説明

輪郭抽出装置と輪郭抽出方法及び輪郭抽出プログラム

【構成】 カメラで撮像したシート材の画像から輪郭点を抽出し、シート材の外形を表す外側の輪郭と、その内部にある内側の輪郭とを求める。内外の輪郭の間のエリアをしわとし、求めたしわの形状の長径と短径との比を求め、この比が大きいしわを強いしわとし、小さいしわを弱いしわとする。裁断するパーツを、しわのランキングに応じてシート材に割り当てる。
【効果】 しわの形状を求めると共に、しわの部分を有効利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、皮革や布地等のシート材から、輪郭を抽出することに関する。
【背景技術】
【0002】
出願人はシート材の裁断装置を開発している。特許文献1:WO2004/010807では、シート材に対して裁断すべきパーツを最適に配置することを検討した。特許文献2:WO2006/051764では、皮革などの不規則な形状のシート材に対して、裁断目的のパーツをどのように配置するかを検討した。
【0003】
発明者はシート材のしわについて検討した。図18に皮革のしわの例を示し、102は強いしわでテープ104によりマーキングしてあり、106,108は弱いしわである。しわが生じるのは、元々3次元の形状であった皮革を裁断し、2次元のテーブル上に展開するからで、例えば風船やボールのような立体形状のものを裁断してテーブル上に配置すると、どこかが盛り上がるのと同じことである。しわのある箇所では皮革の性質が他の部分と異なることもあるが、それよりもしわによって皮革が盛り上がるため、正確な形状に裁断し難くなる方が問題である。発明者はしわの形状を求めると共に、しわの程度を評価することにより、しわの部分もパーツとして利用できるようにすることを検討して、この発明に到った。
【特許文献1】WO2004/010807
【特許文献2】WO2006/051764
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の課題は、しわの形状としわの程度を求めることにより、シート材のしわのある部分も利用できるようにすることにある。
この発明での追加の課題は、しわの形状を効率的に求めることができるようにすることにある。
この発明の追加の課題は、しわのある部分をより有効に利用できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、カメラで撮像したシート材の画像から、フィルタリングにより輪郭点を抽出し、抽出した輪郭点を連結してシート材の輪郭線として出力する装置において、
シート材の外形を表す外側の輪郭線と、前記外側の輪郭線の内部にある内側の輪郭線、とを求めるための輪郭抽出手段と、
前記外側の輪郭線と前記内側の輪郭線とから、シート材のしわの形状を求めるための手段と、
求めたしわの形状の長径と短径との比を表す量を求めるためのしわ形状評価手段と、
前記比を表す量が大きいしわを強いしわとし、比を表す量が小さいしわを弱いしわとするように、しわをランキングするためのランキング手段と、
シート材から裁断するパーツを、しわのランキングに応じてシート材に割り当てるための割り当て手段、とを設けたことを特徴とする。
【0006】
さらにこの発明は、カメラで撮像したシート材の画像から、フィルタリングにより輪郭点を抽出し、抽出した輪郭点を連結してシート材の輪郭線として出力する、輪郭抽出装置のためのプログラムにおいて、
前記輪郭抽出装置に読み込まれた際に、輪郭抽出装置を、
シート材の外形を表す外側の輪郭線と、前記外側の輪郭線の内部にある内側の輪郭線、とを求めるための輪郭抽出手段と、
前記外側の輪郭線と前記内側の輪郭線とから、シート材のしわの形状を求めるための手段と、
求めたしわの形状の長径と短径との比を表す量を求めるためのしわ形状評価手段と、
前記比を表す量が大きいしわを強いしわとし、比を表す量が小さいしわを弱いしわとするように、しわをランキングするためのランキング手段と、
シート材から裁断するパーツを、しわのランキングに応じてシート材に割り当てるための割り当て手段、として機能させることを特徴とする。
【0007】
またこの発明は、カメラで撮像したシート材の画像から、フィルタリングにより輪郭点を抽出し、抽出した輪郭点を連結してシート材の輪郭線として出力する方法において、
輪郭抽出手段により、シート材の外形を表す外側の輪郭線と、前記外側の輪郭線の内部にある内側の輪郭線、とを求め、
しわの形状を求めるための手段により、前記外側の輪郭線と前記内側の輪郭線とから、シート材のしわの形状を求め、
しわ形状評価手段により、求めたしわの形状の長径と短径との比を表す量を求め、
ランキング手段により、前記比を表す量が大きいしわを強いしわとし、比を表す量が小さいしわを弱いしわとするように、しわをランキングし、
割り当て手段により、シート材から裁断するパーツを、しわのランキングに応じてシート材に割り当てることを特徴とする。
なおこの明細書において、輪郭抽出装置に関する記載はそのまま輪郭抽出方法や輪郭抽出プログラムにも当てはまり、輪郭抽出方法に関する記載は輪郭抽出装置や輪郭抽出プログラムにも当てはまる。
【0008】
この発明では、シート材の外側の輪郭線と内側の輪郭線とから、しわの形状を求める。しわがシート材本来の輪郭線に接している場合、外側の輪郭線と内側の輪郭線とに囲まれたエリアがしわで、外側の輪郭線がシート材本来の輪郭線である。またしわがシート材の内部に孤立して存在する場合、内側の輪郭線は閉じており、その内側がしわである。
【0009】
しわの形状からしわの程度、即ちしわの強弱が求まる。細長いしわは一般に鋭く強いしわで、例えば図18のしわ102のようなしわである。幅広の円形に近いしわは、起伏の小さな緩やかな弱いしわで、図18のしわ106,108のようなしわである。しわの長径と短径との比、あるいはこれと同等のデータ、例えばしわの長径としわの周長との比や、しわの長径としわの短径の1/2乗との比、などからしわの程度が求まる。長径としわの周長との比は円形のしわでは円周率πの逆数で、細長いしわでは1/2に近づく。しわの長径としわの短径の1/2乗との比では、細長いしわを強いしわとすると共に、しわの形状が相似な場合、大きなしわをより強いしわとする。以上のようにしてしわをランキングすると、ランキングに応じた範囲でしわをパーツに用いることができる。従ってこの発明では、しわの形状を求めると共に、しわの部分もパーツに割り当てて有効利用できる。
【0010】
好ましくは、前記輪郭抽出手段では、シート材の内部から外側へ向けて輪郭線を抽出し、輪郭線の内外での色度の差が所定の条件以下の輪郭線を前記内側の輪郭線とすると共に、内側の輪郭線のさらに外側にある輪郭線を前記外側の輪郭線とする。
輪郭線の抽出は、例えばシート材の外から内へ向けて行い、例えば最初に抽出した閉じた輪郭線を外側の輪郭線とし、その内側に輪郭線が存在するかどうか探索することにより、内側の輪郭線を抽出しても良い。しかしこの場合、シート材の内外を問わず、例えばシート材を展開したテーブル全面に対して、輪郭線の抽出が必要になる。
【0011】
これに対して、シート材の内部から輪郭線を抽出すると、最初に抽出した輪郭線は内側の輪郭線で、その外側に外側の輪郭線があるか、最初から外側の輪郭線を抽出したか、のいずれかである。次にしわに対応する内側の輪郭線では、明度の変化は大きいが、色相などの色度の差は小さい。これに対しシート材の外形に対応する外側の輪郭線では、シート材の内部から外部へ移動するので、色度の差も大きい。そこで内外での色度の差が所定の条件以下の輪郭線を、前記内側の輪郭線の候補とする。そしてその外側を探索して外側の輪郭線を抽出すると、輪郭線を探索する範囲を制限すると共に、内側の輪郭線か外側の輪郭線かを外側の輪郭線を抽出する前に予測できるので、効率的に内外の輪郭線を抽出できる。
【0012】
より好ましくは、輪郭点の密度が高い領域ではサイズが小さく、密度が低い領域ではサイズが大きな複数の多角形を、前記輪郭点に基づいて発生させることにより、該複数の多角形の画像を発生するための空間分割手段をさらに設けると共に、
前記輪郭抽出手段では、前記多角形の画像を、シート材の内部の点から始めて、前記多角形の辺へ向けて探索し、所定長未満の長さの辺に接触すると、該辺を越えた探索を中止すると共に該辺を記憶し、所定長以上の長さの辺に接触すると、該所定長以上の長さの辺を越えて探索を続行する。
【0013】
単純に、フィルタリングで抽出した輪郭点を連結して輪郭線を発生させても良いが、輪郭線が曖昧な場合には、的確な輪郭線が抽出される保証がない。例えば図10のR1は皮革、R2はテーブルのバックグラウンドで、L1,L2は輪郭で、皮革R1の厚みのため、皮革の上面のエッジが輪郭L1を、底面側のエッジが輪郭L2を構成している。ここで輪郭L1と輪郭L2とを識別し、輪郭L1を選択することは人間の目には簡単であるが、コンピュータにより画像認識を用いて自動的に実行することは容易ではない。
【0014】
そこで好ましくは、物体の内部から開始して、輪郭点に基づいて生成した多角形の辺へ向けて探索する。輪郭線の周囲では輪郭点が密に分布するので多角形のサイズは小さく、所定長未満の長さの辺に衝突すると、その辺を越えての探索を中止し、所定長未満の長さの辺を記憶する。所定長以上の長さの辺に到達すると、その辺を越えて探索を続行する。このため輪郭線に分布する多数の小さな多角形の辺まで探索すると探索が中止され、抽出した辺を連結すると物体の最初の輪郭線が得られる。この輪郭線は外側の輪郭線か内側の輪郭線かである。そして前記のようにして、色度の差が所定の条件以下の輪郭線を内側の輪郭線の候補とし、その外側を探索すると、外側の輪郭線を抽出できる。
【0015】
また好ましくは、前記パーツあるいはパーツ内のエリアにはしわの許容度が割り当てられ、前記割り当て手段は、前記ランキングと前記許容度とに応じて、しわ内にパーツを割り当てる。
パーツにはデザイン上重要なパーツと重要でないパーツとがあり、形状精度等に対する許容度、即ちしわへの許容度もパーツによって異なる。そこでしわをランキングすると共に、パーツにしわへの許容度を割り当てると、許容度の範囲でしわをパーツに用いることができ、シート材を有効利用できる。
パーツに縫い代などがある場合、パーツの形状精度や品質への要求は、パーツ内のエリアにより異なる。そこでパーツ内のエリアに応じてしわへの許容度を指定すると、しわの部分をより有効に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。また実施例では、輪郭線を単に輪郭という。
【実施例】
【0017】
図1〜図17に、裁断装置2を例に、輪郭抽出装置18と輪郭抽出プログラム、及び輪郭抽出方法の実施例を示す。図1において、4は裁断テーブルで、6は裁断ヘッドであり、カラーカメラ8により皮革15のカラー画像を撮像すると共に、例えば円形の刃物10を回転させて皮革15を裁断する。裁断ヘッド6はX軸ドライブ12とY軸ドライブ14とにより、裁断テーブル4上をXYの双方向に移動する。そしてカラーカメラ8は、裁断ヘッド6により皮革15上を走査して、皮革15の画像を複数枚に分割して撮像する。
【0018】
輪郭抽出装置18は、裁断装置2と一体に、あるいは裁断装置2とは別体に設けられている。20はバスで、21はカラーモニタ、22はマニュアル入力で、キーボードやスタイラス、マウス、トラックボール、ジョイスティックなどである。ディスクドライブ23はCD−ROMなどのディスクとの間で入出力を行い、ネットワークインターフェース24はLANやインターネットとの間のインターフェースとなる。輪郭抽出装置18を制御するための輪郭抽出プログラムは、例えばCD−ROMなどの記憶媒体に記憶させ、ディスクドライブ23からプログラムメモリ32に記憶する。あるいは輪郭抽出プログラムを、搬送波によりネットワークインターフェース24から入力しても良い。26は入出力で、裁断テーブル4との間でデータを交換し、裁断テーブル4側へ供給するデータは裁断ヘッド6のX方向やY方向への運動、刃物10の制御、カメラ8の撮像制御などのデータである。これに対して裁断テーブル4側からは、カメラ8で撮像した皮革15のカラー画像が、入出力26へ供給される。
【0019】
28はプロセッサで、30は汎用のメモリ、32はプログラムメモリで、輪郭抽出プログラムなどの、裁断装置2の制御プログラムを記憶する。プロセッサ28やメモリ30,32などにより、輪郭抽出装置18は図2のように機能する。カメラ画像校正部34はカメラ8からの画像の歪みを補正する。カメラ画像などのラスター画像は画像メモリ36に記憶し、フィルタ38は1枚分のカメラ画像に対し、あるいは複数枚のカメラ画像を合成した皮革全体の画像に対して、フィルタリングを施し、輪郭点を抽出する。ファイルメモリ40は抽出された輪郭点を記憶し、データの内容は輪郭点の座標である。併合処理部42は例えばフィルタ38で個々のカメラ画像毎に抽出した輪郭点を併合し、皮革1枚分の輪郭点のデータとする。
【0020】
多角形分割部44は、輪郭点を用いてシート材の画像を多角形に分割する。多角形分割の手法は例えばドロネー分割とし、多角形の種類は輪郭点を3頂点とする三角形である。内部輪郭抽出部46は、多角形により分割された画像を用いて、皮革15などのシート材の内側の輪郭を抽出し、抽出した多角形の辺を連結し、シート材の閉じた輪郭を発生させる。仮に辺の抽出が不完全な場合、最近接した辺を互いに連結することにより、閉じた輪郭を抽出する。
【0021】
外部輪郭抽出部48は、内側の輪郭の外側にある輪郭を抽出する。内側の輪郭の内外で色度、例えば色相と彩度、あるいはY,Cb,Crの映像信号でのCb信号及びCr信号の2つの信号が、所定の条件以上異なるかどうかを、外部輪郭抽出部48で評価する。所定の条件としては、例えばCb信号の差の絶対値とCr信号の差の絶対値の和、あるいはこれらの差の絶対値の大きな方の値、などが所定の値以上かどうかなどを用いる。Cb信号とCr信号に代えて,HLS信号でのH信号とS信号などを用いても良い。またCb信号とCr信号などの色度差に代えて、RGB空間などでの色差、即ちRGB空間での距離、を用いても良い。そして内側の輪郭の内外で色度の変化が所定の条件以下の場合、しわの輪郭を抽出したものと推定して、外側の輪郭を探索する。色度の変化が所定の条件以上の場合、外側の輪郭を抽出したものとして、例えばそれ以上の外側への探索を行わない。輪郭抽出部46,48は抽出したシート材の輪郭となる辺のベクトルを例えば連結し、ベクトルデータの列を内外の輪郭として記憶する。
【0022】
しわランキング部50は、しわの形状、特にしわの縦横比(アスペクト比)からしわの程度をランキングして記憶する。パーツ記憶部52は、皮革15から裁断により取り出すべきパーツの形状としわへの許容度を記憶し、しわへの許容度はパーツ単位で記憶しても、パーツを分割したエリア毎に記憶しても良い。パーツマッチング部54は、シート材の内外の輪郭で定まる形状、及びしわの部分のランキングと、取り出すべきパーツの形状及びしわへの許容度とを比較して、最適な裁断パターンを発生させる。ヘッドデータ発生部56は、パーツマッチング部54で発生させた裁断パターンに従って、裁断ヘッドの制御データを発生させる。
【0023】
図3に、フィルタ38の例を示す。60はラプラシアンフィルタで、周囲の画素とデータが異なる画素を抽出し、61,62は微分フィルタで、画像が変化する向きを抽出するのに適している。またカメラ画像のノイズが著しい場合、フィルタ60〜62で処理する前に、メディアンフィルタなどで処理して、ノイズを除去しても良い。用いるフィルタの種類自体は任意で、カメラ画像にフィルタリングを施し、2値化して輪郭点を抽出する。輪郭点の抽出では明度あるいは色度が急変する画素を輪郭点とするが、明度が急変する画素のみを抽出しても良い。
【0024】
図4に、内外の輪郭の抽出アルゴリズムを示す。裁断ヘッド6に皮革15をセットし、必要であれば皮革上の疵にカラーテープ16を貼り付ける。そして裁断ヘッド6をXY方向に運動させて、皮革15の画像を例えば数十枚に分割して撮像する(S1)。カメラ画像校正部34で、撮像した画像に対する歪みを補正し(S2)、明度と色度の各々に対して輪郭点を抽出する。輪郭点の抽出では、例えば図3のフィルタによりカメラ画像を処理し、処理後の画像を二値化し、所定値以上の値のものを輪郭点とする(S3)。明度と色度の各々に対して輪郭点が得られ、明度の輪郭点と色度の輪郭点を共に輪郭点として抽出するが、色度の輪郭点を抽出しなくてもよい。そして撮像した各画像に対して以上の処理を繰り返す(S4)。
【0025】
輪郭点を皮革1枚分集め(S5)、輪郭点を頂点とする三角形によりシート材の画像を分割する(S6)。ここでの画像は実際には輪郭点のみから成るデータである。三角形の生成では、近傍にある頂点を遠方の頂点よりも優先して結合することにより、三角形の辺を構成する。また小さな内角を持つ三角形を避けるように、どの頂点を連結するかを決定する。言い換えると三角形の3つの内角の中で最も小さな内角に着目し、この内角が小さなものを避け、例えば所定値以下の内角を持つ三角形を避けるようにする。
【0026】
以上のアルゴリズムを単純化すると次のように言える。1つの頂点に着目し、周囲の所定の角度範囲の中で近接した頂点と連結する。この処理を着目した頂点の周囲360°分繰り返すと、頂点は周囲の複数個の頂点と連結される。以上の処理を各頂点に対して繰り返すと、画像は三角形により分割される。そして三角形の頂点は輪郭点である。
【0027】
次に皮革内の1点を指定する(S7)。この点はマニュアル入力で指定しても良く、あるいは地色、即ち裁断テーブル4の色、とは異なる色で、大きな三角形の内部の点をコンピュータ抽出しても良い。指定された1点から三角形の辺を越えて伝搬するように探索する。そして所定長以上の長さの辺に接触すると、その辺を越えて三角形の残る2辺を探索する。以上のようにして、シート材の内部に対応する領域を拡大していく(S8)。
【0028】
三角形の短い辺に衝突すると、その辺を越える探索を打ち切る。もちろん他の辺に対しては探索を続行する(S9)。探索を続行するか打ち切るかのいき値は実施例では一定であるが、可変としても良い。そして探索する辺が無くなるまで探索を続行する(S10)。以上の過程で、短い辺に衝突し探索を打ち切った場合、該当する辺を記憶する。辺のデータはベクトルデータなので、辺の始点と終点の座標を記憶する。記憶した辺を連結すると、皮革の閉じた輪郭が得られ、これは皮革の内側の輪郭である(S11)。
【0029】
内側の輪郭の内外で、色度の変化が所定の条件以上であるか否かをチェックし(S12)、色度の変化が所定の条件未満の場合、内側の輪郭を越えて、さらに外側の輪郭を抽出する(S13)。この処理は、S9〜S11と同様である。そして外側の輪郭と内側の輪郭で囲まれたエリア、及び内側の輪郭が、それ自体として、単独で閉じている場合、内側の輪郭の内側をしわとする(S14)。
【0030】
図7にドロネー三角形での探索の例を示す。図の三角形の頂点は輪郭点で、人の目で見た場合、L1,L2の2つの輪郭と、孤立した輪郭点P1,P2が存在するように見える。しかしながら自動的にこのような認識を行うことは困難である。図7で左上側から探索を開始するものとする。図の二重線は探索を中止する短い辺を示し、短い辺に衝突すると辺を越えての探索を打ち切る。そして探索を打ち切った短い辺を連結すると、輪郭が得られる。輪郭を確実に抽出するには、
・ 近接した輪郭点を互いに接続し、
・ 小さな内角を持つ三角形を避ける、
ことが重要である。そして上記の条件を充たしながら、三角形により空間を分割するアルゴリズムとして、ドロネー分割が知られている。
【0031】
図8はボロノイ多角形による空間分割を示す。例えば輪郭点P1に対して、周囲の輪郭点と結ぶ辺に対する垂直二等分線を発生させ、垂直二等分線を互いに接続して多角形とする。図8では六角形を表示してあるが、ボロノイ多角形の辺の数は不定である。ボロノイ多角形は輪郭点の集合から成る画像に対し、どの輪郭点に最も近いかにより画像を分割したものと言うことができる。そして輪郭点が密に集合している領域では、ボロノイ多角形のサイズは小さくなり、粗な領域では輪郭点のサイズは大きくなる。このことはドロネー三角形の場合も同様である。また辺の探索を効率的に行うには、ボロノイ多角形でも、ドロネー三角形でも、各辺の両端を記憶すると共に、探索済みかどうかを示すビットを付加すると良い。
【0032】
図9〜図11に、皮革に対する輪郭の抽出結果を示す。図9は皮革全体の2値化画像で、画像の内部に4枚のカラーテープが貼ってある。図10は皮革の一部に対する輪郭点の画像を示し、R1は皮革の領域、R2はバックグラウンドの領域、R3は汚れの領域で、皮革は厚さがあるため、2本の平行な輪郭L1,L2があるように見える。ここから例えば輪郭L1のみを自動的に抽出することは、コンピュータにとっては必ずしも容易なことではない。
【0033】
図11は皮革全体に対するドロネー分割を示す。マニュアルで、あるいはバックグラウンドとは異なる色で大きな三角形の内部にスタート点を選び、ここからドロネー三角形の辺へ向けて探索を実行する。辺に衝突するとその長さを調べ、所定長以上であれば辺を越えて探索を続行し、所定長未満の辺に衝突すると辺を越えず、検出した辺を記憶する。以上の処理を行うと、皮革の輪郭には小さなドロネー三角形が大量に存在するので、輪郭を抽出できる。またカラーテープと皮革との境界にも微細なドロネー三角形が大量に存在するので、カラーテープを抽出できる。以上のようにして図9の皮革の輪郭を抽出できる。
【0034】
次に抽出したしわの処理を説明する。図5に示すように、しわの長径aと短径bとを求め、それらの比a/bをアスペクト比とする(S21)。なおa/bに代えて、長径aとしわの周長との比、あるいは長径aと短径bの1/2乗根の比、即ちa/b1/2などを用いてもよい。次にアスペクト比が大きい程強いしわとし、アスペクト比が小さい程弱いしわとするように、しわにランクを付ける(S22)。そしてしわのランクにフィットし、かつ皮革の外側の輪郭からはみ出さないようにパーツを皮革内に割り当てる(S23)。そしてパーツの裁断を実行する(S24)。
【0035】
図12に、しわ88に関する処理を示す。皮革80に対し、その内側から外側に向けて輪郭を抽出し、輪郭81,82が得られたとする。輪郭81,82は短いベクトルを連結したもので、それらのベクトルに沿って例えばエリア83〜87を発生させる。ここではエリア83〜87は飛び飛びに発生させたが、これらを連結するように発生しても良い。エリア83〜87の幅は、図10に示した輪郭L1,L2の間隔よりも大きなものとし、具体的には、皮革の上面のエッジと下面のエッジとの間隔の例えば2倍以上とする。そしてエリア83〜87に対し、輪郭81,82の内外での色度の差を求める。色度は例えばY,Cb,Cr系でのCb及びCr信号や、HLS系でのH信号やS信号などである。そして色度の変化が大きい場合は外側には他の輪郭が無いものとし、色度の変化が小さい場合は内側の輪郭とする。なお輪郭点の周囲での色度の変化は、図3のフィルタで処理する段階で、輪郭点毎に求めておいても良い。
【0036】
図12の場合、輪郭82は内側の輪郭で、輪郭81は外側の輪郭である。そこで内側の輪郭82を越えるように、図7などに示した手法により、外側の輪郭89を求める。そして内外の輪郭81,89に囲まれるエリアがしわ88である。しわ88に対し長径aと短径bとを求めることができ、例えばこの比からしわの程度を求めることができる。
【0037】
図13にアスペクト比としわのランクとの関係を示し、アスペクト比が大きい程しわのランクが高くなる。なおアスペクト比としては、長径aと短径bとの比の他に、適宜の値を用いることができる。
【0038】
しわは皮革の外側の輪郭に接してあるものには限らない。このような例を図14に示す。90は皮革で、91は内側の輪郭、92は外側の輪郭で、これは皮革の内部に孤立したしわがある例である。
【0039】
図15に、しわのパーツの裁断精度への影響を示し、102,108は図18に示したしわで、しわ102は細く鋭いしわで、しわ108は幅広の緩やかなしわである。また鎖線110でしわ102,108の輪郭、即ち内側の輪郭を示す。しわ102,108は裁断テーブルから盛り上がっているので、これを裁断するとパーツ112,114のようになり、正確な形状に裁断するのが難しくなる。なおしわ102,108のランクが分かると、しわが裁断テーブルから持ち上がっている高さも推定可能なので、しわによる形状精度の低下を補正することができる。即ちランクの高いしわのエリアを裁断すると、しわの短径方向に沿ってパーツのサイズが大きくなる。サイズが大きくなる程度は、しわのランク並びにしわの短径方向にパーツが入り込んでいる距離に依存する。そこでしわのランクと前記の距離とにより、パーツのサイズが受ける影響を経験則として記憶すると、しわによる形状精度の低下を補うことができる。
【0040】
しわにランクを設けることに対応して、パーツあるいはパーツのエリアに対してもしわへの許容度を定めておき、どのしわに対しどのパーツを配置しても良いか、あるいはどのパーツのどの部分を配置しても良いかを、判断できるようにする。図16のパーツ120は、周囲に縫い代のエリアと、その内側に2つのエリアがあり、記号I−Aはしわが全く許されないことを、記号I−Bは、ごく緩やかなしわであれば許されることを、記号IIは図13の例えばランク2のしわまでが許されることを意味する。
【0041】
図6にパーツのデザインを示し、裁断装置2でデザインしても、別の装置でデザインしても良い。パーツの形状をデザインし(S31)、パーツ全体に対しあるいはパーツのエリア毎にしわの許容レベルを指定し(S32)、パーツの必要数を入力する(S33)。
【0042】
実施例では皮革の内側から外側に向けて輪郭を抽出した。この逆に皮革の外側から内側に向けて輪郭を抽出しても良い。このような例を図17に示し、130は皮革で、132,133はしわである。皮革130の外側から輪郭を抽出すると、外側の輪郭134が得られ、さらに輪郭の抽出を続行すると内側の輪郭136が得られる。この場合、外側の輪郭134からスタートして、別の輪郭に衝突するまで輪郭の抽出を続行するので、実質的に皮革130の内外側全体に対し、輪郭の抽出を行う必要がある。このため輪郭の抽出範囲が広くなる。
【0043】
実施例では以下の効果が得られる。
(1) 皮革のしわを検出できる。このため皮革のどの部分にしわがあるかが分かり、かつしわを除いた部分の面積や、皮革の総面積を求めることができる。
(2) しわをランキングできるので、パーツへの許容範囲内で、しわ内にパーツを配置できる。従って皮革の利用効率が向上する。
(3) 皮革の内側から輪郭を抽出し、色度の変化の小さな輪郭に達すると、この輪郭を越えてさらに輪郭を探索する。このため簡単に内側の輪郭と外側の輪郭とを求めることができる。また探索範囲を皮革の内側及びしわの周囲に限定できる。
(4) しわにランキングを施すと共に、パーツあるいはパーツ内のエリアに対し、しわへの許容度を定めておくと、簡単にパーツを配置できる。
(5) ドロネー分割やボロノイ分割を用いると、輪郭を的確に抽出できる。

【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例の裁断装置のハードウェア構成を示すブロック図
【図2】図1の裁断装置を、輪郭抽出に関する機能ブロックで示す図
【図3】輪郭抽出用のフィルタの例を示す図
【図4】実施例での輪郭としわの抽出アルゴリズムを示す図
【図5】実施例でのしわのランク付けアルゴリズムを示す図
【図6】実施例でのパーツのランク付けアルゴリズムを示す図
【図7】ドロネー分割(Delaunay division)を模式的に示す図
【図8】ボロノイ図(Voronoi diagram)を模式的に示す図
【図9】皮革の2値画像を示す図
【図10】輪郭点の画像を示す図
【図11】図9に対応するドロネー分割を示す図
【図12】実施例でのしわの抽出を模式的に示す図
【図13】実施例でのしわのアスペクト比としわのランクとの関係を模式的に示す図
【図14】内側にしわがある皮革を模式的に示す図
【図15】しわを裁断したパーツでは形状精度が低下することを模式的に示す図
【図16】パーツ内のエリア毎のランキングを模式的に示す図
【図17】皮革の外側から輪郭としわとを探索する変形例を模式的に示す図
【図18】しわのある皮革を示す写真
【符号の説明】
【0045】
2 裁断装置
4 裁断テーブル
6 裁断ヘッド
8 カラーカメラ
10 刃物
12 X軸ドライブ
14 Y軸ドライブ
15 皮革
16 カラーテープ
18 輪郭抽出装置
20 バス
21 カラーモニタ
22 マニュアル入力
23 ディスクドライブ
24 ネットワークインターフェース
26 入出力
28 プロセッサ
30 メモリ
32 プログラムメモリ
34 カメラ画像校正部
36 画像メモリ
38 フィルタ
40 ファイルメモリ
42 併合処理部
44 多角形分割部
46 内部輪郭抽出部
48 外部輪郭抽出部
50 しわランキング部
52 パーツ記憶部
54 パーツマッチング部
56 ヘッドデータ発生部
60 ラプラシアンフィルタ
61,62 微分フィルタ
80,90 皮革
81 輪郭
82,91 内側の輪郭
83〜87 エリア
88 しわ
89,92 外側の輪郭
110 内側の輪郭
112,114 パーツ
120 パーツ
130 皮革
132,133 しわ
134 外側の輪郭
136 内側の輪郭

L1,L2 輪郭
P1〜P6 頂点
R1 皮革
R2 バックグラウンド
R3 汚れ
a 長径
b 短径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カメラで撮像したシート材の画像から、フィルタリングにより輪郭点を抽出し、抽出した輪郭点を連結してシート材の輪郭線として出力する装置において、
シート材の外形を表す外側の輪郭線と、前記外側の輪郭線の内部にある内側の輪郭線、とを求めるための輪郭抽出手段と、
前記外側の輪郭線と前記内側の輪郭線とから、シート材のしわの形状を求めるための手段と、
求めたしわの形状の長径と短径との比を表す量を求めるためのしわ形状評価手段と、
前記比を表す量が大きいしわを強いしわとし、比を表す量が小さいしわを弱いしわとするように、しわをランキングするためのランキング手段と、
シート材から裁断するパーツを、しわのランキングに応じてシート材に割り当てるための割り当て手段、とを設けたことを特徴とする、輪郭抽出装置。
【請求項2】
前記輪郭抽出手段では、シート材の内部から外側へ向けて輪郭線を抽出し、輪郭線の内外での色度の差が所定の条件以下の輪郭線を前記内側の輪郭線とすると共に、内側の輪郭線のさらに外側にある輪郭線を前記外側の輪郭線とすることを特徴とする、請求項1の輪郭抽出装置。
【請求項3】
輪郭点の密度が高い領域ではサイズが小さく、密度が低い領域ではサイズが大きな複数の多角形を、前記輪郭点に基づいて発生させることにより、該複数の多角形の画像を発生するための空間分割手段をさらに設けると共に、
前記輪郭抽出手段では、前記多角形の画像を、シート材の内部の点から始めて、前記多角形の辺へ向けて探索し、所定長未満の長さの辺に接触すると、該辺を越えた探索を中止すると共に該辺を記憶し、所定長以上の長さの辺に接触すると、該所定長以上の長さの辺を越えて探索を続行することを特徴とする、請求項2の輪郭抽出装置。
【請求項4】
前記パーツあるいはパーツ内のエリアにはしわの許容度が割り当てられ、 前記割り当て手段は、前記ランキングと前記許容度とに応じて、しわ内にパーツを割り当てることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかの輪郭抽出装置。
【請求項5】
カメラで撮像したシート材の画像から、フィルタリングにより輪郭点を抽出し、抽出した輪郭点を連結してシート材の輪郭線として出力する、輪郭抽出装置のためのプログラムにおいて、
前記輪郭抽出装置に読み込まれた際に、輪郭抽出装置を、
シート材の外形を表す外側の輪郭線と、前記外側の輪郭線の内部にある内側の輪郭線、とを求めるための輪郭抽出手段と、
前記外側の輪郭線と前記内側の輪郭線とから、シート材のしわの形状を求めるための手段と、
求めたしわの形状の長径と短径との比を表す量を求めるためのしわ形状評価手段と、
前記比を表す量が大きいしわを強いしわとし、比を表す量が小さいしわを弱いしわとするように、しわをランキングするためのランキング手段と、
シート材から裁断するパーツを、しわのランキングに応じてシート材に割り当てるための割り当て手段、として機能させることを特徴とする輪郭抽出プログラム。
【請求項6】
前記輪郭抽出手段では、シート材の内部から外側へ向けて輪郭線を抽出し、輪郭線の内外での色度の差が所定の条件以下の輪郭線を前記内側の輪郭線とすると共に、内側の輪郭線のさらに外側にある輪郭線を前記外側の輪郭線とすることを特徴とする、請求項5の輪郭抽出プログラム。
【請求項7】
輪郭点の密度が高い領域ではサイズが小さく、密度が低い領域ではサイズが大きな複数の多角形を、前記輪郭点に基づいて発生させることにより、該複数の多角形の画像を発生するための空間分割手段をさらに設けると共に、
前記輪郭抽出手段では、前記多角形の画像を、シート材の内部の点から始めて、前記多角形の辺へ向けて探索し、所定長未満の長さの辺に接触すると、該辺を越えた探索を中止すると共に該辺を記憶し、所定長以上の長さの辺に接触すると、該所定長以上の長さの辺を越えて探索を続行することを特徴とする、請求項6の輪郭抽出プログラム。
【請求項8】
前記パーツあるいはパーツ内のエリアにはしわの許容度が割り当てられ、 前記割り当て手段は、前記ランキングと前記許容度とに応じて、しわ内にパーツを割り当てることを特徴とする、請求項5〜7のいずれかの輪郭抽出プログラム。
【請求項9】
カメラで撮像したシート材の画像から、フィルタリングにより輪郭点を抽出し、抽出した輪郭点を連結してシート材の輪郭線として出力する方法において、
輪郭抽出手段により、シート材の外形を表す外側の輪郭線と、前記外側の輪郭線の内部にある内側の輪郭線、とを求め、
しわの形状を求めるための手段により、前記外側の輪郭線と前記内側の輪郭線とから、シート材のしわの形状を求め、
しわ形状評価手段により、求めたしわの形状の長径と短径との比を表す量を求め、
ランキング手段により、前記比を表す量が大きいしわを強いしわとし、比を表す量が小さいしわを弱いしわとするように、しわをランキングし、
割り当て手段により、シート材から裁断するパーツを、しわのランキングに応じてシート材に割り当てることを特徴とする、輪郭抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図10】
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【図11】
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【図18】
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