説明

軸方向への弾発入出力装置

【課題】 バネを係止するための手段が簡単な構造となるだけでなく耐久性が得られ、また、バネの収容およびそれを弾性変形させるためのスペースが少なくなる軸方向への弾発入出力装置を提供する。
【解決手段】 軸をスラスト方向へ進退可能に保持し、その保持側体と軸との間にバネを介在させ、スラスト方向への荷重の入力によるバネの弾性変形とその弾発力による出力としての復帰を伴わせることにより軸を進退させる軸方向への弾発入出力装置において、バネが軸の保持側体に当接されるゼンマイバネであって、ゼンマイバネの外側端部を軸の保持側体に、内側端部を軸にそれぞれ係止させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バネの弾力に抗して推進(スラスト)入力しその弾発力で後退出力する軸方向への弾発入出力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バネの弾性変形を伴わせて軸方向へ荷重を掛けるスラスト入力を行い、弾性変形に伴う弾発力により軸方向へ荷重を解きながらスラスト出力を得る機構は、機械的に非常に多用されている。従来、このような軸方向への弾発入出力装置に用いられるバネにはコイルスプリングが用いられていた。図7は、例えばドアの把手の軸について実施される従来例を示したものである。
【0003】
同図において、壁体33には、軸32が嵌まる軸承筒34が一体化され、軸32が軸方向へスライド可能に保持される。そして、軸32を押すことによりコイルスプリング36を弾性変形させ、これにより蓄えられたエネルギーで軸32を復帰させるようになされている。
【0004】
同図の従来例の場合であると、コイルスプリング36を弾性変形させるためにそれを伸長させるので、コイルスプリング36の一端を壁体33に鉤形等の手段42により係止する必要があるばかりでなく、他端を軸32に係止するための手段を要するが、これには例えば、軸32の先端に頭部38を設け、それにリング板40を掛け止め、リング板40にコイルスプリング36の線端41を通す孔を設けるというように、構造が複雑となるばかりでなく、線端41が細いために反復により線切れが生じやすく耐久性にも問題があった。
【0005】
さらに、コイルスプリング36の長さに加え、それを弾性変形させるために軸方向へ伸縮させるのに要するスペースLを設ける必要があり、このようなことから構造が過大となるという避けられない設計上の制約があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、上記のような実情に鑑みて、バネを係止するための手段が簡単な構造となるだけでなく耐久性が得られ、また、バネの収容およびそれを弾性変形させるためのスペースが少なくなる軸方向への弾発入出力装置を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、この発明は、軸をスラスト方向へ進退可能に保持し、その保持側体と軸との間にバネを介在させ、スラスト方向への荷重の入力によるバネの弾性変形とその弾発力による出力としての復帰を伴わせることにより軸を進退させる軸方向への弾発入出力装置において、バネが軸の保持側体に当接されるゼンマイバネであって、ゼンマイバネの外側端部を軸の保持側体に、内側端部を軸にそれぞれ係止させたことを特徴とする軸方向への弾発入出力装置を提供する。
【0008】
軸方向への弾発入出力装置を上記のように構成したから、ゼンマイバネは常時は円方向へバネ板の螺旋が拡大する偏平な形状を保持しているが、軸をスラスト方向へ推進させるとバネ板の幅方向へ荷重が掛かって中央部で出っ張る弾性変形となり、弾発力により復帰したときには再び偏平となる。したがって、ゼンマイバネに対して要するスペースは少なくて足りることになる。また、ゼンマイバネが丈夫であるので、それを軸の保持側体とその軸の双方に係止する手段は比較的構造が簡単となり、しかも、反復に耐えるよう安定した取り付け状態が得られる。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、この発明によれば、ゼンマイバネの内外両端部を係止するための手段が容易な構造となるので、加工等が簡単となり装置のコスト安に適し、また、強度的に安定した取り付けとなるばかりでなく、バネ板の幅方向に荷重が掛かることで断面係数が大きく応力が掛からない構造であるため、反復に耐える耐久性を具備できる。さらに、弾性変形させるためのスペースが少なくなるので、装置のコンパクト化に適し設計上の制約が少なくなるという優れた効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
図1ないし図3は、図7に示す前記した従来例に対応する軸方向への弾発入出力装置Pとしてドアの把手等の軸1を進退可能にする形態として実施したもので、壁体3がこの明細書でいう軸1の保持側体となる。そして、壁体3に軸1の軸承筒5が嵌入して一体化され、壁体3と軸1との間にゼンマイバネ7を介在させ(図1)、こうして入力としての軸1の推進によりゼンマイバネ7が中心から張り出す弾性変形が生じ(図2)、それに伴う反発力で軸1が復帰するようになっている。
【0012】
ゼンマイバネ7は、渦巻き状の外側端に反転掛止部9を、内側端に中心へ屈折する内向掛止部10がそれぞれ形成されている。そして、壁体3に対しては放射方向に複数配列された止め金25,25,25をビス27で止めることにより係止される。しかし、内側の止め方についてはさらに簡単であり、軸1に先端部が細くなるように段差13を設け、段差13にセンマイバネ7を単に掛け止めてある。
【0013】
しがたって、この場合反転掛止部9(有すれば汎用性がある)は必ずしも要しないが、ここをワッシャ20を介してにネジ11で止めてあればなおさら良い(図3の二点鎖線参照)(請求項4)。
【0014】
そこで、軸1を先端方向へ推進すると、段差13でゼンマイバネ7を押し出すことになり、荷重を解くとゼンマイバネ7が段差13で軸1を押して復帰させる。同じストロークSを得るにしても、従来との比較では、コイルスプリングとは違って長さが無いので、長さで設計が制約を受けない。例えば軸1の突出寸法を短く取ることができる。また、軸1の先端に図7に示すような頭部38を設けたり、輪板40を取り付けたりする複雑な構造を採る必要もなくなる。
【0015】
ちなみに、従来のように頭部38を加工により一体に形成するとすれば、ほゞ全体において切削加工を施す必要があり、軸32にバネ掛止用の専用とも言える加工を必要とする。これに対してこの発明であると、段差13を設けるとしても先端小径部15だけの限られた切削加工で足りることになり、加工が容易であり、バネの端を掛ける輪板も必要としない。
【0016】
図4ないし図6は、一種の噛み合いクラッチにおいて軸1の推進・後退について実施した一形態を示したもので、クラッチの構造については、クラッチ取付け基板21に対面して駆動軸1(又は被動軸)の保持側体としての壁体3が支持部材22を介して固定され、基板21には駆動軸1と同軸に被動軸2(又は駆動軸)が軸承され、駆動軸1の先端に駆動盤23を、被動軸2には被動盤24を相互に噛み合い可能に固定されており、この場合も、駆動軸1と壁体3との間にゼンマイバネ7が介在されている。
【0017】
ゼンマイバネ7には、前記したゼンマイバネ7とほゞ同じ形状のものが使用されているが、壁体3に対する固定については、駆動軸1を中心に放射方向に配列する止め金25,25,25を用い、止め金25をビス27で壁体3に止めてある。また、ゼンマイバネ7の中心部は、駆動軸1に設けた段差13と駆動盤23との間に挟んであり、そのために段差13と駆動盤23とにそれぞれスラストワッシャ29,29が当てられている。
【0018】
図4は、駆動盤23と被動盤24とが離れており、動力が遮断されている定常状態を示し、この時、ゼンマイバネ7は壁体3に張りつくよう当接している。しかし、駆動軸1に推力の荷重を掛けると、ゼンマイバネ7に中心部が張り出す撓む弾性変形を伴って被動盤24に駆動盤23が噛み合い動力が伝達され、推進荷重を解くと、ゼンマイバネ7の弾発力で駆動盤23が駆動軸1とともに定常状態の位置に復帰し、動力が遮断される。なお、噛み合いのために、駆動盤23には突部30が、被動盤24にはそれが落ち込む凹孔31がそれぞれ設けられる。
【0019】
上記いずれの実施形態においても、ゼンマイバネ7の係止がバネに無理の掛からない簡単な構造であり、また、ゼンマイバネ7の幅方向に荷重を掛けることになるので、断面係数が大きく応力が掛からない構造であり、ゼンマイバネ7の耐久性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の一実施形態による軸方向への弾発入出力装置を定常状態で示す断面図である。
【図2】同軸方向への弾発入出力装置を入力状態で示す断面図である。
【図3】同軸方向への弾発入出力装置に使用するゼンマイバネの正面図である。
【図4】他の実施形態を示す軸方向への弾発入出力装置を定常状態で示す断面図である。
【図5】同軸方向への弾発入出力装置を入力状態で示す断面図である。
【図6】同軸方向への弾発入出力装置におけるゼンマイバネの取り付け状態を示す正面図である。
【図7】図1に示す軸方向への弾発入出力装置が対応する従来例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0021】
P 軸方向への弾発入出力装置
1 軸
3 保持側体としての壁体
7 ゼンマイバネ
9 反転掛止部
11 ネジ
13 段差
25 止め金
27 ビス


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸をスラスト方向へ進退可能に保持し、その保持側体と軸との間にバネを介在させ、スラスト方向への荷重の入力によるバネの弾性変形とその弾発力による出力としての復帰を伴わせることにより軸を進退させる軸方向への弾発入出力装置において、バネが軸の保持側体に当接されるゼンマイバネであって、ゼンマイバネの外側端部を軸の保持側体に、内側端部を軸にそれぞれ係止させたことを特徴とする軸方向への弾発入出力装置。
【請求項2】
軸に先端が小径部となる段差を設け、段差にゼンマイバネの内側端部を掛けて小径部において内側端部の係止がなされていることを特徴とする請求項1記載の軸方向への弾発入出力装置。
【請求項3】
ゼンマイバネの外側端部に放射方向に配列される複数の止め金を当て、止め金を前記保持側体に固定することにより外側端部の係止がなされていることを特徴とする請求項1又は2記載の軸方向への弾発入出力装置。
【請求項4】
ゼンマイバネの外側端に反転掛止部を設け、反転掛止部に通したネジを前記保持側体に螺入して外側端部の係止がなされていることを特徴とする請求項1,2又は3記載の軸方向への弾発入出力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−64077(P2006−64077A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−247795(P2004−247795)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(303031169)東洋ゼンマイ株式会社 (8)
【Fターム(参考)】