説明

軽油代替燃料用の脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法

【課題】動植物油脂を含む原料から、軽油代替燃料として好適に使用できる高純度の脂肪酸低級アルキルエステルを高収率で安定に生産する。
【解決手段】カチオン交換樹脂を使用して、原料中の脂肪酸を低級アルキルアルコールでエステル化し、酸価が2以下のエステル混合油を含む反応混合物を得るエステル化工程(A)、酸価に応じてアルカリ触媒の量を調整しながら、エステル混合油中の油脂を低級アルキルアルコールでエステル交換する1段目の工程を備えたエステル交換反応工程(B)、工程(B)での副生セッケンをpH2〜5の条件下、酸分解して脂肪酸とし、脂肪酸を返送するリサイクル工程(R)、エステル交換反応工程(B)で得られた油相から脂肪酸低級アルキルエステルを留出させる減圧蒸留工程を備えた蒸留工程(C)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽油代替燃料に好適に使用される脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽油代替燃料として、動植物に由来する有機物をエネルギー源としたバイオマス燃料が注目されている。軽油は、石油製品の一種で、原油の蒸留に際し燈油と重油の間で留出する部分をいい、沸点範囲がおよそ250〜400℃のものである(「化学大辞典」共立出版(株)、昭和56年10月15日第26刷発行)。
バイオマス燃料の1つとして、天然油脂を原料とし、これをメタノールなどの低級アルキルアルコールでエステル交換反応した脂肪酸低級アルキルエステルがあり、例えば特許文献1および2には、脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開昭59−5142号公報
【特許文献2】特許第3046999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような従来の製造方法で得られた脂肪酸低級アルキルエステルは、各種成分の含有量などが定められた軽油代替燃料のEU規格を必ずしもクリアできず、軽油代替燃料として使用できない場合が多かった。仮に、EU規格から外れたものを軽油代替燃料として使用すると、燃料供給ラインや燃料噴射ノズルの目詰まりが生じるなどの問題が生じる。また、従来の脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法は製造歩留まりが低く、原料に対する脂肪酸低級アルキルエステルの収率が不十分であるという問題もあった。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、軽油代替燃料として好適に使用できる高純度の脂肪酸低級アルキルエステルを高収率で安定に生産することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法は、動植物油脂を含む原料から、軽油代替燃料用の脂肪酸低級アルキルエステルを製造する方法であって、カチオン交換樹脂を使用して、前記原料中の脂肪酸を低級アルキルアルコールでエステル化し、酸価が2以下のエステル混合油を含む反応混合物を得るエステル化工程(A)と、アルカリ触媒の量を前記エステル混合油100質量部に対して0.1〜1質量部の範囲内で、前記酸価に応じて調整しながら、前記エステル混合油中の油脂を低級アルキルアルコールでエステル交換する1段目の工程を少なくとも備えたエステル交換反応工程(B)と、前記エステル交換反応工程(B)で副生したセッケンをpH2〜5の条件下、酸で分解して脂肪酸とし、該脂肪酸を前記エステル化工程(A)または該エステル化工程(A)よりも前段側の工程に返送するリサイクル工程(R)と、前記エステル交換反応工程(B)で得られた油相から、脂肪酸低級アルキルエステルを留出させる減圧蒸留工程を少なくとも備えた蒸留工程(C)とを有することを特徴とする。
前記動植物油脂が未精製油脂である場合、該未精製油脂からガム質を除去する脱ガム工程(P)を前記エステル化工程(A)の前段側に有することが好ましい。
前記脱ガム工程(P)は、前記未精製油脂にリン酸からなる変性剤とパーライトからなる吸着剤とを混合し、得られた混合物をろ過する工程であることが好ましい。
前記エステル交換反応工程(B)は2段の工程からなることが好ましい。
前記アルカリ触媒として水酸化ナトリウムを使用するとともに、前記酸として硫酸を使用して、前記リサイクル工程(R)で硫酸ナトリウムを副生させることが好ましい。
前記蒸留工程(C)は、留出させる前記脂肪酸低級アルキルエステルの炭素数が異なる2段以上の減圧蒸留工程を有することが好ましい。
前記動植物性油脂の主成分が炭素数16および/または18の脂肪酸に由来する油脂の場合、前記減圧蒸留工程のうち最後段の工程で留出する留出液中のグリセライドの含有量が0.1質量%以下となるように、前記最後段の工程の蒸留条件を下記(i)〜(iii)を満足するように設定することが好ましい。
(i)蒸留塔のトップ圧力を0.1〜1kPaとし、ボトム圧力を2〜5kPaとする。(ii)蒸留塔のトップ温度を150〜200℃とし、ボトム温度を190〜220℃とする。
(iii)還流比を0〜1とし、蒸発率を95〜99%とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、軽油代替燃料として好適に使用できる高純度の脂肪酸低級アルキルエステルを高収率で安定に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の製造方法で原料として使用される動植物油脂は、動物(微生物を含む)や、植物に由来し、油脂(脂肪酸トリグリセライド)を主成分とするものである。動物由来のものとしては、牛脂、豚脂などが挙げられ、植物由来のものとしては、ヤシ油、パーム核油、パーム油、ナタネ油、大豆油、ヒマワリ油、コーン油などが挙げられる。これら動植物油脂としては、リン脂質を主成分とするガム質、遊離している脂肪酸(以下、遊離脂肪酸という場合もある。)、臭気成分などを含んだままの未精製の未精製油脂であってもよいし、精製処理によりこれらの少なくとも一部が除去された精製油脂であってもよい。なお、以下、主成分とは、少なくとも50%を占める成分のことを指す。
【0008】
また、動植物油脂は、1種を単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。さらに、動植物油脂には、例えば、他の物質などの製造過程で回収された脂肪酸を混合して使用してもよい。このような脂肪酸が多すぎると、各工程に悪影響が及ぶ場合があるため、動植物油脂100質量部に対して5質量部以下が好ましい。
【0009】
未精製油脂としては、例えば、粗パームなどが好適に使用できる。粗パーム油は、アブラヤシの果肉を圧搾して得られ、炭素数16〜18の脂肪酸の油脂を主成分とする未精製の混合物である。粗パーム油には、他に、カロチン、リン脂質、タンパク質、樹脂状物質などのガム質、遊離脂肪酸、炭素数20の脂肪酸の油脂などが含まれる。粗パーム油としては、遊離脂肪酸の含有量が5質量%以下、過酸化物価が5 m equivalent/kg以下のものが特に好ましい。
【0010】
図1は、本発明の製造方法の一例を示す概略工程図であって、原料の動植物油脂として、未精製油脂である粗パーム油を使用する場合について示している。
粗パーム油のような未精製油脂を使用する場合には、まず、脱ガム工程(P)を行った後、原料中の脂肪酸のエステル化工程(A)を行い、その後、エステル交換反応工程(B)と蒸留工程(C)とを実施する。精製油脂を使用する場合には、脱ガム工程(P)を行わずに、エステル化工程(A)を行うことができる。また、リサイクル工程(R)は、エステル交換反応工程(B)で副生したセッケンを酸で分解して脂肪酸とし、この脂肪酸を再利用するためのものである。図2にはリサイクル工程(R)の一例を示している。
【0011】
[脱ガム工程(P)]
脱ガム工程(P)は、原料に未精製油脂を使用する場合において、未精製油脂に含まれるリン脂質を主成分とするガム質や、コロイド状不純物などの不溶物をあらかじめ除去するための工程であって、この工程を実施した後、エステル化工程(A)を行う。
脱ガム工程(P)の具体的な方法には特に制限はなく、温水とともに吸着剤を未精製油脂に混合し、得られた混合物をその後ろ過して、不溶物を除去する方法でもよいが、図示のように、未精製油脂に変性剤としてリン酸を添加するとともに吸着剤を添加してろ過する方法が好ましい。リン酸を使用すると脱ガム率が高まり、後の各工程で副生物を分離し易くなるため、分離効率が向上する。その結果、高純度の脂肪酸低級アルキルエステルが高収率で得られるようになる。吸着剤としては、パーライト、ケイソウ土、活性白土などを使用できるが、ケイソウ土、パーライトが好ましく、より高い吸着能を有していることからパーライトがより好ましい。なお、パーライトとは、黒曜石を高温で熱処理してできる発泡体である。
【0012】
具体的には、未精製油脂を好ましくは50〜70℃、より好ましくは60〜70℃に加熱し、これにリン酸とパーライトとを添加し、好ましくは1〜60分間、より好ましくは10〜40分間混合撹拌する。混合撹拌の後、この混合物を、布フィルタなどのフィルタを備えたろ過器でろ過することにより、不溶物が除去され、脱ガム物がろ液として得られる。処理温度が50〜70℃であると、未精製油脂中の有用な成分を変質させたり、劣化させたりすることがないとともに、効果的に脱ガムできる。
【0013】
ここでリン酸の添加量は、未精製油脂100質量部に対して0.01〜0.1質量部が好ましい。0.01質量部以上であると、脱ガムが効果的に進行し、一方、0.1質量部以下であると、脱ガムに寄与しなかったリン酸が残存しにくく、残存リン酸に由来するエステル交換反応工程(B)での不溶塩の生成も抑制される傾向がある。また、リン酸の添加量は、未精製油脂のガム質含有量に応じて、適宜調整することがより好ましい。なお、ガム質含有量は、A.O.C.S試験法Ca 9f−57により測定可能である。
【0014】
また、リン酸は水溶液の形態で添加されることが好ましく、その場合、リン酸水溶液のリン酸濃度は70質量%以上が好ましく、より好ましくは75〜90質量%である。このような濃度であると、溶媒である水が脱ガム工程(P)よりも後段の工程に悪影響を与えるおそれや、ガム質のろ過性を悪化させるおそれが少なく、好適である。
パーライトの添加量は、未精製油脂100質量部に対して、0.03〜0.15質量部が好ましく、より好ましくは0.03〜0.1質量部であり、さらに好ましくは0.03〜0.05質量部である。0.03質量部以上であると、脱ガムが効果的に進行し、一方、0.15質量部以下であると、未精製油脂のロスが抑えられるとともに、廃棄されるパーライト量も少なくできる。
【0015】
なお、脱ガム工程(P)では、吸着剤を多めに配合した未精製油脂をフィルタに循環供給して、フィルタの表面にプレコート相を形成させ、ろ過をより円滑に行えるようにしてもよい。その際のパーライトの添加量は、未精製油脂100質量部に対して、好ましくは0.2〜1.0質量部、より好ましくは0.2〜0.7質量部、さらに好ましくは0.2〜0.4質量部である。この場合でも、パーライトの添加量がこのような範囲であると、未精製油脂のロスを抑え、廃棄されるパーライト量を少なくしつつ、効果的に脱ガムすることができる。
【0016】
また、脱ガム工程(P)の前後や、脱ガム工程(P)中において、必要に応じて未精製油脂から夾雑物を除去することが好ましい。夾雑物は、前記ガム質の除去と同じ方法、同じ装置により除去してもよいし、未精製油脂貯蔵タンクでの静置分離またはろ過装置、遠心分離等の方法で除去することができる。夾雑物としては、土、砂利、ゴミがあり、場合によっては金属分等が含まれることもある。また、脱ガム物の水分含有量は2000ppm以下であることが好ましく、これを超える場合には、ここで水分を適宜除去することが好ましい。これは、多量の水分は後のエステル交換反応工程(B)におけるエステル交換反応率に悪影響を与えるおそれがあるためである。
【0017】
[エステル化工程(A)]
エステル化工程(A)は、カチオン交換樹脂を使用して原料中の脂肪酸を低級アルキルアルコールでエステル化し、エステル混合油を含む反応混合物を得る工程である。
なお、ここで反応混合物とは、エステル化工程(A)で得られた未処理の混合物のことであって、エステル化工程(A)で生成したエステルと、原料の主成分である油脂と、原料に元々含まれる他の成分とからなるエステル混合油に加えて、未反応の低級アルキルアルコールや副生した水分を含んだものを指す。すなわち、エステル化工程(A)で得られた未処理の混合物である反応混合物から、低級アルキルアルコールと水分とを除いたものがエステル混合油である。
【0018】
脂肪酸には、原料に元々含まれる遊離脂肪酸と、エステル交換反応工程(B)で副生し、リサイクル工程(R)により回収、返送された回収脂肪酸とがあり、どちらもここでのエステル化の対象となる。
【0019】
また、エステル化工程(A)に供される原料の水分含有量は、2000ppm以下であることが、エステル交換反応工程(B)におけるエステル交換反応率の点から好ましい。原料が未精製油脂を含むものであって、すでに脱ガム工程(P)が施されている場合には、先述したように、脱ガム工程(P)において水分含有量が2000ppm以下にまで低減されていることが好ましい。原料に精製油脂を使用する場合には、すでに水分含有量が2000ppm以下にまで低減されているものも多いが、2000ppmを超えるものの場合には、より水分含有量の少ない他の精製油脂を混合するなどして、このような水分含有量にまで低下させておくことが好ましい。
【0020】
また、このエステル化工程(A)では、エステル混合油の酸価が2以下、好ましくは1以下、より好ましくは0.1〜0.5となるように、エステル化を行う。エステル化工程(A)で到達させるエステル混合油の酸価は低いほど好ましいが、現実的な下限は0.1程度である。酸価を2以下とするためには、カラムの種類、カラム温度、カラム滞留時間、低級アルキルアルコールの使用量などの条件を調整すればよい。
このようなエステル化工程(A)をエステル交換反応工程(B)の前に行うことは、最終的に得られる脂肪酸低級アルキルエステルを軽油代替燃料として使用する場合において非常に重要である。
【0021】
すなわち、エステル混合油に、その酸価が2を超えるほどの脂肪酸が含まれると、エステル交換反応工程(B)で使用するアルカリ触媒がこの脂肪酸に消費されてしまい、目的とするエステル交換が進行しないばかりでなく、大量のセッケンが副生することになる。それでも尚、エステル交換を進行させようとすれば、アルカリ触媒が大量に必要になり、油脂のケン化が進行しセッケンの生成量がますます増大する。セッケンなどの副生物は、燃料供給ラインや燃料噴射ノズルの目詰まりを引き起こす原因になると考えられるし、大量であれば、その分離作業や製造歩留まりに悪影響を及ぼすとともに、リサイクル工程(R)の負荷も大きくなり好ましくない。
よって、エステル化工程(A)において、酸価が2以下となるように脂肪酸をあらかじめエステル化しておくことにより、軽油代替燃料として使用した際の目詰まりが抑制された高純度な脂肪酸低級アルキルエステルが、高収率で円滑に得られる。
【0022】
なお、酸価とは、試料1gあたり、中和に要した水酸化カリウムの質量(mg)で表される酸性物質の濃度であって、油脂の場合、脂肪酸の濃度を意味する。酸価=1とは、脂肪酸濃度0.46質量%(パルミチン酸換算)に相当する。酸価はAVと呼ばれる場合もある。
実際の測定に際しては、反応混合物をエバポレータで吸引して未反応の低級アルキルアルコールや水分を除去してエステル混合油を得て、これをさらに無水硫酸ナトリウムを含ませたろ紙に通して前処理した後、中和滴定する方法が好ましい。
【0023】
さらに、このようなエステル化工程(A)は、脂肪酸を系外へ除去するのではなく、脂肪酸低級アルキルエステルに変換するものであるので、原料ベースの製造歩留まりを高く維持することができる。しかも、このようなエステル化工程(A)は、エステル交換反応工程(B)の前に実施され、脱ガム工程(P)が実施される場合には、脱ガム工程(P)とエステル交換反応工程(B)との間に連続的に行われるものであるので、非常に効率的である。系外に除去した脂肪酸を別のラインでエステル化した後、これを最終的に得られる脂肪酸低級アルキルエステルに混合することで製造歩留まりを維持する方法なども考えられるが、そのような方法は効率的ではない。
【0024】
また、エステル化工程(A)では、脂肪酸の低級アルキルエステルとともに水が生成するため、原料中に大量の脂肪酸が含まれると、エステル化で生成する水の量もそれにともなって多くなる。多量の水の存在は、ついで実施されるエステル交換反応工程(B)でのエステル交換反応率に悪影響を与えるおそれがある。よって、エステル化工程(A)で処理される原料中の脂肪酸の量は、酸価として15以下であることが好ましく、12以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい。原料の酸価が15以下であると、エステル化工程(B)において、エステル混合油の酸価が2以下になるように原料をエステル化した場合に、エステル化にともなって生成する水の量が過剰にならず、反応混合物中の水分含有量が5000ppm以下に抑えられる傾向にある。このような水分含有量であれば、反応混合物から水分を分離せずに、これをエステル交換反応工程(B)に供しても、水分がエステル交換反応率に大きな影響を与えることはない。なお、ここで言う原料の酸価とは、遊離脂肪酸に由来する酸価だけでなく回収脂肪酸に由来する酸価も含まれる。
【0025】
さらに本発明におけるエステル化工程(A)では、カチオン交換樹脂を使用してエステル化を行う。よって、原料をカチオン交換樹脂に接触させる簡単な方法で、連続的にエステル化を進行させることができるうえ、固体触媒を使用する方法や、硫酸などの酸を加える方法などの他のエステル化方法に比べて、高いエステル化反応率が達成できる。また、酸を加える方法では、原料である動植物油脂の品質劣化や、装置の腐食などの問題もあるが、カチオン交換樹脂を使用した方法では、このような問題も生じない。
【0026】
さらに、カチオン交換樹脂としては、酸型固形カチオン交換樹脂、酸性ゲル型カチオン交換樹脂などがあるが、特に酸性ゲル型カチオン交換樹脂を使用すると、エステル化反応率がより高まるため好ましい。この理由については明らかではないが次のように推察できる。すなわち、酸型固形カチオン交換樹脂は、エステル化反応で生成した水が付着または吸着することにより触媒能が低下するが、酸性ゲル型カチオン交換樹脂では、水を水和水として取り込むことができるため、水による触媒能の低下が生じないことに起因すると考えられる。
酸性ゲル型カチオン交換樹脂の架橋度は、3〜10%の範囲が好ましい。3%以上であれば、樹脂強度の点で好ましく、10%以下であれば、脂肪酸の除去効率の点から好ましい。架橋度は、さらに好ましくは4〜8%である。なかでも、脂肪酸のエステル化反応率が最も高く、樹脂の機械的強度が十分であることなどから、架橋度4%のものが特に好ましい。
【0027】
好適に使用できる酸性ゲル型カチオン交換樹脂としては、例えば、スチレン−ジビニルベンゼンコポリマーのスルホン化物などが挙げられ、例えば、三菱化学社製のダイヤイオンSK104(商品名、架橋度4%)、同SK106(商品名、架橋度6%)、同SK 1B(商品名、架橋度6%)および同SK110(商品名、架橋度10%)や、ダウケミカル社製ダウエックス(商品名、架橋度4%)、ローム・アンド・ハース社製のアンバーライト(商品名、架橋度4%)などが挙げられる。
【0028】
エステル化工程(A)の具体的な方法としては、カチオン交換樹脂が充填されたカラムを用意し、低級アルキルアルコールと原料との混合物をカラムに供給し、通過させる方法が挙げられる。
カラムを通過させる際の条件は、カラム温度が好ましくは40〜70℃、より好ましくは50〜65℃、さらに好ましくは60〜65℃で、カラム滞留時間が好ましくは60〜480分間、より好ましくは90〜360分間、さらに好ましくは90〜240分間である。このような温度およびカラム滞留時間であると、混合物の流動性が良好で、反応速度も十分であるとともに、カラムを過度に大型化したり、耐圧化したりする必要もなく、効率的である。
【0029】
なお、低級アルキルアルコールと原料との混合物をカラムに供給する前には、前処理として、カチオン交換樹脂をアルコールで洗浄しておくことが好ましい。洗浄のためのアルコールとしては、エステル化反応に使用するものと同じ低級アルキルアルコールを使用することが好ましい。また、このような洗浄は、カラムに通す前後のアルコール中の水分が変化しなくなるまで行うことが好ましい。このように洗浄することにより、カチオン交換樹脂中の水分がアルコールで置換され、脂肪酸のエステル化効率をより高めることができる。具体的には、カチオン交換樹脂の2〜5倍容量のアルコールで洗浄することが好ましい。
【0030】
低級アルキルアルコールとしては、炭素数4以下のアルコールが使用でき、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどが挙げられる。これらは1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよいが、好適には、図示のようにメタノールを使用する。
また、低級アルキルアルコールの添加量は、原料中の脂肪酸分布に応じて適宜決定されるが、原料100質量部に対して、好ましくは5〜50質量部であり、より好ましくは10〜30質量部、さらに好ましくは15〜25質量部である。このような範囲内であると、十分なエステル化反応率が得られるとともに、低級アルキルアルコールの回収コストや設備容量の過度の増大を抑制できる。
また、低級アルキルアルコール中の水分量は低いほど好ましいが、現実的には、1500ppm以下が好ましく、より好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは600ppm以下である。
【0031】
[エステル交換反応工程(B)]
このようなエステル化工程(A)の後、アルカリ触媒を使用して、エステル混合油中の油脂を低級アルキルアルコールでエステル交換するエステル交換反応工程(B)を行う。ここでエステル交換の対象となる油脂とは、原料の動植物油脂の主成分として存在しているものである。このエステル交換により、脂肪酸低級アルキルエステルとグリセリンとが生成する。
【0032】
アルカリ触媒は、品質の良い脂肪酸低級アルキルエステルが低温で得られやすいことから好ましく、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラートなどが挙げられる。これらのうちの1種以上を使用できるが、コストの点から水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましく、さらに操作性の点からは図示のように水酸化ナトリウムが好ましい。
【0033】
また、このエステル交換反応工程(B)は少なくとも1段の工程からなり、1段目の工程においては、エステル化工程(A)で得られたエステル混合油の酸価に応じてアルカリ触媒の量を制御しながら、エステル交換反応を実施する。
すなわち、アルカリ触媒量が多いと、エステル交換反応の反応性は高まる。しかしながら、アルカリ触媒量が多いと、アルカリ触媒と脂肪酸や油脂とが反応して副生するセッケンの量も多くなり、セッケンの分離作業、製造歩留まり、得られる脂肪酸低級アルキルエステルの純度などに悪影響を及ぼしたり、後述するリサイクル工程(R)の負荷が大きくなったりする。よって、副生するセッケンの量を抑制しつつ、効率的にエステル交換反応を進行させることが重要であり、そのためには、エステル混合油の酸価に着目し、それに応じてアルカリ触媒量を制御しながら、エステル交換反応を実施することが好適である。
【0034】
具体的には、エステル混合油100質量部に対して、アルカリ触媒量0.1〜1.0質量部の範囲内、より好ましくは0.2〜0.6質量部の範囲内で、酸価が大きい場合にはアルカリ触媒量も多くし、酸価が小さい場合にはアルカリ触媒量も少なくすることが好ましい。さらに好ましくは、アルカリ触媒として水酸化ナトリウムを単独で使用し、その際のエステル混合油100質量部に対する触媒量CNaOH[質量部]を、酸価をパラメータとした下記式(1)により決定する。下記式(1)は実験により求めたものである。
NaOH=0.2+0.07×AV・・・(1) ただし、AVは酸価を示し、2以下である。
【0035】
また、アルカリ触媒として水酸化カリウムを単独で使用する場合には、その際のエステル混合油100質量部に対する触媒量CKOH[質量部]を、酸価をパラメータとした下記式(2)により決定することが好ましい。下記式(2)は実験により求めたものである。
KOH=0.37+0.1×AV・・・(2) ただし、AVは酸価を示し、2以下である。
【0036】
具体的なエステル交換反応工程(B)の方法としては、エステル化工程(A)で得られた反応混合物に、低級アルキルアルコールとアルカリ触媒とを添加し、後述の条件で反応を進行させればよい。なお、反応混合物には、水分も含まれるが、ここでその水分含有量が5000ppm以下であると、特に上述のアルカリ触媒量とすることが有効である。
【0037】
使用する低級アルキルアルコールとしては、前述のエステル化工程(B)で例示したものを同様に使用でき、好適には、図示のようにメタノールを使用する。
低級アルキルアルコールの使用量(反応混合物中に含まれる低級アルキルアルコールの量も含む。)は、エステル混合油100質量部に対し、好ましくは10〜50質量部であり、より好ましくは20〜40質量部、さらに好ましくは30〜40質量部である。このような範囲であると、使用する装置を大型化する必要がなく、低級アルキルアルコールの回収、精製も低コストで行えるとともに、十分なエステル交換反応率が得られる。
【0038】
また、反応温度は、好ましくは40〜120℃であり、より好ましくは50〜100℃、さらに好ましくは60〜80℃である。このような範囲であると、エステル交換反応の速度が十分であるとともに、使用する装置の耐圧性を高めたりする必要がなく、効率的である。また、処理時間は、好ましくは15〜120分間であり、より好ましくは30〜70分間、さらに好ましくは40〜60分間である。このような範囲であると、使用する装置を大型化することなく、高いエステル交換反応率を達成することができる。
【0039】
このような1段目の工程により、脂肪酸低級アルキルエステルを主成分とする油相と、グリセリンを主成分とする相(以下、グリセリン相という。)とが生成する。
こうして得られた油相をそのまま蒸留工程(C)に供してもよいが、好ましくは、このような1段目の工程に引き続いて2段目のエステル交換反応工程を行ってから、蒸留工程(C)を実施することが好ましい。このようにエステル交換反応を2段とすることにより、脂肪酸低級アルキルエステルのエステル交換反応率を高めることができる。好ましくは、1段目で95〜96%程度の反応率まで進行させ、2段目で99%程度の反応率まで進行させる2段で行う。
【0040】
1段目の後には、脂肪酸低級アルキルエステルを主成分とする油相と、グリセリン相とを分離し、油相のみを2段目に供給する。
油相とグリセリン相との分離は、静置分離、遠心分離等で行えばよく、静置分離の場合には、温度は好ましくは30〜70℃、より好ましくは30〜50℃で、静置時間は好ましくは30〜90分間、より好ましくは30〜60分間とすればよい。このような条件とすると、油相の流動性が良好であるとともに、低級アルキルアルコールの蒸気圧も抑制できるため使用する分離装置の耐圧性を高める必要もなく、効率的に分離が行える。
また、油相とグリセリン相とを分離する前には、アルカリ触媒を水洗するための水を添加することが好ましい。
【0041】
2段目では、1段目でのエステル交換反応率に応じて、2段目の低級アルキルアルコール添加量、処理温度や処理時間、触媒添加量などの条件を1段目よりも緩やかに設定すればよいが、好適には、2段目に供給された油相100質量部に対して、低級アルキルアルコール添加量を好ましくは1〜20質量部、より好ましくは5〜10質量部とする。このような範囲であると、低級アルキルアルコールの回収、精製も低コストで行えるとともに、十分なエステル交換反応率が得られる。また、アルカリ触媒の量は、油相100質量部に対して好ましくは0.01〜0.2質量部、より好ましくは0.05〜0.2質量部、さらに好ましくは0.05〜0.1質量部であり、このような範囲であれば、セッケンの副生を少なく抑えつつ、効率的にエステル交換反応を行える。
また、2段目の処理温度は好ましくは40〜70℃であり、より好ましくは50〜60℃である。このような範囲であると、エステル交換反応の速度が十分であるとともに、使用する装置の耐圧性を高めたりする必要がなく、効率的である。また、2段目の処理時間は、好ましくは1〜15分間であり、より好ましくは3〜10分間である。このような範囲であると、過度に時間を要することなく、十分なエステル交換反応率を達成することができる。
【0042】
このような2段目の終了後、脂肪酸低級アルキルエステルを主成分とする油相と、グリセリン相とを分離し、油相は蒸留工程(C)へと送られ、グリセリン相はリサイクル工程(R)へと送られる。
ここでの油相とグリセリン相との分離は、1段目と2段目との間に実施される分離と同様に静置分離、遠心分離等で行うことができ、分離性が良好となり、分離装置の耐圧性を高める必要がない点から、温度は好ましくは30〜70℃、より好ましくは40〜70℃で、静置時間は好ましくは30〜90分間、より好ましくは30〜60分間とすればよい。また、油相とグリセリン相とを分離する際には、グリセリンや低級アルキルアルコールなどを水洗するための水を添加することが好ましく、その場合、水の添加量は、エステル交換反応工程(B)で得られた混合物100質量部に対して10〜30質量部が好ましく、10〜20質量部がより好ましい。このような範囲であると、乳化を起こすことなく、効果的な水洗が行える。
【0043】
[リサイクル工程(R)]
リサイクル工程(R)は、エステル交換反応工程(B)で副生したグリセリン相中のセッケンをpH2〜5の条件下、酸で分解して脂肪酸とし、この脂肪酸を返送する工程である。脂肪酸は、エステル化工程(A)に返送されてもよいし、それよりも前段側の工程に返送されてもよい。具体的には、脱ガム工程(P)に返送される場合や、原料貯蔵タンクに返送される場合が例示できる。
副生したセッケンは、品質が悪いため、そのままセッケンとして使用することは困難であるが、このようなリサイクル工程(R)により脂肪酸とし、原料として再利用することで、製造歩留まりを高めることができる。グリセリン相中には、グリセリン、セッケンの他、通常、低級アルキルアルコール(図示例ではメタノール)、アルカリ触媒、水などが存在している。
【0044】
リサイクル工程(R)の具体的方法としては、次の方法が好ましい。
まず、エステル交換反応工程(B)で生成したグリセリン相から低級アルキルアルコールを分離除去せずに、そのままのグリセリン相に酸を添加しpH2〜5、好ましくはpH3〜4とする。そして、好ましくは10〜70℃、より好ましくは40〜60℃の温度条件下、好ましくは30〜360分間、より好ましくは60〜120分間、これを撹拌混合し、脂肪酸を含む混合物を生成させる。
ここでpHが2未満であると装置が腐食する可能性があり、5を超えると分解が困難となる傾向にある。また、温度が10〜70℃であると、装置の耐圧性を高くする必要もなく、十分な速度で分解が進行する。また、撹拌混合時間が30〜360分間であると、装置を大型化することなく、十分な分解率を達成することができる。また、このようにグリセリン相から低級アルキルアルコールを分離除去せずに酸を添加する方法によれば、低温かつ短時間で酸分解することができる。
【0045】
ここで酸としては、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸などが使用できるが、硫酸が好ましい。酸として硫酸を使用し、かつ、上述のエステル交換反応工程(B)でアルカリ触媒として水酸化ナトリウムを使用した場合には、脂肪酸とともに、硫酸ナトリウムが副生する。こうして副生した硫酸ナトリウムは脂肪酸から分離、除去されるが、硫酸ナトリウムは分離性に優れるため、脂肪酸への混入が少なく好適である。ここで、例えば酸として塩酸を使用し、かつ、上述のエステル交換反応工程(B)でアルカリ触媒として水酸化ナトリウムを使用した場合には、塩化ナトリウムが副生するが、塩化ナトリウムは分離性が悪いために脂肪酸へ混入しやすい。脂肪酸は再利用されるものであるため、できるだけ不純物を含有していないことが求められる。よって、酸として硫酸を使用することが好ましい。
【0046】
脂肪酸や副生した硫酸ナトリウムを含む混合物からは、まず、硫酸ナトリウムを遠心分離などで除去し、ついで、一部の低級アルキルアルコールやグリセリン、水を除去する。そして、これらが除去された混合物に水を添加して、脂肪酸を主成分とする相と、水、低級アルキルアルコール、グリセリンを含む相とにさらに分離する。そして、脂肪酸を主成分とする相を返送する。
【0047】
一方、水、低級アルキルアルコール、グリセリンを含む相については、通常、120〜200℃でのフラッシュ蒸留により水、低級アルキルアルコールを留除し、粗グリセリンを残留物として得る。また、フラッシュ蒸留で留出した水、低級アルキルアルコールは、ついで、低級アルキルアルコール精留塔に導入し、60〜120℃で操作し、低級アルキルアルコールを留出液として回収するとともに、廃水を残留物として除去する。
なお、エステル交換反応工程(B)を2段以上で行った場合、各段の終了ごとにグリセリン相を分離回収して、これらを全てこのリサイクル工程(R)に供することが好ましい。
【0048】
[蒸留工程(C)]
蒸留工程(C)は、エステル交換反応工程(B)で得られた油相から、脂肪酸低級アルキルエステルを留出させる減圧蒸留工程を少なくとも備えた工程であって、このように少なくとも減圧蒸留工程を含むものとすることにより、油相に含まれる不純物を残留物として塔底に残し、かつ、目的物である脂肪酸低級アルキルエステルを留出液として高純度で得ることができる。残留物に含まれる不純物には、原料に使用した動植物油脂の種類によって異なるが、例えばモノグリセライド、ジグリセライド、トリグリセライドなどの未反応のグリセライド、炭素数20、22の脂肪酸の低級アルキルエステル、アルカリセッケンなどのアルカリ金属に由来した成分、カロチンの分解物などがある。
【0049】
残留物に含まれる各成分は、燃料供給ラインや燃料噴射ノズルの目詰まりを起こす原因になると考えられるため、このような蒸留工程(C)後には、目詰まりの可能性が低く抑えられ、軽油代替燃料に好適で、軽油代替燃料のEU規格をクリアするような高純度の脂肪酸低級アルキルエステルが得られる。さらに、このような蒸留工程(D)によれば、例えば原料として粗パーム油などを使用した場合、これに元々含まれるカロチンなどの着色物を分解し、分解物として塔底の残留物に残すことができるため、着色物を除去する工程を別途行わなくても、これらに由来する茶褐色の着色もない脂肪酸低級アルキルエステルを得ることができる。
【0050】
さらに、蒸留工程(C)は、留出させる脂肪酸低級アルキルエステルの炭素数が異なる2段以上の減圧蒸留工程を備えたものであることが好ましい。
具体的には、まず、常圧のフラッシュ蒸留工程(通常120〜170℃)を行って、低級アルキルアルコール(図示例ではメタノール)と水とを留出液として除去する。ついで、その残留物に対して、2段以上の減圧蒸留工程を実施する。
2段以上の減圧蒸留工程については、留出させる脂肪酸アルキルエステルの炭素数が各減圧蒸留工程で異なるように、各減圧蒸留工程の蒸留条件を設定することが好ましく、通常、前段側から後段側になるにしたがって、より炭素数の大きな脂肪酸低級アルキルエステルが留出するように条件設定する。なお、各減圧蒸留工程では、異なる炭素数の脂肪酸低級アルキルエステルが複数混合して留出することもあるが、その際には、炭素数の平均値が、前段側から後段側になるにしたがって、より大きくなるようになっていればよい。
【0051】
このように減圧蒸留工程を2段以上で行うことによって、より高純度の脂肪酸低級アルキルエステルを得ることができる。すなわち、油相には、炭素数が異なる脂肪酸低級アルキルエステルが複数存在し、これらは一般的に沸点も異なる。よって、例えば、減圧蒸留工程を1段で実施し、その際、油相の主成分である高炭素数側の脂肪酸低級アルキルエステルの蒸留に好適な蒸留条件を設定したとすると、蒸留中に、マイナー成分である低炭素数側の脂肪酸低級アルキルエステルが突沸し、その結果、蒸留塔の塔底に残留するモノグリセライドが留出液に同伴されやすくなり、得られる高炭素数側の脂肪酸低級アルキルエステルの純度や性状が低下してしまう。その点、減圧蒸留工程を2段以上で行うと、炭素数に応じた最適な蒸留条件を各工程で設定できるため、得られる脂肪酸低級アルキルエステルは高純度なものとなる。各減圧蒸留工程で得られた脂肪酸低級アルキルエステルは、最終的には混合され、軽油代替燃料として使用される。
【0052】
例えば、原料に、炭素数16、18の脂肪酸に由来する油脂を主成分とするパーム油がなどが主に含まれる場合には、まず、第1の減圧蒸留工程で、図1のように、この主成分よりも低炭素数側の脂肪酸低級アルキルエステル(炭素数12、14の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステル)を含む留出液を得て、ついで第2の減圧蒸留工程で、炭素数16、18の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステルを含む留出液を得る方法(方法(1))が好ましい。
または、第1の減圧蒸留工程で、炭素数12、14の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステルとともに、炭素数16の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステルの一部も含む留出液を得て、ついで第2の減圧蒸留工程で、残りの炭素数16の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステル脂肪酸と、炭素数18の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステルを含む留出液を得る方法(方法(2))や、第1の減圧蒸留工程で、炭素数12、14、16の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステルを含む留出液を得て、ついで第2の減圧蒸留工程で、炭素数18の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステルを含む留出液を得る方法(方法(3))が好ましい。
【0053】
この場合、第1の減圧蒸留工程は、上記方法(1)の場合には、蒸留塔のトップ圧力を1〜3kPa、トップ温度を178〜190℃とし、還流比を10〜15とすることが好ましく、上記方法(2)または(3)の場合には、蒸留塔のトップ圧力を0.6〜2.5kPa、トップ温度を183〜206℃とし、還流比を0〜2とすることが好ましい。
【0054】
また、最後段の減圧蒸留工程である第2の減圧蒸留工程の条件は、上記方法(1)〜(3)のいずれの場合でも適宜設定できるが、(i)蒸留塔のトップ圧力を0.1〜1kPa、好ましくは0.2〜0.5kPa、ボトム圧力を2〜5kPa、好ましくは3〜4 kPaとし、(ii)蒸留塔のトップ温度を150〜200℃、好ましくは160〜180℃、ボトム温度を190〜220℃、好ましくは 200〜210℃とし、(iii)還流比を0〜1、好ましくは0〜0.5とし、蒸発率を95〜99%、好ましくは95〜98%とすることにより、留出液中のグリセライドの含有量を0.1質量%以下に制御することも可能となり、より高純度の脂肪酸低級アルキルエステルを得ることができる。
なお、このような条件は、原料である動植物性油脂の主成分が、パーム油やナタネ油のように、炭素数16および/または18の脂肪酸に由来するものである場合に好適である。
【0055】
ここで還流比とは、還流量の留出量に対する比であって、蒸発率とは仕込み(供給)液量に対する留出量の比率を(%)で示したものである。
また、トップ温度およびトップ圧力、ボトム温度およびボトム圧力とは、蒸留塔のトップ、ボトムでそれぞれ測定された温度と圧力のことであり、トップは留出液が出る塔頂部分、ボトムは残留物が溜まる塔底部分である。
【0056】
また、上記方法(2)および(3)では、炭素数16の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステルの少なくとも一部を第1の減圧蒸留工程で留出させている。これは、炭素数16の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステルは融点が高く、低温で結晶化しやすいものであるため、これが多く存在する液はその流動性が低下する傾向があるためである。あらかじめ、このように第1の減圧蒸留工程でその少なくとも一部を留出させることによって、第2の減圧蒸留工程での液の流動性が改善され、蒸留を円滑に行うことができるとともに、第2の減圧蒸留工程で得られる留出液の取扱性も優れる。第1の減圧蒸留工程では、炭素数16の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステルのうち、50〜100質量%を留出させることが好ましい。
【0057】
また、例えばヤシ油のように、油脂として炭素数12のものを主成分とするものの場合には、まず、第1の減圧蒸留工程で、主成分のものよりも低炭素数側である炭素数6、8、10の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステルを含む留出液を得て、ついで第2の減圧蒸留工程で、炭素数12の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステルを含む留出液を得ることが好ましい。この場合、第1の減圧蒸留工程は、蒸留塔のトップ圧力を8〜11kPa、トップ温度を135〜175℃とし、還流比を1〜2とすることが好ましい。第2の減圧蒸留工程は、蒸留塔のトップ圧力を1〜3kPa、トップ温度を178〜190℃とし、還流比を10〜15とすることが好ましい。
【0058】
以上説明したような製造方法によれば、エステル化工程(A)では酸価が2以下のエステル混合油を得て、エステル交換反応工程(B)ではエステル混合油の酸価に応じてアルカリ触媒の量を特定の範囲で適切に制御しながらエステル交換し、蒸留工程(C)を実施しているので、軽油代替燃料として使用した際に目詰まりが起こりにくく、EU規格をクリアできる程に高純度の脂肪酸低級アルキルエステルを高収率で安定に生産できる。また、リサイクル工程(R)では、エステル交換反応工程(B)で副生したセッケンをpH2〜5の条件下、酸分解して脂肪酸とし、これをエステル化工程(A)か、それよりも前段側の工程に返送しているため、脂肪酸が原料として効果的に再利用され、特に高い製造歩留まりが達成できる。
具体的には、純度が99質量%以上で、かつ、トータルのグリセライドの含有量が0.1質量%以下の脂肪酸低級アルキルエステルが90%以上の収率で得られる。
ここで、これら各工程のうちの少なくとも1つを実施しない場合には、脂肪酸低級アルキルエステルの純度が低下し、EU規格をクリアできなくなったり、得られる脂肪酸低級アルキルエステルの純度が安定しなくなったり、さらには、製造歩留まりが低下して脂肪酸低級アルキルエステルの収率が低くなるなど、工業的に安定な操業ができなくなる。
【0059】
このようにして得られた脂肪酸低級アルキルエステルは、例えば、自動車、船舶、農業機械、建設機械、発電、暖房などのあらゆる用途の軽油代替燃料として好適に使用できる。また、必要に応じて、他の脂肪酸アルキルエステルや軽油などと混合して使用してもよい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
また、下記実施例において、特に断りの限り、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
また、各例中、水分含有量の測定はカールフィッシャー法に準拠した。
【0061】
[実施例1]
以下の工程により、原料としてマレーシア産のアルカリ脱酸パーム油(NPO)を用い、これから脂肪酸メチルエステルを製造した。このアルカリ脱酸パーム油は、油脂として、炭素数12の成分を0.4%、炭素数14の成分を1.0%、炭素数16の成分を44.1%、炭素数18の成分を53.6質量%、炭素数20の成分を1.0質量%含有し、さらに、遊離脂肪酸を1.6%、ガム質を0.1%含有していた。酸価は3.2で、水分含有量は1000ppmであった。なお、以下、炭素数とは、エステルにおいて、アルコール由来の炭素を含まないものである。
【0062】
(1)エステル化工程(A)
酸性ゲル型カチオン交換樹脂である三菱化学社製のダイヤイオンSK104(商品名、架橋度4%)を充填したカラムにメタノールを通過させ、洗浄した。ついで、上記原料(NPO)100質量部に対してメタノールを20質量部添加した混合物を、カラムに供給して通過させ、反応混合物を得た。反応混合物中のエステル混合油は、酸価が0.14であった。また、反応混合物中の水分含有量は、1800ppmであった。カラム温度は65℃、カラム滞留時間は120分間とし、メタノールとしては、水分量が600ppmのものを使用した。
【0063】
(2)エステル交換反応工程(B)
上記(1)で得られたエステル混合油に対して、エステル交換反応工程(B)(1段)を次のように行った。
まず、エステル混合油を84%含有する反応混合物に対して、メタノールと、アルカリ触媒である水酸化ナトリウムとを添加した。ここで、メタノールの添加量は、反応混合物120部に対して15部であり、水酸化ナトリウムの添加量はエステル混合油100部に対して0.2部となるようにした。
そして、これを処理温度70℃で60分間、パドル攪拌機付オートクレーブで反応させることで、脂肪酸メチルエステルを主成分とする油相と、グリセリン相とを生成させた。
ついで、これを40℃で60分間静置した後、油相とグリセリン相に分離し、油相100部に対して水洗用の水14部を添加し、撹拌後、これを40℃で60分間静置した。その後、これを油相と水相(セッケン、メタノール、グリセリン、水酸化ナトリウムなどの水溶性物質が溶解している相、グリセリン相ともいう。)に分離した。油相中の脂肪酸メチルエステル濃度(エステル交換反応率)は95.0%であった。
【0064】
(3)リサイクル工程(R)
上記(2)で得られたグリセリン相と水相とを混合し、その混合液に対して、90%硫酸を添加してpH3.0とし、60℃において60分間撹拌混合した。ついで、この混合物から生成した硫酸ナトリウムを遠心分離で除去した後、脂肪酸を主成分とする相(以下、脂肪酸相という。)と、水、メタノール、グリセリンを含む水相とに分離した。
水、メタノール、グリセリンを含む水相については、150℃で水とメタノールをフラッシュ蒸留で除き、粗グリセリンを得た。また、フラッシュ蒸留により留出した水、メタノール混合物はついで、メタノール精留塔に導入し、70℃で蒸留を行ってメタノールを留出液として回収し、廃水を残留物として除去した。
一方、脂肪酸相を、原料のNPO100部に対して3部返送、混合した。得られた混合物の酸価は6.2で、水分含有量は1000ppmであった。
【0065】
(4)エステル化工程(A)およびエステル交換反応工程(B)
上記(3)で得られた酸価が6.2の混合物に対して、上記(1)と同条件でエステル化工程(A)を実施し、酸価0.24のエステル混合油を含む反応混合物を得た。なお、反応混合物中の水分含有量は、3400ppmであった。
そして、アルカリ触媒量を0.2部ではなく0.25部とした以外は上記(2)と同条件で、このエステル混合油についてエステル交換反応工程(B)を行い、油相とグリセリン相とを得た。水洗後の油相中の脂肪酸メチルエステル濃度は95.5%であった。
【0066】
(5)蒸留工程(C)
上記(4)で得られた油相に対して、まず、150℃の常圧でフラッシュ蒸留して、メタノールと水とを留出液として除去した。
ついで、フラッシュ蒸留の残留物に対して、第1の減圧蒸留工程(トップ温度190℃、トップ圧力2.0kPa)を行って、炭素数12、14の脂肪酸に由来する脂肪酸メチルエステルを主成分とする留出液を得た。
ついで、第1の減圧蒸留工程の残留物に対して、第2の減圧蒸留工程(トップ圧力0.5kPa、ボトム圧力3kPa、トップ温度170℃、ボトム温度210℃、還流比0.5、蒸発率99%)を行って、炭素数16、18の脂肪酸に由来する脂肪酸メチルエステルを主成分とする留出液を得た。
第1の減圧蒸留工程で得られた留出液と第2の減圧蒸留工程で得られた留出液とを混合したものについて、その性状、収率などについて表1にまとめる。
【0067】
[実施例2]
以下の工程により、原料としてマレーシア産の粗パーム油(CPO)を用い、これから脂肪酸メチルエステルを製造した。
この粗パーム油は、油脂として、炭素数12の成分を0.3%、炭素数14の成分を1.0%、炭素数16の成分を44.0%、炭素数18の成分を53.8質量%、炭素数20の成分を0.9質量%含有し、さらに、遊離脂肪酸を3.74%、ガム質を0.5%含有していた。酸価は8.2であった。
【0068】
(1)脱ガム工程(P)
65℃に加熱した粗パーム油100質量部に対して、温水1部と、吸着剤であるパーライト1部を添加して、20分間混合撹拌した。ついで、これをジャケット付加圧ろ過器(KST−142−JA‐S)を用い、Advantec社製NO−5Cろ紙(ろ過面積113cm)で圧力1kg/cm、温度45℃の条件で加圧ろ過し、ガム質を含有する不溶物を除去し、脱ガム物(ガム質含有量0.2%)をろ液として得た。脱ガム物の水分含有量は600ppmであった。
【0069】
(2)エステル化工程(A)
上記(1)で得られた脱ガム物100部に対して、メタノールを20部使用した以外は実施例1の(1)と同様にしてエステル化工程(A)を行って、反応混合物を得た。反応混合物中のエステル混合油は、酸価が0.33であった。反応混合物中の水分含有量は、2700ppmであった。
【0070】
(3)エステル交換反応工程(B)
アルカリ触媒である水酸化ナトリウムの添加量を0.25部とした以外は実施例1の(2)と同様にしてエステル交換反応工程(B)(1段)を行って、脂肪酸メチルエステルを主成分とする油相と、グリセリン相とを生成させた。
ついで、これを40℃で30分間静置した後、油相とグリセリン相に分離し、油相100部に対して水洗用の水14部を添加し、撹拌後、これを40℃で60分間静置した。その後、これを油相と水相(セッケン、メタノール、グリセリン、水酸化ナトリウムなどの水溶性物質が溶解している相)に分離した。油相中の脂肪酸メチルエステル濃度は95.3%であった。
【0071】
(4)リサイクル工程(R)
上記(3)で得られたグリセリン相と水相とを混合し、その混合液に対して、実施例1の(3)と同様の処理を実施して、脂肪酸相と、水、メタノール、グリセリンを含む水相とに分離した。
水、メタノール、グリセリンを含む水相については、実施例1と同様の処理を実施して、粗グリセリンを得るとともに、メタノールの回収と、廃水の除去を行った。
一方、脂肪酸相をエステル化工程(A)に、脱ガム物100部に対して3部となるように返送、混合した。得られた混合物の酸価は10.6で、水分含有量は600ppmであった。
【0072】
(5)エステル化工程(A)およびエステル交換反応工程(B)
上記(4)で得られた酸価が10.6の混合物に対して、上記(2)と同条件でエステル化工程(A)を実施し、酸価0.64のエステル混合油を含む反応混合物を得た。なお、反応混合物中の水分含有量は、3500ppmであった。
そして、アルカリ触媒量を0.25部ではなく0.3部とした以外は上記(3)と同条件で、このエステル混合油についてエステル交換反応工程(B)を行い、油相とグリセリン相とを得た。水洗後の油相中の脂肪酸メチルエステル濃度は96.5%であった。
【0073】
(6)蒸留工程(C)
上記(5)で得られた油相に対して、実施例1の(5)と同様にして、フラッシュ蒸留工程、第1の減圧蒸留工程、第2の減圧蒸留工程を行い、第1の減圧蒸留工程で得られた留出液と第2の減圧蒸留工程で得られた留出液とを混合したものについて、その性状、収率などについて表1にまとめる。
【0074】
[実施例3]
以下の工程により、実施例2で使用したものと同じマレーシア産の粗パーム油(CPO)から脂肪酸メチルエステルを製造した。
(1)脱ガム工程(P)
実施例2の(1)と同様にして、粗パーム油から脱ガム物を得た。
(2)エステル化工程(A)
実施例2の(2)と同様にして、エステル混合油(酸価0.33)を含む反応混合物を得た。
【0075】
(3)エステル交換反応工程(B)
上記(2)で得られたエステル混合油に対して、エステル交換反応工程(B)(2段)を次のように行った。
(i)1段目
まず、エステル混合油を84%含有する反応混合物に対して、メタノールと、アルカリ触媒である水酸化ナトリウムとを添加した。ここで、メタノールの添加量は、反応混合物120部に対して20部であり、水酸化ナトリウムの添加量は式(1)から決定し、エステル混合油100部に対して0.22部とした。
そして、これを実施例1の(2)と同様にして、脂肪酸メチルエステルを主成分とする油相と、グリセリン相とを生成させ、40℃で60分間静置した後、油相とグリセリン相に分離した。油相中の脂肪酸メチルエステル濃度は96.2%であった。
(ii)2段目
ついで、得られた油相100部に対してメタノールを5部、アルカリ触媒である水酸化ナトリウムを0.1部添加し、処理温度60℃で5分間エステル交換反応を実施した。
得られた混合物100質量部に対して水洗用の水14部を添加し、撹拌後、これを40℃で60分間静置した。その後、これを油相と水相(セッケン、メタノール、グリセリン、水酸化ナトリウムなどの水溶性物質が溶解している相)に分離した。油相中の脂肪酸メチルエステル濃度は99.1%であった。
【0076】
(4)リサイクル工程(R)
上記(3)のエステル交換反応において、1段目で得られたグリセリン相と2段目で得られた水相とを混合し、その混合液に対して、90%硫酸を添加してpH3.0とし、60℃において60分間撹拌混合した。ついで、この混合物から生成した硫酸ナトリウムを遠心分離で除去した後、脂肪酸相と、水、メタノール、グリセリンを含む水相とに分離した。
水、メタノール、グリセリンを含む水相については、実施例1と同様の処理を実施して、粗グリセリンを得るとともに、メタノールの回収と、廃水の除去を行った。
一方、脂肪酸相を、脱ガム物100部に対して3部返送、混合した。得られた混合物の酸価は10.6で、水分含有量は800ppmであった。
【0077】
(5)エステル化工程(A)およびエステル交換反応工程(B)
上記(4)で得られた酸価が10.6の混合物に対して、実施例1の(1)と同条件でエステル化工程(A)を実施し、酸価0.64のエステル混合油を含む反応混合物を得た。なお、反応混合物中の水分含有量は、3700ppmであった。
そして、1段目の触媒量を式(1)から、0.24部とした以外は上記(3)と同条件で、このエステル混合油について2段からなるエステル交換反応工程(B)を行い、油相とグリセリン相とを得た。水洗後の油相中の脂肪酸メチルエステル濃度は99.2%であった。なお、1段目終了時点では、油相中の脂肪酸メチルエステル濃度は95.3%であった。
【0078】
(6)蒸留工程(C)
上記(5)で得られた油相に対して、実施例1の(5)と同様にして、フラッシュ蒸留工程、第1の減圧蒸留工程、第2の減圧蒸留工程を行い、第1の減圧蒸留工程で得られた留出液と第2の減圧蒸留工程で得られた留出液とを混合したものについて、その性状、収率などについて表1にまとめる。
【0079】
[実施例4]
原料として実施例2の(1)で得られた脱ガム物と国産の精製ナタネ油(キャノーラ)との混合物を用い、これから脂肪酸メチルエステルを以下の工程により製造した。精製ナタネ油は、油脂として、炭素数16の成分を5%、炭素数18の成分を94%、炭素数22の成分を1%含有し、さらに遊離脂肪酸を0.1%、ガム質を0.1%含有していた。
(1)エステル化工程(A)
実施例2の(1)で得られた脱ガム物60部に、国産の精製ナタネ油(キャノーラ)を40部混合したもの(酸価4.9、遊離脂肪酸含有量2.28%、水分含有量900ppm)を原料とした以外は実施例1と同様にして、エステル混合油(酸価0.20)を含む反応混合物を得た。反応混合物中の水分含有量は、2100ppmであった。
【0080】
(2)エステル交換反応工程(B)
上記(1)で得られたエステル混合油に対して、実施例3の(3)と同様にして、エステル交換反応工程(B)(2段)を行った。
ただし、1段目のエステル交換反応において、メタノールの添加量は、反応混合物120部に対して15部とし、水酸化ナトリウムの添加量は式(1)から決定し、エステル混合油100部に対して0.21部とした。
また、1段目で得られた油相中の脂肪酸メチルエステル濃度は95.3%であった。
また、実施例3の(3)と同様にして2段目のエステル交換反応を行ったところ、2段目で得られた油相中の脂肪酸メチルエステル濃度は99.1%であった。
【0081】
(3)リサイクル工程(R)
上記(2)のエステル交換反応において、1段目で得られたグリセリン相に70%硫酸を添加してpH3.0とし、60℃において60分間撹拌混合した。ついで、これから、生成した硫酸ナトリウムを遠心分離で除去した後、これに2段目で得られた水相を混合した。そして、この混合液に再度70%硫酸を添加してpH3.0とし、60℃において60分間静置し、脂肪酸相と、メタノール、グリセリンなどを主成分とする水相とに分離した。
メタノール、グリセリンなどを主成分とする水相については、実施例1と同様の処理を実施して、粗グリセリンを得るとともに、メタノールの回収と、廃水の除去を行った。
一方、脂肪酸相を、脱ガム物60部と国産の精製ナタネ油(キャノーラ)40部の混合物100部に対して3部返送、混合した。得られた混合物の酸価は7.7で、水分含有量は800ppmであった。
【0082】
(5)エステル化工程(A)およびエステル交換反応工程(B)
上記(4)で得られた酸価が7.7の混合物に対して、実施例1の(1)と同条件でエステル化工程(A)を実施し、酸価0.31のエステル混合油を含む反応混合物を得た。酸価0.24のエステル混合油を含む反応混合物を得た。なお、反応混合物中の水分含有量は、2900ppmであった。
そして、1段目の触媒量を0.22部とした以外は、上記(2)と同条件で、このエステル混合油について2段のエステル交換反応工程(B)を行い、油相とグリセリン相とを得た。水洗後の油相中の脂肪酸メチルエステル濃度は99.0%であった。なお、なお、1段目終了時点では、油相中の脂肪酸メチルエステル濃度は95.1%であった。
【0083】
(6)蒸留工程(C)
上記(5)で得られた油相に対して、実施例1の(5)と同様にして、フラッシュ蒸留工程、第1の減圧蒸留工程、第2の減圧蒸留工程を行い、第1の減圧蒸留工程で得られた留出液と第2の減圧蒸留工程で得られた留出液とを混合したものについて、その性状、収率などについて表1にまとめる。
【0084】
[実施例5]
原料として、実施例2で使用したものと同じ粗パーム油100部に実施例3の(4)で得られた脂肪酸相3部を添加した混合物を用い、これから脂肪酸メチルエステルを以下の工程により製造した。
(1)脱ガム工程(P)
65℃に加熱した上記混合物103部に対して、80%のリン酸水溶液0.05部と、吸着剤であるパーライト0.04部を添加して、10分間混合撹拌した。ついで、これを実施例2の(1)と同様にして加圧ろ過し、ガム質を含有する不溶物を除去し、脱ガム物(ガム質含有量0.1%)をろ液として得た。なお、原料として使用した混合物は、酸価が10.6で、遊離脂肪酸を3.74%含有し、ガム質を0.5%含有していた。また、脱ガム物の水分含有量は700ppmであった。
【0085】
(2)エステル化工程(A)
ついで、上記(1)で得られた脱ガム物100部に対して、メタノールを20部使用した以外は実施例1と同様にしてエステル化工程(A)を行って、反応混合物を得た。反応混合物中のエステル混合油は、酸価が0.33で、反応混合物の水分含有量は2800ppmであった。
【0086】
(3)エステル交換反応工程(B)
上記(2)で得られたエステル混合油に対して、実施例3と同様にして、エステル交換反応工程(B)を2段で行った。
ただし、1段目のエステル交換反応において、メタノールの添加量は、反応混合物120部に対して15部であり、水酸化ナトリウムの添加量は式(1)から決定し、エステル混合油100部に対して0.23部とした。
また、1段目で得られた油相中の脂肪酸メチルエステル濃度は95.5%であった。
また、実施例3と同様にして2段目のエステル交換反応を行ったところ、2段目で得られた油相中の脂肪酸メチルエステル濃度は99.4%であった。
【0087】
(4)リサイクル工程(R)
実施例3と同様にして、リサイクル工程(R)を行った。ただし、脂肪酸相は、脱ガム物100部と脂肪酸相3部との混合物103部に対して3部返送、混合した。得られた混合物の酸価は10.6で、水分含有量は500ppmであった。
【0088】
(5)エステル化工程(A)およびエステル交換反応工程(B)
(4)で得られた酸価が10.6の混合物に対して、実施例1の(1)と同条件でエステル化工程(A)を実施し、酸価0.42のエステル混合油を含む反応混合物を得た。なお、反応混合物中の水分含有量は、3500ppmであった。
そして、1段目の触媒量を式(1)から0.23部とした以外は、上記(2)と同条件で、このエステル混合油について2段のエステル交換反応工程(B)を行い、油相とグリセリン相とを得た。水洗後の油相中の脂肪酸メチルエステル濃度は99.3%であった。なお、1段目終了時点では、油相中の脂肪酸メチルエステル濃度は95.3%であった。
【0089】
(6)蒸留工程(C)
上記(5)で得られた油相に対して、実施例1の(5)と同様にして、フラッシュ蒸留工程、第1の減圧蒸留工程、第2の減圧蒸留工程を行い、第1の減圧蒸留工程で得られた留出液と第2の減圧蒸留工程で得られた留出液(流動点14℃)とを混合したものについて、その性状、収率などについて表1にまとめる。
【0090】
[実施例6]
蒸留工程(C)のみを以下に示すように行った以外は、実施例5と同様にして、脂肪酸メチルエステルを製造した。
すなわち、油相に対して、実施例1の(5)と同様にしてフラッシュ蒸留工程を行った後、第1の減圧蒸留工程、第2の減圧蒸留工程を行った。ただし、第1の減圧蒸留工程は、トップ圧力0.8kPa、ボトム圧力2.5kPa、トップ温度187℃、ボトム温度210℃、還流比0.5の条件とした。また、第2の減圧蒸留工程は、トップ圧力0.5kPa、ボトム圧力2kPa、トップ温度を185、ボトム温度を215℃、還流比を0.5、蒸発率を98%の条件とした。
このように第1の減圧蒸留工程と第2の減圧蒸留工程とを行ったところ、第1の減圧蒸留工程では、炭素数12、14の脂肪酸に由来する脂肪酸メチルエステルとともに、炭素数16の脂肪酸に由来する脂肪酸メチルエステルのうちの50%が留出した。また、第2の減圧蒸留工程では、残りの炭素数16の脂肪酸に由来する脂肪酸メチルエステルと、炭素数18の脂肪酸に由来する脂肪酸メチルエステルを主成分とする留出液が得られた。また、この留出液は流動点(JIS K 2269)が5℃であって、実施例5に比べて9℃低く、流動性に優れていた。
第1の減圧蒸留工程で得られた留出液と第2の減圧蒸留工程で得られた留出液とを混合したものについて、その性状、収率などについて表1にまとめる。
【0091】
[比較例1]
脱ガム工程(P)とエステル化工程(A)とを行わない以外は実施例2と同様にして(アルカリ触媒(水酸化ナトリウム)量は0.25部)、エステル交換反応工程(B)を行った。しかしながら、エステル交換反応はほとんど進行せず、得られた混合物を40℃で30分間静置したが、油相とグリセリン相に分離しなかった。
【0092】
[比較例2]
水酸化ナトリウムの量を0.8部とした以外は比較例1と同様にして、エステル交換反応工程(B)を行った。得られた混合物を40℃で30分間静置し、油相とグリセリン相に分離し、油相100部に対して水10部を添加し、攪拌後、これを40℃で60分間静置し油相と水相に分離した。油相中の脂肪酸メチルエステル濃度は94.0%であった。
ついで、油相に対し、実施例1と同じ条件で蒸留工程(C)を行った。
第1の減圧蒸留工程、第2の減圧蒸留工程を行い、第1の減圧蒸留工程で得られた留出液と第2の減圧蒸留工程で得られた留出液とを混合したものについて、その性状、収率などについて表1にまとめる。
【0093】
[比較例3]
実施例3と同様にして、脱ガム工程から蒸留工程までを実施した。
ただし、エステル化工程の条件を変化させ、得られたエステル混合物の酸価が4になるようにした。結果を表1にまとめる。
【0094】
[比較例4]
実施例3と同様にして、脱ガム工程から蒸留工程までを実施した。
ただし、(3)および(5)のエステル交換反応工程の1段目での触媒量をいずれも1.5部とした。結果を表1にまとめる。
【0095】
[比較例5]
実施例3と同様にして、脱ガム工程から蒸留工程までを実施した。
ただし、リサイクル工程(R)を実施しなかった。結果を表1にまとめる。
【0096】
【表1】

【0097】
脂肪酸メチルエステルの濃度は、ガスクロマトグラフィ(GC)により、あらかじめ作製された検量線を用いて求めた。すなわち、前処理後の試料を採血ビンに約0.2g取り、n−ヘキサン約1gを加えて溶解し、下記GC測定条件で操作し、検量線から各留分の濃度を算出した。
なお、検量線は、脂肪酸メチルエステル標準品(炭素数6〜22、和光純薬社製)の各々をn−ヘキサンに溶解し、所定の濃度となるように標準溶液を調製し、各標準溶液を下記条件でGC分析して作製した。
<GC測定条件>
・GC:島津製作所社製、商品名GC6A
・カラム:DEGS(ジエチレングリコールサクシネート20%)カラム温度:180℃、注入口温度:250℃
・検出器温度:250℃、RANGE(10):n=3
・キャリアーガス:N2、50mL/min、 検出器:FID、注入器:1μL
【0098】
グリセライドの含有量は、試料約20mgをバイアル瓶に採取し、ピリジン100μLとBSTFA(ビストリメチルシリルトリフルオロアセトアミド)200μLを加えてよく撹拌し、これを80℃で30分間加熱後、室温まで冷却したものを試料溶液とし、これをGC測定して求めた。
<GC測定条件>
・カラム:DB−HT(キャピラリーカラム、J&W社)、カラム温度:初期50℃から400℃まで、10℃/分で昇温
・注入口温度:380℃、検出器温度:400℃、検出器:FID、キャリアガス:ヘリウム、スプリット比:約50:1、試料注入量:1μL
【0099】
以上のように、各実施例では、EU規格をクリアできる高純度の脂肪酸メチルエステルが高収率で安定に得られた。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の製造方法の一例を示す概略工程図である。
【図2】本発明の製造方法のうち、リサイクル工程(R)についての一例を示す概略工程図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動植物油脂を含む原料から、軽油代替燃料用の脂肪酸低級アルキルエステルを製造する方法であって、
カチオン交換樹脂を使用して、前記原料中の脂肪酸を低級アルキルアルコールでエステル化し、酸価が2以下のエステル混合油を含む反応混合物を得るエステル化工程(A)と、
アルカリ触媒の量を前記エステル混合油100質量部に対して0.1〜1質量部の範囲内で、前記酸価に応じて調整しながら、前記エステル混合油中の油脂を低級アルキルアルコールでエステル交換する1段目の工程を少なくとも備えたエステル交換反応工程(B)と、
前記エステル交換反応工程(B)で副生したセッケンをpH2〜5の条件下、酸で分解して脂肪酸とし、該脂肪酸を前記エステル化工程(A)または該エステル化工程(A)よりも前段側の工程に返送するリサイクル工程(R)と、
前記エステル交換反応工程(B)で得られた油相から、脂肪酸低級アルキルエステルを留出させる減圧蒸留工程を少なくとも備えた蒸留工程(C)とを有することを特徴とする脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法。
【請求項2】
前記動植物油脂が未精製油脂である場合、該未精製油脂からガム質を除去する脱ガム工程(P)を前記エステル化工程(A)の前段側に有することを特徴とする請求項1に記載の脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法。
【請求項3】
前記脱ガム工程(P)は、前記未精製油脂にリン酸からなる変性剤とパーライトからなる吸着剤とを混合し、得られた混合物をろ過する工程であることを特徴とする請求項2に記載の脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法。
【請求項4】
前記エステル交換反応工程(B)は2段の工程からなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ触媒として水酸化ナトリウムを使用するとともに、前記酸として硫酸を使用して、前記リサイクル工程(R)で硫酸ナトリウムを副生させることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法。
【請求項6】
前記蒸留工程(C)は、留出させる前記脂肪酸低級アルキルエステルの炭素数が異なる2段以上の減圧蒸留工程を有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法。
【請求項7】
前記動植物性油脂の主成分が炭素数16および/または18の脂肪酸に由来する油脂の場合、前記減圧蒸留工程のうち最後段の工程で留出する留出液中のグリセライドの含有量が0.1質量%以下となるように、前記最後段の工程の蒸留条件を下記(i)〜(iii)を満足するように設定することを特徴とする請求項6に記載の脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法。
(i)蒸留塔のトップ圧力を0.1〜1kPaとし、ボトム圧力を2〜5kPaとする。(ii)蒸留塔のトップ温度を150〜200℃とし、ボトム温度を190〜220℃とする。
(iii)還流比を0〜1とし、蒸発率を95〜99%とする。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−176973(P2007−176973A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−373777(P2005−373777)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】