説明

軽量気泡コンクリート

【課題】気体透過率を向上させた軽量気泡コンクリート、及び製造時のエネルギー効率を向上させた当該軽量気泡コンクリート及びその製造方法の提供。
【解決手段】珪酸質原料及び石灰質原料を含むスラリーに発泡剤を加えて発泡成型し、半硬化状態になったものをオートクレーブ養生して得られる軽量気泡コンクリートにおいて、水銀圧入法で測定される細孔のうち、細孔径が0.008μm以上20μm以下の細孔量が0.280ml/g以上0.600ml/g未満である、軽量気泡コンクリート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量気泡コンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
軽量気泡コンクリートは、珪酸質原料及び石灰質原料を含むスラリー(以下、「モルタルスラリー」ともいう。)に発泡剤を加えて発泡成型し、半硬化状態になったものをオートクレーブ養生して得られる。軽量気泡コンクリートには、固形分、細孔及び気泡が存在する。
【0003】
軽量気泡コンクリートのオートクレーブ養生において、半硬化状態になったものの昇温は、主として水蒸気が半硬化状態になったものの内部で凝縮(結露)することによる凝縮伝熱により行われる。しかし、モルタルスラリー中に含まれる余剰な水による熱容量の上昇により、多くの水蒸気を内部結露させる必要があるため、エネルギー効率が低下するという問題がある。このように、軽量気泡コンクリートの製造においてその製造工程に問題があるため、かかる問題を解決することが望まれている。
【0004】
これまで、上記の問題を解決することを主目的として、オートクレーブ養生前の半硬化体を乾燥させて水分量を低下させる方法が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、同時に、吸音性能、調湿性能や耐凍害性能をより向上させた製品も求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−261461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に開示の発明は、半硬化状態になったものの含水率を乾燥工程により低下させることにより、オートクレーブ養生直後の製品の含水量を低下させる。ところが、乾燥工程自体にエネルギーが必要になり、また半硬化状態になったものを乾燥することは、表面に亀裂が発生するおそれがあるため、表面の亀裂を避けるならば内部まで十分に乾燥させることができず半硬化状態になったもの全体として含水量をあまり低下させられない等、上記の問題を解決するには不十分である。さらに上記特許文献1に開示の発明は、固形分、細孔及び気泡の量、並びに製品の物性には何ら影響を与えないものである。
【0008】
そこで本発明は、気体透過率を向上させた軽量気泡コンクリート、及び製造時のエネルギー効率を向上させた当該軽量気泡コンクリートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述のとおり、軽量気泡コンクリートには、固形分、細孔及び気泡が存在し、これらの存在量は原料の配合により調整できる。即ち、固形量は原料固形分の量、細孔量は成型水分(原料をスラリーにするために添加する水)の量、及び気泡量は発泡剤の量により調整できる。そこで、本発明者らはまず、オートクレーブ養生中の内部結露の問題を成型水分量の調節によって解決できるかを検討した。
【0010】
軽量気泡コンクリートの製造において、成型水分には原料を均一に混練する役割、発泡開始から半硬化状態になるまでの間に気泡を保持する役割、及び石灰質原料の水和反応や結晶性トバモライト生成反応における反応物としての役割がある。従来の軽量気泡コンクリートは、上記の役割を果たす上で、通常60〜80質量%の成型水分量(水性スラリー中の固形原料に対する成型水分の質量比)でなければ製造が困難であり、得られた軽量気泡コンクリートは0.600〜0.800ml/gの細孔量(細孔容積)を有する。
【0011】
軽量気泡コンクリートの諸物性は、固形分、細孔及び気泡の質や状態はもとより、その量自体に大きく影響される。例えば、細孔量を低減させてその分気泡量、即ち気泡量/細孔量の比を増加させた場合には軽量気泡コンクリートの気体透過率が増加し、これにより吸音性能、調湿性能や耐凍害性能などの向上が期待できる。また、水の熱容量は固形分のおよそ5倍と大きい。そのため、オートクレーブ養生の昇温工程においては、成型水分量が少ない方が製造コストや品質面で有利となり得ると考えた。
【0012】
また、成型水分量がオートクレーブ養生時にモルタルを昇温するために必要な水蒸気量の大半を占める。成型水分量が多いと、同じ温度まで昇温させるために必要な水蒸気量が多くなる。オートクレーブ養生時のモルタルの昇温は基本的に凝縮伝熱であるため、モルタルの熱容量の多くを占める成型水分量が増加すると凝縮(結露)量も増加する。必要な水蒸気量が多くなると、エネルギー効率が非常に悪くなるという問題が生じる。このことから、この成型水分量を従来よりも少なくすることによって、軽量気泡コンクリートの製造工程に関する問題を解決することができると考えた。
【0013】
このように、成型水分量を低減し、且つ軽量気泡コンクリートに存在する細孔の量を低減した場合、その構造に由来する物性の向上を始めとして、製造時の省エネ、コスト削減、建造物の耐久性向上など、数々の利点が発生することが想定される。しかしながら、以下の理由により、従来技術ではこれらの利点を得ることはできないことを突き止めた。
【0014】
成型水分量を上記した通常の範囲よりも低減させた場合、モルタルスラリーの流動性が低下するため均一混練が難しくなる。また、成型水分量が小さい状況で製品密度を一定にするには、細孔量を減じた分だけ気泡量を増加させる必要がある。これにより、成型水分量に対する気泡量が増加し気泡同士が接近する。そのため、気泡同士の合一が起こりやすくなり、その結果、気泡径が大きくなる等、外観性能の低下を引き起こしてしまう。さらに、気泡同士の合一が極端に生じると、半硬化状態になる前に気泡同士が連通し、モルタルスラリーから気泡を形成するガスが抜け出すことにより著しく収縮したり、発泡が途中で停止してしまい、所定の絶乾嵩密度の製品を得ることが困難になる。さらに、成型水分量の低下に伴い、オートクレーブ中の水熱反応で生成する結晶性トバモライトの生成量が著しく低下し、製品の強度や耐久性が低下する場合がある。
【0015】
ここで、一般的なコンクリートの打設の場合、混練水量の低減に際しては、減水剤などの混和剤を添加することによって混練・打設が可能となる流動性を確保できればよいと考えられる。ところが、軽量気泡コンクリートの製造の場合、発泡開始から半硬化状態になるまでの間、微細な気泡をモルタルスラリー中に安定に保持したり、オートクレーブ養生時には結晶性トバモライト生成量を顕著に低下させないようにする必要もある。
【0016】
そこで、本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、以下の発明を想到した。即ち、珪酸質原料及び石灰質原料を含むスラリーに発泡剤を加えて発泡成型し、半硬化状態になったものをオートクレーブ養生して得られる軽量気泡コンクリートの製造工程において、成型水分量を従来よりも低減し、その分、発泡剤による気泡量を増加すると共に混和剤を添加する。そして、これにより、細孔量が少なく、著しく気体透過性に優れた軽量気泡コンクリートが得られ、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
即ち、本発明は、以下のとおりである。
【0018】
[1]
珪酸質原料及び石灰質原料を含むスラリーに発泡剤を加えて発泡成型し、半硬化状態になったものをオートクレーブ養生して得られる軽量気泡コンクリートにおいて、水銀圧入法で測定される細孔のうち、細孔径が0.008μm以上20μm以下の細孔量が0.280ml/g以上0.600ml/g未満である、軽量気泡コンクリート。
【0019】
[2]
絶乾嵩密度が200kg/m3以上800kg/m3以下である、[1]に記載の軽量気泡コンクリート。
【0020】
[3]
圧縮強度が1.0N/mm2以上である、[1]又は[2]に記載の軽量気泡コンクリート。
【0021】
[4]
[1]〜[3]のいずれかに記載の軽量気泡コンクリートの製造方法であって、珪酸質原料及び石灰質原料を含むスラリーに発泡剤及び混和剤を加え、成型水分量が30質量%以上60質量%以下の条件で発泡成型すること、及び半硬化状態になったものをオートクレーブ養生することを含む、軽量気泡コンクリートの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、気体透過率を向上させた軽量気泡コンクリート、及び製造時のエネルギー効率を向上させた当該軽量気泡コンクリートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】成型水分量を変化させた時の軽量気泡コンクリートの細孔径分布を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0025】
[軽量気泡コンクリート]
本実施の形態に係る軽量気泡コンクリートは、珪酸質原料及び石灰質原料を含むスラリーに発泡剤を加えて発泡成型し、半硬化状態になったものをオートクレーブ養生して得られる軽量気泡コンクリートにおいて、水銀圧入法で測定される細孔のうち、細孔径が0.008μm以上20μm以下の細孔量(細孔容積)が0.280ml/g以上0.600ml/g未満である。
【0026】
上記の軽量気泡コンクリートは、水銀圧入法で測定される細孔のうち、細孔径が0.008μm以上20μm以下の細孔量が0.280ml/g以上0.600ml/g未満という新規な構成を有する。かかる構成に起因して、前記軽量気泡コンクリートは、従来製品に比して細孔量が少なく、その分気泡量が多いため、気体透過率が増加するという卓越した効果を発揮する。これにより、軽量気泡コンクリートの物性が向上する。具体的には、乾燥速度が大きくなり、且つ軽量気泡コンクリート内部の含水率分布が低減するだけでなく、吸音性能、調湿性能や耐凍害性能が向上する。
【0027】
軽量気泡コンクリートは、同じ密度(比重)においては存在する固形分、細孔及び気泡のうち細孔の容積、即ち細孔量が小さいほど気体透過率が増加する。換言すれば、本実施の形態では、同じ比重の下での細孔量と気泡量とのバランスを、細孔量が小さくて気泡量が多くなるようシフトさせている。このように、本実施の形態は、気泡量を増やし、且つ後述するように気泡剤及び減水剤の使用の仕方を工夫することにより、所定範囲の気泡透過率を実現している。気体透過率の増加により吸音性能、調湿性能や耐凍害性能が向上するが、同時に(圧縮)強度、耐久性や外観性は低下する傾向を示し、発泡成型はより困難となる。そのため、0.280ml/gを下回ると、必要な強度や耐久性が確保できなかったり、発泡成型体が得られない場合がある。
【0028】
これに対し、本実施の形態で得られる軽量気泡コンクリートの細孔量は、上述のように、必要な(圧縮)強度や耐久性を備えた軽量気泡コンクリートを製造するという観点から、0.280ml/g以上である。且つ、従来製品よりも小さい細孔量であるという観点から、0.600ml/g未満である。さらに、細孔量は、以下に制限されないが、生産安定性が高く、十分な気体透過率、(圧縮)強度や耐久性を兼ね備えた製品を得る観点から、好ましくは0.350ml/g以上0.550ml/g未満、より好ましくは0.400ml/g以上0.500ml/g未満である。
【0029】
また、本実施の形態で得られる製品の気体透過率は、従来製品の0.0015〜0.0035cm3・cm/(cm2・sec・g/cm2)よりも大きい0.011〜1.1cm3・cm/(cm2・sec・g/cm2)である。さらに、以下に制限されないが、上記と同様の観点より、好ましくは0.018〜0.58cm3・cm/(cm2・sec・g/cm2)、より好ましくは0.032〜0.32cm3・cm/(cm2・sec・g/cm2)である。このように、本実施の形態の気体透過率は、従来製品に比べ、顕著な向上が見られる。なお、本明細書における気体透過率の測定は、後出する実施例で挙げた方法を採用するものとする。
【0030】
ここで、気体透過率は、乾燥速度、並びに吸音性能、調湿性能及び耐凍害性能などの性能を表す指標であるが、軽量気泡コンクリート内に分布する気泡、気泡壁の厚さや気泡同士の連通度など、気泡や細孔の空隙の状態、即ち固体分により形成される構造と高い相関性を有する。そのため、複雑であって定性的・定量的な表現が困難な軽量気泡コンクリート内に分布する気泡や細孔の状態を規定する指標として利用することもできる。
【0031】
本実施の形態に係る軽量気泡コンクリートの圧縮強度は、用途によって要求される性能が異なるため、特に制限されない。なお、運搬などによる欠損を防止する観点から、圧縮強度として1.0N/mm2以上が好ましく、2.0N/mm2以上がより好ましい。さらに、建築材料として汎用的に使用する観点も加味すると、JIS−A5146を満たす3.0N/mm2以上がさらに好ましい。なお、本明細書における圧縮強度の測定は、後出する実施例で挙げた方法を採用するものとする。
【0032】
ここで、圧縮強度の低下は、主に結晶性トバモライトの減少に起因すると考えられる。結晶性トバモライトは、軽量気泡コンクリートを構成するものであり、構造を規定する有効な指標である。しかし、結晶性トバモライトの絶対量を定量的に評価することは困難である。そのため、本実施の形態では、結晶性トバモライトの絶対量と相関があるとされる圧縮強度を、結晶性トバモライトの絶対量の代替指標として用いることとする。即ち、本実施の形態において、圧縮強度は、軽量気泡コンクリートの性能を表す指標であるだけでなく、構造を規定する指標としての意味も有する。
【0033】
本実施の形態に係る軽量気泡コンクリートの絶乾嵩密度(嵩比重)は、以下に制限されないが、200kg/m3以上800kg/m3以下で製造することが好ましい。細孔径が0.008μm以上20μm以下の細孔量が0.280ml/g以上0.600ml/g未満という低細孔条件において、絶乾嵩密度が200kg/m3以上の場合、成型性を十分に確保することができる。一方、絶乾嵩密度が800kg/m3以下の場合、細孔径が0.008μm以上20μm以下の細孔量が0.280ml/g以上0.600ml/g未満という低細孔条件の場合に、十分な気体透過性を得ることができ、上述した従来技術が有する問題を解決することができる。このような観点から本発明者らは上記範囲が好ましいことを見出している。さらに、絶乾嵩密度は、以下に制限されないが、強度や調湿性能、耐凍害性能を高レベルで兼ね備えることが要求される外壁材、内壁材、床材や屋根材などの建築材料に使用される場合は450kg/m3以上550kg/m3以下で製造することがさらに好ましい。なお、本明細書における絶乾嵩密度の測定は、後出する実施例で挙げた方法を採用するものとする。
【0034】
また、製造直後の軽量気泡コンクリートの製品含水率は、成型水分量や細孔量と比例するものである。前記製品含水率としては、10質量%以上40質量%以下が好ましく、20質量%以上30質量%以下がより好ましい。なお、本明細書における製造直後の軽量気泡コンクリートの製品含水率の測定は、後出する実施例で挙げた方法を採用するものとする。
【0035】
また、製品中の気泡数については、以下に制限されないが、直径0.5mm未満の気泡数が好ましくは1000個/9cm2以上4000個/9cm2以下、より好ましくは2000個/9cm2以上3500個/9cm2以下である。直径0.5mm以上1mm未満の気泡数が好ましくは100個/9cm2以上600個/9cm2以下、より好ましくは200個/9cm2以上550個/9cm2以下である。そして、直径1mm以上の気泡数が好ましくは0個/9cm2以上10個/9cm2以下、より好ましくは0個/9cm2以上5個/9cm2以下である。なお、本明細書における製品中の気泡数の測定は、後出する実施例で挙げた方法を採用するものとする。
【0036】
[軽量気泡コンクリートの製造方法]
上記した本実施の形態の軽量気泡コンクリートを製造するための方法は、珪酸質原料及び石灰質原料を含むスラリーに発泡剤及び混和剤を加え、セメント、生石灰、珪砂、珪石及び石膏からなる原料の固形分量に対して、成型水分量が30質量%以上60質量%以下の条件で発泡成型すること、及び半硬化状態になったものをオートクレーブ養生することを含む。
【0037】
かかる製造方法においては、成型水分量の低下に伴うモルタルの熱容量の低下により、オートクレーブ養生時の水蒸気の使用量が減少し、製造コストの削減、及び省エネルギー型生産方式への移行が可能となる。そして、成型水分量及びモルタル昇温時の凝縮水分量の低下、並びに気泡容積の増加に伴う水蒸気の透過性向上により、モルタルの温度ムラが軽減され、品質が向上する。また、製造直後の製品の含水量が低下し施工時の製品が軽量化することにより施工性が向上する。
【0038】
本実施の形態における珪酸質原料は、以下に制限されないが、例えば、結晶質の珪石、珪砂、石英及びそれらの含有率の高い岩石、珪藻土、シリカヒューム、フライアッシュ、高炉スラグ、製紙スラッジ焼却灰及び天然の粘土鉱物、並びにそれらの焼成物が挙げられる。
【0039】
本実施の形態における石灰質原料は、以下に制限されないが、例えば生石灰及び消石灰が挙げられる。また、珪酸成分及びカルシウム成分を主体とするセメント、例えば普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメントやビーライトセメントも、好ましい態様として挙げられる。
【0040】
本実施の形態において、上記の混和剤とは、ポリカルボン酸EOエステル系混和剤(ポリカルボン酸EOエステル系高性能減水剤)(以下、「混和剤1」ともいう。)及びアルキル又はアルケニルコハク酸塩(以下、「混和剤2」ともいう。)である。
【0041】
ここで、混和剤1とは、不飽和結合を有するポリアルキレングリコールモノエステル系単量体(A)と単量体(B)とを重合して得られる共重合体を必須成分とするコンクリート混和剤である。なお、前記単量体(B)とは、アクリル酸系単量体、不飽和ジカルボン酸系単量体及びアリルスルホン酸系単量体よりなる群から選択される1種以上である。かかるポリカルボン酸EOエステル系混和剤の製品として、ポリカルボン酸EOエステル系高性能減水剤(花王株式会社 TK−500、TK−1000、TK−2000、TK−3000)などが挙げられる。
【0042】
一方、混和剤2とは、例えば、マレイン酸やマレイン酸無水物などのα,β−不飽和二塩基酸又はその無水物とオレフィンとの反応生成物に、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物を反応させたものである。
【0043】
ここで、上記のポリカルボン酸EOエステル系混和剤、及びアルキル又はアルケニルコハク酸塩は、いずれも水溶性であることが好ましい。
【0044】
混和剤1の適正量は成型水分量が少ないほど多く、発泡が途中で停止した場合や体積膨張過程でモルタルに顕著な収縮が起こった場合には、混和剤1の添加量を増加する方向で調整することが適当であり、以下に制限されないが、セメント、生石灰、珪砂、珪石及び石膏からなる原料の固形分量に対して、0.005質量%以上1.500質量%以下、好ましくは0.010質量%以上1.000質量%以下、より好ましくは0.020質量%以上0.800質量%以下である。
【0045】
混和剤2の適正量は、混和剤2/混和剤1の質量比が0.5以上1.0以下となる量が概ねの目安である。混和剤2/混和剤1の質量比が0.5以上である場合、発泡過程での固液分離の発生、得られる製品の不均一性、及び気泡径の増大による外観性の悪化を効果的に防止できる。一方、混和剤2/混和剤1の質量比が1.0以下である場合、モルタルスラリーの流動性を向上させ、混練ミキサーからの排出を容易にすることができる。
【0046】
混練手順として好ましくは、まず成型水と珪酸質原料のスラリーに混和剤1を添加し分散させる。続いて石灰質その他の原料を投入する。続いて、混和剤2及び本発明に係る目的以外の混和剤を投入する場合には、必要に応じてその他の混和剤、そして発泡剤の順に投入する。
【0047】
ここで、その他の混和剤としては、例えば、脂肪酸の金属塩(金属石けん)、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、α−スルホ脂肪酸エステル、α−オレフィンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸エステル塩、アルカンスルホン酸塩等の陰イオン界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤;アルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルアミンオキシド等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤;ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、メチルセルロース等の増粘剤;ナフタレン系、メラミン系、アミノスルフォン酸系、ポリカルボン酸系等の減水剤といった、セメント系材料において一般に用いられる分散剤だけでなく、炭酸カルシウム、ドロマイト等の炭酸塩化合物;珪酸ナトリウム等の硬化促進剤;リグニンスルホン酸、グルコン酸塩等の硬化遅延剤;リン酸塩等の発泡遅延剤;シロキサン化合物、アルコキシシラン化合物等の撥水性剤;パルプ、発泡スチレンビーズ、有機マイクロバルーン等の有機軽量骨材;パーライト、シラスバルーン等の無機軽量骨材;耐アルカリガラス繊維、カーボン繊維、ステンレス繊維セラミック繊維、アスベスト繊維等の無機繊維;アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維等の有機繊維などが挙げられる。
【0048】
本実施の形態における発泡剤としては、以下に制限されないが、アルカリ水溶液中で反応して水素を発生する金属粉末、例えばアルミニウム、亜鉛やバリウム等が挙げられる。その中で最も汎用的なものがアルミニウム粉末である。
【0049】
また、発泡剤の量としては、以下に制限されないが、同一比重において、軽量気泡コンクリートに比べ、細孔量を減じた分だけ気泡を増量する必要があるため、セメント、生石灰、珪砂、珪石及び石膏からなる原料の固形分量に対して、0.03質量%以上0.20質量%以下、好ましくは0.05質量%以上0.15質量%以下、より好ましくは0.06質量%以上0.12質量%以下である。
【0050】
上記の混和剤の作用機構の詳細は明らかでないが、軽量気泡コンクリートの混練から半硬化状態に至るまでの成型過程において、以下のような各々複数の役割を担っていると考えられる。
【0051】
まず、モルタルスラリーの混練時には混和剤1の減水作用によりモルタルスラリーの流動性が高まり、均一混練が可能となる。次いで、発泡過程の際には混和剤1及び混和剤2の表面張力低下作用により微細な気泡を生成し、混和剤2の一部はモルタルスラリー中で不溶性のカルシウム塩となり気泡面に配列する。これにより、気泡壁を強化し、気泡の合一化を抑制する。さらに、混和剤2は粒子に対して架橋凝集作用を及ぼし、混和剤1によって促進されるモルタルスラリーの固液分離(ブリージング)だけでなく、粒子の沈降に伴う気泡の機械的破壊も抑制する。
【0052】
これらの作用効果によって、気泡が小径且つ球状を維持しつつ、モルタル内に均一に分散した発泡成型が可能となる。さらに、発泡終了時以降は、混和剤1の早強性(失活時間が著しく早く、モルタルの流動性が急激に低下する性質)、及び低水分モルタルが本来的に有する極めて高い硬化性能により、速やかに半硬化状態に至る。そのため、粒子の沈降、気泡の変形や合一化を最小限に留めた発泡成型体が得られる。
【0053】
即ち、本実施の形態において、混和剤1の、初期に強力な減水作用を発現し且つ早強性であるという二面性、及び表面張力低下作用を併せ持つことが軽量気泡コンクリートの製造において好適である。さらに、混和剤2の気泡微細化・安定化作用と固液分離抑制作用とを組み合わせることにより弊害を取り除き、外観性能を向上させている。これにより、成型水分量30質量%以上60質量%以下でも気泡が小径且つ球状を維持しつつ、モルタル内に均一に分散した発泡成型体を得ることが可能となっている。
【0054】
また、本実施の形態において、成型水分量の減少がオートクレーブ養生過程における結晶性トバモライトの生成量を著しく低下させ、製品の強度や耐久性の低下を招く場合がある。原因として、原料固形分に対する成型水分量が小さいことにより、原料固形分に含まれるK2OやNa2O等の可溶性アルカリ成分濃度が増加することや、オートクレーブ養生時における液相の珪酸濃度が適正範囲を超えて増加すること等が考えられる。
【0055】
上記の解決方法としては、珪酸質原料として、上述したもののうち、例えば珪砂などの可溶性アルカリ成分の少ないものや溶解速度の小さいものを使用するのが好ましく、石灰質原料として、上述したもののうち例えば早強ポルトランドセメントなどの可溶性アルカリ成分の少ないセメントを使用することが好ましい。また、セメントの配合量を低下させて原料固形分中の可溶性アルカリ成分量を少なくする方法もある。さらに、同時に起こる可溶性アルミ成分の低下が問題となる場合には、γ−Al23や硫酸アルミニウム等、別の原料から可溶性アルミ成分を補填することも好適な方法である。
【0056】
即ち、液相の珪酸、可溶性アルカリ成分、及び可溶性アルミ成分の濃度を指標として、原料の選定やモルタル配合の調整を行い、結晶性トバモライトの生成を促す条件を見出せばよい。
【0057】
本実施の形態に係る軽量気泡コンクリートの製造方法においては、従来の軽量気泡コンクリートパネルと同様に、補強鉄筋又は補強金網を軽量気泡コンクリート内に埋設させるように成型することが好ましい。
【0058】
ここで、前記補強鉄筋とは、鉄筋を所望の形状に配列し、交叉接点を溶接加工したものをいう。前記補強金網とは、鉄を網状に加工したものであり、ラス網などがその代表的な例である。補強鉄筋又は補強金網の形状、寸法、鉄筋の太さ、金網の目の大きさ、さらに軽量気泡コンクリート中に埋設する際の位置など、配筋の仕方については、特に制限されることはない。板の大きさや用途などによって適宜選択されればよい。
【0059】
本実施の形態において、水銀圧入法とは、軽量気泡コンクリート内部に水銀を圧入し、侵入圧力と侵入量との関係から細孔径分布を測定するものであり、細孔の形状が円筒形であると仮定して計算されたものである。細孔径の測定可能範囲は0.008〜500μmである。ここで、測定された細孔径の値は、実際の細孔の直径を表すものではなく、構成物質間に存在する隙間の大きさの指標として使用され、軽量気泡コンクリート等の細孔構造を表す際には非常に有効な手段である。なお、本明細書における細孔径分布の測定は、後出する実施例で挙げた方法を採用するものとする。
【0060】
図1は、成型水分量を変化させた時の軽量気泡コンクリートの細孔径分布を表すグラフである。かかるグラフを用いて、細孔量を求めることができる。図1に示す通り、軽量気泡コンクリートの細孔径分布は、概ね水銀圧入法での測定範囲に含まれるが、直径が20μmを超える細孔にはコンクリート混練時の巻き込み空気による空隙なども含まれるため、細孔量の算出範囲から除外する。
【実施例】
【0061】
以下、本実施の形態に係る軽量気泡コンクリートを実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例のみに制限されるものではない。
【0062】
[測定方法]
<製造直後の製品含水率>
オートクレーブ養生を終えた製品又は製品の発泡上部から発泡下部までを含むように切り出した試験体の質量を測定した。その後、105±5℃で一定質量となるまで乾燥し絶乾質量を量り、下記式で算出した。
製品含水率[%]={(製造直後の質量[g]−絶乾質量[g])/絶乾質量[g]}×100
【0063】
<製品の絶乾嵩密度>
製品から100mm×100mm×100mmの試験体を発泡方向に平行に合計6つ採取し、試験体の寸法を測定した。その後、105±5℃で一定質量になるまで乾燥させてから絶乾質量を量り、各々の絶乾嵩密度を下記式で算出し、6つの平均値とした。ただし、固液分離が発生し、発泡方向で密度差が大きく開いたもの(比較例3及び比較例4)は平均化せず、その最小値から最大値に至る範囲を記載した。
絶乾嵩密度[kg/m3]=絶乾質量[kg]/試験体の体積(厚さ×幅×長さ)[m3
【0064】
<水銀圧入法による細孔径分布及び細孔量>
製品の発泡底部から最上部に至るまでの部分を破砕し分級して得た2〜4mm部分を105±5℃で一定質量となるまで乾燥し、絶乾状態にしたものを測定試料とした。この測定試料を、ユアサアイオニクス株式会社製「Pore Master−33」を用いて細孔径分布を測定した。ただし、固液分離が発生し、発泡方向で密度差が大きく開いたもの(比較例3及び比較例4)は、発泡底部から最上部に至るまで部分を6分割し、個別に破砕したものを同様に測定して、その最小値から最大値に至る範囲を記載した。この時、水銀と試料の接触角を130°、水銀の表面張力を484dyn/cmとして計算した。
得られた細孔径分布の結果を用いて、図1に示すようなグラフを作成することにより、細孔量(細孔容積V)を求めた。
【0065】
<気体透過率>
製品から円の中心が発泡方向と垂直になるように切り出し、20℃−60%RH下で一定質量となるように含水率を調整した直径50mm×高さ50mmの円柱試験体を用いて、東洋精機株式会社製「パーミアグラフ」で気体透過率を測定した。この時、試料におけるガスの流入側と流出側の差圧を1g/cm2とした。
【0066】
<製品の圧縮強度>
JIS−A5416に規定される軽量気泡コンクリート(ALC)の圧縮強度試験方法を利用して測定した。製品の発泡方向の高さの中央部から100mm×100mm×100mmの試験体を採取し、70℃の熱風循環式乾燥機中で含水率が10±2%になるまで乾燥した。その後、常温まで冷却した。試験体の寸法、質量を測定した後、発泡方向に対して直角の方向から0.1〜0.2N/mm2/secの速さで荷重を加え、荷重の最大値を読み取り、圧縮強度を下記式で算出した。
圧縮強度[N/mm2]=最大荷重[N]/加圧面積(幅×長さ)[mm2
【0067】
圧縮試験後の試験体を105±5℃で一定質量になるまで乾燥させてから絶乾質量を量り、圧縮試験時の含水率を下記式で算出した。
圧縮試験時含水率[%]={(試験時質量[g]−絶乾質量[g])/絶乾質量[g]}×100
【0068】
<気泡数>
製品から発泡方向に平行な3cm×3cm以上の平滑面を含む試験体を切り出し、平滑面に3cm×3cmの正方形の枠線を描いた。それから、マイクロスコープで平滑面を観察し、枠線内にある、直径0.5mm未満の気泡、直径0.5mm以上1mm未満の気泡、直径1mm以上の気泡の数をそれぞれ数えた。
【0069】
[軽量気泡コンクリートの製造]
オーストラリア珪砂粉末又は岩手県産珪石粉末に水を加えスラリーとしたものに、ポリカルボン酸EOエステル系高性能減水剤(混和剤1)を加え撹拌して、生石灰粉末、早強ポルトランドセメント、及び二水石膏を添加した。その後、アルケニルコハク酸塩(混和剤2)又はその他の混和剤(混和剤3とする。)、及び金属アルミ粉末(発泡剤)を添加した。得られたモルタルスラリーを、補強鉄筋を100mm間隔で4枚埋設した縦1,800mm×横600mm×高さ600mmの型枠に注入し、発泡予備硬化してできた半硬化状の軽量気泡コンクリートブロックを、ピアノ線で厚さ100mmに切断した。この半硬化状の軽量気泡コンクリートパネルを、飽和水蒸気雰囲気下で180℃10時間オートクレーブ養生して、軽量気泡コンクリートパネルを得た。ここで得られた5枚の軽量気泡コンクリートパネルのうち、4枚が補強鉄筋入りパネルで、1枚は物性測定用の無筋パネルであった。
【0070】
表1に上記の使用原料一覧、表2に上記のモルタル配合(比)、表3に上記の手順で製造した軽量気泡コンクリートの物性(測定結果)を示した。なお、表2における「水」とは、成型水分量を意味する。成型水分量が比較的低い状態は、軽量気泡コンクリートの製造過程においてエネルギー効率に優れることを示す。
【0071】
ここで、オーストラリア珪砂粉末はSiO2純度が99質量%以上であって、含まれる可溶性アルカリ成分濃度が極めて低く、SiO2の溶解速度が小さいものである。一方、岩手県産珪石粉末は、SiO2純度が90質量%程度であって、含まれる可溶性アルカリ成分が比較的多く、SiO2の溶解速度が比較的大きいものである。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

(表中、*1は製造直後の製品含水率を表し、*2はcm3・cm/(cm2・sec・g/cm2)である。*3は、−0.5mmの気泡数が1000個未満のものを×とし、−0.5mmの気泡数が1000個以上2000個未満のものを○とし、−0.5mmの気泡数が2000個以上のものを◎とした。)
【0075】
[実施例1〜7]
混練性及び発泡状態が良好であり、得られた軽量気泡コンクリートは外観性も良く、比較例1及び2に比して、製造直後の製品含水率が低く、細孔量が小さく、気体透過率が高かった。また、圧縮強度は全て3.0N/mm2より大きく、JIS規格を満たしていた。
【0076】
[実施例8]
混練性及び発泡状態が良好であり、得られた軽量気泡コンクリートの外観性も良く、比較例1及び2に比して、製造直後の製品含水率が低く、細孔量が小さく、気体透過率が高かった。なお、圧縮強度は2.32N/mm2と若干小さかった。
【0077】
[比較例1〜3]
混錬性及び発泡状態が良好であり、得られた軽量気泡コンクリートの外観性も良かった。しかし、製造直後の製品含水率が非常に高く、細孔量が非常に大きく、気体透過率が非常に低かった。
【0078】
[比較例4及び5]
混練性は良好であった。しかし、発泡過程において固液分離が活発に起こり、得られた軽量コンクリートは不均一であり、物性に大きなばらつきが見られた。また、粗大な気泡が多く、外観性に劣っていた。
【0079】
[比較例6]
混練性は良好であった。しかし、発泡が途中で停止し、成型体が得られなかった。
【0080】
[比較例7及び8]
均一混練を行うことができず、成型体が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の低細孔軽量気泡コンクリートは、従来の軽量気泡コンクリートが有する耐久性、耐火性、断熱性や加工性などの性能を損なうことなく、著しく気体透過性に優れる。これにより、乾燥速度の向上、軽量気泡コンクリート内部の含水率分布の低減に加えて、吸音性能、調湿性能や耐凍害性能の向上も期待できる。そのため、建築材料、中でも外壁材、内壁材、床材や屋根材などに好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸質原料及び石灰質原料を含むスラリーに発泡剤を加えて発泡成型し、半硬化状態になったものをオートクレーブ養生して得られる軽量気泡コンクリートにおいて、
水銀圧入法で測定される細孔のうち、細孔径が0.008μm以上20μm以下の細孔量が0.280ml/g以上0.600ml/g未満である、軽量気泡コンクリート。
【請求項2】
絶乾嵩密度が200kg/m3以上800kg/m3以下である、請求項1に記載の軽量気泡コンクリート。
【請求項3】
圧縮強度が1.0N/mm2以上である、請求項1又は2に記載の軽量気泡コンクリート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の軽量気泡コンクリートの製造方法であって、
珪酸質原料及び石灰質原料を含むスラリーに発泡剤及び混和剤を加え、成型水分量が30質量%以上60質量%以下の条件で発泡成型すること、及び
半硬化状態になったものをオートクレーブ養生することを含む、軽量気泡コンクリートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−79687(P2011−79687A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231506(P2009−231506)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【Fターム(参考)】