説明

軸封装置

【課題】
軸偏芯、軸の前後運動に対しても有効なシール性を備え、リップシールとラビリンスシールの利点を併せ持った新規な概念の軸封装置を提案し、つまり回転シャフトの周速度が低速から高速までシール性に優れ、接触シール部材の摩耗損傷が発生しても、一気に致命的なシール性低下に繋がらない軸封装置を提供する。
【解決手段】
弾性記憶特性を備えた合成樹脂で作製され、回転シャフト1の直径よりも大きな中心孔6を有する偏平円板状のシール板5の外周部を環状保持部7に固定したシール体3と、回転シャフトに外挿固定する本体部8の一部に、半径方向外側になるにつれて被封止物と反対側へ傾斜した摺動面9を有するスリーブ4とからなり、シール体の環状保持部をケーシング2に取付け、被封止物と反対側からスリーブの摺動面がシール板の内周部に接触するように回転シャフトに固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般産業用機械、ブロアー、ポンプ等の回転・揺動軸の軸封装置に係わり、更に詳しくは回転・揺動シャフトから作動流体の漏洩又は外部からのダスト、ミスト、粉体の侵入を防止し、周速度が低速から高速まで使用可能な軸封装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、回転シャフトとケーシングの間を作動流体に対してシールする軸封装置として、接触型シールと非接触型シールがあり、接触型シールには接触型メカニカルシールやリップシールがあり、非接触型シールには非接触型メカニカルシールやラビリンスシールがある。メカニカルシールは、高圧の軸封が可能であるが、非常に高価であるとともに、設置のためのスペースが大きいという問題があり、使用環境に応じてリップシールあるいはラビリンスシールが単独で又は組み合わせて使用されることが多い。一般的に、リップシールは、比較的低周速で高シール性の用途に向き、ラビリンスシールは、高周速で比較的低シール性の用途に向いている。
【0003】
ここで、作動流体がガスの場合は無潤滑状態のシールとなり、非接触型のラビリンスシールが使用され、作動流体が液体の場合は潤滑状態のシールとなり、リップシール、オイルシール、パッキン等の接触型シールが用いられるが、両シールとも軸振れ追随性が乏しい。
【0004】
ラビリンスシールは、作動流体が狭い隙間と広い空間とを繰り返し通過することにより、圧力損失を生じさせて漏れを減少させる原理を利用しているため、ある程度の漏れは許容される用途、例えばターボチャージャーやブロアー等の高周速回転、あるいは揺動するシャフトのシールとして使用する。この漏れ量を減少させるために、隙間を極小にする工夫や複雑な流路にする工夫がなされているが、シール性、軸の収縮・膨張・軸振れに対する追随性に乏しい。金属製ラビリンスシールは、軸とのメタルタッチを防ぐために、軸間に隙間を設け、あるいは樹脂コート、樹脂スリーブを設ける必要がある。樹脂製ラビリンスシールでは、初期に軸に接触させることでシール部分を摩耗させ、最適なクリアランスにすることが行われている。接触型シールは、軸芯変動等により、シールの負荷が増加し、シール漏れ、シールの破損が起こることがある。
【0005】
特許文献1には、中央部に円孔を有する四フッ化エチレン樹脂製の円板状シール部材の外周部を保持環に固定するとともに、該円板状シール部材の内周部を軸方向に癖付けしてリップ部を形成したリップシールが記載されている。ここで、リップシール基材として、四フッ化エチレン樹脂にグラファイト粉末やカーボン繊維を適量充填したものを用い、耐摩耗性、耐圧性、耐熱性を改善している。
【0006】
特許文献2には、ロータの外周に金属製のフィンの先端を微小間隙を介して対向させたラビリンスシールにおいて、前記微小間隙が基本的なシーリング性能を達成する値となるように前記フィンを形成し、前記フィンの先端を含む表面にフッ素系樹脂の薄い被覆膜を形成したことを特徴とする流体機械のラビリンスシールが記載されている。例えば、ロータは、直径が200mmで100m/sの周速度で回転し、フィン部材は、5mmのピッチで並べた5枚の5mmの高さフィンを有し、各フィンの先端は微小な対向間隙180μmを介在させて前記ロータの外周面に対向している。
【0007】
軸偏芯が大きい場合、従来のラビリンスシールではメタルタッチが発生するので、これを避けるためにはシャフトとのクリアランスを大きくする必要があり、その結果漏れを大きく許容しなければならない。また、熱膨張等によるシャフトの前後運動に対しても追随性がない。更に、近年、機械の高速化が進んでおり、従来の接触型シールでは、速度、軸振れへ対応することができない。
【特許文献1】特公平2−38832号公報
【特許文献2】特願2001−129038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、軸偏芯、軸の前後運動に対しても有効なシール性を備え、リップシールとラビリンスシールの利点を併せ持った新規な概念の軸封装置を提案するものであり、つまり回転シャフトの周速度が低速から高速までシール性に優れ、接触シール部材の摩耗損傷が発生しても、一気に致命的なシール性低下に繋がらない軸封装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前述の課題解決のために、回転シャフトとケーシングの間をシールする軸封装置であって、弾性記憶特性を備えた合成樹脂で作製され、前記回転シャフトの直径よりも大きな中心孔を有する偏平円板状のシール板の外周部を環状保持部に固定したシール体と、前記回転シャフトに外挿固定する本体部の一部に、半径方向外側になるにつれて被封止物と反対側へ傾斜した摺動面を有するスリーブとからなり、前記シール体の環状保持部を前記ケーシングに取付け、被封止物と反対側から前記スリーブの摺動面が前記シール板の内周部に接触するように前記回転シャフトに固定することを特徴とする軸封装置を構成した(請求項1)。
【0010】
ここで、前記環状保持部に複数のシール板を軸方向に間隔を隔てて固定したシール体と、各シール板に対応した傾斜摺動面を軸方向に間隔を隔てて設けたスリーブとからなることも好ましい(請求項2)。
【0011】
そして、前記スリーブを回転シャフトに固定する軸方向位置で前記摺動面に対するシール板の接触面圧を調節してなることが好ましい(請求項3)。
【0012】
具体的には、前記シール板の厚さが0.3〜1.5mmであり、該シール板の内周部に前記スリーブの摺動面が接触してから該シール板の厚みの0.5〜10倍だけ該スリーブを被封止物側へ変位させて固定してなるのである(請求項4)。
【0013】
また、前記シール板の内周部と前記スリーブの摺動面との接触幅が0.5〜5.0mmである(請求項5)。
【0014】
更に、前記スリーブの摺動面の半径方向に対する傾斜角度が0〜45°であり、好ましくは10〜30°である(請求項6)。
【0015】
そして、前記スリーブの摺動面の被封止物と反対側に円筒面を連続的に形成してなることがより好ましい(請求項7)。
【0016】
また、前記シール体の環状保持部の一部若しくは該環状保持部に固定したリング板と、前記スリーブの外周面若しくは前記回転シャフトの外周面との間隔を極小に設定し、ラビリンスシール機能を付与してなることも好ましい(請求項8)。
【発明の効果】
【0017】
以上にしてなる請求項1の軸封装置によれば、ケーシングに環状保持部を取付けたシール体のシール板の内周部に、被封止物と反対側から前記回転シャフトに固定した前記スリーブの傾斜摺動面が接触しているので、弾性記憶特性を有するシール板の内周部があたかも接触型リップシールのリップ部のように作用して、作動流体に対して従来のラビリンスシールよりも高いシール性を確保することができるにも係わらず、傾斜した摺動面とシール板の内周部との接触面圧は低いので、回転シャフトの周速度が速くても摩擦熱の発生を抑制し、摩耗量も抑制できるので、リップシールのようにラビリンスシールよりも高いシール性を維持することができるのである。また、常にシール板の内周部がスリーブの傾斜摺動面に接触しているので、ダスト等の固体や潤滑油のシールとしても使用可能であり、更に回転シャフトの周速度が遅くても優れたシール性を有し、また停止した場合に多少の負圧が発生してもシール性を維持できるのである。そして、シール板の内周部とスリーブの摺動面との摺動形態がスラスト摺動となり、軸振れや軸偏芯に柔軟に対応できるため、従来のシールに比べ軸振れ・偏芯への許容値が大きく、更に軸方向の変位や熱膨張にも追随可能である。また、スリーブを回転シャフトに外挿固定するので、既存の回転シャフトを追加工する必要がなく、また使用条件、耐熱性、耐薬品性、耐久性に合わせて、シール材とスリーブ材を回転シャフトに関係なく選定することができる。
【0018】
請求項2によれば、前記環状保持部に複数のシール板を軸方向に間隔を隔てて固定したシール体と、各シール板に対応した傾斜摺動面を軸方向に間隔を隔てて設けたスリーブとからなる場合には、シール板と摺動面との複数対で多重にシールするので、更にシール性は高くなる。
【0019】
請求項3によれば、前記スリーブを回転シャフトに固定する軸方向位置で前記摺動面に対するシール板の接触面圧を調節してなるので、接触面圧を使用環境に応じて容易に調節することができる。
【0020】
請求項4によれば、前記シール板の厚さが0.3〜1.5mmであり、該シール板の内周部に前記スリーブの摺動面が接触してから該シール板の厚みの0.5〜10倍だけ該スリーブを被封止物側へ変位させて固定してなるので、回転シャフトの直径が大きくなるのに応じてシール板の厚さを厚くしてシール性を確保し、該シール板の内周部とスリーブの摺動面との接触面圧を、シール板の厚さを基準として設定することができ、その調節は該シール板の内周部に前記スリーブの摺動面が接触してからのスリーブの軸方向変位量で確認することができる。
【0021】
請求項5によれば、前記シール板の内周部と前記スリーブの摺動面との接触幅が0.5〜5.0mmであるので、回転シャフトの直径が大きくなるのに応じて接触幅を大きくすることでシール性を確保できる。
【0022】
請求項6によれば、前記スリーブの摺動面の半径方向に対する傾斜角度が0〜45°であり、好ましくは10〜30°であるので、回転シャフトの外周面を直接リップ部で緊迫するリップシールよりは遥かに接触面圧を低くすることができ、速い周速度でも摩擦熱の発生を抑制するとともに、摩耗量も抑制できるので、十分な耐久性を備えたものとなる。
【0023】
請求項7によれば、前記スリーブの摺動面の被封止物と反対側に円筒面を連続的に形成してなるので、長時間の運転によりシール板の内周部が摩滅してスリーブの摺動面に接触しない状態になっても、該摺動面に連続する円筒面とシール板の内周部が接触するか若しくは微小な間隙で接近するので、この部分で新たにラビリンスシールが構成され、最低限のシール性が確保でき、予期しない作動流体の急激な漏れを防止することができ、致命的なシール性の低下がない。
【0024】
請求項8によれば、前記シール体の環状保持部の一部若しくは該環状保持部に固定したリング板と、前記スリーブの外周面若しくは前記回転シャフトの外周面との間隔を極小に設定し、ラビリンスシール機能を付与してなるので、シール板の内周部とスリーブの摺動面のシール性が損なわれた際にも作動流体の漏れを最小限に抑制することができ、急激な作動流体の漏れによる機器の不具合を未然に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明の詳細を実施形態に基づいて説明する。図1は本発明の軸封装置の概念図を示し、図2は軸振れや軸移動が発生した場合の追随性を説明する説明図であり、図中符号1は回転シャフト、2はケーシング、3はシール体、4はスリーブをそれぞれ示している。
【0026】
本発明の軸封装置は、回転シャフト1とケーシング2の間をシールする軸封装置であって、弾性記憶特性を備えた合成樹脂で作製され、前記回転シャフト1の直径よりも大きな中心孔6を有する偏平円板状のシール板5の外周部を環状保持部7に固定したシール体3と、前記回転シャフト1に外挿固定する本体部8の一部に、半径方向外側になるにつれて被封止物と反対側へ傾斜した摺動面9を有するスリーブ4とからなり、前記シール体3の環状保持部7を前記ケーシング2に取付け、被封止物と反対側から前記スリーブ4の摺動面9が前記シール板5の内周部に接触するように前記回転シャフ1トに固定した構造のものである。
【0027】
通常は、ケーシング2の内部にはガスや液体からなる作動流体があり、その作動流体が外部(軸方向外方)に漏れるのを軸封装置で防ぐのである。この場合には、作動流体が被封止物となり、被封止物と反対側とは軸方向外側を意味する。ここで、被封止物側とは、軸封装置によって封止する対象物の側である。また、軸受に使用した潤滑油がケーシング2の内部に侵入するのを防ぐために、軸受とケーシング2の内部との間に軸封装置を設ける場合には、潤滑油が被封止物となり、被封止物と反対側とは軸方向内側を意味する。また、ケーシング2の内部又は軸受に大気中ダストが侵入するのを防ぐために、軸方向外側に軸封装置を設ける場合には、ダストが被封止物となり、被封止物と反対側とは軸方向内側を意味する。本実施形態では、ケーシング2の内部の作動流体が外部に漏洩するのを防止するために軸封装置を用いる。従って、図1において左側がケーシング2の内部であり、右側が外部である。
【0028】
具体的には、前記シール板5の材料としては、弾性記憶特性を有する樹脂でPTFEあるいは超高分子量PE等のベース材に、カーボン、グラファイト、二硫化モリブデン等の固体潤滑材やガラス繊維、カーボン繊維等の強化材を充填したものを用いる。また、前記スリーブ4の材料としては、炭素鋼、ステンレス鋼、Cu系等の金属材又は繊維強化樹脂を用いる。上記材料であれば組み合わせを問わず、湿度、耐食性等の使用環境に合わせて選択する。
【0029】
本実施形態では、前記シール板5としてPTFEにカーボンとカーボン繊維を充填したものを用い、スリーブ4としてS45Cを用いた。前記シール板5は、前述のシール材を円筒状に成形し、それを所定幅でスライスして作製する。ここまでは、リップシールのシール部材の製法と同じであるが、本発明では平板状のまま使用する。つまり、リップシールのようにリップ部を軸方向に癖付け加工することはない。また、前記シール板5と環状保持部7との関係において、両者が別部材でシール板5の外周部を環状保持部7に気密状態で固定する構造や、シール板5と環状保持部7が一体物で、合成樹脂製の一体成形、あるいはブロックからの研削によって作製した構造がある。
【0030】
そして、前記シール板5の厚さが0.3〜1.5mmであり、前記スリーブ4の摺動面9の半径方向に対する傾斜角度θが0〜45°であり、好ましくは10〜30°である。また、前記シール板5の内周部と前記スリーブ4の摺動面9との接触幅Wを0.5〜5.0mmとした。
【0031】
シール板5の厚さが0.3mmより小さいと、機械的強度が弱く、十分な弾性復元性が得られず、所望のシール性を確保することが困難である。シール板5の厚さが1.5mmより大きいと、剛性が強くなり、シール板5と強く擦れ合うため摩擦熱の発生量や摩耗量が増えたり、軸振れや軸移動に対する追随性が低下したりするので好ましくない。また、摺動面9の傾斜角度θは、原理的に0〜45°であれば良いが、実用的には10〜30°の範囲で設定する。摺動面9の傾斜角度θが10°より小さいと、十分な接触面圧を得ることが難しく、また軸移動に対しての許容範囲が狭くなり、傾斜角度θが30°より大きいと、十分な接触面圧を確保できるものの、軸振れに対してシール板5の内周部と強く擦れ合うので摩耗量が増えるので好ましくない。また、シール板5の内周部と摺動面9との接触幅Wは、回転シャフト1の直径の増加に比例して広くするが、通常は接触幅Wを0.5〜5.0mmとする。接触幅Wが0.5mmより小さいと、十分なシール性が得られず、また5.0mmより大きいと、摩擦熱の発生量が増えたり、軸振れや軸移動の際に接触状態に偏りが生じて好ましくない。
【0032】
例えば、回転シャフト1の直径が65mmφの場合、シール板5の厚みを1.2mm、スリーブ4の摺動面9の傾斜角度θを30°とする。また、回転シャフト1の直径が30mmφの場合、シール板5の厚みを0,8mm、スリーブ4の摺動面9の傾斜角度θを20°とする。
【0033】
本発明の軸封装置を所定位置に組み付けるには、図1に示すように、前記シール体3の環状保持部7をケーシング2の環状段部10に密嵌するとともに、該ケーシング2にネジ止めした固定金具11で前記環状保持部7を押圧保持する。それから、前記スリーブ4を回転シャフト1の被封止物と反対側からスライドさせて、前記シール板5の内周部に前記スリーブ4の摺動面9が接触させる。この位置から更に前記シール板5の厚みの0.5〜10倍だけ前記スリーブ4を被封止物側へ変位させて固定する。このスリーブ4の移動量でシール板5の内周部とスリーブ4の摺動面9との接触面圧を調整する。実際には、前記シール体3の環状保持部7とスリーブ4の相対位置を正確に設定できるように、専用のゲージを用いることが好ましい。尚、前記スリーブ4を回転シャフト1に固定するには、該スリーブ4に半径方向から螺合し貫通したネジを該回転シャフト1の外周面に圧接する。
【0034】
また、シール性が重要視される用途では、前記スリーブ4の内周面にOリングを装着し、前記回転シャフト1の外周面に圧接して、スリーブ4を回転シャフト1の間の漏洩を防止する。前記スリーブ4が合成樹脂製の場合には、該スリーブ4の摺動面9とは反対側の内周部にリップ部を一体形成してダストシールを構成し、該リップ部を回転シャフト1の外周面に圧接してダストの侵入を防止することが可能である。
【0035】
更に本発明では、前記スリーブ4の摺動面9の被封止物と反対側に円筒面12を連続的に形成している。長時間の運転により、前記シール板5の内周部が不可避的に摩滅し、もはや前記摺動面9と接触しなくなった場合でも、該シール板5の弾性復元性によって、摩滅したシール板5の内周部が前記円筒面12の外周に位置し、該円筒面12と軽微に接触又は微小間隙を有して非接触となり、従来と同様のラビリンスシールを構成するようになる。それにより、前記シール板5が摩滅しても作動流体の致命的な漏洩を防ぐことができる。
【0036】
本発明の軸封装置の軸振れ、軸移動に対する追随性を図2に基づいて説明する。図2(a)及び(b)は軸振れが生じた場合を示し、(a)は回転シャフトが下方へ変位した場合、(b)は回転シャフトが上方へ変位した場合を示し、何れの場合も常にシール板5の内周部とスリーブ4の摺動面9が接触した状態を保ち、シール性を確保している。また、図2(c)及び(d)は軸移動が生じた場合を示し、(c)は回転シャフトが被封止物と反対側へ変位した場合,(d)は回転シャフトが被封止物側へ変位した場合を示し、何れの場合も常にシール板5の内周部とスリーブ4の摺動面9が接触した状態を保ち、シール性を確保している。尚、図2は、回転シャフトの変位を誇張して表現しているが、実際の変位は約1mm以下であるが、偏芯や軸振れの影響で2mm以上の変位がある場合もあり、その場合にも本発明は良好なシール性を確保できる。
【0037】
更に具体的な軸封装置の第1実施形態を図3に基づいて説明する。前記シール体3は、前記シール板5の外周部を、合成樹脂製の環状保持部7の成形時にインサート成形によって一体化するが、その際にシール板5の前後に環状の第1リング板13と第2リング板14で挟んで同時に環状保持部7で保持する。第1リング板13は、前記シール板5と略同形の板状部材であり、中心孔15の直径はシール板5の中心孔6よりも大きく設定している。また、前記第2リング板14の中心孔16の直径は、前記回転シャフト1の外周面と一定のクリアランスを確保できる大きさに設定し、基部は軸方向に厚みを有し、前記シール板5の半径方向内方部分との間に空間部17が形成されるようになっている。また、前記環状保持部7には、前記ケーシング2へ直接ネジ止めするための取付孔18,…を複数形成している。一方、前記スリーブ4は、本体部8の被封止物側端に前記摺動面9を形成し、それに連続して円筒面12を形成し、本体部8の被封止物と反対側部分には前記円筒面12に対して段部を設けて拡径部19を形成し、該拡径部19に半径方向へ貫通した螺孔20を形成し、該螺孔20に螺合したネジ21を前記回転シャフト1の外周面に圧接して固定できるようになっている。
【0038】
図3に示すように、前記シール体3をケーシング2に取付け、前記スリーブ4を回転シャフト1に固定した状態で、前記第1リング板13の内周部は前記スリーブ4の拡径部19の段部近傍で、前記円筒面12との間に微小なクリアランスを有して位置し、前記第2リング板14の内周部は前記回転シャフト1の外周面との間に微小なクリアランスを有して位置し、そして前記シール板5の内周部は前記摺動面9に軽微に接触している。この場合、前記シール板5と摺動面9との接触によって良好なシール性を有するが、本実施形態では更に前記第1リング板13と第2リング板14及び空間部17によりラビリンスシールを構成し、前記シール板5に対する負荷を減らし、更にシール性の信頼度を高めている。
【0039】
本実施形態の場合も、図4に示すように、前記シール板5の内周部が摩滅した場合、前記シール板5は摺動面9から離れて前記第1リング板13と略平行になり、円筒面12との間でラビリンスシールを構成するようになる。ここで、前記シール板5の内周部と摺動面9との接触面圧は、前記第1リング板13にスリーブ4の拡径部19の段部が接触する位置を基準として設定できる。
【0040】
図5は、図3の構造の軸封装置を軸方向に二つタンデムに配置した使用例を示している。更に多数の軸封装置をタンデムの配置することができ、その個数は要求されるシール性及びその信頼度によって適宜選択できる。図5において、符号22は各環状保持部7の取付孔18を貫通してまとめてケーシング2に取付けるボルトである。
【0041】
図6は、本発明の軸封装置の第2実施形態を示し、前記シール体3に二枚のシール板5,5を組み込み、それに応じて前記スリーブ4に摺動面9と円筒面12を二対形成したものである。前記シール体3の環状保持部7は、金属製のハウジジング23内に第1シール板5A、第2シール板5B、リング板24をそれぞれの間にパッキン25を介在させて固定した構造となっている。前記スリーブ4は、本体部8の被封止物側から順に、前記第1シール板5Aの内周部に接触する第1摺動面9Aと第1円筒面12A、前記第2シール板5Bの内周部に接触する第2摺動面9Bと第2円筒面12Bを形成し、更に被封止物と反対側側に拡径部19を形成した構造である。前記第1円筒面12Aと第2摺動面9Bは連続している。前記リング板24の内周部は、前記拡径部19の外周面に近接してあり、この部分でラビリンスシールを構成している。その他の構成は、前記同様であるので、同一構成には同一符号を付して、その説明は省略する。
【0042】
図7は、図6の軸封装置を長時間運転し、第1シール板5Aと第2シール板5Bの内周部が摩滅した場合にも前記同様にラビリンスシールを構成することの説明図である。図7(a)は、軸封装置の使用直後の状態を示し、図7(b)は、第1シール板5Aと第2シール板5Bの内周部が摩滅した場合を示し、第1シール板5Aの内周部と第1円筒面12A及び第2シール板5Bの内周部と第2円筒面12Bとでそれぞれラビリンスシールを構成する。この場合、前記第2円筒面12Bの被封止物と反対側に第3摺動面(図示せず)を他の摺動面と同一ピッチで形成しておくことにより、第1シール板5Aと第2シール板5Bの内周部が摩滅した場合に、前記スリーブ4を被封止物側へ前述のピッチと等しい距離だけ移動させて付け替えることにより、摩滅した前記第1シール板5Aの内周部が第2摺動面9Bに所定の接触面圧で接触するとともに、摩滅した前記第2シール板5Bの内周部が第3摺動面に所定の接触面圧で接触し、再度初期に近いシール性が発現するのである。
【0043】
図6に示した軸封装置は、第1シール板5Aと第2シール板5Bの中心孔の直径が異なるものであるが、図8及び図9は同じ形状の二枚のシール板5,5を用いる場合の実施形態である。図8の前記シール体3の環状保持部7は、金属製のハウジジング23内にシール板5,5をパッキン25を介在させて固定し、該ハウジジング23の被封止物と反対側の半径方向壁部分26を内方へ延設した構造となっている。図8の前記スリーブ4は、摺動面9と円筒面12を軸方向に繰り返して形成した構造となっている。その他の構成は、前記同様であるので、同一構成には同一符号を付して、その説明は省略する。ここで、前記環状保持部7のハウジジング23の半径方向壁部分26とスリーブ4の拡径部19の外周面とでラビリンスシールを構成している。
【0044】
図9の前記シール体3の環状保持部7は、合成樹脂製であり、二枚のシール板5,5の外周部をインサート成形によって一体化して固定し、環状保持部7の外周面には環状溝27を形成している。そして、前記環状溝27にOリング28を嵌着し、前記ケーシング2の環状段部10に気密状態で嵌合して固定金具11で押えて取付ける。また、図9のスリーブ4は、図8に示したものと同様である。その他の構成は、前記同様であるので、同一構成には同一符号を付して、その説明は省略する。ここで、前記前記環状保持部7の内周面と前記スリーブ4の拡径部19の外周面との間隔を小さくしてラビリンスシールを構成している。
【0045】
図10は、ブロアーや圧力扇等のように軸受29と扇30との距離が長く、軸振れが大きな用途に使用する使用例を示し、このケーシング2には軸封装置を組み込むスペースがない場合を示している。このような場合、図3に示した構造のシール体3をケーシング2の外側に取付けることが可能であるが、図示したものは、ケーシング2の外面に複数のシール板5,5の外周部をパッキン31を介在させて所定間隔を維持し、外側から押さえ板32をあてがって、直接ボルト33を押さえ板32、シール板5A,5B及びパッキン31を貫通させて締め付けている。この場合、パッキン31や押さえ板32が前述の環状保持部7となる。そして、本実施形態のスリーブ4は、図6と同様に、本体部8の被封止物側側から順に、第1摺動面9Aと第1円筒面12A、第2摺動面9Bと第2円筒面12Bを形成したものである。軸受29等の金属部分の錆腐食を嫌う場合に利用できる。
【0046】
図11に示した例は、シール体3は図11のものと類似するが、スリーブ4を使用せずに、軸受34で支持されてケーシング2から突出した回転シャフト1の端部に、直接面取りして傾斜した摺動面35を形成し、前記ケーシング2の外面に取付けたシール体3のシール板5の内周部を接触させたものである。勿論、前記回転シャフト1の端部に前記同様のスリーブ4を取付けて、その摺動面9にシール板5の内周部を接触させることも可能である。このように、本発明の軸封装置は、ダストシールとしても使用することができ、圧延ロール等の軸端カバーとして使うと、ロールの軸受34に冷却水が侵入するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の軸封装置の概念を示す簡略断面図である。
【図2】同じくシール性を示す原理図であり、(a)は回転シャフトが軸振れで下方へ変位した状態の断面図、(b)は回転シャフトが軸振れで上方へ変位した状態の断面図、(c)は回転シャフトが軸移動で被封止物と反対側へ変位した状態の断面図、(d)は回転シャフトが軸移動で被封止物側へ変位した状態の断面図である。
【図3】本発明の軸封装置の第1実施形態を示す部分断面図である。
【図4】同じくシール板の内周部が摩滅した状態を示す部分断面図である。
【図5】同じく軸封装置をタンデムに配置した状態を示す部分断面図である。
【図6】本発明の軸封装置の第2実施形態を示す部分断面図である。
【図7】同じく第2実施形態の軸封装置の使用状態を示し、(a)は使用直後の状態を示す部分断面図、(b)はシール板の内周部が摩滅した状態を示す部分断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態を示す部分断面図である。
【図9】本発明の第4実施形態を示す部分断面図である。
【図10】本発明の使用例を示す部分断面図である。
【図11】本発明の更に別の使用例を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 回転シャフト、 2 ケーシング、
3 シール体、 4 スリーブ、
5 シール板、 5A 第1シール板、
5B 第2シール板、 6 中心孔、
7 環状保持部、 8 本体部、
9 摺動面、 9A 第1摺動面、
9B 第2摺動面、 10 環状段部、
11 固定金具、 12 円筒面、
12A 第1円筒面、 12B 第2円筒面、
13 第1リング板、 14 第2リング板、
15 中心孔、 16 中心孔、
17 空間部、 18 取付孔、
19 拡径部、 20 螺孔、
21 ネジ、 22 ボルト、
23 ハウジジング、 24 リング板、
25 パッキン、 26 半径方向壁部分、
27 環状溝、 28 Oリング、
29 軸受、 30 扇、
31 パッキン、 32 押さえ板、
33 ボルト、 34 軸受、
35 摺動面。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転シャフトとケーシングの間をシールする軸封装置であって、弾性記憶特性を備えた合成樹脂で作製され、前記回転シャフトの直径よりも大きな中心孔を有する偏平円板状のシール板の外周部を環状保持部に固定したシール体と、前記回転シャフトに外挿固定する本体部の一部に、半径方向外側になるにつれて被封止物と反対側へ傾斜した摺動面を有するスリーブとからなり、前記シール体の環状保持部を前記ケーシングに取付け、被封止物と反対側から前記スリーブの摺動面が前記シール板の内周部に接触するように前記回転シャフトに固定することを特徴とする軸封装置。
【請求項2】
前記環状保持部に複数のシール板を軸方向に間隔を隔てて固定したシール体と、各シール板に対応した傾斜摺動面を軸方向に間隔を隔てて設けたスリーブとからなる請求項1記載の軸封装置。
【請求項3】
前記スリーブを回転シャフトに固定する軸方向位置で前記摺動面に対するシール板の接触面圧を調節してなる請求項1又は2記載の軸封装置。
【請求項4】
前記シール板の厚さが0.3〜1.5mmであり、該シール板の内周部に前記スリーブの摺動面が接触してから該シール板の厚みの0.5〜10倍だけ該スリーブを被封止物側へ変位させて固定してなる請求項1〜3何れかに記載の軸封装置。
【請求項5】
前記シール板の内周部と前記スリーブの摺動面との接触幅が0.5〜5.0mmである請求項1〜4何れかに記載の軸封装置。
【請求項6】
前記スリーブの摺動面の半径方向に対する傾斜角度が0〜45°であり、好ましくは10〜30°である請求項1〜5何れかに記載の軸封装置。
【請求項7】
前記スリーブの摺動面の被封止物と反対側に円筒面を連続的に形成してなる請求項1〜6何れかに記載の軸封装置。
【請求項8】
前記シール体の環状保持部の一部若しくは該環状保持部に固定したリング板と、前記スリーブの外周面若しくは前記回転シャフトの外周面との間隔を極小に設定し、ラビリンスシール機能を付与してなる請求項1〜7何れかに記載の軸封装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−121683(P2010−121683A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294813(P2008−294813)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(000107619)スターライト工業株式会社 (62)
【Fターム(参考)】