説明

輻射伝熱加熱用金属板及びその製造方法、並びに異強度部分を持つ金属加工品及びその製造方法

【課題】表面反射率が高い場合にも、簡単に所望の温度にまで加熱できる上に、連続的に強度の異なる部分を持つ金属加工品を、低コストで、生産性よく製造することができ、また強度の異なる部分の配置に制約の少ない異強度部分を持つことができる輻射伝熱加熱用金属板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】近赤外線による輻射伝熱加熱が行われる金属板の表面の一部または全体に、ドットの数、ドットの1個当たりの大きさ、ドットの分布密度および/または模様の線の数、模様の線の太さ、模様の分布密度、模様のパターンによる反射率低減処理の濃淡が形成されている反射率低減処理処理領域を形成させる。その金属板を輻射伝熱加熱することにより部分的に温度の異なる加熱金属板としたうえ、例えばホットスタンプによって冷却を伴う熱処理加工を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工性に優れた輻射伝熱加熱用金属板及びその製造方法、並びに異強度部分を持つ金属加工品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用構造部品をはじめとする多くの機械部品は、鋼板やその他の金属板をプレス加工することにより製造されている。ところが、一般的な冷間プレス成形により得られた製品は、内在応力によってスプリングバックが発生しやすく、寸法精度が安定しないという問題がある。この問題を解決する一つの手法として、ホットスタンプと呼ばれる熱間プレスが注目されている。このホットスタンプは、予め所定温度まで加熱しておいた鋼板をプレス成形するとともにプレス金型中で急冷し、焼入れを行う成形方法である。この方法を用いることにより、スプリングバックが発生せず、寸法精度及び強度の高い成形品を製造することができる。
【0003】
このホットスタンプを行うためには、予め鋼板の金属組織がオーステナイト単相となる温度域まで加熱しておく必要がある。加熱方法としては、ガス加熱炉などが一般的に用いられているが、ガス加熱炉などでは加熱効率が低く生産性が劣る。そのため、生産性を高めるためには設備を大きくする必要があり、コストが高くなる。そこで、生産性を高める加熱方法として、特許文献1に示されるような通電加熱が提案されている。この通電加熱は、金属板の両端に電極を接触させて通電し、ジュール熱によって加熱する方法であり、エネルギーの無駄が少なく、急速に加熱することができるという利点がある。しかしながら、金属板の形状が四角形ではない異型形状である場合には、断面積の小さい部分に電流が集中してしまうため、所望の領域を均一加熱することができないという問題がある。なお、金属板の特定部分を均一に加熱するためには、レーザー加熱を行うことが考えられるが、設備コストが嵩むうえに生産性が悪いという問題がある。
【0004】
また従来、波長が0.7〜2.5μmの近赤外線ランプを用いた輻射伝熱加熱によれば金属板が全体を均一に加熱することができることが知られているが、自動車用構造部品などとして用いられる金属板の多くは熱延鋼板や冷延鋼板、亜鉛めっきやアルミニウムめっきが施されためっき鋼板であり、近赤外線の大部分が金属板の表面で反射されてしまうため、輻射伝熱加熱による加熱効率は著しく低い。例えば、C:0.22質量%、Si:0.15質量%、Mn:2.0質量%、P:0.02質量%以下、S:0.005質量%以下、Ti:0.023質量%、Al:0.035質量%、B:15ppm、N:20ppmを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、板厚が1.6mmの溶融亜鉛めっき鋼板を、短辺170mm、長辺440mmに切断し、前述の近赤外線ランプを用いて20℃から850℃まで輻射伝熱加熱して鋼板の温度を測定した。この場合、近赤外線の反射率が高いために昇温速度は30℃/秒であったが、同じ条件で通電加熱した熱延鋼板では、昇温速度は58℃/秒であった。このように溶融亜鉛めっき鋼板を近赤外線により輻射伝熱加熱すると昇温速度は非常に低く、その結果として加熱コストが高くなり、加熱速度も遅く生産性が悪い。
【0005】
このため、特許文献6のように、金属帯の表面に塗装、溶射、ブラスト、エッチング、黒色化、めっきのいずれかで処理する部分と処理しない部分をつくり、これを輻射加熱することで強度を造り分ける記載がある。しかしながらこの場合でも、処理する部分と処理しない部分で概ね段階的に強度差が大きく発生し、新たなニーズとして連続的に異なる強度分布を形成する金属加工品を製造するには適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−55265号公報
【特許文献2】特開2006−306211号公報
【特許文献3】特開2005−330504号公報
【特許文献4】特開2006−289425号公報
【特許文献5】特開2009−61473号公報
【特許文献6】特願2009−183220号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の第1の目的は、金属板の表面反射率が高い場合にも、簡単に所望の温度にまで加熱する上に、連続的に強度の異なる部分を持つ金属加工品を、低コストで、生産性よく製造することができ、また強度の異なる部分の配置に制約の少ない異強度部分を持つことができる輻射伝熱加熱用金属板及びその製造方法を提供することである。
また本発明の第2の目的は、連続的に強度の異なる部分を持つ金属加工品を、低コストで、生産性よく製造することができ、また強度の異なる部分の配置に制約の少ない異強度部分を持つ金属加工品及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る輻射伝熱加熱用金属板は、輻射伝熱加熱が行われる金属板の表面の一部または全体に、ドットの数、ドットの1個当たりの大きさ、ドットの分布密度および/または模様の線の数、模様の線の太さ、模様の分布密度、模様のパターンによる反射率低減処理の濃淡が形成されていることを特徴とするものである。また、金属板を、めっき鋼板とすることができる。
【0009】
また、本発明に係る輻射伝熱加熱用金属板の製造方法は、輻射伝熱加熱が行われる金属板の表面の一部または全体に、ドットの数、ドットの1個当たりの大きさ、ドットの分布密度および/または模様の線の数、模様の線の太さ、模様の分布密度、模様のパターンによる反射率低減処理の濃淡が形成された反射率低減処理を行い、輻射線の反射率を元の金属板の表面よりも低下させる部分が形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
なお、前記の金属板表面への反射率低減処理としては、塗装、印刷、また、ブラストや圧延、レーザーなどによる凹凸付与、めっきや溶射による金属被覆、酸性溶液への浸漬による着色処理やエッチング、表層面の材質変更処理などにより適用することができるが、これら手法に限定されるものではない。なお、反射率低減処理は黒色系のものが好ましい。いずれの場合にも反射率を40%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下の部分が形成されているとする。
【0011】
また、本発明に係る異強度部分を持つ金属加工品は、前記の輻射伝熱加熱用金属板の製造方法により製造された金属板を用い、近赤外線を発生させる輻射伝熱加熱装置にて加熱した後に、ホットスタンプによる成形、焼入れを行った後に冷却することで、金属加工品内の差がHV180、好ましくはHV200以上であることを特徴とし、さらにビッカース硬度が250〜450の領域をもつことを特徴としている。
【0012】
また、本発明に係る異強度部分を持つ金属加工品の製造方法は、前記の輻射伝熱加熱用金属板の製造方法により製造された金属板を用い、近赤外線を発生させる輻射伝熱加熱装置にて800〜900℃まで加熱した後に、ホットスタンプによる成形、焼入れを行った後に冷却を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、前記の金属表面処理への反射率低減処理により加熱効率の勾配をつけて、金属加工品に連続した温度勾配をつけることができ、輻射伝熱加熱によって従来よりも低コストで生産性よく金属板の特定部分のみを一層集中的に加熱することが可能となる。また、金属加工品として部品設計の自由度がさらに高くなるなど、多くの利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、ドットの1個当たりの大きさ、分布密度による反射率低減処理により全体に反射率低減処理を施した金属板の一例を示す図である。
【図2】図2は、線の太さを変化させた格子模様による反射率低減処理により表面の一部に反射率低減処理を施した金属板の一例を示す図である。
【図3】図3は、本発明の金属加工品を製造する工程を示す図である。
【図4】図4は、模様の線の太さ、分布密度、パターンによる反射率低減処理により表面の一部に反射率低減処理を施した金属板を、近赤外線加熱した場合の昇温状況を示す図である。
【図5】図5は、表面の一部に均一な反射率低減処理を施した金属板を、近赤外線加熱した場合の昇温状況を示す図である。
【図6】図6は、図4、図5の各部位のホットスタンプ後の強度、硬度を示す図であり、(a)は部位毎に強度(TS:引張強度)で、(b)は部位毎に硬度(ビッカース硬度)で示した図である。
【図7】図7は、ドットの1個当たりの大きさ、分布密度による反射率低減処理により全体に反射率低減処理を施した金属板を、近赤外線加熱した場合の昇温状況を示す図である。
【図8】図8は、成形品の状態で強度が必要な部位に合わせて反射率低減処理を施した一例を示す図である。
【図9】図9は、成形品の状態で強度が必要な部位に合わせて反射率低減処理を施した一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態では、前述のような高反射率の金属板の表面に、近赤外線などの輻射線の反射率を元の金属板の表面よりも低下させる反射率低減処理を、ドットの数、ドットの1個当たりの大きさ、ドットの分布密度および/または模様の線の数、模様の線の太さ、模様の分布密度、模様のパターンによって金属板表面の反射率低減処理率に濃淡の変化をつけて施す。(以下、ドット、模様等による金属板表面の反射率低減処理、とする)即ち、ドット、模様等による金属板表面の反射率低減処理によって金属板表面が100%処理されていればその部分は100%反射率低減されるが、ドット、模様等による金属板表面の反射率低減処理に未処理の部分が含まれる場合、その比率によって反射率低減効果が薄れることになる。反射率低減処理の具体的な手法としては、塗装、また、ブラストや圧延、レーザーなどによる凹凸付与、めっきや溶射による金属被覆、酸性溶液への浸漬による着色処理やエッチング、表層面の材質変更処理などを適用できるが、これら手法に限定されるものではない。なお、これらの反射率低減処理は金属板の片面だけに行っても、表裏両面に行っても良い。また加熱効率の改善を得るためには、反射率低減処理が100%施された領域での反射率が40%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下であることが好ましい。なお、反射率は次のように測定した。すなわち、島津製分光光度計UV−3100PCと、マルチパーパース大型試料室MPC−3100とを用い、メルク社製BaSOで2400〜300nm間のベースライン補正をした後、試験材をセットし、入射角8度で拡散反射を含む全反射スペクトルを測定した。得られた全反射スペクトルの波長に相当する反射率を、本発明における反射率と定義した。
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、ドットの1個当たりの大きさ、分布密度による反射率低減処理により表面全体を反射率低減処理領域2とした金属板1を示す図であり、図2は、線の太さを変化させた格子模様による反射率低減処理により表面の一部を反射率低減処理領域2とした金属板1を示す図である。
図1、及び図2に示されるように、本実施形態では金属板1の表面にドット、模様の濃淡による反射率低減処理を施すことによって、反射率低減処理領域2が形成される。金属板1は、後工程においてホットスタンプが行われる金属板であり、ホットスタンプの直前に近赤外線などによる輻射伝熱加熱が行われるものである。
【0017】
金属板1の種類は特に限定されるものではないが、ホットスタンプ用の金属板として代表的なものは、熱延鋼板、冷延鋼板、めっき鋼板である。ここで、めっき鋼板には、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、または電気亜鉛めっき、合金化電気亜鉛めっき、溶融アルミニウムめっきや、Al、Mg、Si、Cr、Ni等を含有した亜鉛−合金めっきが施された鋼板などがあるが、ホットスタンプに適用できるのであれば、これらに限定されない。
【0018】
自動車用の構造部品などでは、大きい荷重が加わる部分の強度を高くし、その他の部分は溶接性や延性を考慮して強度を高めたくない場合がある。また、逆に、特定部分のみ強度を低下させておきたい場合もある。このような異強度部分を持つ金属加工品は、以上に記したような本実施形態で反射率低減処理領域が形成された金属板を用いて、図3に示す手順によって製造できる。なお金属板は、切断やプレスによる打抜き加工で得た金属板に反射率低減処理を行うほか、以下のような方法でも得ることができる。まず、切断やプレスによる打抜き加工を行う前に鋼帯等の金属素材の表面に対してドット、模様等による金属板表面の反射率低減処理を施し、輻射伝熱効率が部分的に異なる部位を予め形成しておく。そして、切断やプレスによる打抜き加工を行って金属板としてもよい。また、図4に示す例では、反射率低減処理ありとなしの領域の境界が明瞭であるが、輻射伝熱効率を連続的に変化させるように反射率低減処理ありの領域で、模様の線の数、模様の線の太さ、模様の分布密度、模様のパターンにより模様の濃淡を形成することも可能である。
【0019】
図4に示す例では、赤外線(波長0.7〜2.5μm)を照射し、金属板1全体を均等に輻射伝熱加熱する。なお、近赤外線を発生させる輻射伝熱加熱装置としては、近赤外線ランプ、近赤外線ヒータなどがある。一般的なガス加熱炉や、電気加熱炉、赤外線ランプや赤外線ヒータを備えた通常の加熱装置で発生できる中赤外線や遠赤外線加熱の2.5μm以上の波長に占めるスペクトル量は50%程度であるのに対し、近赤外線加熱ではスペクトル量が90%程度であるので高いエネルギー密度を得ることができ、高速加熱が可能な加熱方式としてより好ましい。
【0020】
近赤外線で高速加熱することにより金属板1の反射率差の効果が大きく現れて金属板1に温度差を付け易い。一方、ガス加熱炉、電気加熱炉、赤外線ランプ、または赤外線ヒータで加熱すると、金属板1の温度差を小さくすることができる。これにより、反射率を低減させて輻射伝熱効率を高くした中央部2は急速に加熱される。一方、その他の周縁部3は模様の濃淡により、中央部2よりは反射率が高く輻射伝熱効率が低いため、加熱速度は遅い。さらに反射率低減未処理部4は、通常の金属板の反射率のままで一層加熱速度は遅い。この結果、中央部2が高温であり周縁部3が比較的低温で、かつ中央部2と周縁部3の温度勾配は連続しており、反射率低減未処理部4はさらに低温である加熱金属板を得る。なお、加熱金属板にホットスタンプを行う場合には、高温部である中央部2は鋼材の金属組織がオーステナイト単相に変態する温度以上にまで昇温されるが、低温部である反射率低減未処理部4はオーステナイト単相に変態を完了しない温度に留めておくことが好ましい。周縁部3は必要に応じて、オーステナイト単相に変態する温度以上で温度勾配をつけるか、オーステナイト単相に変態を完了しない温度で温度勾配をつけるか、その模様の濃淡を調整して決定する。
【0021】
図5は、反射率低減処理部と反射率低減未処理部を持つ金属加工品と、これに図4の場合と同じ近赤外線加熱した場合の昇温状況を示す図であるが、反射率低減処理部が均一な場合である。なお、図4、図5に用いた金属板は、C:0.22質量%、Si:0.15質量%、Mn:2.0質量%、P:0.02質量%以下、S:0.005質量%以下、Ti:0.023質量%、B:15ppm、Al:0.035質量%、N:50ppm以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の組成を有する溶融亜鉛めっき鋼板であり、常温における引張強度(以下、単に強度)は600MPaである。金属組織がオーステナイト単相に変態する800〜900℃まで加熱した後にホットスタンプによる焼入れを行うと、強度が1550MPaにまで著しく向上するが、加熱温度をオーステナイト単相に変態を完了していない700℃以下とすると、ホットスタンプによる焼入れを行っても強度上昇はほとんど認められない。
【0022】
次に、加熱された図4、図5の金属板に対して、冷却を伴う熱処理加工を行う。これは単なる焼入れ加工であってもよいが、好ましくはホットスタンプ加工である。ホットスタンプ加工は成形金型の内部で焼入れを行う加工法であり、反りやスプリングバックが極めて小さい状態でプレス加工が可能である。このような冷却を伴う熱処理加工を行うと、鋼材の金属組織がオーステナイト単相に変態する温度以上にまで昇温された中央部2や周縁部3の高温部、特にオーステナイト単相に変態する温度異常まで昇温された部分は焼入れされて強度が著しく高くなり、オーステナイト単相に変態を完了していない周縁部3はほぼ元の強度のまま、同様に反射率低減未処理部4もほぼ元の強度となるが、その昇温量の差から、強度に多少差がつくこととなる。
【0023】
図6に図4、図5のそれぞれの部位でのホットスタンプ後の強度、硬度を示す。図6の(a)は部位毎に強度(TS:引張強度)で、(b)は部位毎に硬度(ビッカース硬度)で示した図である。図4の場合のように、反射率低減処理ありの領域で、模様の濃淡を形成すれば、図5の場合のように単に同程度強度アップするところを、領域内で連続的に変化をつけることができ、例えば自動車用強度部材のような金属加工性の設計に有効活用できる。このようにドット、模様の濃淡により、反射率低減処理部と反射率低減未処理部、反射率低減処理部内でもそのドット、模様の濃淡により、ビッカース硬さの差がHV180以上、好ましくはHV200以上であることを特徴とする異強度部分を持つ金属加工品を得ることができる。ビッカース硬度差が180以上必要な理由は、確実に焼入れが入った部分との強度の差が600MPa以上がビッカース硬度差で180以上となり、好ましくは強度差が700MPa以上、即ちビッカース硬度差で200以上あればホットスタンプによる金属加工品として好適である。この金属加工品は荷重を受ける反射率低減処理部やその中央部2は強度が高く、溶接性や延性が要求される周縁部3や反射率低減未処理部4は元の強度のままであるため、自動車部品として用いるのに好適なものである。このように本実施形態によれば異強度部分を持つ金属加工品を容易に製造することができる。
【0024】
また、本発明の特徴の一つとして、ホットプレスによる金属加工品においてビッカース硬度が250〜450(強度で800〜1400MPa)という中間的な硬度の領域をもつことがあげられる。これは従来の反射率低減処理の有無だけによる強度差や硬度差を形成する際に、その有無の境界に形成されるような断点的かつ狭い範囲の中間的な硬度の領域とは異なり、前述の反射率低減処理の濃淡により、任意かつ広範囲に、さらには連続的に形成できるものである。
【0025】
なお、異強度部分の配置は任意であり、図7に示す金属板1の全面にドット、模様等による金属板表面の反射率低減処理を施して異強度部分を配置してもよい。図8、図9は、図4、図7の金属板を成形品の状態で強度が必要な部位に合わせて反射率低減処理を施した例である。処理の位置はこれらに限らず、必要に応じ金属板上に複数施しても、バンド状だけでなく特定範囲やスポット的範囲に施しても構わない。
【0026】
反射率低減処理としては、例えば以下の処理があげられる。
黒色系の塗装は、有機系あるいは無機系の黒色塗料を金属板1の表面に塗装することによって反射率を低減させる手法である。なお、完全な黒色である必要はなく、黒っぽい色彩であればよい。この方法はローラや塗装ガン、インクジェット方式やドットタイプのプリンタによる印刷、その他の塗装機器を用いてドット、模様等による金属板表面の反射率低減処理として黒色塗料を塗り分けるだけで簡単に行うことができる。また、適宜のマスキングを行うことによって、金属板1の任意の部分だけに簡単に塗装を行うことができるが、スタンプする方法を用いれば、マスキングを行わずに金属板1の任意の部分だけに簡単に塗装を行うこともできる。さらに、黒色系の塗装では、例えば、金属板表面をアルコールなどで脱脂した後に例えば東海カーボン製アクアブラックを塗装することができる。
【0027】
金属板表面へ凹凸を付与する処理は、機械的な手法であるショットブラスト処理や圧延、レーザーによりドット、模様等による金属板表面の反射率低減処理部に処理/未処理部分が発生するように処理することによって反射率を低減させる手法である。また、何れの場合にも、適宜のマスキングを行うか、ブラストのノズルの向きを制御することによって、金属板1の任意の部分のみに凹凸を付与して、反射率を低減させることができる。なお、レーザーによる方法の場合は、マスキングによらずに任意の部分にのみレーザー光の向きによる調節もしくはON/OFFにより凹凸を付与してもよい。
【0028】
ショットブラスト処理では、例えばブラスト#24、40、60、80などを用い、直接金属板にブラストするか、圧延ロールにブラストして圧延ロールの粗度を調整し、金属板を圧延することで凹凸を付与する。一方、レーザーによる方法では、CO、YAG、ファイバーなど発信機の制約はなく、凹凸の与え方は、格子状、縞状、点列状に付与することができ、ブラストと同様に直接金属板に照射するか、圧延ロールに照射してこれを用いて圧延することで凹凸を得る。付与された凹凸は、例えば表面粗さRaで0.6μm以上、好ましくは0.8μm以上にすることが好ましい。
【0029】
黒色系のめっき処理は、例えば黒色無電解ニッケルめっきを行うことによって反射率を低減させる手法である。ドット、模様等による金属板表面の反射率低減処理のために適宜のマスキングを行うことによって、金属板1の任意の部分のみめっき処理してめっきの有無をつくり分け、反射率を低減することができる。
【0030】
黒色系の溶射は、例えばAl-TiO系溶射材料など黒色系の物質をプラズマ溶射することによって反射率を低減させる手法である。なお、完全な黒色である必要はなく、黒っぽい色彩であればよい。ドット、模様等による金属板表面の反射率低減処理のために適宜のマスキングを行うことによって、金属板1の任意の部分だけに簡単に溶射して溶射の有無をつくり分け、反射率を低減することができる。
【0031】
酸性溶液への浸漬による着色処理は、例えばシュウ酸水溶液による黒色化処理によって反射率を低減させる手法である。ドット、模様等による金属板表面の反射率低減処理のために適宜のマスキングを行うことによって、金属板1の任意の部分のみ処理して黒色化処理の有無をつくり分け、反射率を低減することができる。
【0032】
化学的なエッチング処理は、例えば25℃の10%のHCl水溶液に10秒浸漬した後、水洗、乾燥する方法によって反射率を低減させる手法である。ドット、模様等による金属板表面の反射率低減処理のために適宜のマスキングを行うことによって金属板1の任意の部分のみ処理してマスキングの有無をつくり分け、反射率を低減することができる。
【0033】
表層面の材料変更処理は、温度60℃の塩化ニッケル六水和物の10%水溶液に5秒間浸漬した後、水洗、乾燥する黒色化方法によって反射率を低減させる手法である。ドット、模様等による金属板表面の反射率低減処理のために適宜のマスキングを行うことによって、金属板1の任意の部分のみ処理しで黒色化の有無をつくり分け、反射率を低減することができる。
【0034】
本発明において、ドットの数、1個当たりの大きさ、分布密度、模様の線の数、線の太さ、分布密度、パターンが重要な要件となる。ドットの大きさを一定にして分布密度で濃淡を付けてもよいし、ドットの大きさで濃淡を付けてもよいし、これらを併用しても構わない。ドットの大きさは、例えば自動車用構造部品に用いる場合は、0.01mm/個〜10mm/個程度の大きさを必要に応じて使い分ければよい。分布密度はドットの大きさにもよるが、反射率低減処理を行う部分の面積に対し、下記表1の各反射率低減処理の反射率(100%時)を参考に面積比で計算し、平均の反射率が前述の反射率40%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下となる分布密度にする。
【0035】
【表1】

【0036】
模様の線の太さ、パターンについても同様で、線の太さを一定にして本数で濃淡を付けてもよいし、線の太さで濃淡を付けてもよいし、線の太さを変化させてもよいし、これらを併用しても構わない。線の太さもドットと同様に0.01mm/本〜10mm/本程度の太さを必要に応じて使い分けたり、線1本の中で0.01〜10mm/本の範囲で変化させても構わない。分布密度についてもドットの場合と同様である。パターンについては、斜線状、格子状、放射状、多角形、曲線形、波状、実線、点線、あるいはこれらの複数の組合せにより必要な反射率となるように調整する。なお、さらにドットと模様を組み合わせても構わない。
【0037】
従来法と比較した本発明方法の利点をまとめると次の通りである。
本実施形態に係る方法によれば、予め異種の金属板を溶接してテーラード金属板を製作したうえでこれを加工し、部分的に異なる強度を持たせるテーラードブランク法と比較すると、予備金属板加工や溶接加工が不要であり、複数種類の材料を用いる必要がない。このため、製造コストが安価になる。また、テーラードブランク法では強度変化部となる溶接線の位置や本数に制約があったが、本実施形態ではそのような制約はなく、自由な位置にマスキングをして反射率低減処理を行うことにより、自由な位置に自由な形状の異強度部分を形成することができる。
【0038】
また、部品成形前あるいは部品成形後の部分焼入れ法と比較すると、工程数が少なく設備費用が安価であるから製造コストが安価になる。また、部分焼入れ法よりも異強度部分の形状は配置の自由度が大きい。
【0039】
このように本実施形態によれば、単一の部品内で強度が必要な部分のみを強化することができるため、部品全体を強化する必要がなく、部品重量を軽量化することができる。また単一の部品内で強度を上昇させていない部位を設けることができるので、他の部品との溶接が容易である。また、延性を高くしておくことができる。更に温間あるいは熱間で成形するため、部品形状の自由度を大きくとれ、反りやスプリングバックを小さくできるという利点もある。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、近赤外線の反射率を元の金属板の表面よりも低下させた反射率低減処理領域において近赤外線の吸収率が高まり、加熱効率を高めることができる。このため、輻射伝熱加熱によって従来よりも低コストで生産性よく金属板の特定部分のみを集中的に加熱することが可能となる。
【0041】
また、本発明の他の特徴によれば、金属板の特定部分に対して黒色系の塗装、ブラストや圧延、レーザーなどによる凹凸付与、めっきや溶射による金属被覆、酸性溶液への浸漬による着色処理やエッチング、または表層面の材質変更処理などをドット、模様等による金属板表面の反射率低減処理により適用することにより上記のような輻射伝熱加熱用金属板を安価に製造することができる。
【0042】
また、本発明のその他の特徴によれば、金属板の表面に輻射伝熱効率が部分的に異なる部位をドット、模様等による金属板表面の反射率低減処理により形成する処理と、輻射伝熱加熱とを組み合わせることによって、金属板の温度を意識的に変化させておき、ホットスタンプ加工や焼入れや等の冷却を伴う熱処理加工を行うことによって、強度の異なる部分を任意の位置に連続的に持つ金属加工品を製造することができる。このように金属板の表面の輻射伝熱効率が部分的に異なるようにする処理は、塗装、ブラストや圧延、レーザーなどによる凹凸付与、めっきや溶射による金属被覆、酸性溶液への浸漬による着色処理やエッチング、または表層面の材質変更処理などをドット、模様等による金属板表面の反射率低減処理により適用することよって安価に行うことができるため、コストアップが小さく済む。また、これらの処理は生産性よく行うことができるうえ、輻射伝熱効率が部分的に異なる部位として自由な位置を選択することができるので、部品設計の自由度が高くなるなど、多くの利点がある。
【0043】
尚、本発明に用いられる金属板は、焼き入れが可能であれば好適で、例えば熱延鋼板、冷延鋼板、およびこれらに溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっき、合金化電気亜鉛めっき、溶融アルミめっきなどの表面処理を施したものも好適である。
【符号の説明】
【0044】
1 金属板
2 中央部
3 周縁部金属板
4 反射率低減処理領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
輻射伝熱加熱が行われる金属板の表面の一部または全体に、ドットの数、ドットの1個当たりの大きさ、ドットの分布密度および/または模様の線の数、模様の線の太さ、模様の分布密度、模様のパターンによる反射率低減処理の濃淡が形成されていることを特徴とする輻射伝熱加熱用金属板。
【請求項2】
前記反射率低減処理領域が、40%以下の反射率であることを特徴とする請求項1記載の輻射伝熱加熱用金属板。
【請求項3】
前記金属板が、めっき鋼板であることを特徴とする請求項1記載の輻射伝熱加熱用金属板。
【請求項4】
輻射伝熱加熱が行われる金属板の表面の一部または全体に、ドットの数、ドットの1個当たりの大きさ、ドットの分布密度および/または模様の線の数、模様の線の太さ、模様の分布密度、模様のパターンによる反射率低減処理の濃淡が形成された反射率低減処理を行い、輻射線の反射率を低下させることを特徴とする輻射伝熱加熱用金属板の製造方法。
【請求項5】
前記反射率低減処理により40%以下の反射率の部分を形成することを特徴とする請求項4記載の輻射伝熱加熱用金属板の製造方法。
【請求項6】
前記金属板表面への反射率低減処理が、塗装、印刷、ブラストや圧延もしくはレーザーによる凹凸付与、めっきや溶射による金属被覆、酸性溶液への浸漬による着色処理、及びエッチングのうちのいずれかであることを特徴とする請求項4記載の輻射伝熱加熱用金属板の製造方法。
【請求項7】
前記金属板表面への反射率低減処理が、表層面の材質変更処理であることを特徴とする請求項4記載の輻射伝熱加熱用金属板の製造方法。
【請求項8】
請求項4乃至いずれか7項の輻射伝熱加熱用金属板の製造方法により製造された金属板を用い、近赤外線を発生させる輻射伝熱加熱装置にて加熱した後に、ホットスタンプによる成形、焼入れを行った後に冷却することで、金属加工品内のビッカース硬さの差がHV180以上であることを特徴とする異強度部分を持つ金属加工品。
【請求項9】
金属加工品内のビッカース硬さの差がHV200以上であることを特徴とする請求項8記載の異強度部分を持つ金属加工品。
【請求項10】
さらにビッカース硬度が250〜450の領域をもつことを特徴とする請求項8または9に記載の異強度部分を持つ金属加工品。
【請求項11】
請求項4乃至7のいずれか1項の輻射伝熱加熱用金属板の製造方法により製造された金属板を用い、近赤外線を発生させる輻射伝熱加熱装置にて800〜900℃まで加熱した後に、ホットスタンプによる成形、焼入れを行った後に冷却を行うことを特徴とする請求項8乃至10の何れか1項に記載の異強度部分を持つ金属加工品の製造方法。

【図3】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−144773(P2012−144773A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3702(P2011−3702)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】