説明

軽量織物および繊維製品

【課題】引裂強力と防風性に優れた軽量織物および該軽量織物を用いてなる繊維製品を提供する。
【解決手段】その目付けが65g/m以下の織物であって、単繊維の横断面形状が2箇所以上のくびれ部を有する断面扁平度2〜6の扁平断面であるポリエステルマルチフィラメント(A)が、前記織物の経糸および/または緯糸に配されており、かつ下記式により算出されるカバーファクター(CF)が1650〜2200の範囲内であることを特徴とする軽量織物、および該織物を用いてなる、ダウンジャケット、ウインドブレーカー、カイト、セールクロス、テント、および寝袋からなる群より選択されるいずれかの繊維製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引裂強力と防風性に優れた軽量織物および該軽量織物を用いてなる繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ダウンジャケット、ウインドブレーカー、カイト、セールクロス、テント、寝袋などの繊維製品において、引裂強力と防風性に優れた軽量織物が必要とされている。
しかしながら、織物の軽量性と防風性を実現するためには、繊度の小さい繊維で高密度織物を構成する必要があるが、かかる織物では十分な引裂強力が得られないという問題があった。
【0003】
他方、特許文献1では、補強糸を用いて引裂強力を向上した軽量織物が開示されているが、ベースの糸とは異なる補強糸を用いるため、補強糸の部分が筋としてみえるという問題があった。
【特許文献1】特開2004−316015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、引裂強力と防風性に優れた軽量織物および該軽量織物を用いてなる繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、単繊維の横断面形状がくびれ部を有する扁平断面であるポリエステルマルチフィラメントを用いて特定のカバーファクターを有する織物を製織すると、防風性と軽量性だけでなく優れた引裂強力も得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば「その目付けが65g/m以下の織物であって、単繊維の横断面形状が2箇所以上のくびれ部を有する断面扁平度2〜6の扁平断面であるポリエステルマルチフィラメント(A)が、前記織物の経糸および/または緯糸に配されており、かつ下記式により算出されるカバーファクター(CF)が1650〜2200の範囲内であることを特徴とする軽量織物。」が提供される。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【0007】
その際、前記ポリエステルマルチフィラメント(A)の総繊度が24〜40dtexの範囲内であることが好ましい。また、前記ポリエステルマルチフィラメント(A)の単繊維繊度が1〜5dtexの範囲内であることが好ましい。かかる前記ポリエステルマルチフィラメント(A)の引張り強度としては4.0cN/dtex以上であることが好ましい。また、前記ポリエステルマルチフィラメント(A)の固有粘度が0.70〜1.00の範囲内であることが好ましい。また、かかるポリエステルマルチフィラメント(A)は無撚であることが好ましい。
【0008】
本発明の軽量織物において、織物組織が平織物組織であることが好ましい。また、織物の経方向の引裂強力と緯方向の引裂強力がともに7.7N以上であることが好ましい。また、織物の通気性が1.3cc/cm/sec以下であることが好ましい。
また、本発明によれば、前記の織物を用いてなる、ダウンジャケット、ウインドブレーカー、カイト、セールクロス、テント、および寝袋からなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、引裂強力と防風性に優れた軽量織物および該軽量織物を用いてなる繊維製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の織物において、その目付けが65g/m以下(好ましくは30〜60g/m)であることが肝要である。該目付けが65g/mよりも大きいと十分な軽量性が得られず好ましくない。
【0011】
また、本発明の織物には、単繊維の横断面形状が2箇所以上のくびれ部を有する断面扁平度2〜6(好ましくは3漢)の扁平断面であるポリエステルマルチフィラメント(A)が、織物の経糸および/または緯糸(好ましくは経糸および緯糸)に配されている。かかる単繊維形状を有するポリエステルマルチフィラメントで織物を構成することにより、経糸と緯糸とで形成される空隙が小さくなるため優れた防風性が得られ、また、単繊維同士が動きやすいので、引裂強力が向上する。
【0012】
ここで、断面扁平度とは、図1に示す長辺の長さ(B)と短辺の長さ(C1)との比(B/C1)である。また、くびれ部とは図1に模式的に示すように、短辺の長さが短くなっている部分のことである。かかるくびれ部において、凹部の深さとしては、短辺の長さの最大値と最小値の比(C1/C2)で、1.05以上(好ましくは1.1以上)となる深さであることが好ましい。なお、図1は、くびれ部が3個所の場合を例示するものである。
【0013】
前記のポリエステルマルチフィラメント(A)を形成するポリエステルとしては、テレフタル酸を主たる酸成分とし、炭素数2〜6のアルキレングリコール、すなわちエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールからなる群より選ばれた少なくとも1種のグリコール、特に好ましくはエチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルが例示される。
【0014】
かかるポリエステルには、必要に応じて少量(通常30モル%以下)の共重合成分を有していてもよい。その際、使用されるテレフタル酸以外の二官能性カルボン酸としては、例えばイソフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、P−オキシ安息香酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のごとき芳香族、脂肪族、脂環族の二官能性カルボン酸をあげることができる。また、上記グリコール以外のジオール化合物としては、例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSのごとき脂肪族、脂環族、芳香族のジオール化合物およびポリオキシアルキレングリコール等をあげることができる。
【0015】
前記ポリエステルは任意の方法によって合成したものでよい。例えばポリエチレンテレフタレートの場合について説明すると、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルのごときテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるかまたはテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかしてテレフタル酸のグリコールエステルおよび/またはその低重合体を生成させる第1段階の反応と、第1段階の反応生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第2段階の反応によって製造されたものでよい。また、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。
【0016】
前記ポリエステルには、必要に応じて、艶消し剤(二酸化チタン)、微細孔形成剤(有機スルホン酸金属塩)、着色防止剤、熱安定剤、難燃剤(三酸化二アンチモン)、蛍光増白剤、着色顔料、帯電防止剤(スルホン酸金属塩)、吸湿剤(ポリオキシアルキレングリコール)、抗菌剤、その他の無機粒子の1種以上が含まれていてもよい。
【0017】
本発明において、ポリエステルマルチフィラメント(A)は、例えば、固有粘度が0.55以上(好ましく0.70〜1.00)のポリエステルを用いて、紡糸温度295℃程度で前記断面形状を有する紡糸口金により紡糸し、500〜1500m/分の速度で未延伸糸として一旦巻き取り、次いで、別工程にて、加熱ローラーで予熱後、ヒーターで加熱しながら3.0〜4.0倍で延伸したものでよい。
【0018】
かかるマルチフィラメント(A)において、総繊度が24〜40dtexの範囲内であることが好ましい。また、単繊維繊度としては1〜5dtexの範囲内であることが好ましい。さらに、フィラメント数としては10〜100本の範囲内であることが好ましい。
【0019】
また、前記ポリエステルマルチフィラメント(A)の引張り強度が4.0cN/dtex以上であることが好ましい。このような高い引張り強度を得るためには、例えば、固有粘度が0.70〜1.00のポリエステルを用いて、前記のように紡糸、延伸し、固有粘度が0.70〜1.00の範囲内であるポリエステルマルチフィラメントを得るとよい。
【0020】
かかるポリエステルマルチフィラメント(A)において、撚糸が施されていないことが好ましい。撚糸が施されていると、ポリエステルマルチフィラメント(A)が織物中において丸く集束するため、経糸と緯糸とで形成される組織間空隙が大きくなり通気性が大きくなるおそれがある。
【0021】
本発明の軽量織物には、前記のマルチフィラメント(A)が織物の経糸および/または緯糸(好ましくは経糸および緯糸)に配され、かつ下記式により算出されるカバーファクター(CF)が1650〜2200(好ましくは1800〜2200)であることが肝要である。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【0022】
該カバーファクターが1650よりも小さいと、通気性が大きくなり防風性が損なわれるおそれがある。逆に、該カバーファクターが2200よりも大きいと単繊維同士が動きにくくなり引裂強力が低下し好ましくない。
【0023】
本発明の軽量織物において、織組織は特に限定されず、通常の方法で製織されたものでよい。例えば、織物の織組織としては、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。なかでも、引裂強力を高める上で、組織点の多い平組織またはツイル組織が好ましい。
【0024】
本発明の軽量織物には、本発明の目的が損なわれない範囲内であれば、常法の染色仕上げ加工、撥水加工、起毛加工、紫外線遮蔽あるいは抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0025】
本発明の軽量織物において、前記のような単繊維横断面がくびれ部を有する扁平断面形状であるポリエステルマルチフィラメント(A)が、前記織物の経糸および/または緯糸に配されており、かつ該織物は特定のカバーファクターを有するので、単繊維同士が動きやすくなり引裂強力が向上する。かかる引裂強力としては、織物の経方向の引裂強力と緯方向の引裂強力がともに7.7N以上であることが好ましい。また同時に優れた防風性も呈する。かかる防風性としては、通気性で1.3cc/cm/sec以下であることが好ましい。
【0026】
次に、本発明の繊維製品は、前記の織物を用いてなる、ダウンジャケット、ウインドブレーカー、カイト、セールクロス、テント、および寝袋から軽量性だけでなく、引裂強力と防風性にも優れる。
【実施例】
【0027】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
(1)引張強度
JIS L1013により測定した。
(2)通気性
JIS L 1096−1998、6.27.1、A法(フラジール形通気性試験機法)により通気性(cc/cm・s)を測定した。
(3)引裂強力
JIS L1096 6.15 D法により測定した。
(4)固有粘度
o−クロロフェノール溶液中35℃の温度にて測定した。単位はdL/gである。
【0028】
[実施例1]
固有粘度0.90のポリエチレンテレフタレートを4つ山扁平断面(凹部6個所)に穿孔された口金より、紡糸温度295℃で紡出し、850m/minで引き取ったのち、延伸することにより、フィラメントの横断面形状が図1に示すような、くびれ部(短辺の長さCの最大/最小=1.2)を3個所有する扁平断面(断面扁平度3.2)のポリエステルマルチフィラメント(A)36dtex/12フィラメント(引っ張り強度4.8cN/dtex)を得た。次いで、該ポリエステルマルチフィラメント(A)を平組織織物の経糸および緯糸に用いて、経密度159本/2.54cm、緯密度152本/2.54cmの生機を得た。
【0029】
ついで撥水樹脂加工を含む常法の染色仕上加工を行い、経密度173本/2.54cm、緯密度163本/2.54cmの平織物を得た(CF=1912)。
得られた平織物は、目付けが53g/mで、経の引裂強力が10.6N、緯の引裂強力が8.6N、通気度が0.9cc/cm/secと、軽量性、防風性、引裂強力に優れるものであった。
【0030】
[比較例1]
実施例1において、固有粘度0.90のポリエチレンテレフタレートを用いて、フィラメントの横断面形状を丸断面形状に変更して、引裂強度が5cN/dtexのポリステルマルチフィラメントを用いること以外は実施例1と同様に実施し、経密度159本/2.54cm緯密度152本/2.54cmの生機を得た。
ついで撥水樹脂加工を含む常法の染色仕上加工を行い、経密度175本/2.54cm、緯密度165本/2.54cmの平織物を得た(CF=1935)。
得られた平織物は、目付けが54g/mで、経の引裂強力が10.6N、緯の引裂強力が8.6N、通気度が1.5cc/cm/secと、通気性が高く防風性に劣るものであった。
【0031】
[比較例2]
実施例1において、生機密度を経密度196本/2.54cm、緯密度180本/2.54cmの生機を得た。
ついで撥水樹脂加工を含む常法の染色仕上加工を行い、経密度211本/2.54cm、緯密度197本/2.54cmの平織物を得た(CF=2344)。
得られた平織物は、目付けが63g/mで、経の引裂強力が7.1N、緯の引裂強力が6.7N、通気度が0.4cc/cm/secと、軽量性、防風性はよいものの、引裂強力が低いものであった。
【0032】
[比較例3]
実施例1において、生機密度を経密度136本/2.54cm、緯密度133本/2.54cmの生機を得た。
ついで撥水樹脂加工を含む常法の染色仕上加工を行い、経密度143本/2.54cm、緯密度135本/2.54cmの平織物を得た(CF=1597)。
得られた平織物は、目付けが44g/mで、経の引裂強力が11.9N、緯の引裂強力が10.1N、通気度が3.1cc/cm/secと、軽量性、引裂強力はよいものの通気性が高く防風性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、引裂強力と防風性に優れた軽量織物および該軽量織物を用いてなる繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明において、マルチフィラメント(A)の単繊維の断面形状として採用することのできる、くびれ部を有する扁平断面形状を模式的に例示したものである。
【符号の説明】
【0035】
1 くびれ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その目付けが65g/m以下の織物であって、単繊維の横断面形状が2箇所以上のくびれ部を有する断面扁平度2〜6の扁平断面であるポリエステルマルチフィラメント(A)が、前記織物の経糸および/または緯糸に配されており、かつ下記式により算出されるカバーファクター(CF)が1650〜2200の範囲内であることを特徴とする軽量織物。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【請求項2】
前記ポリエステルマルチフィラメント(A)の総繊度が24〜40dtexの範囲内である、請求項1に記載の軽量織物。
【請求項3】
前記ポリエステルマルチフィラメント(A)の単繊維繊度が1〜5dtexの範囲内である、請求項1または請求項2に記載の軽量織物。
【請求項4】
前記ポリエステルマルチフィラメント(A)の引張り強度が4.0cN/dtex以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の軽量織物。
【請求項5】
前記ポリエステルマルチフィラメント(A)の固有粘度が0.70〜1.00の範囲内である、請求項1〜4のいずれかに記載の軽量織物。
【請求項6】
前記ポリエステルマルチフィラメント(A)が無撚である、請求項1〜5のいずれかに記載の軽量織物。
【請求項7】
織物組織が平織物組織である、請求項1〜6のいずれかに記載の軽量織物。
【請求項8】
織物の経方向の引裂強力と緯方向の引裂強力がともに7.7N以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の軽量織物。
【請求項9】
織物の通気性が1.3cc/cm/sec以下である、請求項1〜8のいずれかに記載の軽量織物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の織物を用いてなる、ダウンジャケット、ウインドブレーカー、カイト、セールクロス、テント、および寝袋からなる群より選択されるいずれかの繊維製品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−2039(P2008−2039A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174934(P2006−174934)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】