説明

輸送可能な物品をマイクロ波画像生成を使用して検査するシステム及び方法

【課題】可動部品を必要としない輸送可能な物品のセキュリティ検査に使用する費用効率の優れた簡単なマイクロ波画像生成システムを提供すること。
【解決手段】前記輸送可能な物品のターゲットに向かってマイクロ波放射の送信ビームを透過するべく導くように、個別の位相遅延によってプログラム可能である各送信アンテナ要素を含む送信走査パネルと、前記受信アンテナ要素のそれぞれは、前記ターゲットからマイクロ波放射の受信ビームを受信するべく個別の位相遅延によってプログラム可能である受信アンテナ要素を含む受信走査パネルと、前記受信ビーム内の前記マイクロ波放射の振幅と位相を計測し、前記ピクセルの基準値に基づいて、前記物品の画像内のピクセルの相対的な値を判定するプロセッサと、を備えたシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送可能な物品をマイクロ波画像生成を使用して検査するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テロの脅威の増大に呼応して、空港、コンサート、スポーツ行事、法廷、連邦政府の建物、学校、並びに、テロリストの攻撃のリスクに潜在的に晒されているその他のタイプの公的及び私的な施設などのセキュリティチェックポイントにおいて、武器やその他のタイプの禁制品に関する人間やその他の輸送可能な物品の検査が非常に重要になっている。現在、セキュリティチェックポイントに配備されている従来のセキュリティ検査システムは、セキュリティ要員、金属探知機、及びX線システムによって行われる視覚的及び/又は触覚的検査などの物理的な検査を含んでいる。しかしながら、セキュリティ要員による物理的検査は、冗長であって、信頼性が低く、侵襲的である。又、金属探知機は、誤警報を発しやすく、プラスチック又は液体爆発物、プラスチック又はセラミック製ピストル又はナイフ、並びに薬物などの非金属性物体を検出する能力を有していない。又、X線システムは、空港の要員など、特にX線の放射に繰り返し晒される人々に対して健康上のリスクをもたらすと共に、セラミックナイフなどの特定の材料/形状を検出することも不可能である。
【0003】
改善されたセキュリティ検査システムに対するニーズに応えるべく、既存のシステムに対する代替として、様々なマイクロ波画像生成システムが既に提案されている。マイクロ波放射とは、一般に、電波と赤外線波との間の波長を具備した電磁放射として定義される。X線放射と比べた場合のマイクロ波放射の利点は、マイクロ波放射には、電離が伴っておらず、従って、パワーレベルが適度であれば、既知の健康上のリスクを人間にもたらさないという点にある。又、マイクロ波放射のスペクトル帯域においては、ダンボール、プラスチック布、皮革、及び乾燥木材などの大部分の誘電材料は略透過性がある。従って、マイクロ波画像生成システムは、木製又はプラスチック製の箱、旅行カバン、封筒、布袋、及びその他のタイプの輸送可能な物品を透過する能力を具備している。
【0004】
現在、利用可能なマイクロ波画像生成法には、いくつかのものが存在する。例えば、1つの技法は、マイクロ波検出器のアレイを使用し、ターゲットから放射される受動的マイクロ波エネルギー又はターゲットへの能動的なマイクロ波放射に応答してターゲットから反射される反射的マイクロ波エネルギーのいずれかを取得している。物品の位置に関連して検出器のアレイを走査する(移動させる)と共に/又は、送信又は検出するマイクロ波エネルギーの周波数(又は、波長)を調節することにより、人間又はその他の物品の二次元又は三次元画像を構築している。例えば、非特許文献1は、走査バーを使用して検出器の線型アレイを機械的に移動させることによって物品又は人間を走査する三次元のホログラフィックマイクロ波画像生成法について記述している。この結果得られた計測データを使用し、物品のホログラフィック画像を再構築する。しかしながら、このような走査システムは、通常、機械的に動作する部品及び/又は集約的な後処理による画像の再構築を必要としており、これらは、いずれも、マイクロ波画像生成システムのコストと複雑さを増大させる。
【0005】
別の技法は、レンズを使用してマイクロ波検出器のアレイ上にマイクロ波放射ビームを合焦している。このタイプの技法について、例えば、非特許文献2に記述されている。しかしながら、レンズを使用してマイクロ波エネルギーを合焦するマイクロ波画像生成システムは、通常、視野が限定されていると共に、アパーチャサイズが小さい。又、多くのアプリケーションにおいて、レンズシステムのコストは法外に高い。
【非特許文献1】David M. Sheen他による「Three−Dimensional Millimeter−Wave Imaging for Concealed Weapon Detection」(IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques、第49巻、第9号、2001年9月、1581〜1592頁)
【非特許文献2】P. F. Goldsmith他による「Focal Plane Imaging Systems for Millimeter Wavelengths」(IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques、第41巻、第10号、1993年10月、1664〜1675頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、可動部品を必要としない輸送可能な物品のセキュリティ検査に使用する費用効率の優れた簡単なマイクロ波画像生成システムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施例は、輸送可能な物品のマイクロ波画像を取得するべく、マイクロ波画像生成システム内において使用する走査パネルの組を提供する。送信走査パネルは、送信アンテナ要素の送信アレイを含んでおり、このそれぞれは、透過するべく輸送可能な物品のターゲットに向かってマイクロ波放射の送信ビームを導くように、個別の位相遅延によってプログラム可能である。受信走査パネルは、受信アンテナ要素の受信アレイを含んでおり、このそれぞれは、ターゲットからマイクロ波放射の受信ビームを受信するべく、個々の位相遅延によってプログラム可能である。プロセッサが、受信ビーム内のマイクロ波放射の振幅と位相を計測し、ピクセルの基準値に基づいて、輸送可能な物品の画像内のピクセルの相対的な値を判定する。
【0008】
一実施例においては、送信及び受信アンテナ要素の少なくとも1つは、反射アンテナ要素である。マイクロ波源が、送信アンテナ要素の送信アレイに向かってマイクロ波放射を送信し、この送信アレイが、個々のプログラムされた位相遅延に基づいて、マイクロ波放射を反射し、マイクロ波放射の送信ビームをターゲットに向かって導いている。受信アンテナ要素の受信アレイは、ターゲットから受信ビームを受信し、受信アレイ内の受信アンテナ要素と関連付けられている更なる個別の位相遅延に基づいて、受信ビームをマイクロ波レシーバに向かって反射するべく構成されている。
【0009】
更なる実施例においては、送信走査パネルと受信走査パネルの間に画像生成領域が定義されている。プロセッサは、ターゲットが空間的に画像生成領域のエッジの近傍に配置されている場合には、ターゲットの散乱特性を使用してピクセルの相対的な値を判定する。プロセッサは、ターゲットが空間的に画像生成領域の中央の近傍に配置されている場合には、ターゲットの透過特性を使用してピクセルの相対的な値を判定する。
【0010】
更に別の実施例においては、輸送可能な物品の存在を伴うことなしに、ターゲットに関連付けられている空間的な場所において計測されたピクセルの基準値をメモリが保存する。プロセッサは、受信ビーム内のマイクロ波放射の振幅と位相に基づいて、ピクセルの現在の値を判定する。現在の値と基準値間の複素差分の絶対値を演算することにより、ピクセルの相対的な値が判定される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照し、本開示の発明について説明するが、これらの図面は、本発明の重要な実施例を示しており、これらは、本引用によって本明細書に含まれる。
【0012】
本明細書において使用する「マイクロ波放射(Microwave radiation)」及び「マイクロ波照射(Microwave Illumination)」という用語は、それぞれ、約1GHz〜約1,000GHzの周波数に対応する0.3mm〜30cmの波長を具備した電磁放射の帯域を意味している。従って、「マイクロ波放射」及び「マイクロ波照射」という用語は、それぞれ、従来のマイクロ波放射に加え、ミリメートル波放射と一般に呼ばれているものをも含んでいる。
【0013】
図1は、本発明の実施例による簡単な例示によるマイクロ波セキュリティ検査システム10の概略図である。マイクロ波セキュリティ検査システム10は、その上部に輸送可能な物品30が配置されるコンベアベルト20を含んでいる。又、マイクロ波セキュリティ検査システム10は、走査パネル50及び55の組を更に含んでいる。第1走査パネル(例えば、走査パネル50)は、輸送可能な物品30に向かってマイクロ波放射を送信する能力を有する送信走査パネルである。第2走査パネル(例えば、走査パネル55)は、輸送可能な物品30から散乱した又はこれを透過したマイクロ波放射を受信する能力を有する受信走査パネルである。送信走査パネル50と受信走査パネル55の間には、画像生成領域40が定義されており、これを通じて、マイクロ波放射が、送信走査パネル55から受信走査パネル55に向かって伝播する。コンベアベルト20は、画像生成領域40を経由して輸送可能な物品30の動きを制御している。
【0014】
一実施例においては、走査パネル50及び55の1つ又は複数のものが、能動アンテナ要素から構成された能動送信機/受信機アレイを含んでいる。送信走査パネル50は、輸送可能な物品30と関連付けられている画像生成領域40内のターゲット位置に向かってマイクロ波放射を生成及び送信する能力を有する能動アンテナ要素を含んでおり、受信走査パネル55は、ターゲット位置において散乱した又はこれを透過したマイクロ波放射を受信及び取得する能力を有する能動アンテナ要素を含んでいる。例えば、能動送信アレイ(走査パネル50)内の能動アンテナ要素のそれぞれは、マイクロ波放射のビームをターゲット位置に向かって操縦するべく個別の位相シフトによって個別にプログラム可能である。更には、能動受信アレイ(走査パネル55)内の能動アンテナ要素のそれぞれは、ターゲット位置から散乱/透過したマイクロ波放射を受信するべく個別の位相シフトによって個別にプログラム可能である。
【0015】
別の実施例においては、図1に示されているように、走査パネル50及び55の1つ又は複数のものが、反射アンテナ要素から構成されたプログラム可能な受動反射器アレイを含んでいる。送信マイクロ波アンテナ(ホーン)60が、マイクロ波放射の送信ビームを送信走査パネル50に向かって送信する。送信走査パネル50内の反射アンテナ要素のそれぞれは、輸送可能な物品30と関連付けられた画像生成領域40内のターゲット位置に向かってマイクロ波放射の送信ビームを導くように、個別の2値の又は連続的な位相の遅延によってプログラムされている。ターゲット位置において輸送可能な物品30から散乱した又はこれを透過したマイクロ波放射は、受信走査パネル55によって受信される。受信走査パネル55内の反射アンテナ要素のそれぞれは、輸送可能な物品30から受信されたマイクロ波放射を受信マイクロ波アンテナ(ホーン)65に向かって導くように、個別の2値の又は連続的な位相の遅延によってプログラムされている。
【0016】
その他の実施例においては、送信及び受信走査パネル50及び55は、それぞれ、透過アレイであってよく、ホーン60及び65は、それぞれ、送信及び受信走査パネル50及び55を背後から照射するべく、それぞれ走査パネル50及び55の背後に配置されていることを理解されたい(即ち、アレイ50及び55が、物品30とホーン60及び65の間に位置している)。又、その他の実施例においては、ハイブリッドな設計はアレイ50又は55の1つが、前面から照射される反射器アレイであり、もう一方のアレイ50又は55が、背後から照射される透過アレイであることが可能であることを理解されたい。
【0017】
アンテナ要素60は、マイクロ波送信機70によって制御され、アンテナ要素65は、マイクロ波受信機75によって制御されている。一実施例においては、マイクロ波送信機70は、アンテナ要素60を駆動して送信走査パネル50を照射し、この送信走査パネルが、マイクロ波放射の送信ビームを輸送可能な物品30と関連付けられた画像生成領域40内のターゲット位置(例えば、物品の内部又はその上部)に向かって送信する。別の実施例においては、マイクロ波受信機75が、受信走査パネル55から反射された受信マイクロ波放射を監視し、反射マイクロ波放射の大きさ及び/又は位相を受信マイクロ波放射の方向の関数として計測し、マイクロ波放射に対する輸送可能な物品30の応答の特性に対応したマイクロ波計測値を記録する。一実施例においては、マイクロ波計測値は、輸送可能な物品30から散乱した波面の振幅及び位相の計測値を含んでいる。
【0018】
マイクロ波受信機75、又は受信走査パネル55(走査パネルが能動アンテナ要素を含んでいる場合)によって記録された計測値は、これらの計測値に基づいて輸送可能な物品30のマイクロ波画像を構築するべく動作するプロセッサ100に対して送信される。一般に、プロセッサ100は、画像生成領域内のそれぞれのターゲット位置ごとに複素値(振幅及び位相)を受信し、複素値を組み合わせて輸送可能な物品30のマイクロ波画像を生成する。例えば、プロセッサ100は、受信した複素値を輸送可能な物品30と関連付けられているターゲット位置と関連付け、受信した複素値をマイクロ波画像内のピクセルの値に入力する。入力されるマイクロ波画像内のピクセルの位置は、輸送可能な物品30と関連付けられているターゲット位置に対応している。動作の際には、マイクロ波セキュリティ検査システム10は、1秒当たり数百万の画像生成領域内のターゲットを走査可能な周波数において動作可能である。従って、コンベアベルト20の動作速度は、輸送可能な物品30が画像生成領域40内を移動する際に完全なマイクロ波画像を取得できるように十分に低速である。
【0019】
走査パネル50及び55が受動反射器アレイである実施例においては、受信マイクロ波アンテナ65は、受信走査パネル55内のそれぞれのアンテナ要素から反射された受信マイクロ波放射を組み合わせてターゲット位置におけるマイクロ波放射の有効な振幅及び位相値を生成する能力を有している。この複素値がプロセッサ100に伝達され、このプロセッサが、複素値を使用してターゲット位置に対応したピクセルの値を判定する。
【0020】
更には、プロセッサ100は、走査パネル50及び55内の個々のアンテナ要素のそれぞれの位相遅延又は位相シフトをプログラムし、輸送可能な物品30と関連付けられている画像生成領域40内の複数のターゲットをマイクロ波放射によって照射すると共に/又は、輸送可能な物品30と関連付けられている複数のターゲットから反射したマイクロ波放射を受信するべく動作する。従って、プロセッサ100は、走査パネル50及び55と連携して、輸送可能な物品30を走査するべく動作する。
【0021】
プロセッサ100は、走査パネル50及び55とマイクロ波アンテナ60及び65を制御し、輸送可能な物品30から受信されたマイクロ波放射を処理して輸送可能な物品30のマイクロ波画像を構築するハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらの組み合わせを含んでいる。例えば、プロセッサ100は、1つ又は複数のマイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、プログラム可能なロジック装置、デジタル信号プロセッサ、又はコンピュータプログラムの命令を実行するべく構成されたその他のタイプの処理装置と、プロセッサ100が使用する命令及びその他のデータを保存する1つ又は複数のメモリ(例えば、キャッシャメモリ)を含むことができる。但し、プロセッサ100のその他の実施例も使用可能であることを理解されたい。又、プロセッサ100は、いくつかのアルゴリズムを実行する能力を有する複数のプロセッサ又は単一の汎用プロセッサを含むことも可能である。
【0022】
プロセッサ100は、計測値を使用し、輸送可能な物品30のマイクロ波画像を表すマイクロ波画像データ(例えば、ピクセル又はボクセル値)を生成する。マイクロ波画像データは、コンピュータ可読媒体110内に保存される。コンピュータ可読媒体110は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read−Only Memory)、フラッシュメモリ、EEPROM、ディスクドライブ、コンパクトディスク、フロッピーディスク又はテープドライブ、或いは、その他のタイプのストレージ装置などのメモリ装置であってよい。更なる処理情報をコンピュータ可読媒体110上に保存し、プロセッサ100によってアクセスすることも可能である。このような処理情報は、例えば、計測値を処理し、マイクロ波画像データを生成するのに使用可能なアルゴリズムなどの様々な処理パラメータを含むことができる。
【0023】
プロセッサ100は、結果的に得られる輸送可能な物品30のマイクロ波画像をメモリ110から表示装置120に出力し、輸送可能な物品30のマイクロ波画像を表示可能である。一実施例においては、表示装置120は、輸送可能な物品30の三次元マイクロ波画像又は輸送可能な物品30の1つ又は複数の2次元マイクロ波画像を表示する2次元ディスプレイである。別の実施例においては、表示装置120は、輸送可能な物品30の三次元マイクロ波画像を表示する能力を有する三次元ディスプレイである。
【0024】
図2は、本発明の実施例による図1の検査システム内において使用する簡単な例示による走査パネル50の概略図である。図2の走査パネル50は、米国特許出願第10/997422号(代理人ドケット番号第10040151号)に記述されているように、それらのインピーダンス状態に応じて変化する位相を有する電磁放射を反射する個別の反射アンテナ要素200を含む反射器アンテナアレイである。理想的には、反射アンテナ要素200は、それらのインピーダンスが、それらのインピーダンスが低い場合と比べて高い場合に、180度の位相シフトを有する(2値位相シフトされた)電磁放射を反射する。反射アンテナ要素200は、個別に制御可能であり、反射器アンテナアレイは、通常、駆動電子回路(図2には示されていない)によってサポートされている。反射器アンテナアレイは、プリント回路基板などの基板の上部又はこの内部に形成される。一例においては、反射器アンテナアレイは、略1平方メートルの表面積を具備しており、10,000個〜100,000個の行210及び列220に配列された個別に制御可能な反射アンテナ要素200によって覆われている。
【0025】
それぞれの反射アンテナ要素200は、アンテナと非理想的なスイッチング装置を含んでいる。アンテナは、反射アンテナ要素200のインピーダンスレベルに応じて異なる程度に電磁放射のビームを吸収又は反射するべく機能する。反射器アンテナアレイに内蔵可能なアンテナタイプの例は、パッチ、ダイポール、モノポール、ループ、及び誘電体共振器タイプのアンテナを含んでいる。反射器アンテナアレイのアプリケーションにおいては、アンテナは、しばしば、反射器アンテナアレイ基板の表面上の単一平面内に形成されている。アンテナは、アンテナ設計パラメータの関数であるインピーダンス特性を具備している。アンテナの設計パラメータは、構造の誘電体材料、誘電体材料の厚さ、アンテナの形状、アンテナの長さ及び幅、給電場所、及びアンテナ金属レイヤの厚さなどの物理的な属性を含んでいる(但し、これらに限定されない)。
【0026】
非理想的なスイッチング装置は、その抵抗状態を変化させることによって反射アンテナ要素200のインピーダンス状態を変化させる。低抵抗状態(例えば、閉じた状態すなわち「短絡」)は、低インピーダンスになる。逆に、高抵抗状態(例えば、開いた状態)は、高イピーダンスになる。理想的な性能特性を有するスイッチング装置(本明細書においては、これを「理想的」なスイッチング装置と呼ぶ)は、その抵抗がその最低状態にある場合に、事実上、ゼロのインピーダンス(Z=0)を生成し、その抵抗がその最大状態にある場合に、事実上、無限大のインピーダンス(Z=∞)を生成する。本明細書に説明されているように、スイッチング装置は、そのインピーダンスがその最低状態にある(例えば、Zon=0)の場合に、「オン」であり、そのインピーダンスがその最大状態にある(例えば、Zoff=∞)場合に、「オフ」である。理想的なスイッチング装置のオン及びオフのインピーダンス状態は、事実上、Zon=0及びZoff=∞であるため、理想的なスイッチング装置は、オン及びオフ状態間における電磁放射の吸収を伴うことなしに、最大位相シフトを提供可能である。即ち、理想的なスイッチング装置は、0度と180度の位相シフト間におけるスイッチングを提供可能である。理想的なスイッチング装置の場合には、有限な非ゼロのインピーダンスを示すアンテナによって最大位相/振幅性能を実現可能である。
【0027】
理想的なスイッチング装置とは対照的に、「非理想的」なスイッチング装置とは、それぞれ、Zon=0及びZoff=∞でオン及びオフのインピーダンス状態を示さないスイッチング装置である。むしろ、非理想的なスイッチング装置のオン及びオフのインピーダンス状態は、通常、例えば、0<|Zon|<|Zoff|<∞の間のどこかに位置している。但し、用途によっては、オン及びオフのインピーダンス状態が|Zoff|<=|Zon|であってもよい。非理想的なスイッチング装置は、特定の周波数レンジ(例えば、<10GHz)内においては、理想的なインピーダンス特性を示し、その他の周波数レンジ(例えば、>20GHz)においては、かなり非理想的なインピーダンス特性を示し得る。
【0028】
非理想的なスイッチング装置のオン及びオフのインピーダンス状態は、Zon=0とZoff=∞の間のどこかに位置しているため、非理想的なスイッチング装置は、必ずしも、対応するアンテナのインピーダンスと無関係に最大位相状態性能を得ることはできない。ここで、最大位相状態性能は、0度と180度の位相状態間におけるスイッチングを必要とするものである。本発明によれば、非理想的なスイッチング装置を利用する反射器アンテナアレイのアンテナは、特に最適な位相性能を提供するべく設計されており、この反射アンテナ要素の最適な位相状態性能とは、反射要素が0度と180度の位相/振幅状態間におけるスイッチングに最も近接したポイントである。一実施例においては、最適な位相状態性能を実現するべく、アンテナは、非理想的なスイッチング装置のインピーダンスの関数として構成されている。例えば、アンテナは、そのアンテナのインピーダンスが非理想的なスイッチング装置のインピーダンス特性の関数となるように設計されている。
【0029】
又、アンテナは、オン状態Zonにおける非理想的なスイッチング装置のインピーダンスの関数と、オフ状態Zoffにおける非理想的なスイッチング装置のインピーダンスの関数として構成されている。特定の実施例においては、それぞれのアンテナインピーダンスがオン及びオフのインピーダンス状態Zon及びZoffにある際に非理想的なスイッチング装置のインピーダンスの平方根に対して共役となるようにアンテナが構成されている場合に、反射要素の位相状態性能は最適化される。具体的には、それぞれのアンテナのインピーダンスは、対応する非理想的なスイッチング装置のオン及びオフのインピーダンス状態Zon及びZoffの幾何平均の複素共役である。この関係は、次式によって表される。
【数1】

【0030】
この関係は、ソースインピーダンス(source impedance)と負荷インピーダンス間における複素反射係数の周知の式を使用して導出される。アンテナを電源として選択すると共に、非理想的なスイッチング装置を負荷として選択し、オン状態の反射係数がオフ状態の反射係数の逆と等しくなるように設定することにより、式(1)が得られる。
【0031】
最適な位相−振幅性能を示すアンテナの設計は、反射アンテナ要素200内において使用される特定の非理想的なスイッチング装置のオン及びオフのインピーダンスZon及びZoffを決定しなければならない。次いで、アンテナの設計パラメータを操作し、前述の式(1)に表されている関係と整合するインピーダンスを有するアンテナを生成する。Zon及びZoffが異なる値になるように決定される限り、式(1)に適合するアンテナを設計することができる。
【0032】
対象の周波数帯域にわたって非理想的なインピーダンス特性を示すタイプのスイッチング装置は、表面実装電界効果トランジスタ(FET)や表面実装ダイオードなどの低コストの表面実装装置を含んでいる。表面実装FETは、対象の周波数帯域にわたって非理想的なインピーダンス特性を示すが、これらは、相対的に廉価であり、反射器アンテナアレイ用途に使用するように個別にパッケージ化可能である。
【0033】
一実施例においては、反射器アンテナアレイ50内のアンテナ要素200は、プレーナーパッチアンテナ(planar patch antennas、平面状のパッチアンテナ)を含んでいる。図3は、本発明の実施例による非理想的なスッチング装置として表面実装FET322を有するプレーナーパッチアンテナ320aを利用したアンテナ要素200の断面図である。反射アンテナ要素200は、プリント回路ボード基板314の上部及びこの内部に形成されており、表面実装FET322、パッチアンテナ320a、ドレインバイア(drain via)332、接地平面336、及びソースバイア(source via)338を含んでいる。表面実装FET322は、プレーナーパッチアンテナ320aとは反対側のプリント回路ボード基板314の面上に取り付けられており、接地プレーン336が、プレーナーパッチアンテナ320aと表面実装FET332の間に配置されている。ドレインバイア332が、表面実装FET332のドレイン328をプレーナーパッチアンテナ320aに接続しており、ソースバイア338が、表面実装FET332のソース326を接地プレーン336に接続している。
【0034】
稼動製品においては、反射器アンテナアレイを駆動電子回路を含むコントローラボード340に接続可能である。図3には、コントローラボードの例340も示されており、接地プレーン344、駆動信号ビア346、及び駆動電子回路342を含んでいる。又、コントローラボード340は、反射器アンテナアレイのコネクタ350と互換性を有するコネクタ348をも含んでいる。2つのボードのコネクタ348は、例えば、ウェーブソルダリングを使用して相互接続可能である。その他の実施例においては、FET322は、プレーナーパッチアンテナ320aとプリント回路ボード基板314の同一の面上に表面実装可能であることを理解されたい。又、反射アンテナ要素200が構築される同一のプリント回路ボードに駆動電子回路342を直接はんだ付けすることも可能である。
【0035】
FETを非理想的なスイッチング装置として利用する反射器アンテナアレイにおいては、実現可能なビーム走査速度は、信号対雑音比、クロストーク、及びスイッチング時間を含むいくつかの要因によって左右される。FETの場合には、スイッチング時間は、ゲート容量、ドレイン/ソース容量、及びチャネル抵抗(即ち、ドレイン/ソース抵抗)によって左右される。チャネル抵抗は、実際には、空間と時間の両方に依存している。インピーダンス状態間におけるスイッチング時間を極小化するには、好ましくは、FETのドレインを常に直流短絡する。ドレインをフロート状態にすると、大きなオフ状態チャネル抵抗に加え、パッチアンテナの巨大な平行プレート面積に起因した大きなドレイン/ソース容量が生じるため、ドレインは、常に直流短絡しておくのが好ましい。これは、アンテナの直流短絡が好ましいが、ソースにおいて、アンテナが「高周波短絡」のみを観測するのが望ましいことを意味している。従って、付加的なアンテナ/ドレイン短絡は、アンテナの混乱(perturb)を最小限にするべく、最適に配置しなれければならない。
【0036】
その他の実施例においては、反射器アンテナアレイは、FETを可変コンデンサ(例えば、BST(Barium Strontium Titanate)コンデンサ)によって置換することにより、連続的に位相シフトされたアンテナ要素200を含むことができる。可変コンデンサを採用したパッチによれば、FETを採用したパッチが生成する2値位相シフトの代わりに、それぞれのアンテナ要素200ごとに連続的な位相シフトを実現可能である。ビーム走査パターン内の任意の方向に向かってマイクロ波ビームを操縦するべく、連続的に位相シフトされたアレイを調節して所望の位相シフトを提供可能である。
【0037】
図4は、本発明の実施例によるマイクロ波放射を反射する模範的な走査パネル50の平面図の概略図である。図4においては、マイクロ波アンテナ60から送信されたマイクロ波放射400は、走査パネル50内の様々なアンテナ要素200によって受信される。アンテナ要素200は、それぞれ、反射マイクロ波放射410をターゲット420に向かって導くように、個別の位相遅延によってプログラムされている。位相遅延は、ターゲット420において、アンテナ要素200のそれぞれからの反射マイクロ波放射410の肯定的な干渉が生成されるように選択されている。理想的には、アンテナ要素200のそれぞれの位相シフトは、ソース(アンテナ要素200)からターゲット420に向かう反射マイクロ波放射410のそれぞれの経路ごとに、同一の位相遅延を提供するように調節される。
【0038】
更なる実施例においては、走査パネルは、能動アンテナ要素を含む能動送信/受信アレイである。送信/受信アレイ内において使用する能動アンテナ要素500の一例が、図5に示されており、且つ、同時係属中の本出願人に譲渡された米国特許出願第10/997,583号(代理人ドケット番号第10040580号)に記述されている。能動アンテナ要素500は、個々のスイッチ515に接続されたアンテナ510を含む広帯域2値位相アンテナ要素(broadband binary phased antenna element)である。スイッチ515は、例えば、単極双投(SPDT)スイッチ又は二極双投(DPDT)スイッチである。スイッチ515の動作状態によって個々のアンテナ要素500の位相を制御する。例えば、スイッチ515の第1の動作状態においては、アンテナ要素500は、第1の2値状態(例えば、0度)にあり、スイッチ515の第2の動作状態においては、アンテナ要素500は、第2の2値状態(例えば、180度)にある。スイッチ515の動作状態は、スイッチ515の端子接続を定義している。例えば、第1動作状態においては、端子518は、アンテナ510とスイッチ515間で給電ライン516を接続するべく、閉じた(短絡)位置にあり、端子519は、開いた位置にある。それぞれのスイッチ515の動作状態は、各アンテナ要素500の位相を個別に設定するように制御回路(図示せず)によって独立に制御される。
【0039】
本明細書において使用されている「対称アンテナ(symmetric antenna)510」という用語は、2つの反対の対称的な電界分布(又は電流)の1つを生成するべく、2つの給電点511又は513のいずれかにおいて受電又は給電可能なアンテナを意味している。図12に示されているように、そのミラー軸550を中心として形状が対称的な対称アンテナ510を使用することにより、2つの反対の対称的な電界分布が生成されている。ミラー軸550は、アンテナ510を通過することにより、2つの対称的なサイド552及び554を生成している。給電ポイント511及び513は、アンテナ510のミラー軸550のいずれかのサイド552及び554上に配置される。一実施例においては、給電ポイント511及び513は、アンテナ510上において、ミラー軸550を中心として実質的に対称的に配置されている。例えば、ミラー軸550は、アンテナ510の1つの次元(寸法)560(例えば、長さ、幅、高さなど)に対して平行に延長可能であり、給電ポイント511及び513は、次元(寸法)560の中点570の近傍に配置可能である。図12においては、給電ポイント511及び513は、ミラー軸550のそれぞれのサイド552及び554上のアンテナ510の中点570の近傍に配置された状態で示されている。
【0040】
対称アンテナ510は、A及びBで示した2つの反対の対称的な電界分布を生成する能力を有している。電界分布Aの振幅大きさ(例えば、パワー)は、フィールド分布Bの大きさと実質的に同一であるが、フィールド分布Aの位相は、フィールド分布Bの位相と180度だけ異なっている。従って、フィールド分布Aは、電気サイクル内の±180°におけるフィールド分布Bに似ている。
【0041】
対称アンテナ510は、給電線516及び517を介して対称スイッチ515に接続されている。給電ポイント511は、給電線516を介して対称スイッチ515の端子518に接続されており、給電ポイント513は、給電線517を介して対称スイッチ515の端子519に接続されている。本明細書において使用されている「対称スイッチ」という用語は、スイッチの2つの動作状態が、端子518及び519を中心にして対称的なSPDT又はDPDTスイッチを意味している。
【0042】
例えば、SPDTスイッチの第1動作状態において、チャネルαのインピーダンスが10Ωであり、チャネルβのインピーダンスが1kΩの場合は、SPDTスイッチの第2動作状態において、チャネルαのインピーダンスは1kΩで、チャネルβのインピーダンスは10Ωである。チャネルインピーダンスが、完全に開いた状態でも、短絡でも、ましてや実数である必要はないことを理解されたい。さらに、クロストークが状態に関して対称である限り、チャネル間にクロストークが存在してもよい。一般に、スイッチは、スイッチのSパラメータマトリックスが、スイッチの2つの動作状態において(例えば、2つの端子518及び519間において)同一であれば、対称である。
【0043】
その他のタイプのアンテナ要素を使用し、走査対象である輸送可能な物品との間でマイクロ波放射を送信、受信、及び/又は反射することも可能であることを理解されたい。さらに、走査パネルのサイズと形状は、マイクロ波セキュリティ検査システムの特定の用途によって左右されることについても理解されたい。更には、その他の実施例においては、複数の送信及び/又は受信走査パネルを使用して輸送可能な物品を走査可能である。
【0044】
次に図6A及び図6Bを参照すれば(これについては、図1に示されているマイクロ波セキュリティ検査システムとの関連で説明する)、画像生成領域40内に輸送可能な物品30が存在しない状態で送信及び受信走査パネル50及び55間の画像生成領域40を走査することにより、透過及び散乱したマイクロ波放射の混合を有する画像が生成されている。画像生成領域40の中央近傍のターゲットは、主に、ターゲットを通ったマイクロ波放射の透過によって(ターゲットの透過特性に基づいて)画像生成され、画像生成領域40の周辺近傍のターゲットは、主に散乱したマイクロ波放射によって(ターゲットの散乱特性に基づいて)画像生成される。従って、アルゴリズム的な処理を伴うことなしに、画像生成領域40の中央近傍の不透明な物体は、明るい背景に対して暗く見える。同様に、アルゴリズム的な処理を伴うことなしに、画像生成領域40の周辺近傍に位置する電磁(EM)スペクトルのマイクロ波部分によって輝く物体は、暗い背景に対して明るく見える。
【0045】
図6A及び図6Bは、本発明の実施例による輸送可能な物品30が存在しない状態のアレイ50及び55間の画像生成領域40の模範的な走査を示す断面画像である。図6A及び図6Bにおいて、x軸は、コンベアベルト20の動きの方向に対応しており、z軸は、送信走査パネル50から受信走査パネル55に向かう方向に対応し、y軸は、コンベアベルト20の面に直交する垂直方向に対応している。走査パネル50及び55の両方が、辺が2メートルの正方形であって、y方向において互いに平行に配置されており、z方向において2メートルだけ離隔している場合には、原点(0,0,0)は、それぞれの走査パネル50及び55の中心の間の途中のポイントとして定義可能である。輸送可能な物品30が存在しない状態の2つの走査パネル50及び55間の画像生成領域40の走査は、原点の近傍においては、明るく、周辺に向かって暗い容積画像を生成する。この容積画像の2つの断面が、図6A及び図6Bに示されている。
【0046】
図6A及び図6Bに示されている断面画像は、マイクロ波信号の振幅のみを表していることに留意されたい。但し、その他の実施例においては、マイクロ波信号の振幅及び位相、又は、等価に、実数(同相)及び虚数(直交)成分が記録される。
【0047】
容積画像内に透過及び散乱したマイクロ波放射の両方が存在している場合には、画像は、一貫性のあるコントラスト(明るい背景又は暗い背景)を完全に欠いている。一貫性のあるコントラストを有するマイクロ波画像を観察者に対して描画するには、表示の前に、異なるタイプの(透過及び散乱した)放射を補償するべく画像を処理する。
【0048】
図7は、本発明の実施例による一貫性のあるコントラストを有するマイクロ波画像を生成するマイクロ波セキュリティ検査システム10の模範的な動作を示す概略図である。最初に較正手順を実行する(送信マイクロ波アンテナ(ホーン)60が、コヒーレントな(単色性の)マイクロ波放射によって送信走査パネル50を照射し、コンベアベルト20上に輸送可能な物品が存在していない状態で画像生成領域40内のターゲット700位置において画像生成領域40を走査する)。ターゲット700から散乱した又は画像生成領域40を透過したマイクロ波放射を受信走査パネル55によって受信し、受信マイクロ波アンテナ(ホーン)65に向かって導く。
【0049】
それぞれのピクセル(2D走査)又はボクセル(3D走査)は、適切な2値位相を走査パネル50及び55内のアンテナ要素のそれぞれに読み込むことにより、送信及び受信走査パネル50及び55の両方によってアドレス指定する。この結果得られる走査によって画像生成領域40の基準(「背景」)画像が生成され、これがメモリ110内に保存される。従って、基準画像内のそれぞれのピクセル又はボクセルごとに、透過及び/又は散乱したマイクロ波放射を表す複素値(振幅及び位相)がメモリ110内に保存される。この較正手順が実行されるのは、まれである(例えば、システム初期化の際)。
【0050】
この後に、コンベアベルト20上に輸送可能な物品30が存在する状態で、同一のターゲット700の位置における画像生成領域40の走査を実行する。この後者の走査によって、画像生成領域40の現在の画像が生成される。現在の画像と基準画像をプロセッサ100内の画像コントラスト調節エンジン710に入力し、対応する基準画像ピクセル(又は、ボクセル)値から現在の画像ピクセル(又は、ボクセル)値を減算することにより、コントラストが一貫している出力マイクロ波画像として、複素差分の大きさ(その絶対値又は二乗)を表示装置120上に表示する。例えば、一実施例においては、画像コントラスト調節エンジン710は、それぞれのピクセル(又は、ボクセル)ごとに、現在の値と基準値間の複素差分の絶対値を演算することにより、ピクセル(又は、ボクセル)の相対的な値を判定している。
【0051】
輸送可能な物品30が静止状態で画像生成領域40内に配置されている際、又は輸送可能な物品30が(例えば、コンベアベルト20によって提供される一定の速度で)動いている際に、輸送可能な物品30の走査を実行可能である。x−y−z空間における輸送可能な物品30の位置は、次式によって表すことができる。
【0052】
item=xsystem−vt (2)
ここで、xitemは、固定された物品内(即ち、輸送可能な物品30が静止している場合の輸送可能な物品30内)のx座標であり、xsystemは、検査システムの固定されたx座標であり、vは、コンベアベルト20の速度であり、tは、走査の開始からの経過時間量である。マイクロ波セキュリティ検査システムのオペレータが、輸送可能な物品を停止させ(v=0)、静止した容積走査を実行した場合には、xitem=xsystemである。
【0053】
しかしながら、走査の際に、輸送可能な物品が動いている場合には、一実施例においては、システム10は、単一のyzプレーン(xsystem=0又は任意の定数)を容積走査可能であり、且つ、コンベアベルト20は、x走査を提供可能である。別の実施例においては、システム10は、xsystem−y−z空間内において容積走査可能であり、プロセッサ100は、式(2)を使用し、容積走査をxitem−y−z空間に変換可能である。動作の際には、システム10は、1秒当たり百万ボクセルを走査する能力を有しており、従って、通常の輸送可能な物品の開始から終了までの経過時間は1秒未満である。通常のコンベアの速度は、10〜40cm/sであるため、プロセッサ補正を高い(例えば、マイクロ波システムの半波長分解能を上回る)精度で容易に適用可能である。従って、物品の動きによって画像品質は劣化しない。
【0054】
図8は、本発明の実施例による輸送可能な物品のマイクロ波画像を描画する模範的なプロセス800を示すフローチャートである。まず、ブロック810において、マイクロ波セキュリティ検査システム内において使用するべく、それぞれがプログラム可能なアンテナ要素を含む送信アレイ及び受信アレイを含む走査パネルの組を提供する。ブロック820において、マイクロ波セキュリティ検査システム内のターゲット位置の基準ピクセル値を判定するべく、較正プロセスを実行する。例えば、送信アレイと受信アレイ間に定義されている画像生成領域内のそれぞれのターゲットごとに、マイクロ波放射の送信ビームをターゲットに向かって導くように、送信アレイ内のアンテナ要素のそれぞれを個別の位相遅延よってプログラムする。受信アレイ内のアンテナ要素のそれぞれを個別の位相遅延によってプログラムすることにより、ターゲットからの透過及び/又は散乱したマイクロ波放射を受信ビーム内の受信アレイにおいて受信する。受信ビーム内のマイクロ波放射の振幅と位相を使用し、画像生成領域の画像内の基準ピクセル(又は、ボクセル)値を判定する(基準ピクセルは、画像生成領域内のターゲット位置に空間的に対応している)。
【0055】
較正プロセスが完了したら、段階830において、較正プロセスにおいて基準ピクセル値を取得したものと同一のターゲット(即ち、x−y−z画像生成領域空間内の特定の位置)に向かってマイクロ波放射の送信ビームを導くように、送信アレイ内のアンテナ要素のそれぞれを個別の位相遅延によってプログラムすることにより、マイクロ波セキュリティ検査システム内に配置されている輸送可能な物品のマイクロ波画像を描画する。段階840において、個別の位相遅延によって受信アレイ内のアンテナ要素のそれぞれをプログラムすることにより、ターゲットからの透過及び/又は散乱したマイクロ波放射を受信ビーム内の受信アレイにおいて受信する。段階850において、受信ビーム内のマイクロ波放射の振幅及び位相を使用し、輸送可能な物品の画像内の現在のピクセル(又は、ボクセル)値を判定する(現在のピクセルは、画像生成領域内のターゲット位置に空間的に対応している)。
【0056】
段階860において、現在のピクセル値と基準ピクセル値から、ターゲットの相対的なピクセル値を判定する。例えば、相対的なピクセル(又は、ボクセル)値は、ターゲットの現在のピクセル値と基準ピクセル値間の複素差分の絶対値を演算することによって判定可能である。段階870において、較正プロセスにおいて基準ピクセル値を取得したそれぞれのターゲットごとに、このプロセスを反復する。段階880において、すべてのターゲットについて演算された相対的なピクセル値から、輸送可能な物品のマイクロ波画像を構築する。
【0057】
当業者であれば、本出願において説明した革新的な概念が、様々なアプリケーションにおいて変更及び変形可能であることを認識するであろう。従って、特許の対象範囲は、説明した特定の模範的な開示内容に限定されるものではなく、添付の請求項に定義されているとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施例による輸送可能な物品の画像を生成する単純な模範的なマイクロ波セキュリティ検査システムの概略図である。
【図2】本発明の実施例による図1の検査システム内において使用される単純な模範的な走査パネルの概略図である。
【図3】本発明の実施例による図2の走査パネルの模範的なアンテナ要素の断面図である。
【図4】本発明の実施例によるマイクロ波放射を反射する模範的な走査パネルの平面図の概略図である。
【図5】図1に示されている検査システムの走査パネル内において使用される模範的な能動アンテナ要素を示している。
【図6A】本発明の実施例による輸送可能な物品が存在していない状態のアレイ間の画像生成領域の模範的な走査を示す断面画像である。
【図6B】本発明の実施例による輸送可能な物品が存在していない状態のアレイ間の画像生成領域の模範的な走査を示す断面画像である。
【図7】本発明の実施例によるマイクロ波セキュリティ検査システムの模範的な動作を示す概略図である。
【図8】本発明の実施例による輸送可能な物品のマイクロ波画像を描画する模範的なプロセスを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0059】
10 マイクロ波検査システム
20 コンベアベルト
30 輸送可能な物品
40 画像生成領域
50 送信走査パネル
60 マイクロ波源
55 受信走査パネル
100 プロセッサ
200 送信アンテナ要素、受信アンテナ要素
700 ターゲット
65 受信マイクロ波アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸送可能な物品を検査するマイクロ波検査システムであって、
送信アンテナ要素の送信アレイを含む送信走査パネルであって、前記送信アンテナ要素のそれぞれは、前記輸送可能な物品のターゲットに向かってマイクロ波放射の送信ビームを透過するべく導くように、個別の位相遅延によってプログラム可能である、送信走査パネルと、
受信アンテナ要素の受信アレイを含む受信走査パネルであって、前記受信アンテナ要素のそれぞれは、前記ターゲットからマイクロ波放射の受信ビームを受信するべく個別の位相遅延によってプログラム可能である、受信走査パネルと、
前記受信ビーム内の前記マイクロ波放射の振幅と位相を計測し、前記ピクセルの基準値に基づいて、前記輸送可能な物品の画像内のピクセルの相対的な値を判定するべく動作可能なプロセッサと、
を備えたシステム。
【請求項2】
前記送信アレイ及び前記受信アレイのそれぞれは、反射器アンテナアレイであり、
前記送信アンテナ要素及び前記受信アンテナ要素は、反射アンテナ要素であり、
前記送信アンテナ要素は、マイクロ波源からマイクロ波放射を受信し、前記個々のプログラムされた位相遅延に基づいて、前記マイクロ波放射を反射して、前記マイクロ波放射の前記送信ビームを前記ターゲットに向かって導くように構成されており、
前記受信アンテナ要素は、前記ターゲットから前記受信ビームを受信し、前記受信ビームを受信マイクロ波アンテナに向かって反射するべく更に構成されている、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記送信走査パネルは、異なる周波数の複数のマイクロ波ビームを前記輸送可能な物品の異なるターゲットに向かって同時に導く能力を備える、請求項1記載のシステム。
【請求項4】
前記送信走査パネルと前記受信走査パネルとの間に定義されている画像生成領域と、
前記画像生成領域を通じて前記輸送可能な物品を移動させるコンベアベルトと、
を更に備える、請求項1記載のシステム。
【請求項5】
前記プロセッサは、前記ターゲットが空間的に前記画像生成領域のエッジの近傍に配置された場合に、前記ターゲットの散乱特性を使用して前記ピクセルの前記相対的な値を判定するべく動作可能であり、
前記プロセッサは、前記ターゲットが空間的に前記画像生成領域の中央の近傍に配置された場合に、前記ターゲットの透過特性を使用して前記ピクセルの前記相対的な値を判定するべく更に動作可能である、請求項4記載のシステム。
【請求項6】
前記ピクセルの前記基準値は、前記輸送可能な物品が存在しない状態で、前記ターゲットと関連付けられた前記画像生成領域内の空間的な場所において計測され、
前記システムは、前記ピクセルの前記基準値を保存するメモリを更に備える、請求項5記載のシステム。
【請求項7】
前記プロセッサは、前記受信ビーム内の前記マイクロ波放射の振幅と位相に基づいて、前記ピクセルの現在の値を判定するべく動作可能であり、
前記プロセッサは、前記現在の値と前記基準値間の複素差分の絶対値を演算することにより、前記ピクセルの前記相対的な値を判定するべく更に動作可能である、請求項6記載のシステム。
【請求項8】
輸送可能な物品の検査方法において、
複数の送信アンテナ要素を含む送信アレイと複数の受信アンテナ要素を含む受信アレイを提供するステップであって、前記送信アンテナ要素及び前記受信アンテナ要素のそれぞれは、個別の位相遅延によってプログラム可能である、ステップと、
前記送信アンテナ要素のそれぞれの前記位相遅延に基づいて、輸送可能な物品のターゲットに向かってマイクロ波放射の送信ビームを透過するべく導くステップと、
前記受信アンテナ要素のそれぞれの前記位相遅延に基づいて、前記ターゲットからマイクロ波放射の受信ビームを前記受信アレイにおいて受信するステップと、
前記受信ビーム内の前記マイクロ波放射の振幅と位相を計測し、前記ピクセルの現在の値を判定するステップと、
前記現在の値と前記輸送可能な物品が存続しない状態で計測された前記ピクセルの基準値に基づいて、前記ピクセルの相対的な値を判定するステップと、
を含む方法。
【請求項9】
前記計測ステップは、
前記ターゲットが、空間的に、前記送信アレイと前記受信アレイの間に定義されている画像生成領域のエッジの近傍に配置された場合に、前記ターゲットの散乱特性を使用して前記ピクセルの前記相対的な値を判定するステップと、
前記ターゲットが、空間的に、前記画像生成領域の中央の近傍に配置された場合に、前記ターゲットの透過特性を使用して前記ピクセルの前記相対的な値を判定するステップとを更に含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記輸送可能な物品の複数のターゲットのそれぞれごとに、前記導波ステップ、前記受信ステップ、及び前記計測ステップを反復することによって前記輸送可能な物品を走査し、前記輸送可能な物品の画像を構築するステップを更に含む、請求項8記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−267102(P2006−267102A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75785(P2006−75785)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】395 Page Mill Road Palo Alto,California U.S.A.
【Fターム(参考)】