説明

軽症の認識損傷の治療方法及びアルツハイマー病の予防又は遅延方法

特に、アルツハイマー病の発病を予防又は遅延するための観点で、年齢関連の認識減退又は軽症の認識損傷の治療のための薬物の製造のための、式(I)の化合物又はこの医薬適合性の塩の使用が開示されている。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の治療処置のための方法及び物質の使用に関する。特に、本発明は、詳細にはアルツハイマー病の発病を予防又は遅延するための、年齢関連認識減退及び軽症の認識損傷の治療方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
年齢関連認識減退及び軽症の認識損傷(MCI)は、記憶欠損が存在するが、痴呆についての他の診断規準が存在しない状態である(Santacruz及びSwagerty、American Family Physician、第63巻(2001年)、第703−13頁)。(また、「精神及び行動異常症のICD−10分類(The ICD−10 Classification of Mental and Behavioural Disorders)」、ジュネーブ:世界保健機関、1992年、64−5も参照)。ここで使用されるとき、年齢関連認識減退は、記憶及び学習;注意及び集中;思考;言語並びに視空間機能の少なくとも1個に於ける少なくとも6ヶ月間の減退並びにMMSEのような標準化された神経心理的試験での規準よりも低い、1よりも大きい標準偏差の評点によって特徴付けられる。特に、記憶に於ける進行性減退が存在するであろう。より厳しい条件軽症の認識損傷(MCI)に於いて、記憶損傷の程度は、患者の年齢について正常と考えられる範囲の外であるが、アルツハイマー病(AD)は存在しない。MCI及び軽症ADの鑑別診断は、Petersenら、Arch.Neurol.、第56巻(1999年)、第303−8頁に記載されている。同じ文献に於いて、Petersenらは、MCIに罹っている患者は、典型的に、認識損傷に於いて累進的上昇を経験し、及び多くの場合にADを発症する。MCIの鑑別診断に於ける更なる情報は、Knopmanら、Mayo Clinic Proceedings、第78巻(2003年)、第1290−1308頁によって提供されている。初老の被検者の研究に於いて、Tuokkoら(Arch,Neurol.、第60巻(2003年)、第577−82頁)は、発病時にMCIを示すものが、3倍増加した、5年以内に痴呆を発症する危険性を有していたことを見出した。
【0003】
Grundmanら(J.Mol.Neurosci.、第19巻(2002年)、第23−28頁)は、MCI患者に於けるより低い基線海馬体積が、続いて起こるADの予後の指標であることを報告している。同様に、Andreasenら(Acta Neurol.Scand.、第107巻(2003年)、第47−51頁)は、全タウの高いCSFレベル、ホスホ−タウの高いCSFレベル及びAβ42の低下したCSFが、全て、MCIからADへの進行の増加した危険性と連合していることを報告している。
【0004】
年齢関連認識減退及び軽症の認識損傷は、ときには、発作、振盪症又は下垂体の主機能不全のような、大脳又は全身性疾患及び外傷からもたらされる、顕著な認識欠損から区別される。
【0005】
アルツハイマー病(AD)は、痴呆の最も一般的な形態である。この診断は、「精神異常の診断及び統計マニュアル(the Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」、第4版、米国精神医学協会(American Psychiatric Association)により刊行(DSM−IV)(例えば、第139−143頁)に記載されている。アルツハイマー病の診断規準には、(1)記憶損傷(新しい情報を学ぶための又は以前に学んだ情報を思い出すための損傷した能力)並びに(2)下記の認識障害、即ち、(a)失語症(言語障害)、(b)失行症(健全な運動機能にもかかわらず、運動活動を行うための損傷した能力)、(c)失認証(健全な知覚機能にもかかわらず、物体を認識し又は同定するための不全)及び(d)実行機能(即ち、計画すること、組織すること、配列すること、抽出すること)に於ける障害の一つ(又は二つ以上)の両方によって現れる、患者に於ける複数の認識欠損の発症が含まれる。このような認識欠損は、下記のこと、即ち、(1)記憶及び認識に於ける進行性欠損を起こす他の中枢神経系状態(例えば、脳血管疾患、パーキンソン病、ハンチントン病、硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍)、(2)痴呆を起こすことが知られている全身状態(例えば、甲状腺機能低下症、ビタミンB12又は葉酸欠乏、ナイアシン欠乏、高カルシウム血症、神経梅毒、HIV感染)、(3)物質誘発状態の何れかに起因するとして特徴付けられない。
【0006】
アルツハイマー病は、記憶及び一般的認識機能の進行的損失によって臨床的に特徴付けられ、及び病人の皮質性及び連合脳領域に於ける細胞外タンパク性プラークの析出によって病理学的に特徴付けられる神経変性異常症である。これらのプラークは、主として、β−アミロイドペプチド(Aβ)の細線維の凝集物を含んでいる。従って、脳に於けるAβの負担を減少させることが、ADの治療のための戦略として提案された。例えば、Carroらは、Nature Medicine、第8巻(2002年)、第1390−7頁に於いて、インスリン様成長因子1(IGF−1)の皮下投与が、げっ歯動物に於いて大脳Aβ負担の減少を起こすことを開示している。しかしながら、幾人かの著者は、Aβの分泌が、アルツハイマー型の痴呆の直接の原因であると一般的に考えられているニューロンの損失に応答性であるか否かについて疑問を呈している(例えば、Robinson及びBishop、Neurobiology of Aging、第23巻(2002年)、第1051−72頁及びNew Scientist、2003年2月1日号、第35−37頁参照)。
【0007】
米国特許第5,767,124号明細書、米国特許第5,536,716号明細書、国際特許出願公開第94/13696号明細書及び欧州特許出願公開第0615977B号明細書には、成長ホルモン分泌促進物質である化合物、即ち、ヒトを含む動物に於ける成長ホルモンの内因性放出を刺激又は増加する化合物が開示されている。この特性は、食用動物の成長を促進するために、及びヒトに於いて、成長ホルモン分泌に於ける欠乏によって特徴付けられる生理学的又は医療的状態及び成長ホルモンの同化効果によって改良される医療的状態を治療するために、有用である。治療できる、リストされた状態は、アルツハイマー病を含む。
【0008】
米国特許第4,902,680号明細書に於いて、アルツハイマー病の進行した段階の患者への、成長ホルモンの投与が主張されている。
【0009】
国際特許出願公開第00/13650号には、脳内の成長ホルモンの上昇したレベルが神経保護効果を与え、特に、神経変性疾患に付随するもののような発作の結果として他の場合には死ぬニューロンを救助できることが開示されている。脳の中への成長ホルモンの注入が意図されている。
【0010】
重い下垂体機能不全の結果としての重い成長ホルモン欠乏は、成人の認識損傷に至り得(Deijenら、Psychoneuroendocrinology、第21巻(1996年)、第313−22頁)、これは成長ホルモン置換治療によって逆にできる(Deijenら、同書、第23巻(1998年)、第45−55頁;Soaresら、Arq.Neuropsiquiatr.、第57巻(1999年)、第182−9頁;Rosenら、Horm.Res.、第43巻(1995年)、第93−99頁)。成長ホルモン又はこの分泌促進剤の投与は、多くの他の効果の中でも、正常な健康な初老の被検者に於ける認識を改善することができると推測された(例えば、Merriamら、Endocrine、第7巻(1997年)、第49−52頁;Cummings及びMerriam、Semin.Reprod.Endocrinol.、第17巻(1999年)、第311−25頁参照)が、このような目的のための分泌促進剤の実際の使用はなされなかった。しかしながら、最近の刊行物は、正常な加齢の被検者への成長ホルモン又は成長ホルモン分泌促進剤の投与は、臨床的利益のあるものではないと結論している(Anawalt及びMerriam、Endocrinol.Metab.Clin.North Am.、第30巻(2001年)、第647−69頁;Cummings及びMerriam、Annu.Rev.Med.、第54巻(2003年)、第513−33頁)。本発明は、正常な健康な被検者(即ち、無症候被検者)には関係ない。
【0011】
前記の米国特許第5,767,124号明細書に開示されている化合物は、種々の治療分野に於いて多数の臨床的試行の主題であったが、年齢関連の認識減退又は軽症の認識損傷ではなかった(例えば、Murphyら、J.Bone Miner.Res.、第14巻(1999年)、第1182−8頁;Chapmanら、J.Clinical Endocrinology and Metabolism、第81巻(1996年)、第4249−57頁;同書、第82巻(1997年)、第3455−63頁;及びSvenssonら、同書、第83巻(1998年)、第362−9頁参照)。
【発明の開示】
【0012】
本発明に従って、年齢関連の認識減退又は軽症の認識損傷の治療のための薬物の製造のための、式I:
【0013】
【化2】

の化合物又はこの医薬適合性の塩の使用が提供される。治療の好ましい結果は、アルツハイマー病の発病の予防又は遅延である。このような予防又は遅延は、患者の認識減退が停止すること若しくは遅くなること又は認識損傷の進行が停止すること若しくは遅くなることによって示すことができる。
【0014】
上記薬物が注射により投与することを必要としないことが、本発明の利点の一つである。好ましい実施態様に於いて、上記薬物は経口投与のために適した剤形である。
【0015】
式Iの化合物は、N−[1(R)−[(1,2−ジヒドロ−1−メタンスルホニルスピロ[3H−インドール−3,4’−ピペリジン]−1’−イル)カルボニル]−2−(フェニルメチルオキシ)エチル]−2−アミノ−2−メチルプロパンアミドと命名することができる。
【0016】
本発明に於いて使用するために、式Iの化合物は、有利には、Iに於ける第一級アミン基と医薬適合性の酸、例えば、塩酸、硫酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酢酸、安息香酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、炭酸又はリン酸との相互作用によって形成される酸付加塩の形にある。好ましくは、式Iの化合物は、メタンスルホン酸塩(これは、これ自体好ましくは、米国特許第5,767,124号明細書に記載されている多形相の一つである)の形態にある。
【0017】
式Iの化合物及びこの適切な塩の合成は、米国特許第5,767,124号明細書、欧州特許出願公開第0615977B号明細書、米国特許第6,028,196号明細書、米国特許第6,046,333号明細書及び国際特許出願公開第96/33189号明細書に記載されている。
【0018】
本発明の方法は、脳脊髄液及び/又は血清中の可溶性Aβの変化したレベルによって示すことができる、脳からのAβの増強させたクリアランスに導くことができる。この代わりに(又は追加的に)、磁気共鳴画像形成、陽電子放射断層撮影、シングルフォトンエミッションコンピュータ断層撮影及びマルチフォトン顕微鏡検査のような画像形成技術を使用して、脳内のAβ析出の程度をモニターすることができる(例えば、Bacskaiら、J.Cereb.Blood Flow Metab.、第22巻(2002年)、第1035−41頁参照)。
【0019】
特別の実施態様に於いて、本発明は、年齢関連認識減退を有する患者に於ける又は軽症の認識損傷を有する患者に於ける、アルツハイマー病に付随する痴呆の発病を予防又は遅延するための薬物の製造のための、前記定義したような化合物の使用を提供する。
【0020】
本発明は、また、年齢関連認識減退又は軽症の認識損傷の治療方法であって、これが必要な患者に、治療的に有効量の、前記定義したような式Iの化合物又はこの医薬適合性の化合物を投与することを含む方法を提供する。特別の実施態様に於いて、本発明は、また、全ての更なる年齢関連認識減退又は軽症の認識損傷の進行の、予防、遅延又は停止方法であって、これが必要な患者に、治療的に有効量の、前記定義したような式Iの化合物又はこの医薬適合性の塩を投与することを含む方法を提供する。
【0021】
本発明は、また、アルツハイマー病の発病の予防又は遅延方法であって、年齢関連認識減退又は軽症の認識損傷に罹っている患者に、治療的に有効量の、前記定義したような式Iの化合物又はこの医薬適合性の塩を投与することを含む方法を提供する。
【0022】
特別の実施態様に於いて、本発明は、また、アルツハイマー病に付随する痴呆の発病の予防又は遅延方法であって、年齢関連認識減退又は軽症の認識損傷に罹っている患者に、治療的に有効量の、前記定義したような式Iの化合物又はこの医薬適合性の塩を投与することを含む方法を提供する。
【0023】
本発明の好ましい実施態様に於いて、式Iの化合物又はこの医薬適合性の塩は、軽症の認識損傷を有する人に投与される。
【0024】
本発明の他の好ましい実施態様に於いて、式Iの化合物又はこの医薬適合性の塩は、年齢関連認識減退を示す人に投与される。
【0025】
本発明の方法は、年齢関連の認識減退又は軽症の認識損傷に罹っている患者の脳内の不溶性Aβの蓄積を予防、遅延又は停止するために最も適している。
【0026】
本発明に於いて有用な薬物は、損傷した記憶機能に罹っているが、失語症、失行症、失認証又は実行機能に於ける障害のような痴呆を構成する他の症状を示さない患者に投与するために特に適している。このような記憶機能の障害は、典型的に、全身性又は脳疾患、例えば、下垂体機能不全によって起こされる発作又は代謝異常に起因しない。このような患者は、特に、55歳以上の人々、特に60歳以上の人々、むしろ65歳以上の人々であろう。このような患者は、これらの年齢のための正常な、成長ホルモン分泌のパターン及びレベルを有するであろう。しかしながら、このような患者は、アルツハイマー病を発症するための1個又は2個以上の追加の危険因子を有するであろう。このような因子には、疾患の家族歴、疾患に対する遺伝素質、上昇した血清コレステロール、成人発病型真性糖尿病、全タウの上昇したCSFレベル、ホスホ−タウの上昇したCSFレベル及びAβ42の低下したCSFレベルが含まれる。
【0027】
本発明の特別の実施態様に於いて、式Iの化合物又はこの医薬適合性の塩は、追加的に、疾患の家族歴、疾患に対する遺伝素質、上昇した血清コレステロール、成人発病型真性糖尿病、全タウの上昇したCSFレベル、ホスホ−タウの上昇したCSFレベル及びAβ42の低下したCSFレベルから選択されたADを発症するための1個又は2個以上の危険因子を有する、年齢関連の認識減退又は軽症の認識損傷に罹っている患者に投与される。
【0028】
遺伝素質(特に、早期発病アルツハイマー病に関する)は、1個又は2個以上のAPP、プレセニリン(presenilin)−1及びプレセニリン−2遺伝子に於ける点突然変異から生じ得る。また、アポリポタンパク質E遺伝子のε4イソ型のために同型接合性である被検者は、ADを発症するより大きい危険性にある。
【0029】
認識減退又は損傷の患者の程度は、有利には、式Iの化合物又はこの医薬適合性の塩による治療の経過の前、間及び/又は後に規則的間隔で評価され、従ってここでの変化、例えば、認識減退の遅延又は停止が検出できる。種々の神経心理的試験、例えば、年齢及び教育について調節された規準によるミニ−メンタル状態検査(Mini−Mental State Examination)(MMSE)が、この目的のために公知である(Folsteinら、J.Psych.Res.、第12巻(1975年)、第196−198頁;Anthonyら、Psychological Med.、第12巻(1982年)、第397−408頁;Cockrellら、Psychopharmacology、第24巻(1988年)、第689−692頁;Crumら、J.Am.Med.Assoc’n.、第18巻(1993年)、第2386−2391頁)。MMSEは、成人に於ける認識状態の簡単な定量的測定である。これは、認識減退又は損傷についてスクリーニングし、所定の時点での認識減退又は損傷の酷度を推定し、時間の経過に亘って個人の認識変化の経過を追跡し、及び治療に対する個人の応答を記録するために使用することができる。
【0030】
本発明に於いて使用するために適している化合物は、典型的に、式Iの化合物(又はこの医薬適合性の塩)及び医薬適合性の担体を含有する医薬組成物として投与される。好ましくは、これらの組成物は、単位剤形、例えば、経口、非経口、鼻腔内、舌下若しくは直腸投与のために又は吸入若しくは通気による投与のために、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、滅菌非経口溶液剤若しくは懸濁剤、計量したエーロゾル剤若しくは液体スプレー剤、滴剤、アンプル剤、経皮パッチ剤、自動注入デバイス又は坐剤である。基本的活性成分は、典型的に、薬物担体、例えば、一般的錠剤化成分、例えばトウモロコシデンプン、ラクトース、スクロース、ソルビトール、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム及びリン酸二カルシウム若しくはゴム、分散剤、懸濁剤又は界面活性剤、例えばソルビタンモノオレエート及びポリエチレングリコール並びに他の薬物希釈剤、例えば水と混合されて、式Iの化合物又はこの医薬適合性の塩を含有する均一な予備配合組成物を形成する。これらの予備配合組成物を均一であるとして参照するとき、活性成分が組成物全体に均一に分散されて、組成物が、等しく有効な単位剤形、例えば錠剤、丸剤及びカプセル剤に、容易に更に分割できることが意味される。次いで、この予備配合組成物は、例えば、0.1から約150mgの活性成分を含有する、上記の種類の単位剤形に更に分割される。好ましい単位剤形には、0.5から100mg、例えば、0.5、1、2,3、5、10、15、20、25、30、50、60又は75mgの、遊離塩基又は同等量のこの医薬適合性の塩が含有されている。医薬組成物の錠剤又は丸剤は、被覆するか又は他の方法で配合して、持続性作用の利点を与える剤形を提供することができる。例えば、錠剤又は丸剤は、内側の用量成分及び外側の用量成分からなり、後者が前者の上の外皮の形態であってよい。この二つの成分は、胃内で崩壊に抵抗し、及び内側の成分が十二指腸の中に変化しないままで通過するか又は放出が遅延することを可能にするように機能する腸溶性層によって分離することができる。このような腸溶性層又は皮膜のために、種々の材料を使用することができ、このような材料には、多数のポリマー酸並びにポリマー酸とシェラック、セチルアルコール及び酢酸セルロースのような材料との混合物が含まれる。
【0031】
医薬組成物が経口投与のために含有されている液体剤形には、水溶液、液体−又はゲル充填カプセル、適切に香味を付けたシロップ、水性又は油性懸濁液及び食用油、例えば綿実油、ゴマ油、ココナッツ油又はピーナッツ油により香味を付けたエマルジョン並びにエリキシル及び同様の薬物ビヒクルが含まれる。水性懸濁液のための適切な分散剤又は懸濁剤には、合成ゴム及び天然ゴム、例えば、トラガカント、アラビアゴム、アルギン酸塩、デキストラン、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルピロリドン)又はゼラチンが含まれる。
【0032】
式Iの化合物及びこの適切な塩の薬物配合物は、米国特許第6,123,964号明細書に記載されている。
【0033】
本発明に於いて使用するために、安全及び効能の項目で、前記定義された化合物の最適用量レベルは、アルツハイマー病を発症する知覚された危険性及び/又は個々の患者に特異的な他の要因に従って変化し、及び当業者に公知の方法によって決定することができる。一般的に、約0.01から5.0mg/体重kg/日、好ましくは約0.05から2.5mg/体重kg/日、更に好ましくは約0.1から1.0mg/体重kg/日の用量が意図される。
【0034】
この化合物は、全ての適切な処方、例えば、1日当たり1、2、3又は4回で投与されるが、1日当たり1回又は2回の投与が好ましく、1日当たり1回の投与が最も好ましい。該投与は好ましくは経口投与である。
【0035】
この化合物は、長期間、例えば、3か月、6か月、1年若しくはそれ以上又は被検者の残りの寿命の間に亘って規則的間隔で投与することができる。
【0036】
式Iの化合物及びこの医薬適合性の塩は、経口投与のために特に適している。従って、経口投与可能単位用量医薬組成物が、本発明の方法及び使用に於いて最も使用されやすい。
【0037】
本発明の一つの実施態様に於いて、化合物N−[1(R)−[(1,2−ジヒドロ−1−メタンスルホニルスピロ[3H−インドール−3,4’−ピペリジン]−1’−イル)カルボニル]−2−(フェニルメチルオキシ)エチル]−2−アミノ−2−メチルプロパンアミドメタンスルホン酸塩が、1日当たり1人当たり約25mgの遊離塩基に同等の全用量で投与される。二つの別の実施態様に於いて、該化合物は、1日当たり10mg又は5mgの遊離塩基に同等の全用量で投与される。これらの実施態様に於いて、1日用量は、1回で、例えば、1個の錠剤又は2個の錠剤として投与されることが好ましい。
【0038】
上記概説した限界外の他の処方及び/又は用量レベルを、状況が必要とする場合に使用することができる。
【0039】
(実施例)
下記の実施例に於いて、活性薬物は、米国特許第5,767,124号明細書に記載されているような、結晶形Iで製造された、N−[1(R)−[(1,2−ジヒドロ−1−メタンスルホニルスピロ[3H−インドール−3,4’−ピペリジン]−1’−イル)カルボニル]−2−(フェニルメチルオキシ)エチル]−2−アミノ−2−メチルプロパンアミドメタンスルホン酸塩である。
【実施例1】
【0040】
錠剤配合物(湿式顆粒化方法)
下記の配合物を使用して、それぞれ25mgの遊離塩基の等価物を含有する、被覆した錠剤を製造する。
【0041】
錠剤コア mg/錠剤
活性薬物 29.6
糊化したデンプンNF 113.0
リン酸カルシウム二塩基性、USP 174.0
微結晶性セルロースNF 57.0
ステアリン酸マグネシウム微細粉末NF 2.0
クロスカルメロースナトリウム(Croscarmellose Sodium)NF
24.0
エタノール95%USP ――――
精製水USP ――――
【0042】
錠剤皮膜
ヒドロキシプロピルメチルセルロースUSP 3.2
ヒドロキシプロピルセルロース w/0.3%シリカ 3.2
二酸化チタンUSP 1.28
精製したタルクUSP 0.32
精製水USP ――――
工程の間に除去された。
【0043】
活性薬物、リン酸カルシウム、糊化したデンプン、微結晶性セルロース及びクロスカルメロースナトリウムの半分を混合し、次いで簡単に追加混合するために顆粒化機に移す。25%エタノール/水混合物をゆっくり添加し、及び顆粒化を実施する。この顆粒を乾燥させ、篩い分けし、及び残りのクロスカルメロースナトリウム及び次いでステアリン酸マグネシウムと混合する。圧縮によって錠剤を形成し、及び錠剤皮膜成分の水性懸濁液をスプレーすることによってフィルムを被覆する。
【0044】
薬物の異なった含有量、例えば、10mg又は5mgを含有する錠剤を、成分の相対比率を適切に調節して、同じ手順によって形成する。
【実施例2】
【0045】
錠剤配合物(ローラー圧縮法)
下記の配合物を使用して、それぞれ25mgの遊離塩基の等価物を含有する、被覆した錠剤を製造する。
【0046】
錠剤コア mg/錠剤
活性薬物 29.6
リン酸カルシウム二塩基性、USP 60.44
微結晶性セルロースNF 150.0
ステアリン酸マグネシウム微細粉末NF 2.56
クロスカルメロースナトリウムNF 7.5
【0047】
錠剤皮膜
ヒドロキシプロピルメチルセルロースUSP 3.125
ヒドロキシプロピルセルロース w/0.3%シリカ 3.125
二酸化チタンUSP 1.25
精製水USP ――――
工程の間に除去された。
【0048】
活性薬物、微結晶性セルロース及びステアリン酸マグネシウムの一部を混合し、次いでローラー圧縮し、及び得られる圧縮物を粉砕する。粉砕した物質を、クロスカルメロースナトリウム、リン酸カルシウム及び残りのステアリン酸マグネシウムとブレンドし、次いで錠剤に圧縮する。この錠剤を、錠剤皮膜成分の水性懸濁液をスプレーすることによって、フィルム被覆する。
【0049】
薬物の異なった含有量を含有する錠剤を、成分の相対比率を適切に調節して、同じ手順によって形成する。
【実施例3】
【0050】
アルツハイマー病の発病を予防又は遅延するための治療
(実施例1又は実施例2に記載したような)1個の25mg錠剤を、このような治療が必要な被検者に、毎日水と共に投与する。
【実施例4】
【0051】
軽症の認識障害を示す被検者に於けるアルツハイマー病の発病を予防又は遅延するための治療
軽症の認識障害を有する被検者は、MMSE又は同様の診断ツールを使用して同定される。
【0052】
(実施例1又は実施例2に記載したような)1個の25mg錠剤を、該被検者に、毎日水と共に投与する。
【0053】
被検者の認識状態は、MMSE又は類似のツールを使用して周期的にモニターし、及び被検者は、痴呆の臨床的症状についてモニターする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
年齢関連の認識減退又は軽症の認識損傷の治療が必要な患者に於いて、この治療のための薬物の製造のための、式I:
【化1】

の化合物又はこの医薬適合性の塩の使用。
【請求項2】
年齢関連認識減退又は軽症の認識損傷に罹っている患者に於ける、アルツハイマー病の発病を予防又は遅延するための薬物の製造のための、請求項1に記載の式Iの化合物又はこの医薬適合性の塩の使用。
【請求項3】
年齢関連認識減退又は軽症の認識損傷に罹っている患者に於ける、アルツハイマー病に付随する痴呆の発病を予防又は遅延するための薬物の製造のための、請求項1に記載の式Iの化合物又はこの医薬適合性の塩の使用。
【請求項4】
前記患者が55歳以上の人である、請求項1から3の何れか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記患者が60歳以上の人である、請求項1から4の何れか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記患者が65歳以上の人である、請求項1から5の何れか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記患者が、追加的に、疾患の家族歴、疾患に対する遺伝素質、上昇した血清コレステロール、成人発病型真性糖尿病、全タウの上昇したCSFレベル、ホスホ−タウの上昇したCSFレベル及びAβ42の低下したCSFレベルから選択された、アルツハイマー病を発症するための1個又は2個以上の危険因子を有する、請求項1から6の何れか1項に記載の使用。
【請求項8】
患者が軽症の認識損傷に罹っている、請求項1から7の何れか1項に記載の使用。
【請求項9】
患者が年齢関連認識減退に罹っている、請求項1から7の何れか1項に記載の使用。
【請求項10】
年齢関連の認識減退又は軽症の認識損傷に罹っている患者の脳内の不溶性Aβの蓄積を予防、遅延又は停止するための薬物の製造のための、請求項1に記載の式Iの化合物又はこの医薬適合性の塩の使用。
【請求項11】
薬物が経口投与のために適合されている、請求項1から10の何れか1項に記載の使用。

【公表番号】特表2006−520371(P2006−520371A)
【公表日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505929(P2006−505929)
【出願日】平成16年3月8日(2004.3.8)
【国際出願番号】PCT/GB2004/000983
【国際公開番号】WO2004/080459
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【出願人】(390035482)メルク シャープ エンド ドーム リミテッド (81)
【出願人】(390023526)メルク エンド カムパニー インコーポレーテッド (924)
【氏名又は名称原語表記】MERCK & COMPANY INCOPORATED
【Fターム(参考)】