説明

輸送および貯蔵安定性酸素消費電極の製造方法

【課題】輸送安定性および貯蔵安定性シート状酸素消費電極の製造方法を提供する。
【解決手段】前記方法は、導電性支持体、ガス拡散層および銀系触媒を含む層を供給する工程、前記支持体を、酸化銀含有中間体で被覆する工程、および前記酸化銀含有中間体を、水性電解液中で8未満のpHにて少なくとも部分的に電気化学的還元する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施態様は、8未満のpHを有する水性電解液中で別個の分離製造工程において電気化学的に還元され、および良好な輸送性および貯蔵性を有する、特にクロルアルカリ電解に用いるための酸素消費電極の製造に関する。本発明の更なる実施態様は、クロルアルカリ電解または燃料電池技術における上記電極の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、ガス拡散電極として製造され、および導電性支持体および触媒活性成分を有するガス拡散層を通常含む、それ自体既知の酸素消費電極に由来する。
【0003】
工業規模の電解セル中における酸素消費電極を、製造および操作するための種々の提案が、先行技術から原理上知られている。基本的な考えは、電解(例えばクロルアルカリ電解中)の水素発生カソードを、酸素消費電極(カソード)に置き換えることである。ここで、アノードおよびカソードは、イオン交換膜により分離される。可能なセル設計および溶液の概説は、Moussallem等による出版物、「Chlor−Alkali Electrolysis with Oxygen Depolarized Cathodes: History, Present Status and Future Prospects」、J.Appl.Electrochem、第38巻、(2008年)、第1177〜1194頁に見出し得る。
【0004】
酸素消費電極(以下、略して、OCEとも称する)は、工業的電解槽において使用可能であるために一連の要件を充足しなければならない。従って、触媒および用いる全ての他の材料が、約32重量%の濃度を有する水酸化ナトリウム溶液および典型的には80〜90℃の温度での純酸素に、化学的に安定性でなければならない。また、電極は通常、2m(工業規模)を越える面積の大きさを有する電解槽中に設置および操作されるので、高度の機械的安定性が要求される。更なる特性は、以下の通りである:高い電気伝導性、小さい層厚み、大きい内部表面積および電解触媒の高い電気化学活性。また、適当な疎水性および親水性細孔およびガスおよび電解液を導くために適切な細孔構造も必要であり、これは、ガス空間および液体空間が、互いに分離された状態を維持するように不浸透性である。長期安定性および低い製造コストは、工業的に使用可能な酸素消費電極が満たさなければならない更なる特定の要件である。
【0005】
酸素消費カソードは典型的には、支持体要素、例えば多孔質金属または金属ワイヤーから作られたメッシュの板、および電気化学活性コーティングからなる。電気化学活性コーティングは、微小孔質であり、親水性および疎水性成分から構成される。疎水性成分は、電解液の浸透を困難とし、従って、酸素の触媒活性側への輸送のための適切な細孔が確保される。親水性成分は、電解液が触媒活性側へ浸透すること、および水酸化物イオンが外側へ輸送されることを可能とする。疎水性成分として、フッ素含有ポリマー、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が用いられ、これは、触媒のためのポリマーバインダーとしても働く。銀触媒を有する電極の場合には、銀は、親水性成分として働く。
【0006】
多くの化合物が、酸素の還元のための触媒として記載されている。
【0007】
従って、酸素消費電極のための触媒として、パラジウム、ルテニウム、金、ニッケル、遷移金属の酸化物および硫化物、金属ポルフィリンおよびフタロシアニン、および灰チタン石の報告がある。
【0008】
しかしながら、プラチナおよび銀だけが、アルカリ溶液中における酸素の還元のための触媒として実際的重要性を達成してきた。
【0009】
プラチナは、酸素の還元のための極めて高い触媒活性を有する。プラチナの高いコストに起因して、専ら担持形態でのみ使用される。好ましい担体物質は、炭素である。炭素は、プラチナ触媒へ電流を通す。炭素粒子における細孔は、表面の酸素により親水性となり、従って水の移動に適するようになる。炭素担持プラチナ触媒を有するOCEは、良好な性能を示す。しかしながら、長期間の操作における炭素担持プラチナ電極の抵抗は、担体材料の酸化もおそらくプラチナにより触媒されるので不十分である。また、炭素は、Hの望ましくない形成を促進する。
【0010】
また、銀も、酸素の還元のための高い触媒活性を有する。
【0011】
銀は、炭素担持形態で、および微細に分割された金属銀として用いることができる。
【0012】
炭素担持銀を有するOCEは通常、20〜50g/mの銀濃度を有する。炭素担持銀触媒は、相当するプラチナ触媒より耐久性を有するが、クロルアルカリ電解の条件下での長期安定性は限られる。
【0013】
好ましいのは、非担持銀を触媒として用いることである。非担持金属銀から構成される触媒を有するOCEの場合には、触媒担体の分解により生じる安定性の問題が当然のことながら存在しない。
【0014】
非担持銀触媒を有するOCEの製造では、銀は、酸化銀の形態で少なくとも部分的に導入することができ、その後、酸化銀は金属銀へ還元される。銀化合物の還元では、触媒の配置における変化、特に個々の銀粒子間に架橋が生じる。これは、構造の強化を全体にもたらす。
【0015】
銀触媒を有する酸素消費電極の製造では、原理上、乾燥製造工程および湿潤製造工程の間で区別し得る。
【0016】
乾燥法では、触媒およびポリマー成分(通常、PTFE)の混合物は、導電性支持体要素上に分配される微細粒子へと製粉され、室温にてプレスされる。このような方法は、例えばEP1728896A2に記載されている。
【0017】
湿潤製造工程では、触媒および水または他の液体中のポリマー成分のペーストまたは懸濁液を用いる。後者の安定性を向上させるために、表面活性物質を、懸濁液の製造において添加することができる。ペーストは、スクリーン印刷法またはカレンダー法により支持体へ塗布されるが、より低い粘度の懸濁液は通常、支持体上へ噴霧される。支持体は、塗布したペーストまたは懸濁液と共に乾燥および焼結される。焼結は、ポリマーの融点の領域における温度にて行う。さらに、OCCの緻密化を、焼結後、室温を越える(ポリマーの融点、軟化点または分解点までの)温度にて行ってもよい。
【0018】
これらの方法により製造された電極は、酸化銀の事前還元を行うことなく電解増中に設置される。酸化銀の金属銀への酸化は、電解槽を電解液で充填した後に電解電流の作用下で起こる。
【0019】
先行技術により製造されたOCEは、取り扱いに欠点を有することを見出した。従って、触媒層は、機械的に極めて安定性ではなく、この結果、非還元触媒層部分の脱離のような損傷が容易に起こる。特に、OCEを電解槽に設置する場合、OCEを曲げなければならない。生じる損傷は、操作における不浸透性の損失をもたらし、従って、電解液は、OCEによりガス空間中へ入ることができる。
【0020】
工業プラントのための電極は、中心製造施設により製造されることが多く、そこから各使用場所に輸送される。その結果、輸送性および貯蔵性は、特定の要件を満たす必要がある。OCEは、輸送および現場における設置中に応力に影響を受けないようにする必要がある。
【0021】
新規な金属酸化物含有電極は通常、製造直後に電解槽中に設置および操作されない。従って、製造および設置の間および導入および開始の間はいずれも、比較的長期間が経過する。
【0022】
OCCを電解槽中に設置し、長期間放置する場合、性能の悪化が生じ得る。湿潤に保たなければならないイオン交換膜は、電解槽中にある。従って、設置OCCは常に、新規な金属酸化物へ悪影響を与える高い周囲湿度へ暴露される。加水分解法は、粒子表面を変化させ、従って、電気化学活性表面が還元後に存在する。この変化は、例えば電解電位について悪影響を有する。
【0023】
OCEの活性は、とりわけ、酸化銀を金属銀へ還元する条件により影響を受ける。塩素および水酸化ナトリウムの製造のための工場では、還元のための最適条件を、非還元OCEの立ち上げ中に維持することを確保することができない。
【0024】
酸素消費電極において銀酸物を還元する方法は、DE3710168A1に記載される。水酸化カリウム溶液中でのカソード還元、亜鉛による化学還元および水素電極に対する電気化学還元は全て記載される。非還元電極を電解槽中に設置し、還元を電解の開始時に行う上記の方法も記載される。
【0025】
上記方法は、十分な機械的安定性および高い貯蔵安定性を有する酸素消費電極の製造にあまり適していない。
【0026】
工業的実施では、亜鉛または他の金属による還元は、重要な問題と関連する。特に、各金属または金属酸化物での電極の汚染および細孔の閉塞の危険性が挙げられる。
【0027】
帯状電極が、放電セルの通過中に同様の帯状電極に対して放電することができる、DE3710168A1に記載の水素電極に対する還元は、実験室の外側で実現することが困難であり、工業規模上での方法として除外される。
【0028】
水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムの水溶液中での電気化学還元では、種々の問題が、電極を還元直後に用いない場合に生じる。
【0029】
電極に対する損傷は、例えばアルカリ金属水酸化物および空気中に存在する二酸化炭素からのアルカリ金属カーボネートの形成により生じ得る。アルカリ金属カーボネートは、OCRの細孔を閉塞させ、その結果、後者は、完全に使用することができなくなるか、または電解は著しく高い電圧にて行わなければならない。
【0030】
さらに、残存するアルカリ金属水酸化物溶液は、貯蔵中に水の蒸発によって、より濃縮になることがある。ここで、アルカリ金属水酸化物は晶出し、これにより、OCEの細孔を閉塞するか、または形成する結晶に起因して細孔を不可逆的に破壊する。上記の問題を防止するために、アルカリ金属水酸化物溶液は、還元後に電極から完全に取り除かなければならない。これは、微細細孔電極の場合には、行うことが困難である。還元OCEは常に、アルカリ金属水酸化物の痕跡を含有するので、電解槽におけるOCEの設置は、向上した安全対策(アルカリ金属水酸化物による焼けの防止)により困難となる。
【0031】
従って、アルカリ性溶液中での還元は、酸素消費電極を輸送および/または長期間にわたって貯蔵する場合には、その製造にあまり適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1728896号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第3710168号明細書
【非特許文献】
【0033】
【非特許文献1】Moussallem、「Chlor−Alkali Electrolysis with Oxygen Depolarized Cathodes: History, Present Status and Future Prospects」、J.Appl.Electrochem、第38巻、2008年、第1177〜1194頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0034】
本発明の目的は、とりわけクロルアルカリ電解における使用のための、輸送安定性および貯蔵安定性であり、電極の活性および寿命を低下させることなく湿気が保持されている電解槽中に立ち上げ前に設置してもよい、すぐに使える酸素消費電極を提供することである。
【0035】
本発明の特定の目的は、酸素消費電極を、長期間安定性である高性能銀触媒層をまず製造し、次いで還元電極が、輸送および貯蔵中の損傷に影響を受けず、電解槽中での設置のために十分に機械的安定性であり、湿気に安定性であるような方法により製造することができる方法を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0036】
上記目的は、例えばOCEの製造において、触媒活性層の担体(以下、中間体と称する)上に塗布および強化後に得られ、そこに存在する酸化銀は、別個の工程において8未満のpHを有する水性電解液中で電気化学的に還元される。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の実施態様は、導電性支持体、ガス拡散層および銀系触媒を含む層を含む輸送安定性および貯蔵安定性シート状酸素消費電極を製造し、支持体を酸化銀含有中間体で被覆し、酸化銀含有中間体を8未満のpHにて水性電解液中で少なくとも部分的に電気化学的に還元するための方法である。
【0038】
酸化銀含有中間体は、特に、少なくとも酸化銀、および微細に分割された、特に疎水性物質、好ましくはPTFE粉末を含む。
【0039】
還元は、アノード、電解液、およびカソード的に接続したOCEから電荷を受け入れ、および該OCEへ電荷を供給するための装置を含むセル中で行うことができる。ここで、電気化学技術から既知の技術を用いることができる。
【0040】
アノードおよびOCEは、分離することなくチャンバー中へ浸漬することができる。水素は、OCEにて電気化学還元の過程において発生させることができ、この水素は、アノードにて形成された酸素との爆発性混合物を形成させるので、アノードおよびカソードを分離することは有利である。これは、例えばダイアフラムまたは膜により行うことができる。この場合、各ガス空間においてガスを、別個に放出することができる。しかしながら、水素により引き起こされる危険性は、当業者に既知の他の方法により、例えば不活性ガスでのフラッシングにより回避することもできる。
【0041】
アノードの設計は、当業者に既知の方法により行う。形状および配置は、好ましくは、電流密度がカソードにおいて均一に分配されるように選択されるべきである。アノードは、その表面上を、更なる物質、例えば酸素のための過電圧を低下させる酸化イリジウム等で被覆することができる。還元を行うための電解液として、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の水溶液、特に硫酸塩または硝酸塩の水溶液、または銀の水溶液を用いることが可能である。
【0042】
従って、電解液は、好ましくは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属群の元素または銀のイオンを含み、特に好ましくは銀のイオンを含む。
【0043】
塩化ナトリウムの電解に後に用いられる電極の場合には、硫酸ナトリウムの水溶液は、電解液として有用であり、ナトリウム塩の使用は、後に製造される水酸化ナトリウムが更なるカチオンの導入により汚染されることを防止する。対応して、硫酸カリウムは、塩化カリウムの電解のための電極の場合に有用である。
【0044】
しかしながら、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の他の塩、例えば硝酸塩を用いることも可能である。
【0045】
塩化物は、電解液として適していない。塩化銀が、電極中で形成される危険性があり、塩化銀は、還元することが酸化銀よりかなり困難である。従って、塩化物イオンが、電解液中にほとんどまたは全く存在しないことが確保されるべきである。特に、電解液の塩化物含有量は、1000ppm以下、好ましくは100ppm以下、極めて特に好ましくは20ppm以下の塩化物であるべきである。
【0046】
電解液のpHは、好ましくは、不溶性銀水酸化物が形成しないように選択するべきである。これは、8未満のpHでの場合である。還元は、特に好ましくは、3〜8のpH範囲、好ましくは4〜7のpHで行う。
【0047】
好ましい電解液は、水溶性銀塩、例えば硝酸銀、フッ化銀、プロピオン酸銀、乳酸銀および硫酸銀等の溶液であり、特に好ましいのは、硫酸銀および硝酸銀である。錯体シアン銀、例えばシアン化銀ナトリウムまたはシアン化銀カリウム等、モリブデン酸銀ならびにピロリン酸、過塩素酸および塩素酸の塩は、電解液として用いることもできる。
【0048】
還元後に電極中に残存する銀塩は、悪影響を有さない。更なる物質を、還元手順を向上させるために電解液を添加することができる。従って、例えば硫酸銀を用いる場合、酸化銀の沈殿を避けるために該溶液を硫酸または硝酸で酸性することが望ましい。しかしながら、緩衝物質、例えば酢酸ナトリウム等を添加してpHを調節することもできる。
【0049】
例えば電気化学技術から原理上既知の多くの更なる利用可能な添加剤が存在する。当業者は、電気化学還元を向上させ、電極の貯蔵安定性を向上させ、後の生成物の汚染を防止するために補助剤として、更なる既知の添加剤を用いることができるかどうか、およびどの添加剤を用いるかをいずれの場合にも決定する。
【0050】
複数の塩の組み合わせを、電解液として用いてもよい。従って、例えば硫酸銀および硫酸ナトリウムの水中での混合物または硝酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムの混合物を用いることができる。
【0051】
電解液の濃度は、電気化学技術から当業者に既知の範囲で変化する。濃度は、特に少なくとも0.01mol/L、好ましくは0.01mol/L〜2mol/Lの広い範囲内で選択することができ、濃度は、電解液の溶解性により決定することもできる。好ましくは、電解液を横切る電位降下、従って電解電圧を最小化するために、電解液の極めて高い濃度を選択する。
【0052】
アノードおよびカソード空間は、膜により分離する場合、異なった電解液をアノード側およびカソード側で用いることが可能である。電解質がカソード側で充足しなければならない要件は、アノード空間およびカソード空間を分離しない場合と同じである。しかしながら、アノード側では、電解液がカソード側で充足しなければならない要件とは独立して電解液を用いることが可能である。従って、アルカリ金属水酸化物溶液は、アノード側で電解液として用いることができ、水酸化物イオンの濃度における上昇は、アノード側で電解液を横切る電位降下において減少を与える。
【0053】
電解液を状態調節するために、電気化学技術から既知の技術、例えばポンプ循環、冷却、ろ過を用いることができる。
【0054】
還元すべきOCEは、好ましくは、均一な流れが電極表面全体にわたって生じ、均一な還元を表面全体にわたり行うことができるような方法で装置中に導入する。適切な技術は、当業者に知られている。導電性支持体要素の前側および後側で異なった被覆物の場合には、より多い酸化銀の含有量を有する側がアノードに面するような配置が好ましい。
【0055】
とりわけ、OCEを還元装置中へ導入する前に水中または電解液中に置くことにより状態調節することが望ましい。状態調節は、数時間、好ましくは0.1〜8時間にわたり行うことができ、理想的には完全に親水性細孔を充填する目的を有する。
【0056】
電力を、還元すべきOCCへ供給する種々の可能な方法が存在する。従って、電力は、支持体要素により、例えば端が被覆されていない支持体要素により供給することができ、電力は、支持体要素を介してクリップまたは他の接続により供給する。
【0057】
しかしながら、電力は、OCE上に横たわる成分、例えばエキスパンドメタルまたは織り金網もしくは編み金網により供給することもできる。このような配置では、電力は、複数の接触点により伝わる。
【0058】
還元は、原理上、約0.1kA/mまたはより低い比較的低電流密度にて行うことができる。しかしながら、還元は、好ましくは、非常に高い電流密度にて行う。従って、1kA/mを越える電流密度が好ましい。装置に関する費用は電流密度が増加するに従って増大するので、実際の上限は、5kA/mであるが、還元は、場合によっては、10kA/m以上までのより高い電流密度にて行うこともできる。従って、好ましい方法は、還元を、0.1〜10kA/mの電流密度にて行うことを特徴とする。
【0059】
還元の持続時間は、所望の還元度、電流密度、酸化銀での電極の装荷および二次反応により生じる損失に依存する。
【0060】
通常、本発明の方法の好ましい実施態様では、酸化銀の約50%を、輸送について十分に強いOCEを得るために金属銀へ還元することが十分である。例えば、水分による残存酸化銀の変化による問題を排除するために、特に好ましいのは90%を越える還元であり、極めて特に好ましくは完全な還元である。
【0061】
1000クーロン(1000アンペア×秒に相当)が、1.118gの一価銀イオンの還元に必要とされ、二価銀の場合には、2倍の電荷が必要である。1m当たり1150gの酸化銀(I)の装荷では、266Ahが、完全な還元のために理論上必要である。
【0062】
還元の持続時間は、電解電位により制御することができる。
【0063】
還元は、10℃〜95℃の温度範囲で、好ましくは15℃〜50℃の温度範囲で、特に好ましくは20℃〜35℃の範囲で行う。
【0064】
電解液は、還元中に温かくなる。発生する熱は、適切な冷却により取り除かれるが、還元は、溶液層の温度を上昇させながら断熱的に行ってもよい。
【0065】
新規な方法の好ましい実施態様では、ガス拡散層および触媒含有層は、単一層により形成する。これは、例えばガス拡散層および触媒を含有する単一層を、酸化銀含有粉末および疎水性粉末、特にPTFE粉末の混合物の使用により形成し、還元することにより得られる。
【0066】
新規な方法の好ましい変法では、ガス拡散層および触媒含有層は、少なくとも2つに異なった層により形成する。これは、例えばガス拡散層および触媒含有層を、2以上の層に酸化銀の異なった含有量を有する酸化銀含有粉末および疎水性粉末、特にPTFE粉末の少なくとも2つの異なった混合物の使用により形成し、次いで還元することにより得られる。
【0067】
本発明の実施態様の方法によるOCEの製造は、以下により詳細に説明されるが、本発明の範囲は、下記の特定の実施態様に制限されない。
【0068】
酸化銀含有中間体の製造は、例えば、それ自体既知の湿潤または乾燥製造技術により行う。これらは、特に上記のように行う。
【0069】
例えば、酸化銀、必要に応じて微細に分割された銀、PTFEのようなフッ素含有ポリマー、および必要に応じて増粘剤(例えばメチルセルロース)および湿潤製造法に用いる乳化剤を含む水性懸濁液またはペーストを、高速ミキサーにより成分を混合することにより製造する。この目的のために、まず、酸化銀、必要に応じて微細に分割された銀、増粘剤(例えばメチルセルロース)および乳化剤の水および/またはアルコール中での懸濁液を製造する。次いで、この懸濁的を、商品名DyneonTM TF5035Rとして市販のフッ素含有ポリマーの懸濁液と混合する。この方法により得られた乳化剤またはペーストを、既知の方法により支持体に塗布して、乾燥および焼結する。引き続きの還元の後に可能な支持体要素との直接接触による電力の供給のために、支持体要素の端を、被覆物がない状態にしておくことができる。
【0070】
代替法として、好ましい乾燥製造法では、粉末混合物を、PTFEまたは他のフッ素含有ポリマー、酸化銀および必要に応じて銀粒子の混合物を、高速ミキサー中で混合することにより製造する。製粉操作では、いずれの場合にも、混合物の温度を35〜80℃、特に好ましくは40〜55℃の範囲で維持する。
【0071】
次いで、粉末混合物を支持体に塗布し、既知の方法により緻密化する。引き続きの還元の後に可能な支持体要素との直接接触により電力を供給するために、支持体要素の端を、被覆物がない状態にしておくことができる。
【0072】
湿潤または乾燥法により製造された酸化銀含有中間体は、被覆および緻密化または焼結後に、溶液層中で水または電解液により数時間まで状態調節する。
【0073】
次いで、状態調節された電極は、電気化学還元用の装置に移される。
【0074】
硫酸銀は、好ましくは電解液として用いる。代替として、上記の他の電解液添加剤、例えば硝酸銀、酢酸銀またはプロピオン酸銀を用いることができる。アルカリおよびアルカリ土類金属の硫酸塩および他の塩は、難溶性塩または銀により容易に分解する爆発性化合物を形成する他のアニオンの塩を除いて、同様に適当である。pHは、硫酸または緩衝溶液により8未満、好ましくは3〜8の範囲に設定することができる。電解液の塩化物含有量は、好ましくは1000ppm、特に好ましくは100ppm、極めて特に好ましくは20ppmを越える塩化物であるべきではない。
【0075】
酸素発生電極は、好ましくは、還元におけるアノードとして選択する。これは、例えばプラチナ被覆ニッケルシートまたは酸化イリジウム被覆チタンシートであってよい。しかしながら、溶解しない他の材料から作られたアノードまたは可溶性アノードとして銀を用いることも可能である。
【0076】
アノードの面積は、還元すべきOCEの面積と可能な限り同じにするべきである。
【0077】
電力は、クリップまたは他の接続によりOCEの支持体要素の非被覆端にて供給することができる。しかしながら、電力は、OCE上に横たわる成分、例えばエキスパンドメタルまたは織り金網もしくは編み金網により供給することもできる。これは、例えば、支持体要素が、端領域を含む領域全体上に被覆されている場合に必要である。
【0078】
1kA/mの電流密度を、還元のために好ましく選択する。電解電位は、電解セル中において電極/ダイアフラムまたはイオン交換膜の配置および電解液の種類により決定する。次いで、OCEを電解セルから取り出す。粘着性電解液を流出させ、陰極液の流出は、当業者にそれ自体既知のさらなる技術、例えば空気による吹き出しにより補助することができる。次いで、OCEは、例えば噴霧または脱イオン水を含有する浴槽中へ浸漬することにより脱イオン水で洗浄する。次いで、OCEを防水法により充填する。
【0079】
OCEの稠度は、還元により顕著に固化されている。OCEは、機械的損傷に影響を受けず、輸送することができ、例えばクロルアルカリ電解セル中に問題なく設置することができる。OCEは、湿潤雰囲気中で長期の保存後でさえ活性を維持する。
【0080】
本発明の実施態様の方法により製造された酸素消費電極は、好ましくは、カソードとして、特にアルカリ金属塩化物、好ましくは塩化ナトリウムまたは塩化カリウム、特に好ましく塩化ナトリウムの電解のための電解セルにおいて接続する。
【0081】
代替として、本発明の態様の方法により製造された酸素消費電極を、燃料電池中でカソードとして好ましく接続することができる。このような燃料電池の好ましい例は、アルカリ性燃料電池である。
【0082】
従って、本発明の他の実施態様は、酸素のアルカリ性媒体中での還元のための、特に電解中での酸素消費カソードとして、特にクロルアルカリ電解中で、または燃料電池中での電極としての、または金属/空気電池中での電極としての本発明の方法により製造された酸素消費電極の使用を更に提供する。
【0083】
本発明の実施態様の方法により製造された新規OCEは、特に好ましくは、クロルアルカリ電解中で、特に塩化ナトリウム(NaCl)の電解中で用いる。
【0084】
上記の全ての参照は、全ての有用な目的のためにその全体の参照により組み込まれる。
【0085】
本発明を具体化するある特定の構造を示し、および記載したが、これらは、根本的な本発明の概念の精神および範囲から逸脱することなく、種々の変形および再配列がなされ得ることは当業者には明らかであり、本明細書に示され、記載された特定の形態に制限されない。
【実施例】
【0086】
7重量%のPTFE粉末、88重量%の酸化銀(I)およびFerroからの等級331の5重量%の銀粉末からなる3.5kgの粉末混合物を、6000rpmの回転速度にて、混合要素として星形スピナーを含むEirichモデルR02ミキサー中で、パウダー混合物の温度が55℃を越えないように混合した。これは、混合操作を中断し、混合物を冷却することにより行った。混合は、合計6回行った。混合後、粉末混合物を、1.0mmのメッシュ開口を有するふるいによりふるい分けした。
【0087】
次いで、ふるい分けした粉末混合物を、0.14mmのワイヤー厚みおよび0.5mmのメッシュ開口を有するニッケルメッシュに適用した。適用は、2mm厚テンプレートを用いて、粉末を、1mmのメッシュ開口を有するふるいにより適用しながら行った。テンプレートの厚みより上に突出した過剰の粉末は、スクレーパーにより取り除いた。テンプレートを取り除いた後、適用した粉末混合物を有する支持体を、ローラープレスを用いて0.5kN/cmの押圧でプレスした。OCEを、ローラープレスから取り出した。
【0088】
このようにして製造した酸素消費電極を、電解液として硫酸(1リットル当たり8gのAgSO、pH3)で酸性化した硫酸銀溶液を含有するカソード室中に設置した。OCEの電気接触は、上部に横たわる6mmのメッシュ開口を有するエキスパンドメタルにより行った。カソード室は、DuPont Nafion N 234イオン交換膜によりアノード室と分離した。アノード室は、32重量%濃度NaOHで充填し、1.5mm厚プラチナ被覆ニッケルシートは、アノードとして働いた。
【0089】
OCEは、設置前に、電解液中で、室温にて2時間状態調節した。
【0090】
OCEは、1kA/mの電流密度にて40分間還元した。
【0091】
OCEを、浴槽から取り出した。粘着性電解液を流出させた後、電極を、脱イオン化水を含有する浴槽中へ浸漬し、粘着性水を滴らせて除去した後、輸送に適した安定性電極を得た。
【0092】
OCEは、DuPONT N982WXイオン交換膜および3mmのOCEと膜との間の水酸化ナトリウム間隔を有する電解槽中での塩化ナトリウム溶液の電解中に用いた。電解電位は、4kA/mの電流密度、90℃の電解液温度および32重量%の水酸化ナトリウム濃度にて2.02Vであった。DENORAからの被覆物を有する市販の新規な金属被覆チタン電極を、アノードとして200g/LのNaCl濃度にて用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸送安定性および貯蔵安定性シート状酸素消費電極の製造方法であって、
導電性支持体、ガス拡散層および銀系触媒を含む層を供給する工程、
前記支持体を、酸化銀含有中間体で被覆する工程、および
前記酸化銀含有中間体を、水性電解液中で8未満のpHにて少なくとも部分的に電気化学的還元する工程
を含む、方法。
【請求項2】
電解液は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属群からの元素または銀のイオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
電解液は、銀イオンを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
電解液は、硫酸イオンおよび/または硝酸イオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
電解液は、1000ppm以下の塩化物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
電解液は、20ppm以下の塩化物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
還元は、0.1〜10kA/mの電流密度にて行う、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
酸化銀の還元を、50%を越える程度にまで生じさせる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
酸化銀の還元を、完全に生じさせる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
電解液は、少なくとも0.01mol/Lの金属カチオンの濃度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
電解液は、0.01mol/L〜2mol/Lの金属カチオンの濃度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
電気化学還元は、3〜8のpHにて行う、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
電気化学還元は、4〜7のpHにて行う、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
電気化学還元は、10〜95℃の温度にて行う、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
電気化学還元は、15℃〜50℃の温度にて行う、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
ガス拡散層および触媒含有層を、単一層により形成させる、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
ガス拡散層および触媒含有層を、少なくとも2つの異なった層により形成させる、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
請求項1に記載の方法により製造した酸素消費電極を含む、電解、特にクロルアルカリ電解のための酸素消費カソード。
【請求項19】
請求項1に記載の方法により製造した酸素消費電極を含む、燃料電池における電極または金属/空気電池における電極。
【請求項20】
酸素消費カソードとして請求項1に記載の方法により製造した酸素消費電極を含む、特にクロルアルカリ電解のための電解装置。

【公開番号】特開2012−77381(P2012−77381A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−219731(P2011−219731)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】