説明

軽量気泡コンクリートの製造方法

【課題】 主原料のC/Sが変動しても、ばらつきが少なく且つ圧縮強度の規格を満たしたALCを簡易に作製する方法を提供する。
【解決手段】 粉末珪石等の珪酸質原料とメント粉末や生石灰粉末等の石灰質原料とからなる微粉末状の主原料に、水とアルミニウム粉末とを加えてスラリー状にして型枠に注入し、アルミニウム粉末の反応により発泡させると共に石灰質原料の反応により半硬化させた後、オートクレーブにより高温高圧水蒸気養生を行う軽量気泡コンクリートの製造方法において、主原料におけるCaOのSiOに対するモル比をC/Sとした場合に、珪酸質原料のブレーン値(cm/g)を(8800×C/S−1700)±1000の範囲内、より好ましくは(8800×C/S−1700)±500の範囲内にすることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建築物の壁、屋根、床などに使用される軽量気泡コンクリート(ALC)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量気泡コンクリート(ALC)の製造は、先ずボールミル等で粉砕された粉末珪石等の珪酸質原料と、セメント粉末や生石灰粉末等の石灰質原料とを主原料とし、これに水と発泡剤であるアルミニウム粉末等の添加物とを加えてスラリー状として型枠に注入し、アルミニウム粉末の反応により発泡させると共に、石灰質原料の反応により半硬化させる(半硬化工程)。次に切断などの方法によって所定寸法に成形し、オートクレーブによる高温高圧水蒸気の養生(養生工程)を行う。
【0003】
これらの工程を経て、珪酸カルシウム水和物であるトバモライトが生成し、ALCの製品強度及び寸法安定性が向上する。すなわち、「半硬化工程」において石灰質原料の水和反応により珪酸カルシウム水和物が形成され、「養生工程」において珪石等の珪酸質原料が溶解し、珪酸カルシウム水和物と反応してトバモライトが生成する。
【0004】
トバモライトの化学式は5CaO・6SiO・5HOであり、CaOのSiOに対するモル比(以下、C/Sと表す)の理論値は5/6=0.83である。「半硬化工程」で生成される水和物はC/Sが1.0付近となっているが、「養生工程」で珪石等の珪酸質原料が溶解するため、C/S=0.83となる。尚、非特許文献1に示されているように、これら一連の反応において、オートクレーブ養生における珪石等の珪酸質原料の溶解は律速となっている。そのため、ALCの工業生産では、一般的に珪石量を増やしてC/Sを0.4〜0.6程度に調整している。
【0005】
ところで、ALCの主原料となる珪石などの珪酸質原料は、前述したように、ボールミル等で粉砕してから用いられており、その際、所望の効果を得るため珪石の粒度を規定することが提案されている。例えば、特許文献1(特開昭59−128254号公報)には、凍結冷害に対する抵抗性を向上させるため、重量平均径で15μm以下とすることが提案されている。また、特許文献2(特開平4−197605号公報)には、水分や炭酸ガスの影響による収縮を低減するため、珪砂を2000〜2500cm/gと6000〜12000cm/gにピークを有する分布とすることが提案されている。
【0006】
さらに、特許文献3(特開2001−019571号公報)には、入手し易い珪酸質原料をできるだけ使用しつつ寸法安定性及び曲げ強度に優れたALCを得るため、平均石英結晶粒径が10μm未満の珪石と10μm〜500μmの珪石を混合してその混合珪石の平均石英結晶粒径を15μm〜300μmとするとともに、10μm未満の珪石の混合割合を60重量%以下にした混合珪石を使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59−128254号公報
【特許文献2】特開平4−197605号公報
【特許文献3】特開2001−019571号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】崎山、光田、tobermoriteの生成におよぼすAlの影響、セメント技術年報、31、pp.46−49、1977
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ALCの工業生産では、生産効率を考慮してオートクレーブ養生の保持時間が定められており、その保持時間で適切な溶解量となるように、珪石の粒度を管理する必要がある。なぜなら、オートクレーブ養生中の珪石粒は、粒の外側から溶解するため、粒度が小さいものが多量に存在する場合は短時間で多量に溶解し、逆に、粒度が大きいものが多量に存在する場合は溶解に時間がかかるからである。
【0010】
このように、珪石の粒度によって溶解量が変化すると、トバモライトの生成に大きな影響を与える事になる。すなわち、珪石粒の粒度が大きすぎる場合、オートクレーブ養生の保持時間中の溶解が珪酸カルシウム水和物に対して不足し、トバモライトの生成が不十分となる。逆に粒度が小さすぎる場合、溶解が過剰となって微結晶トバモライトが多数生成し、トバモライトの結晶成長が妨げられる。よって、粒度が最適でない場合、トバモライトの結晶生成と結晶成長に不良が発生し、製品物性は不十分になるという問題がある。従って、C/Sを前述したように0.4〜0.6程度に維持すると共に珪石粒度を最適化する事が、ALCの製品物性を最適化する際に重要となる。
【0011】
しかしながら、近年、石灰質原料であるセメントには産業廃棄物が混入されることが多い。これに伴って硬化性能が劣化し、所定の時間内に半硬化体が作製されず、製造効率が低下することがあった。この対策として、セメント量を増やすことが行われているが、C/Sが増加してC/S=0.8程度になる事もあった。
【0012】
一方、珪酸質原料である珪石は、ALC製造に最適な鉱床が枯渇してきており、より硬くなって粉砕効率が悪くなってきている。その結果、粉砕処理後の全体の粒度が大きくなるため、所定の時間で溶解させるために珪石量を更に増やす必要がある。その結果、C/Sは減少傾向となり、C/S=0.3程度となる事もある。このように、近年の状況では、0.4〜0.6程度のC/Sに基づいて最適化された珪石粒度では、最適な製品物性を有するALCを得るのが難しくなっている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような状況の下、本発明者らは珪石のブレーン値とトバモライト生成量の関係に着目し、主原料のC/Sが変動しても珪石粒度を所定の範囲で調整することにより製品物性が最適となることを見出し本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明が提供する軽量気泡コンクリートの製造方法は、珪酸質原料と石灰質原料とからなる微粉末状の主原料に、水とアルミニウム粉末とを加えてスラリー状にして型枠に注入し、アルミニウム粉末の反応により発泡させると共に石灰質原料の反応により半硬化させた後、オートクレーブにより高温高圧水蒸気養生を行うものであり、珪酸質原料ブレーン値(cm/g)を(8800×C/S−1700)±1000の範囲内にすることを特徴としている。
【0015】
上記軽量気泡コンクリートの製造方法においては、前記ブレーン値(cm/g)を(8800×C/S−1700)±500の範囲内にすることがより好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、主原料のC/Sが変動しても、ばらつきが少なく且つ圧縮強度の規格を満たしたALCを簡易に作製する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】トバモライト002面のピーク強度比と圧縮強度との関係を示すグラフである。
【図2】C/S=0.5における、ブレーン値とトバモライト002面のピーク強度比との関係を示すグラフである。
【図3】C/Sと適切なブレーン値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る軽量気泡コンクリートの製造方法は、粉末珪石等の珪酸質原料と、セメント粉末や生石灰粉末等の石灰質原料とからなる微粉末状の主原料に、水と発泡剤としてのアルミニウム粉末等の添加物とを加えてスラリー状にして型枠に注入し、アルミニウム粉末の反応により発泡させると共に石灰質原料の反応により半硬化させた後(半硬化工程)、必要に応じて切断などの方法により所定寸法に成形し、オートクレーブにより高温高圧水蒸気で養生(養生工程)を行うものであり、珪酸質原料のブレーン値(cm/g)を(8800×C/S−1700)±1000の範囲内、すなわち、(8800×C/S−1700)−1000以上(8800×C/S−1700)+1000以下にすることを特徴としている。
【0019】
これにより、例えば、珪酸質原料の鉱山が変更されたり産業廃棄物の種類や混入量が変更された場合に、主原料をサンプリングしてそのC/Sを測定することによって、当該変更された主原料を用いてALCを製造する際の珪酸質原料の最適なブレーン値を求めることができる。このようにして得られたブレーン値となるように珪酸質原料を適宜調整することによって、ALCのトバモライト002面のピーク強度を常に所望の値以上に保つことができるので、JISA5416で規定する圧縮強度を常に規格値以上にすることが可能となる。また、品質面においてばらつきの少ないALCを提供することが可能となる。
【0020】
上記ブレーン値(cm/g)は、(8800×C/S−1700)±500の範囲内にすることがより好ましく、これにより、より高いトバモライト002面ピーク強度を得ることができる。よって、ばらつきがより少なく且つより高い圧縮強度を備えた高品質なALCを提供することができる。
【実施例】
【0021】
珪酸質原料として、914〜5313cm/gの範囲で互いに異なるブレーン値を有する6種類の珪石を準備した。各珪石を3つに分けて、C/Sがそれぞれ0.3、0.5及び0.8となるように石灰質原料としてのセメントを配合した。さらに、水及びアルミニウム粉を固形分100重量部に対して水が66重量部となるように配合してスラリーを作製した。尚、C/Sの値は各原料の納品書に記載された化学分析値から計算することができる。例えば、珪石40g(化学分析値によるSiO=93%)、セメント50g(化学分析値によるCaO=64%、SiO=22%)を混合した際のC/Sは、CaO及びSiOの分子量がそれぞれ56及び60であるため、下記式1のように表される。
【0022】
[式1]
C/S=CaO/SiO
=0.64×50/(0.93×40+0.22×50)/(56/60)
=0.71
【0023】
このようにして作製されたスラリーの配合割合を下記表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
各スラリーの一定量を個別の型枠に注入し、アルミニウム粉末の反応により発泡させると共にセメントの反応により半硬化させた。さらに、180℃10気圧のオートクレーブにて6.0時間の保持時間で養生してALCの試料を作製した。
【0026】
得られた各試料を乳鉢で粉砕した後、X線回折によりトバモライト002面ピーク強度を測定した。その測定結果を、珪石のブレーン値と共に下記表2に示す。尚、トバモライト002面ピーク強度は、強度比として示されている。この強度比は、同じC/Sで配合された試料のうち、トバモライト002面ピーク強度が最大のものを基準値1.00とし、その他のトバモライトピーク強度をこの基準値に対する比となるように換算したものである。
【0027】
【表2】

【0028】
次に、各試料の圧縮強度をJISA5416に基づいて測定した。この圧縮強度の測定結果を、上記002面ピーク強度比を横軸としてプロットしたものを図1に示す。この図から、JISA5416に基づく圧縮強度の規格値である3.0MPa対して余裕を見込んだ3.5MPa以上を設計条件とする場合は、トバモライト002面ピーク強度比の許容値を0.80以上に設定すればよいことが分かる。
【0029】
ここで、上記表2の測定結果のうち、C/S=0.5の場合のトバモライト002面ピーク強度比に着目し、これらとブレーン値との関係を図2のようにプロットした。この図2から分かるように、ブレーン値を横軸としたときは、トバモライト002面ピーク強度比は、上に凸の山型になる事が分かる。従って、トバモライト002面ピーク強度比が前述した0.80以上を満たすものを所定の範囲内のブレーン値から判断することができる。尚、図2では当該強度比が0.80以上を満たすものを「○」で示し、満たさないものを「×」で示している。
【0030】
C/S=0.5以外の0.30及び0.80についても、同様にトバモライト002面ピーク強度比が0.80以上を満たすものと満たさないものとを判別し、その結果を、図3に示すような、横軸をC/S、縦軸をブレーン値としたグラフにプロットした。図3において、「○」は、トバモライト002面ピーク強度比0.80以上を満たす点である。特に、「◎」は当該強度比が1.00となる点である。一方、「×」は、トバモライト002面ピーク強度比0.80以上を満たさない点である。
【0031】
この図3から、C/Sの増加に伴い、トバモライト002面ピーク強度比が最大となるブレーン値は大きくなることが分かった。さらに、この傾向は、直線で近似できることが分かった。すなわち、トバモライト002面ピーク強度比が最大となるブレーン値(cm/g)とC/Sの関係は下記の式2で表すことができた。
【0032】
[式2]
ブレーン値(cm/g)=8800×C/S−1700
【0033】
また、図3から、トバモライト002面ピーク強度比0.80以上を満たすものは、上記式2を示す直線に対して上下に位置し且つ該直線に平行な2本の線で挟まれる領域内に含まれることが分かった。具体的には、図3に示すように、上記式2を示す実線に対して±1000cm/gの位置に2本の点線を引いたところ、これら2本の点線によって挟まれる領域内にトバモライト002面ピーク強度比が0.80以上を満たすもの(図3中の「○及び◎」)が含まれることが分かった。
【0034】
以上の事から、トバモライト002面ピーク強度比を0.80以上にするには、主原料のC/Sに対して、珪石等の珪酸質原料ブレーン値が(8800×C/S−1700)±1000の範囲内となるようにすればよいことが分かる。
【0035】
尚、上記方法で得られるALCよりも品質のばらつきが少なく且つ高い圧縮強度を得るには、トバモライト002面ピーク強度比の許容値を前述した0.80よりも高く設定すればよい。例えば、図1に示すように、JISA5416に基づく圧縮強度で4.0MPa以上に規定する場合は、トバモライト002面ピーク強度比の許容値を0.9以上に規定すればよい。
【0036】
これは、図3に示す上記式2を示す直線と各点線との距離を短くすることに対応している。すなわち、上記珪石等の珪酸質原料ブレーン値を、例えば、(8800×C/S−1700)±500の範囲内に設定することによって、ばらつきがより少なく且つより高い圧縮強度のALCを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸質原料と石灰質原料とからなる微粉末状の主原料に、水とアルミニウム粉末とを加えてスラリー状にして型枠に注入し、アルミニウム粉末の反応により発泡させると共に石灰質原料の反応により半硬化させた後、オートクレーブにより高温高圧水蒸気養生を行う軽量気泡コンクリートの製造方法において、
主原料におけるCaOのSiOに対するモル比をC/Sとした場合に、珪酸質原料のブレーン値(cm/g)を(8800×C/S−1700)±1000の範囲内にすることを特徴とする軽量気泡コンクリートの製造方法。
【請求項2】
前記ブレーン値(cm/g)を(8800×C/S−1700)±500の範囲内にすることを特徴とする、請求項1に記載の軽量気泡コンクリートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−32103(P2011−32103A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176836(P2009−176836)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(399117730)住友金属鉱山シポレックス株式会社 (195)
【Fターム(参考)】