説明

農園芸用毒餌剤

【課題】種々の害虫に対して優れた防除効果を示す農園芸用毒餌剤を提供する。
【解決手段】害虫に誘引性のある可食性担体(例:米糠等)と、有効成分として一般式(I):
【化1】


〔式中、Aは
【化2】


(式中、R5は水素原子又はC1-C6アルキル基を示し、Yは同一又は異なっても良く、ハロゲン原子及びハロC1-C6アルキル基から選択される1〜2個の置換基を示す。)を示す。R1は水素原子を示す。R2は水素原子を示し、R3は水素原子等を示し、R4は水素原子、同一又は異なっても良く、ハロゲン原子、シアノ基等から選択される1〜2個の置換基を有する置換フェニル基等を示す。Xはハロゲン原子、シアノ基、ハロC1-C6アルキル基、ハロC1-C6アルコキシ基を示す。Wは酸素原子又は硫黄原子を示す。〕で示されるヒドラジンカルボキサミド化合物を含有する農園芸用毒餌剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒドラジンカルボキサミド化合物を有効成分として含有してなる農園芸用毒餌剤及びその使用方法並びに農園芸害虫の防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より農園芸用毒餌剤としては、誘引成分である担体(米糠等)中に有効成分として有機燐系殺虫剤、カーバメート系殺虫剤及びピレスロイド系殺虫剤を含有させたものが、ネキリムシ、ハスモンヨトウ、コオロギ等の防除に使用されている(例えば、特許文献1参照。)。
本願で用いられるヒドラジンカルボキサミド化合物は、殺虫活性を有する公知化合物である(例えば、特許文献2参照。)。使用目的に応じて適当な剤型に調整して使用できること、また、貯穀害虫、家屋害虫、衛生害虫、森林害虫等にベイト剤(毒餌剤)として使用できることが知られている。同様の化合物の、防蟻剤としての利用や動物用外部寄生虫の防除への利用等が知られている(例えば、特許文献3又は4参照。)。また、白蟻の防除に際しての粉末製剤の利用についても知られている(例えば、特許文献5参照。)。しかし、これらには農園芸用毒餌剤としての使用については記載も示唆もない。
ヒドラジンカルボキサミドや各種化合物がナトリウムチャンネルブロッカーであることは既に知られている(例えば、特許文献6参照。)。他のナトリウムチャンネルブロッカーとしてはピラゾリン系化合物等様々な化合物が知られている(例えば、非特許文献1又は特許文献6参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開昭62−126006号公報
【特許文献2】特開平5−4958号公報
【特許文献3】特開2001−72516号公報
【特許文献4】特開2002−128614号公報
【特許文献5】特開2004−285061号公報
【0004】
【特許文献6】特表2004−521888号公報
【非特許文献1】新農薬開発の最前線−生物制御科学への展開−(株式会社シーエムシー出版) (第3章殺虫剤の動向、5 ピラゾリン系剤p.94−p.96)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機燐剤及びカーバメート剤は農園芸用毒餌剤の有効成分として種々の課題を有する。これら薬剤は、化合物自体の畑等屋外自然条件における安定性が充分でなく効果持続性が短い。特有の臭いによって対象害虫が毒餌剤を忌避するため、薬剤の取りこみが十分でない。抵抗性を示す害虫が出現していることから効果は必ずしも十分ではない。哺乳類や鳥類等他の動物に対する毒性も高いため、毒餌剤の誤摂取による事故の危険もある等である。ピレスロイド剤もまた、種々の課題を有する。ピレスロイド剤は害虫に忌避性を示すため、毒餌剤としては薬剤の取りこみが十分でなく充分な致死性が得られない。抵抗性を示す害虫が出現しており効果は必ずしも十分ではない。また魚毒性が高く、河川等水系の周辺では利用が難しい等である。
よって、農園芸作物を土壌等に生息する害虫等から守るために、害虫等に対し忌避作用が無く、低薬量で高い効果を持続し、既存薬剤に抵抗性を示す害虫にも高い効果を示し、かつ哺乳類、鳥類や魚類等目的とする害虫以外の生物に対する毒性の低い、農園芸用毒餌剤が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明者等はヒドラジンカルボキサミド化合物を害虫に誘引性のある担体中に、有効成分として含有させたところ、農薬の通常製剤の散布処理と比較して、単位施用面積当たりの施用量が極めて低薬量であっても高い害虫防除効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。また、ヒドラジンカルボキサミドを含有する農園芸用毒餌剤は各種害虫に対して優れた誘因・喫食性を有する(忌避性がない)ことを見出した。既存薬剤に抵抗性を示す害虫を含む、各種害虫に対して致死効力の高いことも見出し、本発明の高い有用性を確かめることができた。更に、こうした特性はナトリウムチャンネルブロッカーに共通する特徴であることを見出した。
即ち、本発明は、害虫に誘引性のある担体に、ナトリウムチャンネルブロッカーである一般式(I):
【化1】

〔式中、Aは
【0007】
【化2】

(式中、R5は水素原子又はC1-C6アルキル基を示し、Yは同一又は異なっても良く、ハロゲン原子及びハロC1-C6アルキル基から選択される1〜2個の置換基を示す。)又は
【化3】

【0008】
(式中、R5及びYは前記に同じくし、R6は水素原子、C1-C6アルキルカルボニル基、フェニルカルボニル基又は同一若しくは異なっても良いC1-C6アルキル基から選択される1〜2個の置換基を有する置換フェニルカルボニル基を示す。)。
1は水素原子、C1-C6アルキル基又はC1-C3アルコキシカルボニル基を示す。R2は水素原子、水酸基、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基、C1-C6アルキルカルボニル基又はフェニルカルボニル基を示し、又、R2はYと一緒になってメチレン基を示し、インダン環を形成することもできる。R3は水素原子、水酸基、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基、C1-C6アルキルカルボニル基又はフェニルカルボニル基を示し、又、R3はR5と一緒になって少なくとも2個の窒素原子を含むヘテロ5員環又はヘテロ6員環を形成することもでき、該へテロ6員環には1個の酸素原子を含むことができる。R4は水素原子、同一又は異なっても良く、ハロゲン原子、ニトロ基及びシアノ基から選択される1〜2個の置換基を有する置換フェニル基又はC1-C3アルコキシカルボニル基を示す。Xはハロゲン原子、シアノ基、ハロC1-C6アルキル基、ハロC1-C6アルコキシ基、ハロC1-C6アルキルチオ基、ハロC1-C6アルキルスルフィニル基又はハロC1-C6アルキルスルホニル基を示す。Wは酸素原子又は硫黄原子を示す。〕
で表されるヒドラジンカルボキサミド化合物を有効成分として含有してなる農園芸用毒餌剤及びその使用方法並びに農園芸用害虫、特に既存薬剤に対して抵抗性を有する農園芸害虫、なかでもネキリムシの防除方法に関するするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明はヒドラジンカルボキサミド化合物の単位面積あたりの施用薬量を極めて低減化できる技術である。本発明の農園芸用毒餌剤は、ヒドラジンカルボキサミド化合物の一般農薬製剤と単位面積あたりの施用量で比較すると、その約20分の1の薬量でも優れた効果を発揮するものである。また、ヒドラジンカルボキサミド化合物は環境での安定性に優れるものである。従来の農園芸用毒餌剤よりも、効果持続性面において明らかに優れる。
本発明の農園芸用毒餌剤は、従来の殺虫剤等に抵抗性を示す種々の害虫にも優れた効果を示す。更に、哺乳類や鳥類や魚類等他の動物に対する安全性面においても従来品よりも優れた農園芸用毒餌剤である。本発明の毒餌剤は、作物に通常散布する場合に比べ、作物への薬剤の残留が少なくなるという利点を有し、減農薬という要望にも応えるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のヒドラジンカルボキサミド化合物の一般式(I)の定義において「ハロゲン原子」とは塩素原子、臭素原子、沃素原子又はフッ素原子を示し、「C1-C6 アルキル基」とは、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等の直鎖又は分枝鎖状の炭素原子数1〜6個のアルキル基を示す。尚、「n−」はノルマルを、「i−」はイソを、「s−」はセカンダリーを、「t−」はターシャリーを示す。「ハロC1-C6 アルキル基」とは、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、1,2,2,2,−テトラフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチル基等の同一又は異なっても良い1以上のハロゲン原子により置換された直鎖又は分枝状の炭素原子数1〜6個のアルキル基を示す。「ハロC1-C6アルコキシ基」とは、例えば、トリフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基等の同一又は異なっても良い1以上のハロゲン原子により置換された直鎖又は分枝状の炭素原子数1〜6個のアルコキシ基を示す。
また該ヒドラジンカルボキサミド化合物は炭素−窒素二重結合に基づく幾何異性体、即ち(E)体と(Z)体が存在し、本発明はこれら幾何異性体の各々単独及び任意の割合の混合物を含むものである。また場合により光学異性体が存在し、これら光学異性体単独及び任意の割合の混合物を含むものである。
【0011】
一般式(I)で表される化合物のうち、好ましい置換基等としては、
Aとしては
【化4】

(式中、R5が水素原子又はC1-C6アルキル基を示し、Yは同一又は異なっても良く、ハロゲン原子又はハロC1-C6アルキル基から選択される1個の置換基を示す。特に好ましいYは3−クロロ基又は3−トリフルオロメチル基である。)であり、
1としては水素原子であり、R2としては水素原子、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基等であり、又、R2がYと一緒になってメチレン基を示してインダン環を形成する場合も好ましい。R3としては水素原子、C1-C6アルコキシ基等が好ましい。又、R3がR5と一緒になって少なくとも2個の窒素原子を含むヘテロ6員環を形成し、該へテロ6員環には1個の酸素原子を含む場合が好ましく、特に1,3,4−オキサジアジン環を形成する場合が好ましい。R4としては同一又は異なっても良く、ハロゲン原子、ニトロ基又はシアノ基から選択される1個の置換基を有する置換フェニル基又はC1-C3アルコキシカルボニル基が好ましい。特に好ましいR4としては、4−シアノフェニル基又はメトキシカルボニル基である。Xとしてはハロゲン原子、ハロC1-C6アルキル基、ハロC1-C6アルコキシ基、ハロC1-C6アルキルチオ基が好ましい。Wとしては酸素原子が好ましい。
特に好ましい化合物としては4-{2-({[4-(trifluoromethoxy)anilino]carbonylhydrazono)-2-[3-(trifluoromethyl)phenyl]ethylbenzonitrile(2-E、2-Zmixture)(CAS名)(CAS登録番号139968-49-3)メタフルミゾン(ISO名、開発コードBAS−320I又はNNI−0250、以下「化合物A」という。)、methyl (S)-N-[7-chloro-2,3,4a,5-tetrahydro-4a-(methoxycarbonyl)indeno[1,2-e][1,3,4]oxadiazin-2-ylcarbonyl]-4'-(trifluoromethoxy)carbanilate (IUPAC名)が挙げられる。
【0012】
本発明において用いられる有効成分化合物のヒドラジンカルボキサミド化合物は特開平5−4958号公報等に記載の公知化合物であり、該公報の記載に準じて製造することができる。これらのヒドラジンカルボキサミド化合物は、新規系統の殺虫性化合物で、既存剤に抵抗性を示す害虫に対しても有効である。哺乳類急性毒性は普通物レベル、魚毒性も低い。従来技術の課題を解決するための性能を有している化合物と言える。
【0013】
ナトリウムイオンチャンネルブロッカーとは、神経細胞の細胞膜を横切るナトリウムイオンの輸送を妨げる化合物を指す。
【0014】
有効成分の使用量は、対象害虫の種類にもよるが、施用有効成分量として約1〜3000グラム/ヘクタール程度である。
本発明の農園芸用毒餌剤中の有効成分としてのヒドラジンカルボキサミド化合物の含有量は、使用する殺虫活性成分の殺虫活性や対象害虫等を考慮して適宜決めることができる。下限量は通常0.01重量%より多くが必要であり、好ましくは0.1重量%程度以上である。上限量は特に制限は無いが、経済性や求められる残効性や製剤物性等により変化し、約10重量%程度が好ましく、5重量%程度以下がより好ましい。
【0015】
誘引・可食性担体としては、米糠を代表的な例として挙げることができるが、これに限定されたものではない。例えば、デンプン類、小麦粉、トウモロコシ粉、米粉、パン粉、ポテト等の穀物粉類、フスマ、酒粕、ビール粕、おから、魚粕、油粕、茸類栽培後の培地等の食品産業廃棄物、サナギ粉、オキアミ、牛や豚肉粉等の動物性粉末、砂糖、ブドウ糖、蜂蜜、糖蜜、水飴等の糖質、大豆油、菜種油、ゴマ油、小麦胚芽油等の植物精油、酵母等を単独あるいは二種以上の混合物の形で用いることができる。これらの中で、米糠、酒粕等は特に好ましい。
農園芸用毒餌剤を構成する他の成分としては、適宜、不活性担体を混合することもできる。加える不活性担体としては害虫忌避性が無ければ固体又は液体の何れであっても良く、固体の担体になり得る材料としては、例えば、粉砕合成樹脂等の合成重合体、粘土類(例えば、カオリン、ベントナイト、酸性白土等)、タルク類{例えば、タルク、ピロフィライト等}、シリカ類(例えば、珪藻土、珪砂、雲母、ホワイトカーボン(含水微粉珪素、含水珪酸ともいわれる合成高分散珪酸で、製品により珪酸カルシウムを主成分として含むものもある。))、活性炭、天然鉱物質類(例えば、軽石、焼成珪藻土、アタパルジャイト及びゼオライト等)、焼成珪藻土、レンガ粉砕物、フライアッシュ、砂、プラスチック担体等(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム等の無機鉱物性粉末、硫安、燐安、硝安、尿素、塩安等の化学肥料、堆肥等を挙げることができ、これらは単独で若しくは二種以上の混合物の形で使用される。
【0016】
また、必要に応じて酸化防止剤、保存料、誤食防止剤、その他害虫に対する誘因性を補強するための香料等を添加してもよい。ここで酸化防止剤としては、例えば、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン、dl−α−トコフェロール、ノルジヒドログアヤレチック酸、メチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピル、グアヤク脂、L−シスチィン塩酸塩等が挙げられ、保存料としては、例えば、安息香酸、安息香酸ナトリウム、サリチル酸、ジフェニル、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸ナトリウム、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン等を挙げることができる。また誤食防止剤としては、例えば、トウガラシ末、アマランス、アマランスアルミニウムレーキ、エリスロシン、エリスロシンアルミニウムレーキ、ニューコクシン、フロキシン、ローズベンガル、アシドレッド、タートラジン、タートラジンアルミニウムレーキ、サンセットイエローFCFアルミニウムレーキ、ファストグリーンFCF、ファストグリーンFCFアルミニウムレーキ、ブリリアントブルーFCF、ブリリアントブルーFCFアルミニウムレーキ、インジゴカルミン、インジゴカルミンアルミニウムレーキ、β−カロチン、銅クロロフィル等が挙げられる。また、香料としては例えば、チーズ香料、バター香料、ピーナッツ香料、ピーチ香料、ストロベリー香料、ミルク香料等を例示することができる。
施用後の薬剤分解や腐敗防止や有効成分の放出制御等の目的で、膜形成性物質によりコーティングすることもできる。膜形成性物質としては、被膜を形成して水分の出入りを制御できる物質であればなんでも良いが、例えば、各種樹脂や高分子化合物等を用いることができる。
【0017】
本発明の毒餌剤は、ヒドラジンカルボキサミド化合物以外の有効成分として有機燐系殺虫性化合物、カーバメート系殺虫性化合物、ピレスロイド系殺虫性化合物、ネオニコチノイド系殺虫性化合物、昆虫幼若ホルモン様化合物、昆虫キチン質形成阻害化合物や殺虫活性を有する天然物等を添加して使用することもできる。また、代謝阻害剤等の協力剤(活性強化剤)等を添加することもできる。
【0018】
使用しうる有機燐系殺虫性化合物の具体例としては、例えば、クロルピリホス、クロルピリホスメチル、ダイアジノン、フェニトロチオン、フェンチオン、マラチオン、ピリミホスメチル、プロチオホス、ピリダフェンチオン、イソキサチオン、トリクロルホン等が、カーバメート系殺虫性化合物の具体例としては、例えば、BPMC、エチオフェンカーブ、MPMC、プロポキサー、NAC(カルバリル)、XMC等が、ピレスロイド系殺虫性化合物の具体例としては、例えば、サイパーメスリン、デルタメスリン、フェンプロパスリン、フェンバレレート、ペルメトリン、シフルスリン、トラロメスリン、フルサイスリネート、ビフェノトリン、サイハロスリン、シクロプロトリン、フルバリネート、エトフェンプロックス、シラネオファン、テフルトリン等、ネオニコチノイド系殺虫性化合物の具体例としては、例えば、イミダクロプリド、ニテンピラム、アセタミプリド、チアメトキサム、クロチアニジン、チアクロプリド、ジノテフラン等がそれぞれ挙げられる。昆虫幼若ホルモン様化合物の具体例としては、例えば、メトプレン、ピリプロキシフェン、フェノキシカーブ等、昆虫キチン質形成阻害化合物の具体例としては、例えば、ジフルベンズロン、テフルベンズロン、クロルフルアズロン、フルフェノクスロン、ヘキサフルムロン、ノバルロン、シロマジン、ブプロフェジン等、その他系統の殺虫性化合物の具体例としては、例えば、フィプロニル、クロルフェナピル、エマメクチンベンゾエート、アバメクチン、テブフェノジド、メトキシフェノジド、クロマフェノジド、スピノシン、ピリダリル、フルアクリピリム、SI−0009(開発コード)、DKI−0001(開発コード)、ヒドラメチルノン、メタアルデヒド等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
本発明の毒餌剤は、ヒドラジンカルボキサミド化合物以外の有効成分としてさらに昆虫寄生菌を添加することができ、例えば、メタリジウム属(Metarhizium)のメタリジウム アニソプリアエ(Metarhizium anisopliae)、及びボウベリア属(Beauveria)のボウベリア バッシアーナ(Beauveria bassiana)等を挙げることができる。
【0020】
本発明の農園芸用毒餌剤は、可食性担体等を水等の適当な溶媒を加えて混錬し、粒剤、錠剤等の適当な剤型に成型した後、有効成分であるヒドラジンカルボキサミド化合物を含む溶液に含浸させた後、再度乾燥することにより製造できる。また、最初から上記可食性担体にヒドラジンカルボキサミド化合物を加えて、常法によって粒剤、錠剤等の適当な剤型に成型して製造することもできる。
また、本発明の節足動物用毒餌剤の施用にあたっては、対象節足動物が活動する場所に施用すれば良く特に制限は無い。常法に従い各種の方法を利用することができる。例えば、栽培場所全体への散布、土壌表面散布、土壌混和、育苗担体への散布、育苗容器周辺への施用、畝間への施用、畦畔への施用、また、成型した毒餌剤を適当な容器に入れて使用することもできる。表面を撥水加工した浮遊製剤とすることにより、水田等へ施用して、植物体に付着させて施用することもできる。
【0021】
本発明の毒餌剤は、種々の害虫に対して優れた防除効果を示し、下記の害虫に対し有効に作用するが、これら以外の害虫にも使用でき、また土壌表面又は表層近くで活動する全ての害虫に対しても使用できる。害虫の例としては以下のような害虫を例示することができる。
鱗翅目、例えば、カブラヤガ(Agrotis segetum)、タマナヤガ(Agrotis ipsilon)、オオカブラヤガ(Agrotis tokionis)、センモンヤガ(Agrotis exexclamationis)、シロモンヤガ(Xestia c-nigrum)、オオバコヤガ(Diarsia canescens)、クロクモヤガ(Hermonassa cecilia)、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)、ヨトウガ(Mamestra brassicae)、シロイチモジヨトウ(Spodoptera exigua)、オオタバコガ(Helicoverpa armigera)、ヘリオチス種(Heliothis spp.)、タマナギンウワバ(Autographa nigrisigna)、イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)、モンシロチョウ(Pieris rapae)、シバツトガ(Parapediasia teterrella)、スジキリヨトウ(Spodoptera depravata)等、
【0022】
直翅目害虫、例えば、クサキリ(Homorocoryphus lineosus)、イネアザミウマ(Stenchaetothrips biformis)、アオマツムシ(Calyptotrypes hibinonis)、エンマコオロギ(Teleogryllus emma)、ケラ(Gryllotalpa orientalis)、コバネイナゴ(Oxya yezoensis)、トノサマバッタ(Locusta migratoria)、ショウリョウバッタ(Acrida cinerea)等
【0023】
鞘翅目、例えば、コガネムシ科のアノマラ属(Anomala spp.)、マラデラ属(Maladera spp.)、セマダラコガネ(Blitopertha orientalis)、ナガチャコガネ(Heptophylla picea)、ウスチャコガネ(Phyllopertha diversa)、マメコガネ(Popilla japonica)、トビイロムナボソコメツキ(Agriotes ogurae)、カンシャクシコメツキ(Melanotus okinawenisis)、ハムシ科のディアブロティカ属(Diabrotica spp.)、シバオサゾウムシ(Sphenophorus venatus)、ゾウムシ科のセプティカス属(Scepticus spp.)等、双翅目、例えば、ゴボウネモグリバエ(Ophiomyia lappivora)、チビクロバネキノコバエ(Bradisia agrestis)、タマネギバエ(Delia antiqua)、ダイコンバエ(Delia floralis)、タネバエ(Hylemya platura)、ジクラノプチカ属(Dicranoptycha spp.)等、腹足鋼動物に属するナメクジ類、カタツムリ類等、甲殻鋼動物に属するオカダンゴムシ等。中でも、鱗翅目害虫に対して優れた防除効果を有する。ネキリムシ類とは、上記具体例で示した害虫等のうち特に鱗翅目害虫の幼虫の総称である。中でも、ヤガ類、ヨトウガ類の老齢幼虫は一般に薬剤防除が困難であり、本剤の優れた効果が特徴的に発揮される。
【実施例】
【0024】
以下に実施例につき具体的に示すが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
製造例1
米糠75重量%、蒸留水25重量%を混合し、押し出し造粒機(造粒径2.5mm)で造粒し、乾燥(50℃、6時間)、粉砕(粒長:3〜8mm)工程を経て、担体を得た。本担体に化合物Aを0.1重量%を含浸させた(担体1gにつき化合物Aの2000ppm水希釈液(防腐剤として 5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(商品名:ケーソン)を0.05%添加)0.5mlの割合で含浸した)。その後再度乾燥(50℃、6時間)工程を経て、本発明の毒餌剤を得た。本製造例で得た毒餌剤を用いて以下の試験を行った。以下の実施例で毒餌剤とは一定の割合で有効成分を含むものを示す。上記のようにして製造した毒餌剤は、例えば、毒餌1kg中に1gの有効成分を有する。
【0025】
試験例1 化合物Aにおける毒餌剤の通常剤型(散布剤)に対する優位性
ビニールハウス内の畑地を1m2(1×1m)毎に高さ30cmのプラスチック製の板で囲い、その中にキャベツの苗25株を移植し、製造例1で製造した毒餌剤3または6kg/10アールを土壌表面に均一に散粒(対照の散布剤はハンドスプレーで200リットル/10アール処理)後、タマナヤガの6令幼虫20頭を放虫した。放虫14日後にキャベツ苗の欠株率を調査し、防除率を算出した。この試験は2連で行った。その結果を第1表に示す。以下の各試験例の表中、「a.i.」は有効成分を示し、10aの「a」はアールを示し、「SC」は水性懸濁剤を示す。
防除率は以下の式に従い算出した。
防除率=100−(処理区の欠株率/無処理区の欠株率)×100
【0026】
【表1】

【0027】
試験例2 有機燐系殺虫剤、カーバメート系殺虫剤、ピレスロイド系殺虫剤との効果持続性の比較
ビニールハウス内の畑地を1m2(1×1m)毎に高さ30cmのプラスチック製の板で囲い、その中にキャベツの苗25株を移植し、製造例1で製造した毒餌剤3kg/10アールを土壌表面に均一に散粒直後および14日後にカブラヤガの6令幼虫30頭を放虫した。放虫14日後にキャベツ苗の欠株率を調査し、試験例1と同様にして防除率を算出した。この試験は2連で行った。その結果を第2表に示す。
【表2】

【0028】
試験例3 大規模試験でのカブラヤガに対する効果
ビニールハウス内の畑地を15m2(6×2.5m)毎に高さ30cmのプラスチック製の板で囲い、その中にキャベツの苗63株を移植し、実施例1で製造した毒餌剤4kg/10アール(対照のNAC毒餌剤は6kg/10アール)を土壌表面に均一に散粒後、カブラヤガの5〜6令幼虫35頭を放虫した。放虫7日、14日、20日後にキャベツ苗の欠株率を調査し、試験例1と同様にして防除率を算出した。この試験は2連で行った。その結果を第3表に示す。
【表3】

【0029】
試験例4 有機燐系殺虫剤、カーバメート系殺虫剤、ピレスロイド系殺虫剤抵抗性系統ハスモンヨトウに対する効果
ビニールハウス内の畑地を1m2(1×1m)毎に高さ30cmのプラスチック製の板で囲い、その中にキャベツの苗25株を移植し、実施例1で製造した毒餌剤3kg/10アールを土壌表面に均一に散粒後、多剤抵抗性ハスモンヨトウの5〜6令幼虫80頭を放虫した。放虫14日後にキャベツ苗の欠株率を調査し、試験例1と同様にして防除率を算出した。この試験は2連で行った。その結果を第4表に示す。
【表4】

【0030】
試験例5 有機燐系殺虫剤、カーバメート系殺虫剤、ピレスロイド系殺虫剤抵抗性系統オオタバコガに対する効果
ビニールハウス内の畑地を1m2(1×1m)毎に高さ30cmのプラスチック製の板で囲い、その中にキャベツの苗25株を移植し、実施例1で製造した毒餌剤4kg/10アールを土壌表面に均一に散粒後、多剤抵抗性オオタバコガの5令幼虫20頭を放虫した。放虫9日後に区内の生存虫数を調査し、防除率を算出した。この試験は2連で行った。その結果を第5表に示す。
防除率は以下の式に従って算出した。
防除率=100−(処理区の生存虫数/無処理区の生存虫数)×100

【表5】

【0031】
試験例6 エンマコオロギ成虫に対する効果
ビニールハウス内の畑地を0.8m2(40×100cm)毎にナイロンメッシュを用いたトンネル栽培で被覆し、その中にハクサイの苗20株を移植し、実施例1で製造した毒餌剤6kg/10アールを土壌表面に均一に散粒後、エンマコオロギの成虫14頭を放虫した。放虫4日および9日後に区内の生存虫数および欠株数(9日後のみ)を調査し、試験例5と同様にして防除率を算出した。この試験は2連で行った。その結果を第6表に示す。
【表6】

【0032】
本発明の毒餌剤は、第1表に示す通り、ヒドラジンカルボキサミド化合物の一般製剤を散布処理しても十分な効果が認められない条件で、その16分の1以下の薬量で優れた効果を発揮し、ヒドラジンカルボキサミド化合物の施用薬量を極めて低薬量化できる技術である。また、効果持続性面において第3表に示す通り、従来の農園芸用毒餌剤よりもが明らかに優れる。第4、第5表に示す通り、従来の農園芸用毒餌剤が抵抗性を示す種々害虫にも優れた効果を示す。さらに安全性面においても従来品よりも優れた農園芸用毒餌剤として有用である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の毒餌剤は、農園芸用に農耕地において各種害虫の発生予防及び防除に用いられる。また、哺乳類に対しては毒性が低いため、食料貯蔵庫内の害虫の発生予防、防除等にも利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
害虫に誘引性のある可食性担体と、有効成分としてナトリウムチャンネルブロッカーを含有してなる農園芸用毒餌剤。
【請求項2】
ナトリウムチャンネルブロッカーが、一般式(I):
【化1】

〔式中、Aは
【化2】


(式中、R5は水素原子又はC1-C6アルキル基を示し、Yは同一又は異なっても良く、ハロゲン原子及びハロC1-C6アルキル基から選択される1〜2個の置換基を示す。)又は
【化3】

(式中、R5及びYは前記に同じくし、R6は水素原子、C1-C6アルキルカルボニル基、フェニルカルボニル基又は同一若しくは異なっても良いC1-C6アルキル基から選択される1〜2個の置換基を有する置換フェニルカルボニル基を示す。)を示す。
1は水素原子、C1-C6アルキル基又はC1-C3アルコキシカルボニル基を示す。R2は水素原子、水酸基、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基、C1-C6アルキルカルボニル基又はフェニルカルボニル基を示し、又、R2はYと一緒になってメチレン基を示し、インダン環を形成することもできる。R3は水素原子、水酸基、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基、C1-C6アルキルカルボニル基又はフェニルカルボニル基を示し、又、R3はR5と一緒になって少なくとも2個の窒素原子を含むヘテロ5員環又はヘテロ6員環を形成することもでき、該へテロ6員環には1個の酸素原子を含むことができる。R4は水素原子、同一又は異なっても良く、ハロゲン原子、ニトロ基及びシアノ基から選択される1〜2個の置換基を有する置換フェニル基又はC1-C3アルコキシカルボニル基を示す。Xはハロゲン原子、シアノ基、ハロC1-C6アルキル基、ハロC1-C6アルコキシ基、ハロC1-C6アルキルチオ基、ハロC1-C6アルキルスルフィニル基又はハロC1-C6アルキルスルホニル基を示す。Wは酸素原子又は硫黄原子を示す。〕
で表されるヒドラジンカルボキサミド化合物である請求項1に記載の農園芸用毒餌剤。
【請求項3】
ナトリウムチャンネルブロッカーがメタフルミゾンである請求項1に記載の農園芸用毒餌剤。
【請求項4】
ナトリウムチャンネルブロッカーの含有量が0.01〜10重量%である請求項1乃至3いずれか1項に記載の農園芸用毒餌剤。
【請求項5】
可食性担体として米糠を含有することを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載の農園芸用毒餌剤。
【請求項6】
可食性担体として酒粕を含有することを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載の農園芸用毒餌剤。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれか1項に記載の農園芸用毒餌剤の有効量を作物周辺土壌に施用することを特徴とする農園芸用毒餌剤の使用方法。
【請求項8】
請求項1乃至6いずれか1項に記載の農園芸用毒餌剤の有効量を作物周辺土壌に施用することを特徴とする農園芸害虫の防除方法。
【請求項9】
農園芸害虫がネキリムシ類である請求項8記載の農園芸害虫の防除方法。
【請求項10】
農園芸害虫が有機燐系殺虫剤、カーバメート系殺虫剤又はピレスロイド系殺虫剤から選択される1以上の薬剤に抵抗性を示すネキリムシ類である請求項8又は9に記載の農園芸害虫の防除方法。

【公開番号】特開2006−282618(P2006−282618A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106565(P2005−106565)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000232623)日本農薬株式会社 (97)
【Fターム(参考)】