説明

軸受試験装置

【課題】通電による白色剥離試験にあっても、想定外の振動発生を抑制し市場の白色剥離を短時間で的確に再現させるとともに、試験軸受の軌道輪や転動体の各剥離実態を解明する軸受試験機を提供することを目的とする。
【解決手段】軸受試験装置において試験軸受を回転駆動する軸の支持軸受の構成要素の少なくとも一部に絶縁体を用いるとともに、外部電源の端子が試験軸受と前記回転軸端に設けられた曲面状突起に接続されているので、支持軸受の電食による振動を回避でき試験精度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受を構成する転動面及び転動体の耐久寿命を試験する軸受試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オルタネータ、テンションプーリ、アイドラプーリ、タイミングベルトプーリ、電磁クラッチ、コンプレッサ、ウォータポンプ等の自動車用補機に使用される軸受、クランクシャフト、カムシャフト等のエンジンに組み込まれる軸を支持する軸受、各種モータや工作機械の回転軸を支持する軸受等の転がり軸受の耐久寿命を左右する要素として回転伝達経路から軸受に帯電する静電気による白色剥離問題が挙げられている。この白色剥離による軸受耐久寿命を試験する軸受試験装置としては、試験軸受の内輪を取り付ける回転軸と、試験軸受の外輪を固定するハウジングとを有し、回転軸を回転駆動する回転駆動手段と、試験軸受に荷重を負荷する荷重負荷手段とを設けたものが多く使用されている。これらの軸受試験装置は、耐久寿命試験の他軸受の設計、開発、品質保証、トラブルの原因究明等に用いられている。
この様な試験装置の代表的な先行技術としては例えば特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006‐317273
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、試験軸受の内輪を取り付ける回転軸と、試験軸受の外輪を固定するハウジングとダミー軸受とダミー軸受を保持するハウジングとを有し、回転軸を回転駆動する回転駆動手段と、試験軸受に荷重を負荷するとともに回転駆動手段と回転軸との動力伝達をする無端ベルトとを設けている。
【0005】
この試験装置によれば、軸受帯電試験は試験軸受外輪を固定するハウジングとダミー軸受を固定するハウジングとにそれぞれ電極の一端を外部電源に接続し外部電圧を印加して試験軸受を通電経路とすることで軸受の白色剥離を再現させて耐久寿命を計っている。
【0006】
しかしながら、上記公知技術においては電流をダミー軸受にも通電させる構成のため、ダミー軸受が電食し振動発生源となり試験機全体の振動が大きくなる怖れがある。また、試験軸受の白色剥離を短時間で再現させるため市場での使用状態に比べ必要以上の電流を試験機に通電させるので評価軸受にも電食が生じ、更なる振動発生源となり試験軸受の剥離検出が困難となるばかりか試験軸受のグリース劣化が促進され試験軸受が焼き付きを起こす怖れがあった。
【0007】
また、特許文献1においては試験軸受の軸受軌道輪の剥離再現は出来るが、転動体そのものの剥離の再現は困難であり剥離現象の全容解明には限界があった。
【0008】
さらには、特許文献1においてはダミー軸受にも通電しており、軸受のグリース膜は、通電経路となる試験軸受、ダミー軸受の各転動体が接触する内輪、外輪転動面の4箇所で発生している。グリース膜厚は荷重が低いと厚くなる傾向があり、ダミー軸受はベルト付勢側の試験軸受に比べ低荷重であるため、試験軸受よりもグリース膜厚が厚くなる傾向がある。そのため、通電試験においては電流がダミー軸受に集まり、試験軸受の正確な評価が難しいという問題があった。
【0009】
本発明は上述の実情に鑑み、通電による白色剥離試験にあっても、想定外の振動発生を抑制し市場の白色剥離を短時間で的確に再現させるとともに、試験装置の印加電圧を安定的に供給して試験軸受の軌道輪や転動体の各剥離実態を解明する軸受試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1記載の軸受試験装置は、内輪、外輪および転動体で構成された試験軸受と、前記試験軸受の内輪に貫入固定された回転軸と、回転軸の一端に取り付けられたプーリと、前記試験軸受を挟んで前記プーリと逆方向にあって、前記回転軸が貫入固定された支持軸受と、前記試験軸受の外輪を固定するとともに絶縁体を介して基台に支持されているハウジングと、回転駆動手段と、前記回転駆動手段の回転力を前記プーリに伝達する無端ベルトとを備えた軸受試験装置において、
前記支持軸受の構成部品の少なくとも一部は絶縁体によって構成されており、外部電源の一対の端子の一方が試験軸受の外輪に、他方が前記回転軸端に設けられた曲面状凸状部に接続され、
前記試験軸受に付与する電流値を試験軸受の軌道輪と転動体との接触面積の総和で割った単位面積当たり電流密度は1.6A/mm以下としたことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項2記載の軸受試験装置は内輪、外輪および転動体で構成された試験軸受と、前記試験軸受の内輪に貫入固定された回転軸と、回転軸の一端に取り付けられたプーリと、前記試験軸受を挟んで前記プーリと逆方向にあって、前記回転軸が貫入固定された支持軸受と、前記試験軸受の外輪を固定するとともに絶縁体を介して基台に支持されているハウジングと、回転駆動手段と、前記回転駆動手段の回転力を前記プーリに伝達する無端ベルトとを備えた軸受試験装置において、
前記支持軸受の構成部品の少なくとも一部は絶縁体によって構成されており、外部電源の一対の端子の一方が試験軸受の外輪に、他方が前記回転軸に対して摺接接点にて接続され、
前記試験軸受に付与する電流値を試験軸受の軌道輪と転動体との接触面積の総和で割った単位面積当たり電流密度は1.6A/mm以下としたことを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の軸受試験装置は、前記摺接接点が、付勢部材によって前記回転軸外面に付勢摺接する少なくとも1以上のブラシによって構成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の軸受試験装置は、内輪、外輪および転動体で構成された試験軸受と、前記試験軸受の内輪に貫入固定された回転軸と、回転軸の一端に取り付けられたプーリと、前記試験軸受を挟んで前記プーリと逆方向にあって、前記回転軸が貫入固定された支持軸受と、前記試験軸受の外輪を固定するとともに絶縁体を介して基台に支持されているハウジングと、回転駆動手段と、前記回転駆動手段の回転力を前記プーリに伝達する無端ベルトとを備えた軸受試験装置において、
前記支持軸受の構成部品の少なくとも一部は絶縁体によって構成されており、外部電源の一対の端子の一方が試験軸受の外輪に、他方が前記回転軸端に設けられた曲面状凸状部に接続され、
前記試験軸受に付与する電流値を試験軸受の軌道輪と転動体との接触面積の総和で割った単位面積当たり電流密度は0.2A/mm以上0.8A/mm以下とするとともに、前記試験軸受の転動体に傷を設けたことを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の軸受試験装置は外輪温度をモニターする非接触式温度センサーを前記試験装置に設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本試験装置を採用することにより支持軸受の電食による異常振動を回避でき試験軸受の軌道輪の耐白色剥離性を精度良く評価するとともに、印加電圧を安定的に供給して試験軸受の転動体の耐白色剥離性も精度良く評価することができるようになる。また評価精度向上によりこれまで優劣の順位をつけることができなかったグリースや材料の微妙な性能差を判断することが可能となり長寿命軸受の開発に有効活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の試験装置の概略図である。
【図2】本発明の試験装置の変形例である。
【図3】図2のA矢視である。
【図4】従来の試験装置の概略図である。
【図5】表2における比較例7〜9に係る試験装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は、本軸受試験装置の一実施形態の概略図である。試験軸受1,支持軸受2が軸方向に間隔をおいて配置されている。そして、試験軸受1の回転輪である内輪1nが試験軸受1、支持軸受2共通の支持体としての軸3に一体回転可能に嵌着されている。試験軸受1の外輪1gはサブアルミハウジング4に嵌め込み、固定保持されている。そのサブアルミハウジング4は、アルミ製のハウジング5の端面に複数本の固定ピン6を打ち込むことで回り止めされている。
【0018】
また、サブアルミハウジング4には振動センサー13が取付けられており試験軸受1の振動をモニターしており、振動センサー13が取付けられていない外周面の一部に孔が設けられていて該孔よりサブアルミハウジング4に組込まれた試験軸受1の外輪外周面が露出している。
【0019】
さらに、前記軸3には、試験軸受1の外方に若干の間隔をおいて鉄製プーリ11が設けられており、無端状のV溝ベルト12を介して不図示の駆動源の回転力が伝達されるようになっている。
【0020】
絶縁体8が設けられた試験装置の基台7にはハウジング5が固定されており、支持軸受2の転動体にはセラミック材が採用されている。このため、この試験装置のサブアルミハウジング4を介した試験軸受1の外輪1g外周面と、軸3の端部に外部電源10の各電極を接続すると「外部電源プラス極→試験軸受1→軸3→外部電源マイナス極」の経路で電流が流れるようになっている。試験軸受1の外輪1g近くには非接触温度センサー9が設けられている。また、外部電源10である直流安定化電源より供給する電流値は適正値以下に設定され、試験軸受1の転動輪1tの白色剥離再現を行えるようになっている。また、試験軸受1の転動体1aを剥離再現させる場合は転動体1aに試験前に乗り上げキズを複数個付与して外部電源10により本試験装置に電流を流している。
【0021】
(軸端の接触子)
軸端面中心に曲面状の突起3aを設けて外部電源の電極端部のカーボンプレート10aを接触させることで試験軸受1から流れてきた電流を軸3から抜く回路とした。突起3aとカーボンプレート10aにより、いわゆるスリップリングを構成している。突起が軸3の中心でカーボンプレート10aと点で接触しているため、周速が限りなくゼロに近く突起3aの摩耗が起きず評価精度が良好となる。
本発明では突起3aを軸3に設けてあるがカーボンプレート10a側に設けても良い。
【0022】
さらに、図2、図3に更なる実験精度を上げる変形例を示している。該変形例では、
外部電源の電極端部と軸3との摺接接点には少なくとも1以上のブラシ20を採用し、ブラシ20を図示しない付勢部材によって軸3に摺接させ通電を確実に行わせることで、試験軸受1の白色剥離発生時間の誤差を抑制させている。ブラシ20の素材については、銀合金や銅合金、カーボン、金等、摺動に対する耐摩耗性に優れる材料を用いる事が好ましい。
【0023】
(絶縁体材料よりなる転動体を備えた支持軸受)
支持軸受の転動体が絶縁性のあるセラミック等を用いる構成にしたため、電流が支持軸受側に漏れることがなく特許文献1で問題となる支持軸受の電食による振動を回避でき良好な評価精度を得ることができる。
【0024】
(非接触式温度センサー)
一般に本試験機のように積極的に試験軸受に電流を流す方法においては、白色剥離前から電食により試験軸受の振動が大きくなっているため、異常振動による白色剥離検出の感度が鈍くなる傾向がある。本試験機のように非接触式温度センサーを付加することで、振動だけでなく試験軸受内で白色剥離して金属接触が起ることによる温度異常で白色剥離を検出可能となり、良好な評価精度が得られる。
【0025】
また、試験軸受に電流が流れているため接触式の温度センサーを用いるとセンサーを通じて電流が漏れ、周辺の電気系統を故障させる恐れがあった。本実施形態では、非接触式センサーにしてこれを回避した。
【0026】
(適正量範囲の電流を通電)
以下の実施例で示すように、試験軸受の転動体を剥離させる場合は前記電流密度を0.2〜0.8A/mmとし、軌道輪を剥離させる場合には試験軸受の転動体と軌道輪間の電流密度を1.6A/mm以下としている。
【0027】
ここで言う電流密度とは外部電源から出力される電流値を軸受諸元と荷重条件で幾何学的に決まる軌道輪と転動体との各接触部の接触楕円面積の総和で割ったものである。
【0028】
これにより、白色剥離再現に過剰電流を流し試験軸受の電食で振動が増加し白色剥離検出が困難となることや、グリース劣化による焼付きを防止して確実に白色剥離を再現することが可能となる。また、電流値のコントロールで白色剥離の再現部位を軌道輪と転動体の何れかに任意に再現が可能となる。
【0029】
(転動体に乗り上げキズ)
試験軸受の転動体を白色剥離させる場合は、転動体に新生面生成の起点をつくり白色剥離を促す。具体的には試験前に試験軸受の外輪を固定した状態で内輪をアキシャル方向に15680Nの荷重でプレスする。このプレス作業を軸受端面の両側から各10回ずつ行い、プレス毎に軸受内輪を20°程回転させて転動体の略均一箇所に分布するように乗り上げキズを設ける。
【0030】
このように前加工した試験軸受を本試験装置に用いると、試験軸受の転動体の白色剥離を再現しやすくなる。
上記の諸条件及び下記条件にて実施例および比較例についての白色剥離試験を実施し試験軸受の外輪や転動体に白色剥離が発生するまで試験を行った。
【0031】
(白色剥離試験)

接触シール付き深溝玉軸受(内径φ17mm,外径φ47mm,幅14mm)をラジアル荷重1300N、内輪回転速度10500min−1、雰囲気温度:室温の条件下で、表1に示すグリースを2.3g封入して試験を実施した。試験は軸受の初期振動値の3倍に達した時、もしくは外輪の温度が初期温度の+10℃となった時点で試験を停止し白色剥離を確認することで寿命とした。試験結果は表2に示す。なお、表2に示している試験誤差とは、同一試験装置において同一条件(電流密度及び転動体の乗り上げキズ有り無しの組合せ)の測定を3回行い、その平均値に対する各測定値のばらつきの度合いのことを表している。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
比較例7〜9は、図5に示す試験機構造をベースとして、通電に関する部位(絶縁体、±電極の位置)は図1と同様の構成にした試験機で評価した結果である。
【0035】
(試験結果)
本発明の試験装置によれば、剥離時間の試験結果が比較例では±15%以上の誤差が出ているにもかかわらず、実施例では平均値の±5%以内に収まっており測定精度の向上が見られた。本試験装置を採用することにより軌道輪の耐白色剥離性を精度良く評価するとともに、転動体の耐白色剥離性も精度良く評価することができるようになる。
また評価精度向上により、これまで優劣の順位をつけることができなかったグリースや材料の微妙な性能差を判断することが可能となり長寿命軸受の開発に有効活用できる。
【符号の説明】
【0036】
1 試験軸受
2 支持軸受
3 軸
4 サブアルミハウジング
5 ハウジング
6 固定ピン
11 プーリ
12 V溝ベルト
20 ブラシ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪、外輪および転動体で構成された試験軸受と、前記試験軸受の内輪に貫入固定された回転軸と、回転軸の一端に取り付けられたプーリと、前記試験軸受を挟んで前記プーリと逆方向にあって、前記回転軸が貫入固定された支持軸受と、前記試験軸受の外輪を固定するとともに絶縁体を介して基台に支持されているハウジングと、回転駆動手段と、前記回転駆動手段の回転力を前記プーリに伝達する無端ベルトとを備えた軸受試験装置において、
前記支持軸受の構成部品の少なくとも一部は絶縁体によって構成されており、外部電源の一対の端子の一方が試験軸受の外輪に、他方が前記回転軸端に設けられた曲面状凸状部に接続され、
前記試験軸受に付与する電流値を試験軸受の軌道輪と転動体との接触面積の総和で割った単位面積当たり電流密度は1.6A/mm以下としたことを特徴とする軸受試験装置。
【請求項2】
内輪、外輪および転動体で構成された試験軸受と、前記試験軸受の内輪に貫入固定された回転軸と、回転軸の一端に取り付けられたプーリと、前記試験軸受を挟んで前記プーリと逆方向にあって、前記回転軸が貫入固定された支持軸受と、前記試験軸受の外輪を固定するとともに絶縁体を介して基台に支持されているハウジングと、回転駆動手段と、前記回転駆動手段の回転力を前記プーリに伝達する無端ベルトとを備えた軸受試験装置において、
前記支持軸受の構成部品の少なくとも一部は絶縁体によって構成されており、外部電源の一対の端子の一方が試験軸受の外輪に、他方が前記回転軸に対して摺接接点にて接続され、
前記試験軸受に付与する電流値を試験軸受の軌道輪と転動体との接触面積の総和で割った単位面積当たり電流密度は1.6A/mm以下としたことを特徴とする軸受試験装置。
【請求項3】
前記摺接接点が、付勢部材によって前記回転軸外面に付勢摺接する少なくとも1以上のブラシによって構成されていることを特徴とする請求項2記載の軸受試験装置。
【請求項4】
内輪、外輪および転動体で構成された試験軸受と、前期試験軸受の内輪に貫入固定された回転軸と、回転軸の一端に取り付けられたプーリと、前記試験軸受を挟んで前記プーリと逆方向にあって、前記回転軸が貫入固定された支持軸受と、前記試験軸受の外輪を固定するとともに絶縁体を介して基台に支持されているハウジングと、回転駆動手段と、前記回転駆動手段の回転力を前記プーリに伝達する無端ベルトとを備えた軸受試験装置において、
前記支持軸受の構成部品の少なくとも一部は絶縁体によって構成されており、外部電源の一対の端子の一方が試験軸受の外輪に、他方が前記回転軸端に設けられた曲面状凸状部に接続され、
前記試験軸受に付与する電流値を試験軸受の軌道輪と転動体との接触面積の総和で割った単位面積当たり電流密度は0.2A/mm以上0.8A/mm以下とするとともに、前記試験軸受の転動体に傷を設けたことを特徴とする軸受試験装置。
【請求項5】
前記試験軸受の外輪温度をモニターする非接触式温度センサーを設けたことを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の軸受試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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