説明

軽水炉使用済燃料の再処理方法および装置

本発明は、軽水炉使用済燃料を処理して外部からプルトニウムを添加せずに高速炉燃料を得る軽水炉使用済燃料の再処理方法および装置に関し、軽水炉使用済燃料(1)を溶出用陽極(2)として溶出用陰極(3)と共に酸化ウラン供給源が添加された溶出用溶融塩(4)に浸して電圧を印加し、軽水炉使用済燃料(1)から酸化ウラン(6)を溶出用溶融塩(4)中に溶出させると共に溶出用陰極(3)に析出させる酸化ウラン溶出工程を実施する酸化ウラン溶出部(8)と、溶出用陽極(2)の残留物(10)を還元用陰極(11)として還元用陽極(12)と共に酸素供給源が添加された還元用溶融塩(13)に浸し、還元用陽極(12)及び陰極(11)の間に電圧を印加して残留物(10)を還元して合金を得る電解還元部(16)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、軽水炉使用済燃料の再処理方法および装置に関する。更に詳述すると、本発明は電解を利用した軽水炉使用済燃料の再処理方法および装置に関する。
技術用語
本明細書中で「軽水炉使用済燃料]とはいわゆる軽水炉使用済燃料のほかに軽水炉MOX使用済燃料を含む概念である。
【背景技術】
原子力発電所の使用済み酸化物燃料に含まれる核燃料物質を金属に還元して回収する方法を開発するための試験として、核分裂反応で生成される元素と酸化ウランとから成る模擬使用済ペレットを陰極にすると共に黒鉛を陽極にして塩化カルシウム溶融塩中において電気分解を行う手法が実施されている(電解還元技術に基づく酸化物燃料の乾式簡易再処理法(I)−模擬使用済酸化物燃料の電解還元試験−、日本原子力学会2002年春の年会予稿集第III分冊、P.610)。これによると、陰極の酸化ウランが金属ウランに還元されると共に、希土類元素の一部とアルカリ土類元素が塩中に溶出することが確認されている。
また、酸化ウランを陰極にすると共に白金を陽極にして塩化リチウム溶融塩中において電気分解を行う手法が実施されている(″Electrochemical reduction of metal oxides in molted salts″、Light Metals 2002,ed.,W.Schneider,TMS(The Minerals,Metals & Materials Society)、P.1075)。これによると、陰極の酸化ウランが金属ウランに還元される。
しかしながら、上述した電解還元のみによる金属の還元回収方法では、軽水炉使用済燃料中のプルトニウム含有量はウランに対して通常1wt%程度に過ぎず、また元々プルトニウムが添加されているプルサーマル燃料であっても使用済燃料中のプルトニウム含有量はウランに対し5wt%程度に過ぎないことから、これらの電解還元方法を軽水炉使用済燃料に直接適用した場合に得られるウラン−プルトニウム合金のプルトニウム含有量は約5wt%以下に抑えられてしまう。このため、ウラン−プルトニウム合金のプルトニウム含有量が10−30wt%程度必要である高速炉燃料を得るためには、電解還元で回収したウラン−プルトニウム合金に外部からプルトニウムを添加しなければならず、プルトニウムを調達できることが必須となりコストも高くなってしまう。
【発明の開示】
そこで、本発明は、軽水炉使用済燃料を処理することにより外部からプルトニウムを添加することなく高速炉用金属燃料を得ることができる軽水炉使用済燃料の再処理方法およびこれを利用する装置を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するため、本発明の軽水炉使用済燃料の再処理方法は、再処理対象である軽水炉使用済燃料を脱被覆する脱被覆工程と、脱被覆後の軽水炉使用済燃料を溶出用陽極に保持して溶出用陰極と共に酸化ウラン供給源が添加された溶出用溶融塩に浸し、溶出用陽極および溶出用陰極に電圧を印加して軽水炉使用済燃料から酸化ウランを溶出用溶融塩中に溶出させると共に溶出用陰極に析出させる酸化ウラン溶出工程と、溶出用陽極の残留物を還元用陰極に保持して還元用陽極と共に酸素供給源が添加された還元用溶融塩に浸し、還元用陽極および還元用陰極に電圧を印加して残留物を還元する電解還元工程とを備えるようにしている。
また、本発明の軽水炉使用済燃料の再処理装置は、再処理対象である軽水炉使用済燃料を保持する溶出用陽極と、溶出用陰極と、溶出用陽極および溶出用陰極が浸される酸化ウラン供給源が添加された溶出用溶融塩と、該溶出用溶融塩を貯留する溶出用容器と、溶出用陽極および溶出用陰極に電圧を印加して軽水炉使用済燃料から酸化ウランを溶出用溶融塩中に溶出させる溶出用直流電源とを有する酸化ウラン溶出部と、溶出用陽極の残留物を保持する還元用陰極と、還元用陽極と、還元用腸極および還元用陰極が浸される酸素供給源が添加された還元用溶融塩と、該還元用溶融塩を貯留する還元用容器と、還元用陽極および還元用陰極に電圧を印加して残留物を還元する還元用直流電源とを有する電解還元部とを備えるようにしている。
したがって、まず酸化ウラン溶出工程において軽水炉使用済燃料からウランのみを取り除いて残存する酸化物中のプルトニウム含有量を相対的に高めてから、例えば10〜30wt%程度に高めてから、このプルトニウム含有量を高めた残留物に対して電解還元工程を実行して合金を得ることができるので、外部からプルトニウムを添加することなく、得られた合金をそのまま高速炉燃料の原料として使用することができる。
ここで、酸化ウランの溶融塩中への溶出量は通電量で決まるので、陽極に残留するプルトニウムなどの酸化ウランを除くものの全て(マイナーアクチニド元素(MA:ネプツニウム、アメリシウム、キュリウムなど)を含む)の含有量、即ちこれらと酸化ウランとの比率を自由に制御できる。
このように高速炉燃料の原料としては余剰の酸化ウランを先に取り除くことによって、電解還元工程で処理しなければならない軽水炉使用済燃料を大きく減容することは、再処理プロセス全体の経済性から見ても有利である。しかも、余剰のウランが化学的に安定な酸化物の形態で回収されることは、余剰ウランの貯蔵という観点からも利点である。
しかも、本発明の再処理方法によれば、プルトニウムだけでなく、長半減期核種であるマイナーアクチニド元素も金属として回収することができるため、環境負荷低減の面からも優れている。更に、プルトニウムなどの含有量は酸化ウラン溶出工程での通電量によって自由に制御できるので、任意に成分調整された高速炉用金属燃料として再生することができる。
また、本発明の再処理方法によれば、酸化ウラン溶出工程に先立ち脱被覆工程を実行して燃料被覆管のジルカロイ合金を予め除去するようにしているので、酸化ウラン溶出工程においてジルカロイ合金が優先的に溶解することにより酸化ウラン溶出の電流効率が低下することを防止して、陽極で軽水炉使用済燃料から高い電流効率で酸化ウランを溶出させることができると共に、ジルカロイ合金と混ざらない純度の高い酸化ウランを選択的に溶出用陰極に析出させて容易に回収することができる。
しかも、酸化ウラン溶出工程で酸化ウランを溶出用陰極に析出させて回収しているので、高純度の酸化ウランを回収することができる。ここで、酸化ウランは純度が高い方が核分裂生成物やプルトニウムが含有されて純度が低いものよりも放射能が低く取り扱いが容易で高速炉ブランケットの原料としての利用あるいは保管貯蔵に適している。このため、高純度の酸化ウランを得ることは取り扱いや保管などの観点から好ましい。
また、溶出用溶融塩には酸化ウラン供給源が、還元用溶融塩には酸素供給源が添加されている。ここで、酸化ウラン供給源としては塩化ウラニルが、酸素供給源としては酸化カルシウムの使用が好ましい。溶出用溶融塩への酸化ウラン供給源の添加は、操業初期から酸化ウラン供給源によって供給された酸化ウランを陰極に析出させうるので、陰極において溶出用溶融塩の成分である塩化リチウムが還元されて金属リチウムが発生することがなく処理速度を高めることができる。そして、操業中には軽水炉使用済燃料から溶融塩中に溶け出す分だけ酸化ウランが陰極に析出するため、追加の酸化ウラン供給源を用いることなく酸化ウランの溶出処理を継続することができる。また、還元用溶融塩への酸素供給源の添加は、操業初期から酸素供給源によって供給された酸化物イオンを電荷の担体として電解還元処理を行なうことができ、陽極から発生する気体は酸素や二酸化炭素になり、腐食性のある塩素ガスを発生させることがなく処理速度を高めることができる。そして、操業中には溶出用陽極の残留物から放出される酸化物イオンが電荷の担体として働くため、追加の酸素供給源を用いることなく電解還元処理を継続することができる。
さらに、本発明において、溶出用溶融塩は塩化リチウム−塩化カリウム溶融塩であることが好ましい。この場合、酸化ウランの溶出の操業温度を500℃程度に抑えることができるので、溶出用容器や管などの腐食を抑制することができ、再処理装置の初期設備導入コスト並びに保守・管理コストを削減できる。また、核分裂生成物の内でアルカリ金属、アルカリ土類金属、2価の希土類元素は、この塩化リチウム−塩化カリウム溶融塩中に蓄積するため、ゼオライトを用いて選択的に溶融塩中から除去することが可能である。よって、溶融塩を長期間使用することができ、塩廃棄物量が低減される。
また、本発明において、還元用溶融塩は塩化カルシウム溶融塩であることが好ましい。塩化カルシウム溶融塩では、塩を分解することなく印加できる電位の上限が大きいために(電位窓が広い)、希土類元素などの核分裂生成物の酸化物まで、溶出用陽極の残留物を全て金属に還元することができるために、得られた合金には酸素が残留しない。したがって、還元により得られる合金は、酸化物を除去する工程を付加することなく、そのまま高速炉用燃料の原料として利用できる。
【図面の簡単な説明】
図1は本発明の軽水炉使用済燃料の再処理装置の一実施形態を示す概略図である。図2は軽水炉使用済燃料の再処理方法の一実施形態を示すフロー図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。図1に本発明の軽水炉使用済燃料の再処理装置の一実施形態を示す。この再処理装置9は、大きく分けて軽水炉使用済燃料1から酸化ウランを溶出させる酸化ウラン溶出工程を実施する酸化ウラン溶出部8と、酸化ウラン溶出工程で酸化ウランの一部が除去された後のPu,U,FP,MA等が混じり合った酸化物から成る陽極残留物を金属に電解還元する電解還元工程を実施する電解還元部16とから構成されている。
酸化ウラン溶出部8は、再処理対象である軽水炉使用済燃料1を保持する溶出用陽極2と、溶出用陰極3と、溶出用陽極2および溶出用陰極3が浸される溶出用溶融塩4と、該溶出用溶融塩4を貯留する溶出用容器5と、溶出用陽極2および溶出用陰極3に電圧を印加して軽水炉使用済燃料1から酸化ウラン6を溶出用溶融塩4中に溶出させると共に溶出用陰極3に析出させる溶出用直流電源7とを有する。
この酸化ウラン溶出部8において、溶出用溶融塩4は、塩化リチウム−塩化カリウム溶融塩としている。このため、酸化ウラン6の溶出の操業温度を500℃程度に抑えることができ、溶出用容器5や管などの腐食を抑制することができる。また、溶出用溶融塩4には酸化ウラン供給源として塩化ウラニル(UOCl)を予め溶解しておく。これにより、操業初期から金属リチウムの析出を防止して酸化ウランの回収速度を高めることができ、溶出用陰極3において効率的に酸化ウラン6を回収することができる。
また、この酸化ウラン溶出部8では、溶出用陽極2に保持される軽水炉使用済燃料1と溶出用陰極3との間に印加される電圧は1V程度であるようにしている。但し、この値は溶出用溶融塩4の種類や温度、さらには各電極2,3の形状や大きさや間隔によって異なるものとなる。軽水炉使用済燃料の大部分は酸化ウランであるため、極めて小さい電流で電解をする場合には、電圧をほとんどかけなくても電解が進行することになるが、現実には電流値すなわち回収速度を高めるために1V程度の電圧を印加する必要があると推測できる。
そして、溶出用陽極2と溶出用陰極3とに与える通電量を調整することにより、軽水炉使用済燃料1から溶出する酸化ウラン6の量を変更することができる。これによって、軽水炉使用済燃料1に残存する酸化物中のプルトニウム含有量を相対的に高めることができる。例えば10−30wt%程度の目的値まで高めることができる。
また、溶出用陽極2では塩溶解性核分裂生成物であるアルカリ金属、アルカリ土類金属、2価の希土類元素、ハロゲンなどが溶出用溶融塩4中に溶出する。これらはそのまま塩中にとどまり、残留物10から除去される。
溶出用容器5は黒鉛やパイログラファイトなどの炭素製とする。そして、溶出用陽極2は黒鉛やパイログラファイトなどの炭素製のバスケット18を有している。このバスケット18の内部に軽水炉使用済燃料1が収容される。そして、バスケット18ごと溶出用溶融塩4に漬けられることにより、軽水炉使用済燃料1が溶出用溶融塩4に漬けられる。溶出用陰極3は黒鉛やパイログラファイトなどの炭素製としている。この溶出用陰極3に還元により酸化ウラン6が析出するようになる。
他方、電解還元部16は、酸化ウラン溶出部8で発生した溶出用陽極2の残留物(陽極残留物)10を保持する還元用陰極11と、還元用陽極12と、還元用陽極12および還元用陰極11が浸される還元用溶融塩13と、該還元用溶融塩13を貯留する還元用容器14と、還元用陽極12および還元用陰極11に電圧を印加して残留物10を還元する還元用直流電源15とを有する。
この電解還元部16では、還元用溶融塩13は塩化カルシウム溶融塩としている。そして、還元用溶融塩13には予め酸素供給源が添加されている。これにより、操業初期は酸素供給源によって供給された酸化物イオンを電荷の担体として電解還元処理を行なうことができ、操業中には残留物10から放出される酸化物イオンが電荷の担体として働く。よって、追加の酸素供給源を用いる必要はない。このように酸化物イオンを担体として残留物10の電解還元を行うことができるので、残留物10のプルトニウム等の燃料成分が還元用溶融塩13に溶け出すことがないために回収率を高めることができる。また、残留物10中の非溶出核分裂生成物からも酸素は除去され燃料成分と共に回収することができる。さらに、還元用陽極12から発生する気体は酸素や二酸化炭素になるので、腐食性のある塩素ガスが発生することを避けることができる。
そして、操業初期から酸素供給源によって供給された酸化物イオンを電荷の担体として電解還元処理を行なう場合、塩素ガスを発生させることがなく処理速度を高めることができる。還元用陽極12で塩素ガスを発生させないためには、操業処理速度に相当する速度で酸化物イオンが還元用陽極12に供給されなければならず、そのためには酸素供給源の添加量を増やすことや還元用溶融塩13中を効果的に攪拌することが有効であるが、一方、還元用溶融塩13中の酸化物イオン濃度の増加は、還元用陰極11での酸素の溶出を抑制する影響を及ぼすため、過剰に添加しない方が良い。
操業初期の酸素供給源としては酸化カルシウムを使用している。還元用溶融塩13は、塩化カルシウムを溶媒として0.01〜5wt%の酸化カルシウムを溶解したものとしている。酸化カルシウムを加えると塩化カルシウムの融点は元々の775℃から、最大で(CaOが3.4wt%の時)750℃まで低下する。
さらに、電解還元部16では、還元用陰極11に保持される残留物10と還元用陽極12との間に印加される実際の電圧を3V程度としている。この電圧設定で電解還元することにより、表1に示すような残留物10に含有される塩に非溶解性のFP酸化物を、ウラン、プルトニウムと共に完全に金属に還元することができる。本実施形態の電位差範囲で還元されない一部のFP、即ちアルカリ金属、アルカリ土類金属、2価の希土類元素などについては塩に溶解性であるため、酸化ウラン溶出工程ですでに溶出用溶融塩中に溶解して分離されている。そして、これら塩に溶解した核分裂生成物は、還元されないため陰極には析出せずに、塩中にとどまる。
アルカリ金属、アルカリ土類金属、2価の希土類元素が溶出用溶融塩である塩化リチウム 塩化カリウム溶融塩に溶解して除去され、還元用溶融塩である塩化カルシウム中に持ち込まれないことは廃棄物処理の点から有利である。即ち、アルカリ金属のセシウムとアルカリ土類金属のストロンチウムは発熱性の核分裂生成物であり、これらが溶融塩中に蓄積して行くとある時点でその発熱により溶融塩が使用できなくなる。ところが、塩化リチウム 塩化カリウム溶融塩では、ゼオライトを用いて溶融塩中からセシウムとストロンチウムを除去する技術が開発されている(金属燃料リサイクルプラントの設計評価(その4)使用済塩処理と廃棄物処理システム、日本原子力学会2001年秋の大会予稿集第III分冊、P.820)ことから、溶融塩を長期間使用できる。これに対し、塩化カルシウム溶融塩ではセシウムとストロンチウムを選択的に除去できないことから溶融塩を短期間しか使用できず、塩廃棄物量が増大してしまう。

還元用容器14はステンレス製、低炭素鋼製、あるいはチタンなどの特殊鋼製であることが好ましい。そして、還元用陰極11は炭素製、若しくはステンレス製、低炭素鋼製、ジルコニウムあるいはチタンなどの特殊鋼製のバスケット17の形態をとっている。このバスケット17の内部に残留物10が収容される。そして、バスケット17ごと還元用溶融塩13に漬けられることにより、残留物10が還元用溶融塩13に漬けられる。還元用陽極12は白金製であることが好ましい。
上述した軽水炉使用済燃料1の再処理装置9により軽水炉使用済燃料1を処理して酸化ウラン6を回収すると共にウラン−プルトニウム合金を得る手順を、図2に示すフローチャートに沿って説明する。
まず、軽水炉使用済燃料1を解体および剪断する(ステップ1:S1)。次いで、この解体および剪断された軽水炉使用済燃料1のジルカロイ被覆管を取り除く(脱被覆加熱工程(ステップ2:S2))。具体的には、解体した軽水炉使用済燃料1の燃料棒にスリットを入れ、大気中で約500℃に加熱する。これによりUOがUに酸化されて体積が膨張して被覆管が押し広げられる。そして、軽い振動を与えることにより酸化物が被覆管から分離されて回収される。更に、必要に応じて回収された酸化物を更に約1000℃にまで温度を上げて加熱処理してやれば、アルカリ金属、カルコゲン、ハロゲン、一部の貴金属などのうちの揮発性の核分裂生成物(FP)が除去される。燃料被覆管のジルカロイ合金を酸化ウラン溶出工程の前に除去することにより、酸化ウラン溶出工程において量的に酸化ウランに匹敵するジルカロイ合金が溶出して溶出用陰極3に析出することにより酸化ウラン6の析出を妨げたり、ジルカロイと混じり合った状態でしか酸化ウランを回収できなくなることを防止できる。また、酸化ウラン溶出工程以前に一部のFPを除去しておくことは溶出用溶融塩4にアルカリ金属などの塩溶解性のFPが蓄積していくことを抑制する効果があるが、酸化ウランの溶出および陰極での回収という点からは必要ないので、上述の約1000℃での加熱処理は場合によっては実施しなくとも良い。Uは必要に応じて水素を含む気流中で反応させれば、UOに還元される。
次に、ジルカロイ被覆管を取り除いた軽水炉使用済燃料1を入れた炭素製バスケット18を陽極2として炭素製陰極3との間で塩化ウラニルを溶解した溶融塩化物中で電解処理を行う(酸化ウラン溶出工程(ステップ3:S3))。この酸化ウラン溶出工程では、再処理対象である軽水炉使用済燃料1を溶出用陽極2に保持して溶出用陰極3と共に酸化ウラン供給源が添加された溶出用溶融塩4に浸し、溶出用陽極2および溶出用陰極3に電圧を印加して軽水炉使用済燃料1から酸化ウラン6を溶出用溶融塩4中に溶出させる。ここでは、酸化ウラン溶出部8を利用して溶出用溶融塩4を溶出用容器5に入れて500℃程度に加熱する。そして、脱被覆加熱処理工程で得られた軽水炉使用済燃料1を溶出用陽極2のバスケット18に収容して溶出用溶融塩4に浸す。また、溶出用陰極3も溶出用溶融塩4に浸す。陽極2と陰極3に溶出用直流電源7を接続して約1Vの電圧を印加することにより、軽水炉使用済燃料1から酸化ウラン6を溶出用溶融塩4中に溶出させる。このとき、溶出用陽極2と溶出用陰極3とに与える通電量を調整することにより、軽水炉使用済燃料1から溶出する酸化ウラン6の量を変更して軽水炉使用済燃料1に残存する酸化物中のプルトニウム含有量を例えば10〜30wt%程度に高める。
溶出用陽極2においては下記化学式1に示す反応によって酸化ウランが塩中に溶出する。
UO → UO2++2e …(1)
この溶出用陽極2ではプルトニウムやマイナーアクチニド元素は溶出しない。これは表2に示すように大量に存在する酸化ウラン6の酸化電位が酸化ネプツニウムや酸化プルトニウムに比較してマイナス側であるためである。

尚、この酸化ウラン回収電解においては、溶出用陽極2側で核分裂生成物の一部、即ちアルカリ金属、アルカリ土類金属、2価の希土類元素、ハロゲンなどの塩溶解性核分裂生成物が溶出用溶融塩4中に溶出するが、これらはそのまま塩中に止まり、回収される酸化ウラン6や残留物10から除去される。
さらに、溶出用陰極3においては下記化学式2に示す反応によってウラニルイオンが還元されて酸化ウラン6が析出する。
UO2++2e → UO …(2)
そして、溶出用溶融塩4には予めUOClが溶解されているので、溶出用陰極3において効率的に酸化ウラン6を回収することができる。これにより、高純度の酸化ウラン6を効率的に回収することができる。
ここで、酸化ウラン6の回収の後に塩素ガスを導入することにより、軽水炉使用済燃料1中のプルトニウムを溶出用溶融塩4中に溶解させて電解法あるいは沈殿法により核分裂生成物を十分に分離した酸化プルトニウムを回収することが考えられる。しかしながら、この回収のためには塩素ガスを多量に使用しなければならず、その腐食性を考慮すると設備の安全性を確保するためにコスト高になってしまう。また、軽水炉使用済燃料1中の核分裂生成物量は高速炉使用済燃料に比べて少ないので、プルトニウムから無理に分離しなくても高速炉燃料として用いることが可能である。このため、本実施形態のように軽水炉使用済燃料1中からプルトニウムを分離・回収せずそのまま合金として製品化することがコスト面から好ましい。
次に、酸化ウランが一部(例えば半分程度)除かれて、プルトニウムなどの酸化ウランを除くものの全ての含有量が相対的に高められた陽極残留物10を電解還元工程(ステップ4:S4)に移して還元処理を行う。この電解還元工程では、溶出用陽極2の残留物10を還元用陰極11に保持して還元用陽極12と共に酸素供給源が添加された還元用溶融塩13に浸し、還元用陽極12および還元用陰極11に電圧を印加して残留物10を還元するようにしている。ここでは、電解還元部16を利用して還元用溶融塩13を還元用容器14に入れて約800℃で溶融させる。そして、酸化ウラン溶出工程での残留物10を還元用陰極11のバスケットに収容して還元用溶融塩13に浸す。また、還元用陽極12も還元用溶融塩13に浸す。陽極と陰極に還元用直流電源15を接続して約3Vの電圧を印加することにより、残留物10の電解還元を行う。
これにより、酸化カルシウムにより供給される酸化物イオンおよび還元用陰極から溶出する酸化物イオンが還元用溶融塩13中を還元用陽極に移行する。また、残留物10では固溶する酸素がイオン伝導体として作用する。
還元用陰極11においては下記化学式3に示す反応によってアクチニド酸化物が金属に還元されて合金の製品になる。
MO+4e → M+2O2− …(3)
(ただし、MはU,Np,Puなど)
ここで、核分裂生成物の中で非溶出FPは酸化ウランや酸化プルトニウムと同時に還元することができる。よって、最終製品である合金にはウランおよびプルトニウムの他に、非溶出FPやマイナーアクチニドを含む。
還元された金属はバスケット17の引き上げにより還元用溶融塩13から取り出され、必要に応じて付着塩を除去することにより新たな金属製の核燃料の原料になる。本実施形態により得られた合金はプルトニウム含有量を10−30wt%に増加しているため付着塩を除去するだけで、そのまま高速炉燃料の原料とすることができる。また、ウラン、プルトニウム、マイナーアクチニドのロスがない条件で核分裂生成物の約40%を占める溶出FPが除染されている。
さらに、還元用陽極12においては下記化学式4に示す反応によって酸素ガスが発生する。
2O2− → O+4e …(4)
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば本実施形態では、酸化ウラン供給源や酸素供給源を予め各溶融塩中に添加しているが、塩素ガスを取り扱える設備を備えている再処理装置においては、予め酸化ウラン供給源や酸素供給源を添加しておく必要はない。軽水炉使用済燃料から酸化ウランを溶かし出すこと及び陽極残留物から酸素を溶かし出すことにおいて処理速度的にも何らの問題はなく、操業初期に溶出用陰極に塩素ガスを供給すること及び還元用陽極から発生する塩素ガスを回収することを各々行えばよい。しかしながら、酸化ウラン供給源や酸素供給源を予め添加した各溶融塩を使用する方が、塩素ガスを取り扱える設備を備え無くて済み、再処理装置の設備コストや保守・管理コストを削減できる。
また、上述した実施形態では酸化ウラン溶出工程において純度の高い酸化ウランを回収することにしているが、高純度で酸化ウランを回収した後に、必要に応じて陽極の電位をよりプラス側に設定することにより、核分裂生成物のパラジウム、ロジウム、ルテニウムなどを酸化ウランと共に回収して、陽極に残留するプルトニウムから取り除くことができる。これは表2に示すようにこれらの核分裂生成物の酸化電位が酸化ウランに比較して少しだけプラス側にあるためである。
また、上述した実施形態では溶出用溶融塩4として塩化リチウム−塩化カリウム溶融塩を使用しているが、これには限られずより高温での操業が可能で気相中の水分の影響を受けにくい塩化ナトリウム−塩化カリウム溶融塩やそれに塩化セシウムや塩化リチウムを加えた塩を使用することができる。
さらに、上述した実施形態では還元用溶融塩13として塩化カルシウム溶融塩を使用しているが、これには限られず融点を降下させるために塩化カルシウムに塩化バリウムや塩化カリウムなどを加えた塩、あるいはアルカリ金属塩化物から成る塩を使用することができる。
そして、上述した実施形態では操業初期の酸素供給源として酸化カルシウムを使用しているが、これには限られず酸化リチウムや酸化バリウムなどの還元用溶融塩13に可溶の酸化物を溶融塩の種類に応じて使用することができる。
また、上述した実施形態では還元用陽極12は白金製としているが、これには限られず例えば炭素製にしても良い。この場合、還元用陽極12の表面で酸化物イオンが炭素と反応して二酸化炭素や一酸化炭素になる。この二酸化炭素や一酸化炭素は気泡になって気相中に排出される。この場合、還元用陽極12は消耗するので定期的に交換するようにする。
さらに、上述した実施形態では電解還元部16で残留物10と還元用陽極12との間に印加される実際の電圧を約3Vとしているが、装置の設計条件などの要因によって電位はこれには限られない。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
再処理対象である軽水炉使用済燃料を脱被覆する脱被覆工程と、脱被覆後の前記軽水炉使用済燃料を溶出用陽極に保持して溶出用陰極と共に酸化ウラン供給源が添加された溶出用溶融塩に浸し、前記溶出用陽極および前記溶出用陰極に電圧を印加して前記軽水炉使用済燃料から酸化ウランを前記溶出用溶融塩中に溶出させると共に前記溶出用陰極に析出させる酸化ウラン溶出工程と、前記溶出用陽極の残留物を還元用陰極に保持して還元用陽極と共に酸素供給源が添加された還元用溶融塩に浸し、前記還元用陽極および前記還元用陰極に電圧を印加して前記残留物を還元する電解還元工程とを備えることを特徴とする軽水炉使用済燃料の再処理方法。
【請求項2】
前記溶出用溶融塩は塩化リチウム−塩化カリウム溶融塩であることを特徴とする請求の範囲第1項記載の軽水炉使用済燃料の再処理方法。
【請求項3】
前記還元用溶融塩は塩化カルシウム溶融塩であることを特徴とする請求の範囲第1項記載の軽水炉使用済燃料の再処理方法。
【請求項4】
前記酸化ウラン供給源は、塩化ウラニルであることを特徴とする請求の範囲第1項記載の軽水炉使用済燃料の再処理方法。
【請求項5】
前記酸素供給源は酸化カルシウムであることを特徴とする請求の範囲第1項記載の軽水炉使用済燃料の再処理方法。
【請求項6】
再処理対象である軽水炉使用済燃料を保持する溶出用陽極と、溶出用陰極と、前記溶出用陽極および前記溶出用陰極が浸される酸化ウラン供給源が添加された溶出用溶融塩と、該溶出用溶融塩を貯留する溶出用容器と、前記溶出用陽極および前記溶出用陰極に電圧を印加して前記軽水炉使用済燃料から酸化ウランを前記溶出用溶融塩中に溶出させると共に前記溶出用陰極に析出させる溶出用直流電源とを有する酸化ウラン溶出部と、前記溶出用陽極の残留物を保持する還元用陰極と、還元用陽極と、前記還元用陽極および前記還元用陰極が浸される酸素供給源が添加された還元用溶融塩と、該還元用溶融塩を貯留する還元用容器と、前記還元用陽極および前記還元用陰極に電圧を印加して前記残留物を還元する還元用直流電源とを有する電解還元部とを備えることを特徴とする軽水炉使用済燃料の再処理装置。
【請求項7】
前記溶出用溶融塩は塩化リチウム−塩化カリウム溶融塩であることを特徴とする請求の範囲第6項記載の軽水炉使用済燃料の再処理装置。
【請求項8】
前記還元用溶融塩は塩化カルシウム溶融塩であることを特徴とする請求の範囲第6項記載の軽水炉使用済燃料の再処理装置。
【請求項9】
前記酸化ウラン供給源は、塩化ウラニルであることを特徴とする請求の範囲第6項記載の軽水炉使用済燃料の再処理装置。
【請求項10】
前記酸素供給源は酸化カルシウムであることを特徴とする請求の範囲第6項記載の軽水炉使用済燃料の再処理装置。

【国際公開番号】WO2004/036595
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【発行日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−544970(P2004−544970)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013255
【国際出願日】平成15年10月16日(2003.10.16)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)