説明

軽金属合金部材用防錆絶縁性塗料組成物の製造方法及び塗装方法

【課題】電食現象などにより腐食が進み易い軽金属合金部材の腐食の進行を抑制できる、陽極酸化処理を代替し得る塗料組成物とその塗装方法を提供する。
【解決手段】メトキシシランで変性されたビスフェノールA型のエポキシ樹脂の樹脂成分100重量部(シリカ成分及び硬化剤を含む)に対し、分散処理された積算体積メディアン径D50%が50nm以下であるアルミナ超微粒子を5〜40重量部配合してある防錆絶縁性塗料を用い、軽金属合金部材の表面に直接又はクロムフリーの化成処理を施した表面に塗装して焼付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆絶縁性塗料組成物の製造方法と、該塗料組成物の塗装方法、及び該塗料組
成物からなる塗膜が形成された軽金属合金部材に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話や車など各種製品の軽量化を目的とする軽金属合金部材の利用が拡大する傾向に
ある現在、アルミニウム合金部材やマグネシウム合金部材の使用時における腐食を防ぐこ
とは重要である。
【0003】
イオン化傾向の大きいアルミニウムやマグネシウムを主成分とする軽金属合金部材を腐食
性雰囲気中で使用する場合、錆の発生を抑制する表面処理が必要である。また、軽金属合
金部材はそれよりも電位の高い鋼製部材などの他の金属部材と組み付けられた締結状態に
おいて使われることが多い。このような部材として電線用端子金具、熱交換器パイプ、こ
ろがり軸受、車体フレーム、ディスクブレーキ、コネクタ、フランジ等種々の部材がある

【0004】
このような部材を使用する場合に、両部材が電気的に導通した状態にあると、軽金属合金
部材が腐食する電食現象が起きる。この電食現象を防ぐ表面処理が必要である。そのため
には、両部材間を絶縁しておくのが好ましい。軽金属合金部材の表面処理に陽極酸化処理
があり、陽極酸化処理を施した後、六価クロムを含む薬剤を用いた封孔処理が通常行われ
ている。陽極酸化処理によりアルミニウム合金部材の表面に形成されるアルマイト皮膜は
、電食現象を防ぐための絶縁性のある防食被膜としても有用である。
【0005】
最近の表面処理業界の動向として、有毒な六価クロムを含む薬剤の使用を避け、三価クロ
ムを含む薬剤を使う封孔処理方法や、クロム成分を全く用いない封孔処理方法も開発され
ている。
【0006】
アルマイト皮膜を形成する陽極酸化処理(以下「アルマイト処理」という)は、被処理部
材に直流電源と接続した導線を繋ぎ、処理浴中に被処理部材を浸漬し、通電処理して行わ
れる。被処理部材が小物である場合、夫々の部材に導線を繋ぐ必要があるため、アルマイ
ト処理には手間がかかり、コスト高になるという問題がある。処理浴中に浸漬し難い大型
部材の場合にも、アルマイト処理は難しい。
【0007】
また、軽合金部材表面に直接塗装する方法も開発されている。例えば、耐熱性に優れ、低
熱膨張性、絶縁性及び高密着性であって、塗料、コーティング剤、接着剤などに使えるシ
ラン変性エポキシ樹脂の開発が行われ、市販されている。特許文献1には、ビスフェノー
ル型エポキシ樹脂及び加水分解性アルコキシシランを脱アルコール反応させたアルコキシ
基含有シラン変性エポキシ樹脂の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、ビ
スフェノール型エポキシ樹脂をメトキシシランで変性したメトキシ基を含有する高耐熱性
で、ガラス転移点がなく、ボイド(気泡)を生じないエポキシ樹脂組成物が開示されてい
る。
【0008】
特許文献3には、マグネシウム合金部材のボルト締結構造が開示されている。この特許文
献3では、マグネシウム合金部材の締結部表面にカチオン電着塗装と粉体塗装を施してあ
り、ボルトには亜鉛ニッケル合金めっきを施した表面に防食塗料のコスマー(関西ペイン
ト(株)の商品名)が塗布され、ボルトの頭とマグネシウム合金部材との間にアルマイト処
理したアルミニウム合金製ワッシャーが挟んである。特許文献4には、フッ素系の高分子
物質からなる塗膜を用いる異種金属部材間の電食防止方法が開示されている。
【0009】
特許文献5には、ガラスを母体とするカラーフイルター等の光デバイス用保護膜として用
いられる、メトキシシランで変性されたビスフェノール型エポキシ樹脂にアルミナやシリ
カの超微粉末(平均粒子径(d50)100nm以下)を配合した塗料組成物と,この塗
料組成物を塗布した透明保護膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3077695号公報
【特許文献2】特許第3468195号公報
【特許文献3】特開2002-188616号公報
【特許文献4】特開2005−350733号公報
【特許文献5】特開2006-36900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、軽金属合金部材に塗装したとき、良好な防錆性能を付与できる絶縁性塗料組成
物を提供することを第1の目的とする。また、六価クロムや三価クロム成分を含まない絶
縁性塗料組成物とこの絶縁塗料組成物を用いた六価クロムや三価クロム成分を使わない防
錆塗装方法の提供を第2の目的とする。また、陽極酸化処理の適用がコスト高になり、か
つ、陽極酸化処理が技術的に難しい形状や寸法の軽金属合金部材に対し、陽極酸化処理と
同等以上の防錆絶縁性皮膜を形成できる表面処理方法の提供を第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、先に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とメトキシシラン部分縮合物を縮
重合反応させたメトキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂を主成分とし、平均粒径が70n
m以下であるアルミナ超微粒子を含む絶縁性樹脂組成物からなる塗料組成物の塗膜を表面
に形成したアルミニウム合金製ワッシャーを、マグネシウム合金製部材との接触状態でボ
ルトを使って締結することにより、電食現象を抑制するというマグネシウム合金製部材の
締結方法を開発し、特許出願した(特願2009-72336号)。
【0013】
本発明者らは、本発明者らが開発した上記塗料組成物の防錆性と絶縁性をさらに向上させ
るとともに、前述の諸課題を解決すべく、鋭意研究した結果、上記の各課題を解決できる
塗料組成物を完成するに至った。また、塗装に先立って軽金属合金表面に化成処理を行う
ことにより防錆性能をさらに向上させられるという知見を得、該塗料組成物の塗装方法の
発明に到達した。
【0014】
該塗料組成物は、メトキシシランで変性されたビスフェノールA型のエポキシ樹脂の樹脂
成分100重量部(シリカ成分及び硬化剤を含む)に対し、気相法で合成され、かつ分散
処理された球状アルミナ超微粒子を5〜40重量部配合したものである。球状アルミナ超
微粒子はその粉末を予め有機溶媒と混合後に分散処理し、得られた分散液を該エポキシ樹
脂の溶液と混合する。この塗料組成物を、表面処理をしていない軽金属合金表面に直接塗
装すれば、絶縁性があって防錆性能のある電食防止塗膜を形成できる。また、塗装に先立
って軽金属合金表面に化成処理を行うことにより防錆性能をさらに向上させることができ
る。
【0015】
前記アルミナ超微粒子分散液及び前記エポキシ樹脂溶液の有機溶媒としては極性有機溶媒
を用いることが好ましい。
【0016】
アルミナ超微粒子は、体積積算メディアン径D50%が50nm以下であるのが好ましく
、より好ましいD50%は10〜50nmである。超微粒子の大きさは、細かいほど少量
の配合で効果が得られる。
【0017】
なお、「超微粒子」とは、通常「金属、セラミックス、高分子などの微小粒子で、径がお
よそ1〜100nmのものをさす。」(岩波理化学辞典第5版)と定義される。本明細書
では、「超微粒子」をこの定義と同じ意味で用いる。
【0018】
該エポキシ樹脂は、樹脂成分100重量部中に15〜40重量部のシリカ成分を含む有機
・無機ハイブリッド樹脂である、メトキシシランで変性されたビスフェノールA型のエポ
キシ樹脂を用いる。前記エポキシ樹脂の硬化剤は、メンセンジアミン(MDA)を使用す
ることが好ましい。本発明の塗料組成物の調製に使用する有機溶媒は、使用する溶媒中の
34重量%以上をプロピレングリコールモノメチルエーテル(以下PGMEと略す)とす
るのが好ましい。この場合、塗料組成物中のPGME溶媒の含有量は55重量%以下、2
5重量%以上とするのが好ましい。
【0019】
本発明の該塗料組成物の塗装方法は、軽金属合金部材の表面に、クロムフリーの化成処理
を施し、化成皮膜表面にスプレー塗装法、引き上げ法又はディップスピン法によって該塗
料組成物を塗布し、焼付けて硬化させることを特徴とする。
【0020】
上記の各方法で軽金属合金部材表面に形成される塗膜は、厚さ2〜25μmが好ましく、
塗膜の絶縁抵抗は1000MΩ以上である。
【0021】
本発明の塗料組成物の塗膜は、耐スクラッチ性に優れるなど、機械的な外力によって損傷
を受け難いと同時に、電気絶縁性があり、塩水に接触するような腐食性雰囲気中において
陽極酸化処理された軽合金部材を凌駕する防食性能を軽金属合金部材に付与できる塗膜で
ある。
【0022】
また、本発明の塗料組成物の塗装方法で表面処理した軽金属合金部材は、陽極酸化後に封
孔処理する方法と比べて劣らない防錆性能を示す。塗装に必要なコストについても、特定
の形状や寸法の軽金属合金部材において必要となる陽極酸化処理などのコストと競合でき
、コストの観点でも陽極酸化処理に代替できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の塗料組成物を塗装することによりクロム成分を用いない表面処理を実施出来る。
さらに、軽金属合金部材の形状や寸法によっては陽極酸化処理する場合よりもコストダウ
ンが可能になる。
【0024】
本願発明の塗料組成物の塗装方法により、軽金属合金部材の表面に、予めクロム成分を用
いない化成処理を施しておいてから本発明の塗料組成物を塗装すれば、アルマイト処理と
比べて優るとも劣らない防錆性能と絶縁性をこれら軽金属合金部材に付与出来る。さらに
、軽金属合金部材と異種金属部材との優れた電食防止塗膜として機能する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の塗料組成物の主要成分には、メトキシシランで変性されたビスフェノールA型の
エポキシ樹脂が使われる。メトキシシランとビスフェノールA型のエポキシ樹脂は、いず
れも比較的安価で入手が容易である。エポキシ樹脂の変性に用いることができるメトキシ
シランには、テトラメトキシシランとメチルトリメトキシシランがある。この変性は、モ
ノマーを使って行うこともできるが、好ましくはモノマーを予め縮重合させた、メトキシ
シランオリゴマーを使う。
【0026】
このメトキシシラン変性エポキシ樹脂はシリカ成分と硬化剤を含み、メトキシシラン変性
エポキシ樹脂中のシリカ成分の含有量は樹脂100重量部に対して好ましくは20〜38
重量部である。樹脂中のシリカ成分の量は、多すぎると安定性が損なわれ、少ないと変性
により樹脂に付与される耐熱性向上、その他の好ましい特性が不十分となる。メトキシシ
ラン変性エポキシ樹脂は、荒川化学工業(株)からコンポセランの商品名で有機溶媒を含む
液状のものが市販されており、このような市販の樹脂を使うことができる。
【0027】
本発明の塗料組成物は、エポキシ樹脂をベースとする塗料組成物であるので、その塗膜に
は絶縁性、耐薬品性、密着性などの好ましいエポキシ樹脂特有の性質がある。さらに、シ
ラン変性されたエポキシ樹脂を使用していることにより耐熱性と硬度が付与される。さら
に、分散処理されたアルミナ超微粒子を塗料組成物中に所定量含むことにより、形成され
る塗膜には良好な防錆性能、密着性、絶縁性及び耐傷付き性がある。
【0028】
エポキシ樹脂は極性の樹脂であり、アルミナも極性の材料であるので、エポキシ樹脂の溶
液に使う溶媒や分散液の有機溶媒には溶解性や分散性において相性の良い極性有機溶媒を
使うのが好ましい。本発明ではメトキシシラン変性エポキシ樹脂の溶媒として、35重量
%以上プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下PGMEと略す)を含む溶媒を使
うのが好ましい。PGMEはOH基を持つアルコールの一種であると同時に、負の電荷を
持つ酸素原子が分子中に非対象に存在しているので、双極子を形成する極性溶媒でもある
。また、PGMEは、沸点が121℃と比較的高いので溶媒の蒸発を抑制でき、MSDS
の指定物質でないので安全性に問題がなく、エポキシ樹脂と反応しないメトキシシラン変
性エポキシ樹脂に使える極性有機溶媒である。好ましい溶媒として、メチルエチルケトン
(MEK)を使用してもよい。
【0029】
アルミナ超微粒子の含有割合が前記エポキシ樹脂100重量部に対して、40重量部以下
5重量部以上に調製された流動性の良い塗料組成物であることにより塗布される塗膜の厚
さが均等化され、分散処理されたアルミナ超微粒子の含有によって塗膜の耐傷付き性と防
錆性能が向上し、良好な絶縁性が確保される。アルミナ超微粒子の割合が40重量部を超
えると流動性が悪くなり均一な塗装が困難になり、5重量部未満では、十分な耐傷付き性
、防錆性能、絶縁性が得られない。アルミナ超微粒子の配合割合は、樹脂100重量部に
対しより好ましくは8〜38重量部、さらに好ましくは、11〜36重量部である。アル
ミナ超微粒子の値段は安くないので、多く配合すると塗料組成物がコスト高になり、少な
いとアルミナ超微粒子を配合することにより得られる効果が小さい。
【0030】
本発明で用いるアルミナ超微粒子の粒子形状は球状である。この球状という意味は、長径
と短径の比が1〜1.25の範囲にある真球状又は楕球状を言う。アルミナ超微粒子粒子
の粒形が球状であると、塗膜に良好な耐傷付き性を付与でき、塗料組成物液の流動性も良
好である。
【0031】
セラミックス等の粒子の大きさは、通常、体積平均粒径又は重量平均粒径が使用される。
また、D50%径(メディアン径)がごく一般的に用いられている。本発明で用いるアル
ミナ超微粒子の大きさは、体積積算メディアン径D50%で50nm以下、好ましくは1
0〜50nmである。
【0032】
なお、市販の超微粒子は、平均粒径として、透過型電子顕微鏡(TEM)や走型電子顕微
鏡(SEM)によって撮影した超微粒子の写真から簡易的に求めた体積平均粒径を表示し
たものや、顕微鏡写真に写った各粒子の粒径を測定し、各球状粒子の体積を計算して求め
、積算計算により体積平均粒径を正確に表示したものなどがあるが、体積積算メディアン
径D50%と実質的な差がないので、本発明の体積積算メディアン径D50%が50nm
以下のアルミナ超微粒子としては、市販品に表示された平均粒径を参酌して適宜選択して
使用できる。なお、アルミナ超微粒子の一次粒子の粒度分布は、例えば、日機装(株)扱い
のマイクロトラック粒度分布測定器(LED光源を使う粒度分布測定器)を用いて測定す
ることができる。
【0033】
アルミナ超微粒子を製造する方法には、物理的方法と化学的方法(液相法、気相法)があ
る。気相法による微粒子の合成には,熱源により原料を高温蒸気にした後、冷却固化する
PVD法と気相中で原料ガスを化学反応させて微粒子を合成するCVD法がある。微粒子の合成
に用いられているPVD法には、熱源に熱プラズマを使用するプラズマトーチ法又はヒータ
を用いるガス中蒸発法があり、本発明に用いる球状アルミナ超微粒子は好ましくはCVD法
により製造された球状アルミナ超微粒子である。
【0034】
気相法で合成されるアルミナ超微粒子は通常凝集した二次粒子になっている。アルミナ超
微粒子を塗料組成物液の流動性を損ねない一次粒子として機能させるには、一次粒子が凝
集した二次粒子であってはならず、二次粒子の粉末に予め有機溶媒を加えて分散処理した
分散液(スラリー)の状態で塗料組成物中に配合する。有機溶媒は、エポキシ樹脂の溶媒
と同じく、極性有機溶媒を使うのが好ましい。また、極性溶媒中に酸化物粉末を分散させ
るのに有効な分散剤を添加するのが好ましい。例えば、アルミナ超微粒子と分散剤と溶媒
を所定の割合で混合し、ジルコニアボールと一緒に容器に入れてボールミルの架台に載せ
て、60RPMで約24時間程回転させてから、中味を篩網上に流し出すことにより分散
液が得られる。
【0035】
分散状態を安定化させるために、この分散液に微量のチタンテトラノルマルブトキシド等
を添加してもよい。分散処理されたアルミナ超微粒子は、塗料組成物中に均等に分散した
状態で含まれ、塗膜中にも均等に分散された状態で分布しており、硬化した塗膜は無色透
明である。
【0036】
エポキシ樹脂には必ず硬化剤が配合され、通常は、塗料組成物を塗布して乾燥後、加熱し
て硬化させる。エポキシ樹脂に使われる硬化剤の種類は非常に多くあり、硬化剤の種類に
よって得られる塗膜の特性に差異がある。本発明の塗料組成物では、硬化剤は特に限定さ
れないが、メンセンジアミンが好ましい。メンセンジアミンは粒状の固体として入手され
るので、例えば、固体の状態で塗料組成物中に混ぜ、メンセンジアミンが樹脂溶液中に溶
けるのを確認してから次にアルミナ分散液を塗料組成物中に混合するようにして使う。
【0037】
本発明で使用するメトキシシラン変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂はメチルエチルケ
トン(MEK)を溶媒として含む樹脂溶液の状態で市販品を入手できるので、分散処理され
たアルミナ超微粒子の分散液と樹脂溶液との混合は、容器中に入れた樹脂溶液に所定量の
分散液を投入して回転撹拌翼付きの撹拌機で撹拌しても良いし、ホモジナイザーのシャフ
トを容器中に入れた樹脂溶液と分散液の混合液中に差し込んで分散処理しても良い。また
、少量の塗料組成物を混合する場合は、容器中に入れた樹脂溶液と所定量の分散液をポリ
プロピレン容器中に入れ、蓋で密閉した状態の容器を手で揺動して混合しても良い。
【0038】
本発明の塗料組成物は、スプレー塗装法、浸漬引き上げ法、ディップスピン法等によって
軽金属合金部材に塗布し、焼付けて硬化させる。軽金属合金部材の表面に形成する塗膜の
厚さは、少なすぎると十分な防錆性能が得られず、厚くし過ぎても得られる効果の割に塗
料組成物が多く必要になりコスト高になるため、2〜25μmが好ましく、より好ましく
は5〜20μmである。
【0039】
本発明の塗料組成物は、軽金属合金部材の表面を予め化成処理してから塗装することによ
り、塗膜の密着性と防錆性能を顕著に向上させられる。軽金属合金部材表面の化成処理に
はクロム成分を含まない化成処理剤を用いる。クロム成分を使わない化成処理剤には市販
品があるので、市販のクロムフリー化成処理剤を使うことが出来る。
【0040】
金属部材の化成処理は、通常容器に入れた化成処理剤の水性液中に金属部材を所定時間(
数十秒)浸した後引き上げて水洗する方法で行なわれる。このとき、反応速度を速くする
ため化成処理剤の水溶液の温度を室温より高く加温することもある。また、化成処理剤に
よっては化成処理剤の水溶液をスプレーなどで金属部材表面に塗布して化成処理する方法
もある。軽金属合金部材に使う化成処理剤には、クロム成分を含む化成処理剤も多くある
が、毒性や発癌性のあるクロム成分の使用を避け、クロムフリーの化成処理剤を使うのが
好ましい。軽金属合金に使える有用なクロムフリーの化成処理剤には、リン酸塩系の化成
処理剤や、ジルコニウム化合物を含む化成処理剤などがある。
【実施例】
【0041】
<塗料組成物(以下「塗料」という)の樹脂と硬化剤>
メトキシシランで変性されたビスフェノールA型エポキシ樹脂には、荒川化学工業(株)
製の商品名コンポセランE103(MEK溶媒を含み、硬化残分50重量%、メチルトリメトキ
シシランで変性されたエポキシ樹脂、樹脂中のシリカ成分35重量%)と商品名コンポセラ
ンE102(MEK/メタノールの混合溶媒を含み、硬化残分50重量%、テトラメトキシシラ
ンで変性されたエポキシ樹脂、樹脂中のシリカ成分36重量%)を入手して使用した。
【0042】
他に、比較例用のエポキシ樹脂として、商品名アデカレジンEPU-78-11(ウレタン変性エ
ポキシ樹脂、(株)アデカ製品、硬化残分97重量%)を使用した。
【0043】
エポキシ樹脂用硬化剤として、商品名MDA-220(メンセンジアミン、ポリメチレンポリフ
ェニルアミンとも言う。三井化学ポリウレタン(株)製品。以下MDAと略す。)、商品名
リカシッドMH-100(酸無水物系、新日本理科(株)製品)、商品名アデカハードナーEH-3
842(アデカ(株)製品)、商品名カヤボンドC-300-S(日本化薬(株)製)、商品名フェ
ノール樹脂PR-HF3(住友ベークライト(株)製)及びエポキシ樹脂用硬化促進剤の商品名
U-CAT SA 102(サンアプロ(株)製)を準備した。
【0044】
<アルミナ超微粒子>
アルミナ超微粒子として球状アルミナ微粒子粉末(商品名;ナノテックNanoTec、シーア
イ化成(株)製、一次粒子の平均粒径は31nm)を準備した。また、比較例として、α-ア
ルミナ微粉末のAKP-3000(住友化学(株)製品、平均一次粒子径約0.7μm、一次粒子は
非球状)を準備した。
【0045】
<分散剤>
分散剤として商品名BYK110(ビックケミー・ジャパン(株)製)を準備した。この分散剤
は、アルコール系溶媒など極性溶媒中に酸化物粉末を分散させるのに有効な分散剤である

【0046】
<溶媒>
PGMEを準備した。PGMEはOH基を持つ分子からなるアルコール溶媒の1種である
と同時に、負の電荷をもつ酸素原子が分子中に非対象に遍在しているので、双極子の分子
からなる極性溶媒である。
【0047】
<市販のアルミナ超微粒子分散液>
また、市販のアルミナ超微粒子分散液、商品名NANOBYK-3610(ビックケミー・ジャパン(
株)製、アルミナ超微粒子濃度37重量%、メトキシプロピルアセテート溶媒、アルミナ超
微粒子の平均一次粒子径22nm、一次粒子は球状である)を準備した。
【0048】
また、比較例用にシリカ超微粒子分散液NANOBYK-3650(ビックケミー・ジャパン(株)製
、シリカ超微粒子濃度31重量%、メトキシプロピルアセテート溶媒、シリカ超微粒子の平
均一次粒子径22nm、一次粒子は球状である)を入手し、準備した。
【0049】
<アルミナ超微粒子分散液の調製>
一次粒子の平均粒径が31nmの商品名ナノテック(NanoTec)アルミナ超微粒子粉末と
分散剤のBYK110と溶媒のPGMEを重量比14.4/0.2/43.2(固形分濃度約25
重量%)の割合で混合し、アルミナ超微粒子粉末にPGME溶媒と分散剤を配合した混合
液360gを調製した。即ち、3mmφのジルコニアボールと5mmφのジルコニアボー
ル(ニッカトー(株)製YTZボール使用)を重量比1:1の割合で混合した合計4kgの
ジルコニアボールと上記の混合液360gを2リットルの蓋付きポリプロピレン瓶に入れ
、蓋を締めて密封した。
【0050】
ポリプロピレン瓶を縦方向に廻すようにボールミルの架台に載せた容器(鉄製の回転枠の
中に一斗缶を固定)中に2リットルのポリプロピレン瓶を入れて固定し、約60RPMで
約24時間回転させて分散処理をし、ポリプロピレン瓶の中味を篩孔が2mmの篩の上に
流し出し、アルミナ超微粒子分散液をステンレス鋼製のボウル中に受けて採取した。
【0051】
このアルミナ超微粒子分散液中に微量のチタンテトラノルマルブトキシド(マツモトファ
インケミカル(株)製TA-25)を添加(分散液350gに対し約0.2g)して分散状態を安定
化させた。
【0052】
他に、比較例として、α-アルミナ微粉末のAKP-3000についても同様に分散処理して固形
分濃度約25重量%のアルミナ微粒子粉末のPGME分散液を準備した。
【0053】
また、市販のアルミナ超微粒子分散液NANOBYK-3610(実施例用)と、シリカ超微粒子分散
液NANOBYK-3650(比較例用)を以下に説明する塗料の調製に使用した。
【0054】
本発明の実施例と比較例で使用しているエポキシ樹脂は有機溶媒を含む溶液の状態で入手
できるので、予め分散処理されたアルミナ超微粒子の分散液(スラリーとも言う)と樹脂
溶液との混合は、容量250mlの蓋付きポリプロピレン容器に樹脂溶液41.2gと所
定量の分散液を入れ、手で約5分間揺動して攪拌し塗料を製造した。
【0055】
塗料は上記の各成分を配合して調製し、表1に示す実施例の塗料A〜塗料I及び比較例の
塗料J〜Nを準備した。
【0056】
塗料Jは、アルミナ超微粒子分散液を用いず、シリカ超微粒子粉末の分散液を使用した。
塗料Kは、アルミナ超微粒子分散液を配合せず、他については塗料Aと同様に配合した。
塗料Lは、エポキシ樹脂としてウレタン変性エポキシ樹脂を使用した。
塗料Mは、アルミナ超微粒子分散液を用いず、代わりに平均一次粒子径が0.7μmであ
るα-アルミナ微粒子粉末の分散液を使用した。
塗料Nは、アルミナ超微粒子分散液を配合しなかった。
【0057】
塗装基材として、構造用Al合金板(6061,5052P)、ダイカスト用Al合金板(ADC12)、構
造用Mg合金板(AZ31)、ダイカスト用Mg合金板(AZ91D)を準備した。
【0058】
塗料A〜Hを用いてスプレー塗装した実施例1〜11及び塗料J〜Mを用いてスプレー塗
装した比較例1〜4について塗装条件と評価結果を表2に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【実施例1】
【0061】
塗料Aを、3枚の6061アルミニウム合金板(厚さ1mm、幅35.5mm、長さ75mm)にスプ
レーで塗装した。スプレー塗装機は、アネスト岩田(株)製のWIDER SPRAY GUN W-61小型モ
デルを使用した。コンプレッサーの空気圧をレギュレーターで0.16メガパスカルに調整し
てスプレー塗装機に圧縮空気を供給し、塗装した。塗装したアルミニウム合金板を乾燥器
に入れて80℃で20分保持して乾燥後、硬化温度の180℃に加熱して30分保持し、
塗膜を焼付けた。アルミニウム合金板の裏面についても同じ塗料を同様にして塗装し、乾
燥後加熱して硬化させた(以下同じ)。
【0062】
得られた塗膜の厚さは平均約15μmであった。この塗膜の膜厚の測定は米国フィルメト
リックス社製の膜厚測定システムF20を用い、5か所の測定値の平均を求めた(以下同
様)。この塗膜の鉛筆硬度を調べたところ4Hであった。また、三和電気計測器(株)製
絶縁抵抗計のDM5218Sを用いて基材と塗膜表面の間の絶縁抵抗を調べたところ、1000
MΩ以上あった。
【0063】
次いで、塗装したアルミニウム合金板3枚をJIS-Z-2371に準拠した塩水噴霧試験機に入れ
、防錆性能を評価(評価は24時間毎に白錆発生の有無を調べ、3枚の内の2枚目に白錆
を認めた時の経過時間を記録、以下同じ)した結果、3024時間を経過しても白錆の発
生がなく、3024時間超の防錆性能を有することが分かった。
【実施例2】
【0064】
塗料Bを実施例1と同じ条件で塗装し、乾燥後焼付けた。この塗膜の絶縁抵抗は1000
MΩ以上であり、3024時間超の防錆性能を有することが分かった。
【実施例3】
【0065】
塗料Cを実施例1と同じ条件で塗装し、乾燥後焼付けた。この塗膜の絶縁抵抗は1000
MΩ以上であり、3024時間超の防錆性能を有することが分かった。
【実施例4】
【0066】
塗料Dを実施例1と同じ条件で塗装し、乾燥後焼付けた。この塗膜の絶縁抵抗は1000
MΩ以上であり、3024時間超の防錆性能を有することが分かった。
【実施例5】
【0067】
使用した硬化剤(リカシッドMH-700)の硬化温度に合わせ、硬化温度を150℃に変更し
た以外は実施例1と同じ条件で塗料Eを塗装し、乾燥後焼付けた。この塗膜の絶縁抵抗は
1000MΩ以上であり、防錆性能を評価した結果、1176時間後アルミニウム合金板
(2枚目)に白錆の発生を認めた。
【実施例6】
【0068】
使用した硬化剤(リカシッドMH-700)の硬化温度に合わせ、硬化温度を150℃に変更し
た以外は実施例1と同じ条件で塗料Fを塗装し、乾燥後焼付けた。この塗膜の絶縁抵抗は
1000MΩ以上であり、防錆性能を評価した結果、312時間後アルミニウム合金板(
2枚目)に白錆の発生を認めた。
【実施例7】
【0069】
使用した硬化剤(カヤボンドC-300-S)の硬化温度に合わせ、硬化温度を200℃、硬化
時間を60分に変更した以外は実施例1と同じ条件で塗料Gを塗装し、乾燥後焼付けた。
この塗膜の絶縁抵抗は、1000MΩ以上であり、防錆性能を評価した結果、312時間
後アルミニウム合金板(2枚目)に白錆の発生を認めた。
【実施例8】
【0070】
使用した硬化剤(フェノール樹脂PR-HF-3)の硬化温度に合わせ、硬化温度を180℃、
硬化時間を60分に変更した以外は実施例1と同じ条件で塗料Hを塗装し、乾燥後焼付け
た。この塗膜の絶縁抵抗は、1000MΩ以上であり、防錆性能を評価した結果、652
時間後アルミニウム合金板(2枚目)に白錆の発生を認めた。
【実施例9】
【0071】
塗布基材を5052Pのアルミニウム合金板に変更し、硬化処理時間を20分に変更した
以外は実施例1と同じ条件で塗料Aを塗装し、乾燥後焼付けた。この塗膜の絶縁抵抗は1
000MΩ以上であった。同様にして防錆性能を評価した結果、2208時間後アルミニ
ウム合金板(2枚目)に白錆の発生を認めた。
【実施例10】
【0072】
塗布基材を予めクロム成分を含まないケミボンダー5075(日本シービーケミカル(株)製、
リン酸塩系化成処理剤)の化成処理液で化成処理したことと、硬化保持時間を20分に変
更したこと以外は実施例3と同じ条件で塗料Cを塗装し、乾燥後、焼付けた。この塗膜の
絶縁抵抗は1000MΩ以上あった。同様にして防錆性能を評価した結果、4000時間
経過しても白錆の発生を認めなかった。
【実施例11】
【0073】
化成処理剤をアルサーフ501M(日本ペイント(株)製、リン酸ジルコニウム系化成処理剤
)に変更した以外は実施例3と同じ条件で塗料Cを塗装し、乾燥後焼付けた。この塗膜の
絶縁抵抗は1000MΩ以上あった。同様にして防錆性能を評価した結果、4000時間
を経過しても白錆の発生を認めなかった。
[比較例1]
【0074】
比較例の塗料Jを使用した以外は実施例1と同じ条件で塗装し、乾燥後、焼付けた。この
塗膜の絶縁抵抗は、1000MΩ以上あった。同様にして防錆性能を評価した結果、48
0時間後アルミニウム合金板(2枚目)に白錆の発生を認めた。
[比較例2]
【0075】
比較例の塗料Kを使用した以外は実施例1と同じ条件で塗装し、乾燥後焼付けた。この塗
膜の絶縁抵抗は、1000MΩ以上あった。同様にして防錆性能を評価した結果、264
時間後アルミニウム合金板(2枚目)に白錆の発生を認めた。
[比較例3]
【0076】
比較例の塗料Lを使用し、硬化温度を使用硬化剤のアデカハードナー3842に合わせて16
0℃に下げ、硬化時間を20分に変更した以外は実施例1と同じ条件で塗装し、乾燥後焼
付けた。この塗膜の絶縁抵抗を調べたところ、絶縁抵抗計の針がプローブを接触させる位
置によって振れ、絶縁抵抗は100MΩ程度であった。同様にして防錆性能を評価した結
果、288時間後アルミニウム合金板(2枚目)に白錆の発生を認めた。
[比較例4]
【0077】
比較例の塗料Mを使用した以外は実施例1と同じ条件で塗装し、乾燥後焼付けた。この塗
膜の絶縁抵抗は1000MΩ以上あった。同様にして防錆性能を評価した結果、576時
間後アルミニウム合金板(2枚目)に白錆の発生を認めた。
【0078】
【表3】

【0079】
塗料Iを用いてディップスピン塗装した実施例12〜21及び塗料Nを用いてディップス
ピン塗装した比較例5〜7の塗装条件と評価結果を表3に示す。
【実施例12】
【0080】
塗料A〜Hよりも濃度が高く粘度が大きい塗料Iを用いた。寸法が35.5mm×70m
mで厚さ1mmである6061アルミニウム合金板1枚を、ケミボンダー5705を用いて化
成処理した。塗料Iを350g入れたポリプロピレン容器(容量500ml)中にこのアルミニ
ウム合金板を浸漬して取り出し、遠心分離機に取り付けたステンレス鋼製の籠に入れ、回
転半径約15cmで600RPMまで回転数を上げ、約1秒保持し塗料Iを塗装した。
【0081】
塗装したアルミニウム合金板を実施例1と同じ条件で乾燥後、焼付けた。塗膜の絶縁抵抗
は、1000MΩ以上あった。防錆性能を評価した結果、2834時間後に白錆の発生を
認めた。
【実施例13】
【0082】
化成処理をしていない以外は実施例12と同じ条件で塗料Iを塗装し、乾燥後、焼付けた
。塗膜の絶縁抵抗は、1000MΩ以上あった。防錆性能を評価した結果、2112時間
経過後に白錆の発生を認めた。
【実施例14】
【0083】
塗布基材を5052Pのアルミニウム合金板に変更した以外は実施例12と同じ条件で塗
料Iを塗装し、乾燥後焼付けた。塗膜の絶縁性抵抗は1000MΩ以上あった。防錆性能
を評価した結果、960時間経過後に白錆の発生を認めた。
【実施例15】
【0084】
化成処理をしていない以外は実施例14と同じ条件で塗料Iを塗装し、乾燥後焼付けた。
塗膜の絶縁抵抗は、1000MΩ以上あった。防錆性能を評価した結果、384時間経過
後に白錆の発生を認めた。
【実施例16】
【0085】
塗布基材をADC12のアルミニウム合金板に変更した以外は塗料Iを実施例12と同じ
条件で塗装し、乾燥後焼付けた。塗膜の絶縁抵抗は、1000MΩ以上あった。防錆性能
を評価した結果、528時間経過後に白錆の発生を認めた。
【実施例17】
【0086】
化成処理をしていない以外は実施例16と同じ条件で塗料Iを塗装し、乾燥後焼付けた。
塗膜の絶縁抵抗を調べたところ、1000MΩ以上であった。防錆性能を評価した結果、
168時間経過後に白錆の発生を認めた。
【実施例18】
【0087】
塗布基材をAZ91Dマグネシウム合金板に変更し、予めGRMC1000(ミリオン化学(株)
製、リン酸塩系化成処理剤)を用いて化成処理した以外は実施例12と同じ条件で塗料I
を塗装し、乾燥後焼付けた。塗膜の絶縁抵抗は、1000MΩ以上であった。防錆性能を
評価した結果、984時間経過後に白錆の発生を認めた。
【実施例19】
【0088】
化成処理をしていない以外は実施例18と同じ条件で塗料Iを塗装し、乾燥後焼付けた。
塗膜の絶縁抵抗は、1000MΩ以上あった。防錆性能を評価した結果、336時間経過
後に白錆の発生を認めた。
【実施例20】
【0089】
塗布基材をAZ31マグネシウム合金板に変更した以外は実施例18と同じ条件で塗料I
を塗装し、乾燥後焼付けた。塗膜の絶縁抵抗は、1000MΩ以上あった。防錆性能を評
価した結果、216時間経過後に白錆の発生を認めた。
【実施例21】
【0090】
化成処理をしていない以外は実施例20と同じ条件で塗料Iを塗装し、乾燥後焼付けた。
塗膜の絶縁抵抗は、1000MΩ以上あった。防錆性能を評価した結果、168時間経過
後に白錆の発生を認めた。
[比較例5]
【0091】
比較例の塗料Nを用いた以外は実施例18と同じ条件で塗装し、乾燥後焼付けた。塗膜の
絶縁抵抗は、1000MΩ以上あった。防錆性能を評価した結果、144時間経過後に白
錆の発生を認めた。
[比較例6]
【0092】
化成処理をしていない以外は比較例5と同じ条件で塗料Nを塗装し、乾燥後焼付けた。塗
膜の絶縁抵抗は、1000MΩ以上あった。防錆性能を評価した結果、72時間経過後に
白錆の発生を認めた。
[比較例7]
【0093】
実施例12と同寸法の6061アルミニウム合金板にアルマイト処理を施し、鉛筆硬度を
調べたところ9Hであった。同様にして絶縁抵抗は、1000MΩ以上あった。防錆性能
を同様にして評価した結果、1056時間経過後に白錆の発生を認めた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の方法で製造した塗料組成物を用いた塗膜は、防錆性能に優れ、軽金属合金部材が
鋼製部材などと接触した状態で使用される場合に生じる軽金属合金部材の電食現象が塗膜
の電気絶縁性によって抑制でき、また、塗膜が機械的な力を受けたときに損傷を受けにく
いので、従来の陽極酸化皮膜に代替できる。よって、この塗料組成物は、屋外の腐食環境
で構造材として使用されるAl合金板への塗装をはじめとして、締結部材のような電食防
止を必要とする軽金属合金部材への塗装に適する。特に、焼き付け硬化して使用されるた
め、自動車ボディやアルミ鉄道車両などに用いられる構造用Al合金(6061,6063)のよう
に、加工後の焼き付け塗装時に時効硬化させて強度を高める部材に適する。また、マグネ
シウム合金は軽量であるが、腐食し易い問題があり各種用途への普及が遅れていたが、本
発明の方法で製造した塗料組成物を用いた塗膜は、優れた防錆性、電食防止性能、耐スク
ラッチ性を発揮するので、携帯電話、デジタルカメラ、ノートパソコン等のモバイル製品
、医療機器、自動車、鉄道車両、航空機等へのMg合金の利用を促進させることが期待さ
れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メトキシシランで変性されたビスフェノールA型のエポキシ樹脂を含む塗料組成物の製造
方法において、
気相法で合成された一次粒子の体積積算メディアン径D50%が50nm以下である球状
のアルミナ超微粒子の粉末を、予め有機溶媒で希釈後に分散処理して分散液を調製し、
有機溶媒の溶液としたビスフェノールA型のエポキシ樹脂100重量部(シリカ成分及び
硬化剤を含む)に対して、該分散液を該一次粒子の割合が5〜40重量部となるように混
合し、
該球状のアルミナ超微粒子の一次粒子が分散した有機溶媒を含む組成物を調製することを
特徴とする軽金属合金部材用の防錆絶縁性塗料組成物の製造方法。
【請求項2】
前記アルミナ超微粒子分散液及び前記エポキシ樹脂溶液の有機溶媒として極性有機溶媒を
用いることを特徴とする請求項1に記載の塗料組成物の製造方法。
【請求項3】
前記アルミナ超微粒子の一次粒子の体積積算メディアン径D50%が10〜50nmであ
ることを特徴とする請求項1に記載の塗料組成物の製造方法。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂が、樹脂成分100重量部中に15〜40重量部のシリカ成分を含むハ
イブリッド樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の塗料組成物の製造方法。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂の硬化剤にメンセンジアミンを使用することを特徴とする請求項1〜4
のいずれかに記載の塗料組成物の製造方法。
【請求項6】
塗料組成物中の有機溶媒の34重量%以上がプロピレングリコールモノメチルエーテルで
あることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の塗料組成物の製造方法。
【請求項7】
軽金属合金部材の表面に、クロムフリーの化成処理を施して化成皮膜を形成し、該化成皮
膜の表面にスプレー塗装法、引き上げ法又はディップスピン法によって、請求項1〜6の
いずれかの製造方法により得られた塗料組成物を塗布し、乾燥後焼き付けて硬化した塗膜
を形成することを特徴とする塗装方法。
【請求項8】
クロムフリーの化成皮膜が形成された表面に、請求項1〜6のいずれかに記載の方法によ
り製造された塗料組成物を塗布し、乾燥後焼付て硬化させた厚さが2〜25μmの塗膜が
形成され、該塗膜の絶縁抵抗が1000MΩ以上であることを特徴とする軽金属合金部材


【公開番号】特開2011−195751(P2011−195751A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66158(P2010−66158)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000154794)株式会社放電精密加工研究所 (29)
【Fターム(参考)】