説明

軽量気泡コンクリート

【課題】2〜4週間以上の長期間にわたって撥水性及び防水性に優れると共に、それらのバラツキがなく、水分と長時間接触しても濡れ色や吸水跡が付着することなく、美観に優れる表面塗装を施すことができる軽量気泡コンクリートを提供すること。
【解決手段】粉末状の珪酸質原料及び石灰質原料を主原料とし、高温高圧にて水蒸気養生される軽量気泡コンクリート本体の外表面に形成される塗布層を備えてなり、上記塗布層は、下記一般式で表されるシリコーンを主成分とする撥水剤の希釈溶液が、その有効成分換算で1.5〜30.0g/mで塗布されることにより形成される。


(上記一般式中、n及びmは、正の整数であり、30≦n+m≦120、1.0≦m/n≦20.0である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量気泡コンクリートに関する。さらに詳しくは、2〜4週間以上の長期間にわたって撥水性及び防水性に優れ、それらのバラツキがなく、水分と接触しても濡れ色がつかない軽量気泡コンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
軽量気泡コンクリート(以下、「ALC」ということがある。)は、主に建築物の壁材、屋根、床材等として使用されている。軽量気泡コンクリート(ALC)は、軽量であり、耐火性、断熱性、施工性に優れているため、建築材料として広く使用されている。軽量気泡コンクリート(ALC)は、一般的に以下のように製造されている。まず、珪石等の珪酸質原料とセメントや生石灰等の石灰質原料を主原料とし、これらの微粉末に水とアルミニウム粉末等の添加物を加えてスラリー状の混合物として、予め補強用鉄筋が並べられた型枠に鋳込まれる。その後、上記スラリー状の混合物は、アルミニウム粉末の反応により発泡すると共に、石灰質原料の反応によって徐々に硬化し、半硬化となったところで、ピアノ線により、所定の寸法に切断して成形される。その後、所定の寸法に切断された軽量気泡コンクリート(ALC)をオートクレーブによる約180℃、10気圧の高温高圧水蒸気養生し、製造することができる。
【0003】
一般に、軽量気泡コンクリート(ALC)は、その製品寸法が大きいため、製造後出荷までの間、屋外にて保管される場合が多い。そして軽量気泡コンクリート(ALC)は、その表面及び内部に無数の気泡や気孔を有するため、吸水性が高い。このため、軽量気泡コンクリート(ALC)を屋外にて保管した場合には、降雨によって濡れ、軽量気泡コンクリート(ALC)の表面に濡れ色がついてしまうことや、その内部への吸水が起こることがある。軽量気泡コンクリート(ALC)の表面の濡れ色は、表面変色による外観品質低下を招き、内部への吸水は、汚れやカビなどの発生や、一時的な表面強度の低下、軽量気泡コンクリート(ALC)パネルの重量増加などを招く。
【0004】
そこで、軽量気泡コンクリート(ALC)に撥水性や防水性を付与する技術が提案され、実用化されている。このような技術として、スラリーの原料の混合時にシリコーンオイル等の撥水性物質を添加する、いわゆる内添型の技術が提案されている(特許文献1〜3参照)。例えば、特許文献1には、スラリー状の混合物中の全固形分に対してシリコーンオイルを0.2〜10重量%で添加する構成が開示され、特許文献2には、スラリー混合物中の全固形分に対してシリコーンオイル等を0.1〜5重量%で添加する構成が開示され、特許文献3には、スラリー混合物中の全固形分に対してシリコーンオイルを0.05〜10重量%で添加する構成が開示されている。
【0005】
一方、水蒸気養生後の軽量気泡コンクリート(ALC)パネルの外表面に撥水性と防水性を付与する、いわゆる外添型の技術として、特許文献4には、高温高圧での水蒸気養生後にアルキルアルコキシシラン等の撥水剤をその有効成分換算で0.3〜6.0g/m塗布する技術が開示されている(特許文献4)。また、上記外添型の技術として、軽量無機質板材の表面をシリコーン系の撥水剤で撥水処理することが開示されている(特許文献5及び非特許文献1〜2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭55−42272号公報
【特許文献2】特公昭62−14514号公報
【特許文献3】特公平1−58148号公報
【特許文献4】特許第3902339号公報
【特許文献5】特開平10−81533号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】信越化学工業株式会社「シリコーンエマルジョン」カタログ(2007年10月初版発行)
【非特許文献2】シリコーンハンドブック(伊藤邦雄編、日刊工業新聞社)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜3に開示されたいわゆる内添型の技術は、パネル表面での水玉の接触角が全般に小さく、90°に満たないため、水玉の移動はほとんど起きることがない。その場合には、降雨が終わった後も水分が長時間パネルの上に存在し続けることとなり、その間に水分に付着した浮遊物等の影響でパネルに汚れがついてしまうことが多い。これに対し、特許文献4、5に開示されたいわゆる外添型の技術は、パネル表面での水玉の接触角が90°程度、もしくはそれ以上であり、水玉が風や若干の勾配によって容易に移動する。従って、降雨が終わった後には水分はパネルの上から容易に流れ落ち、結果としてパネルに汚れがつくことが非常に少ない。また、特許文献4に開示されたいわゆる外添型の技術に使用されるアルキルアルコキシシラン撥水剤は、軽量気泡コンクリート(ALC)の外表面に非常に高い撥水性及び防水性を付与することができる反面、水と接触するとALCの表面に水分の吸水跡が早期に現れる問題があった。水分の吸水跡はパネルへの水分の染み込みであり、外観品質低下、汚れやカビなどの発生、一時的な表面強度の低下、重量増加などを招き、大きな問題である。
【0009】
上記特許文献5に記載された外添型の技術に使用されるシリコーン系撥水剤は、シリコーンオイル、シリコーンレジン、シリコーンゴムのいずれでも使用可能であるが、特にシリコーン系の撥水剤は限定されておらず、効果的なシリコーン系撥水剤を提案するものでない。一方、非特許文献2には、低温状態で撥水処理を行う場合に使用されるシリコーン系撥水剤として、水素を含有するシリコーン(メチルハイドロジェンシリコーン)オイルが有効であることが記載されている。非特許文献2に記載されたシリコーン(メチルハイドロジェンシリコーン)オイルは、メチルハイドロジェンシロキサンのみを構造単位とするホモポリマーのエマルジョンを主成分とするものであるため、軽量気泡コンクリート(ALC)に使用した場合、初期撥水性には優れるが、わずか2週間程度で撥水性能が急激に低下する。このため、2週間経過後の降雨等により、軽量気泡コンクリート(ALC)パネル表面が濡れた場合には、その濡れた箇所は、そのまま軽量気泡コンクリート(ALC)パネル表面の部分的な濡れ色や水分の吸水跡となる。
【0010】
ところで、軽量気泡コンクリート(ALC)が注文生産品である場合、その在庫期間は、1〜2週間であり、軽量気泡コンクリート(ALC)が常備品である場合、その在庫期間は、4〜6週間である。すなわち、軽量気泡コンクリート(ALC)は、最低でも2週間以上、好ましくは4〜6週間以上の長期間にわたって撥水性及び防水性を有していることが好ましいこととなる。しかしながら、上記メチルハイドロジェンシロキサンのみを構成単位とするホモポリマーを主成分とする撥水剤が使用された軽量気泡コンクリート(ALC)パネルが、2〜4週間以上の長期間にわたって、屋外の在庫品置場に保管された場合には、降雨等に濡れた軽量気泡コンクリート(ALC)の表面部分と濡れない表面部分の撥水性及び防水性の差異がさらに大きくなってしまい、軽量気泡コンクリート(ALC)の外観品質を低下させてしまう。
【0011】
上記の点からメチルハイドロジェンシロキサンのみを構造単位とするホモポリマーを主成分とする撥水剤が塗布された軽量気泡コンクリート(ALC)パネルは、その製品価値を4週間以上の長期間維持させるために、出荷前等の撥水性及び防水性が低下した時点に、再度、上記撥水剤を塗布しなければならないという不都合を有する。
【0012】
本発明は、以上の状況に鑑みて提案するものであり、2〜4週間以上の長期間にわたって撥水性及び防水性に優れると共に、それらのバラツキがなく、水分と接触しても濡れ色や吸水跡が付着することなく、美観に優れる軽量気泡コンクリート(ALC)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定比率のメチルハイドロジェンシロキサン構造単位、ジメチルシロキサン構造単位のコポリマーを主成分とする撥水剤の塗布層を形成することにより、2〜4週間以上の長期間にわたって撥水性が優れると共に、撥水性及び防水性にムラやバラツキがなく、水分と接触しても濡れ色や水分の吸水跡が付着することのない撥水性を有する軽量気泡コンクリートを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、以下のものを提供する。
【0014】
(1) 粉末状の珪酸質原料及び石灰質原料を主原料とし、高温高圧にて水蒸気養生される軽量気泡コンクリート本体と、
上記軽量気泡コンクリート本体の外表面に形成される塗布層を備えた軽量気泡コンクリートであって、
上記塗布層は、下記一般式で表されるシリコーンを主成分とする撥水剤の希釈溶液が、その有効成分換算で1.5〜30.0g/mで塗布されることにより形成されていることを特徴とする軽量気泡コンクリート。
【化1】

(上記一般式中、n及びmは、正の整数であり、30≦n+m≦120、1.0≦m/n≦20.0である。)
【0015】
(2) 上記一般式中、4.0≦m/n≦10.0であることを特徴とする(1)記載の軽量気泡コンクリート。
【0016】
(3) 上記一般式中、m/n=4.0であることを特徴とする(1)記載の軽量気泡コンクリート。
【0017】
(4) 上記一般式中、m/n=10.0であることを特徴とする(1)記載の軽量気泡コンクリート。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、表面及び内部に無数の気泡や気孔を有しており本来吸水性が高い軽量気泡コンクリート(ALC)に対して、4週間以上の長期間にわたる撥水性及び防水性を付与することによって、降雨による変色や外観品質低下、吸水による汚れやカビなどの発生や一時的な表面強度の低下、パネルの重量増加等の不具合を防止することができる軽量気泡コンクリートを提供することができる。また、本発明によれば、撥水性及び防水性のムラやバラツキを防止することができると共に、4週間以上の長期間にわたって軽量気泡コンクリート(ALC)と水分が接触した場合であっても、濡れ色や水分の吸水跡が付着することなく、美観に優れる表面塗装を施すことができる軽量気泡コンクリート(ALC)を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)本発明の実施形態である軽量気泡コンクリートのパネル(ALCパネル)を示す斜視図である。(b)本発明の実施形態である軽量気泡コンクリートのパネル(ALCパネル)の一部の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0021】
<軽量気泡コンクリート>
まず、本発明に係る軽量気泡コンクリートの実施形態であるALCパネル1について、図面を参照しながら説明する。図1(a)は、ALCパネル1を示す斜視図であり、図1(b)は、ALCパネル1を模式的に示す断面図である。
【0022】
(ALCパネル1)
本実施形態の軽量気泡コンクリートであるALCパネル1は、図1(a)及び図1(b)に示すように軽量気泡コンクリート本体であるALCパネル本体2と、ALCパネル本体2の外表面に塗布により形成されている撥水剤の塗布層3から構成される。なお、図1(b)において、塗布層3は、本来分子層レベルの薄い膜であるが、図1(b)においては強調して厚く示している。なお、ALCパネル本体2は、粉末状の珪酸質原料及び石灰質原料を主原料とし、オートクレーブ養生等で高温高圧(約180℃、10気圧)にて水蒸気養生して形成されている。
【0023】
(ALCパネル本体2)
ALCパネル1は、上記ALCパネル本体2の表面に塗布層3を形成させることによって構成されている。
【0024】
(塗布層3)
ALCパネル1は、ALCパネル本体2表面に十分な撥水剤が塗布されており、ALCパネル本体2の表面に十分な厚みを有する塗布層3が形成されている。そして、ALCパネル本体2表面に形成されている塗布層3は、十分な厚みを有しているので、水蒸気や水分は、塗布層3を通過することができないものとなる。このため、ALCパネル本体2が水分と2〜4週間以上の長期間接触した場合であっても、塗布層3の存在により、濡れ色や水分の吸水跡が付着することを防止できるものとなっている。
【0025】
ここで、ALCパネル本体2に形成されている塗布層3を構成する撥水剤の希釈溶液とは、特定比率のメチルハイドロジェンシロキサン構造単位、ジメチルシロキサン構造単位のコポリマーを主成分とする撥水剤を溶媒に分散又は溶解させた希釈溶液をいう。この希釈溶液は、ALCパネル本体2表面に塗布することができる物理的性質を有しており、通常は常温で液体かつ所定の粘度を有しているものであればよい。
【0026】
上記希釈溶液に使用することができる溶媒としては、このシリコーンを主成分とする撥水剤を溶解することができる溶媒であれば特に制限されるものではなく、芳香族系炭化水素、脂肪族系炭化水素、エーテル類、エステル類の溶媒が使用可能である。なお、溶剤として水を用いることも可能であるが、溶剤として水を使用した場合には、撥水剤が溶剤に溶解しないため、乳化剤を用い、水中でこのシリコーンを乳化しエマルジョンおよび分散液の形にすることが好ましい。これらの溶媒の中でも、取り扱い及び製造工程における再利用の観点から、水を溶媒としたエマルジョン及び分散液の形が好ましい。
【0027】
(撥水剤のシリコーン成分)
撥水剤の塗布層3は、下記一般式で表されるシリコーンを主成分とする撥水剤の希釈溶液を塗布し、その有効成分換算で1.5〜30.0g/mで塗布することにより形成されている。なお、図1(a)の図示例では、塗布層3は、平板状の直方体であるALCパネル本体2の六面の全面に亘って塗布されているが、ALCパネル本体2の所要の外表面のみに、塗布層3を設ける構成とすることも可能である。なお、ALCパネル本体2に撥水剤の希釈溶液を塗布する方法としては、ALCパネル本体2の表面に撥水剤成分がミクロレベルで均一に塗布することができるものであれば特に制限されるものではない。たとえば、スプレーによる噴霧による塗布、ドブ漬け、刷毛塗り等を例示することができる。
【0028】
【化2】

(上記一般式中、n及びmは、正の整数であり、30≦n+m≦120、1.0≦m/n≦20.0である。)
【0029】
塗布層3を構成する撥水剤の主成分である上記一般式で表されるメチルハイドロジェンシリコーンは、その化学構造からも明らかなように、メチルハイドロジェンシロキサン構造単位とジメチルシロキサン構造単位からなるコポリマーであり、このメチルハイドロジェンシロキサン構造単位とジメチルシロキサン構造単位の比率(m/n)の値を一定範囲に規定したものである。なお、上記一般式で表されるシリコーンは、オクタメチルシクロテトラシロキサンとテトラメチルシクロテトラシロキサンとヘキサメチルジシロキサンを比率(m/n)及びn+mの値が所定の値となるように混合し、硫酸等の酸触媒の存在化、平衡化反応を行うことにより製造することができる。
【0030】
上記一般式で表されるシリコーンにおいて、比率(m/n)の値は、1.0≦m/n≦20.0、好ましくは、4.0≦m/n≦10.0である。すなわち、上記一般式で表されるシリコーンの分子内において、ジメチルシロキサン構造単位の割合を相対的に大きくすることによって、経時での撥水剤の撥水性を向上させているものである。比率(m/n)の値が1.0以上であると、初期の撥水性や軽量気泡コンクリート本体に対する固着性が低下しないため好ましく、また、比率(m/n)の値が20.0以下であると経時での撥水性が低下しないため好ましい。
【0031】
また、比率(m/n)の値は、4.0である場合が好ましい。すなわち、mの値をnの値の4.0倍と設定することによって、適度な撥水性と軽量気泡コンクリート本体への固着のバランスを保持することができ、軽量気泡コンクリート本体表面が水分を含んでいる場合であっても撥水性及び防水性に優れた軽量気泡コンクリートを得ることができる。
【0032】
また、比率(m/n)は、10.0である場合も好ましい。mの値をnの値の10.0倍と設定することによって、経時後の撥水性を維持し、軽量気泡コンクリート本体への固着のバランスを保持することができる。すなわち、本発明においては、塗布層が形成される前の軽量気泡コンクリート本体の表面が、水分で濡れている場合であっても、乾燥している場合であっても、その軽量気泡コンクリート本体の表面状態に応じて、比率(m/n)の値を変化させることにより、撥水性及び防水性に優れた軽量気泡コンクリートを得ることができる。
【0033】
上記一般式で表されるシリコーンにおいて、n+mの値は、30≦n+m≦120、好ましくは、50≦n+m≦100であることが好ましい。n+mの値が30以上であると、経時での撥水剤の撥水性を向上させることができるため好ましく、n+mの値が120以下であると溶剤への溶解性が向上し、撥水剤成分として適度な粘度を有することができるため好ましい。このように、本発明の軽量気泡コンクリートは、軽量気泡コンクリート本体の水分吸収量、長期間にわたる保管状態等に応じ、撥水剤として、上記比率(m/n)の値及びn+mの値を適宜変化させた種々のシリコーンを使用することができるものである。そして、4週間以上の長期間にわたって水分と接触した場合であっても、濡れ色や水分の吸水跡が付着することなく、美観に優れる製品とすることができる。
【0034】
また、本発明の軽量気泡コンクリートは、前記軽量気泡コンクリートの外表面の複数箇所における水の接触角の各測定値において、(a)最大接触角が90°を超えるものであり、かつ、水玉が軽量気泡コンクリートパネル上で転がる状態であるか、(b)最大接触角が90°前後であり、水玉が軽量気泡コンクリートパネル上で形成される状態を有していることを特徴とする。すなわち、本発明の軽量気泡コンクリートは、撥水性及び防水性にバラツキがなく、撥水性に優れた外表面を有する軽量気泡コンクリートである。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
実施例1のALCパネル1の製造では、珪酸質原料として予めボールミルにて粉砕し、比表面積3000ブレーンに粒度を調製した珪石を45重量部、石灰質原料として生石灰5重量部、普通ポルトランドセメント30重量部、繰り返し原料20重量部の割合で混合し、これらの固体原料合計100重量部に水60重量部と少量のアルミニウム粉末及び界面活性剤を加えて、混練してスラリーを作製し、温度を45℃に調整した。更に、混合したスラリーを予め補強用鉄筋を配列した型枠に鋳込み、アルミニウム粉の反応による発泡で膨張させ、石灰質原料の水和により半硬化した後にピアノ線によりパネル寸法に成形した。その後オートクレーブによる高温高圧水蒸気養生を行ってALCパネル本体を得た。
【0037】
そして、水蒸気養生後の上記ALCパネル本体を1枚ずつ水平に静置し、外表面に上記一般式で表されるシリコーン1(m/n=1.0、m+n=100)からなる撥水剤を水にて希釈し、撥水剤の希釈溶液を下記表1に示す条件にて塗布し、塗布層を形成した。なお、実施例1において使用した撥水剤の希釈溶液は、シリコーンの有効成分比率が60%であり、撥水剤原液を水で20倍に希釈したものを200ml使用して、有効成分換算6.0g/mで塗布した。
【0038】
ALCパネル本体に上記撥水剤の希釈溶液を塗布して乾燥した後、ALCパネル本体表面に塗布層を形成させて、実施例1のALCパネルを製造した。
【0039】
(実施例2〜10)
塗布層を形成する撥水剤であるシリコーンの種類、その有効成分換算量を下記表1に示したように変化させた以外は、実施例1と同様にして、各実施例のALCパネルを製造した。なお、上記実施例において、m/n=4.0であり、m+n=100のシリコーンをシリコーン2、m/n=10.0であり、m+n=50のシリコーンをシリコーン3、m/n=20.0であり、m+n=50のシリコーンをシリコーン4とした。
【0040】
(比較例1〜3)
塗布層を形成する撥水剤として、表1に示すシリコーンを使用した以外は、実施例1と同様にしてALCパネルを製造した。なお、上記比較例において、m/n=0であり、m+n=50のシリコーンをシリコーン4(比較例1)、m/n=4.0であり、m+n=50のシリコーンをシリコーン5(比較例3)とした。以上の実施例及び比較例で使用した撥水剤、撥水剤塗布条件について、下記の表1にまとめて示した。
【0041】
【化3】

【0042】
【表1】

【0043】
(撥水性及び防水性の評価)
実施例1〜10及び比較例1〜3で製造したALCパネルについて、撥水性及び防水性の評価を行った。撥水性及び防水性の評価は、撥水剤の希釈溶液の塗布直後、2週間経過後、4週間経過後、6週間経過後のそれぞれの時期について、水滴の接触角、濡れ色の有無を測定評価した。評価結果を表2に示す。
【0044】
撥水性の判定基準である水滴の接触角の評価は、以下のように行った。
「◎」:水滴の接触角の平均値90°を超え、水滴がいわゆる水玉となってALCパネル表面上において転がる現象が見られる。
「○」:水滴の接触角の平均値90°の前後で、水滴がいわゆる水玉となってALCパネル表面上に形成される。
「×」:水滴の接触角の平均値90°未満であり、水滴がいわゆる水玉となってALCパネル表面上に形成されない。
【0045】
防水性の判断基準である濡れ色の評価については、撥水剤の塗布後にALCパネルに塗布層を形成させた後、水平に保持して1.0mlの水滴を滴下した後、ALCパネル表面に残った水滴を乾いた布で吸い取り、パネル表面に濡れ色が残っているかどうかを目視にて判定した。そして、各実施例及び比較例においては、ALCパネル表面の20箇所を任意に選び、各測定箇所とした。各測定箇所における水滴を滴下した後の濡れ色の評価を行った。なお、防水性の判定基準である濡れ色の有無の評価は、以下のように行った。
「○」:ALCパネルのサンプルにすべてについて、濡れ色の残留が全く無いもの。
「×」:ALCパネルのサンプルの1つ以上に、濡れ色の残留があるもの。
【0046】
【表2】

【0047】
表2からも明らかなように、実施例1〜10のALCパネルは、2週間経過後においても、シリコーン(上記一般式において、1.0≦m/n≦20.0、50≦n+m≦100)の有効成分が2.4〜24.0g/mであるため、水滴の接触角は平均で90°以上であり、濡れ色や水分の吸水跡の残るパネルも見られなかった。このことから、実施例1〜10のALCパネルは、2週間以上の長期間にわたって撥水性及び防水性が低下することなく、十分な性能を有していることが分かる。
【0048】
さらに、実施例2〜10のALCパネルは、4週間経過後においても、シリコーン(上記一般式において、4.0≦m/n≦20.0、50≦n+m≦100)の有効成分が2.4〜24.0g/mであるため、水滴の接触角は平均で90°以上であり、濡れ色や水分の吸水跡の残るパネルも見られなかった。このことから、実施例2〜10のALCパネルは、4週間以上の長期間にわたって撥水性及び防水性が低下することなく、十分な性能を有していることが分かる。
【0049】
上記実施例において、特に撥水性及び防水性が優れているALCパネルは、実施例3〜5及び7〜9のALCパネルであり、4週間経過後においても、シリコーン(上記一般式において、4.0≦m/n≦10.0、50≦n+m≦100)の有効成分が6.0〜24.0g/mであるため、水滴の接触角は平均で90°を超え、ALCパネル表面上の水滴は、コロコロと転がる水滴(水玉)の形態を示すものであった。さらに、実施例3〜5及び7〜9においては、濡れ色や水分の吸収跡の残るALCパネルは一つも見られなかった。これらのことから、シリコーン(上記一般式において、4.0≦m/n≦10.0、50≦n+m≦100)を使用した実施例3〜5及び7〜9のALCパネルは、4週間以上の長期間にわたって撥水性及び防水性が低下することなく、特に優秀な性能を有していることが分かる。なお、有効成分塗布量については、実施例4、5及び8、9の12.0もしくは24.0g/mにおいて、十分な性能を有しているため、30.0g/mを超える量を塗布しても経済的な観点からは利点がない。
【0050】
比較例1のALCパネルは、シリコーン(上記一般式において、m/n=0.0、メチルハイドロジェンシロキサン構造単位のみのシリコーン)を撥水剤の主成分としているので、その有効成分が6.0g/mであっても、2週間程度経過すると、水滴の接触角の平均値90°未満となり、水滴が水玉となって形成されないものとなった。一方、比較例2のALCパネルは、アルキルアルコキシシランを撥水剤の主成分としているので、塗布層形成直後より、濡れ色の残留が生じ、濡れ色の付着及び水分の吸水跡が認められるものとなった。また、比較例3のALCパネルは、撥水剤塗布直後より水滴の接触角の平均値90°未満であり、水滴がいわゆる水玉となってALCパネル表面上に形成されないものとなった。
【0051】
上記試験結果から明らかなように、本発明によれば、軽量気泡コンクリート本体の外表面に特定のシリコーンを主成分とする撥水剤を、その有効成分換算で1.5〜〜30.0g/m塗布することにより、4週間以上の長期間にわたって撥水性及び防水性に優れ、しかもそれらのバラツキ及びムラがなく、長時間水分と接触しても濡れ色がつかない軽量気泡コンクリートを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、例えば建築物の壁材、屋根、床材等に利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 ALCパネル
2 ALCパネル本体
3 撥水剤の塗布層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状の珪酸質原料及び石灰質原料を主原料とし、高温高圧にて水蒸気養生される軽量気泡コンクリート本体と、
前記軽量気泡コンクリート本体の外表面に形成される塗布層を備えた軽量気泡コンクリートであって、
前記塗布層は、下記一般式で表されるシリコーンを主成分とする撥水剤の希釈溶液が、その有効成分換算で1.5〜30.0g/mで塗布されることにより形成されていることを特徴とする軽量気泡コンクリート。
【化1】

(上記一般式中、n及びmは、正の整数であり、30≦n+m≦120、1.0≦m/n≦20.0である。)
【請求項2】
前記一般式中、4.0≦m/n≦10.0であることを特徴とする請求項1記載の軽量気泡コンクリート。
【請求項3】
前記一般式中、m/n=4.0であることを特徴とする請求項1記載の軽量気泡コンクリート。
【請求項4】
前記一般式中、m/n=10.0であることを特徴とする請求項1記載の軽量気泡コンクリート。

【図1】
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【公開番号】特開2012−166990(P2012−166990A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30295(P2011−30295)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(399117730)住友金属鉱山シポレックス株式会社 (195)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】