説明

農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンの製造方法

【課題】栽培作物に対して悪影響を与えるおそれのある可塑剤のグリセリン含有量を低減させた、ポリビニルアルコール製割繊維不織布からなる農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンを、安価にかつ効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】割繊維不織布からなる農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンの製造方法であって、(A)可塑剤としてグリセリンを含有するポリビニルアルコールフィルムを用いて作製された割繊維不織布を、25〜80℃の温水中に浸漬してグリセリンを抽出除去し、当該割繊維不織布中のグリセリン含有量を3質量%以下に低減させる温水処理工程、及び(B)温水処理されたウェット割繊維不織布を乾燥処理する工程を含むことを特徴とする、農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、栽培作物に対して悪影響を与える可塑剤のグリセリン含有量を低減させた、ポリビニルアルコール製割繊維不織布からなる農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンを、安価にかつ効率よく製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、天候や気候に左右されずに確実な収獲をもたらす栽培方法として、ハウス栽培、トンネル栽培などの施設栽培が盛んに行われている。そして、このハウス栽培やトンネル栽培用の被覆材は、光透過性、保温性、機械的強度、耐久性などが良好で、しかもコストが安くなければならず、このような要求を満たすものとして軟質塩化ビニル系樹脂をはじめ、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリカーボネートなどの合成樹脂類のフィルムやシートが一般に用いられている。
この施設栽培、例えばハウス栽培においては、基本的には昼間、太陽光線によってハウス内の地中に吸収された熱が夜間に地面から幅射熱となって放射される際、これを被覆材によって遮蔽又は反射することにより、ハウス内の温度を外気より高く保ち、それによりハウス内の農作物の促成を図るものである。
【0003】
ところで、このようなハウス栽培においては、温度低下に伴うハウス内の湿度変化によって発生する霧状水分や結露水分、あるいは多湿や過湿などによる病害(例えば灰色カビ病やさび病など)を抑制することが要求され、この要求に対処するために、例えばハウス内張りカーテンとして、ポリビニルアルコール製不織布の使用が有効であることが知られている。
このポリビニルアルコール製不織布は、ポリビニルアルコール自体が親水性基を有することから、自重の50〜60%程度の水分を吸収することができる。この性質は可逆的であるため、ハウス内の雰囲気が多湿である場合には積極的に吸湿し、乾燥時には保湿水分を放出して、雰囲気の湿度調節を行ったり、温度低下に伴うハウス内の湿度変化によって発生する霧状水分や結露水分を吸収することができる。
また、ポリビニルアルコール製不織布は、前記のような湿度調節機能を有すると共に、施設栽培に必要な極めて優れた耐候性を有し、かつ高い保温力をも有している。
【0004】
施設栽培にポリビニルアルコール製不織布を用いた例としては、トンネル栽培において、換気作業を不要にし、かつ高温障害による「焼け現象」をなくし、結露による栽培作物の病害の発生を防止するために、ポリビニルアルコール製割繊維不織布を用いた農作物の栽培方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
このポリビニルアルコール製割繊維不織布は、一般に、まず、ポリビニルアルコールフィルムを製膜し、これを高倍率に一軸延伸すると同時にスプリット(割繊)加工し、高温熱処理により寸法固定化を行い、形成されたスプリットウェブを縦、横直交積層することにより、作製したものである。
このような操作を生産性よく行うために、通常ポリビニルアルコール用可塑剤としてグリセリンが、割繊維不織布中の含有量として3〜15質量%程度用いられている。
しかしながら、このようなグリセリン含有ポリビニルアルコール製割繊維不織布を、ハウス内張りカーテンとして用いた場合、該不織布に吸収された水分によってグリセリンが漏出し、グリセリンを含む水滴が落下し、栽培作物に付着すると、該栽培作物に悪影響を及ぼす場合があるなどの問題が生じる。
【特許文献1】特開2002−300815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情のもとで栽培作物に対して悪影響を与えるおそれのある可塑剤のグリセリン含有量を低減させた、ポリビニルアルコール製割繊維不織布からなる農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンを、安価にかつ効率よく製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、可塑剤としてグリセリンを含有するポリビニルアルコールフィルムを用いて作製された割繊維不織布を、所定の温度を有する温水中に浸漬してグリセリンを栽培作物に影響を与えない含有量まで低減させる温水処理工程、及び温水処理されたウェット割繊維不織布を乾燥処理する工程を施すことにより、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
[1]割繊維不織布からなる農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンの製造方法であって、(A)可塑剤としてグリセリンを含有するポリビニルアルコールフィルムを用いて作製された割繊維不織布を、25〜80℃の温水中に浸漬してグリセリンを抽出除去し、当該割繊維不織布中のグリセリン含有量を3質量%以下に低減させる温水処理工程、及び(B)温水処理されたウェット割繊維不織布を乾燥処理する工程を含むことを特徴とする、農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンの製造方法、
[2]処理前の割繊維不織布中のグリセリン含有量が3〜8質量%である、上記[1]項に記載の農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンの製造方法、
[3]さらに、(C)防縮加工工程を含む、上記[1]又は[2]項に記載の農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンの製造方法、
[4](C)防縮加工工程が薬品による防縮加工工程であって、(E)乾燥・熱処理工程を含む上記[3]項に記載の農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンの製造方法、
[5](C)防縮加工工程が機械による防縮加工工程であって、(E)乾燥・熱処理工程を含む上記[3]項に記載の農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンの製造方法、及び
[6]さらに、(D)柔軟加工工程を含む上記[1]〜[5]項のいずれかに記載の農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンの製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、ポリビニルアルコールフィルムの製膜から割繊維不織布の作製までの操作が、可塑剤のグリセリンを含有した状態で行われるため、生産性よくポリビニルアルコール製割繊維不織布を作製することができ、そしてこのものを温水処理という簡便な操作によりグリセリンを抽出除去することで、グリセリン含有量を栽培作物に悪影響を与えない程度まで低減した農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンを、安価にかつ生産性よく製造することができる。
本発明の方法で製造されたポリビニルアルコール製割繊維不織布からなる農業用ハウス内張りカーテンは、ハウス内雰囲気の湿度調節機能を有すると共に、優れた耐候性と高い保温力を有し、かつグリセリン含有量が低減されているので、栽培作物に悪影響を与えないなどの効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテン(以下、単に「内張りカーテン」と略称することがある。)の製造方法は、割繊維不織布からなる農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンの製造方法であって、下記の(A)温水処理工程、及び(B)乾燥処理工程を含むことを特徴とする。
[(A)温水処理工程]
この(A)温水処理工程は、可塑剤としてグリセリンを含有するポリビニルアルコール(以下、ポリビニルアルコールを「PVA」と略記することがある。)フィルムを用いて作製された割繊維不織布を、25〜80℃の温水中に浸漬してグリセリンを抽出除去し、当該割繊維不織布中のグリセリン含有量を3質量%以下に低減させる工程である。
【0009】
(割繊維不織布)
本発明において、温水処理に用いられる割繊維不織布の作製方法に特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができる。
まず、可塑剤としてグリセリンを含むPVAフィルムを従来公知の方法により製膜したのち、約4倍以上に一軸延伸しながら、次いでこの延伸フィルムをスプリット(割繊)加工によりネット状にすると共に高温熱処理によって寸法固定を行い、形成されたスプリットウェブを縦、横に直交積層、接着することにより割繊維不織布を作製する。
前記一軸延伸処理方法に特に制限はないが、使用する可塑剤のグリセリンを含むPVAのガラス転移温度以上、融解温度未満の適当な温度で、ロール間速度差によって一軸延伸を行うのがよい。これにより分子配向が延伸方向に整列し、次のスプリット加工が容易になる。また、スプリット加工には、カミソリスプリッター、ニードルスプリッター、波形粗面スプリッター、ヤスリ型スプリッターなどの既知のスプリッターを適宜使用することができる。
なお、PVAフィルム製膜時に、可塑剤のグリセリンと共に、耐候性をより優れたものにするために、所望により紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤及び酸化防止剤などを適宜加えることができる。
【0010】
(温水処理)
前記PVA製割繊維不織布は、可塑剤のグリセリンが、通常3〜15質量%程度、好ましくは3〜8質量%の割合で含まれている。したがって、本発明においては、当該割繊維不織布に温水処理を施し、該グリセリンの含有量を、栽培農作物に悪影響を与えない3質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下に低減させる。
この温水処理は、25〜80℃の温水中に、PVA製割繊維不織布を浸漬することにより行われる。処理時間は、処理温度に応じて、グリセリン含有量が3質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下になるように、かつ当該割繊維不織布の他の物性が損なわれることがないように選定する。
好ましい温水処理条件は、温度が25〜80℃で、時間が0.5〜60分であり、より好ましい条件は、温度が45〜70℃で、時間が1〜10分である。
なお、割繊維不織布中のグリセリン含有量は、下記の測定方法で測定した値である。
<割繊維不織布中のグリセリン含有量の測定方法>
(a)試料フィルムを25mm×300mmにカットして、秤量瓶に入れる。
(b)乾燥器によって、105±2℃で1.5時間乾燥する。
(c)デシケーターに入れて、30分間冷却する。
(d)秤量瓶ごと秤量する。(Wa)
(e)円筒ろ紙に乾燥したフィルム試料を入れる。
(f)ソックスレー抽出器のフラスコにメタノール100mlを入れて、フラスコを93±2℃に昇温して、5時間抽出した。
(g)乾燥器によって、105±2℃で1.5時間乾燥する。
(h)デシケーターに入れて、30分間冷却する。
(i)秤量瓶ごと秤量する。(Wb)
(j)秤量瓶の重量測定(G)
上記測定を2回行い、その平均値をとる。
フィルム中のグリセリン量(%)=[(Wa−Wb)/(Wb−G)]×100
【0011】
[(B)乾燥処理工程]
本発明においては、前記の(A)温水処理工程を施されたウェット割繊維不織布は、この(B)工程において乾燥処理を行う。この乾燥処理条件は、通常温度が、80〜140℃で、時間が1〜20分程度であり、好ましくは温度が100〜120℃で、時間が2〜10分程度である。
なお、この乾燥処理においては、必要に応じ、ウェット割繊維不織布を、縦、横方向に適当な張力を加えながら行うことができる。
このように、グリセリンを含有するPVA製割繊維不織布に、温水処理、次いで乾燥処理を施すことにより、グリセリン含有量が3質量%以下のPVA製割繊維不織布を得ることができるが、この不織布の耐収縮性が不十分である場合には、所望により防縮加工処理を施すことができる。
【0012】
[(C)防縮加工工程]
この(C)防縮加工工程は、前述したように、(B)工程で得られた低グリセリン含量PVA製割繊維不織布の耐収縮性が不十分な場合に施される工程であって、防縮加工処理としては、薬品による防縮加工処理、機械による防縮加工処理のいずれも用いることができる。
(薬品による防縮加工処理)
薬品による防縮加工処理は、繊維分子間に架橋ないし充塞を行い、繊維内部の応力分布状態を安定化する方法であって、当該低グリセリン含量PVA製割繊維不織布に対しては、通常防縮剤として架橋剤であるグリオキザール又は非ホルマリン系防縮剤(カルボン酸+クエン酸)を使用し、下記のようにして防縮加工処理が行われる。
グリオキザール系樹脂の場合はグリオキザール系樹脂5〜12%、その触媒1〜5%をパッド−ドライ−キュア法(キュア温度は150〜160℃×3分)で樹脂加工し、それにより架橋反応をし、寸法安定性が図れる。
(機械による防縮加工処理)
本発明の機械による防縮加工処理とは、防縮とともに、シートを柔軟化する効果があり、シート状物を強制的に収縮させ、シートの潜在応力を0に近づける機械処理である。例えば、サンフォライズ加工又はエンボス加工などによって処理することができる。
サンフォライズ加工としては、シートに強制的に皺を形成して、該皺を圧縮固定するものである。本発明の防縮加工処理のサンフォライズ加工には、フェルト式サンフォライズ加工又はゴムベルト式サンフォライズ加工を好適に使用することができる。エンボス加工とは、エンボス付きロールプレスでシートを押圧プレスすることによって、シート一面に均一の微細エンボスを形成して、防縮する加工である。
ゴムベルト式サンフォライズ加工機としては、例えば上野山機工(株)製の「カムフィット機」を使用することができる。
このようにして、耐収縮性の良好な低グリセリン含量PVA製割繊維不織布が得られる。なお、上記耐収縮性の評価方法については、後で詳述する。
【0013】
[(D)柔軟加工工程]
この(D)柔軟加工工程は、必要に応じ、低グリセリン含量PVA製割繊維不織布に対し、良好な柔軟性を付与するために、柔軟加工処理を施す工程である。
この柔軟加工処理は、一般に脂肪酸アマイドワックスの水性エマルジョン又はシリコーン樹脂の水性エマルジョンを用い、下記のようにして柔軟加工処理が行われる。
例えば脂肪酸アマイドワックスの水性エマルジョンを連続方式で使う場合は、本柔軟剤0.5〜4%の常温水溶液中に低グリセリン含量PVA製割繊維不織布を通し、次に100〜130℃で乾燥する。
このようにして良好な柔軟性が付与された低グリセリン含量PVA製割繊維不織布が得られる。
なお、上記柔軟性の評価方法については、後で詳述する。
【0014】
[(E)乾燥・熱処理工程]
本発明においては、前述した(C)工程の薬品による防縮加工処理及び/又は(D)工程である柔軟加工処理を施した場合、必要に応じ(E)工程として、ウェット低グリセリン含量PVA製割繊維不織布に対して、乾燥・熱処理が施される。
乾燥・熱処理条件としては、反応により熱固定するため、通常100〜140℃で、1〜10分間程度であり、好ましくは110〜130℃で、2〜6分間程度である。
なお、この熱固定においては、必要に応じ、ウェット低グリセリン含量PVA製割繊維不織布を、縦、横方向に適当な張力を加えながら行うことができる。
このようにして、良好な性状を有する低グリセリン含量PVA製割繊維不織布からなる農業用ハウス内の湿度調節内張りカーテンを、安価に、かつ生産性よく製造することができる。
【0015】
[内張りカーテン]
(性状)
本発明の方法で得られた農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンは、以下に示す性状を有している。
(1)引張強度及び引張伸度
幅2.5cm、長さ20cmのサンプルについて、オートグラフ[島津製作所社製、機種名「AGSJ−1KN」]を用い、速度10cm/分の条件で測定した破断時強度(引張強度)は、縦方向で、通常160〜240N/2.5cm程度、好ましくは180〜220N/2.5cmであり、横方向で、通常70〜130N/2.5cm、好ましくは80〜120N/2.5cmである。
また、上記と同様にして測定した破断時伸度(引張伸度)は、縦方向で、通常15〜25%程度、好ましくは18〜23%であり、横方向で、通常12〜20%程度、好ましくは14〜18%である。
(2)接着強度
幅2cm、長さ20cmのサンプルについて、オートグラフ(前出)を用いて測定した斜め45度の強度(接着強度)は、通常25〜45N/2cm程度、好ましくは30〜40N/2cmである。
(3)耐収縮性
下記の試験方法に従い、縦方向及び横方向について収縮率を測定し、耐収縮性を評価した。
縦方向かつ横方向ともSd−5収縮率は3.0%以下になるのが望ましい。
<試験方法>
幅4cm、長さ50.0cmの試験片を4個用意した。
(a)乾燥機(恒温機)の温度を60℃にセットし、昇温。
(b)適当な大きさの容器に水(常温)を入れ、長さ測定済の試験片を入れ、1.0時間浸漬。
(c)濡れたままの試験片の長さを測定。この時、含水によりふやけるため、強く伸ばさないようにしながら適当に張り、
(d)長さ測定。記録(W−1)。
(e)長さ測定後の試験片を、60℃にセットした乾燥機(恒温機)にお互いが重ならないように入れ、5時間乾燥。
(f)乾燥後の試験片の長さを測定(D−1)。
(g)上記(b)〜(f)を繰り返す。
1日の測定を1回(W・D各1)とする場合は、乾燥・測定後の試験片は、ポリ袋等に入れ、次回浸漬前まで保管する。
ブランクの長さをL、5回目の水付・乾燥後の各値をLw−5・Ld−5とすると、5回目の各収縮率Sw−5・Sd−5は、
Sw−5(%)=[(L−Lw−5)/L]×100
Sd−5(%)=[(L−Ld−5)/L]×100
となる。
【0016】
(4)目付け
20cm×20cmのサンプルについて、1m2の質量を測定し、目付け(g/m2)を算出した。目付けは、通常40〜60g/m2程度、好ましくは45〜55g/m2である。
(5)柔軟性
下記の曲げ試験を行い、曲げ剛性及び曲げヒステリシスを求め、柔軟性を評価した。曲げ剛性が大きいほど曲げ難く、曲げヒステリシスが大きいほど、回復性が悪い。
曲げ剛性は、通常6〜9mN・cm2/cm程度、好ましくは7〜8mN・cm2/cmであり、曲げヒステリシスは、通常3〜6mN・cm/cm程度、好ましくは4〜5mN・cm/cmである。
<曲げ試験方法>
純曲げ試験機[カトーテック社製、機種名「KES−FB2」]を用い、以下のようにして曲げ試験を行った。
幅10cm、長さ10cmのサンプルを純曲げ試験機の測定部にセットすることにより、試料が前後方向に折り曲げられ、その反発力が曲げ剛性及び曲げヒステリシスとして計測される。
曲げ剛性は値が大きいほど、曲げにくく、曲げヒステリシスは値が大きいほど、回復性が悪い。
(6)保温性
下記の試験方法に基づき保温性を評価した。保温性は熱損失を測定することにより放熱係数を求め、通常3.0〜4.6Kcal/m2h℃程度、好ましくは3.3〜4.3Kcal/m2h℃であり、放熱係数の数値が小さければ小さいほど保温性は良好である。
<保温性の試験方法>
JIS L 1096−6.28.1 A法(恒温法)によって、保温率を測定した。
【0017】
(本発明の内張りカーテンの使用形態)
本発明の方法で得られた内張りカーテンは、グリセリン含有量が3質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下であって、該カーテンに吸収された水分が水滴となって落下し、栽培作物に付着しても、該作物に悪影響を及ぼすことがない。また、ハウス内雰囲気の湿度調節機能を有すると共に、優れた耐候性と高い保温力を有し、かつ透光性も良好である。
当該内張りカーテンの張設場所に特に制限はなく、その使用目的に応じて、所定の場所に、開閉自在に張設することができ、垂直張り、水平張り、傾斜張りなど、いずれの様式も採用することができる。
張設は、作業性の面から、横方向(短尺方法)に沿って、開閉自在に行うのが有利である。
【実施例】
【0018】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られたPVA製割繊維不織布の性状評価方法は、明細書本文に記載したとおりである。
比較例1
可塑剤としてグリセリンを含有する、厚さ50μmの無延伸PVAフィルムを用い、延伸倍率5.4倍で一軸延伸して、スプリットした割繊維を直交に積層しPVA製割繊維不織布を作製した。この不織布中のグリセリン含有量は4.7質量%であった。
このようにして得られたPVA製割繊維不織布の性状を第1表に示す。
比較例2
可塑剤を含まない厚さ50μmの無延伸PVAフィルム[クラレ社製、商品名「VF−TR5000」]を用い、常法に従ってPVA製割繊維不織布を作製し、さらに「カムフィット機」(前出)を用いて、機械による防縮加工処理を施した。この不織布の目付けは56g/m2であった。
得られた無グリセリン含量PVA製割繊維不織布の性状を第1表に示す。
【0019】
実施例1〜3
比較例1で得られたPVA製割繊維不織布を、温水中に浸漬して、それぞれ実施例1〜3表示の条件で、グリセリンの抽出除去処理を行ったのち、120℃で2分間で乾燥処理することにより、表示の低グリセリン含量の表示の目付のPVA製割繊維不織布を得た。
実施例1〜3の低グリセリン含量PVA製割繊維不織布の性状を第1表に示す。
【0020】
実施例4
比較例1で得られたPVA製割繊維不織布を、60℃の温水中に2分間浸漬して、グリセリンの抽出除去処理を行ったのち、120℃で2分間乾燥処理をした。
次いで、防縮剤としてグリオキザールを用い、下記のように防縮加工処理を行った。
防縮剤グリオキザールを常温3%とそれに対し触媒3%を追加した水溶液に比較例1で得られたPVA製割繊維不織布をパッドし(パッディングし)、次いで110℃で3分乾燥した。
次に、このウェット割繊維不織布を160℃で1分間乾燥・熱処理することにより、低グリセリン含量PVA製割繊維不織布を作製した。この不織布のグリセリン含有量は0.2質量%であり、目付けは55g/m2であった。
また、グリオキザールで防縮加工を追加した結果、実施例4は実施例1よりさらに防縮化が図れた。防縮剤としてグリオキザールの替わりに非ホルマリン系薬剤を使うこともできる。
実施例4で得た低グリセリン含量PVA製割繊維不織布の性状を第1表に示す。
実施例5
比較例1で得られたPVA製割繊維不織布を、60℃の温水中に2分間浸漬して、グリセリンの抽出除去処理を行ったのち、120℃で2分間乾燥処理した。
次いで、柔軟剤として脂肪酸アマイドワックスと界面活性剤の水性エマルジョン(含有量11%)の1%水溶液にPVA製割繊維不織布をパッドし、次いで120℃で1分間乾燥処理した。
この割繊維不織布中のグリセリン含有量は0.4質量%であり、目付けは54g/m2であった。
また、脂肪酸アマイドワックスの使用により、柔軟性(曲げ試験)は実施例1〜4より柔らかい結果を得た。
このようにして得られた低グリセリン含量PVA製割繊維不織布の性状を第1表に示す
【0021】
実施例6
比較例1で得られたPVA製割繊維不織布を、60℃の温水中に2分間浸漬して、グリセリンの抽出除去処理を行ったのち、120℃で、2分間乾燥処理した。
次いで、上野山機工(株)製の「カムフィット機」を用いて、機械による防縮加工処理を施すことにより、低グリセリン含量PVA製割繊維不織布を作製した。この不織布中のグリセリン含有量は、0.3質量%であり、目付けは55g/m2であった。
PVA割繊維不織布の柔軟比は実施例5の柔軟剤処理の他に、本実施例6の通りのカムフィット等の機械加工でも可能である。
得られた低グリセリン含量PVA製割繊維不織布の性状を第1表に示す。
【0022】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の製造方法は、割繊維不織布からなる農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンの製造方法であって、グリセリン含有PVA製割繊維不織布を、温水処理という簡便な操作により、グリセリンを抽出除去することで、グリセリン含有量を栽培作物に悪影響を与えない程度まで低減した農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンを、安価にかつ生産性よく製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
割繊維不織布からなる農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンの製造方法であって、(A)可塑剤としてグリセリンを含有するポリビニルアルコールフィルムを用いて作製された割繊維不織布を、25〜80℃の温水中に浸漬してグリセリンを抽出除去し、当該割繊維不織布中のグリセリン含有量を3質量%以下に低減させる温水処理工程、及び(B)温水処理されたウェット割繊維不織布を乾燥処理する工程を含むことを特徴とする、農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンの製造方法。
【請求項2】
処理前の割繊維不織布中のグリセリン含有量が3〜8質量%である、請求項1に記載の農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンの製造方法。
【請求項3】
さらに、(C)防縮加工工程を含む、請求項1又は2に記載の農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンの製造方法。
【請求項4】
(C)防縮加工工程が薬品による防縮加工工程であって、(E)乾燥・熱処理工程を含む請求項3に記載の農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンの製造方法。
【請求項5】
(C)防縮加工工程が機械による防縮加工工程であって、(E)乾燥・熱処理工程を含む請求項3に記載の農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンの製造方法。
【請求項6】
さらに、(D)柔軟加工工程を含む請求項1〜5のいずれかに記載の農業用ハウス内の湿度調節用内張りカーテンの製造方法。

【公開番号】特開2009−221616(P2009−221616A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64360(P2008−64360)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(390028451)ダイオ化成株式会社 (10)
【Fターム(参考)】