説明

軽合金発泡体の成形方法

【課題】 軽金属の溶湯に増粘剤と発泡剤を加えて軽合金発泡体を製造する方法において、圧力と温度を制御することにより、歩留まり良く、かつ気泡の均一性が優れた軽金属発泡体を高能率で製造することを可能ならしめる軽金属発泡体の成形方法を提供する。
【解決手段】 増粘剤を所定割合添加した軽合金の溶湯に、高温で分解してガス成分を発生する発泡剤を、当該発泡剤の80%以上が残存する温度、圧力下において所定量添加し、次いでこの溶湯をバレル2の混練スクリュで分散させた後、当該溶湯量の所定量を計量部2dで計量して押出シリンダー3a内に移湯し、この押出シリンダー3a内において加熱、加圧し、加熱、加圧した軽金属の溶湯を1×105Pa未満の圧力に減圧した金型4内に押出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽合金の溶湯を発泡させて軽合金発泡体を製造する軽合金発泡体の成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軽合金の溶湯を発泡させて軽合金発泡体を製造する軽合金発泡体の成形方法の典型例としては、例えば後述する従来例1,2に係るものが公知である。
【0003】
先ず、従来例1に係るものは、溶融金属に発泡剤および増粘剤を加えて攪拌することにより多数の独立気泡よりなる発泡金属を製造する方法において、鋳型全体が発泡金属の融点以上の温度となるように加熱し、かつ攪拌を終了して発泡を開始し、発泡剤の分解によって生じる多数の気泡が膨張して鋳型内の空気を外部に放出させ、発泡金属が鋳型内部の全体に充満することにより型内を密閉状態とし、気泡の内圧上昇により圧力の均衡の下に均一なセル構造を形成させ、ついで鋳型の加熱を停止し発泡金属を冷却、凝固させることを特徴する発泡金属の製造方法である。また、溶融金属としてアルミニウムまたはその合金、増粘剤としてカルシウム0.2〜8重量%、発泡剤として水素化チタン1〜3重量%を用いることも記載されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、従来例2に係るものとしては、溶融金属に増粘剤および発泡剤を加えて発泡金属を製造する方法において、第1の成形用型とこれに合わされることにより両者間に第1のキャビティが形成される第2の成形用型とを有し、第2の成形用型には一方が第1のキャビティに連通すると共に他方が外部空間に連通する第2のキャビティが形成されてなる型を用い、第1の成形用型内に材料を装入して攪拌した後、第2の成形用型を第1の成形用型に合わせて型閉じして発泡させ、発泡金属の膨張に伴う体積増加分を第2のキャビティに侵入させて成形するものである(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
上記従来例1,2はそれなりに優れているが、下記のような問題点があった。即ち、上記従来例1に係る方法では、単純形状しかできないことから、ある特定の製品形状にするためには2次加工が必要でありコストが高くなる。また、鋳塊の表面に近い部分と内部では気泡分布に差があり、特に表面は密度が高く切り捨てられることもあり材料の歩留まりが悪い欠点がある。また、上記従来例2に係る方法では、所定の形状の発泡金属が得られるものの、製品歩留まりは低いのに加えて、生産性にも劣るためコスト高となる。
【0006】
この様な状況のもと、本件出願人は、先に各バッチ間での発泡状態の差異が小さくすることができ、そして生産性の良い軽合金の射出発泡成形方法及び射出発泡成形装置を提案している。以下、この従来例3に係る技術を、軽合金の射出発泡成形装置の一例を示す全体説明図の図4を参照しながら説明する。
【0007】
この従来例3に係る軽合金の射出発泡成形装置51は、射出成形装置53と、型締め装置67とで構成されている。前記射出成形装置53は、増粘剤および高温で分解してガス成分を発生する発泡剤が添加された軽合金の溶湯が供給される供給口58と、回転自在に設けられた攪拌手段54によりこの供給口58から供給された溶湯を攪拌して増粘剤および発泡剤を分散させる筒状部材Aと、この筒状部材Aの内部に進退自在に設けられ、後退により筒状部材Aの先端部に筒状部材Aと協働して溶湯を軽量する計量部56を形成し、前進により計量部56に連通する金型74内にガス成分が発生した溶湯を射出する可動部材Bと、計量が完了した状態において溶湯を加圧状態に保持してその発泡を抑制し得るように、駆動モーター69と、この駆動モーター69に連結されたスクリュ用油圧シリンダ71とからなり、ガス成分が発生した際の筒状部材Aの内圧増加に抗して可動部材Bの位置を保持する位置保持手段Cを備えている。この筒状部材Aである溶湯を攪拌するバレル57に、供給された軽合金の溶湯52と射出部59に供給された軽合金の溶湯52を温度調節する温度調整手段60が設けられている。また、バレル57の先端に、計量部56で計量された溶湯52を金型74内に射出する射出部59が設けられている。
【0008】
バレル57は縦型で、供給された溶湯52は自重で混練部55内の下方に移動するように構成されている。前記射出部59にはL字流路61が形成されており、溶湯52の流路は、混練攪拌時には垂直で、射出時に水平になるように構成されている。前記バレル57の下端に設けられたL字流路61の先端部にバルブ手段62を備えたノズル部63が設けられており、この先端部が型締め装置67により水平にスライドして開閉する金型74と当接している。射出発泡成形装置51の構成部材のうち、ホッパー64は図示しない溶解炉で溶解された軽合金の溶湯を受入れてこれを溶融状態で貯留するもので、ホッパー64の下端開口はバレル57の上部の供給口58に接続されている。ホッパー64には、加熱ヒータ等の温度制御手段が設けられている。さらに、ホッパー64には、溶湯52に添加する増粘剤や発泡剤を定量供給するためのフィーダが設けられている。そして、このホッパー64内には、不活性ガス供給装置66により供給されたAr等の不活性ガスが充填されており、溶湯52の湯面を不活性ガス68でシールされるようになっている。
【0009】
このような射出発泡成形装置51によれば、軽合金の溶湯52を射出後に金型74内で一気に発泡させるため金型74の隅々まで溶湯52がいきわたり、金型74への転写性が良くなり、複雑な形状の発泡成形体の成形が可能になる。また、金型温度を発泡剤の分解温度以上に加熱する必要がないため、生産性が向上する(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特公平1−51528号公報
【特許文献2】特公平3−66060号公報
【特許文献3】特開2004−58130号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来例3に係る発明によれば、上記従来例1,2に係る発明のもつ材料歩留まりの低さや生産性の低さ、及び製品の不均一性(気孔生成の不均一、未充填)を解決することができるので、極めて優れている。しかしながら、この技術3に係る技術においても、成形された発泡体内における気孔生成の不均一が生じたり、成形金型内で溶融金属が充填されない部位が生じたりするなどの問題が発生することがあった。
【0011】
従って、本発明の目的は、軽金属の溶湯に増粘剤と発泡剤を加えて軽合金発泡を製造する方法において、圧力と温度を制御することにより、歩留まり良く、かつ気泡の均一性が優れた軽合金発泡体を高能率で製造することを可能ならしめる軽合金発泡体の成形方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る軽合金発泡体の成形方法が採用した手段は、増粘剤を所定割合添加した軽合金の溶湯に、高温で分解してガス成分を発生する発泡剤を、当該発泡剤の80%以上残存する温度、圧力下において所定量添加し、次いでこの溶湯を攪拌して発泡剤を分散させた後、当該溶湯の所定量を計量して押出準備領域に移行し、当該移行した溶湯を前記準備領域で加熱・加圧を行い、当該加熱・加圧された溶湯を1×105Pa未満の圧力に減圧された金型内に押出すことにより軽合金発泡体を成形することを特徴とするものである。
【0013】
本発明の請求項2に係る軽合金発泡体の成形方法が採用した手段は、増粘剤を所定割合添加した軽合金の溶湯に、高温で分解してガス成分を発生する発泡剤を、当該発泡剤の80%以上残存する温度、圧力下において所定量添加し、次いでこの溶湯を攪拌して発泡剤を分散させた後、当該溶湯を加熱・加圧し、当該加熱・加圧された溶湯を1×105Pa未満の圧力に減圧された金型内に移動させることにより軽合金発泡体を成形することを特徴とするものである。
【0014】
本発明の請求項3に係る軽合金発泡体の成形方法が採用した手段は、請求項1または2のうちの何れか一つの項に記載の軽合金発泡体の成形方法において、前記軽合金が、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金のうちの何れかであることを特徴とするものである。
【0015】
本発明の請求項4に係る軽合金発泡体の成形方法が採用した手段は、請求項1乃至3のうちの何れか一つの項に記載の軽合金発泡体の成形方法において、前記発泡剤が水素化チタニウムであることを特徴とするものである。
【0016】
本発明の請求項5に係る軽合金発泡体の成形方法が採用した手段は、請求項1乃至4のうちの何れか一つの項に記載の軽合金発泡体の成形方法において、前記発泡剤攪拌時の溶湯の温度T1(K)および圧力P1(Pa)が下記(1)式を満たす条件であることを特徴とするものである。
LogP1≧−8490/T1+14.23‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(1)
【0017】
本発明の請求項6に係る軽合金発泡体の成形方法が採用した手段は、請求項1乃至5のうちの何れか一つの項に記載の軽合金発泡体の成形方法において、金型内に押出または移動前の溶湯の温度T2(K)および圧力P2(Pa)が下記(2)式を満たす条件であることを特徴とするものである。
LogP2≧−8490/T2+14.23‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(2)
ただし、T2≧T1
【0018】
本発明の請求項7に係る軽合金発泡体の成形方法が採用した手段は、請求項6に記載の軽合金発泡体の成形方法において、金型内に押出または移動前の温度T2(K)および金型内での圧力P3(Pa)が下記(3)式を満たす条件であることを特徴とするものである。
LogP3≦−8490/T2+14.23‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(3)
【発明の効果】
【0019】
本発明の請求項1乃至7に係る軽合金発泡体の成形方法では、増粘剤と発泡剤とを添加した軽合金の溶湯を金型内に押出あるいは移動させる際に、金型内を1×105Pa未満の圧力に減圧するため、通常の押出条件であっても複雑な形状の金型の細部に至るまで十分に溶湯が行き届く。従って、本発明の請求項1乃至7に係る軽合金発泡体の成形方法によれば、溶湯の未充填部分が生じ難くなるから、未充填部分のない品質に優れた3次元的な発泡金属成形体を効率良く製造することができる。また、発泡剤をその80%以上残存する温度、圧力下において溶湯に所定量添加するため、溶湯の金型内への押出あるいは移動前に多量の発泡剤がガス化してしまことがなく、そして溶湯を攪拌して発泡剤を分散させることにより、軽合金発泡体の発泡状態を均一にすることができる。
【0020】
本発明の請求項5に係る軽合金発泡体の成形方法では、発泡剤攪拌時の溶湯の温度T1(K)および圧力P1(Pa)が、LogP1≧−8490/T1+14.23で表される(1)式を満たす条件になっている。従って、本発明の請求項5に係る軽合金発泡体の成形方法によれば、発泡剤である水素化チタニウムの攪拌時の発泡が抑制され、溶湯の金型内への押出あるいは移動前に多量の発泡剤がガス化してしまうことがないから、金型内において発泡させることが可能になる。
【0021】
本発明の請求項6に係る軽合金発泡体の成形方法では、金型内に押出または移動前の溶湯の温度T2(K)および圧力P2(Pa)が、LogP2≧−8490/T2+14.23で表される(2)式を満たす条件になっている。従って、本発明の請求項6に係る軽合金発泡体の成形方法によれば、金型内に押出または移動前の溶湯中の発泡剤である水素化チタニウムの発泡が抑制され、溶湯の金型内への押出あるいは移動前に多量の発泡剤がガス化してしまうことがないから、金型内において発泡させることが可能になる。
【0022】
本発明の請求項7に係る軽合金発泡体の成形方法では、金型内に押出または移動前の温度T2(K)および金型内での1×105Pa未満の圧力P3(Pa)が、LogP3≦−8490/T2+14.23で表される(3)式を満たす条件になっている。従って、本発明の請求項7に係る軽合金発泡体の成形方法によれば、軽合金の溶湯が金型内に押出または移動後に、残存する添加量の80%以上の水素化チタニウムが発泡する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の軽合金発泡体の成形方法を実施する形態1に係る軽合金発泡体の発泡体成形装置を、その模式的断面構成説明図の図1を参照しながら説明する。図に示す符号1は、軽合金発泡体を製造する発泡体成形装置で、この発泡体成形装置1は、溶解炉10からポンプ11aが介装されてなる溶湯供給管路11を介して供給された,増粘剤が添加されてなる軽合金の溶湯を混練し、かつ混練後の軽合金の溶湯を計量する筒状のバレル2と、このバレル2から供給され、発泡剤が添加されてなる混練後の所定量の軽合金の溶湯を押出す押出装置3と、この押出装置3から押出された溶湯を受入れるキャビティ4aを有する金型4と、この金型4のキャビティ4c内のガスを吸引して圧力を減圧する真空ポンプ5とから構成されている。
【0024】
なお、前記溶解炉10を閉蓋する蓋部材を貫通すると共に、下端部が溶解炉10内の軽合金の溶湯に浸漬されてなるものは、図示しない駆動モーターによって回転され、この溶解炉10内の軽合金の溶湯を攪拌して、増粘剤を溶湯中に分散させる攪拌翼を備えてなる攪拌装置10aである。
【0025】
前記バレル2は縦向きになっており、前記溶湯供給管路11から流出する軽合金の溶湯を受入れ、受入れた軽合金の溶湯を供給口2bからバレル本体の内部に供給する、後述するホッパー2aを備えている。また、バレル本体の内部には供給口2bから供給された軽合金の溶湯を混練して、このバレル本体の内部に供給される発泡剤を分散させる、進退自在(昇降自在)な混練スクリュ2cを備えている。
【0026】
前記混練スクリュ2cは、上記従来例3に係る混練手段の場合と同様に、後退によりバレル本体の先端部に、このバレル本体と協働して溶湯を軽量する計量部2dを形成し、前進により計量部2dに連通する押出装置3内にガス成分が発生した溶湯を供給する可動部材2eと、計量が完了した状態において溶湯を加圧状態に保持してその発泡を抑制し得るように、図示しない駆動モーターと、この駆動モーターに連結されたスクリュ用油圧シリンダとからなり、ガス成分が発生した際のバレル本体の内圧増加に抗して可動部材2eの位置を保持する位置保持手段を備えている。また、このバレル本体の外周部には、内部に供給された軽合金の溶湯の温度を調節する温度調整手段2fが設けられている。
【0027】
前記ホッパー2aには、従来例3に係るホッパーと同様に、軽金属の溶湯に添加する増粘剤や発泡剤を定量供給するための図示しないフィーダが設けられている。そして、ホッパー2a内には、図示しない不活性ガス供給装置により供給されたAr等の不活性ガスが充填されており、溶湯の湯面を不活性ガスでシールするように構成されている。
【0028】
前記押出装置3は、前記バレル2の下端の供給口から発泡剤が分散されると共に、計量された量の混練後の軽金属の溶湯が供給され、先端部に押出ノズル3bを備えてなる押出シリンダ3aを備えている。さらに、この押出シリンダ3a内に収容されてなるピストン3eをピストンロッド3dを介して作動させて、押出シリンダ3a内の軽金属の溶湯を押出ノズル3bから流出させる伸縮装置3cを備えている。
【0029】
前記金型4は、従来例3に係る金型の場合と同様に、移動金型4aと固定金型4bとから構成されており、移動金型4aは図示しない型締め装置によって水平にスライドされて固定金型4bに当接することにより、内部にキャビティ4cを有する金型4が形成されるように構成されている。
【0030】
以下、上記構成になる本発明の形態1に係る軽合金発泡体の成形装置1による軽合金発泡体の成形方法を説明する。特に、複雑な形状の軽合金発泡体を製造しようとする場合には、増粘剤と発泡剤を添加した軽合金の溶湯を複雑な形状の金型内に充填することとなるが、通常の押出法等では複雑な形状の金型の細部に到るまで十分に充填できないことがあった。金型内に未充填部分が生じないようにするには、押出圧力を相当に高める等といった解決手段があるが、金型側の変形などを防ぐために強度の高い金型を使用する必要があり、また極めて高速で押出しを行うという押出条件の制約が問題となることがあった。
【0031】
本発明者らは、このような複雑な形状の軽合金発泡体をできるだけ容易に得ることが出来ないか検討した結果、増粘剤と発泡剤を添加した軽合金の溶湯を金型内に押出あるいは移動させる際に、金型内を1×105Pa未満の圧力に減圧しておけば、通常の押出条件であっても複雑な形状の金型の細部に至るまで十分に溶湯が行き届き、溶湯の未充填部分が生じ難くなること見出し、本件発明に至ったものである。当然のことながら、軽合金発泡体に求められるのは未充填部分が無いこと以外に製品の均一性もあり、これらを兼ね備えた軽合金発泡体を得るため、本発明は、以下のような方法を採用したものである。
【0032】
即ち、予め設定した所定割合の増粘剤を添加した溶解炉10内の軽合金の溶湯をバレル2に供給し、高温で分解してガス成分を発生する発泡剤を、当該発泡剤の80%以上残存する温度、圧力下において予め設定した所定量添加する。次いで、この溶湯を混練スクリュ2cで攪拌して発泡剤を分散させた後、当該溶湯の所定量を計量部2dで計量して押出準備領域である押出装置3の押出シリンダ3aに移行させ、移行させた溶湯を金型4内に押出すことにより軽合金発泡体を成形する。
【0033】
このとき、発泡剤をその80%以上残存する温度、圧力下において所定量添加するのは、溶湯の金型内への押出あるいは移動前に多量の発泡剤がガス化してしまわないようにするためである。次いで、この溶湯を攪拌して発泡剤を分散させるが、これは軽合金発泡体の発泡状態を均一にするためである。そして、発泡剤を均一に分散させた溶湯を、上記のとおり、真空ポンプ5により1×105Pa未満の圧力に減圧した金型4内へ押出しあるいは移動させると発泡状態が均一で、かつ所望の形状の細部に至るまで軽合金の未充填部分のない、良好な軽合金発泡体を得ることができる。発泡体となる軽合金材料は、アルミニウムまたはその合金、マグネシウムまたはその合金の何れかであることが好ましい。即ち、これらの溶湯がある領域内に保持されなければならないため、これらの溶湯に対し容器が溶損されないことが必要となる。従って、発泡体となる軽合金材料としては上記のものが好ましい。
【0034】
また、発泡剤としては、水素化チタニウムを用いる。このように、発泡剤として水素化チタニウムを用いるのは、特にアルミニウムの溶湯やマグネシウムの溶湯を扱う場合には、これがアルミニウムの溶融温度近傍において分解を開始するためである。なお、水素化チタニウムの分解温度は、圧力と温度の関数であることから、下記(1)式に示すように、雰囲気の圧力を高くするか、あるいは温度を低く保つことにより水素化チタニウムの分解を抑制することが可能である。溶湯と水素化チタニウムの攪拌時には、水素化チタニウムの分解を抑えて水素化チタニウムの添加歩留まりを上げることも重要である。
LogP1≧−8490/T1+14.23‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(1)
上記(1)式において、T1は水素化チタニウム攪拌時の溶湯の温度(K)であり、P1は水素化チタニウム攪拌時の溶湯の圧力(Pa)である。
【0035】
なお、上記(1)式は下記のようにして求めたものである。即ち、Ti−H系のβ+αの二相領域における温度と圧力の関係は、下記表1に示すとおりである。
【表1】

y軸(縦軸;対数目盛り)にLogP(Pa)をとり、x軸(横軸;通常目盛り)に1000/T(K)をとって示す片対数方眼紙に、上記表1に記載されているLogP(Pa)のデータと1000/T(K)のデータとをプロットして、LogPと1000/Tとの関係グラフ図の図3を作図した。そして、この図3からy=−8490x+14.23の関係式を得、そしてyをLogPに、xを1000/Tにそれぞれ置換して上記(1)式を得たものである。
【0036】
また、この段階で水素化チタニウムが分解してしまうと、その後に気泡が大きくなったり、軽合金発泡体を生成するのに十分な量の気泡が発泡時に残らなかったりするので、軽合金発泡体の品質上も好ましくない。その後、所定量を計量し、別の温度および圧力条件下の領域に水素化チタニウムが含有された溶湯を移動させ、これを1×105Pa未満に減圧した圧力の金型内に押出すことにより所定形状の軽合金発泡体を得ることができる。
押出す前段階では攪拌時の場合より温度、および圧力を高めておき、押出した時点で速やかに発泡剤の分解が起こるようにすることが好ましい。これが下記(2)および(3)式に示す条件である。
LogP2≧−8490/T2+14.23‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(2)
ただし、T2≧T1
LogP3≦−8490/T2+14.23‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(3)
上記(2)式において、T2は金型内に押出または移動前の溶湯の温度(K)であり、P2は金型内に押出または移動前の溶湯の圧力(Pa)である。
また、上記(3)式において、T2は金型内に押出または移動前の溶湯の温度(K)であり、P3は金型内での溶湯の圧力(Pa)である。
【0037】
ところで、発泡剤に関しては、水素化チタニウムの他、水素化ジルコニウムであってもよい。また、金型4に関しては、軽合金の溶湯を押出す際に金型の温度を上げておき、キャビティ4cに発泡体が充満された時点で冷却することが好ましい。このようにすることによって、気泡が細かく均一に分散された状態で凍結されるので、軽合金発泡体の品質にとって好ましい。冷却が遅れると、気泡の合体が起こる等、気泡の分散状態は良くないものとなる。さらに、金型内の圧力を1×105Pa未満の圧力にしておくことにより、軽合金の溶湯の充填が速やかとなり、複雑な形状の金型への未充填の問題が解決されると共に、気孔分布も均一なものとなる。
【0038】
このように、溶解炉10内において増粘剤で増粘された軽合金の溶湯に、添加した発泡剤の大部分が残存する温度、圧力下においてこれを添加し、バレル2内においてこれを攪拌し発泡剤を分散させる。その後に、バレル2内で所定量を計量し、押出シリンダ3aに移湯し,ここで加熱・加圧を行い、これを1×105Pa未満の圧力の金型4内に押出して軽合金発泡体を形成させる。押出シリンダ3aにおいて、溶湯の温度および圧力を制御することにより、金型4内に押出された時に5〜80%の気孔率を有する軽金属発泡体の成形が可能となる。
【0039】
本発明の軽合金発泡体の成形方法を実施する形態2に係る軽合金発泡体の発泡体成形装置を、その模式的断面構成説明図の図2を参照しながら説明する。但し、本形態2が上記形態1と相違するところは、上記形態1の押出し装置3cが機械式であったのに対して、本形態2はガス圧を供給して押出シリンダ3a内の軽合金の溶湯を金型4に押出すガス導入装置3fが設けられているだけであるから、その構成に係る詳細な説明を割愛する。
【0040】
この形態2に係る発泡体成形装置1によれば、溶解炉10内において増粘剤で増粘された軽合金の溶湯に、添加した水素化チタニウムの大部分が残存する温度、圧力下においてこれを添加し、バレル2内において攪拌し水素化チタニウムを分散させる。その後に、密閉したバレル2内で所定量を計量し、加熱・加圧を行う。そして、押出シリンダ3aに移湯し,押出シリンダ3aにおいて予め金型4内の圧力になった場合に発泡が起こる温度を維持しておく。ここで、押出シリンダ3aにガス導入装置3fから圧縮ガスを導入することにより発泡した軽金属の溶湯を金型4に移動させる。この場合、金型4を1×105Pa未満の圧力にすることが重要である。押出シリンダ3aで溶湯の温度および圧力を制御することにより、金型4において5〜80%の気孔率を有する軽金属発泡体を製造することが可能となる。
【実施例】
【0041】
図1に示した形態1に係る発泡体成形装置1を用いて、軽合金発泡体を製造した例を説明する。この実施例1では、アルミニウム合金(Al−Si)発泡体を成形した。このとき、2kgのアルミニウム合金の溶湯に、増粘剤であるCaを30g、発泡剤として水素化チタニウムを30g添加した。水素化チタニウムの添加にあたっては、アルミニウム合金の溶湯の温度を630℃、圧力を1.0×105Paにした。その後、630℃、1.0×105Paに保持したルミニウム合金の溶湯を攪拌し、この溶湯のうち、100g分をバレル2から押出シリンダ3aへ移動させ、この押出シリンダ3a内で650℃に加熱すると共に、2,0×105Paに加圧した。次いで、0.5×105Pa(0.5atm)に減圧すると共に、600℃に加熱した金型4内にアルミニウム合金の溶湯を押出してアルミニウム合金発泡体を製造した。製造したアルミニウム合金発泡体の目視による断面観察結果は、表2に示すとおりである。
【0042】
なお、この表2における軽金属発泡体の評価基準としては、発泡した軽合金の未充填部分が5%未満、かつ気孔の存在しない領域が5%未満のものを○印で示し、また発泡した軽合金の未充填部分が5%以上、または気孔の存在しない領域が5%以上のものを×印で示している。
【0043】
図2に示した形態2に係る発泡体成形装置1を用いて、軽合金発泡体を製造した例を説明する。この実施例2では、アルミニウム合金(Al−Zn−Mg)発泡体を成形した。
このとき、2kgのアルミニウム合金の溶湯に、増粘剤であるCaを30g、発泡剤として水素化チタニウムを30g添加した。水素化チタニウムの添加にあたっては、アルミニウム合金の溶湯の温度を640℃、圧力を1.0×105Paにした。その後、640℃、1.0×105Paに保持したルミニウム合金の溶湯を攪拌し、この溶湯のうち、100g分をバレル2から押出シリンダ3aへ移動させ、この押出シリンダ3a内で650℃に加熱すると共に、3,0×105Paに加圧した。次いで、0.5×105Pa(0.5atm)に減圧すると共に、600℃に加熱した金型4内にアルミニウム合金の溶湯を押出してアルミニウム合金発泡体を製造した。製造したアルミニウム合金発泡体の目視による断面観察結果は、表2に示すとおりである。
【0044】
図1に示した形態1に係る発泡体成形装置1を用いて、軽合金発泡体を製造した例を説明する。この実施例3では、マグネシウム合金(Mg−Al−Ca)発泡体を成形した。
このとき、2kgのマグネシウム合金の溶湯に、発泡剤として水素化チタニウムを30g添加した。水素化チタニウムの添加にあたっては、マグネシウム合金の溶湯を620℃に加熱すると共に、1.0×105Paにした。その後に、620℃、1.0×105Paに保持した溶湯を攪拌して、攪拌した溶湯のうち、100g分を押出シリンダ3aへ移動させ、この押出シリンダ3a内において650℃に加熱すると共に、2.0×105Paに加圧した。次いで、0.1×105Pa(0.1atm)に減圧し、600℃に加熱した金型4内に溶湯を移動させてマグネシウム合金発泡体を製造した。製造したマグネシウム合金発泡体の目視による断面観察結果は、表2に示すとおりである。
【0045】
比較例1として、図1に示す発泡体成形装置1を用いて、アルミニウム合金(Al−Si)発泡体を成形した。このとき、2kgのアルミニウム合金の溶湯に、増粘剤としてCaを30g、発泡剤として水素化チタニウムを30g添加した。水素化チタニウムの添加にあたっては、アルミニウム合金の溶湯を630℃に加熱すると共に、1.0×105Paにした。その後に、630℃、1.0×105Paに保持した溶湯を攪拌し、攪拌した溶湯のうち、100g分を押出シリンダ3aへ移動させ、この押出シリンダ3a内において650℃で10分間加熱すると共に、2.0×105Paで10分間加圧した。
次いで、1.0×105Pa(1atm)で、600℃に加熱した金型4内に発泡した溶湯を押出してアルミニウム合金発泡体を製造した。製造したアルミニウム合金発泡体の目視による断面観察結果は、表2に示すとおりである。
【0046】
比較例2として、図1に示す発泡体成形装置1を用いて、マグネシウム合金(Mg−Al−Ca)発泡体を成形した。このとき、2kgのマグネシウム合金の溶湯に、発泡剤として水素化チタニウムを30g添加した。水素化チタニウムの添加にあたっては、マグネシウム合金の溶湯を620℃に加熱すると共に、圧力を1.0×105Paにした。
その後、620℃、1.0×105Paに保持した溶湯を攪拌し、攪拌した溶湯のうち、100g分を押出シリンダ3aへ移動させ、この押出シリンダ3a内において650℃で10分間加熱すると共に、2.0×105Paで10分間加圧した。次いで、1.0×105Pa(1atm)で、600℃に加熱した金型4内に発泡した溶湯を移動させてマグネシウム合金発泡体を製造した。製造したマグネシウム合金発泡体の目視による断面観察結果は、表2に示すとおりである。
【0047】
【表2】

上記表2によれば、比較例1では発泡した軽合金の充填状況が不良であり、比較例2では気孔が不均一である。対して、本発明の実施例1および2では何れも発泡した軽合金の充填状況が良好であり、そして本発明の実施例3では気孔が均一である。従って、本発明の軽合金発泡隊の製造方法によれば、充填状況が優れると共に、気孔が均一な3次元的な軽合金発泡体を効率良く成形することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の形態1に係る軽合金発泡体の発泡体成形装置の模式的断面構成説明図である。
【図2】本発明の形態2に係る軽合金発泡体の発泡体成形装置の模式的断面構成説明図である。
【図3】本発明の形態に係り、LogPと1000/Tとの関係グラフ図である。
【図4】従来例3に係る軽合金の射出発泡成形装置の一例を示す全体説明図である。
【符号の説明】
【0049】
1…発泡体成形装置
2…バレル,2a…ホッパー,2b…供給口,2c…混練スクリュ,2d…計量部,2e…可動部材,2f…温度調節手段
3…押出装置,3a…押出シリンダ,3b…押出ノズル,3c…伸縮装置,3d…ピストンロッド,3e…ピストン,3f…ガス導入装置
4…金型,4a…移動金型,4b…固定金型,4c…キャビティ
5…真空ポンプ
10…溶解炉,10a…攪拌装置
11…溶湯供給管路,11a…ポンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
増粘剤を所定割合添加した軽合金の溶湯に、高温で分解してガス成分を発生する発泡剤を、当該発泡剤の80%以上残存する温度、圧力下において所定量添加し、次いでこの溶湯を攪拌して発泡剤を分散させた後、当該溶湯の所定量を計量して押出準備領域に移行し、当該移行した溶湯を前記準備領域で加熱・加圧を行い、当該加熱・加圧された溶湯を1×105Pa未満の圧力に減圧された金型内に押出すことにより軽合金発泡体を成形することを特徴とする軽合金発泡体の成形方法。
【請求項2】
増粘剤を所定割合添加した軽合金の溶湯に、高温で分解してガス成分を発生する発泡剤を、当該発泡剤の80%以上残存する温度、圧力下において所定量添加し、次いでこの溶湯を攪拌して発泡剤を分散させた後、当該溶湯を加熱・加圧し、当該加熱・加圧された溶湯を1×105Pa未満の圧力に減圧された金型内に移動させることにより軽合金発泡体を成形することを特徴とする軽合金発泡体の成形方法。
【請求項3】
前記軽合金が、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金のうちの何れかである請求項1または2のうちの何れか一つの項に記載の軽合金発泡体の成形方法。
【請求項4】
前記発泡剤が水素化チタニウムである請求項1乃至3のうちの何れか一つの項に記載の軽合金発泡体の成形方法。
【請求項5】
前記発泡剤攪拌時の溶湯の温度T1(K)および圧力P1(Pa)が下記(1)式を満たす条件である請求項1乃至4のうちの何れか一つの項に記載の軽合金発泡体の成形方法。
LogP1≧−8490/T1+14.23‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(1)
【請求項6】
金型内に押出または移動前の溶湯の温度T2(K)および圧力P2(Pa)が下記(2)式を満たす条件である請求項1乃至5のうちの何れか一つの項に記載の軽合金発泡体の成形方法。
LogP2≧−8490/T2+14.23‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(2)
ただし、T2≧T1
【請求項7】
金型内に押出または移動前の温度T2(K)および金型内での圧力P3(Pa)が下記(3)式を満たす条件である請求項6に記載の軽合金発泡体の成形方法。
LogP3≦−8490/T2+14.23‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(3)


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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