説明

農園芸用殺菌剤組成物及びその使用方法

【課題】
一般的に銅剤は他の成分により植物体への吸収が増すと薬害が発生すること、また、混合した場合に他の有効成分の安定性や製剤物理化学性に影響を与える場合もあること等から、他の有効成分との混合製剤の開発や混用方法の確立が難しいところであるが、銅剤を他の有効成分と組み合わせることにより、薬害の発生や当該他の有効成分の安定性を損なうという問題を生じることなく、優れた病害防除効果を発揮する農園芸殺菌剤組成物及び農園芸病害防除方法を提供する。
【解決手段】銅剤及びトリホリンを有効成分として含有する農園芸用殺菌剤組成物は、薬剤耐性菌を含む多種類の病害に対して殺菌剤単剤各々の効果からは予期できない優れた効果を示し、また、種々の植物に対しての薬害が少なく、更には有効成分の安定性にも優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅剤とトリホリンとを有効成分として含有する農園芸用殺菌剤組成物及びその使用方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
農業園芸用殺菌剤分野では、種々の化合物が農園芸用殺菌剤の有効成分として使用されており、個々の化合物の殺菌スペクトラムの補完や特定の病害に対する相乗効果を得る目的で多くの混合剤が開発されている。銅剤は古くから知られている農園芸用殺菌剤であるが、薬剤抵抗性が発達し難く、比較的安価で広範囲の植物病害に対して防除効果を有することから、現在でも広く使用され、多くの混合剤が知られている(例えば、特許文献1乃至3を参照。)。一方、トリホリン(triforine)はピペラジン構造を有する公知の殺菌剤であり、エルゴステロール生合成阻害剤として知られている化合物である(例えば、非特許文献1又は2を参照。)。しかしながら、銅剤とトリホリンを有効成分とする混合剤はこれまで知られておらず、更に、これらを混合することにより、農園芸用殺菌剤として特段の相乗効果を示すことは知られていない。
【特許文献1】特開平5−320006号公報
【特許文献2】特開2001−206806号公報
【特許文献3】特開2006−282553号公報
【非特許文献1】ザペスティサイドマニュアル(The Pesticide Manual thirteenth Edition 2003)
【非特許文献2】渋谷成美,他3名,「SHIBUYA INDEX−2005−10th Edition」,SHIBUYA INDEX研究会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のように、銅剤は農園芸用殺菌剤として広く使用されてきたが、銅剤単独での効果は必ずしも充分ではない。そこで、他の成分との組み合わせによりその効果を高めることができれば、作物生産の安定化や使用薬剤量の低減につながり、総合的な自然環境への負荷の軽減に資することにもなる。ところが、一般的に銅剤は他の成分等により植物体への吸収が増すと薬害が発生すること、また、混合した場合に他の有効成分の安定性や製剤物理化学性に影響を与える場合もあること等から、他の有効成分との混合剤や混用方法の確立が難しいとされている。かかる状況に鑑み、銅剤を他の有効成分と組み合わせることにより、薬害の発生や当該他の有効成分の安定性を損なうという問題を生じることなく、優れた病害防除効果を発揮する農園芸殺菌剤組成物が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、植物病害に十分な効果を発揮する薬剤や処理方法の開発に鋭意検討を続けた結果、銅剤とトリホリンとを有効成分として含有する農園芸用殺菌剤組成物が、薬剤耐性菌を含む多種類の病害に対して各々の効果からは予期できない優れた効果を示すことを見出し、また、種々の植物に対しての薬害が抑制されることを見出し、更には有効成分の安定性にも優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0005】
即ち、本発明は、
(1)銅剤とトリホリンとを有効成分として含有する農園芸用殺菌剤組成物、
(2)銅剤が塩基性塩化銅、塩基性硫酸銅及び有機銅からなる群より選択される1又は2の化合物である(1)に記載の農園芸用殺菌剤組成物、
(3)銅剤が塩基性硫酸銅である(1)に記載の農園芸用殺菌剤組成物、
(4)(1)及至(3)いずれか1つに記載の農園芸用殺菌剤組成物の有効量を植物又は栽培担体に処理することを特徴とする農園芸用殺菌剤組成物の使用方法、及び
(5)銅剤とトリホリンの有効量を、各々単独で植物又は栽培担体に同時期に処理することを特徴とする農園芸用殺菌剤組成物の使用方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の農園芸用殺菌剤組成物は、薬剤耐性菌をも含む種々の植物病害に対して相乗的な防除効果が認められ、かつ、種々の植物に対して薬害が抑制されることから優れた農園芸殺菌剤として使用することができる。また、有効成分の各々単独よりはるかに高い効果が認められることから、環境中への投下薬量の低減や散布回数の減少により高い安全性と経済性が提供される。更には、異なる作用性の薬剤を組合せることにより、植物病原菌における薬剤耐性の発達を未然に防止することが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の農園芸用殺菌剤組成物に用いられる有効成分の一つである銅剤としては、無機銅剤又は有機銅剤であり、無機銅剤としては、銅イオンを含有する抗菌性の無機化合物であればよく、例えば、塩基性塩化銅、塩基性硫酸銅、塩基性炭酸銅、亜酸化銅、塩基性燐酸銅、塩基性硫酸銅カルシウム及び銅アンモニウム錯塩等が挙げられる。好ましくは、塩基性塩化銅又は塩基性硫酸銅であり、特に好ましくは、塩基性硫酸銅である。塩基性硫酸銅の態様は特に限定されないが、ボルドー液の状態が特に好ましい。有機銅剤としては、例えば、8−ヒドロキシキノリン銅、ノニルフェノールスルホン酸銅、PCP銅、テレフタル酸銅及びオキシンドー等が挙げられる。
【0008】
本発明で好ましく用いられるボルドー液は、石灰ボルドー液とも呼ばれるもので、硫酸銅を水に溶かした後、生石灰を水で溶解(石灰乳)させた液に少しずつ加えて調合して使用するが、その比率には特に制限は無い。通常、6−6式、6−4式、5−5式、5−4式、4−4式、4−5式、4−12式等様々な濃度で利用される。これらはボルドー液1リットル中の硫酸銅と生石灰のg数で表示されるもので、例えば4−12式の場合、1リットル中に含まれる硫酸銅が4g、生石灰が12gとなる。生石灰の替わりに消石灰等を用いることができる。市販の製剤には上記ボルドー液に相当する薬剤として、例えば、塩基性硫酸銅を有効成分として含有するICボルドー66D、ICボルドー412(商品名、4−12式ボルドー相当品)等がある。
【0009】
また、ボルドー液としては、本発明の目的を損なわない範囲で、塩基性硫酸銅と生石灰(又は消石灰)以外に他の化合物を含んでいるものを用いることもできる。例えば、市販品として、また、塩基性硫酸銅を主成分とし、塩基性硫酸亜鉛と塩基性炭酸マグネシウムを配剤したZボルドー(商品名、日本農薬株式株式会社製)等がある。Zボルドーは特に好ましい態様のひとつである。
【0010】
本発明の農園芸用殺菌剤組成物において必須の有効成分である、銅剤及びトリホリンの含有量としては、銅剤及びトリホリンの総量で通常約0.11%〜約90%程度であり、好ましくは下限1%程度、上限50%程度の範囲とすることが経済的である。その内訳としては、通常、銅剤が0.1%から80%の範囲で、トリホリンが0.01%から50%の範囲で用いられる。両者の配合割合は、銅剤:トリホリンの比率が1:10〜100000:1の範囲で用いることができるが、好ましくは、1:1〜10000:1の範囲である。より好ましくは、10:1〜1000:1の範囲である。
【0011】
本発明の農園芸殺菌剤組成物は、少なくとも上記の銅剤及びトリホリンを含み、農薬製剤上の常法に従い、使用上都合の良い形状に製剤して使用するのが一般的である。即ち、銅剤及びトリホリン等の有効成分を適当な不活性担体に、又は必要に応じて補助剤と一緒に適当な割合に配合して溶解、分離、懸濁、混合、含浸、吸着若しくは付着させ、適宜の剤形、例えば懸濁剤、乳剤、乳懸濁剤、液剤、水和剤、粒剤、顆粒水和剤、フロアブル剤、粉剤、錠剤、ジャンボ剤、種子コーティング製剤、液剤等に製剤して施用することができる。
【0012】
本発明の農園芸殺菌剤組成物における担体としては、不活性担体が好ましい。また、担体の形態は固体又は液体の何れであってもよい。したがって、本発明の農園芸殺菌剤組成物の製品形態もまた、固体製品であっても液体製品ないし懸濁性製品であってもよい。
固体の担体になり得る材料としては、例えば植物質粉末類(例えばダイズ粉、穀物粉、木粉、樹皮粉、鋸粉、タバコ茎粉、クルミ殻粉、ふすま、繊維素粉末、植物エキス抽出後の残渣等)、粉砕合成樹脂等の合成重合体、粘土類(例えばカオリン、ベントナイト、酸性白土等)、タルク類(例えばタルク、ピロフィライト等)、シリカ類{例えば珪藻土、珪砂、雲母、ホワイトカーボン(含水微粉珪素、含水珪酸ともいわれる合成高分散珪酸で、製品により珪酸カルシウムを主成分として含むものもある。)}、活性炭、天然鉱物質類(例えばイオウ粉末、軽石、アタパルジャイト及びゼオライト等)、焼成珪藻土、レンガ粉砕物、フライアッシュ、砂、プラスチック担体等(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン等)、炭酸カルシウム等の無機鉱物性粉末、硫安、硝安、尿素、塩安等の化学肥料、有機肥料、動物排泄物発酵産物、堆肥等を挙げることができ、これらは単独で若しくは二種以上の混合物の形で使用される。
【0013】
液体の担体になりうる材料としては、それ自体溶媒能を有するものの他、溶媒能を有さずとも補助剤の助けにより有効成分を分散させうることとなるものから選択され、例えば代表例として例えば水、アルコール類(例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、プロピレングリコール等)、ケトン類(例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、エーテル類(例えばエチルエーテル、ジオキサン、セロソルブ、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等)、脂肪族炭化水素類(例えばケロシン、鉱油等)、芳香族炭化水素類(例えばベンゼン、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、アルキルナフタレン等)、ハロゲン化炭化水素類(例えばジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、塩素化ベンゼン等)、エステル類(例えば酢酸エチル、ジイソプピルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等)、アミド類(例えばジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)、ニトリル類(例えばアセトニトリル等)、ジメチルスルホキシド類等を挙げることができ、これらは単独で若しくは2種以上の混合物の形で使用される。液体の担体として好ましくは水である。
【0014】
有効成分の分散を助ける目的及び/又はその他の目的に用いられる補助剤としては、次に例示する代表的な補助剤を挙げることができる。これらの補助剤は目的に応じて使用され、単独で、ある場合は二種以上の補助剤が併用される。また、ある場合には全く補助剤を使用しないことも可能である。
【0015】
有効成分の乳化、分散、可溶化及び/又は湿潤の目的のために界面活性剤が使用され、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、アルキルアリールスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸縮合物、リグニンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル等の界面活性剤を例示することができる。又、有効成分化合物の分散安定化、増粘、粘着及び/又は結合の目的のために、次に例示する補助剤を使用することもでき、例えばカゼイン、ゼラチン、澱粉、キサンタンガム等の増粘多糖類、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース類、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、松根油、糠油等の高粘度油類、ベントナイト等のチキソトロピー性付与物質、リグニンスルホン酸塩等の補助剤を使用することもできる。
【0016】
固体製品の流動性改良のために次に挙げる補助剤を使用することもでき、例えばワックス、ステアリン酸塩、燐酸アルキルエステル等の補助剤を使用できる。また、懸濁性製品の解こう剤として、例えばナフタレンスルホン酸縮合物、縮合燐酸塩等の補助剤を使用することもできる。
【0017】
消泡剤としては、例えばシリコーン油等の補助剤を使用することもできる。防腐剤としては、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸ブチル等のパラベン類、ソルビン酸カリウム、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン又はパラクロロメタキシレノール等のフェノール類等の補助剤を使用することができる。
【0018】
更に必要に応じて、テルペン、ポリアミド樹脂又はポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンの高級脂肪酸エステル等の機能性展着剤、ピペロニルブトキサイド等の代謝分解阻害剤等の活性増強剤、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン又はジエチレングリコール(BHA)等の凍結防止剤、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)又はブチルヒドロキシアニソール等の酸化防止剤、ハイドロキノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物又はサリチル酸系化合物等の紫外線吸収剤、或いはメチルセルロース、ポリビニルアルコール又はポリアクリル酸ナトリウム等のドリフト防止剤等その他の補助剤等を使用することができる。
【0019】
本発明の農園芸用殺菌剤組成物は、それ自体を単独で使用に供することができるのは勿論であるが、更に防除対象病害虫、防除適期の拡大のため、或いは薬量の低減、相乗効果を図る目的で他の農園芸用殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、殺菌剤、生物農薬等と混合して使用することも可能であり、又、使用場面に応じて除草剤、植物成長調節剤、肥料等と混合して使用することも可能である。
また、本発明においては、銅剤等とトリホリン製剤を上記に準じて別々に製剤、調整し、使用時に混合することで本発明の農園芸用殺菌剤組成物となし、使用することもできる。
【0020】
本発明の農園芸用殺菌剤組成物の使用対象としては、下記の植物病害を例示することができる。大きく分ければ、糸状菌類病害、細菌類病害、ウイルス病病害を含むものであり、例えば、不完全菌類(例えば、ボトリチス(Botrytis)属病害、ヘルミントスポリウム(Helminthosporium)属病害、フザリウム(Fusarium)属病害、セプトリア(Septoria)属病害、サルコスポラ(Cercospora)属病害、ピリキュラリア(Pyricularia)又はマグナポルテ(Magnaporthaceae)属病害、アルタナリア(Alternaria)属病害等)、担子菌類(例えばヘミレイア(Hemileia)属病害、リゾクトニア(Rhizoctonia)属病害、プクシニア(Puccinia)属病害等)、ベンチュリア(Venturia)属病害、モニリニア(Monilinia)属病害、ウンシヌラ(Unsinula)属病害等、その他の菌類(例えば、アスコキータ(Ascochyta)属病害、フォマ(Phoma)属病害、ピシウム(Pythium)属病害、コルティシウム(Corticium)属病害、ピレノフォラ(Pyrenophora)属病害等)等、細菌類による病害である、例えば、シュードモナス(Pseudomonas)属病害、キサントモナス(Xanthomonas)属病害、エルビィニア(Erwinia)属病害等、あるいは、ウイルス類(例えば、タバコモザイクウイルス)による病害等を含むものである。
【0021】
個々の病害としては、例えば、イネいもち病(Pyricularia oryzae又はMagnaporthe grisea)、イネ紋枯病(Rhizoctonia solani)、イネごま葉枯病(Cochiobolus miyabeanus)、イネ苗立ち枯れ病(Rhizopus chinensis,Pythium graminicola,Fusarium graminicola,Fusarium roseum,Mucor sp.,Phoma sp.,Tricoderma sp.)、イネ馬鹿苗病(Gibberella fujikuroi)、オオムギ及びコムギ等のうどんこ病(Blumeria graminis)又はキュウリ等のうどんこ病(Sphaerotheca cucurbiae)及び他の宿主植物のうどんこ病、オオムギ及びコムギ等の眼紋病(Pseudocercosporella herpotrichoides)、コムギ等の黒穂病(Urocystis tritici)、オオムギ及びコムギ等の雪腐病(Fusariumu nivale,Pythium iwayamai,Typhla ishikariensis,Sclerotinia borealis)、エンバクの冠さび病(Puccinia coronata)及び他の植物のさび病、キュウリ、イチゴ等の灰色かび病(Botrytis cinerea)、トマト、キャベツ等の菌核病(Sclerotinia sclerotiorum)、バレイショ、トマト等の疫病(Phytophthora infestans)及び他の植物の疫病、キュウリべと病(Pseudoperonospora cubensis)、ブドウべと病(Plasmopara viticola)等の種々の植物のべと病、リンゴ黒星病(Venturia inaequalis)、リンゴ斑点落葉病(Alternaria mali)、ナシ黒斑病(Alternaria kikuchiana)、カンキツ黒点病(Diaporthe citri)、カンキツそうか病(Elsinoe fawcetti)、テンサイ褐斑病(Cercospora beticola)、ラッカセイ褐斑病(Cercospora arachidicola)、ラッカセイ黒渋病(Cercospora personata)、コムギ葉枯れ病(Septoria tritici)、コムギふ枯れ病(Septoria nodorum)、オオムギ雲型病(Rhynchosporium secalis)、シバの葉腐病(Rhizoctonia solani)、シバのダラースポット病(Sclerotinia homoeocarpa)、Psuedomonas属病害(例えばキュウリ斑点細菌病(Pseudomonas syringae pv. lachrymans)、トマト青枯病(Pseudomonas solanacearum)及びイネ籾枯細菌病(Pseudomonas glumae))、Xanthomonas属病害(例えばキャベツ黒腐病(Xanthomonas campestris)、イネ白葉枯病(Xanthomonas oryzae)及びカンキツかいよう病(Xanthomonas citri))、Erwinia属病害(例えばキャベツ軟腐病(Erwinia carotovora))等の細菌病、タバコモザイク病(Tobacco mosaic virus)等のウイルス病等に対して顕著な防除効果を有するものである。
好適には、キュウリうどんこ病(Sphaerotheca cucurbiae)、バレイショ及びトマト疫病(Phytophthora infestans)に対して高い防除効果を有する。
【0022】
本発明の殺菌剤組成物を使用できる植物は特に限定されるものではないが、例えば以下に示した植物が挙げられる。
すなわち、穀類(例えば、稲、大麦、小麦、ライ麦、オート麦、トウモロコシ、高粱等)、豆類(大豆、小豆、そら豆、えんどう豆、落花生等)、果樹・果実類(リンゴ、柑橘類、梨、ブドウ、桃、梅、桜桃、クルミ、アーモンド、バナナ、イチゴ等)、野菜類(キャベツ、トマト、ほうれん草、ブロッコリー、レタス、タマネギ、ネギ、ピーマン等)、根菜類(ニンジン、馬鈴薯、サツマイモ、大根、蓮根、かぶ等)、加工用作物類(綿、麻、コウゾ、ミツマタ、菜種、ビート、ホップ、サトウキビ、テンサイ、オリーブ、ゴム、コーヒー、タバコ、茶等)、瓜類(カボチャ、キュウリ、スイカ、メロン等)、牧草類(オーチャードグラス、ソルガム、チモシー、クローバー、アルファルファ等)、芝類(高麗芝、ベントグラス等)、香料等用作物類(ラベンダー、ローズマリー、タイム、パセリ、胡椒、しょうが等)、花卉類(キク、バラ、蘭等)等の植物に使用できる。
【0023】
本発明の農園芸用殺菌剤組成物は、その有効量、すなわち植物病害防除に有効な量を植物又は栽培担体に処理することにより使用することができる。そのような本発明の農園芸用殺菌剤組成物の使用方法もまた本発明のひとつである。当該使用方法において、農園芸用殺菌剤組成物は、各種病害を防除するためにそのまま、又は水等で適宜希釈し、若しくは懸濁させた形で、植物病害防除に有効な量を当該病害の発生が予測される対象植物に散布処理して使用することができ、植物の根部や基部を侵害する病害に対しては土壌、育苗マット等の栽培担体に処理して使用することができ、土壌灌注処理、育苗箱潅注処理、セルトレー潅注処理、培土混和処理、種子処理等により播種時や定植時、生育期に使用することもできる。
【0024】
本発明の農園芸用殺菌剤組成物を使用する場合の「栽培担体」とは、植物を栽培するための支持体を意味し、「土壌」を含む概念である。栽培担体の材質としては特に制限されず、植物が生育しうる材質であればよいが、例えば、いわゆる各種土壌、育苗マット、水等を含むものであり、砂、バーミキュライト、綿、紙、珪藻土、寒天、ゲル状物質、高分子物質、ロックウール、グラスウール、木材チップ、バーク、軽石やこれらの混合物等が挙げられる。
【0025】
本発明の農園芸用殺菌剤組成物を使用する際の施用濃度及び施用量としては、散布処理する場合は、通常、100倍から2000倍の範囲で水に希釈して用いることにより経済的な防除が可能であり、散布水量は10アールあたり100リットルから10アールあたり500リットルで用いることにより効率的な防除が可能である。また、水を用いずに粉剤として植物体にそのまま散布することも可能であり、土壌灌注処理や種子処理等の方法では10倍〜100倍程度の高濃度で施用することもでき、培土混和処理等の方法では希釈せずに用いることもできる。
【0026】
本発明の農園芸用殺菌剤組成物は、他の殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、植調剤、除草剤、種子消毒剤、肥料又は土壌改良資材と混合して又は混合せずに同時に若しくは時間を置いて用いることができる。
【0027】
既に述べたように、本発明の農園芸用殺菌剤組成物の使用においては、予め本発明の農園芸用殺菌剤組成物として調製された、例えば銅剤及びトリホリンを混合製剤化したものを施用することができる。また、使用の現場において本発明の農園芸用殺菌剤組成物を調製して使用することもでき、例えば個々の有効成分の製剤組成物や希釈液等を処理時に混用して施用してもよい。
【0028】
更に本発明においては、上記した方法以外に、銅剤及びトリホリンを別々に施用するが両方を施用することで上記したような農園芸用病害を防除する方法を採用することができる。そのような農園芸用病害防除方法としては、例えば銅剤を有効成分として含有する組成物とトリホリンを有効成分として含有する組成物とをそれぞれ希釈した2種類の希釈液で同時期に植物又は栽培担体を処理する方法が挙げられる。
【0029】
なお、銅剤及びトリホリンを別々に施用する場合、同時に施用してもよく、2日程度の間隔を設けてもよいが、いずれか一方の有効成分が植物又は栽培担体に残存している時期に他方の有効成分を施用することが好ましく、上記の「同時期に処理する」とは、そのように両者が処理されている時期の少なくとも一部が重複することを含む概念であり、必ずしも同時に施用作業を行う必要はない。銅剤及びトリホリンを同時でなく別々に施用する場合の順序は、特に限定されないが、トリホリンの方が揮発及び分解等しやすいことを考慮すれば、銅剤を先に施用する方が好ましい。
【0030】
本発明においては、銅剤をトリホリンの農園芸病害防除効果増強のために使用することができる。なお、農園芸病害防除効果増強とは、トリホリンが単独で用いられた場合に示される農園芸病害防除効果と比して、その効果自体の強さの程度が増強される場合のみならず、効果の持続性の向上、トリホリンが本来有していない効果の補完、銅剤との併用による相乗効果などを包含する広い概念である。特に、本発明においては、銅剤とトリホリンとの併用による相乗効果を確認することができ、その詳細は下記の実施例において説明される。
【0031】
また、本発明においては、必須の有効成分である銅剤及びトリホリンの両者の揮発性及び環境中での分解性に差があり、トリホリンに比して銅剤が消失しにくい。このため、例えば本発明の農園芸用殺菌剤組成物を施用した場合、トリホリンが揮発又は分解する等してその残存量が少なくなり又は無くなった場合においても、銅剤を比較的多く残存させることができるので、上記した相乗効果とも相俟って、農園芸病害防除効果を急速に低下させることなく、残効性に優れたものとすることができる。
【実施例】
【0032】
以下に、本発明の農園芸用殺菌剤組成物の代表的な製造例及び試験例を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限られるものではない。
<製造例1>
塩基性硫酸銅36重量部、トリホリン1重量部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルサルフェートナトリウム塩3重量部、リグニンスルホン酸カルシウム3重量部、含水ケイ酸4重量部及び焼成珪藻土53重量部を均一に混合粉砕して、水和剤として用いうる農園芸用殺菌剤組成物を得た。
【0033】
<製造例2>
塩基性硫酸銅22重量部、トリホリン0.3重量部、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム1.4重量部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル3重量部、プロピレングリコール5重量部及び水68.3重量部を混合して湿式粉砕し、更にキサンタンガム0.3重量部を加え混合して水性懸濁剤である農園芸用殺菌剤組成物を得た。
【0034】
<試験例>
次に、植物病害防除効果を確認するための試験例を示す。なお、下記試験例1及び2における供試薬剤に用いた製剤は次の通りであり、これらの製剤を所定濃度の薬液に希釈して試験を行った。
・塩基性硫酸銅:Zボルドー 36%フロアブル(水性懸濁剤) 市販品
・トリホリン:15%乳剤
(組成)トリホリン 15重量部
Nメチルピロリドン 10重量部
キシレン 65重量部
界面活性剤 10重量部(東邦化学製SP−3005X)
【0035】
試験例1.トマト疫病(Phytophthora infestans)防除効果試験
所定濃度の薬液を調製し、ポット(0.0001アール)で栽培した4.6葉期のトマト(品種:ポンテローザ)に200リットル/10アールの割合で茎葉散布した。乾燥後にトマト疫病菌の胞子懸濁液を接種した。接種7日後に下記の基準に従って発病指数を調査し、下記式1に従って防除価を求めた。試験は1区1株、3反復で行った。結果を第1表に示す。尚、無処理区の発病指数は9.3であった。
【0036】
発病指数の基準
0 : 発病なし
1 : 病斑面積率1〜10%
2 : 病斑面積率11〜20%
3 : 病斑面積率21〜30%
4 : 病斑面積率31〜40%
5 : 病斑面積率41〜50%
6 : 病斑面積率51〜60%
7 : 病斑面積率61〜70%
8 : 病斑面積率71〜80%
9 : 病斑面積率81〜90%
10: 病斑面積率91〜100%
【0037】
[式1]
(無処理区の病斑面積率−処理区の病斑面積率)×100
防除価(%)=―――――――――――――――――――――――――――
無処理区の病斑面積率
【0038】
また、下記式2のコルビーの計算式によって算出したコルビーの期待値を用いて相乗効果の有無を評価した。一般に、与えられた2種類の有効成分を混合して処理した場合に、実際に測定された効果が下記のコルビーの式で計算されるコルビーの期待値(E)(二種の有効成分の組み合わせに期待される防除価(%)を示すことになる。)よりも大きいと、2種の有効成分の組み合わせによる作用が相乗的であると判定される。
【0039】
[式2]
コルビーの期待値(E)=(X+Y)−(X×Y)÷100
(式中、Xは一方の有効成分の防除価(%)を、Yは他方の有効成分の防除価(%)を表す。)
【表1】

【0040】
試験例2.キュウリうどんこ病(Sphaerotheca
cucurbitae)防除効果試験
キュウリ(品種:四葉)を温室内で1/5000アールワグネルポットで栽培し、自然感染が起こるように周囲にキュウリうどんこ病罹病ポットを設置した。本葉が1.1葉期の時に、所定濃度の薬剤を10アールあたり200リットルの割合で茎葉散布した。処理8日後に試験例1と同様に発病指数を調査し、防除価を算出した。試験は1区1株、3反復で行った。結果を第2表に示す。尚、無処理区の発病指数は9.5であった。
【表2】

【0041】
以上の結果のように、塩基性硫酸銅とトリホリンの組合せは明らかな相乗効果を有していた。薬剤耐性菌株にも有効であるため、実用薬量においてより長期間に亘り作物を保護することができる。
【0042】
尚、上記試験例では、銅剤(塩基性硫酸銅)を有効成分として含有する組成物(水性懸濁剤)と、トリホリンを有効成分として含有する組成物(乳剤)とを使用時に混用することにより両有効成分の相乗効果を確認しているが、銅剤とトリホリンの両方を有効成分として含有する組成物(例えば銅剤とトリホリンとのプレミックス製剤)として用いた場合にも同様の相乗効果が得られる。更に、銅剤を有効成分とする組成物とトリホリンを有効成分とする組成物を各々単独で同時期に処理した場合にも同様の相乗効果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅剤とトリホリンとを有効成分として含有する農園芸用殺菌剤組成物。
【請求項2】
銅剤が塩基性塩化銅、塩基性硫酸銅及び有機銅からなる群より選択される1又は2の化合物である請求項1に記載の農園芸用殺菌剤組成物。
【請求項3】
銅剤が塩基性硫酸銅である請求項1に記載の農園芸用殺菌剤組成物。
【請求項4】
請求項1及至3いずれか1項に記載の農園芸用殺菌剤組成物の有効量を植物又は栽培担体に処理することを特徴とする農園芸用殺菌剤組成物の使用方法。
【請求項5】
銅剤とトリホリンの有効量を、各々単独で植物又は栽培担体に同時期に処理することを特徴とする農園芸用殺菌剤組成物の使用方法。

【公開番号】特開2008−290993(P2008−290993A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140247(P2007−140247)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000232623)日本農薬株式会社 (97)
【Fターム(参考)】