説明

軸合わせ機構及び自動管端溶接装置

【課題】 管端溶接作業の自動化に好ましく用いられる軸合わせ機構を提供する。
【解決手段】 軸合わせ機構14は、複数の管2と管板1とを管端溶接する溶接装置に用いられる。また、軸合わせ機構14は、溶接対象の管2の内部に挿入されかつ先端部の径が変化自在な軸合わせ用芯金治具70と、軸合わせ用芯金治具70を、溶接対象の管2の軸方向に移動させる第1駆動系(31、37、71)と、第1駆動系とは別に設けられ、軸合わせ用芯金治具70の先端部の径を変化させる第2駆動系(75、77)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所や火力発電所等において使用される熱交換器や圧力容器等の製造に用いられる管端溶接技術に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所や火力発電所あるいは石油・天然ガス精製設備等において使用される熱交換器や圧力容器の製造過程では、流体流通用の多数の管と、管支持用の板(以後、管板と称する)とを接合するための溶接作業が行われる。この溶接作業は、各管の端部外周囲と、管が挿通された管板の各孔の周縁とを周溶接(シール溶接)するものであり、管端溶接と呼ばれている。なお、石油・天然ガス精製設備で使用される圧力容器は非常に大型であり、1基当たり数万本の管の溶接が必要である。
【0003】
管端溶接では、溶接トーチの周方向の移動が自動化された装置を用いるのが一般的である(特許文献1、2参照)。この溶接装置は、モータ駆動される回転部材に溶接トーチが取り付けられた自動溶接部を備え、この自動溶接部が把持しやすい形態となっている。また、自動溶接部における溶接トーチの前方には、シャフト状の治具が突出して配設されており、この治具を溶接対象の管の内部に挿入することで、管の軸と溶接トーチの移動中心軸(回転軸)とが位置決め(軸合わせ、芯出し)されるようになっている。こうした溶接装置は、自動溶接部が約10kgと重く、自動溶接部を吊り下げ保持するために、ガイドレール機構、スプリングバランサーなどの付帯設備を併用している場合が多い。
【0004】
上記溶接装置の使用に際して、複数の管間における自動溶接部の移動、並びに各管に対する自動溶接部の位置決めは、従来、作業者の手持ち作業によって行われている。すなわち、1つの管に対する溶接が終了すると、作業者が自動溶接部を手で持ってそれを次の管まで移動させている。さらに、作業者が自動溶接部を手で持ち、軸合わせ用芯金治具を管内に挿入している。
【0005】
なお、上記軸合わせ用芯金治具は、径方向の大きさが変化する構造からなり、作業者は、レバー等を介して軸合わせ用芯金治具の大きさを適宜変化させる。具体的には、作業者は、上記軸合わせ用芯金治具を管内に挿入するときはその径を小さくし、管内に挿入した後にその径を大きくする。軸合わせ用芯金治具の径が管内で拡大することにより、イ)管が拡管され溶接部の管穴内壁と管の外面が密着される、ロ)溶接対象の管に対して自動溶接部が固定される、ハ)管の軸と溶接トーチの移動中心軸とが位置決め(軸合わせ、芯出し)される。
【特許文献1】特開2001−150132号公報
【特許文献2】特開2003−88956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動溶接部の移動や位置決めを作業者の手持ちによって行う方法は、溶接対象の管の数が非常に多いことなどから、作業者の肉体的負担が大きい。特に、軸合わせ用芯金治具の挿入の際に際しては、その治具の挿入作業に加えて、その治具の径を変化させる作業が必要であり、労力を要する。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、管端溶接作業の自動化に好ましく用いられる軸合わせ機構を提供することを目的とする。
また、本発明の別の目的は、管端溶接作業の自動化を図ることが可能な自動管端溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の軸合わせ機構は、複数の管と管板とを管端溶接する溶接装置に用いられる軸合わせ機構であって、溶接対象の管の内部に挿入されかつ先端部の径が変化自在な軸合わせ用芯金治具と、前記軸合わせ用芯金治具を、溶接対象の管の軸方向に移動させる第1駆動系と、前記第1駆動系とは別に設けられ、前記軸合わせ用芯金治具の先端部の径を変化させる第2駆動系と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この軸合わせ機構では、第1駆動系により軸合わせ用芯金治具が溶接対象の管の内部に挿入され、第2駆動系により軸合わせ用芯金治具の先端部の径が拡大され、これにより、軸合わせ用芯金治具と管の中心軸とが位置決め(軸合わせ、芯出し)される。その後、第2駆動系により先端部の径が縮小され、第1駆動系により軸合わせ用芯金治具が軸方向に移動されることにより、軸合わせ用芯金治具が溶接対象の管から取り出される。この軸合わせ機構では、第1駆動系とは別に、第2駆動系が設けられていることから、軸合わせ用芯金治具の軸方向の位置を位置決めした状態のまま、軸合わせ用芯金治具の先端部の拡大や縮小を行うことができ、管端溶接作業の自動化に好ましく用いられる。
【0010】
上記の軸合わせ機構において、前記軸合わせ用芯金治具は、筒状部材と、該筒状部材の内部でその軸方向に移動可能に支持される移動シャフトと、前記軸方向への前記移動シャフトの移動に応じて径方向に移動するスリーブとを含み、前記第2駆動系は、前記筒状部材に対して前記移動シャフトを軸方向に相対移動させるシリンダを含むとよい。
この場合、シリンダにより筒状部材に対して移動シャフトが軸方向に相対移動し、この移動に応じてスリーブが径方向に移動し、これにより、軸合わせ用芯金治具の先端部の径が拡大または縮小する。
【0011】
また、上記の軸合わせ機構において、前記溶接装置は、前記軸合わせ用芯金治具の軸を中心に周方向に溶接トーチが移動する自動溶接部を含み、前記第1駆動系は、前記軸合わせ用芯金治具とともに前記自動溶接部を、溶接対象の管の軸方向に移動させるとよい。
この場合、前記第1駆動系は、前記管板と前記自動溶接部との距離を定めるために、前記管板に当接される位置決め部を含むとよい。
位置決め部によって管板と自動溶接部との距離が管端と管板との距離によらず定まることにより、自動溶接部による溶接が良好に行われ、溶接品質の向上が図られる。
【0012】
また、前記第2駆動系は、前記シリンダの作動部材が当接され、かつ該作動部材の動きを前記移動シャフトに伝達する伝達部材を含み、前記伝達部材は、円環状に形成されているとよい。
これにより、自動溶接部の周方向の位置が変化した場合にも、作動部材の動きが確実に伝達部材を介して移動シャフトに伝達される。
【0013】
本発明の自動管端溶接装置は、複数の管と管板とを管端溶接するための装置であって、所定の回転軸を中心に周方向に溶接トーチが移動する自動溶接部と、前記複数の管の配列方向に沿って前記自動溶接部を移動させる溶接部移動機構と、前記溶接部移動機構を前記管板に取り付けるためのベースプレートと、溶接対象の管と前記自動溶接部の回転軸とを軸合わせするために、上記の軸合わせ機構と、を備えることを特徴とする。
【0014】
この自動管端溶接装置では、溶接部移動機構により、自動溶接部の移動が自動化され、軸合わせ機構により、軸合わせの自動化が図られる。また、溶接部移動機構がベースプレートを介して溶接対象本体である管板上に取り付けられることから、多関節ロボットや門型の架構を併設する技術に比べて、設備が縮小される。すなわち、この自動管端溶接装置では、コストの増大を抑制しつつ、装置の管板に対する位置決め精度の確保を容易にし、管端溶接作業の自動化を図ることができる。また、軸合わせにより、自動溶接部による溶接品質の向上が図られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の軸合わせ機構は、管端溶接作業の自動化に好ましく用いられる。
本発明の自動管端溶接装置によれば、(1)軸合わせ用芯金治具の挿入・退避動作、(2)拡管動作、を自動化することにより、管端溶接作業の自動化を容易に図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態例について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態例に係る自動管端溶接装置の要部正面図、図2は、自動管端溶接装置の要部側面図である。
なお、以下の説明においては、図1に示したXYZ直交座標系を設定している。本例では、XY平面が鉛直方向に平行な面にされている。また、符号1は管板、符号2は管板に挿通された流体流通用の管2(円管)、符号10は本例に係る自動管端溶接装置を示している。本例では、管板1の壁面は、鉛直方向に略平行であり、管板1の壁面の広い領域にわたって多数の管2が所定の配列ピッチで配設されている。
【0017】
管板1には、図2に示すように、複数の管穴1a(貫通孔)が形成されており、各管穴1aに管2が挿通されている。自動管端溶接装置10は、管2の端部外周に沿って溶接トーチを周方向に移動させることで、各管2の端部外周囲と、管板1の各管穴1aの周縁とを周溶接(シール溶接)するものである。
【0018】
本例の自動管端溶接装置10は、自動溶接部11、溶接部移動機構12、ベースプレート13、軸合わせ機構14(芯金前後駆動機構、拡管機構)、フローティング機構15、及び不図示の全体制御装置(制御盤)等を含んで要部が構成されている。なお、自動溶接部11には、不図示の溶接制御装置(溶接機)が接続されている。また、全体制御装置には、操作盤が接続されており、この操作盤を介して条件や動作パラメータ等の各種情報の入力が行われる。
【0019】
自動溶接部11は、図2に示すように、溶接トーチ30(溶接ヘッド)と、溶接トーチ30が取り付けられるブラケット31と、回転軸32を中心にブラケット31を回転させるモータ33とを含んで構成されている。モータ33が駆動され、ブラケット31が回転すると、回転軸32を中心として溶接トーチ30が周方向に移動する。溶接時においては、溶接トーチ30の先端(溶接トーチ先端)が管2の端部外周に沿って周方向に移動することにより、管2の端部外周囲と管板1の管穴1aの周縁とが連続溶接(シール溶接)される。
【0020】
溶接部移動機構12は、図1に示すように、溶接対象である複数の管2のそれぞれに対して、自動溶接部11を位置決めするものであり、X軸ガイド部40と、X軸モータ41と、Y軸ガイド部42と、Y軸モータ43とを含んで構成されている。X軸モータ41及びY軸モータ43はともにACサーボモータである。本例において、溶接部移動機構12は、自動溶接部11を移動させる範囲(稼動範囲、ストローク)が、複数の管2が配列された全体領域のうちの一部の領域(図2に示す領域3)に対応している。なお、図1では、主に領域3の内側にのみ複数の管2を描いているが、実際には、図1に示す領域3の外側の領域にも多数の管2が配置されている。
【0021】
ベースプレート13は、溶接部移動機構12を管板1に取り付けるためのものである。本例では、図1に示すように、管板1上にベースプレート13が固定され、ベースプレート13上に溶接部移動機構12におけるX軸ガイド部40が固定され、X軸ガイド部40のスライド部分にY軸ガイド部42が固定されている。また、本例では、ベースプレート13は、3つの固定治具50、51、52を介して管板1に固定されている。
【0022】
図3は、軸合わせ機構14を説明するための図である。
軸合わせ機構14は、溶接対象の管2の中心軸2aと自動溶接部11の回転軸32とを軸合わせするためのものであり、自動溶接部11における溶接トーチ30の前方に突出して配設される軸合わせ用芯金治具70(芯金)と、溶接対象の管2に対して軸合わせ用芯金治具70を挿脱移動させる駆動部としてのシリンダ71と、軸合わせに伴う自動溶接部11の移動を案内するスライドガイド部72と、軸合わせ用芯金治具70の挿脱状態を確認するための検知部73とを含んで構成されている。なお、シリンダ71は、軸合わせ用芯金治具70とともに自動溶接部11を軸方向に移動させる。また、本例では、検知部73は、シリンダ71のピストン位置を検知する近接スイッチである。
【0023】
図4は、軸合わせ用芯金治具70の構造を示す断面図である。
軸合わせ用芯金治具70は、先端部の径方向の大きさが変化する構造からなる。すなわち、軸合わせ用芯金治具70は、筒状部材80と、筒状部材80の内部でその軸方向に移動可能に支持される移動シャフトとしての引込み軸81と、筒状部材80に対して引込み軸81を尾端方向(引込み方向、図4に示す矢視a方向)に付勢するコイルばね82と、引込み軸81の先端外周で軸方向に互いに離間して配されるコーン85、86と、コーン85と86との間に配設される分割スリーブ87とを含んで構成されている。
【0024】
上記構成の軸合わせ用芯金治具70において、引込み軸81に対して外力を与えない状態では、引込み軸81がコイルばね82の付勢力によって筒状部材80に対して尾端方向(a方向)に移動する。そして、コーン85と86との距離が狭まり、コーン85、86の斜面に押されて分割スリーブ87が径方向外側に突出する。その結果、軸合わせ用芯金治具70の先端部が径方向に拡大する。一方、コイルばね82に抗して、引込み軸81に対して外力を与え、引込み軸81を筒状部材80に対してb方向に移動させると、コイル85と86との距離が広がって分割スリーブ87が重力またはスプリング88の力によって径方向内側へ移動する。その結果、軸合わせ用芯金治具70の先端部が径方向に縮小する。
【0025】
図5は、軸合わせ機構14における、軸合わせ用芯金治具70の先端部の径を変化させる構成を説明するための模式図である。
まず、自動溶接部11について説明する。前述したように、自動溶接部11では、モータ33が駆動され、ブラケット31が回転すると、回転軸32を中心として溶接トーチ30が周方向に移動する。モータ33の回転シャフト34の同軸上かつ先端に、上記軸合わせ用芯金治具70が配設されており、回転シャフト34と軸合わせ用芯金治具70とはベアリングを介して相対的に回転自在な関係にある。モータ33の取り付けベース35には、軸合わせ用芯金治具70を支持するための支持アーム36が取り付けられており、この支持アーム36には、管板1と自動溶接部11(溶接トーチ30)との距離を定めるために、管板1に当接される位置決めピン37が取り付けられている。前述したように、自動溶接部11(溶接トーチ30、ブラケット31、モータ33等)及び軸合わせ用芯金治具70はともに、シリンダ71によって軸方向(Z方向)に移動される。なお、本発明における第1駆動系は、シリンダ71、ブラケット31、位置決めピン37等を含んで構成される。
【0026】
軸合わせ機構14は、上記シリンダ71とは別に、軸合わせ用芯金治具70の先端部の径を変化させるための複数のシリンダ75(本例では2つ)を有している。シリンダ75は、モータ33の取り付けベース35に固定されており、流体制御により、作動部材76(ピストンシャフト)が往復動する構成からなる。モータ33の回転シャフト34には、伝達リング77(拡管リング)が配されており、シリンダ75の作動部材76の動きは、この伝達リング77を介して軸合わせ用芯金治具70の引込み軸81に伝達されるようになっている。なお、本発明における第2駆動系は、シリンダ75、伝達リング77等を含んで構成される。
【0027】
図6は、伝達リング77を説明するための図である。
伝達リング77は、全体が円環状に形成されるとともに、ベアリング78等を介して回転シャフト34に対して摺動自在に配されている。前述したシリンダ75の作動部材76は、伝達リング77の円環部分に当接される。伝達リング77が円環状に形成されていることにより、回転シャフト34の回転に伴って伝達リング77が回転した場合にも、作動部材76と伝達リング77との当接が確実になされる。
【0028】
図5に戻り、軸合わせ機構14では、、軸合わせ用芯金治具70の先端部を縮小させるとき(縮小状態)、シリンダ75の作動部材76を突出させる。すなわち、シリンダ75の作動部材76が突出することにより、伝達リング77を介して軸合わせ用芯金治具70の引込み軸81がb方向に移動する。そして、引込み軸81のb方向の移動により、軸合わせ用芯金治具70の先端部が径方向に縮小する。
【0029】
一方、軸合わせ機構14では、軸合わせ用芯金治具70の先端部を拡大させるとき(拡大状態)、シリンダ75の作動部材76を引込ませる。すなわち、シリンダ75の作動部材76が引込むことにより、軸合わせ用芯金治具70の引込み軸81に対してb方向の外力が加わらなくなり、コイルばね82(図4参照)の付勢力によって引込み軸81がa方向に移動する。そして、引込み軸81のa方向の移動により、軸合わせ用芯金治具70の先端部が径方向に拡大する。
【0030】
ここで、軸合わせ用芯金治具70の先端部の径を変化させる際、シリンダ71は、自動溶接部11及び軸合わせ機構14を管板1に押し付けた状態にある。すなわち、軸合わせ用芯金治具70の軸方向(Y方向)の位置を位置決めした状態のまま、シリンダ75を介して、軸合わせ用芯金治具70の先端部の拡大や縮小が行われる。このように、本例の軸合わせ機構14では、軸合わせ用芯金治具70の軸方向への移動用のシリンダ71とは別に、先端部拡大・縮小用のシリンダ75が設けられていることにより、溶接対象の管2の中心軸2aと自動溶接部11の回転軸32との軸合わせの自動化が実現されている。
【0031】
また、自動溶接部11による溶接を行う際にも、シリンダ71は、自動溶接部11及び軸合わせ機構14を管板1に押し付けた状態にある。このとき、管板1と自動溶接部11(溶接トーチ30)との距離は、位置決めピン37によって定められた一定の距離に維持される。位置決めピン37によって管板1と自動溶接部11(溶接トーチ30)との距離が一定に維持されることにより、自動溶接部11による溶接が良好に行われ、溶接品質の向上が図られる。
【0032】
図7は、フローティング機構15を説明するための図である。
フローティング機構15は、自動溶接部11の位置または姿勢のずれを吸収するものであり、Y軸ガイド部42のスライド部分に取り付けられたベース90上で自動溶接部11をY方向に移動自在に案内するY軸サブガイド部91と、Y軸サブガイド部91のスライド部分に取り付けられたベース92上で自動溶接部11をX方向に移動自在に案内するX軸サブガイド部93とを含んで構成されている。Y軸サブガイド部91を介した自動溶接部11のY方向の基準位置がモータ94によって規定され、X軸サブガイド部93を介した自動溶接部11のX方向の基準位置が不図示のエアシリンダによって規定されている。自動溶接部11は、通常(無負荷状態)は、上記各基準位置にある。位置や姿勢のずれを生じさせるような無理な力が自動溶接部11にかかると、各サブガイド部91、93に案内されて不図示のエアシリンダによって供給される圧力により均衡を保つため自動溶接部11が微動あるいは姿勢(配設角度)がわずかに変化する。これにより、動作不良が抑制される。例えば、先の図3で示した管2の内部に軸合わせ用芯金治具70を挿入する場合において、挿入当初は軸芯が一致していなくても、フローティング機構15を介して自動溶接部11の位置及び姿勢が調整されることで、上記挿入が滑らかに行われる。つまり、軸合わせ動作の自動化に際して、動作安定性の向上が図られる。
【0033】
次に、上記構成の自動管端溶接装置10を用いた管端溶接方法について説明する。
本例の自動管端溶接装置10では、管端溶接を開始するにあたって、まず、上述した管板1に対するベースプレート13の固定を行う。この固定作業はオペレータ(作業者)によって行われ、必要に応じて運搬装置が用いられる。なお、ベースプレート13には、すでに溶接部移動機構12が取り付けられているものとする。ベースプレート13が管板1に固定されると、所定の条件設定がなされた後、全体制御装置16の指示に基づく自動運転を開始する。
【0034】
図8は、自動運転の手順を説明するためのフローチャートである。
全体制御装置16は、まず、原点復帰を実行し(ステップ100)、それが終了すると自動シーケンスを開始する(ステップ101)。そして、溶接部移動機構12を介して自動溶接部11を複数の管2の配列方向であるXY方向に移動させ、溶接対象の最初の管2に対応する溶接位置(溶接開始位置)に位置決めする(ステップ102、103)。
【0035】
続いて、全体制御装置16は、溶接対象の管2に対して、フローティング機構15におけるY方向(上下方向)の基準位置を規定する(ステップ104、105、106)。この位置規定は、溶接対象の管2の中心に自動溶接部11の回転軸32が位置するように、モータ94により自動溶接部11をY方向に微動させることにより行われる。
【0036】
次に、全体制御装置16は、自動溶接部11の軸合わせを行う(ステップ107、108、109)。すなわち、全体制御装置16は、自動溶接部11(溶接トーチ30)とともに、先端部の径を小さくした軸合わせ用芯金治具70(図3、図4参照)を管2の内部に挿入する(ステップ107)。このとき、軸合わせ用芯金治具70の挿入の完了は、検知部73を介して確認される(ステップ108)。仮に、挿入完了が確認されない場合、全体制御装置16は、軸合わせ用芯金治具70の挿入動作をリトライしたりあるいはアラームを報知したりする。そして、挿入完了が確認されると、全体制御装置16は、軸合わせ用芯金治具70の先端の径を大きくする(ステップ109)。軸合わせ用芯金治具70の径が管2の内部で拡大することにより、その管2に対して自動溶接部11が位置決めされるとともに、管2が拡管され、溶接部の管穴1a内壁と管2の外面が密着され、管2の軸2aと自動溶接部11の回転軸32(溶接トーチ30の移動中心軸)とが軸合わせされる。
【0037】
次に、全体制御装置16は、自動溶接部11によって管端溶接を行う(ステップ110)。すなわち、全体制御装置16は、溶接制御装置20を制御して溶接トーチ30を溶接可能な状態にならしめた上で、モータ33の駆動によってブラケット31を回転させて溶接トーチ30を周方向に移動させる。溶接トーチ30が管2の端部外周に沿って周方向に移動することにより、管2の端部外周囲と管板1の管穴1aの周縁とが連続溶接(シール溶接)される。
【0038】
1つの管2に対する管端溶接が終了すると、全体制御装置16は、管2から軸合わせ用芯金治具70(図3、図4参照)を離脱させる(ステップ111、112、113)。すなわち、全体制御装置16は、軸合わせ用芯金治具70の先端部の径を小さくした後(ステップ111)、自動溶接部11(溶接トーチ30)とともに、軸合わせ用芯金治具70を管2の内部から取り出す(ステップ112)。このとき、軸合わせ用芯金治具70の離脱の完了は、検知部73を介して確認される(ステップ113)。
【0039】
続いて、全体制御装置16は、溶接後の管2に対して、自動溶接部11のY方向(上下方向)の位置調整を行う(ステップ114、115)。この位置調整は、次の溶接対象の管2までの移動に備えて基準位置を調整するものであり、モータ94により自動溶接部11をY方向に微動させた後(ステップ114)、フローティング機構15におけるY方向及びX方向の位置をロックする(ステップ115)。
【0040】
次に、全体制御装置16は、次の溶接対象の管2の溶接位置に自動溶接部11を移動させる(ステップ116)。そして、上記一連の動作の繰り返しにより、溶接部移動機構12における稼動範囲内(領域3)におけるすべての管2に対して管端溶接を順次行う。
【0041】
なお、稼動範囲内(領域3)のすべての管2に対する管端溶接が終了すると、管板1における次の領域に対して溶接部移動機構12の取り付け位置の変更を行う。すなわち、溶接部移動機構12が取り付けられているベースプレート13を管板1から取り外し、次の位置に取り付ける。この段取り替え作業は、オペレータ(作業者)によって行われ、必要に応じて運搬装置が用いられる。その後、再び自動運転を開始し、次の領域の複数の管2のそれぞれに対して管端溶接を行う。
【0042】
以上説明したように、本例の自動管端溶接装置10を用いた管端溶接では、複数の管2間における自動溶接部11の移動並びに各管2に対する自動溶接部11の位置決め(軸合わせ)の自動化を実現している。特に、本例では、自動溶接部11の稼動範囲を限定し、その限定された範囲(領域3)ごとに管端溶接の自動運転を行うことから、自動化実現のための設備の大型化が抑制される。その結果、本例の自動管端溶接装置10では、管端溶接作業の自動化により作業労力や作業時間の低減を図りつつ、自動化に伴うコストの増大を抑制すると共に、管板1に対する自動溶接部11の位置決め精度を確保することができる。
【0043】
なお、上記例では、自動溶接部11のXY方向の移動をACサーボモータ(X軸モータ41、Y軸モータ43)を用いて行っているが、他のアクチュエータ、例えばシリンダにより行ってもよい。
【0044】
また、1つの全体制御装置16によって複数の自動溶接部11を制御するようにしてもよい。すなわち、管板1に複数の自動溶接部11を移動自在に取り付け、それらを1つの全体制御装置16によって制御する。この場合、操作盤で複数の自動溶接部11を操作するようにするとよい。これにより、構成の簡素化、作業時間の短縮化、及び作業者の省人化が図られる。
【0045】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本実施の形態例に係る自動管端溶接装置の要部正面図である。
【図2】自動管端溶接装置の要部側面図である。
【図3】軸合わせ機構を説明するための図である。
【図4】軸合わせ用芯金治具の構造を示す断面図である。
【図5】軸合わせ機構における、軸合わせ用芯金治具の先端部の径を変化させる構成を説明するための模式図である。
【図6】伝達リング(伝達部材)を説明するための図である。
【図7】フローティング機構を説明するための図である。
【図8】自動運転の手順を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0047】
1…管板、2…管、1a…管穴、10…自動管端溶接装置、11…自動溶接部、12…溶接部移動機構、13…ベースプレート、14…軸合わせ機構、15…フローティング機構、30…溶接トーチ、31…ブラケット(第1駆動系)、32…回転軸、33…モータ、37…位置決めピン(第1駆動系)、40…X軸ガイド部、41…X軸モータ、42…Y軸ガイド部、43…Y軸モータ、50、51、52…固定治具、70…軸合わせ用芯金治具、71…シリンダ(第1駆動系)、72…スライドガイド部、73…検知部、75…シリンダ(第2駆動系)、76…作動部材、77…伝達リング(伝達部材、第2駆動系)、91…Y軸サブガイド部、93…X軸サブガイド部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の管と管板とを管端溶接する溶接装置に用いられる軸合わせ機構であって、
溶接対象の管の内部に挿入されかつ先端部の径が変化自在な軸合わせ用芯金治具と、
前記軸合わせ用芯金治具を、溶接対象の管の軸方向に移動させる第1駆動系と、
前記第1駆動系とは別に設けられ、前記軸合わせ用芯金治具の先端部の径を変化させる第2駆動系と、を備えることを特徴とする軸合わせ機構。
【請求項2】
前記軸合わせ用芯金治具は、筒状部材と、該筒状部材の内部でその軸方向に移動可能に支持される移動シャフトと、前記軸方向への前記移動シャフトの移動に応じて径方向に移動するスリーブとを含み、
前記第2駆動系は、前記筒状部材に対して前記移動シャフトを軸方向に相対移動させるシリンダを含むことを特徴とする請求項1に記載の軸合わせ機構。
【請求項3】
前記溶接装置は、前記軸合わせ用芯金治具の軸を中心に周方向に溶接トーチが移動する自動溶接部を含み、
前記第1駆動系は、前記軸合わせ用芯金治具とともに前記自動溶接部を、溶接対象の管の軸方向に移動させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の軸合わせ機構。
【請求項4】
前記第1駆動系は、前記管板と前記自動溶接部との距離を定めるために、前記管板に当接される位置決め部を含むことを特徴とする請求項3に記載の軸合わせ機構。
【請求項5】
前記第2駆動系は、前記シリンダの作動部材が当接されかつ該作動部材の動きを前記移動シャフトに伝達する伝達部材を含み、
前記伝達部材は、円環状に形成されていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の軸合わせ機構。
【請求項6】
複数の管と管板とを管端溶接するための装置であって、
所定の回転軸を中心に周方向に溶接トーチが移動する自動溶接部と、
前記複数の管の配列方向に沿って前記自動溶接部を移動させる溶接部移動機構と、
前記溶接部移動機構を前記管板に取り付けるためのベースプレートと、
溶接対象の管と前記自動溶接部の回転軸とを軸合わせするために、請求項1から請求項5のいずれかに記載の軸合わせ機構と、を備えることを特徴とする自動管端溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−75870(P2006−75870A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262985(P2004−262985)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【出願人】(591146697)愛知産業株式会社 (19)
【Fターム(参考)】