説明

農地区画データ作成システム

【課題】高度上空から地表を撮影した観測画像に基き、農地などの土地区画のデータを作成することができる画像処理システムを提供する。
【解決手段】イロハのように不完全な区画領域を、hのような矩形に近い実際の区画形状に合致するような形状に整形するために、まず、dの区画領域に対して尖鋭角整形処理を行い、dのイのような鋭く尖った頂点を整形する。次に、区画領域内の各辺に対して確定辺判定処理を行い、区画領域内の辺として適切に抽出したと考えられる辺「確定辺」と、誤抽出と考えられる辺「不確定辺」とに区別する。fは確定辺判定処理の処理結果例であり、実線が確定辺、点線が不確定辺を示している。さらに、角欠け領域整形処理を行い、dのロのような不完全な角部分を整形する。最後に突出領域整形処理を行い、dのハのような不自然に飛び出した部分を整形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星や航空機等を用いて高度上空(高空)から地表を撮影して得られた観測画像を解析し、地表における農地を主とした土地区画に関するデータを作成する土地区画データ作成システムに関し、特に地理画像に含まれる農業用地の抽出を容易にするための農地区画データ作成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衛星画像や航空写真画像の利用が広まってきており、それらの画像を使った地図の作成や地表の分析等に関わる技術が開発されている。この中で、農地部を撮影した写真の分析を行うには、画像内の土地区画を抽出することが不可欠である。
【0003】
従来、土地区画の抽出は、手作業で行われていた。そのため、多大な人的コストがかかることが問題だった。そのため、これらの処理をコンピュータにより自動化させる方法が提案されている。その一例として、下記特許文献1では、まず地表を撮影した画像から農地区画の輪郭、すなわちエッジを抽出し、そのエッジ画像内の任意の1点から放射状に伸ばした直線とエッジとの交点を求め、複数の交点を連結させて生成される多角形の区画領域を抽出する処理が提案されている。この処理により、土地区画の抽出を自動的に行うことができる。非特許文献1、2は、これらの画像処理に関する学術論文である。
【0004】
【特許文献1】特開2003−256807号公報
【非特許文献1】J.Canny,「A Computational Approach to Edge Detection」IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence,Vol.PAMI-8,No6,1986年11月
【非特許文献2】尾上守、「画像処理ハンドブック」、昭晃堂出版(1987年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の手法によって地理画像から抽出された区画領域は、実際の区画の形状を正確に抽出できないケースも多い。例えば、この特許文献1に記載の手法では、区画領域の角部分の抽出精度が悪くなることがある。すなわち、特許文献1に記載の手法は、地理画像から抽出されたエッジに基づいて区画の形状を認識するが、区画のエッジの抽出精度が低い場合や、ノイズをエッジとして抽出してしまった場合に、抽出した区画領域の形状は実際の形状と異なってしまうことがある(図2(d)の(イ)、(ハ)の領域参照)。
【0006】
そのため、抽出された区画領域をさらに整形するための処理を加える必要がある。この作業は自動化しにくいため、多大な人的コストを必要し、操作者は多大な集中力、時間を必要とするという問題がある。また、広範囲の画像に対して限られた時間で作業を行うためには、複数の操作者が必要となるが、この場合、各操作者の主観的な判断基準の差に基づいて、整形結果にばらつきが生じてしまう可能性が高いという問題がある。
【0007】
本発明は、地理画像から農地区画データを容易に作成することができる農地区画データ作成技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記解決課題に鑑みて鋭意研究の結果、本発明者は、特許文献1の手法によって抽出された区画領域に対して、区画の角を推定する処理や、エッジ抽出のミスにより、抽出に失敗した区画領域の形状を推定する処理を加えることによって、上記問題が解決されることに想到した。
【0009】
すなわち、本発明は、地理画像に含まれる区画領域の抽出および整形を行うシステムであって、地理画像中の田畑などの農地区画のエッジを抽出し、抽出したエッジに基づいて区画領域を抽出する区画抽出手段と、抽出された区画領域の形状を、実際の土地区画の形状に合うように整形する区画整形手段と、を含むことを特徴とする。また、区画整形手段は、各区画領域の各頂点の角度を計算し一定以下の角度となる鋭角を整形する尖鋭角整形手段と、各区画領域の各辺の周囲を調べ、各辺の区画領域の辺としての確定度を判定する確定辺判定手段と、各区画領域の角となる部分を整形する角欠け領域整形部と、各区画領域の不自然に突出した部分を整形する突出領域整形部と、を含むことを特徴とする。
【0010】
より詳細には、本発明の一観点によれば、地表を撮影して得られた地理画像データを解析し、農地区画データを作成する農地区画データ作成システムであって、前記地理画像データについて、エッジ抽出処理により抽出したエッジに基づいて区画領域を抽出する区画領域抽出部と、抽出した前記区画領域中にある角度以下の鋭角を有する部分領域があれば該部分領域を除去して領域整形を行う尖鋭角整形部と、前記区画領域の各辺の、前記エッジ抽出処理後の画像におけるエッジとの近接度を計算し、近接度の高い辺を区画領域の辺として確定した確定辺と判定し、近接度の低い辺を確定していない不確定辺と判定する確定辺判定部と、前記区画領域における、抽出が不十分であった頂点を整形する角欠け領域整形部と、を備えることを特徴とする農地区画データ作成システムが提供される。さらに、前記区画領域における、余分な抽出部分を除去する突出領域整形部を有することが好ましい。
【0011】
また、前記角欠け領域整形部は、第1の確定辺と第2の確定辺との間に挟まれた不確定辺を含む領域がある場合に、前記第1の確定辺及び前記第2の確定辺のそれぞれの延長線のうち交点を含む方の延長線により囲まれた領域であって前記交点における前記延長線の成す角度が90度に近い領域を膨張させるように整形することが好ましい。
【0012】
また、前記突出領域整形部は、第1の確定辺と第2の確定辺との間に挟まれた不確定辺を含む領域がある場合に、前記第1の確定辺及び第2の確定辺のそれぞれの延長線のうち交点を含む方の延長線により囲まれた領域であって前記交点における前記延長線の成す角度が90度に近い領域がない場合において、前記第1の確定辺及び第2の確定辺のいずれか一方が前記区画領域の他の辺との間に交点を持つ場合に、該交点をもつ方の確定辺の延長線により前記交点を待たない方の確定辺を含む突出領域を削るように整形するものであっても良い。
【0013】
さらなる本発明の特徴は、以下本発明を実施するための最良の形態および添付図面によって明らかになるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の地理画像処理システムによれば、衛星画像や航空写真画像などの地理画像から土地区画の抽出および整形する作業を効率化することができる。また、従来、操作者の技量に頼っていた作業工程が自動化されるため、多数の操作者によって作業を行う場合であっても、操作者の熟練度の差に影響されることなく均質な土地区画データを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態による地理画像処理システムについて図面を参照しながら説明を行う。図1から図13までは、本発明の実施の形態による農地区画システムの一例を示す図である。これらの図において、同一の符号を付した部分は同一物を表し、基本的な構成及び動作は同様であるものとする。尚、本発明は、本実施の形態によって説明された形態に限定されるものではない。当業者であれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、実施形態にかかる発明の構成及び機能に様々な変更・改良を加えることが可能である。
【0016】
<システム構成>
図1は、本発明の地理画像処理システムの一構成例を概略的に示す機能ブロック図である。図1において、本実施の形態による地理画像処理システムは、パーソナルコンピュータ、ワークステーション等から構成される処理装置10と、メインメモリとして使用されるRAM(ランダムアクセスメモリ)及び磁気ディスク記憶装置等の補助記憶装置とを含む記憶装置20と、入出力装置30と、を備えている。
【0017】
入出力装置30は、キーボード及びマウス等のポインティングデバイスを含む入力装置31と、液晶ディスプレイ装置等の表示装置32と、プリンタ33と、を備えている。入力装置31は、ユーザによるパラメータの入力やコマンドの起動、並びに、本システムにより画像処理を施した地理画像を用いた土地区画データ生成に用いられる。表示装置32及びプリンタ33は、本実施の形態によるシステムで扱う地理画像データや土地区画データを、ユーザに提示するために用いられる。尚、表示機能としては、表示装置32とプリンタ33とのいずれか一方のみを備える構成としてもよい。
【0018】
処理装置10は、地理画像処理プログラム40に基づく各処理部を含んでいる。地理画像処理プログラム40によって、プログラムモジュールとして、地理画像に含まれる農地等の区画を抽出する区画抽出部100、抽出された各区画領域に対して整形処理を行う区画整形部200と、が実現される。
【0019】
また、区画整形部200は、サブモジュールとして、各区画領域の多角形の各頂点の角度を調べ、不自然な頂点を補正する尖鋭角整形部201、各区画領域の多角形の各辺の辺としての確定度を判定する確定辺判定部202、各区画領域の中で、本来の形状と異なり角が欠けている部分を整形する角欠け領域整形部203、各区画領域の中で、本来の形状と異なり不自然に出っ張っている部分を整形する突出領域整形部204を含む。
【0020】
記憶装置20は、地理画像データ21、区画領域データ22、エッジデータ23を記憶する。これらのうち、地理画像データ21は、人工衛星画像又は航空写真画像から得られるデータであり、本実施の形態によるシステムによる処理の実行前に予め記憶されているデータである。一方、区画領域データ22、エッジデータ23は、本実施の形態によるシステムにおいて地理画像データ21に基づいて生成されるデータである。
【0021】
<地理画像処理の概要>
図2は、本実施の形態によるシステムにより行われる画像処理の概要を例示する図である。図2(a)は、予め記憶装置20に記憶されている地理画像データ21の一例を示す図である。この図2(a)は、水田と、水田を区切る畦道と、を含んでいる。この地理画像データに対してエッジ検出処理を行うことにより、例えば図2(b)に示すエッジ画像が得られる。図2(b)に示すエッジ画像は、エッジデータ23として記憶装置20に格納される。このエッジデータをもとに、土地区画を表す多角形のベクトルデータを抽出するため区画抽出処理を行う。まず画像上の任意の1点をシード点として選択する。次いで、そのシード点から放射状に直線を引き、この直線とエッジとの交点を求める(図2(c))。そして、その交点を隣接している順番に結合させることで、図2(d)に示すような多角形を作成することができる。この多角形は一つの区画領域を示している。一つの区画領域は、複数のベクトルが連結したデータである。このデータは区画領域データ22として記憶装置20に格納される。
【0022】
しかしながら、得られる区画領域は、実際の区画の形状とは大きく異なることが多い。図2(d)の(イ)の部分では、図2(b)で畦道のエッジが一部途切れていたため、抽出した区画領域に尖った頂点が発生してしまっている。また、(ロ)の部分では、実際の区画の角部分が適切に抽出できていない。さらに、(ハ)の部分では、(イ)の部分と同様に畦道の抽出が不完全なため、抽出した区画領域が実際の区画よりも外側に飛び出している。
【0023】
このような不完全な区画領域を、図2(h)のような矩形に近い実際の区画形状に合致するような形状に整形するために、まず、図2(d)の区画領域に対して尖鋭角整形処理201を行い、図2(d)の(イ)のような鋭く尖った頂点を整形する。次に、区画領域内の各辺に対して確定辺判定処理202を行い、区画領域内の辺として適切に抽出したと考えられる辺「確定辺」と、誤抽出と考えられる辺「不確定辺」とに区別する。図2(f)は確定辺判定処理の処理結果例を示す図であり、実線が確定辺、点線が不確定辺を示している。
【0024】
さらに、角欠け領域整形処理203を行い、図2(d)の(ロ)のような不完全な角部分を整形する。最後に突出領域整形処理204を行い、図2(d)の(ハ)のような不自然に飛び出した部分を整形する。この結果を区画領域データに上書きして記憶装置20に保存する。従来は、基本的な区画抽出処理および図2(d)のような鋭く尖った頂点の整形処理は自動化されていたが、図2(d)の(ロ)及び(ハ)のような部分の整形は手作業で行っていた。本実施の形態ではこれらの整形も自動的に行うことができる。以下に説明を行う。
【0025】
<地理画像処理の詳細>
以下、本実施の形態による地理画像処理システムにおける区画抽出処理、尖鋭角整形処理、確定辺判定処理、角欠け領域整形処理、突出領域整形処理について詳細に説明を行う。本実施の形態において、地理画像処理プログラム40が起動されると、区画抽出部100、区画整形部200が順に起動される。また、区画整形部200内では、尖鋭角整形部201、確定辺判定部202、角欠け領域整形部203、突出領域整形部204、が起動される。201と202、203と204の順番は逆でも良い。以下、それぞれによる処理の詳細を述べる。
【0026】
(1)区画抽出処理
図3は、本実施の形態による地理画像処理プログラム40の区画抽出部100による処理の流れを示すフローチャート図である。図3において、区画抽出部100は、記憶装置20から地理画像データ21を読み込み(S301)、画像中に存在する田畑の畦道等のエッジを抽出する(S302)。エッジを抽出する処理としては、種々の周知技術が適用可能である。例えば、Canny法(上記非特許文献1参照)や、Sobelフィルタ(上記非特許文献2参照)などの各種エッジフィルタを地理画像データに適用することで、畦道などのエッジを抽出することができる。この処理によって図4(a)のようなエッジ画像が生成される。すなわち、シード点Sをエッジで囲まれた領域内に定める。次に、区画抽出部100は、農地の区画を抽出するためにエッジ画像に対して領域抽出処理を行う(S303)。この際の領域抽出には直線交点法(特許文献1参照)を用いることができる。この処理は、与えられたエッジ画像と、シード点と呼ぶ一点の座標Sから、シード点Sを含む区画領域を抽出する処理である。シード点Sとは、区画領域を抽出する際の出発点となる座標のことを指す。シード点は、格子状に点在させたり、ランダムに配置するなどの方法で決定することができる。
【0027】
予め、図4(a)のようにエッジ画像とシード点Sとが与えられているとする。まず、シード点Sから例えば等角度間隔に全方位に直線(L1〜L3)を伸ばす(図4(b))。そして、それぞれの直線(L1〜L3)とエッジ画像におけるエッジ画素との交点を求め、得られた交点P1〜P8を順に結合させる(図4(c))。この処理によって抽出された多角形の領域を区画領域A1とする(図4(d))。区画領域A1の頂点の数は、シード点Sから伸ばす直線Lの数に依存する。例えば、図4では直線Lの数を8本としている。この直線数を増やすことにより、より精密な区画領域の抽出を行うことができる。但し、エッジ画像にノイズが多く含まれる場合に、ノイズを交点として抽出してしまう可能性があるため、直線の数は適度な数を設定しておく。以上の処理を、全てのシード点(S1〜Sn、nは1以上の整数)に対して行う。
【0028】
区画抽出部100は、このようにして得られた各区画領域のベクトルデータを、区画領域データ22として記憶装置20に格納する(S304)。区画領域データは図5に示されるような情報をもつデータである。各区画領域にIDが割り当てられており、IDで区画領域を一意に特定することができる。また、頂点数n、各頂点の座標、各辺の確定度の情報を持つ。各辺の確定度については後述する確定辺判定処理の項で説明する。区画抽出部100では、区画領域のID、頂点数、各頂点の座標のデータが記憶装置20内に格納される。
【0029】
(2)尖鋭角整形処理
図6は、地理画像処理プログラム40の区画整形部200内の、尖鋭角整形部201における処理の流れを示すフローチャート図である。尖鋭角整形部201では、区画抽出部100で得られた区画領域データ22をチェックし、不自然に尖った頂点部分の修正を行う。図6において、尖鋭角整形部201は、記憶装置20から区画領域データ22を読み込み(S401)、区画領域の中から未処理の区画領域を1つ選択する(S402)。次に、読み込んだ区画領域の各頂点の角度を計算する(S403)。このとき、計算した角度が一定以下の場合、その頂点は除去し、除去したその頂点と隣接する前後の頂点同士を結合させる(S404)。
【0030】
図7は、区画の一部のエッジが抽出されなかったため、その部分の輪郭が不自然になった場合の例を示す図である。エッジ55のうち区画領域51aにおけるエッジ抽出失敗領域に起因する先鋭角(θ)領域53を、区画領域の対象外とし(51b)、正しい区画領域51cを生成する。このような、尖鋭角整形処理を加えることにより、区画領域の不自然な部分を整形することができる(51c)。そして、整形後に区画領域データを更新する(S407)。
【0031】
一つの頂点の処理が終了すると、S406でnoの場合、各頂点の角度を再計算する(S405)。そして、その区画領域の中にこのような頂点がなくなるまで処理を繰り返す(S406)。そして、全ての区画領域に対してS402からS407までの処理を行う(S408)。
【0032】
(3)確定辺判定処理
図8は、地理画像処理プログラム40の区画整形部200内の、確定辺判定部202による処理の流れを示すフローチャート図である。図8において、確定辺判定部202は、記憶装置20から区画領域データ22とエッジデータ23とを読み込む(S501)。未処理の区画領域を1つ選択し(S502)、その区画領域の未処理の辺を1つ選択する(S503)。そして、その辺の近傍領域のエッジ画素の比率Rを求める(S504)。Rは各辺の外側数画素分の領域内にあるエッジ画素の比率で決まり、例えば式1で求まる。
【0033】
【数1】

【0034】
ここで、Sは各辺の近傍領域の画素数であり、Edgeはその領域内に存在するエッジ画素である。
【0035】
図9は、区画領域データの一部を示す図であり、画像データとエッジデータとを重ね合わせて示している。図9の(イ)の部分A11と(ハ)の部分A13では、区画領域の辺L11・L12とエッジデータEG1とが近接しており、近傍領域範囲内に存在するエッジ画素数が多いため式(1)のRが大きい。一方、図9の(ロ)の部分では近傍領域A12内のエッジ画素数が少ないためRが小さい。
【0036】
式(1)から求めたRと予め定めたある閾値とを比較することによって、各辺L11、L12、L13が実際の形状を表している程度(確定度)を判定する(S505)。Rがある閾値よりも大きい場合は、その辺を“確定辺”とし(S506)、Rがある閾値よりも小さい場合は“不確定辺”とする(S507)。そして、処理が終わった辺に該当する区画領域データを更新する(S508)。このようにして、すべての区画領域のすべての辺に対して、確定辺か不確定辺かの判定を行う(S509)、(S510)。図5の例では、確定度を、確定辺を“1”、不確定辺を“0”と表記した。確定度は、角欠け領域整形処理及び突出領域整形処理で使用する。
【0037】
(4)角欠け領域整形処理
図10は、地理画像処理プログラム40の区画整形部200内の、角欠け領域整形部203による処理の流れを示すフローチャート図である。角欠け領域整形部203では、図2(d)の(ロ)のような角が欠けた部分を整形する。図10において、角欠け領域整形部203は、まず記憶装置20から区画領域データ22を読み込む(S601)。以後、各区画領域に対してS602からS611までの処理を行う。これらの処理について、図11を参照しながら説明する。図11の(イ)は、正方形の区画に対して区画抽出処理を行った結果の例を表している。この例では、左上の領域の角部分が適切に抽出できていない。角欠け領域整形部203では、この抽出できていない角部分の形状の推定及び補間を行う。まず、未処理の区画領域を1つ選択する(S602)。
【0038】
次に、選択した区画領域の中から未処理の確定辺を1つ選択する(S603)。ここで選択した辺を図11の辺Aとする。次に、辺Aと隣接している辺を順に調べていき、辺Aの次の確定辺を見つける(S604)。図11では、辺Aから反時計回りに調べていき、一つ不確定辺Cを挟んで確定辺Bを検出する。この辺を辺Bとする。尚、ここでは反時計回りに調べた例について説明しているが、時計回りに調べてもよい。
【0039】
辺Aと辺Bとの間の辺(辺Cとする)は、不確定辺であり、すなわち近傍にあるエッジ画素数が少ない辺である。そのため、不確定辺Cの周囲では実際の区画の形状が抽出されていない可能性が高く、実際の区画の角部分が抽出されていない可能性がある。欠けている可能性がある領域の真の角度を推定するために以下の処理を行う。確定辺Aを不確定辺C側に伸ばした第1の延長線と、確定辺Bを不確定辺C側に伸ばした第2の延長線との交点(交点Pとする)を求める(図11(ロ))(S605)。この交点Pは抽出に失敗した角部分の可能性がある点である。交点Pが角の可能性が高いかどうかを調べる(S606)。農地の区画、すなわち田畑の区画であれば、角部はほぼ直角に近い角度であると考えられる。そこで、角度を調べることにより、区画領域の角部分であるかどうかを判定することができる。その際に、辺A、辺Bのそれぞれから伸ばした延長線と交点Pとのなす角θの角度を調べる。θが、直角に近い角度(許容範囲は任意に設定可能:70度から110度、すなわち、90度±20度)でなければS603に戻る。θが直角に近い角度であれば、交点Pは実際の区画の角部分である可能性が高いと判定する。
【0040】
その場合は、まず辺Aと辺Bの間の頂点・辺を削除する(S607)。そして、点Pを区画領域の新たな頂点とし、辺A及び辺Aの延長線と、辺B及び辺Bの延長線を新たな辺とする(図11(ハ))(S608)。また、このとき設定される新しい辺は確定辺とすることで角欠け領域を膨張させる。そして、変更後のデータで区画領域データを更新する。
【0041】
以上の処理をすべての区画領域のすべての確定辺に対して行う(S610)(S611)。このような処理を加えることで図2(d)の(ロ)の部分のような角が欠けた部分を、図2(g)のように補間することができる。
【0042】
(5)突出領域整形処理
図12は、地理画像処理プログラム40の区画整形部200内の、突出領域整形部204による処理の流れを示すフローチャート図である。突出領域整形処理204では、図2(d)の(ハ)のように、実際の区画の形状から不自然に飛び出した部分を整形する。図12において、突出領域整形部204は、記憶装置20から区画領域データ22を読み込む(S701)。以後、各区画領域に対してS702からS711までの処理を行う。これらの処理について図13を参照しながら説明する。
【0043】
まず、未処理の区画領域を1つ選択する(図13(イ))(S702)。次に、選択した区画領域の中から、未処理の確定辺を1つ選択する(S703)。ここで、選択した辺を辺Dとする。次に、辺Dの前後が不確定辺であるか否かを調べる(S704)。辺Dの前後が共に確定辺の場合は、S703に戻る。辺Dの前後の辺が少なくとも1つは不確定辺である場合は、その不確定辺の方向に、辺Dを他の辺と交差するまで延長する(L22:S705)。また、このときの交点をQとする。交点Qが不確定辺上の点であればS703に戻る(S706)。交点Qが確定辺上の点であればS707に進む。確定辺の延長線L22と、延長線上の確定辺とでできる閉領域AR31を新たな区画領域とすることにより、エッジの抽出失敗などが原因で起こる区画の不自然な飛び出し部分を補正する。S707では、交点Qが新たな区画領域となりえるかを判定する。具体的には、点Qにおける底辺と直線L22との成す角度Qθが直角に近い角度(許容範囲は任意に設定可能)であるか否かをチェックする。Qθが直角に近い角度であれば、交点Qは実際の区画の角部分である可能性が高いと判定しS708に進む。Qθが直角に近い角度でなければS703に戻る。S708では、交点Qを新たな頂点、確定辺Dの延長線L22を新しい辺とし、辺L22と元の区画領域AR32とで構成される閉領域であって不確定片L21を含まない方の閉領域AR33で形成される領域を新たな区画領域とする(図13(C))。また、その際に、辺Dの延長線L22は確定辺として登録する。そして、変更後のデータで区画領域データを更新する(S709)。以上の処理をすべての区画領域のすべての確定辺に対して行う(S710、S711)。尚Qθが直角に近いか否かは、例えば、70度から110度程度が直角に近い基準とすることができる。直角に近い角度範囲は、区画整理がきれいになされているか否かは、同じ地域で同様と考えられるため、例えば近傍の農地の区画における統計値に沿って決定するようにしても良い。
【0044】
以上のような処理を行うことにより、図2(d)の(ハ)の部分のような、エッジが十分に抽出できなかった畦道のような箇所に対応する不自然に飛び出した区画領域を削り、図2(g)のように整形することができる。
【0045】
<まとめ>
以上に説明したように、本発明の実施の形態による農地区画データ作成システムは、地表を撮影して得られた地理画像データを解析し、農地区画データを作成する農地区画データ作成システムに関するものである。
【0046】
そして、そのシステムは、地理画像データから区画領域を抽出する区画抽出部(モジュール)と、区画領域中の非常に小さい角度の頂点を除去する尖鋭角整形部(モジュール)と、区画領域の各辺がエッジに近接しているかどうかを判定する確定辺判定部(モジュール)と、区画領域の、本来抽出されるべき角が抽出されていなかった場合にその角を補間する角欠け領域整形部(モジュール)と、区画領域の、本来抽出されるべきでない不自然に飛び出した領域を整形する突出領域整形部(モジュール)と、を備える。これにより農地区画の抽出を自動化できると共に、主観的な判断による抽出及びそれによる抽出精度のばらつきを防止できる。
【0047】
尚、本実施の形態において説明した上記の機能は、ソフトウェアプログラムによっても実現できる。この場合、プログラムコードを記録した記憶媒体をシステム或は装置に提供し、そのシステム或は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出すことができるようにすれば良い。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施の形態による機能を実現することになり、そのプログラムコード自体及びそれを記憶した記憶媒体は本発明によるシステムを構成することになる。このようなプログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フロッピィ(登録商標)ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどが用いられる。
【0048】
また、プログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOS(オペレーティングシステム)などが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施の形態の機能が実現されるようにしてもよい。さらに、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータ上のメモリに書きこまれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータのCPUなどが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施の形態の機能が実現されるようにしてもよい。
【0049】
また、実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードがネットワークを介して配信されることにより、システム又は装置のハードディスクやメモリ等の記憶手段又はCD-RW、CD-R等の記憶媒体に格納され、そのシステム又は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が当該記憶手段や当該記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出して実行することによっても、達成されるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、農地区画データ作成システムとして利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施の形態による地理画像処理システムの一構成例を示すブロック図である。
【図2】図2(a)〜図2(h)までは、本実施の形態による地理画像処理システムにより行われる画像処理の概要を順番に示す図である。
【図3】本実施の形態による区画抽出部の処理の流れを示すフローチャート図である。
【図4】図4(a)〜(d)までは、本実施の形態による区画抽出部の処理の概要を順に示す図である。
【図5】区画領域データの一構成例を示す図である。
【図6】本実施の形態による尖鋭角整形部の処理の流れを示すフローチャート図である。
【図7】本実施の形態による尖鋭角整形部の処理の概要を示す図である。
【図8】本実施の形態による確定辺判定部の処理の流れを示すフローチャート図である。
【図9】本実施の形態による確定辺判定処理の原理を示す図である。
【図10】本実施の形態による角欠け領域整形部の処理の流れを示すフローチャートである。
【図11】角欠け領域整形部の処理の概要を示す図である。
【図12】本実施の形態による突出領域整形部の処理の流れを示すフローチャート図である。
【図13】突出領域整形部の処理の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
10 処理装置
20 記憶装置
21 地理画像データ
22 区画領域データ
23 エッジデータ
30 入出力装置
31 入力装置
32 表示装置
33 プリンタ
40 地理画像処理プログラム
100 区画抽出部
200 区画整形部
201 尖鋭角整形部
202 確定辺判定部
203 角欠け領域整形部
204 突出領域整形部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表を撮影して得られた地理画像データを解析し、農地区画データを作成する農地区画データ作成システムであって、
前記地理画像データについて、エッジ抽出処理により抽出したエッジに基づいて区画領域を抽出する区画領域抽出部と、
抽出した前記区画領域中にある角度以下の鋭角を有する部分領域があれば該部分領域を除去して領域整形を行う尖鋭角整形部と、
前記区画領域の各辺の、前記エッジ抽出処理後の画像におけるエッジとの近接度を計算し、近接度の高い辺を区画領域の辺として確定した確定辺と判定し、近接度の低い辺を確定していない不確定辺と判定する確定辺判定部と、
前記区画領域における、抽出が不十分であった頂点を整形する角欠け領域整形部と
を備えることを特徴とする農地区画データ作成システム。
【請求項2】
さらに、前記区画領域における、余分な抽出部分を除去する突出領域整形部を有することを特徴とする請求項1に記載の農地区画データ作成システム。
【請求項3】
前記角欠け領域整形部は、
第1の確定辺と第2の確定辺との間に挟まれた不確定辺を含む領域がある場合に、前記第1の確定辺及び第2の確定辺のそれぞれの延長線のうち交点を含む方の延長線により囲まれた領域であって前記交点における前記延長線の成す角度が90度に近い領域を膨張させるように整形することを特徴とする請求項1又は2に記載の農地区画データ作成システム。
【請求項4】
前記突出領域整形部は、
第1の確定辺と第2の確定辺との間に挟まれた不確定辺を含む領域がある場合に、前記第1の確定辺及び第2の確定辺のそれぞれの延長線のうち交点を含む方の延長線により囲まれた領域であって前記交点における前記延長線の成す角度が90度に近い領域が存在しない場合に、前記第1の確定辺及び前記第2の確定辺のいずれか一方が前記区画領域の他の辺との間に交点を持つ場合において、該交点を持つ方の確定辺の延長線により前記交点を待たない方の確定辺を含む突出領域を削るように整形することを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の農地区画データ作成システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−225942(P2008−225942A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64400(P2007−64400)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000233055)日立ソフトウエアエンジニアリング株式会社 (1,610)
【Fターム(参考)】