説明

軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物の製造方法

【課題】移動床反応器を用いた接触分解反応において、転化率及び目的生成物の収率を共に向上し得る、軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】移動床反応器を用いて、水蒸気の存在下、炭化水素原料を触媒に接触させて接触分解反応を行い、軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物を製造する方法であって、該触媒として、Si/Al原子比が50より小さく、かつ希土類元素を含有するペンタシル型ゼオライトを用いることを特徴とする軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素原料を用いて、軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物を効果的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン、プロピレン等の軽質オレフィンや、ベンゼン、トルエン、キシレン(以下、まとめて「BTX」ともいう)等の単環芳香族化合物は、各種化学品の基礎原料として重要な物質である。従来、これらの軽質オレフィンや単環芳香族化合物の製造方法としては、エタン、プロパン、ブタン等のガス状炭化水素あるいはナフサ等の液状炭化水素を原料とし、外熱式の管状炉内で水蒸気雰囲気下に加熱分解する方法が広く実施されている。
【0003】
しかしながら、上記の製造方法では、目的物の収率を高めるために、反応温度を800℃以上と高温にする必要があり、そのため、高価な装置を使用しなければならないという経済的に不利な点を有している。また、生成されるエチレンの生成量に対して、プロピレンや単環芳香族化合物の生成量が少ないといった問題も有する。これらの問題を解決するために、触媒、特にゼオライト触媒を用いた炭化水素原料の接触分解反応による軽質オレフィンや単環芳香族化合物の製造方法が種々検討されている。
【0004】
特許文献1には、少なくともSi/Al原子比が180であるMFI型の結晶性シリケート、及び、水蒸気処理工程がなされ、Si/Al原子比が150〜800であるMEL型結晶性シリケートから選択される結晶性シリケートを触媒として用いた、移動床反応器内で炭化水素原料を接触分解して、プロピレンを主とする軽質オレフィンを製造する方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、Si/Al原子比が50〜1200である少なくとも1種のゼオライトを含む担持触媒を用いた、移動床反応器内で炭素数2〜12の軽質オレフィン炭化水素原料油をオリゴマー化と接触分解とを同時に行い、プロピレンを製造する方法が開示されている。
【0006】
特許文献3には、球状ボールの形状で、特定の細孔容積を持つ触媒を用いた、プロピレンの製造方法が開示されている。当該特許文献3に記載の製造方法では、触媒として、ZSM−5ゼオライトが用いられており、当該触媒のSi/Al原子比は180〜1000である旨が開示されている。
【0007】
特許文献4には、特定の量の希土類元素を酸化物として担持したゼオライト触媒を用いて、炭化水素原料を接触分解し、エチレン及びプロピレンを製造する方法が開示されている。当該特許文献4で用いられているゼオライト触媒のSiO2/Al23比は25〜800であり、Si/Al原子比に換算すると12.5〜400である。
【0008】
特許文献5には、リン及び希土類元素を含有すると共に、周期表10〜12族の元素の少なくとも一種を含有するゼオライトを触媒として用いて、炭化水素原料を接触分解し、低級オレフィンを製造する方法が開示されている。当該特許文献5で用いられているゼオライト触媒のSiO2/Al23比も25〜800であり、Si/Al原子比に換算すると12.5〜400である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2004−510874号公報
【特許文献2】特開2006−83173号公報
【特許文献3】特開2008−50359号公報
【特許文献4】特開平11−180902号公報
【特許文献5】特開2009−242264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般的に移動床反応器を用いた接触分解反応は、固定床反応器を用いた場合に比べて反応結果(転化率、目的生成物の収率)が劣る。
上記特許文献4,5では、移動床反応器を用いた接触分解反応についての具体的な検討はなされていない。また、上記特許文献1〜3では、移動床反応器を用いた接触分解反応を行うために、Si/Al原子比の高いゼオライトを用いているが、Si/Al原子比が高い(Al含量が少ない)ゼオライトは、Si/Al原子比が低い(Al含量が多い)ゼオライトよりも触媒活性が低いため、目的生成物の収率が劣るという問題を有する。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、移動床反応器を用いた接触分解反応において、転化率及び目的生成物の収率を共に向上し得る、軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、移動床反応器を用いた接触分解反応において、触媒として特定のペンタシル型ゼオライトを用いることで、上記課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は、下記(1)〜(6)を提供する。
(1)移動床反応器を用いて、水蒸気の存在下、炭化水素原料を触媒に接触させて接触分解反応を行い、軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物を製造する方法であって、該触媒として、Si/Al原子比が50より小さく、かつ希土類元素を含有するペンタシル型ゼオライトを用いることを特徴とする軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物の製造方法。
(2)前記ペンタシル型ゼオライトが、更にリンを含有する、上記(1)に記載の軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物の製造方法。
(3)前記ペンタシル型ゼオライトが、MFIゼオライト及び/又はMELゼオライトである、上記(1)又は(2)に記載の軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物の製造方法。
(4)前記炭化水素原料が、炭素数4〜6の炭化水素類を50質量%以上含む、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物の製造方法。
(5)前記接触分解反応において、前記水蒸気と前記炭化水素原料との質量比(水蒸気/炭化水素原料)が、0.1〜2である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物の製造方法。
(6)前記接触分解反応において、前記触媒の一部を連続的又は断続的に取り出し、触媒活性の再生処理をし、該再生処理を行った触媒を前記移動床反応器に連続的又は断続的に循環する、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、移動床反応器を用いた炭化水素原料の接触分解反応において、転化率及び目的生成物の収率を共に向上し得る。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、移動床反応器を用いて、水蒸気の存在下、炭化水素原料を触媒に接触させて接触分解反応を行い、軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物を製造する方法であり、該触媒が、該触媒のSi/Al原子比が50より小さく、かつ希土類元素を含有するペンタシル型ゼオライトである。
なお、本発明において、「軽質オレフィン」とは、エチレン、プロピレン等の炭素数が3以下のオレフィンを示し、具体的にはエチレン及びプロピレンを示す。
また、「単環芳香族化合物」とは、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族性を示す単環から構成された炭化水素を示す。
【0015】
本発明の接触分解反応は、移動床反応器を用いて実施される。本発明において「移動床」とは、「移動層」と同義であり「立型の容器に粒子を充填し、重力が作用する方向に、粒子間の相対位置をほとんど変えることなく粒子を移動させる装置及び操作形式」を意味する(「移動層工学−実際と基礎(篠原邦夫ら著、北海道大学図書刊行会、2000年発行)」の1頁、5頁参照)。
一般的に移動床反応器を用いた接触分解反応では、固定床反応器を用いた場合と比べて反応性が劣る。
しかしながら、本発明の製造方法においては、特定のペンタシル型ゼオライトを用いることで、転化率及び目的生成物の収率を共に向上させることができる。その理由としては、本発明で触媒として用いる特定のペンタシル型ゼオライトは、Si/Al原子比が50より低くAl含量の多いため、触媒活性の急激な低下を抑え、目的生成物の収率を向上させることができ、希土類元素を含有しているため、副生成物の生成を抑え、転化率を向上させることができると推測される。
以下、本発明の製造方法で用いる、炭化水素原料及びペンタシル型ゼオライトについて説明する。
【0016】
(ペンタシル型ゼオライト)
本発明で用いる触媒は、Si/Al原子比が50より小さく、かつ希土類元素を含有するペンタシル型ゼオライトである(以下の記載において、「触媒」とは、このペンタシル型ゼオライトを示す)。
ペンタシル型ゼオライトとは、酸素5員環の組み合わせで構成されるゼオライトを意味する。また、本発明のペンタシル型ゼオライトは、希土類元素を含む。
ペンタシル型ゼオライトとしては、「ゼオライトの科学と応用(富永博夫編、講談社サイエンティフィク社刊、1987年刊行)」の87頁に記載のものが挙げられるが、製造の容易さの観点から、MFIゼオライト及び/又はMELゼオライトが好ましい。
MFIゼオライトとしては、ZSM−5、及びZSM−5と類似の構造を有するZSM−8、ゼータ1、ゼータ3、Nu−4、Nu−5、TZ−1、TPZ−1等が挙げられる。
MELゼオライトとしては、ZSM−11、及びZSM−11と類似の構造を有するものが挙げられる。これらの中でも、ZSM−5が好ましい。
なお、これらのゼオライトは、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0017】
本発明で用いるペンタシル型ゼオライトのSi/Al原子比は、50より小さいことを要するが、好ましくは10〜40、より好ましくは15〜35、更に好ましくは20〜30である。当該Si/Al原子比が50以上であると、触媒の活性が急激に低下し、目的生成物の収率が劣るため好ましくない。
なお、本発明において、触媒として用いるペンタシル型ゼオライトのSi/Al原子比は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(SIナノテクノロジー社製、SPS5100型)を用い、JIS K 0116に準じて分析した値である。
【0018】
また、本発明で触媒として用いるペンタシル型ゼオライトは、希土類元素を含有する。希土類元素を含有することで、重質コーク等の副生成物の生成を抑え、転化率を向上させることができる。
含有する希土類元素としては、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム等を挙げられる。これらの中でも、重質コーク等の副生成物の生成を抑え、転化率を向上させる観点から、ランタン、セリウムが好ましく、ランタンがより好ましい。
なお、これらの希土類元素は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0019】
希土類元素を触媒に含有させる方法としては、種々の塩、例えば酢酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩、あるいはアルコキシド、アセチルアセトナト等を使用し、イオン交換法、含浸法、あるいは水熱合成法等の方法が挙げられる。
【0020】
希土類元素の含有量は、触媒の全量に対して、好ましくは0.4〜20質量%、より好ましくは1〜15質量%、更に好ましくは1.5〜10質量%である。0.4質量%以上であれば、副生成物の生成を抑えることができ、20質量%以下であれば、触媒活性を低下させずに、目的生成物の収率が良好となる。
なお、本発明において、希土類元素の含有量、及び後述するリンの含有量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(SIナノテクノロジー社製、SPS5100型)を用い、JIS K 0116に準じて定量した値を意味する。
【0021】
また、本発明で触媒として用いるペンタシル型ゼオライトは、更にリンを含有することが好ましい。リンを含有することで、触媒の耐久性が向上するという利点がある。
リンを含有させる方法としては、例えば、リン酸及び/又はリン酸のアンモニウム塩等の水溶液に、触媒であるペンタシル型ゼオライトを含浸させる方法、又は該ゼオライト上に該水溶液を噴霧する方法等が挙げられる。
リンの含有量は、触媒の全量に対して、好ましくは0.2〜10質量%、より好ましくは0.5〜7質量%、更に好ましくは1〜5質量%である。0.2質量%以上であれば、触媒の耐久性を十分に向上させることができ、10質量%以下であれば、触媒活性を十分に保持することができる。
【0022】
なお、希土類元素及びリンは、ペンタシル型ゼオライト上に含有させていることが重要であり、該ゼオライトと希土類元素又はリンを物理的に混合しただけでは上述の効果は得られない。
希土類元素及びリンを触媒に含有させる順序は、特に限定されず、別々に含有させても、同時に含有させてもよいが、希土類元素を含有した後にリンを含有させることが好ましい。
【0023】
なお、用いる触媒は、希土類元素、リン以外に、シリカ、アルミナ、各種バインダー等のその他の成分を含有してもよい。
なお、本発明で用いる触媒の製造方法は、特に限定されず、例えば、実施例に記載の方法が挙げられる。
また、本発明で用いる触媒の形状は、特に限定されないが、移動床反応器で用いるために、直径1〜3mm程度の球状に成型することが好ましい。
【0024】
以上のようにして調製された触媒(ペンタシル型ゼオライト)の比表面積は、触媒活性の観点から、好ましくは100〜500m2/g、より好ましくは200〜400m2/gである。
【0025】
(炭化水素原料)
本発明で用いる炭化水素原料は、常温常圧下で、気体又は液体の炭化水素類が挙げられる。炭化水素類の炭素数としては、好ましくは2〜30、より好ましくは3〜20、更に好ましくは4〜10、より更に好ましくは4〜6である。
具体的な炭化水素類としては、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等のパラフィン類、ブテン類、ペンテン類、ヘキセン類等のオレフィン類、シクロヘキサン等のナフテン類、ナフサ、軽油等の軽質炭化水素留分等が挙げられる。
なお、用いる炭化水素原料は、触媒上に付着するコーク量を低減させる観点から、炭素数4〜6の炭化水素類を含むことが好ましい。炭化水素原料中に含まれる炭素数4〜6の炭化水素類は、上記と同様の観点から、炭化水素原料の全量に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは85質量%以上である。
【0026】
これらの中でも、より多くの目的生成物を得るための原料であるとの観点から、オレフィン類が好ましい。オレフィン類の中でも、同様の観点から、ブテン類、ペンテン類、ヘキセン類が好ましく、ブテン類がより好ましい。なお、ここでいう「ブテン類、ペンテン類、ヘキセン類」とは、例えば「ブテン類」であれば、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、及びこれらの混合物を意味する。
炭化水素原料中に含まれるオレフィン類は、炭化水素原料の全量に対して、好ましくは10〜80モル%、より好ましくは20〜70モル%、更に好ましくは35〜60モル%である。10モル%以上であれば、より多くの目的生成物の生成量を確保することができ、80モル%以下であれば、触媒上に付着するコーク量を低減させることができる。
【0027】
(接触分解反応)
以下、移動床反応器を用いた接触分解反応による、軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物の製造方法について説明する。
本発明において、上述の触媒を移動床反応器中の触媒充填部に充填し、上述の炭化水素原料を触媒に接触するように流通させ、接触分解反応を行う。炭化水素原料は、窒素、水素、ヘリウム等により希釈されていてもよい。
炭化水素原料の流通速度としては、該原料と触媒との接触時間が、好ましくは0.5〜10秒、より好ましくは1〜5秒となるように制御することが好ましい。
【0028】
上記触媒充填部の温度としては、好ましくは350〜780℃、より好ましくは450〜650℃、更に好ましくは500〜600℃に保持する。350℃以上であれば、十分な活性が得られ、原料が1回通過あたりの目的生成物の収量が十分に確保することができる。また、780℃以下であれば、メタンやコーク等の副生成物の生成量を抑えることができる。
また、反応の温度制御をより容易にする観点から、複数の反応器を直列に接続し、多段移動床反応器として使用することが好ましい。
【0029】
本発明の効果を発現するために、移動床反応器内に水蒸気(スチーム)を共存させ、水蒸気の存在下で反応させる必要がある。水蒸気と炭化水素原料との質量比(水蒸気/炭化水素原料)としては、好ましくは0.1〜2、より好ましくは0.2〜1.5、更に好ましくは0.3〜1.0である。0.1以上であれば、コーキング量を抑えることができる。また、2以下であれば、触媒活性を十分に保持することができる。
【0030】
触媒充填部に充填された触媒は、一部が連続的又は断続的に移動床反応器から取り出され、触媒活性の再生処理が施され、再生処理がなされた触媒は再び、移動床反応器に連続的又は断続的に移動床反応器の入口に循環される。触媒活性の再生処理の具体的方法は、特に限定されないが、例えば、外部のマッフル炉にて空気中で焼成し、触媒表面に付着したコークを除去する方法が挙げられる。当該方法における焼成時間としては、好ましくは1〜10時間、より好ましくは2〜7時間であり、焼成温度としては、好ましくは400〜800℃、より好ましくは450〜600℃である。
【0031】
これによって、移動床反応器から取り出された触媒量だけ、再生処理された触媒が、常に移動床反応器の入口から再供給され、触媒活性を有する触媒量が一定に保たれる。この触媒の循環速度は、反応条件や運転条件等により適宜変更されるが、好ましくは50〜400時間、より好ましくは100〜350時間、更に好ましくは150〜300時間で、全触媒量が循環するように制御されることが好ましい。
【0032】
以上のような条件下で、本発明の製造方法を実施すれば、移動床反応器を用い、炭化水素原料から、軽質オレフィン(エチレン・プロピレン)及び/又は単環芳香族化合物(ベンゼン・トルエン・キシレン等)を効率的に製造することができる。
【実施例】
【0033】
以下に本発明の実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、触媒として用いたゼオライトのSi/Al原子比、ランタン及びリンの含有量は、ICP発光分光分析装置(SIIナノテクノロジー社製、SPS5100型分光装置)を用い、JIS K 0116に準拠して、測定・定量した。
【0034】
製造例1
ゼオライトとして粉末状のプロトン型ZSM−5ゼオライト(ICP発光分光分析法で測定したSi/Al原子比=25、比表面積400m2/g、粒子径150μm以下)100質量部を、塩化ランタン水溶液(26.7質量部の塩化ランタン7水和物を脱イオン水1000質量部に溶解させたもの)に含浸し、40℃で2時間攪拌した。生成したスラリーを減圧下、40〜60℃で攪拌しながら約2時間かけて水分を蒸発させ、白色の粉末を得た。得られた粉末を空気中、120℃で8時間乾燥した後、マッフル炉内で4時間かけて600℃まで昇温し、600℃で5時間焼成した。得られた粉末を乳鉢で粉砕し、リン酸水素二アンモニウム水溶液(リン酸水素二アンモニウム17.1質量部を脱イオン水1000質量部に溶解させたもの)に含浸し、同様の操作で、乾燥・焼成し、白色の固体を得た。それを乳鉢で粉砕し、さらにアルミナバインダー25質量部を加えて混練した後に、転動成型して、直径1.6mmの球状の成型体を得た(以下、「触媒A」ともいう)。得られた成型体(触媒A)は、ランタン:8.3質量%、リン:3.2質量%を含んでいた(ICP発光分光分析法で定量)。また、触媒Aの比表面積は380m2/gであった。
【0035】
製造例2
ゼオライトとしてSi/Al原子比が50より大きい粉末状のプロトン型ZSM−5ゼオライト(ICP発光分光分析法で測定したSi/Al原子比=60、比表面積410m2/g、粒子径150μm以下)100質量部を用いた以外は、製造例1と同様にして、直径1.6mmの球状の成型体を得た(以下、「触媒B」ともいう)。
得られた成型体(触媒B)は、ランタン:8.2質量%、リン:3.3質量%を含んでいた(ICP発光分光分析法で定量)。また、触媒Aの比表面積は370m2/gであった。
【0036】
実施例1
製造例1で調製した触媒Aを炭化水素原料ガスに接触させて、移動床反応器を用いた接触分解反応を行った。用いた移動床反応器は、内径2.75cmのステンレス製であり、該反応器の上部に炭化水素原料ガスの供給配管(入口側)及び触媒の導入管を設けられ、該反応器の下部には生成ガスの排出管(出口側)及び触媒の回収管を設けられている。炭化水素原料ガスは、炭素数4の炭化水素混合ガス(ブタン:50mol%、ブテン:50mol%)を用い、当該炭化水素原料ガスを水蒸気及び窒素ガスと共に供給して反応を行った。このとき、水蒸気/炭化水素原料ガスの質量比=0.5、窒素ガス/炭化水素原料ガスのモル比=1、炭化水素原料ガスと触媒Aとの接触時間は2秒であった。また、移動床反応器中の触媒が充填された触媒充填部の加熱温度は、平均580℃となるように外部加熱ヒーターで制御した。また、反応継続中に、移動床反応器の下部の触媒回収管から、触媒を少量ずつ連続して抜き出し、移動床反応器の上部の触媒導入管より、再生処理をした触媒を連続して供給した。なお、触媒の再生処理は、抜き出した触媒を外部のマッフル炉にて550℃で5時間焼成して行った。また、該反応器の下部の触媒回収管からの触媒抜き出し速度と、該反応器の上部の触媒導入管からの触媒供給速度とが等しくなるように制御し、触媒充填部の触媒量の約10%を24時間で入れ替え、10日間で全触媒量が入れ替わるようにした。
移動床反応器の生成ガスの分析は、オンラインガスクロマトグラフィーにより行い、下記式1及び2により、原料転化率(入口側ブタン+ブテンの原料ガス質量基準)及び生成物収率(入口側ブテン質量基準)を算出した(以下同じ)。原料の供給を開始してから3時間後、及び240時間後の原料転化率と生成物収率の結果を表1に示す。
【0037】
・原料転化率(%)=(1−[出口側ブタンとブテンの原料ガス質量]/[入口側ブタンとブテンの原料ガス質量])×100 (式1)
・生成物収率(質量%)=([各成分質量]/[入口側ブテンの原料ガス質量])×100 (式2)
【0038】
比較例1
製造例1で調製した触媒Aを用いて、実施例1で使用した反応器と同じ大きさの固定床反応器を用い、該固定床反応器に触媒Aを充填し、炭化水素原料ガスを触媒Aに接触させて、接触分解反応を行った。
炭化水素原料ガスとして、炭素数4の炭化水素混合ガス(ブタン:50mol%、ブテン:50mol%)を用い、当該炭化水素原料ガスを水蒸気及び窒素ガスと共に供給して反応を行った。このとき、水蒸気/炭化水素原料ガスの質量比=0.5、窒素ガス/炭化水素原料ガスのモル比=1、炭化水素原料ガスと触媒Aとの接触時間は2秒であった。また、移動床反応器中の触媒が充填された触媒充填部の加熱温度は、平均580℃となるように外部加熱ヒーターで制御した。
この際、実施例1のように触媒の抜き出し、触媒の再生処理、及び触媒の再供給は行わず、触媒を反応器内に固定したまま、反応を継続した。
原料の供給を開始してから3時間後、及び240時間後の原料転化率と生成物収率の結果を表1に示す。
【0039】
比較例2
製造例2で得た触媒Bを用いて、実施例1と同じ反応条件で、触媒の抜き出しと再供給を行いながら、移動床反応器による炭化水素原料ガスの接触分解反応を行った。
原料の供給を開始してから3時間後、及び240時間後の原料転化率と生成物収率の結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すとおり、実施例1は、3時間後、240時間後の各々の原料転化率及び生成物収率が共に良好であり、反応性及び生成物の収率ともに優れていることがわかる。
一方、比較例1では、240時間後において、転化率及び生成物収率が実施例1に比べて劣り、触媒活性が低下していることがわかる。
また、比較例2では、3時間後、240時間後において、原料転化率及び生成物収率が実施例1に比べて劣り、満足する結果が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の製造方法によれば、移動床反応器を用いた接触分解反応においても、反応性及び生成物の収率を共に向上することができるため、効率的に軽質オレフィン(エチレン・プロピレン)及び/又は単環芳香族化合物(ベンゼン・トルエン・キシレン等)を製造することができる。そのため、軽質オレフィン又は単環芳香族化合物を利用する種々の分野において、極めて有用な技術として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動床反応器を用いて、水蒸気の存在下、炭化水素原料を触媒に接触させて接触分解反応を行い、軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物を製造する方法であって、
該触媒として、Si/Al原子比が50より小さく、かつ希土類元素を含有するペンタシル型ゼオライトを用いることを特徴とする軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
前記ペンタシル型ゼオライトが、更にリンを含有する、請求項1に記載の軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物の製造方法。
【請求項3】
前記ペンタシル型ゼオライトが、MFIゼオライト及び/又はMELゼオライトである、請求項1又は2に記載の軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物の製造方法。
【請求項4】
前記炭化水素原料が、炭素数4〜6の炭化水素類を50質量%以上含む、請求項1〜3のいずれかに記載の軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物の製造方法。
【請求項5】
前記接触分解反応において、前記水蒸気と前記炭化水素原料との質量比(水蒸気/炭化水素原料)が、0.1〜2である、請求項1〜4のいずれかに記載の軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物の製造方法。
【請求項6】
前記接触分解反応において、前記触媒の一部を連続的又は断続的に取り出し、触媒活性の再生処理をし、該再生処理を行った触媒を前記移動床反応器に連続的又は断続的に循環する、請求項1〜5のいずれかに記載の軽質オレフィン及び/又は単環芳香族化合物の製造方法。

【公開番号】特開2012−241019(P2012−241019A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108838(P2011−108838)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(590000455)一般財団法人石油エネルギー技術センター (249)
【Fターム(参考)】