説明

農作物栽培方法

【課題】冬期等の低温期あるいは寒冷地においても、農業用ハウス及び畑地を周年使用可能とする経済性・生産性の高い農作物栽培方法を提供する。
【解決手段】冬期等の低温期や寒冷地でビニールハウスやガラスハウス内で農作物を育成するに際して、農作物をシート状、ネット状の蛍光色素含有放射性資材で覆う。ビニールやガラスを通して太陽光が蛍光放射性資材を照射すると、上記資材から蛍光が放射され、該蛍光が農作物を照射して光合成を促進させる。冬期等の低温期や寒冷地においても、上記資材を用いない従来法に比べて成長速度が1.5〜2倍程度早いため、農作物を早期出荷することができる。しかも、冬期等の低温期や寒冷地において、農業用ハウス内の保温用の石化燃料等の熱エネルギーを15〜20%削減することができる。特に蛍光放射性シートは、放射蛍光量が高くかつ保温性に優れるため、より一層効果的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冬期等の低温期においても効率よく農作物を周年に栽培可能とする農作物栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、野菜等の農産物の安定供給を図るため、光源に発光ダイオード等を用いて、あたかも野菜を栽培する工場を設備する植物工場の建設が進められている。これは植物等の光合成に寄与する波長帯の光を照射する発光ダイオードを採用しており、計画栽培が図られている。
しかし、このような方法は、計画栽培が可能である反面、栽培を行うために大量の電力を消費し、地球温暖化や化石燃料の枯渇化等、環境・エネルギー問題に大きな影響を与えることが懸念されている。
また、露地栽培等では、野菜等の品質を管理するために農薬散布が一般に行われる。しかし、大量の農薬を使用することによる周辺の大気汚染や、雨水に農薬が混入することによる水質汚染が深刻になっている。
【0003】
一方、光合成促進効果を狙いとした農業用フィルムが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。さらに、光合成促進効果及び防虫効果を狙いとした農業用光質変換資材が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。しかし、これらの方法では、蛍光色素を含有するフィルムで農作物を覆うことになるので、フィルムによって太陽光が遮蔽され、かえって農作物の成長にとってマイナスとなる場合もあった。また、このようなフィルムは、農業において温室等で一般的に使用される透明のポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリオレフィン等のプラスチックフィルム、あるいはガラスに比べて太陽光の透過率が低いため、温室内の温度を上げる効果が低いという問題もあった。
【0004】
このような問題を解決するため、例えば特許文献3には、蛍光色素を含有するネットが光合成促進資材として提案されている。上記特許文献3に記載されたネットを光合成促進資材として使用すれば、太陽光等に含まれる光の一部を蛍光という形で植物の光合成にとって好ましい波長の光へと変換することが可能であり、かつネットの開口部から太陽光等の光を直接農作物に照射させることができる。したがって、上記のようにフィルム状の光合成促進資材を使用した場合と異なり、太陽光等が遮蔽されることに伴う弊害は殆ど発生しない。しかし、さらに光合成を活性化して、農作物の重量や糖度等をさらに向上させるという観点からは、未だ改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−227849号公報
【特許文献2】特開平6−46685号公報
【特許文献3】特開2007−135583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、冬期等の低温期あるいは寒冷地においても、農業用ハウス及び畑地を周年使用可能とする経済性・生産性の高い農作物栽培方法を提供することである。
また、本発明の課題は、特に冬期等の低温期あるいは寒冷地においても、成長速度を速め、農作物を早期かつ周年栽培可能とする農作物栽培方法を提供することである。
さらに、本発明の課題は、冬期等の低温期あるいは寒冷地において、農業用ハウス内の保温用の石化燃料等の熱エネルギーを削減可能な農作物栽培方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の農作物栽培方法は、プラスチックフィルム又はガラスを使用した農業用ハウス(以下、「農業用ハウス」と総称することもある。)内において、蛍光放射性ネット及び蛍光放射性シート(以下、「蛍光放射性資材」と総称することもある。)のいずれかを、農作物を覆うように配置することを特徴とする。
【0008】
上記蛍光放射性ネット及び上記蛍光放射性シートは、栽培する農作物上にトンネル状に配置することが好適である。
【0009】
また、上記蛍光放射性ネット又は上記蛍光放射性シートと農作物との距離が、上記蛍光放射性ネット又は上記蛍光放射性シートと上記農業用ハウスのプラスチックフィルム又はガラスとの距離に比べて小さいことが望ましい。
【0010】
本発明で使用される蛍光放射性ネット又は蛍光放射性シートは、波長域280〜320nm(UV−B)の減衰率が5.5〜12.0%で、波長域250〜280nm(UV−C)の減衰率が17.5〜28.0%であることが望ましい。
【0011】
また、上記蛍光放射性ネット及び上記蛍光放射性シートが、250〜650nmの波長域の光を吸収し、かつ450〜700nmの波長域の蛍光を放射するものであることが好適であり、さらに蛍光放射性シートは光透過率が80〜95%であることが望ましい。
【0012】
本発明の農作物栽培方法を実施するにあたり、冬期あるいは寒冷地においては、夜間、農作物を覆った蛍光放射性資材のさらにその上を保温性シート(熱遮断性気泡包括フィルム)で覆うことによって、保温性を高めて成長をさらに促進させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の農作物栽培方法は、一般的な農業用ハウス内において蛍光放射性ネット又は蛍光放射性シートを使用するため、既存の農業用ハウスをそのまま利用することができ、初期投資費用を大幅に節約することができる。また、一般的な農業用ハウスを使用することにより、日中は太陽光による十分な温度上昇効果を得ることができる上、蛍光放射性ネット又は蛍光放射性シートにより光合成促進効果及び害虫防除効果を得ることができるため、温室内の温度を従来に比べて低くすることが可能となり、冬期等の温室暖房費用を大幅に節減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
植物の光合成反応は、太陽光、CO、水の三要素によって行われることがよく知られている。ここで、太陽光は、幅広い波長帯域(約200〜4000nm)から成り立っているが、光合成反応に寄与する波長帯域は青色波長帯域(450〜550nm)及び赤色波長帯域(550〜750nm)であると考えられている。
【0015】
特に赤色波長帯域の光は、植物の発芽、葉、球根、根、果実の成長促進に寄与するものとされている。人工光を用いた植物の光合成反応の促進のために、赤色波長帯域の光を強く照射する光源を開発し、植物に照射することが行われている。事例として、最近の植物工場ビジネスでは多数個の赤色発光ダイオードを用いて赤色波長帯域の光を照射することにより植物の光合成反応を積極的に行わせている。このように、光合成反応は太陽光スペクトルのある範囲の光を特に利用していることが理解できる。
一般に植物の光合成反応は、太陽光の照射によって行われており、さらに光合成反応を積極的に促すには、赤色波長帯域の成分を重畳させることによって実現できる。
なお、りんご、ぶどう等の果物あるいは野菜の実の表皮には、光合成に大きく貢献するほど葉緑素を含んでいないものと考えられるが、葉緑素以外の上記表皮等に含まれていると考えられる光受容体が成長に寄与していることが推察されるため、本発明においては、このような成長への寄与も含めたあらゆる農作物の成長を一括して、「光合成」と表現し説明する。
【0016】
本発明の農作物栽培方法で使用される蛍光放射性ネット及び蛍光放射性シートは、有害な紫外線を有用な可視光線に変換する機能を有するものであり、250〜650nmの波長域の光を吸収し、かつ450〜700nmの波長域の蛍光を放射するものが好ましく用いられる。
また、これらの蛍光放射性ネット及び蛍光放射性シートは、有害な波長域280〜320nm(UV−B)の紫外線ばかりでなく、特に有害な波長域250〜280nm(UV−C)の紫外線をカットするものであり、波長域280〜320nm(UV−B)の減衰率が5.5〜12.0%で、波長域250〜280nm(UV−C)の減衰率が17.5〜28.0%であるものが好ましく用いられる。
特に、放射される450〜700nmの波長域のうち、波長域580〜700nmの電磁波が、蛍光放射性ネット又は蛍光放射性シートから漏洩せず内部に包蔵されていることが、光合成の促進に寄与しているものと考えられる。
本発明は、蛍光放射性ネット及び蛍光放射性シートが有するこのような特性を有効に活かした農作物栽培方法である。
【0017】
次に、本発明で使用される蛍光放射性ネット及び蛍光放射性シートについて説明する。本発明に用いる蛍光放射性ネット及び蛍光放射性シートとしては、太陽光等の光が照射されると、特に有害な紫外線や青色光領域の光を吸収して有用な可視光線に変換する機能を有するもの、すなわち植物の光合成反応に特に利用される帯域の光を蛍光として放射するものが必要であり、このために、250〜650nmの波長域の光を吸収して、波長域450〜700nmの蛍光を発するものが好ましい。蛍光発光波長域がこの範囲内であれば、十分な光合成促進効果を得ることができる。
特に、本発明で使用される蛍光放射性ネット及び蛍光放射性シートは、有害な紫外線の波長域280〜320nm(UV−B)ばかりでなく、特に有害な波長域250〜280nm(UV−C)の紫外線をカットするものであり、波長域280〜320nm(UV−B)の減衰率が5.5〜12.0%で、波長域250〜280nm(UV−C)の減衰率が17.5〜28.0%であるものが好ましく用いられる。
【0018】
本発明で使用される蛍光放射性ネットは、少なくとも熱可塑性樹脂と蛍光色素とから構成される組成物を原材料として作製され、例えば、このような組成物を成形することによって得られるフィルムを裁断及び加工して得られるフラットヤーン、モノフィラメント、複合モノフィラメント等を素材として作製された織編布が挙げられる。このような織編布としては、特に限定されないが、ネット(網)を例示することができる。
【0019】
本発明で使用される蛍光放射性ネットを作製するための上記素材のうち、フラットヤーンについては、厚みが5〜150μm程度であることが好ましく、10〜100μm程度であることがより好ましい。また、モノフィラメントについては、繊維径が140〜1000μmであることが好ましく、220〜700μm程度であることがより好ましい。なお、フラットヤーンの素材として用いるフィルムの厚みは、0.2〜0.7mm程度であることが好ましく、0.1〜0.5mm程度であることがより好ましい。
【0020】
一方、蛍光放射性シートは、蛍光放射性ネットと同様に、少なくとも熱可塑性樹脂と蛍光色素とから構成される組成物を原材料として、例えば成形することによって得られる。成形法としては特に限定されないが、押し出し成形、射出成形、圧縮成形等を使用することができ、特に押し出し成形が好ましく使用される。シートの厚みとしては、0.05〜1.2mm程度が例示されるがこれに限定されるものではなく、必要とされる強度やコスト等といった要素を考慮して適宜決定すればよい。
【0021】
蛍光放射性ネット及び蛍光放射性シートに使用される蛍光色素は、蛍光放射性ネット及び蛍光放射性シートに太陽光等の光が照射されることによって発生する放射光(蛍光)が光合成促進効果を呈しさえすれば特に限定されない。
【0022】
したがって、放射光として黄色系、オレンジ系、及び赤色系のいずれもが所望される場合には、光吸収波長領域が好ましくは400〜600nm、より好ましくは470〜600nmに存在し、かつ太陽光等の光を照射したときに発生する放射光の波長領域が450〜700nmに存在するような蛍光色素が光合成促進効果を得るのに好ましく使用される。また、そのような蛍光色素を使用することにより、上記の様々な効果を得ることもできる。
【0023】
また、放射光として赤色系が所望される場合には、光吸収波長領域が好ましくは250〜650nmに存在し、かつ太陽光等の光を照射したときに発生する放射光の波長領域が450〜700nmに存在するような蛍光色素が好ましく使用される。
【0024】
上記蛍光色素には、蛍光染料や蛍光顔料が包含される。蛍光色素としては、非イオン性の蛍光色素、例えば、ビオラントロン系色素、ビラントロン系色素、フラバントロン系色素、ペリレン系色素、ピレン系色素等の多環系色素、キサンテン系色素、チオキサンテン系色素、ナフタルイミド色素、ナフトラクタム色素、アントラキノン色素、ベンゾアントロン色素、クマリン色素等が挙げられ、これらの中から、上記の吸収波長域を有し、かつ上記の波長域の光を放射する蛍光色素を適宜選択使用することができる。中でも、ペリレン系色素あるいはナフタルイミド系色素が好ましく、特にペリレン系色素が好ましく用いられる。
【0025】
上記ペリレン系色素としては、例えば、ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト社製の商品名Lumogen FシリーズのYellow 083、Orange 240、Red 305等が挙げられる。
【0026】
また、ナフタルイミド系色素としては、例えば、ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト社製の商品名Lumogen FシリーズのViolet 570、Blue 650等が挙げられる。
【0027】
これらの蛍光色素は、例えば、グリコール類、芳香族炭化水素、塩素系炭化水素、エステル類、ケトン類、アミド類等のような有機溶剤又は水に溶解して使用される。
【0028】
本発明で使用される蛍光放射性ネット及び蛍光放射性シートに含まれる上記蛍光色素の濃度は、これらの蛍光放射性ネットや蛍光放射性シートを構成する熱可塑性樹脂に対して、0.001〜0.03質量%であることが好ましく、0.015〜0.02質量%であることがより好ましい。
蛍光色素の含有量が不十分な場合には、太陽光等の光の吸収量が少なくなるのに伴って放射(蛍光)光量が少なくなるので好ましくない。また、蛍光色素の含有量が過剰である場合には、太陽光等の光の吸収量が増大する反面、濃度消光によって放射(蛍光)光量が少なくなるので好ましくない。
【0029】
なお、本発明で使用される蛍光放射性ネット及び蛍光放射性シートには、一種類の蛍光色素を含有させることが好ましい。複数の蛍光色素を含有させた場合には、相互に吸収光を分割し蛍光量が減じる傾向にあるため好ましくない。そのため、複数の蛍光色素を含有させる必要がある場合には、複数の蛍光放射性ネット及び蛍光放射性シートを使用し、それぞれに異種の蛍光色素を含有させればよい。
【0030】
本発明者らは、発明を創出する過程において、上記蛍光放射性ネットや蛍光放射性シートを繰り返し使用していくと蛍光色素がこれらから徐々に溶出して、放射(蛍光)強度が減少し、短期間のうちに所期の効果が消失してしまう現象を確認した。このような現象が起こる原因は、熱可塑性樹脂と蛍光色素との相溶性、あるいは蛍光色素の分散性が不足するためと推測されるため、熱可塑性樹脂と蛍光色素との組み合わせとして相溶性のよいものを選択することが好ましい。
【0031】
本発明に用いる蛍光放射性資材は、光合成促進効果や防虫効果を長期間発揮可能とするためには、風雨、気温変化等に対して長期間安定なものであることが必要であり、そのために、熱可塑性樹脂と蛍光色素との分散性及び相溶性がよく、成形体からの蛍光色素の離出のないことが望ましい。
したがって、熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ナイロン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル等が挙げられるが、上記の観点からは、上記の熱可塑性樹脂のうち、ポリエステル、ナイロン、ポリオレフィン系樹脂が好ましく使用され、ポリエステルが特に好ましく使用される。
一般的なビニールハウスの外壁材料には、熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂等が使用されるが、本発明のような蛍光色素を含有する蛍光放射性ネットあるいは蛍光放射性シートの場合には、上記のように、熱可塑性樹脂と蛍光色素との分散性及び相溶性を検討した上で、適宜選択使用することができる。
【0032】
ポリエステルについては、ポリエステルを構成する酸成分とグリコール成分とを上記目的のために適宜選択して合成したものを使用することが望ましい。
【0033】
ポリエステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の酸成分と、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール等のグリコール成分とを縮合重合させて得られる重合体や、その酸成分及び/又はグリコール成分の一部を共重合成分で置き換えた共重合体が例示される。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが好ましい材料として例示される。
【0034】
また、ナイロンとしては、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/11、ナイロン6/12等が例示される。
【0035】
さらに、ポリオレフィンとしては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、分岐状低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、メタロセン触媒を用いて製造されたエチレン・α−オレフィン共重合体等のポリエチレン系樹脂や、プロピレン単独重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体、エチレン−プロピレンランダム共重合体等のポリプロピレン系樹脂等が例示される。
【0036】
上記熱可塑性樹脂は、生分解性の樹脂であってもよい。
【0037】
本発明で使用される蛍光放射性資材には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、退色防止剤及び/又は耐光性添加剤を含有させることができる。また、酸化防止剤、分散剤、滑剤、帯電防止剤、顔料、無機充填剤、架橋剤、発泡剤、核剤等の通常用いられる添加剤を配合することができる。
【0038】
次に、本発明で使用される蛍光放射性資材を使用した場合の波長変換特性について説明する。植物の生育に関する照射光の強さの指標としてはPPFD(光合成有効光量子束密度)値が使用される。PPFD値は、入射光の赤色波長帯域(580〜780nm)、及び青色波長帯域(380〜580nm)のそれぞれの光について単位時間単位面積に入射する光量子数をアボガドロ数で除し、それぞれの波長帯域で積分した値で定義される。
【0039】
すなわち、Eλを波長λにおける単位時間当たりのエネルギー、hをプランク定数、νλを波長λにおける振動数、及びNaをアボガドロ数とすると、青色帯のPPFD値(IλB)は、
【数1】

で表され、赤色帯のPPFD値(IλR)は、
【数2】

で表される。
【0040】
本発明者らは、式 R/B=IλR/IλB で定義されるR/B比に注目し、光合成を促進し、かつ防虫効果をもたらすのに有効な蛍光放射性ネット及び蛍光放射性シートの条件として、照射光自体(蛍光放射性ネットや蛍光放射性シートを用いずに、農作物に直接照射される光)のR/B値(X)に対する蛍光放射性ネットや蛍光放射性シートを通過した光のR/B値(Y)の比(R/B相対値という)が、1.1〜1.5であることが好ましいことを確認した。
【0041】
R/B相対値が小さ過ぎると、赤色帯のPPFD値が小さくなり過ぎて十分な光合成の促進効果が得られなくなる。蛍光放射性ネットを重ねて用いる場合も同様であり、重ねたネットを通過した光のR/B値(Y)を使用してR/B相対値を算出すればよい。既に述べたように、蛍光放射性ネットは、必要に応じて複数枚重ねて使用することができ、枚数が多くなるほど赤色帯のPPFD値を高くすることができるが、同時に照射光が強く遮蔽される状態となるため、R/B相対値が大きすぎても、所期の効果が得られないことになる。
【0042】
また、R/B値についていえば、農作物を育成するのに用いる照射光が太陽光のような自然光の場合には、蛍光放射性ネットを通過した光(蛍光により波長変換を受けた光)のR/B値は0.90〜1.25程度が好ましく、また、蛍光灯のような人工光の場合には蛍光放射性ネットを通過した光のR/B値は1.00〜1.40程度が好ましいことを確認した。蛍光放射性ネットを重ねて用いる場合には、その重ねたネットを通過した光のR/B値が上記範囲であることが好ましい。
【0043】
なお、自然光(太陽光)の強さ(日射強度という)が1m当たり1kWのときを基準日射強度といい、太陽光のスペクトル分布の基準とされる。このときの自然光自体のR/B値は、0.8(±5%)であり、蛍光灯のような人工光のR/B値は、0.94である。太陽光のような自然光の場合、日によって強さに変化があるため、±5%はその変化程度を意味する。
【0044】
本発明では、このような特性を持つ蛍光放射性資材を用いることによって、これらを用いない場合に比べて、農作物の収穫量を1.2〜2.0倍以上増加させることができる。
なお、蛍光放射性資材を用いると、当然のことながら農作物に到達する自然光あるいは人工光の照射光量が最大20%程度減少するが、本発明者らの実験結果によれば、この程度照射光が減少(減光)しても、収穫量が大きく減ることがないことが確認された。
【0045】
本発明に使用される蛍光放射性資材は、防虫(害虫駆除)効果を付随的に有するものである。
(1)赤色の蛍光色素を使用した場合
本発明者らは、赤色の蛍光色素を含む蛍光放射性ネットや蛍光放射性シートを用いた場合には、赤色の普通色素(非蛍光色素)を含むネットやシートを使用した場合に比べて、ヒトの目に与える刺激(明るい場所での刺激でヒトの明所視の特性)は、約3.0倍になることを確認した。
したがって、害虫が感じる波長範囲の蛍光を放射する蛍光色素を選択して蛍光放射性ネットや蛍光放射性シートに使用すれば、害虫にとって刺激が強くなるので、害虫が野菜や果実に寄ってくることを防止することができる。
【0046】
(2)黄色、橙色の蛍光色素を使用した場合
黄色、橙色の蛍光染料を使用した蛍光放射性ネットや蛍光放射性シートを使用した場合も同様で、ヒトの目に与える刺激(明るい場所での刺激でヒトの明所視の特性)は、約3.2倍になることが本発明者らによって確認されている。
【0047】
このような防虫(害虫駆除)効果を効果的に発揮させる蛍光放射性ネットの例として、縦糸横糸の素材の一方に、光合成促進効果に寄与する波長域の蛍光を発生させる蛍光色素を、他方の素材に、防虫効果に寄与する波長域(約450〜600nm)の蛍光を発生させる蛍光色素を含有させることができ、光合成促進効果に寄与する蛍光色素を、農作物の種類に応じて選択使用することができる。
【0048】
次に、本発明で使用される蛍光放射性ネットのうち、蛍光放射性の織編布、特に蛍光放射性のネットについて詳述する。
【0049】
蛍光放射性ネットを製造するのに用いられる原料糸としては、各種成形機によって作製されたフィルムをスリットした後、延伸して得られるフラットヤーン、フラットヤーンを割繊したスプリットヤーン、円形又は異形ノズルから押し出したフィラメントを延伸したモノフィラメント若しくは低繊度フィラメントを集束したマルチフィラメント等の単層型、多層型、芯鞘型、並列型等の複合糸条等、制限なく使用できる。
【0050】
また、上記フィルムをスリットして得られた長尺フィルムから、直径約0.3〜0.5mmの縒り糸を作り、この縒り糸を3〜5本束ねて、蛍光放射性のネットを製造するための素材とすることもできる。
【0051】
フラットヤーンを作製するために用いられるフィルムは、熱可塑性樹脂に所定割合の蛍光色素を予めヘンシェルミキサー等の混合機を用いて混合して得られた混合物を押出機に供給して混練し、又は所定割合の熱可塑性樹脂と蛍光色素とをそれぞれ直接押出機に供給して混練した後、押出成形法、射出成形法、圧縮成形法等のような公知の方法を使用して作製することができる。他に、ベースとなる熱可塑性樹脂と同種又は同系の樹脂に予め高濃度の蛍光色素を含有させたマスターバッチを作製し、フィルム成形時に蛍光色素が所定の含有量になるように調整してフィルム成形を行う、いわゆるマスターバッチ法を採用してもよい。
【0052】
押出成形法によって得られたフィルムを用いる場合を例にとって説明すると、フラットヤーンは、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ナイロン等のような上記熱可塑性樹脂と、蛍光色素とからなる混練物を押出機に投入して、Tダイ法又はインフレーション法により無定形状態で押出した後冷却固化し、得られたフィルムを約2〜50mm、好ましくは約5〜30mm幅にスリットした後延伸し、次いで熱処理して作製される。この際の延伸処理は、高融点の熱可塑性樹脂の融点以下又は低融点の熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度にて行われるが、加熱法としては、熱ロール式、熱板式、熱風式等いずれの方法を採用してもよい。
【0053】
スリットされた熱可塑性フィルムは、加熱され、前後ロールの間で周速度差を有するロールにより延伸されることにより、延伸糸とされる。延伸倍率は、3〜15倍の範囲が好ましく、4〜12倍の範囲がより好ましく、5〜10倍の範囲が最も好ましい。延伸倍率が3倍以上であればフラットヤーンの十分な強度が得られる。また、延伸倍率が15倍以下であれば延伸方向の配向が強すぎることによるフラットヤーンの割れを防止することができる。また、延伸糸の単糸繊度は、通常200〜10000デシテクス(以下、dtと略す)、好ましくは500〜5000dtの範囲内である。
【0054】
こうして得られた熱可塑性樹脂製の延伸糸を経緯糸として用いて織成してネット状の織編布を作製する。
【0055】
なお、本発明で使用される蛍光放射性ネット及び蛍光放射性シートには、例えば、熱可塑性樹脂を含むフィルム若しくはその長尺フィルム、フラットヤーン、モノフィラメント及び/又は複合モノフィラメント等の素材の表面に蛍光色素を付着させたものから作製されるものも含まれる。この場合、素材の表面に蛍光色素を付着させること以外の材料・製法等の条件については、熱可塑性樹脂と蛍光色素とを主成分とする組成物から作製する蛍光放射性ネット及び蛍光放射性シートと同様であり、省略する。ここで「素材表面への蛍光色素の付着」とは、素材の表面に蛍光色素の塗布液を塗布して蛍光色素からなる膜が形成された場合や、染料タイプの蛍光色素を用いて染色する場合のように、表面処理によって蛍光色素が付着された状態を意味する。
ただし、上述のような、色素を樹脂に混練して作製したものの方が「付着したもの」より耐久性の面で好ましい。
【0056】
次に、本発明で使用される蛍光放射性ネットのうち、特に、織編布を作製する際の好ましい条件について説明する。
【0057】
織編布の作製には、縦糸用及び横糸用の少なくとも2種類の材料が使用される。このような材料としては、例えば、長尺フィルム、フラットヤーン、モノフィラメント等、及びそれらの二次加工体の中から選択されるが、2種類の材料は同種のものであってもよいし、異種のものであってもよい。したがって、本発明で使用される織編布には、縦糸と横糸とに異種の材料を使用して織られたものが含まれる。
【0058】
また、縦糸と横糸とに用いる2種類の素材がそれぞれ同じ発光波長範囲を有する蛍光色素を含有してもよいし、異なる発光波長範囲を有する蛍光色素を含有してもよい。異なる発光波長範囲を有する蛍光色素としては、置換基が異なるのみで同じ色素骨格を有する同系統の蛍光色素や、異なる色素骨格を有する異系統の蛍光色素が例示される。
【0059】
また、縦糸と横糸とを構成するそれぞれの素材の一方にのみ蛍光色素を含有させ、他方に蛍光色素を含有させないこともできる。このような手法は、太陽光等の光の透過率を調整するのに好ましく利用される。
【0060】
本発明は、冬期にあるいは寒冷地においても、蛍光放射性資材から放射される蛍光によって光合成を促進し成長を早めて栽培期間を短縮でき、しかも農業用ハウス内の保温用の石化燃料などの熱エネルギーを15〜20%削減できるので、農業用ハウス及び畑地を周年使用可能とする経済性・生産性の高い農作物栽培方法である。
さらに、従来冬期に使用しない農業用ハウスに、本発明の農作物栽培方法を適用して、冬期にあるいは寒冷地において短期に野菜、花、果樹等を生産することができる。
また、本発明の農作物栽培方法は、蛍光放射性資材から放射される蛍光による殺菌効果を発現するため、殺菌剤による土中殺菌を必要とせず、対環境性の高いものである。
なお、農業用ハウス内の保温用熱エネルギーとして電力によるヒーターを用いる場合には、農業用ハウスの屋根部あるいは壁部の太陽電池パネルを設置し、太陽光によって生じる電力を蓄電してヒーター稼動用エネルギーとして、あるいはハウス内の照明等に利用し、さらに余剰の電力を電力会社に送電することもできる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例によってより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0062】
<蛍光放射性ネットA及びBの作製>
(1)蛍光放射性ネットの素材フィルムの作製
熱可塑性樹脂として、グリコール成分としてエチレングリコール/1,4−シクロヘキサンジメタノール=60/40(質量比)と、酸性分としてテレフタル酸とを縮重合させて得られるポリエステル樹脂(SK Chemicals社製、商品名:PET−G、銘柄:S2008)を用意した。このポリエステル樹脂に、蛍光色素としてペリレン系色素(ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト社製、商品名:Lumogen F Red300)をポリエステル樹脂に対して0.02質量%配合し、ヘンシェルミキサーで混練して樹脂組成物を作製した。次いで、65mmφ押出機を用いて、Tダイ法(溶融温度260℃)により得られた樹脂組成物をフィルム状に成形し、30℃にて冷却固化して厚さ60μmのフィルムを作製した。なお、使用したペリレン系蛍光色素は、約520〜約590nmの波長領域の光を吸収し(最大吸収波長は578nm)、約600〜約680nmの波長領域の蛍光を発するものである(最大蛍光波長は613nm)。
【0063】
(2)蛍光放射性ネットの作製
上記(1)のフィルムをスリットして得られた長尺フィルムから、直径約0.4mmの縒り糸を作製し、この縒り糸を3本束ねたものをネット作製用の素材とした。次に、この素材を縦糸及び横糸として用いて、ラッセル編機により、網目が1.5cm×1.5cm(空隙率約83%)である蛍光放射性ネットAと、網目が0.5cm×0.5cmである蛍光放射性ネットB(空隙率約40%)とを作製した。
【0064】
<蛍光放射性ネットCの作製>
蛍光色素としてペリレン系色素(ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト社製、商品名:Lumogen F Red305)を用いる以外、上記(1)と同様にしてフィルムを作製した。作製したフィルムを巾5mmにスリットした後延伸し、繊度が600dtのフラットヤーン(蛍光色素含有)を得た。
一方、高密度ポリエチレン(MFR=0.7g/10分、密度=0.957g/cm3、Tm=129℃)をモノフィラメント成形ダイスにより溶融押出し、次いで20℃で冷却固化した後に延伸処理して繊度700dtのモノフィラメント(蛍光色素不含)を得た。
得られた上記モノフィラメントを鎖編糸とし、得られた上記フラットヤーンを挿入糸として、ラッセル編機を使用して、網目が2.0×2.0cm、面積が1.5mのラッセル網の蛍光放射性ネットCを作製した。
【0065】
<蛍光放射性シートSの作製>
ポリエステル樹脂として東洋紡社製のバイロンSI−173を用い、これに蛍光色素として上記蛍光放射性ネットA、Bの作製に用いたペリレン系色素を0.02質量%配合した後、インフレーション成形法によってフィルム化し、蛍光放射性シートSを作製した。この蛍光放射性シートSの光透過率は約85%であった。
【0066】
<蛍光放射性ネットAの紫外線遮蔽効果>
上記製法で作製した蛍光放射性ネットAの紫外線遮蔽効果を測定するために、キセノンランプを光源として、1枚のネットAを透過する前後のUV−B及びUV−Cの積算光量を測定し、ネットAによるUV−B及びUV−Cのカット率(減衰率%)を算出した。
使用ネット : ネットA
光源 : キセノンランプ 10秒100発
積算光量測定装置 : EIT社製 PowerPuck
【0067】
上記測定の結果、ネットAを通過した後のキセノンランプに含まれるUV−B及びUV−Cの強度は、ネットAを通過する前に比べて、それぞれ6.7%及び18.5%減衰することが分かった。このことから、本発明で使用される蛍光放射性ネットは、有害な紫外線であるUV−B及びUV−Cを遮蔽し、紫外線による農作物の成長阻害を防止できることが確認された。なお、ネットAを二重にした場合のUV−B及びUV−Cのカット率は、それぞれ13.5%及び29.7%であった。
【0068】
<実施例1>
(ほうれん草のハウス栽培試験)
長野県茅野市泉野地区の農地に設置された、南北方向約5.5m、東西方向約29.0m、高さ約2.9mのドーム型のビニールハウス(MKVプラスティック(株)製。商品名:アグリスター)を用いて、ほうれん草のハウス栽培試験を低温期に91日間かけて行い、平成21年12月4日に播種し平成22年3月5日に収穫した。
この間のハウスの外気温は、最高気温15.5℃、最低気温マイナス13.2℃、平均気温マイナス0.6℃であり、平均日照時間は6.2時間であった。
上記ハウス内に、南北方向約130cm、東西方向約750cm、高さ約5cmの畝を3つ、東西方向に間隔を空けて作製した(以下、西側から畝A、畝B、畝Cという)。
畝A、畝B、畝Cに、ほうれん草の種(カッシーニ)を間隔が南北方向約16cm、東西方向約8cmになるように播いた。
【0069】
その後、複数本のトンネル支柱を用い、その両先端部が畝Aを跨ぐようにして南北方向に地中に固定し(畝表面からの高さが45cm、固定部間の長さ150cm)、次に、巾約1.6mの蛍光放射性シートSで支柱の上から畝A全体を覆い、夜間はさらに保温マット(熱遮断性気泡包括フイルム)で覆った。この場合、蛍光放射性シートSの両末端部と地面とに約15cmの間隔が形成され、通気口とした。
【0070】
畝Bについても、畝Aと同様にして、トンネル支柱を固定した後、巾約2mの蛍光放射性ネットAで支柱の上から畝B全体を覆い、夜間はさらに保温マットで覆った。この場合には、蛍光放射性ネットAの両末端部は地面に触れる状態になった。
畝Cは比較試験用で、蛍光放射性シートも蛍光放射性ネットも用いなかった。
【0071】
栽培期間中、晴天時、外気温が高くなる昼前後にはハウス内の温度が30℃以上に上昇するため、20℃〜25℃程度になるようにドアを開ける等して調整した。
ハウス内の温度は外気温より常に高いが、午後3時頃になると外気温が急激に低下し、それに伴いハウス内の温度も低下するが、播種後発芽が出揃うまでの10日間はハウス内が10℃程度に保温されるように設定し、ボイラーで暖めた。なお、発芽後はボイラーを止めた。
平成22年3月5日に、成長したほうれん草を各畝から無作為に10株ずつ抜いて、可食部の大きさ(長さ)及び重さを計量した。その結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1から、平均重量が畝Aの場合が42g、畝Bの場合が27g、畝Cの場合が18g、平均の大きさが畝Aの場合が334mm、畝Bの場合が295mm、畝Cの場合が231mmであり、畝Aあるいは畝Bのように蛍光放射性シートあるいは蛍光放射性ネットを用いる場合は、畝Cのようにいずれも用いない場合に比べてほうれん草の成長がはるかによいことが分かる。
これは、放射される蛍光がほうれん草の光合成を促進させていることに起因しているが、特に畝Aの場合の方が畝Bの場合よりも重量及び大きさが共に優れた結果を示しているのは、蛍光放射性シートの方が蛍光放射性ネットよりも、作物に放射される蛍光量が多く、かつ優れた保温性を示すためと考えられる。
本発明者等は該保温性について検証するために、上記の栽培期間に、畝の中央部の温度を測定したところ、畝Cに比べて、畝Aの場合平均1〜2℃程度高く、また畝Bの場合平均平均〜1℃程度高いことを確認した。
【0074】
一方、畝Cの場合、可食部の平均重量が18gのほうれん草を収穫するのに91日間かかったが、畝A及び畝Bでほうれん草の平均重量が18gに成長する期間を確認したところ、畝Aの場合は約50日、畝Bの場合では約60日であった。
蛍光放射性シートあるいは蛍光放射性ネットを用いると、栽培期間を短縮することができ、早期の出荷が可能となった。
また、ボイラーを一切使用せずに、かつ蛍光放射性シートあるいは蛍光放射性ネットを用いずに、ハウス内の畝で平均重量が18gのほうれん草を栽培すると、収穫までに約120日かかることを確認した。
また、発芽期間にボイラーを用いない場合には、蛍光放射性シートあるいは蛍光放射性ネットを用いても、ほぼ同じ大きさと重量のほうれん草を収穫するには、栽培期間はさらに約10日間ほど要した。
【0075】
<実施例2>
(小松菜のハウス栽培試験)
実施例1で用いた同じビニールハウス内で、小松菜のハウス栽培試験を低温期に55日間かけて行い、平成21年12月4日に播種し平成22年1月28日に収穫した。
この間のハウスの外気温は、最高気温13.0℃、最低気温マイナス13.2℃、平均気温マイナス1.3℃であり、平均日照時間は6.0時間であった。
上記ハウス内に、実施例1の畝とほぼ同じ寸法の3つの畝を、上記畝A、畝B、畝Cに並行に作製した(以下、西側から畝D、畝E、畝Fという)。
畝D、畝E、畝Fに、小松菜の種(楽天)を間隔が南北方向約16cm、東西方向約8cmになるように播いた。
【0076】
その後、畝Dについて、実施例1と同様にして、複数本のトンネル支柱を地中に固定し、次に、巾約1.6mの蛍光放射性シートSで支柱の上から畝D全体を覆った。この場合、両端末部と地面とに約15cmの間隔が形成され、通気口とした。夜間はさらに保温マット(熱遮断性気泡包括フィルム)で覆った。
【0077】
畝Eについては、トンネル支柱を固定した後、巾約2mの蛍光放射性ネットAで支柱の上から畝E全体を覆い、夜間はさらに保温マットで覆った。
畝Fは比較試験用で、蛍光放射性シートも蛍光放射性ネットも用いなかった。
【0078】
栽培期間中のハウス内の温度調整は実施例1と同様にして行った。
平成22年1月28日に、生育した小松菜を各畝から無作為に10株ずつ抜いて、可食部の大きさ(長さ)及び重さを測定した。その結果を表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
表2から、平均重量が畝Dの場合が45g、畝Eの場合が37g、畝Fの場合が26g、平均の大きさが畝Dの場合が303mm、畝Eの場合が257mm、畝Fの場合が201mmであり、実施例1と同様に、蛍光放射性シートあるいは蛍光放射性ネットによる蛍光及び保温性による効果が発揮されていることが分かる。
【0081】
また、畝Fの場合、可食部の大きさが平均201mmの小松菜を55日間で収穫したが、畝D及び畝Eで大きさが平均201mmの小松菜に成長する期間を確認したところ、畝Dの場合は約40日、畝Bの場合では約45日であった。
蛍光放射性シートあるいは蛍光放射性ネットを用いると、実施例1と同様に、栽培期間を短縮することができ、小松菜の早期の出荷が可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルム又はガラスを使用した農業用ハウス内において、蛍光放射性ネット及び蛍光放射性シートのいずれかを、農作物を覆うように配置することを特徴とする農作物栽培方法。
【請求項2】
前記蛍光放射性ネット又は前記蛍光放射性シートを、栽培する農作物上にトンネル状に配置することを特徴とする請求項1記載の農作物栽培方法。
【請求項3】
前記蛍光放射性ネット又は前記蛍光放射性シートと農作物との距離が、前記蛍光放射性ネット又は前記蛍光放射性シートと前記農業用ハウスのプラスチックフィルム又はガラスとの距離に比べて小さいことを特徴とする請求項1又は2記載の農作物栽培方法。
【請求項4】
前記蛍光放射性シート及び前記蛍光放射性シートの、波長域280〜320nm(UV−B)の減衰率が5.5〜12.0%で、波長域250〜280nm(UV−C)の減衰率が17.5〜28.0%であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の農作物栽培方法。
【請求項5】
前記蛍光放射性ネット及び前記蛍光放射性シートが、250〜650nmの波長域の光を吸収し、かつ450〜700nmの波長域の蛍光を放射するものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の農作物栽培方法。
【請求項6】
前記蛍光放射性シートの光透過率が80〜95%であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の農作物栽培方法。

【公開番号】特開2011−223941(P2011−223941A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97648(P2010−97648)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【出願人】(591161346)マテリアルサイエンス株式会社 (5)
【Fターム(参考)】