説明

軽量気泡コンクリート水平部材の劣化診断方法

【課題】軽量気泡コンクリート(ALC)水平部材の劣化レベルの診断を、部材を取り外して試験することなく、簡便、迅速かつ適確に行う。
【解決手段】ALC水平部材について、化学分析により反応カルシウム含有量(質量%)と、熱分析により炭酸ガス含有量(質量%)を測定し、該測定結果に基づき、(炭酸ガス含有量(質量%)−1)/(反応カルシウム含有量(質量%)×44/56−1)×100の式で得られる炭酸化度(%)を算出し、該水平部材が床材であるか屋根材であるか、持続的な荷重があるかないかで、それぞれ場合分けした上で、前記炭酸化度(%)に基づいて劣化レベルを診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の屋根または床の水平部材として使用される軽量気泡コンクリート(ALC)パネルについて、実際の使用段階において最も重要な問題である耐久性が維持されていることを確認するために行われる、ALC水平部材の劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ALCは、珪石などの珪酸質原料と、セメントや生石灰などの石灰質原料とを主原料とし、これらの微粉末に水とアルミニウム粉末などの添加物を加えてスラリー状とした後、アルミニウム粉末の反応により発泡し、石灰質原料の反応により半硬化させ、所定寸法に成形した後、オートクレーブによる高温高圧水蒸気養生を行って製造されている。かかるALCは、絶乾かさ比重0.5程度と、軽量で、耐火性、断熱性、施工性に優れているため、建築材料として広く使用されている。
【0003】
このようなALCを用いたALCパネルは、壁材のほか、水平部材として利用することもできるが、ALCは普通コンクリートと比べると強度が低いため、ALCパネルは、水平部材としては、載荷荷重の小さい屋根、もしくはスパンの短い床などに限定して用いられている。
【0004】
ALCは、永年継続的に使用することにより、劣化が見られる。ALCパネルを用いた建築物の屋根や床は、重量物や人が乗るため、その安全性が確保されなければならない。したがって、ALCパネルを水平部材として用いる場合には、これらの劣化を的確に判断し、それに応じて適切な対応策を採ることが求められる。
【0005】
しかしながら、これらの水平部材は、仕上げなどによって隠れていることが多く、その劣化を目視によって確認することは困難である。また、建築物からALCパネルを取り外して強度試験を行うことは、多くのコストと手間が必要とされる。このため、水平部材としてのALCパネルの劣化レベルを簡便に診断できる方法が求められている。
【0006】
ALC水平部材が劣化するということは、ひび割れが発生したり、パネル強度が低下したり、たわみが増大することであり、これらの中でも最も重要で、ALCパネル構造設計指針においても設計上の規定値として定められているのが「たわみ」である。これらの劣化現象の要因は、外的な要因と内的な要因とに大別される。外的な要因とは、地震や、躯体の変形、風圧または荷重による疲労、火災などである。一方、内的な要因とは、炭酸化、乾燥収縮および湿潤膨張の繰返し、凍害、塩害による鉄筋さびなどが挙げられる。したがって、これらの要因による劣化を総合的に診断することが必要とされているといえる。
【0007】
劣化の要因のうち、炭酸化とは、ALCを構成する主要物質であるトバモライトが、炭酸ガスと水分が存在する環境下において、非晶質珪酸塩(シリカゲル)と炭酸カルシウムに分解する反応をいう。かかる炭酸化は、仕上げなどの施工が適切に施されている場合でも、徐々に進行することが知られている。炭酸化により、ALCは収縮し(炭酸化収縮)、さらに炭酸化したALCは、乾燥収縮率が大きくなり、乾燥収縮と湿潤膨潤の繰り返しにより、ひび割れの発生、パネル強度の低下、および、たわみの増大につながることになる。
【0008】
本発明者は、かかる炭酸化度に着目し、ALCの炭酸化と耐久性との関係を検討し、ALCの炭酸化度を指標とするALCパネルの耐久性の診断方法を開示している。
【0009】
たとえば、特許文献1では、ALCの全酸化カルシウム含有量(質量%)および炭酸ガス含有量(質量%)を測定し、(炭酸ガス含有量×56/44)/(全酸化カルシウム含有量)×100の式で得られる炭酸化度(%)が50%以上であるALCパネルは、耐久性が劣化したと診断する耐久性診断方法を開示している。
【0010】
また、たとえば、特許文献2では、熱分析法で炭酸カルシウム分を定量測定して得られる炭酸カルシウムの酸化カルシウム換算量C(質量%)と、全カルシウム分を化学分析で定量測定して得られる全カルシウムの酸化カルシウム換算量Cmax(質量%)と、全硫黄分を定量測定して得られる硫酸カルシウムの酸化カルシウム換算量Cs(質量%)と、被検試料と同一の製造方法で製造した未炭酸化試料について、熱分析法で炭酸カルシウム分を定量測定して得られる炭酸カルシウムの酸化カルシウム換算量C0(質量%)とを得て、(C−C0)/(Cmax−Cs−C0)×100の式の炭酸化度Dc2(%)により、前記被検試料の劣化度を定量評価する劣化度定量評価方法を開示している。
【0011】
ただし、これらの劣化診断方法は、いずれもALC壁材の劣化診断に適用されるものであり、要求性能の異なるALC水平部材の劣化診断に適用することはできない。
【0012】
また、かかる炭酸化の進行過程は、ALC製品が置かれた環境などにより、それぞれの製品によって大きく異なってくるものであり、かかる影響を考慮して劣化を判断することが必要となる場面もあり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−180437号公報
【特許文献2】特開2000−193658号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】独立行政法人建築研究所監修、「ALCパネル構造設計指針・同解説」、ALC協会、平成16年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、ALC水平部材の劣化レベルの診断を、簡便、迅速、かつ適確に行える方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の軽量気泡コンクリート(ALC)水平部材の劣化診断方法は、診断対象となるALC水平部材について、化学分析により反応カルシウム含有量(質量%)と、熱分析により炭酸ガス含有量(質量%)をそれぞれ測定し、該測定結果に基づき、(炭酸ガス含有量(質量%)−1)/(反応カルシウム含有量(質量%)×44/56−1)×100の式で得られる炭酸化度(%)を算出し、該水平部材が床材であるか屋根材であるか、持続的な荷重があるかないかで、それぞれ場合分けした上で、前記炭酸化度(%)に基づいて劣化レベルを診断する。
【0017】
具体的には、診断対象となるALC水平部材のサンプルについて、前記化学分析により、全カルシウム含有量(質量%)および三酸化硫黄含有量(質量%)を測定して、全カルシウム含有量(質量%)−三酸化硫黄含有量(質量%)×56/80の式で得られる反応カルシウム含有量(質量%)を算出すると共に、該サンプルの熱分析により、600℃〜850℃における質量減少量である炭酸ガス含有量(質量%)を測定して、上記式により炭酸化度(%)を算出する。
【0018】
これを可能とするため、本発明では、予め、複数の軽量気泡コンクリート水平部材について、化学分析により反応カルシウム含有量(質量%)と、熱分析により炭酸ガス含有量(質量%)を測定し、該測定結果に基づき、(炭酸ガス含有量(質量%)−1)/(反応カルシウム含有量(質量%)×44/56−1)×100の式で得られる炭酸化度(%)を算出すると共に、該複数の軽量気泡コンクリート水平部材のそれぞれの設計荷重たわみと長期荷重時たわみのデータを求め、該設計荷重たわみ、または長期荷重時たわみの数値が、床材または屋根材の初期たわみ限度もしくは長期荷重時たわみ限度に該当する場合の軽量気泡コンクリート水平部材の炭酸化度(%)を求めておく。
【0019】
そして、前述のようにして得られた、診断対象の軽量気泡コンクリート水平部材についての炭酸化度(%)を、該診断対象の軽量気泡コンクリート水平部材が、(1)床材で持続的な荷重がある場合には、前記予め得られた長期荷重時たわみの数値が、床材の初期たわみ限度もしくは長期荷重時たわみ限度に該当する場合の炭酸化度と比較することにより、(2)床材で持続的な荷重がない場合には、前記予め得られた設計荷重たわみの数値が、床材の初期たわみ限度もしくは長期荷重時たわみ限度に該当する場合の炭酸化度と比較することにより、(3)屋根材で持続的な荷重がある場合には、前記予め得られた長期荷重時たわみの数値が、屋根材の初期たわみ限度もしくは長期荷重時たわみ限度に該当する場合の炭酸化度と比較することにより、(4)屋根材で持続的な荷重がない場合には、前記予め得られた設計荷重たわみの数値が、屋根材の初期たわみ限度もしくは長期荷重時たわみ限度に該当する場合の炭酸化度と比較することにより、劣化レベルを判定する。
【0020】
好ましくは、前記診断対象の軽量気泡コンクリート水平部材の炭酸化度(%)が、前記設計荷重たわみ、または長期荷重時たわみの数値が床材または屋根材の初期たわみ限度に該当する場合の炭酸化度以下となる場合を「健全」と、該数値が床材または屋根材の初期たわみ限度に該当する場合の炭酸化度を超えて、床材または屋根材の長期荷重時たわみ限度に該当する場合の炭酸化度以下となる場合を「要注意:補修必要」と、該数値が床材または屋根材の長期荷重時たわみ限度に該当する場合の炭酸化度を超える場合を「劣化:補強もしくは交換必要」と判定する。
【0021】
より具体的には、図1に示す、初期たわみ(設計荷重たわみ=弾性たわみ)のたわみ曲線、特に、該曲線と床材または屋根材の初期たわみ限度(L/400またはL250)との交点および長期荷重時たわみ限度(L/250またはL/156)との交点と、ALC水平部材の炭酸化度との相関関係、もしくは、長期荷重時たわみ(弾性たわみ+クリープたわみ)のたわみ曲線、特に,該曲線と上記の交点と、ALC水平部材の炭酸化度との相関関係に基づいて、前記診断対象の軽量気泡コンクリート水平部材が、(1)床材で持続的な荷重がある場合には、前記得られた炭酸化度が、27%以下の場合に「健全」と、27%を超え39%以下の場合に「要注意:補修必要」と、39%を超える場合に「劣化:補強もしくは交換必要」と診断し、(2)床材で持続的な荷重がない場合には、前記得られた炭酸化度が、35%以下の場合に「健全」と、35%を超え48%以下の場合に「要注意:補修必要」と、48%を超える場合に「劣化・補強もしくは交換必要」と診断し、(3)屋根材で持続的な荷重がある場合には、前記得られた炭酸化度が、38%以下の場合に「健全」と、38%を超え50%以下の場合に「要注意:補修必要」と、50%を超える場合に「劣化・補強もしくは交換必要」と診断し、(4)屋根材で持続的な荷重がない場合には、前記得られた炭酸化度(%)が、48%以下の場合に「健全」と、48%を超え60%以下の場合に「要注意:補修必要」と、60%を超える場合に「劣化・補強もしくは交換必要」と診断する。
【0022】
ただし、歩行用屋根および多雪区域の屋根については、床材の診断基準が適用される。
【発明の効果】
【0023】
本発明の診断方法により、取り外して試験することが困難であり、かつ、表面から判断しにくい、軽量気泡コンクリート水平部材の劣化レベルの診断を、簡便、迅速かつ適確に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、ALCパネルについて、その炭酸化度(%)と、弾性たわみ、および弾性たわみ+クリープたわみとの関係を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の軽量気泡コンクリート(ALC)水平部材の劣化診断方法は、以下の[1]〜[5]により構成される。
【0026】
[1]ALC水平部材のコア抜きサンプリングを行うことにより、サンプルを得る。
【0027】
コア抜きは、公知のコアドリルなどを用いて行うことができる。この際、可能であれば、ALC水平部材の厚さ方向に対して、なるべく厚くサンプルを採取し、これを厚さ方向に層別した上で、それぞれの部位に対して、以下に示す分析を行うことが好ましい。後述する化学分析および熱分析の試料はこれらのサンプルの一部を用いることになるため、ALCパネルの厚さ方向の平均的な特性値を得るためである。層の数はALC水平部材の厚さにより任意であるが、水平部材として用いられるALCパネル(標準的な厚さは100〜150mm)の場合、好ましくは3〜5層程度とすると、炭酸化度を含む特性について当該パネルの平均値が的確に得られる。
【0028】
[2]サンプルの化学分析により、全カルシウム含有量(質量%)および三酸化硫黄含有量(質量%)を測定して、全カルシウム含有量(質量%)−三酸化硫黄含有量(質量%)×56/80の式で得られる反応カルシウム含有量(質量%)を算出すると共に、該サンプルの熱分析による600℃〜850℃における質量減少量である炭酸ガス含有量(質量%)を測定して、(炭酸ガス含有量(質量%)−1)/(反応カルシウム含有量(質量%)×44/56−1)×100の式で得られる炭酸化度(%)を算出する。
【0029】
化学分析は、カルシウムおよび三酸化硫黄を定量測定できる方法であれば、公知の方法を採用できる。カルシウムや三酸化硫黄を正確に定量測定できるものには、たとえば蛍光X線分析法やICP法がある。
【0030】
反応カルシウム含有量とは、サンプル中の全カルシウム含有量から、トバモライトの生成および反応に寄与しない硫酸カルシウムとして存在するカルシウムの含有量を除いたものである。
【0031】
熱分析は、炭酸カルシウムの分解に伴う質量減少量がわかる熱重量分析測定装置を用いるが、特に、炭酸カルシウムの分解を明確にするために、熱重量−示差熱分析装置(TG−DTA)を用いて測定することが好ましい。
【0032】
炭酸カルシウムには、結晶構造の異なるものが存在するが、いずれも600℃〜850℃において酸化カルシウムと炭酸ガスに分解するため、熱分析法により炭酸ガス含有量(質量%)を正確に定量測定することは可能である。
【0033】
炭酸化度(%)の算出式(炭酸ガス含有量(質量%)−1)/(反応カルシウム含有量(質量%)×44/56−1)×100における「1」は、未炭酸化試料における炭酸ガス含有量(質量%)の代表値であり、前記特許文献2の炭酸化度(%)の算出式(C−C0)/(Cmax−Cs−C0)×100における「C0」に相当する。水平部材の劣化診断では、すでに劣化したALCパネルを対象とするため、当該パネルの未炭酸化時の炭酸ガス含有量(質量%)を知ることはできない。ここで、前記特許文献1の炭酸化度(%)の算出式(炭酸ガス含有量(質量%)×56/44)/(全酸化カルシウム含有量(質量%))×100のように、未炭酸化時の炭酸ガス含有量(質量%)を無視した計算式とすることも考えられるが、この場合、未炭酸化時の炭酸ガス含有量(質量%)を計算した場合と無視した場合では、その誤差は炭酸化度(%)にして2〜5%程度であり、劣化診断の評価結果に影響が生じうる。
【0034】
本発明者は、未炭酸化時の炭酸ガス含有量(質量%)を、数多くの種類のパネルからサンプリングして評価した結果、ほぼすべての場合において0.8質量%〜1.2質量%であることを見出した。そこで、未炭酸化時の炭酸ガス含有量を一定値1.0質量%として計算すると、炭酸化度(%)の誤差は1%未満となり、劣化診断の評価結果への影響はほとんどないに等しい。これらの検討をした結果、本発明の軽量気泡コンクリート水平部材の劣化診断方法における炭酸化度(%)の算出式は、(炭酸ガス含有量(質量%)−1)/(反応カルシウム含有量(質量%)×44/56−1)×100なる式とした。
【0035】
[3]劣化診断の対象となる各ALC水平部材に対して、持続的な荷重があるかないかを確認する。
【0036】
持続的な荷重とは、たとえば居室においてピアノやタンスなどの重量物が一箇所に長期間にわたって置かれていることによる持続的な荷重を意味し、人間や軽車両の通行などの一時的な荷重の繰返しが長期にわたることによる非持続的な荷重は除かれる。
【0037】
すなわち、床材および屋根材について、それぞれ持続的な荷重がある場合とない場合とに分けて、後述する判定基準が設定される。その理由は、持続的な荷重を無視した条件で判定をすると、ALCパネルの設計荷重以内の荷重で継続使用しているにも関わらず、たわみ限度を超えてしまう可能性があり、逆に、持続的な荷重がない状況でしか使用されていない場合に、持続的な荷重ありの条件での判定を行うと、供用限界に達していないにもかかわらず、劣化に対する処置を要求してしまう可能性があり、経済的に問題が生じうるためである。
【0038】
[4]劣化診断の対象となる各ALC水平部材が、床材であるか屋根材であるか、および、持続的な荷重があるかないかの場合分けに応じて、炭酸化度(%)に基づいて、ALC水平部材の劣化レベルを診断する。
【0039】
劣化レベルの評価指標としては、実際にALC水平部材を損傷しないように取り外し、4等分点2線載荷によって設計荷重×(1±0.02)の荷重をかけた際の初期(設計荷重)たわみ(弾性たわみ)と、さらにこの荷重を1年間以上継続したときに生じる長期荷重時たわみ(弾性たわみ+クリープたわみ)を用いることができる。
【0040】
ALC構造設計基準(非特許文献1参照)において、スパンLにおいて設計荷重をかけた時の限界たわみは、床でL/400、屋根でL/250と規定されている。また、建設省告示第1459号(平成12年5月31日)には、建築物のはり、または床版のたわみ最大値に対して、構造の形式に応じて長期間の荷重により変形が増大することの調整係数(変形増大係数という)が規定されている。これによれば、ALC床材を含むALCパネルを用いた構造の変形増大係数は1.6である。これは、長期荷重後に、床材のたわみがL/250以下(長期荷重時たわみ限度)に納まるよう、初期たわみ限度が、クリープたわみを考慮して、L/400と予め高い性能に設定されていることを意味する(L/400×1.6=L/250)。
【0041】
屋根材の変形増大係数は特に規定されていないが、床材の考え方を同様に当てはめると、長期荷重時たわみ限度は、L/250×1.6=L/156と規定できる。ただし、歩行用屋根および多雪区域の屋根に用いられている屋根材については、床材の規定値に従うこととされている。
【0042】
以上のことから、変形増大係数を考慮したALC床材および屋根材のたわみ限度は、初期と長期荷重時に分けられ、
・床:初期L/400、長期荷重時L/250、
・屋根:初期L/250、長期荷重時L/156、
と規定できる。
【0043】
このたわみ限度は、実際の水平部材が有するべき性能の限界と考えられるため、この数値を劣化診断の基準とすることが妥当である。すなわち、以下のように、基本的には、診断対象であるALCパネルの設計荷重たわみ(弾性たわみ)が、
・初期たわみ限度以内の場合:健全、
・初期たわみ限度を超え、長期荷重時たわみ限度以内の場合:要注意、すなわち補修必要、
・長期荷重時たわみ限度を超えている場合:劣化、すなわち補強もしくは交換必要、
と判定基準を設定する。
【0044】
具体的には、床材の場合、健全とされるたわみ率は1/400以下、要注意:補修必要とされるたわみ率は1/400を超えて1/250以下、劣化:補強もしくは交換必要とされるたわみ率は、1/250超ということになる。一方、屋根材の場合は、それぞれ1/250以下、1/250を超えて1/156以下、1/156超となる。
【0045】
ただし、上述の通り、床材および屋根材のそれぞれについて、持続的な荷重がある場合とない場合に場合分けをして考える必要がある。すなわち、設計荷重たわみを用いる判定基準は、持続的な荷重がない場合に適用される。
【0046】
一方、持続的な荷重を考慮するためには、クリープたわみを考慮する必要があるため、持続的な荷重が掛かっていた診断対象であるALCパネルについては、長期荷重時たわみ(弾性たわみ+クリープたわみ)について、上記と同様の判定基準が適用される。
【0047】
種々の炭酸化度(%)が測定された複数の床材および屋根材のそれぞれについて、持続的な荷重がある場合とない場合に場合分けし、上記の判定基準と、測定された炭酸化度(%)との関係を検討したところ、両者には、一定の相関関係があり、対象となるALC水平部材のたわみ限度に基づく劣化レベルを、測定された炭酸化度に基づいて、次のように評価しうるとの知見が得られたのである。
【0048】
すなわち、床材で持続的な荷重がある場合、前記炭酸化度が27%以下の場合、上記判定基準による劣化レベルが「健全」に相当し、前記炭酸化度が27%を超え39%以下の場合に、劣化レベルが「要注意:補修必要」に相当し、前記炭酸化度が39%を超える場合に、劣化レベルが「劣化:補強もしくは交換必要」に相当する。
【0049】
床材で持続的な荷重がない場合、前記炭酸化度が35%以下の場合が同じく「健全」に、前記炭酸化度が35%を超え48%以下の場合が「要注意:補修必要」に、前記炭酸化度が48%を超える場合が「劣化:補強もしくは交換必要」に、それぞれ相当する。
【0050】
屋根材で持続的な荷重がある場合、前記炭酸化度が38%以下の場合が同じく「健全」に、前記炭酸化度が38%を超え50%以下の場合が「要注意:補修必要」に、前記炭酸化度が50%を超える場合が、「劣化:補強もしくは交換必要」に、それぞれ相当する。
【0051】
屋根材で持続的な荷重がない場合、前記炭酸化度が48%以下の場合が同じく「健全」に、前記炭酸化度が48%を超え60%以下の場合が「要注意:補修必要」に、前記炭酸化度が60%を超える場合が「劣化:補強もしくは交換必要」に、それぞれ相当する。
【0052】
実際の運用においては、診断対象となるALC水平部材から得たサンプルを測定して得た炭酸化度(%)を診断基準として、持続的な荷重がある場合とない場合との場合分けをして、上記の判定基準に沿った劣化レベルが判断されることになる。よって、ALCパネルを取り外すことなく、ALC水平部材の劣化度について詳細な診断が可能となる。
【0053】
ただし、上述のように、歩行用屋根および多雪区域の屋根に用いられている屋根材については、床材の診断基準が適用されることになる。
【実施例】
【0054】
本発明の劣化診断方法は、以下に示される実施例に限定されることはない。
【0055】
使用履歴が長期間にわたって明らかな、本発明者らの自社の工場および社宅の建物で床材や屋根材として実際に使用されていた、複数のALCパネルについて、それぞれ使用年数、使用部位、仕上げ、持続的な荷重の状況を調べた。持続的な荷重のあったものは、評価前の段階ですでに過剰なたわみが発生している可能性があるためにサンプルから除外し、持続的な荷重のなかったALCパネルを損傷しないように建物から丁寧に取り外した。
【0056】
取り外したALCパネルの寸法(厚さ、幅、長さ)を調べると共に、該ALCパネルの短辺小口面を部分的に切り欠き、内部の補強鉄筋の直径および本数を調べ、該ALCパネルの設計荷重を割り出した。
【0057】
該ALCパネルのそれぞれについて、4等分点2線載荷によって、設計荷重×1倍の荷重を掛け、その前後におけるたわみの変化(弾性たわみ)を測定することにより、設計荷重たわみのデータを得た。なお、たわみは、載荷時のスパンの中央部において測定した。
【0058】
その後、該ALCパネルのそれぞれについて、上記荷重を約1年間にわたって掛けたところ、300日経過後にたわみの増大がほぼ終了したため、1年間継続後の時点のたわみを測定し、長期荷重前後のたわみの変化(弾性たわみ+クリープたわみ)を測定することにより、長期荷重時たわみのデータを得た。
【0059】
一方、前記設計荷重の割出しと共に、取り外したALCパネルのそれぞれについて、厚さ方向に均等に5分割し、その片面側から、コアドリルを用いて、厚さ方向貫通によるコア抜きサンプリングを行い、各層の領域ごとの5つのサンプルをそれぞれのALCパネルについて取得し、取得した各サンプルについてその炭酸化度(%)を調べ、各サンプルの炭酸化度(%)の平均値を該ALCパネルの炭酸化度(%)とした。
【0060】
なお、サンプルの化学分析として、蛍光X線分析装置(スペクトリス株式会社製、PANalytical、Venus200)を用いて、サンプルの全カルシウム(Ca)含有量(質量%)および三酸化硫黄(SO3)含有量(質量%)を測定した。測定結果から、全カルシウム含有量(質量%)−三酸化硫黄含有量(質量%)×56/80の式で得られる反応カルシウム含有量(質量%)を算出した。
【0061】
また、サンプルの熱分析として、熱重量−示差熱分析装置(TG−DTA、マックサイエンス株式会社製、TG−DTA2010SA)を用いて、各サンプルの600℃〜850℃における質量減少量である炭酸ガス含有量(質量%)を測定した。
【0062】
化学分析および熱分析の測定結果より、(炭酸ガス含有量(質量%)−1)/(反応カルシウム含有量(質量%)×44/56−1)×100の式で得られる炭酸化度(%)を、それぞれのALCパネルについて算出した。
【0063】
なお、同一の製造方法で作製された新品のALCパネルについても、熱分析を同様に行い、未炭酸化試料における炭酸ガス含有量(質量%)を測定したところ、0.9質量%であった。これにより、上記式により未炭酸化時の炭酸ガス含有量の評価結果への影響を除去しうることが確認された。
【0064】
各ALCパネルについて、その炭酸化度(%)と、弾性たわみ、および弾性たわみ+クリープたわみとの関係を図1に示す。図1には、床材および屋根材のそれぞれのたわみ限度(床:初期L/400、長期荷重時L/250、屋根:初期L/250、長期荷重時L/156)を示してある。なお、床材と屋根材でグラフのプロットに特別の差異が認められなかったことから、両部材のデータを同じプロットで示している。炭酸化度に応じたそれぞれのデータのプロットから、長期荷重時たわみ(弾性たわみ+クリープたわみ)のデータ曲線と初期たわみ(弾性たわみ)のデータ曲線とを得た。
【0065】
かかる図1に基づいて、床材および屋根材のそれぞれについて、持続的な荷重がある場合となかった場合との2つの場合について、次の通り、評価基準を求めた。
【0066】
弾性たわみ+クリープたわみのデータ曲線と、床材の初期たわみ限度(L/400)の交点、床材の長期荷重時たわみ限度(L/250)の交点における炭酸化度(%)を、持続的な荷重ありの場合の床材についての診断基準とし、炭酸化度が27%以下の場合を、劣化レベルが「健全」、炭酸化度が27%を超え39%以下の場合を、劣化レベルが「要注意:補修必要」、炭酸化度が39%を超える場合を、劣化レベルが「劣化:補強もしくは交換必要」とそれぞれ設定した。
【0067】
同様に、弾性たわみのデータ曲線と、床材のたわみ限度(初期L/400、長期荷重時L/250)の交点における炭酸化度(%)を、持続的な荷重なしの場合の床材についての診断基準とし、炭酸化度が35%以下の場合を、劣化レベルが「健全」、炭酸化度が35%を超え48%以下の場合を、劣化レベルが「要注意:補修必要」、炭酸化度が48%を超える場合を、劣化レベルが「劣化:補強もしくは交換必要」とそれぞれ設定した。
【0068】
屋根材についても、弾性たわみ+クリープたわみのデータ曲線と、屋根材のたわみ限度(初期L/250、長期荷重時L/156)の交点における炭酸化度(%)を、持続的な荷重ありの場合の屋根材についての診断基準とし、炭酸化度が38%以下の場合を、劣化レベルが「健全」、炭酸化度が38%を超え50%以下の場合を、劣化レベルが「要注意:補修必要」、炭酸化度が50%を超える場合を、劣化レベルが「劣化:補強もしくは交換必要」とそれぞれ設定した。
【0069】
また、弾性たわみのデータ曲線と、屋根材のたわみ限度(初期L/250、長期荷重時L/156)の交点における炭酸化度(%)を、持続的な荷重なしの場合の屋根材のついての診断基準とし、炭酸化度が48%以下の場合を、劣化レベルが「健全」、炭酸化度が48%を超え60%以下の場合を、劣化レベルが「要注意:補修必要」、炭酸化度(%)が60%を超える場合を、劣化レベルが「劣化:補強もしくは交換必要」とそれぞれ設定した。
【0070】
このように、本発明の上記の診断基準に基づいて、実際の経年劣化したALCパネルによる床材や屋根材についての劣化診断を、ALCパネルを取り外したり、長期間のパネル載荷試験を行ったりすることなく、微小なコア抜きサンプルの採取と炭酸化度の測定のみによって、簡便、迅速かつ適確に実施できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め、複数の軽量気泡コンクリート水平部材について、化学分析により反応カルシウム含有量(質量%)と、熱分析により炭酸ガス含有量(質量%)を測定し、該測定結果に基づき、(炭酸ガス含有量(質量%)−1)/(反応カルシウム含有量(質量%)×44/56−1)×100の式で得られる炭酸化度(%)を算出すると共に、該複数の軽量気泡コンクリート水平部材のそれぞれの設計荷重たわみと長期荷重時たわみのデータを求め、該設計荷重たわみ、または長期荷重時たわみの数値が、床材または屋根材の初期たわみ限度もしくは長期荷重時たわみ限度に該当する場合の軽量気泡コンクリート水平部材の炭酸化度(%)を求めておき、
診断対象の軽量気泡コンクリート水平部材についての炭酸化度(%)を、前記化学分析および熱分析の測定結果に基づき得て、
該得られた炭酸化度を、該診断対象の軽量気泡コンクリート水平部材が、(1)床材で持続的な荷重がある場合には、前記予め得られた長期荷重時たわみの数値が、床材の初期たわみ限度もしくは長期荷重時たわみ限度に該当する場合の炭酸化度と比較することにより、(2)床材で持続的な荷重がない場合には、前記予め得られた設計荷重たわみの数値が、床材の初期たわみ限度もしくは長期荷重時たわみ限度に該当する場合の炭酸化度と比較することにより、(3)屋根材で持続的な荷重がある場合には、前記予め得られた長期荷重時たわみの数値が、屋根材の初期たわみ限度もしくは長期荷重時たわみ限度に該当する場合の炭酸化度と比較することにより、(4)屋根材で持続的な荷重がない場合には、前記予め得られた設計荷重たわみの数値が、屋根材の初期たわみ限度もしくは長期荷重時たわみ限度に該当する場合の炭酸化度と比較することにより、劣化レベルを判定する、軽量気泡コンクリート水平部材の劣化診断方法。
【請求項2】
前記診断対象の軽量気泡コンクリート水平部材の炭酸化度(%)が、前記設計荷重たわみ、または長期荷重時たわみの数値が床材または屋根材の初期たわみ限度に該当する場合の炭酸化度以下となる場合を「健全」と、該数値が床材または屋根材の初期たわみ限度に該当する場合の炭酸化度を超えて、床材または屋根材の長期荷重時たわみ限度に該当する場合の炭酸化度以下となる場合を「要注意:補修必要」と、該数値が床材または屋根材の長期荷重時たわみ限度に該当する場合の炭酸化度を超える場合を「劣化:補強もしくは交換必要」と判定する、請求項1に記載の軽量気泡コンクリート水平部材の劣化診断方法。
【請求項3】
前記診断対象の軽量気泡コンクリート水平部材が、(1)床材で持続的な荷重がある場合には、前記得られた炭酸化度が、27%以下の場合に「健全」と、27%を超え39%以下の場合に「要注意:補修必要」と、39%を超える場合に「劣化:補強もしくは交換必要」と診断し、(2)床材で持続的な荷重がない場合には、前記得られた炭酸化度が、35%以下の場合に「健全」と、35%を超え48%以下の場合に「要注意:補修必要」と、48%を超える場合に「劣化・補強もしくは交換必要」と診断し、(3)屋根材で持続的な荷重がある場合には、前記得られた炭酸化度が、38%以下の場合に「健全」と、38%を超え50%以下の場合に「要注意:補修必要」と、50%を超える場合に「劣化・補強もしくは交換必要」と診断し、(4)屋根材で持続的な荷重がない場合には、前記得られた炭酸化度(%)が、48%以下の場合に「健全」と、48%を超え60%以下の場合に「要注意:補修必要」と、60%を超える場合に「劣化・補強もしくは交換必要」と診断する、請求項1または2に記載の軽量気泡コンクリート水平部材の劣化診断方法。
【請求項4】
前記診断対象の軽量基本コンクリート水平部材が、歩行用屋根または多雪区域の屋根の屋根材として用いられている場合には、前記床材の診断基準を適用する、請求項1〜3のいずれかに記載の軽量気泡コンクリート水平部材の劣化診断方法。

【図1】
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