説明

軸流インペラ

低騒音軸流インペラが、多孔性形態の構造であって、多数の個々の軸流路(2)を回転軸に対して円周方向かつ径方向のアレイに配設して備える構造を有する。この構造は、従来型インペラと比較して「翼を通過する周波数」を増大させ、また所与の流れ出力に対して、高い周波数ほど小さなエネルギーを有することから、生成される騒音の総振幅が縮小される。大きな総流れ面積と小さな構造重量とを有するように、流路(2)は等数の流路のモザイク状である環に配置され、流路の断面は六角形(あるいは最も内側と最も外側の環内の流路の場合には切頂六角形)に基づいている。他の実施形態では、各流路は、それぞれの流路の入り口からインペラの径方向に偏位されたそれぞれの流路の出口に延在し、回転軸に対して径方向のそれぞれの流路の内部寸法の拡大を伴い、搬送される空気または他の媒体を、それが流路を通って流れる際に減速させ、圧縮する助けとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体、液体、または他の流動性材料を移動させ、および/または圧縮するための、流体力学的機械で使用される回転インペラ、即ちファン、送風機、プロペラ、ポンプ、およびコンプレッサなどに関し、より詳しくはそのような装置によって低雑音のレベルを実現すことに関する。この種類の大部分の機械は主要な2つの部類、即ち、流体がインペラを通って流れる全体的な方向がインペラの回転軸と概ね平行である軸流機械と、流体がインペラを通って流れる全体的な方向がインペラの回転軸に対して概ね径方向である遠心分離機とのいずれかに入る。本発明が対象としているのは前者の部類である。
【背景技術】
【0002】
インペラはこのような機械の騒音の重要な原因であり、インペラからの騒音は、流体が個々の翼から繰り返し出ること(諧調騒音)と乱流が翼を通り超えること(広帯域雑音)とによって引き起こされる。現行法の要件を超えて、騒音のさらに小さな機械を求める市場の明らかな流れが存在する。例えば、低騒音のレベルは、真空掃除機、ヘアドライア、料理器用換気フード、空調ユニット、ならびに空気力学的な源によって騒音に支配される他の家庭用電気器具に関して、ポジティブな販売ポイントとして用いられている。同様に、コンパクトな電子機器、特に低騒音レベルおよび騒音吸収キットを備える交換用ファンの市場が既に存在するコンピュータにおいて、より静かな冷却ファンが求められている。それとは別に航空機および船舶用の低騒音推進装置に対しても市場が存在する。本発明によるインペラはこれらの市場の全てで、またはより一般的には低騒音の動作が望まれる軸流機械に応用することができる。
【0003】
従来型翼付きインペラでは、個々の翼はそれぞれ、機械を通る流れ全体となる流体体積を圧縮する。軸流構成における静翼などの、インペラ近傍内の静止部品の存在は、加圧された作業流体に対して破壊を引き起こし、その結果生じる圧力波が、流体自体内の騒音として、あるいは機械本体から発される騒音として明らかとなる。このようにして生じた騒音の周波数は、翼を通過する周波数として知られ、これは、インペラ内の翼の数とインペラ出口の大きな静止特徴物の数とに依存する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、多孔性形態の構造を備える従来型翼付きインペラを、インペラの回転軸に対して円周方向かつ径方向のアレイ内に多数の個々の軸流路を配設して備えるインペラと置き換えることに基礎を置いている。これは、静止特徴物を通り越す「翼」の相当数を劇的に増大し、これに対応して、生成される諧調騒音の周波数を上昇させる。所与の流れ出力に対しては、高い周波数ほど小さなエネルギーを有し、したがって生成される騒音の総振幅が縮小されることになる。
【0005】
上述の構造を有する軸流インペラ(以下「既述の種類のインペラ」と呼ぶ)が米国特許出願第2004/0184914号明細書に開示され、概略的に説明されている。より詳しくは、米国特許出願第2004/0184914号明細書は、流路が、製作済みの支柱を備えるテープを巻きつけることによって連続した共軸の環に形成されるインペラについて述べている。それぞれのインペラの流路は全て同じ断面形状と寸法とを有し、その結果、1つの環内に収容される流路の数は、環の半径が拡大するほど増大し(即ち内側の環よりも外側の環の方に流路が多い)、各環内の流路は、隣接した環内の流路から円周方向に偏位される。円周方向の編位は騒音発生の観点から有利であると考えられる。これは、円周方向の編位が、任意の瞬間に同じ静止特徴物を通り超える流路の数を減少させ、さらに流体の流れ壊し、これによって離散周波数音の生成が軽減し、騒音が広範囲の周波数にわたって分布することによる。しかし、この形態の構造は、流路アレイの全体的な形状と異なった環における個々の流路形態の選択とに対して望ましくない制約を課す。
【0006】
他方では、本発明は一態様において、既述の種類のインペラであって、流路のアレイは、そのような流路の共軸の環が径方向に連続した形態にあり、各そのような環内の流路は、隣接した環(複数を含む)内の流路から円周方向に偏位され、各そのような環内に同数の流路がある、軸流インペラに存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
より詳しくは、本発明は、流路の環が径方向にモザイク状である構造を可能にし、特に有利な実施形態では、流路の断面形状が六角形(あるいは最も内側と最も外側の環の流路の場合には切頂六角形)に基づいている。これは、流体流れに対して高い面積効率を備える本質的に高強度の構造形態を実現し、隣接し合った環同士内の流路に対して自然の偏位を可能にし、流体を操作するための「平坦な」径方向面を提供し、構造重量および流れ面積に関して例えば円形または楕円形の流路よりも高効率である。しかし、必要に応じて他の断面の形態も使用されてよい。例えば四角形に基づいた流路形態であれば、所与の壁厚さについていくらかの構造強度を犠牲にして僅かにより高い面積効率を実現することになり、したがって負荷の小さな用途に適することが可能となる。
【0008】
各環内の流路の数は、騒音スペクトル内で翼を通過する周波数の高調波が形成されるのを軽減するために、素数であることが好ましい。
【0009】
他の態様では、本発明は、流体力学的性能が向上した既述の種類のインペラを提供することを模索する。この点において、回転しているインペラ内の流体に効率よく運動量を移送するには、流路の長さに沿った利用可能な流れ面積を拡大することが必要である。米国特許出願第2004/0184914号明細書の軸流インペラでは、円周方向の「平面」内の各流路の幅が流体力学的環郭に従って流路の長さに沿って拡大することによって、各流路の利用可能な面積の拡大がいくらか達成される。しかし本発明の特徴によると、直交方向に寸法を拡大するように流路を構成することによって、利用可能な流れ面積のさらなる増大が達成されることが可能である。
【0010】
したがって本発明は、既述の種類のインペラであって、少なくとも複数の流路は、それぞれの流路の入り口から、それぞれの入り口からインペラの径方向に偏位されるそれぞれの流路の出口に延在するように構成され、インペラの回転軸に対して径方向のそれぞれの流路の内部寸法の拡大を伴ったインペラにも存在する。
【0011】
次に、一例として、添付図面を参照して本発明のこれらおよび他の特徴をより詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による軸流ファンインペラのその入り口面で見た好ましい実施形態の絵画図である。
【図2】図1のインペラのその出口面で見た絵画図である。
【図3】図1および図2のインペラの典型的な流路の空気力学的形態による流れ面積の拡大を示した簡略化概要図である。
【図4】図1および図2のインペラの修正形態の流路の流れ面積の追加の拡大を示した簡略化概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1および図2を参照すると、これらの図で示したインペラは、真空掃除機、ヘアドライア、または類似の電気器具に組み込まれてもよいものなどの軸流空気ファン用または軸流送風機用である。このインペラは、中央穴1を備える一体構造の円筒状包体であって、使用するインペラを回転させる関連したモータ(図示せず)のスピンドル上に取り付けられるように適合され、適切なプラスチック材料で型成形、機械加工、または立体リトグラフィなどによって形成されてよい円筒状包体を備える。多数の空気流路2が、図1で見られる入り口面3からインペラを通って図2で見られる出口面4へと延在し、インペラが回転されるとき、空気の流れを、使用中のインペラが配設されるダクトまたはケーシング(図示せず)を通って概ね軸方向に通過させる。
【0014】
より詳しくは、ここに示した実施形態では、23の流路をそれぞれに有する4つの共軸の環のアレイ内に合計92の流路2が配設されている。個々の流路は、概ね六角形の断面であって、径方向に最も内側の環と最も外側の環内の流路では5角に切頂され、ここに示したように、各環内の流路の中心が、隣接した1つまたは複数の環内の流路の中心から流路幅の半分だけ円周方向に偏位されるようにモザイク状にされた断面を有する。この点において、連続した各環内の流路の形状および寸法は、正六角形の標準的な「ハニカム」構造と比較して修正されることにより、(i)環同士の半径を異ならせながら各環内に同数の流路を維持し、(ii)インペラの回転軸に対して径方向に延在する各流路包体内の側面を実現し、(iii)全ての隣接した流路同士の間で実質的に一定の壁厚みを達成する。
【0015】
各流路2は、インペラを通る軸流を発生させるように、必要な空気力学的形態に従って、インペラの円周方向に湾曲率の成分を有し、その結果、図2で見られる各流路出口は、図1で見られるそれぞれの流路入り口から円周方向にある程度偏位される。この意味で典型的な流路の環郭を図3に描く。図3は、インペラの円周部分の概略的投影(平坦化)断面図であって、入り口面3から出口面4に延びる単一の流路2を示している。この図の流路の湾曲の度合が出口端部に向かって増大することによって、インペラの軸方向に反対の面同士の入り口と出口の円周方向の幅は等しい(寸法a)ながらも、流れに利用可能な流路の「本当の」断面積(即ち流路の中心線に対して垂直の面積)が、寸法bとcを比較して分かるように、その長さに沿って拡大することが分かる。これは、空気が流路を通って流れる際に空気を減速化し、圧縮する助けとなる。
【0016】
図1および図2で示したインペラでは取り上げていないが、本発明によって、流路を、入り口から出口へと径方向に内向きに同時に掃引することによって、流路2を通る利用可能な流れ面積の追加の有用な拡大が達成されることが可能である。このことが図3の簡略化表示から理解される。図3は、修正されたインペラの概略的径方向断面図であって、入り口面30から出口面40に延在する隣接し合った環の流路20を示しているが、それらの円周方向の食い違い偏位と湾曲率とを無視している。これから、それぞれの流路の出口の中心が、それぞれの流路の入り口の中心から径方向に偏位されることと、図4の典型的な流路の入り口と出口の寸法dとeによって例証される、各流路20の径方向の寸法が各流路の長さに沿って拡大することとが分かる。
【0017】
軸流インペラの好ましい実施形態について以上に述べ、これを添付の図面に示したが、当業者は、本発明の範囲から逸脱せずに、個々の要件および用途に見合うように、ここに示した設計に、例えば流路の数、寸法、および流体力学的形態に関して多数の変形がなされてよいことを認識する。例えば各環内に素数の流路を有することは、その数が増える程(例えば100以上)重要でなくなる。さらに、各環内の流路の数は、例えば個々の流路の断面積を全ての環で同じにすることがより重要であると考えられる場合には、同じである必要はない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インペラの回転軸に対して円周方向かつ径方向のアレイに多数の個々の軸流路を配設して備える軸流インペラであって、流路のアレイはそのような流路の共軸の環が径方向に連続した形態にあり、各そのような環内の流路が、隣接した環(複数を含む)内の流路から円周方向に偏位され、各そのような環内に同数の流路がある、軸流インペラ。
【請求項2】
少なくとも複数の前記流路が概ね六角形の断面を有する、請求項1に記載のインペラ。
【請求項3】
少なくとも複数の前記流路が概ね四角形の断面を有する、請求項1に記載のインペラ。
【請求項4】
前記流路の環が径方向にモザイク状である、請求項1に記載のインペラ。
【請求項5】
前記流路の環が少なくとも3つあり、少なくとも、径方向に最も内側または最も外側の環ではないその環またはそれらの環が、概ね六角形の断面を有する、請求項4に記載のインペラ。
【請求項6】
各前記環内の流路の数が素数である、請求項1から5のいずれか一項に記載のインペラ。
【請求項7】
インペラの回転軸に対して円周方向かつ径方向のアレイに多数の個々の軸流路を配設して備える軸流インペラであって、少なくとも複数の前記流路が、それぞれの流路の入り口から、それぞれの入り口からインペラの径方向に偏位されたそれぞれの流路の出口に延在するように構成され、インペラの回転軸に対して径方向のそれぞれの流路の内部寸法の拡大を伴う、インペラ。
【請求項8】
少なくとも複数の前記流路が概ね六角形の断面を有する、請求項7に記載のインペラ。
【請求項9】
少なくとも複数の前記流路が概ね四角形の断面を有する、請求項7に記載のインペラ。
【請求項10】
流路のアレイは、そのような流路の共軸の環が径方向に連続した形態にあり、各そのような環内の流路は隣接した環(複数を含む)内の流路から円周方向に偏位される、請求項7に記載のインペラ。
【請求項11】
各前記環内に同数の流路がある、請求項10に記載のインペラ。
【請求項12】
前記流路の環が径方向にモザイク状である、請求項11に記載のインペラ。
【請求項13】
前記流路の環が少なくとも3つあり、少なくとも、径方向に最も内側または最も外側の環ではないその環またはそれらの環が、概ね六角形の断面を有する、請求項12に記載のインペラ。
【請求項14】
各前記環内の流路の数が素数である、請求項10から13のいずれか一項に記載のインペラ。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載のインペラを組み込む、流体力学機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−541660(P2009−541660A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517370(P2009−517370)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際出願番号】PCT/GB2007/001536
【国際公開番号】WO2008/001032
【国際公開日】平成20年1月3日(2008.1.3)
【出願人】(501352882)キネテイツク・リミテツド (93)
【Fターム(参考)】