説明

軽量吸・遮音インシュレーター

【課題】自動車のダッシュインシュレーターの重量低減を、従来品比2〜3割近い削減が求められており、また、価格や軽さを追求すると、性能低下は避けられないのが現状であり、従来例に比べいかに性能を維持し、軽量化、経済性に貢献できる自動車の軽量吸・遮音インシュレーターを開発する。
【解決手段】繊維Aである繊維度0.1〜1.0dtexの極細繊維を主成分とし、これに、繊維Bである繊維度1.0〜5.0dtexの熱融着性繊維とその他の繊維を加え、合計3種類以上の繊維を用い、均一に混ぜ合わせ、加熱/冷却プレス成形することにより、単一層の立体的な繊維集合体とした、あるいは、主成分と他の成分の配合が、繊維Aである,繊維度0.1〜1.0dtexの極細繊維を、50重量%以上と、繊維Bである,繊維度1.0〜5.0dtexの熱融着性繊維を、10〜30重量%と、その他含め計3種類以上の繊維から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、単一層からなる繊維系吸・遮音材で、特に自動車のダッシュインシュレーターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車室内騒音レベルは、エンジン音、吸・排気音、ロードノイズ、風騒音、及びエンジンの振動やトルク変動にも起因するこもり音などの影響が大きい。
【0003】
騒音の伝達経路はエンジン及び車室内の隔壁(ダッシュパネル部)からの透過音の影響が最も大きく、全体の50%以上にも及ぶ。
【0004】
従って、従来よりこの部位は車室内騒音レベル低減の最も大切な部位として、各社その音響性能(遮音・吸音)向上に傾注してきた。
【0005】
一般に遮音性能向上には、重量アップを伴うが、最近、燃費向上及び省資源のニーズが急速に高まり、軽量化が強く叫ばれるようになった。
【0006】
このように音響性能と軽量化の相反する課題を解決させる為には、伝達音に対する優れた遮音と他の伝達経路(窓他)から進入した車内音を効率良く吸音した,言い換えると吸・遮音のバランスの最も優れた追求が必要となる。
【0007】
そのような背景の中、製品の自動車から発生する騒音は、道路際の住民に対して公害を与えるだけでなく、車内環境にも非常に大きな悪影響を与えている。特に、自動車のエンジンから発生する騒音は、音源側を吸音材で吸音したり、車体構造で遮蔽するだけでは不充分である。
【0008】
さらに、従来より製造されているダッシュインシュレーターとして、遮音シートと吸音材の組み合わせ部品で重量は、約5〜6Kgであった。
また、高圧縮に形成した吸音層と比較的嵩高成形した吸音層の組み合わせたものも存在した。(例えば、特許文献1,特許文献2のように。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−335684号公報
【特許文献2】特開2005−088706号公報
【特許文献3】特開2001−347899号公報
【0010】
さらに、表裏2層のフェルト層の中間にフィルム等の層を設け、一体成形したものが量産化され、重量は約2〜2.5Kg、1例目に比べ大幅な軽量化を実現している2例・3例目が主流となっている。(例えば、特許文献3のように。)
【0011】
上記の、各技術文献とも、共通して、異質部材を積層した構造体で、各層を成形加工する成形型及び成形工程が必要な上に、異質各層を貼り合わせる為の接着層が必要であった。このことは、製品価格を引き上げる要因になると共に、成形加工、トリミング後の端材及び完成品のリサイクル時には困難を伴っていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
近年、自動車用部品は環境改善面から重量低減を従来品比2〜3割近い削減が求められており、また、価格や軽さを追求すると、性能低下は避けられないのが現状であり、この発明は、上記の情勢を踏まえ、いかに性能を維持し、軽量化、経済性に貢献できる自動車のダッシュインシュレーターの開発ができるかを課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、この発明は、ダッシュインシュレーターに要求される最も重要な性能は、エンジン等で発生した騒音を車室内に伝え難い,言わば、優れた遮音性能を有することである。
【0014】
さらに、一般的に自動車に要求されるダッシュインシュレーターは、軽量で高性能なことが不可欠であり、そのためには優れた遮音層と吸音層の組み合わせが重要で理論的にも確立している。
【0015】
吸音性能と遮音性能は相反するメカニズムで、複合体の遮音性能を向上させるためには異質材料2層以上で構成されて、複雑な生産工程を取る必要があるが、仮に工程削減など簡略化すると成形条件が振れて、所定厚みがキッチリ出ないなど、品質、性能面で不安定になる。
【0016】
これらに対し、この発明は、主成分となる繊維は、0.1dtex〜1dtexの範囲であって50重量%以上の添加としており、繊維径が1dtexを超えても50重量%未満でも性能は出ず、材質は単一材料に制限するものではないが、ポリエステル繊維(PP,PET)が好ましい。
【0017】
この発明は、従来の遮音構造がバリア層による反射が主であり、そのためにはある程度の重量が必要であるとされていた遮音構造を、これとは異なり、直接的には重量が支配しない内部減衰という要素に着目し、上記の各課題をすべて解決する軽量吸・遮音インシュレーターを開発・提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
軽量かつ高性能という相反する課題に対し、この発明は、繊維Aである繊維度0.1〜1.0dtexの極細繊維を主成分とした単一層のフェルト(繊維集合体)とすることで、内部のインピーダンスが上がり、内部のエネルギー減衰性能が飛躍的に向上する結果、吸音性能も上がると共に、単一層でありながら優れた遮音性能も可能となった。
【0019】
さらに、主成分の極細繊維はコストが高く、通常は通気の無いゴムシートや繊維体を圧縮成形して通気を少なくして遮音性能を発現していたが、必要音響性能を維持する必要最小限の重量と極細繊維の配合比率を追求した結果、繊維体単層であっても遮音効果があり、吸音性能に優れたインシュレーターとなった。
【0020】
又、音響面に関しても、インストゥールメントパネル自体は、立派な遮音壁構造体であり、その背後に位置する当該部品の吸音性能を向上させることは、自動車のエンジン廻りからの遮音性能を向上させることになった。
【0021】
また、高価な極細繊維の使用量の最小化による材料費低減に加え、単一層のフェルト(繊維集合体)とすることで、従来の2〜3工程(併せて2〜3成形型必要)必要だったのに比べて、1型1工程で部品加工ができ、加工費の削減を達成できる等、極めて有益なる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の一実施例を示す工程図である。
【図2】この発明の他の実施例を示す工程図である。
【図3】この発明の実施例と比較例の構成ならびに評価方法の結果を示すグラフ図である。
【図4】この発明の実施例と比較例のそれぞれ垂直入射吸音率を示すグラフ図である。
【図5】この発明の実施例と比較例のそれぞれ垂直入射透過損失を示すグラフ図である。
【図6】この発明の実施例と比較例のそれぞれ減衰定数を示すグラフ図である。
【図7】この発明の実施例と比較例のそれぞれシャーシダイナモ上での実車評価、及び加速騒音の評価結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の実施をするための形態は、繊維Aである繊維度0.1〜1.0dtexの極細繊維を主成分とし、これに、繊維Bである繊維度1.0〜5.0dtexの熱融着性繊維とその他の繊維を加え、合計3種類以上の繊維を用い、均一に混ぜ合わせ、加熱/冷却プレス成形することにより、単一層の立体的な繊維集合体としたことを特徴とする軽量吸・遮音インシュレーターであり、
さらに、主成分と他の成分の配合が、
繊維Aである,繊維度0.1〜1.0dtexの極細繊維を、50重量%以上と、
繊維Bである,繊維度1.0〜5.0dtexの熱融着性繊維を、10〜30重量%と、 その他含め計3種類以上の繊維から構成されることを特徴とする軽量吸・遮音インシュレーターから構成され、
また、この発明は、繊維Aを、主成分とした立体形状に成形可能な繊維集合体であり、面密度600g〜2400g/m3 、厚み5〜50mmであることを特徴とする軽量吸・遮音インシュレーターである。
【実施例】
【0024】
まず、この発明の一実施例を詳述すると、材料に、
繊維Aである,繊維度0.6dtexの極細繊維(PET繊維)を65%と、
繊維Bである,繊維度3.3dtexの極細繊維(PET繊維)を15%と、
繊維Cである,繊維度2.2dtexの融点110°CのPETバインダー20%を
積層し攪拌後、フォーミングマシンにかけ、フリース状にした後、加熱炉で充分加熱した後、製品形状の冷却金型に搬送し、圧縮プレス成形することを特徴とするものである。
【0025】
次に、この発明の他の実施例を詳述すると、材料に、
繊維Aである,繊維度0.6dtexの極細繊維(PET繊維)を50%と、
繊維Bである,繊維度3.3dtexの極細繊維(PET繊維)を30%と、
繊維Cである,繊維度2.2dtexの融点110°CのPETバインダー20%を
積層し攪拌後、フォーミングマシンにかけ、フリース状にした後、加熱炉で充分加熱した後、製品形状の冷却金型に搬送し、圧縮プレス成形することを特徴とするものである。
【0026】
また、比較例1としては、材料に、 繊維Aである,繊維度0.6dtexの極細繊維(PET繊維)を35%と、
繊維Bである,繊維度3.3dtexの極細繊維(PET繊維)を45%と、
繊維Cである,繊維度2.2dtexの融点110°CのPETバインダー20%を
積層し攪拌後、フォーミングマシンにかけ、フリース状にした後、加熱炉で充分加熱した後、製品形状の冷却金型に搬送し、圧縮プレス成形したものである。
【0027】
次に、比較例2としては、材料に、 繊維Aである,繊維度0.6dtexの極細繊維(PET繊維)を15%と、
繊維Bである,繊維度3.3dtexの極細繊維(PET繊維)を65%と、
繊維Cである,繊維度2.2dtexの融点110°CのPETバインダー20%を
積層し攪拌後、フォーミングマシンにかけ、フリース状にした後、加熱炉で充分加熱した後、製品形状の冷却金型に搬送し、圧縮プレス成形したものである。
【0028】
さらに、比較例3としては、材料に、
繊維Bである,繊維度3.3dtexの極細繊維(PET繊維)を70%と、
繊維Eである,繊維度6.7dtexの極細繊維(PET繊維)を10%と、
繊維Dである,繊維度4.4dtexの融点110°CのPETバインダー20%を
積層し攪拌後、フォーミングマシンにかけ、フリース状にした後、加熱炉で充分加熱した後、製品形状の冷却金型に搬送し、圧縮プレス成形したものである。
【0029】
次に、図3に記載したとおり、上記の実施例1、実施例2、比較例1、比較例2、比較例3について、それぞれの繊維の配合やそれによる評価方法を評価方法1〜4に示したものであり、これについて詳細に述べると、
評価方法1は、図4に示すように、垂直入射音率を求めたものであり、数値が高いと吸音性能は高いものである。
【0030】
そして、評価方法2は、図5に示すように、垂直入射透過損失を求めたものであり、数値が高いとより透過損失性能が高いものである。
【0031】
さらに、評価方法3は、図6に示すように、減衰定数を求めたものであり、材料中において、単位長さ辺りにおける音の減衰量を示し、数値が高いと、より音が減衰されるものである。
【0032】
最後に、評価方法4は、図7に示すように、シャーシダイナモ上での実車評価並びに、加速騒音評価結果であり、実際の車両走行状態で人間の耳に相当する位置にマイクロフォンをつけ、そのときの音を測定したものであり、車室内の騒音レベルで500〜5kHzの平均値で評価し、数値が小さい方が車室内は静かである。
【0033】
尚、評価方法1〜3については、ISO10534−2JIS A1405−2及びASTM E1050に基づいた垂直入射吸音率評価とASTM E2611に基づいた垂直入射透過損失評価を用いて比較評価を実施したものである。
【0034】
さらに、上記評価方法を用いて行ったテスト結果については、次のとおりである。
評価方法1〜3の材料評価において、従来使用されていた材料との比較を実施しており、全評価項目において、この発明の実施例は、従来よりも性能向上していることを確認することができた。さらに、評価方法4において、この発明の実施例と現行品の比較評価を実施したところ、現行品に対して、同等性能以上を確認した。
尚、現行品とは、現在使用されている材料構成の製品であり、面密度は、2.4kg/m3 のインシュレーターである。
【0035】
尚、この発明の実施例は、極細繊維を主とする吸・遮音材であり、極細繊維を用いる事で評価方法(まるつきすうじ1)の吸音率は向上する。このことは吸音性能向上という観点では既存の技術は存在したが、この発明は、その吸音特性のみではなく、音をどれだけ阻止することができるかの評価指標である,評価方法(まるつきすうじ2)の透過損失も向上することが確認できた。
【0036】
透過損失が向上するメカニズムについて、極細繊維を用いる事で材料内部の繊維の均一性が上がると同時に空隙が減少する。この空隙の減少により音が伝搬し難くなる。
音が伝搬し難いことは材料内部の抵抗が非常に高くなっているので、それだけ音エネルギーを減衰させることが出来る。
評価方法(まるつきすうじ3)の減衰定数のように、1cmあたりの音の減衰量が高くなっていることで証明された。
【0037】
以上のようなメカニズムにより吸音特性だけでなく、従来の単一層繊維系材料では性能向上が困難であった,透過損失も向上できた。この発明を最終的に実車に搭載し、実際に稼働させた状態で車両での効果確認を実施し、車室内の騒音レベルでも従来品と比較して、同等性能以上の効果があることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
この発明によると、軽量吸・遮音インシュレーターの技術を確立し、実施・販売することにより、産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維Aである繊維度0.1〜1.0dtexの極細繊維を主成分とし、これに、繊維Bである繊維度1.0〜5.0dtexの熱融着性繊維と、その他の繊維を加え、合計3種類以上の繊維を用い、均一に混ぜ合わせ、加熱/冷却プレス成形することにより、単一層の立体的な繊維集合体としたことを特徴とする軽量吸・遮音インシュレーター。
【請求項2】
主成分と副成分の配合が、
繊維Aである繊維度0.1〜1.0dtexの極細繊維を、50重量%以上と、
繊維Bである繊維度1.0〜5.0dtexの熱融着性繊維を、10〜30重量%と、 その他の繊維を加え、合計3種類以上の繊維から構成されることを特徴とする請求項1記載の軽量吸・遮音インシュレーター。
【請求項3】
繊維Aを、主成分とした立体形状に成形可能な繊維集合体であり、面密度600g〜2400g/m3 、厚み5〜50mmであることを特徴とする請求項1または2記載の軽量吸・遮音インシュレーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−94261(P2011−94261A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249904(P2009−249904)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000135988)株式会社ヒロタニ (16)
【Fターム(参考)】