準分割波形データDWをフーリエー変換等の公知の周波数分析技術を用いて分析して得た基準周波数分析データFWの一例を示している。
【0030】
診断用周波数分析データ取得部19は、n個の診断用分割波形データDW′を周波数分析して、n個の診断用周波数分析データFW′を取得する。診断用周波数分析データ取得部19の動作は、前述の基準周波数分析データ取得部11の動作と同じである。
【0031】
最大振幅値取得部21は、n個の診断用周波数分析データFW′からそれぞれ4個(m個)の周波数帯域FB1〜FB4における最大振幅値を取得して、n×m個の最大振幅値を求める。最大振幅値取得部21における最大振幅値の求め方は、前述の基準最大振幅値取得部13における最大振幅値の求め方と同じである。最大振幅値取得部21で取得したn×m個の最大振幅値は、最大振幅値取得部21が内蔵するメモリ部に保存される。図6は、最大振幅値取得部21内のメモリ部に記憶されるデータを説明するために用いる表である。図6において、データNoは、n個の診断用周波数分析データFW′に付したデータ番号である。そして「帯域1」乃至「帯域4」欄は、周波数帯域FB1〜FB4を意味している。「全域」欄は後に説明する診断用周波数分析データFW′の全域を意味する。「帯域1」乃至「帯域4」欄及び「全域」欄には基準最大振幅値b11 〜bn4が記録されている。
【0032】
相対最大振幅比演算部23は、図7の表に示すように、4個(m個)の周波数帯域FB1〜FB4ごとに、該当する周波数帯域のn個の最大振幅値を該当する周波数帯域における基準平均値Ave1〜Ave4で除して(例えばb11/Ave1〜bn4/Ave4)、それぞれ相対化することによりm×n個の相対最大振幅比A1〜An4を演算する。演算結果は、相対最大振幅比演算部23の内蔵するメモリ部に保存される。
【0033】
診断用最大振幅値取得部29は、図6の表に示すように、n個の基準分割波形データDW′からn個の最大振幅値b1 〜bnを取得して、内蔵するメモリ部に保存する。診断用相対最大振幅比演算部31は、図7の表に示すように、n個の最大振幅値b1 〜bnを平均基準最大振幅値Ave0で除して(例えばb1/Ave0〜bn/Ave0)、n個の相対最大振幅比A1 〜Anを求める。
【0034】
振幅レベル決定部33は、n個の相対最大振幅比A1 〜Anをp(但しpは3以上の整数)種類の振幅レベルに置き換える。本実施の形態では、図8に示すように、相対最大振幅比A1 〜Anが、60dB以下に相当する場合にはレベル1とし、60〜70dBに相当する場合にはレベル2とし、70〜80dBに相当する場合にはレベル3とし、80〜90dBに相当する場合にはレベル4とし、90dB以上の場合にはレベル5とする置き換えを振幅レベル決定部33が行っている。
【0035】
そしてパターン存在率演算部25は、n個の診断用分析波形データFW′のそれぞれに対応するm個の相対最大振幅比(例えばA11〜A14)の中の最大値が属する周波数帯域FB1〜FB4を数値化する。図8に示すように、周波数帯域FB1を1と数値化し、周波数帯域FB2を2と数値化し、周波数帯域FB3を3と数値化し、周波数帯域FB4を4と数値化する。次にパターン存在率演算部25は、該当する診断用分割波形データDW′の振幅レベル(1〜5)との組合せパターンを決定する。本実施の形態では、10の位に振幅レベルを示す数値を置き、1の位に周波数帯域を示す数値を置いて、その組合せパターンを数値で特定する。具体的には図8に示すように、振幅レベルがレベル1で、最も高い振幅が含まれる周波数帯域がFB1=1であれば、その組合せパターンを11と表現する。「23」と特定される組合せパターンの場合には、振幅レベルがレベル2であり、最も高い振幅が含まれる周波数帯域がFB3=3である。このようにしてパターン存在率演算部25は、図8の中央部に示す表のように、n個の診断用分析波形データFW′(データNo.1〜n)の組合せパターンを決定する。パターン存在率演算部25は、図8に示すように、組合せパターンのデータ数を集計して、最もデータ数が多い組合せパターンの存在率を演算する。例えば、図8に示す集計結果に見られるように、組合せパターン13が最も多いとすると、組合せパターン13のパターン存在率は5/nとなる。
【0036】
寿命判定部27が、パターン存在率に基づいて軸受の寿命を判断する場合には、予め図9に示すような、損傷度評価基準を用意する。そしてパターン存在率演算部25が演算したパターン存在率が最も大きくなる組合せパターンが、図9の評価パターンのどれに該当するかにより、寿命を判定する。すなわちパターン存在率が最も大きくなる組合せパターンが「34」であるとすると、図9の評価基準から見れば、残存寿命は50%〜20%であると判断する。図9において、[1*]の表記は、「*」として1〜4のいずれの数値が入ってもよいことを意味する。この評価は、周波数帯域の如何に拘わらず振幅レベルが低ければ、損傷が少なく、まだ寿命が十分にあることを示している。そして組合せパターンが[4*]または[5*]の表記も、「*」として1〜4のいずれの数値が入ってもよいことを意味する。この評価は、周波数帯域の如何に拘わらず振幅レベルが4または5と高ければ、損傷が多く、寿命が短いことを示している。[21]〜[23]または[31]〜[33]の場合には、損傷はあるもののまだ残存寿命が50%より短くなっていないことを示している。図9の評価基準は、軸受の種類に応じて、予め試験により定められる。
【0037】
軸受の損傷は、軸受の構造と回転数により決まる特性周波数の周期で発生するため、特定周波数を考慮した「損傷存在率」を寿命の判定に導入することができる。本実施の形態では、寿命判定部27は、さらに損傷存在率を考慮することにより、判定精度を高めている。そこで本実施の形態では、損傷存在率演算部35を備えている。損傷存在率演算部35は、診断用周波数分析データ取得部19から取得したn個の診断用周波数分析データFW′中に、軸受の特定部位の損傷が原因となって発生する特性周波数のパルスが含まれる確率を損傷存在率として演算する。図10は、軸受の製造メーカが資料としてユーザに提供する軸受の特性周波数データの一例である。ここで「損傷存在率」は、軸受が転がり軸受の場合には、分割波形中に軸受の最も遅い部位の傷に伴うパルス波形が含まれる確率を示すものであり、軸受仕様と計測仕様(計測波形長さと分割数)によって予め算出される。例えば、図10の特性周波数例において、軸受に対し、3000rpmでAE波形データの波形長さ(所定の時間長さ)を30msecとする場合を考える。3000rpm の1回転は、20msecであり、計測したAE波形データの波形は、1.5回転分の波形長さがあることになる。軸受の内輪、外輪、転動体のパルス発生周期で最も遅い転動体で、発生周期(特性周波数)は249Hz=約4msecである。したがって、波形30msec中に7.4回、転動体の損傷により発生するパルスが出現する可能性がある。30msec長さのAE波形データを1msec長さに30分割して基準及び診断用の分割波形データ(DW,DW′)を得た場合、「損傷存在率」は7.4/30=約25%となる。損傷存在率演算部35は、上記演算を実行する。なお本実施の形態のように損傷存在率演算部35を設けずに、損傷存在率を定数として寿命判定部27に記憶しておいてもよい。
【0038】
寿命判定部27が損傷存在率を利用する場合には、例えば、図11に示す評価基準を用いることができる。図11に示すように、「残存寿命予測」においては、計測した時刻が[残存寿命50%以上]、[残存寿命50%〜20%]、[残存寿命20%以下]のいずれかであるかを判断する。また「損傷予兆検知」においては、継続的観察が必要な軽微な損傷の有無を判断する。そこでこの評価基準では、前述のパターン存在率をAとし、損傷存在率をBとしたときに、パターン存在率Aと損傷存在率Bの比率(大小関係を含む)を評価の要素として考慮している。すなわちこの評価基準に従うと、評価パターンが同じ組合せパターン[24]、[34]であっても、パターン存在率A<損傷存在率Bの場合には、残存寿命が50%以上であると判断し、パターン存在率A≧損傷存在率Bの場合には、残存寿命が50%〜20%であると判断する。図11の判断基準では、評価パターンが[24]及び[34]以外のときには、パターン存在率Aと損傷存在率Bの大小関係は一切考慮しない。これはパターン存在率Aと損傷存在率Bの大小関係を利用するまでもなく、評価パターン(組合せパターン)のみで正確に診断ができるためである。診断結果は、表示部39に文字等により表示される。
【0039】
パターン存在率Aと損傷存在率Bの関係は、図11の例に限定されるものではなく、軸受の仕様によっては、損傷存在率Bに補正係数を乗算した結果を用いてもよく、また損傷存在率Bに補正値を加減算した結果を用いても良い。
【0040】
本実施の形態によれば、4つの周波数帯域について、どの周波数帯域がよりAE信号の振幅値の変化に寄与しているかを順位付け(寄与順位パターン)する。その結果、各損傷段階に存在する特徴付けができ、どの損傷段階に属しているかを評価、すなわち残存寿命予測することができ、また、損傷の原因の違いも判別できる。また判断は、絶対値には依存しないため、従来のAE計測手法で必要な感度補正や閾値の設定等の影響を低減できる。また本実施の形態では、残存寿命予測はできないものの継続的観察を要する損傷(損傷あり)を検知することができる。さらに軸受の大きさや、上記の感度に影響されにくいため、対象機器の運転条件や軸受型式に拘らず評価が可能である。また本実施の形態では、一定長さの波形を分割し、閾値を設定せずに一定時間の波形を収集するため、簡便に計測が実施できる。
【0041】
図1の実施の形態においては、n個の診断用分析波形データのそれぞれに対応するm個の相対最大振幅比の中の最大値が属する周波数帯域と、該当する診断用分割波形データの振幅レベルとの組合せにより組合せパターンを決定し、この組合せパターンのパターン存在率を求めている。しかしながら振幅レベルを用いずに、n個の診断用分析波形データのそれぞれに対応するm個の相対最大振幅比の中の最大値が属する周波数帯域FB1〜FB4を4つのパターンとして、パターン存在率を決定するようにしてもよい。図12は、この場合に用いる本発明の軸受診断システムの第2の実施の形態の構成を示すブロック図を示している。図12の実施の形態では、図1の実施の形態の構成要素と同様の構成要素には、図1に付した符号の数に100の数を加えた数の符号を付してある。図12の実施の形態では、基準平均値演算部115が図5の基準平均値Ave1〜Ave4を演算し、最大振幅値取得部121が図6の4×n個の最大振幅値b11〜bn4を取得して、相対最大振幅比演算部123が図7の4×n個の相対最大振幅比A11〜An4を演算する。存在率演算部125は、相対最大振幅比A11〜An4について周波数帯域の数値化を行って、相対最大振幅比A11〜An4を数値化してパターン化し、数値化したパターンの集計を行う。すなわち1〜4の数値にパターン化したデータの数を集計し、パターン存在率を演算する。1〜4の数値のそれぞれの集計数をX1〜X4とすると、X1/n〜X4/nがパターン存在率となる。寿命判定部127は、パターン存在率が大きくなる周波数帯域の順番に基づいて、軸受の寿命を診断する。例えば、周波数帯域FB1の存在率が一番大きくなる場合には、正常と判断し、周波数帯域FB1及びFB4の存在率が共に大きくなる場合には、ベアリングの転動体に組織変化または微小損傷が発生していると判断し、周波数帯域FB1,FB2及びFB3の存在率が共に大きくなる場合には、ベアリングの転動体に巨視損傷及び亀裂が発生しているものと判断する。本実施の形態では、図1の実施の形態と比べると、診断精度は低くなるものの、単純に振幅値と閾値とを対比する場合に比べて、はるかに客観的な診断が可能である。なお本実施の形態において寿命判定部127で用いる判断基準は、上記に説明した基準内容に限定されるものではなく、事前の試験により適宜に定めればよい。
【0042】
また図12の実施の形態においても、図1の実施の形態と同様に、パターン存在率と損傷存在率の大小関係を考慮して、判定するようにしてもよいのは勿論である。例えば、周波数帯域FB1及びFB4のパターン存在率が共に大きくなる場合でも、一番大きいパターン存在率<損傷存在率の場合には、残存寿命が50%以上であると判断し、周波数帯域FB1及びFB4の存在率が共に大きくならない場合であっても、一番大きいパターン存在率A≧損傷存在率Bの場合には、残存寿命が50%〜20%であると判断することもできる。なおパターン存在率と損傷存在率の大小関係を考慮する場合にも、事前に実際に試験を行って判定基準を定めることになるので、本実施の形態の判定基準に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、相対最大振幅比に基づいて診断を行うため、AE技術で必ず必要とされる診断のための閾値を用意する必要がない。そのため、データにバラツキがあっても、診断の精度に大きな影響を受けることがないという利点が得られる。
【符号の説明】
【0044】
1 軸受診断システム
3 AEセンサ
5 基準分割波形データ取得部
7 分割波形基準最大振幅値取得部
9 平均基準最大振幅値演算部
11 基準周波数分析データ取得部
13 基準最大振幅値取得部
15 基準平均値演算部
17 診断用分割波形データ取得部
19 診断用周波数分析データ取得部
21 最大振幅値取得部
23 相対最大振幅比演算部
25 パターン存在率演算部
27 寿命判定部
29 診断用最大振幅値取得部
31 診断用相対最大振幅比演算部
33 振幅レベル決定部
35 損傷存在率演算部
39 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アコースティックエミッションを用いて回転機械内の軸受の寿命を診断する軸受診断方法であって、
正常な前記回転機械の軸受の近傍に装着したAEセンサから出力される所定の時間長さのAE波形データを所定の時間間隔でs(但しsは2以上の整数)分割してs個の基準分割波形データを取得し、
前記s個の基準分割波形データからs個の基準最大振幅値を取得し、
前記s個の基準最大振幅値から平均基準最大振幅値を求め、
前記s個の基準分割波形データを周波数分析して、s個の基準周波数分析データを取得し、
前記基準周波数分析データにおいて、損傷の発生が原因となって振幅値が大きくなるm個(但しmは1以上の整数)の周波数帯域を定め、
前記s個の基準周波数分析データからそれぞれ前記m個の周波数帯域におけるs個の基準最大振幅値を取得し、
前記m個の周波数帯域におけるs個の前記基準最大振幅値の平均基準最大振幅値をm個求め、
診断対象の回転機械の軸受の近傍に前記AEセンサを装着し、前記AEセンサから出力される前記所定の時間長さのAE波形データを前記所定の時間間隔でn(但しnは2以上の整数)分割してn個の診断用分割波形データを取得し、
前記n個の診断用分割波形データからn個の最大振幅値を取得し、
前記n個の最大振幅値を前記平均基準最大振幅値で除してn個の相対最大振幅比を求め、
前記n個の相対最大振幅比をp(但しpは3以上の整数)種類の振幅レベルに置き換え、
前記n個の診断用分割波形データを周波数分析して、n個の診断用周波数分析データを取得し、
前記n個の診断用周波数分析データからそれぞれ前記m個の周波数帯域における最大振幅値を取得して、n×m個の最大振幅値を求め、
前記m個の周波数帯域ごとに、該当する前記周波数帯域の前記n個の最大振幅値を該当する前記周波数帯域における前記基準平均値で除してそれぞれ相対化することによりm×n個の相対最大振幅比を求め、
前記n個の診断用分析波形データのそれぞれに対応するm個の前記相対最大振幅比の中の最大値が属する前記周波数帯域と該当する前記診断用分割波形データの前記振幅レベルとの組合せパターンのパターン存在率を求め、
前記パターン存在率に基づいて前記診断対象の回転機械の軸受の寿命を判定することを特徴とする軸受診断方法。
【請求項2】
前記診断用周波数分析データ中に、前記軸受の特定部位の損傷が原因となって発生する特性周波数のパルスが含まれる確率を損傷存在率と定め、
前記パターン存在率と前記損傷存在率の比率を考慮して、前記パターン存在率に基づいて残存寿命を診断することを特徴とする請求項1に記載の軸受診断方法。
【請求項3】
アコースティックエミッションを用いて回転機械内の軸受の寿命を診断する軸受診断方法であって、
正常な前記回転機械の軸受の近傍に装着したAEセンサから出力される所定の時間長さのAE波形データを所定の時間間隔でs(但しsは2以上の整数)分割してs個の基準分割波形データを取得し、
前記s個の基準分割波形データを周波数分析して、s個の基準周波数分析データを取得し、
前記基準周波数分析データにおいて、損傷の発生が原因となって振幅値が大きくなるm(但しmは1以上の整数)個の周波数帯域を定め、
前記s個の基準分割波形データからそれぞれ前記m個の周波数帯域におけるs個の基準最大振幅値を取得し、
前記m個の周波数帯域におけるs個の基準最大振幅値の基準平均値をm個求め、
診断対象の回転機械の軸受の近傍に前記AEセンサを装着し、前記AEセンサから出力される前記所定の時間長さのAE波形データを前記所定の時間間隔でn(但しnは2以上の整数)分割してn個の診断用分割波形データを取得し、
前記n個の診断用分割波形データを周波数分析して、n個の診断用周波数分析データを取得し、
前記n個の診断用周波数分析データからそれぞれ前記m個の周波数帯域における最大振幅値を取得して、n×m個の最大振幅値を求め、
前記m個の周波数帯域ごとに、該当する前記周波数帯域の前記n個の最大振幅値を該当する前記周波数帯域における前記基準平均値で除してそれぞれ相対化することによりm×n個の相対最大振幅比を求め、
前記n個の診断用分割波形データのそれぞれに対応するm個の前記相対最大振幅比の中の最大値が属する前記周波数帯域の存在率を求め、
前記存在率に基づいて前記診断対象の回転機械の軸受の寿命を判定することを特徴とする軸受診断方法。
【請求項4】
アコースティックエミッションを用いて回転機械内の軸受の寿命を診断する軸受診断システムであって、
正常な前記回転機械の軸受の近傍に装着したAEセンサから出力される所定の時間長さのAE波形データを所定の時間間隔でs(但しsは2以上の整数)分割してs個の基準分割波形データを取得する基準分割波形データ取得部と、
前記s個の基準分割波形データからs個の基準最大振幅値を取得する基準最大振幅値取得部と、
前記s個の基準最大振幅値から平均基準最大振幅値を求める平均基準最大振幅値演算部と、
前記s個の基準分割波形データを周波数分析して、s個の基準周波数分析データを取得する基準周波数分析データ取得部と、
前記基準周波数分析データにおいて、損傷の発生が原因となって振幅値が大きくなるm(但しmは1以上の整数)個の周波数帯域を定めた上で、前記s個の基準周波数分析データからそれぞれ前記m個の周波数帯域におけるs個の基準最大振幅値を取得する基準最大振幅値取得部と、
前記m個の周波数帯域におけるs個の前記最大振幅値の基準平均値をm個演算する基準平均値演算部と、
診断対象の回転機械の軸受の近傍に装着した前記AEセンサから出力される前記所定の時間長さのAE波形データを前記所定の時間間隔でn(但しnは2以上の整数)分割してn個の診断用分割波形データを取得する診断用分割波形データ取得部と、
前記n個の診断用分割波形データからn個の最大振幅値を取得する最大振幅値取得部と、
前記n個の最大振幅値を前記平均基準最大振幅値で除してn個の相対最大振幅比を求める相対最大振幅比演算部と、
前記n個の相対最大振幅比をp(但しpは3以上の整数)種類の振幅レベルに置き換える振幅レベル決定部と、
前記n個の診断用分割波形データを周波数分析して、n個の診断用周波数分析データを取得する診断用周波数分析データ取得部と、
前記n個の診断用周波数分析データからそれぞれ前記m個の周波数帯域における最大振幅値を取得して、n×m個の最大振幅値を求める最大振幅値取得部と、
前記m個の周波数帯域ごとに、該当する前記周波数帯域の前記n個の最大振幅値を該当する前記周波数帯域における前記基準平均値で除してそれぞれ相対化することによりm×n個の相対最大振幅比を演算する相対最大振幅比演算部と、
前記n個の診断用分析波形データのそれぞれに対応するm個の前記相対最大振幅比の中の最大値が属する前記周波数帯域と該当する前記診断用分割波形データの前記振幅レベルとの組合せパターンのパターン存在率を演算するパターン存在率演算部と、
前記パターン存在率に基づいて前記診断対象の回転機械の軸受の寿命を判定する寿命判定部とを備えていることを特徴とする軸受診断システム。
【請求項5】
前記診断用周波数分析データ中に、前記軸受の特定部位の損傷が原因となって発生する特性周波数のパルスが含まれる確率を損傷存在率として演算する損傷存在率演算部をさらに備え、
前記寿命判定部は、前記パターン存在率と前記損傷存在率の比率を考慮して、前記パターン存在率に基づいて残存寿命を診断することを特徴とする請求項4に記載の軸受診断システム。
【請求項6】
アコースティックエミッションを用いて回転機械内の軸受の寿命を診断する軸受診断システムであって、
正常な前記回転機械の軸受の近傍に装着したAEセンサから出力される所定の時間長さのAE波形データを所定の時間間隔でs(但しsは2以上の整数)分割してs個の基準分割波形データを取得する基準分割波形データ取得部と、
前記s個の基準分割波形データを周波数分析して、s個の基準周波数分析データを取得する基準周波数分析データ取得部と、
前記基準周波数分析データにおいて、損傷の発生が原因となって振幅値が大きくなるm(但しmは1以上の整数)個の周波数帯域を定めた上で、前記s個の基準分割波形データからそれぞれ前記m個の周波数帯域におけるs個の基準最大振幅値を取得する基準最大振幅値取得部と、
前記m個の周波数帯域におけるs個の前記基準最大振幅値の基準平均値をm個演算する基準平均値演算部と、
診断対象の回転機械の軸受の近傍に装着した前記AEセンサから出力される前記所定の時間長さのAE波形データを前記所定の時間間隔でn分割してn個の診断用分割波形データを取得する診断用分割波形データ取得部と、
前記n個の診断用分割波形データを周波数分析して、n個の診断用周波数分析データを取得する診断用周波数分析データ取得部と、
前記n個の診断用周波数分析データからそれぞれ前記m個の周波数帯域における最大振幅値を取得して、n×m個の最大振幅値を演算する最大振幅値取得部と、
前記m個の周波数帯域ごとに、該当する前記周波数帯域の前記n個の最大振幅値を該当する前記周波数帯域における前記基準平均値で除してそれぞれ相対化することによりm×n個の相対最大振幅比を演算する相対最大振幅比演算部と、
前記n個の診断用分割波形データのそれぞれに対応するm個の前記相対最大振幅比の中の最大値が属する前記周波数帯域の存在率を演算する存在率演算部と、
前記存在率に基づいて前記診断対象の回転機械の軸受の寿命を判定する寿命判定部とを備えていることを特徴とする軸受診断システム。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−242336(P2012−242336A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115128(P2011−115128)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【出願人】(000164438)九州電力株式会社 (245)
【Fターム(参考)】