説明

軽量粘土

【課題】 チューインガムのように細長く伸ばすことができ、それぞれの表面形状を損なうことなく、接触表面を水に濡らさなくても相互にくっつけることができる、軽量粘土を提供する。
【解決手段】 合成樹脂製の微小中空粒子素材と、ポリビニルアルコールと、酢酸ビニル樹脂と、ホウ酸とを主成分として含有し、これに水を加えて成り、前記ポリビニルアルコールと前記酢酸ビニル樹脂の質量比が、10:10〜10:70の範囲であることを特徴とする軽量粘土。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、児童や園児等の工作用もしくは教材用として好適な軽量粘土に関する。本発明の軽量粘土は、チューインガムのように伸ばしたり、微小面積を接触させるだけで水で表面を濡らさなくても粘土どうしを容易にくっつけたりできる性質を有し、しかも、手にべたつかないため、児童や園児等が遊びながら造形することができる。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂製の中空の微小球体(いわゆる「マイクロバルーン」)に糊剤や添加物等を配合して成る軽量粘土が、種々、提供されている。
特開2010−250176号公報(特許文献1)には、「手に著しく付着することなく、粘土どうしが良好にくっつくことにより造形性を発揮すると同時に、水彩絵具による着色を行うことができる軽量粘土」、について記載されている。
特許文献1によると、上記の性質は、「合成樹脂マイクロバルーン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレンオキシド、及び、水を配合することにより達成できる」、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−250176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
園児や児童等が遊びながら造形できる粘土に対する需要がある。即ち、造形中にはチューインガムのように伸ばしたり、水で表面を濡らさなくても粘土どうしをくっつけたりして遊ぶことができるとともに、チューインガムのように伸ばして得た細い筋状/糸状の粘土を、同じ粘土で造形した物体の表面や内表面に、当該表面や内表面を損なわないようにソッとくっつけて、細い筋状/糸状の立体模様を形成したり、雪だるま形状等に造形した人形の顔等の表面に、当該顔等の表面形状を損なわずに、接触部分の面積が小さな小球形状等であっても容易にくっつけて鼻や耳を形成できる粘土に対する需要がある。
【0005】
特許文献1に示される組成の粘土では、チューインガムのように伸ばして細い筋状/糸状とすることはできない。また、粘土どうしを、それぞれの表面形状を損なわないようにして、ソッとくっつけることもできない。したがって、細い筋状/糸状の立体模様を、粘土で造形した物体の表面や内表面に、当該表面や内表面の形状を損なわないように形成することはできない。また、粘土で造形した人形の顔等に、その表面形状を損なわないようにして、接触面積が小さい球形等の耳や鼻をくっつけることもできない。
【0006】
本発明は、チューインガムのように細長く伸ばすことができる軽量粘土を提供することを目的とする。また、それぞれの表面形状を損なうことなく相互にくっつけることができる、付言すれば水で表面を濡らさなくてもくっつけることができる、軽量粘土を提供することを目的とする。また、それにより、細い筋状/糸状の立体模様を、同じ粘土で造形した物体の表面や内表面上に、当該表面や内表面の形状を損うことなく形成できるようにすることを目的とする。或いは、粘土で造形した人形の顔等に、当該顔等の表面形状を損なうことなく、小さな球形状のように接触面積が小さなものであってもくっつけて、耳や鼻等として形成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記[1]〜[4]のように記述される。
[1]構成1
合成樹脂製の微小中空粒子素材と、ポリビニルアルコールと、酢酸ビニル樹脂と、ホウ酸とを主成分として含有し、これに水を加えて成り、
前記ポリビニルアルコールと前記酢酸ビニル樹脂の質量比が、10:10〜10:70の範囲であることを特徴とする軽量粘土。
ここで、「〜」とは両端の境界値を含むものとし、以下、同様とする。例えば「5〜10」とは「5以上で10以下の範囲」をいうものとする。
ポリビニルアルコールに対する酢酸ビニル樹脂の質量比が上記範囲から外れて小さくなり過ぎると、チューインガムのように伸ばすことができなくなる。逆に、ポリビニルアルコールに対する酢酸ビニル樹脂の質量比が上記範囲から外れて大きくなり過ぎると、ダラダラとベタついて粘土にならなくなる。ポリビニルアルコール(ポバール)としては、変性ポバールでもよい。
ポリビニルアルコールと酢酸ビニル樹脂の質量比が上記範囲にあり、ホウ酸を含有することにより、粘土の2個の断片それぞれの接触部分の表面形状を損なうことなく、それぞれを相互にくっつけることができる。しかも、くっつける際に、水で接触表面を濡らしておく必要もない。
ポリビニルアルコールと酢酸ビニル樹脂の質量比は、好ましくは10:15〜10:60、更に好ましくは10:20〜10:50、の範囲である。
【0008】
合成樹脂製の微小中空粒子素材としては、軽量粘土用の素材として従来より市販されている、いわゆる「熱可塑性樹脂製のマイクロバルーン」を用いることができる。その粒径は、一般に、5〜150μmの範囲程度である。合成樹脂としては、例えば、アクリル共重合体等が用いられている。例えば、メチルメタクリレート−アクリロニトリル共重合樹脂、酢酸ビニル−アクリロニトリル共重合樹脂、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合樹脂、アクリロニトリル樹脂等が用いられている。
【0009】
[2]構成2(粘土材料)
構成1に於いて、
前記合成樹脂製の微小中空粒子素材は、水を含有する湿式タイプの微小中空粒子素材であり、
前記主成分を100wt%(質量%の意味,以下同様とする)としたとき、該主成分の要素である湿式タイプの微小中空粒子素材、ポリビニルアルコール及び酢酸ビニル樹脂の合計、ホウ酸の各質量比は、それぞれ、30〜60wt%、40〜70wt%、0.1〜4.5wt%の範囲である、
ことを特徴とする軽量粘土。
主成分を100wt%としたときのホウ酸の質量比が0.1wt%未満では、ダラダラとベタついて粘土にならない。逆に、4.5wt%を越えると、くっつき性が悪くなるとともにスポンジ化して硬くなって粘土にならなくなる。
微小中空粒子素材の質量比は、好ましくは35〜50wt%の範囲である。また、ポリビニルアルコールと酢酸ビニル樹脂の合計の質量比は、好ましくは50〜60wt%の範囲である。また、ホウ酸の質量比は、好ましくは0.5〜1.5wt%の範囲である。
なお、酢酸ビニル樹脂とポリビニルアルコールに関しては、両者の合計の質量比の範囲で示しているが、その範囲内に於いて、酢酸ビニル樹脂とポリビニルアルコールの間では構成1の関係が成立することは言うまでもない。
【0010】
[3]構成3
構成1又は構成2に於いて、
前記主成分と該主成分に加える水の合計を100wt%としたとき、前記主成分の質量比は、40〜80wt%の範囲である、
ことを特徴とする軽量粘土。
水との合計を100wt%としたときの主成分の質量比は、好ましくは、50〜70wt%の範囲である。
【0011】
[4]構成4
構成1〜構成3の何れかに於いて、
前記主成分の要素であるホウ酸に代えて塩化マグネシウムを含有する、
ことを特徴とする軽量粘土。
ホウ酸に代えて塩化マグネシウムを用いると、くっつき性に於いて若干劣るものの、伸びる性質に関しては、ある程度、得ることができる。なお、後述の比較例1から分かるように、硼砂を用いることはできない。硼砂を用いると、粘土にならない。
【発明の効果】
【0012】
構成1は、合成樹脂製の微小中空粒子素材と、ポリビニルアルコールと、酢酸ビニル樹脂と、ホウ酸とを主成分として含有し、これに水を加えて成り、前記ポリビニルアルコールと前記酢酸ビニル樹脂の質量比が10:10〜10:70の範囲であることを特徴とする軽量粘土であるため、チューインガムのように細長く伸ばすことができる。また、2個の断片部分それぞれの表面形状を損なうことなく、相互にくっつけることができる。しかも、くっつける際に、水で接触表面を濡らしておく必要もない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、実施例と比較例により説明する。まず、下記の実施例と比較例で用いた材料について、その成分等を略記する。なお、通常用いられている一般的な材料については、記述を省略する。
(1)合成樹脂製の微小中空粒子素材
発泡剤を内包するアクリル共重合体と水分の混合物。合成樹脂製の微小中空粒子素材を100wt%としたとき、水分が約90wt%のウェットタイプの白色粉末。粒度は5〜100μmの範囲内。以下の実施例等で「マイクロバルーン」と略記する。
(2)ポリビニルアルコール
ビニルアルコール−アルキルビニルエーテル共重合物。一般名は変性ポバール。白色〜淡黄色の粉末もしくは顆粒。水に易溶。以下の実施例等で「PVA」と略記する。
(3)酢酸ビニル樹脂
酢酸ビニル共重合体樹脂粉末(エマルジョンパウダー,再乳化微粉末)。酢酸ビニル共重合体80〜90wt%、無定形シリカ20〜10wt%、酢酸ビニルモノマー約0.12wt%で、合計100wt%の混合物。以下の実施例等で「酢酸ビニル樹脂粉末」と略記する。
【0014】
伸びの評価は、製造した粘土12gを両手で均等に持ち、ゆっくりと両手を拡げ、間隔が70cmに拡がるまでにちぎれたか否かで評価した。10回評価したうち、7回以上ちぎれなかったものを、「良好」とした。
くっつき性の評価は、製造した粘土を手で丸めて、直径5cmの球体(大球)と、直径1cmの球体(小球)とを作り、大球をテーブル上に載置し、その上方10cmの高さから小球を落として大球の上表面にくっつけた後、大球を手で持って90度倒したとき、小球がくっついたままであるか、離れて落下するかで評価した。10回評価したうち、7回以上くっついたままで落下しなかったものを、「良好」とした。
【0015】
以下の実施例と比較例に於いて、粘土の製造は、各材料を、L字状の攪拌腕を備えたボールミキサーのボール(容器)内に入れて、2分間攪拌することにより行った。
【実施例1】
【0016】
請求項に記載の主成分として、マイクロバルーン(1)を700g、PVA(2)を200g、酢酸ビニル樹脂粉末(3)を620g、ホウ酸を10g、用いた。
主成分100wt%としたとき、マイクロバルーンの質量比は45.8wt%、PVAと酢酸ビニル樹脂粉末の合計の質量比は54.0wt%、ホウ酸の質量比は0.65wt%である。また、PVAと酢酸ビニル樹脂粉末の質量比は10:31である。
この主成分に水1000gを加え、さらに、防腐剤15gと顔料(黄)20gを加えてボールミキサーのボールに入れてL字腕で攪拌し、粘土を製造した。
伸びの評価とくっつき性の評価は、ともに「良好」であった。
【実施例2】
【0017】
請求項に記載の主成分として、マイクロバルーン(1)を700g、PVA(2)を200g、酢酸ビニル樹脂粉末(3)を840g、ホウ酸を20g、用いた。
主成分100wt%としたとき、マイクロバルーンの質量比は39.8wt%、PVAと酢酸ビニル樹脂粉末の合計の質量比は59.1wt%、ホウ酸の質量比は1.14wt%である。また、PVAと酢酸ビニル樹脂粉末の質量比は10:42である。
この主成分に水1000gを加え、さらに、防腐剤15gと顔料(赤)80gを加えてボールミキサーのボールに入れてL字腕で攪拌し、粘土を製造した。
伸びの評価とくっつき性の評価は、ともに「良好」であった。
【実施例3】
【0018】
請求項に記載の主成分として、マイクロバルーン(1)を700g、PVA(2)を200g、酢酸ビニル樹脂粉末(3)を720g、ホウ酸を10g、用いた。
主成分100wt%としたとき、マイクロバルーンの質量比は43.0wt%、PVAと酢酸ビニル樹脂粉末の合計の質量比は56.4wt%、ホウ酸の質量比は0.61wt%である。また、PVAと酢酸ビニル樹脂粉末の質量比は10:36である。
この主成分に水1000gを加え、さらに、防腐剤15gと顔料(青)40gを加えてボールミキサーのボールに入れてL字腕で攪拌し、粘土を製造した。
伸びの評価とくっつき性の評価は、ともに「良好」であった。
【0019】
[比較例1]
比較例1は、実施例1に於いてホウ酸に代えてホウ砂10gを用いたものであり、他の成分及びそれらの量は、全て実施例1と同じとした。
各材料をボールミキサーのボールに入れてL字腕で実施例1と同様に攪拌したが、ベタベタの状態のままであり、粘土にならなかった。当然ながら、伸びやくっつき性の評価もできなかった。
なお、実施例2や3に対応するものについても同様にホウ酸に代えてホウ砂を用いたものを製造してみたが、同様にベタベタのままで、粘土にならなかった。
また、ホウ酸もホウ砂も用いず、ホウ酸以外の他の成分を全て実施例1と同じとしたものを製造してみたが、これもベタベタのままで、粘土にならなかった。
また、実施例1に於いて、ホウ酸10gに代えて、ホウ酸を100g配合したものを製造したところ、硬くなってしまい、粘土にならなかった。
【0020】
[比較例2]
比較例2は、実施例1に於いて、更に、CMC(カルボキシメチルセルロース)を、PVAと同量(200g)、加えたものである。
即ち、マイクロバルーン700g、PVA200g、酢酸ビニル樹脂粉末620g、ホウ酸を10gに、CMC(カルボキシメチルセルロース)を200g加え、これに水1000gと、防腐剤15gと顔料(黄)20gとを加えてボールミキサーのボールに入れてL字腕で攪拌したものである。
ここで、CMCは、従来より軽量粘土においてポリビニルアルコールととともに用いられることが多い糊剤であるため、評価のために製造したものである。
しかしなが、この組成では、攪拌してもベタベタの状態のままであり、粘土にならなかった。当然ながら、伸びやくっつき性の評価もできなかった。
【0021】
[比較例3]
比較例2に於いて、CMC200gに代えて、カラギナン(又はカラゲナン/カラジーナン/カラゲニンとも呼ばれる)200gを配合したものを同様に製造してみたが、攪拌してもベタベタの状態のままであり、粘土にならなかった。当然ながら、伸びやくっつき性の評価もできなかった。
また、比較例2に於いて、CMC200gに代えて、キサンタンガム200gを配合したものを同様に製造してみたが、攪拌してもベタベタの状態のままであり、粘土にならなかった。当然ながら、伸びやくっつき性の評価もできなかった。
【実施例4】
【0022】
実施例1〜3に於いて、ホウ酸10gに代えて、塩化マグネシウム10gを同量配合した他は実施例1〜3と同じ配合のものを同様に製造して評価したところ、伸びは良好であったが、くっつき性が若干劣っていた。例えば、大球を90度倒したとき、離れて落下するケースが70%程度あった。
ただし、伸びは良好であるため、チューインガムのように遊ぶことはできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の微小中空粒子素材と、ポリビニルアルコールと、酢酸ビニル樹脂と、ホウ酸とを主成分として含有し、これに水を加えて成り、
前記ポリビニルアルコールと前記酢酸ビニル樹脂の質量比が、10:10〜10:70の範囲であることを特徴とする軽量粘土。
【請求項2】
請求項1に於いて、
前記合成樹脂製の微小中空粒子素材は、水を含有する湿式タイプの微小中空粒子素材であり、
前記主成分を100wt%としたとき、該主成分の要素である湿式タイプの微小中空粒子素材、ポリビニルアルコール及び酢酸ビニル樹脂の合計、ホウ酸の各質量比は、それぞれ、30〜60wt%、40〜70wt%、0.1〜4.5wt%の範囲である、
ことを特徴とする軽量粘土。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に於いて、
前記主成分と該主成分に加える水の合計を100wt%としたとき、前記主成分の質量比は、40〜80wt%の範囲である、
ことを特徴とする軽量粘土。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れかに於いて、
前記主成分の要素であるホウ酸に代えて塩化マグネシウムを含有する、
ことを特徴とする軽量粘土。

【公開番号】特開2012−173400(P2012−173400A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33323(P2011−33323)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(504080043)有限会社アドバンス (4)
【Fターム(参考)】