説明

軽量保温衣類

【課題】軽量かつ薄く、保温性があり、発汗してもべとつきがない軽量保温衣類を提供すること。
【解決手段】ダブルフェース編みにより肌側となる内層1と、外層3と、これらを繋ぐ中層2との3層構造に編成された編地Aで構成され、しかも、これら3層は公定水分率が外層3が最も高く、中層2、内層1の順に小さくなる繊維糸で構成されている。前記編地Aの内層1がポリプロピレン繊維糸で構成されるか、又は、内層がポリプロピレン繊維糸で構成されると共に、中層2がポリエステル繊維糸で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下着等の肌に直接触れる衣類に適用して好適な軽量保温衣類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内側繊維層と外側繊維層との間に熱収縮性繊維層を介在させ、編成後、加熱処理して熱収縮性繊維を収縮させることにより内外繊維層間に空気層を形成させて肌着を製造する技術が特許文献1に記載されている。
また、袋編みの二重丸編機で形成される肌着で、肌側編地を合成繊維マルチフィラメントの嵩高加工糸で、外側編地を前記嵩高加工糸よりも太い綿を主体とする紡績糸で編成した保温性肌着が特許文献2に記載されている。
【特許文献1】特開平4ー202834号公報
【特許文献2】特開2000−96304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1のものは、熱収縮性繊維を収縮させることにより内外繊維層間に空気層を形成させているため、保温性は確保されるが、生地厚さが分厚くなりすぎる点や、軽量化について十分検討されていない点などにおいて問題点がある。
また、特許文献2のものは、袋編みの2層生地であり、この袋編みは2層の平編み生地をところどころでタックで接結しているだけであるため、2層の生地間に立体的に独立した空気層が形成されるものではなく、この点で保温性が良いとは云えず、また、肌側編地を合成繊維マルチフィラメントの嵩高加工糸で、外側編地を前記嵩高加工糸よりも太い綿を主体とする紡績糸で編成しているため、及び、外側編地はさざ波状のしぼによって空気層を形成させているため、生地が分厚く重くなり、軽量化や薄くすることが十分検討されていない点で問題がある。
【0004】
本発明は、軽量かつ薄く、保温性があり、発汗してもべとつきがない軽量保温衣類を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために本発明は、ダブルフェース編みにより肌側となる内層と、外層と、これらを繋ぐ中層との3層構造に編成された編地で構成され、しかも、これら3層は公定水分率が外層が最も高く、中層、内層の順に小さくなる繊維糸で構成されていることを特徴としている。なお、公定水分率とは、20℃、相対湿度65%での吸湿率(%)であり、数値が小さくなるほど吸湿性が低くなる。
本発明の前記構成によれば、編地がダブルフェース編みによる3層構造であるため、2層の平編み生地をところどころでタックにより接結している袋編み生地に比べ、ダンボール断面の様に編み目ごとに別糸(中層糸)で接結されており、この別糸(中層糸)を通じて肌(内層)側水分を効率的に外(外層)側へ排出させることができ、しかも、ダンボール断面の様な3層構造からなるバルキー(嵩高)な生地であるため空気層を多く含み保温性を良好とすることができる。また、前記編地は、3層の公定水分率が外層が最も高く、中層、内層の順に小さくなる繊維糸で構成されているため、水分を肌側から中層を経て外側へ効率的に移動させて排出させることができ、肌を常にドライで濡れ戻りがない状態に保持させることができ、肌触りを良好とすることができる。さらに、いずれの層も比重の小さい繊維糸で構成することが可能であるため、軽量化も図れる。また、ダンボール断面の様な3層構造の編地としているため、内外層間に立体的に独立した空気層を形成でき、使用する繊維糸として、嵩高加工糸の使用を必須とするものではなく、また、さざ波状のしぼを形成することを必要としないため、薄くすることも可能となる。
【0006】
そして、前記編地は、内層がポリプロピレン繊維糸で構成されるか、又は、内層がポリプロピレン繊維糸で構成されると共に、中層がポリエステル繊維糸で構成されていることが好ましい。この構成によれば、肌側が公定水分率0%のポリプロピレン繊維糸で構成されているため、吸湿性が低く、発汗してもべとつきがなく、常にドライでさらっとした感触を実現できる。また、内層がポリプロピレン繊維糸で構成されると共に、中層がポリエステル繊維糸で構成されていることによって、肌側を常にドライな感触に保持させることができると共に、中層についても公定水分率0.4%が低く吸湿性も低い繊維糸で構成して、肌側の水分を外側へ効率よく移動させて排出させることができるため、濡れ戻りを防止し、保温性を向上させことができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、軽量かつ薄く、保温性があり、発汗してもべとつきがない軽量保温衣類を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の軽量保温衣類を構成する編地Aの組織(ダンボールニット)の断面を示す概念図であり、1は内層、2は中層、3は外層を示している。
これらは図2に示すように、ダブルフェース編みの編み組織により3層構造とするもので、要するに、内層1はシリンダ針ニット1A、外層3はダイヤル針ニット3Aで天竺組織を編み、それらを各編み目ごとに別糸のタック組織2Aで繋いで3層構造を編成している。タック組織2Aは、内層1と外層3とを繋ぐ中層2となる。
【0009】
本発明は、上記3層を公定水分率が異なる繊維糸によって構成するものであって、その際、3層の公定水分率は、外層3が最も高く、中層2、内層1の順に小さくなる繊維糸で構成されている。
前記編地Aを構成する繊維として、本発明は、内層1をポリプロピレン繊維糸で構成し、外層3をアクリル繊維糸で構成し、中層2をポリエステル繊維糸で構成している。
各繊維糸の比重は、図3に示すように、ポリプロピレンが0.91、アクリルが1.14、ポリエステルが1.38であり、いずれの層も綿や麻等に比べて比重の小さい繊維が使用されている。
【0010】
また、各繊維糸の公定水分率(%)は、図3に示すように、ポリプロピレンが0.0%、ポリエステルが0.4%、アクリルが2.0%であり、従って、3層の公定水分率は、外層3が最も高く、中層2、内層1の順に小さくなる繊維糸で構成されていることになる。
なお、図3の表を見れば、公定水分率の順に単純に、内層をポリプロピレン、中層をアクリル、外層をナイロンとする方が軽くなるが、ナイロンを外層にした場合、ナイロン染色工程でアクリルの堅牢度が悪化することが想定される点、また、ナイロンに比べてアクリルは、素材の見た目、触感に暖かさを表現することができること、その他、コスト面や編成のし易さから、アクリルの紡績糸を外層とし、その間にこれらの中間の公定水分率をもつポリエステルを配置することが好適であるため、前記実施形態の構成としたものである。
【0011】
この結果、内層1を肌側として上記3層構造の編地Aで衣類を構成すると、図4に示すように、肌Bに発生した水分Cは、編地Aの内層1から中層2を経て外層3へ移動し、肌Bは常にドライとなり、発汗してもべとつきがない。
図5は、上記編地Aの濡れ戻り試験の概略図であって、編地Aの内層1を上向きにして、上からスポイドDで水滴Eを垂らし、この編地Aの上下両面に濾紙F,Gを当て、上から重りHで数分間押圧したところ、編地Aの内層1側に当てた濾紙Fには濡れがなく、外層3側に当てた濾紙Gには濡れが水滴Eの面積よりも拡散した状態で存在していた。この結果、上記編地Aは、内層1側から外層3側に移動した水分が内層1側に戻るという濡れ戻り現象がないことが確認された。
【0012】
前記編地Aは、ポリエステル45%、ポリプロピレン30%、アクリル25%の重量比で構成されている。
【実施例1】
【0013】
内層:ポリプロピレン56T(デシテックス)30F(フィラメント:30本からなる フィラメント糸)
中層:AHY(商品名:三菱レイヨン株式会社製 カチオン可染ポリエステル)56T 48F
外層:AHY56T48F:マイクロプレリール(商品名:日本エクスラン工業株式会 社製アクリル糸)=1:1給糸
素材の重量比:ポリエステル45%、ポリプロピレン30%、アクリル25%
上記の構成で図2に示すダブルフェース編み組織によって図1の断面図に示すような3層構造の編地Aを作成した。
【0014】
なお、外層3を上記実施例のようにポリエステルとアクリルの交編にすると、比重から見た場合、重くなるように思われるが、マイクロプレリール(商品名:日本エクスラン工業株式会社製アクリル糸)は紡績糸であること、繊維長が短い繊維で構成されていることから、現状の紡績技術では毛番手で1/100(綿番手60/1)程度が一番細くなること、一方、AHY(商品名:三菱レイヨン株式会社製 カチオン可染ポリエステル)は33Tまで細番手があり(編立性を考えると56Tを採用)、これを採用した方がより軽い素材になると判断し、交編にしたものである。上記56Tは、綿番手106.3/1に相当する。
【0015】
上記編地Aによって下着等の肌に直接触れる衣類(例えば、半袖シャツ、長袖シャツ、ズボン下、パンツ等)を作成した。
上記編地Aと従来の編地J(保温性に優れるとされる綿製のスムース生地)の保温性と目付けの関係は図6に示しており、保温性と生地厚の関係は図7に示している。また、上記編地Aで作成した本発明製品(長袖シャツ)と従来の編地Jで作成した従来製品(長袖シャツ:グンゼ株式会社製 品番:RP27102)との1枚の重たさを図8に示している。
【0016】
なお、保温性は、CLO値で表示している。このCLO値は、1941年にアメリカのGagge(ガッジ・ギャギ)によって提案されたもので、ASHRAEでは「衣服の熱絶縁量(熱抵抗)の単位であり、湿度50%、気流10cm/sec、気温21.2℃の大気中で、椅子の腰掛けて安静にしている白人標準男子(産熱量50Kcal/m2h)の被験者が平均皮膚温33℃の快適な状態を継続できるのに必要な被服の熱絶縁量を1CLOという」と定義されており、1CLO=0.155m2・K/W とされている。
本来、CLO値は「サーマルマネキン」にて測定するものであるが、本実施例では、「サーモラボ(精密迅速熱物性測定装置)KES−F7 カトーテック(株)製」の測定器にて簡易測定している。
【0017】
この測定器は、試料(生地)を載せる冷却ベースと熱板をもつBT−Boxとを備えており、先ず、冷却ベースの0点調整を行った後、20℃に設定する。そして、BT−Boxの温度を32℃に設定する(皮膚温度を32℃と想定)。次いで、冷却ベースの上に試料(生地)を載せ、BT−Boxの熱板が試料に重なるように載せる。そして、測定スイッチを押し、数値が定常(約5分後)に達した後、熱流量Wを読み取る。その後、熱流量Wの平均値Wmを求める。
熱伝導率k=Wm・D/A・ΔT(W/cm・℃)
D :試料の厚み(cm)
A :BTーBoxの熱板面積(=25cm2
ΔT:BT温度−冷却ベースの温度(=32℃)
W :BT−Boxの熱流量
SI単位;KSI(W/mk)=k×102
CLO値=6.45×(0.0025×ΔT)/Wm
CLO値が大きいほど保温性が高い。
【0018】
これら図6〜図8から明らかなように、本発明に用いる編地Aは、従来の編地Jに比較して、少ない目付けでも保温性が高く、軽量化が図れることを示しており、生地厚さも薄くできることを示している。
以上、説明したように、本発明に係る軽量保温衣類は、編地Aがダブルフェース編み(ダンボールニット)による3層構造であるため、肌触り及び保温性が良く、比較的薄く編成することができる。しかも、前記編地Aは、3層の公定水分率が外層3が最も高く、中層2、内層1の順に小さくなる繊維糸で構成されているため、水分を肌側から外側へ素早く移動させることができ、肌を常にドライで濡れ戻りがない状態に保持させることができる。さらに、いずれの層も比重の小さい繊維糸で構成することが可能であるため、軽量化も図れる。
【0019】
本発明の軽量保温衣類は、半袖シャツ、長袖シャツ、ランニング、ズボン下、パンツ、ショーツ、ランジェリー等の下着類に適用して好適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の軽量保温衣類を構成する編地の組織の断面を示す概念図である。
【図2】本発明の軽量保温衣類を構成する編地のダブルフェース編み組織図である。
【図3】各糸の比重と公定水分率を示す一覧表である。
【図4】本発明の軽量保温衣類を構成する編地の水分移動機能の説明図である。
【図5】本発明の軽量保温衣類を構成する編地の濡れ戻り試験の概略図である。
【図6】保温性と目付けの関係を示す比較表である。
【図7】保温性と生地厚の関係を示す比較表である。
【図8】製品1枚の重たさの比較表である。
【符号の説明】
【0021】
1 内層
2 中層
3 外層
A 編地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダブルフェース編みにより肌側となる内層と、外層と、これらを繋ぐ中層との3層構造に編成された編地で構成され、しかも、これら3層は公定水分率が外層が最も高く、中層、内層の順に小さくなる繊維糸で構成されていることを特徴とする軽量保温衣類。
【請求項2】
前記編地は、内層がポリプロピレン繊維糸で構成されているか、又は、内層がポリプロピレン繊維糸で構成されると共に、中層がポリエステル繊維糸で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の軽量保温衣類。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−209459(P2009−209459A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50741(P2008−50741)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】