説明

農業用ハウス

【課題】ハウスの下方や土壌を加温し、加温効率を上げ、植物の発芽、育苗、栽培に好適な環境を作り出す農業用ハウスを提供する。
【解決手段】農業用ハウス内に前面、後面、両側面又は/及び上面が区画材6〜9で被覆された二以上の小室aを設けた。小室aはその内部空間で発芽、育苗、栽培される植物の背丈よりも高めに設定して、温風の上昇を防止できるようにした。区画材6〜9の下端を小室a内の土壌E、水耕栽培装置まで又はその近くまで下げた。通路12を小室aの一又は二以上の箇所に導入した。通路12を小室a内の土壌E又は水耕栽培装置の近くに導入した。区画材6〜9を開閉可能として温度調節可能とした。支柱3,4又は/及び支持具5を取外し又は上方に収容可能にして、植物栽培後或いは収穫後の農業用ハウス内の地上作業が容易にできるようにした。通路12を通して消毒薬など各種液体、気体、粉体などを排出できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラでの加温効率が良く、農薬散布時に必要箇所にのみ散布可能なビニールハウス、ガラスハウス等の農業用ハウスに関する。
【背景技術】
【0002】
植物の育苗、栽培等には農業用ハウスが使用されている。近年は栽培規模の拡張に伴って農業用ハウスが大型化している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の農業用ハウスは次のような課題があった。
1.大型の農業用ハウスの場合は、室内空間が広く、天井が高いため、ボイラで室内を加温する場合、室内の上方は加温されるが、植物を育苗或いは栽培している下方や土壌が加温不足になる。
2.主として農業用ハウス内上方が暖められるため、農業用ハウス内全般が加温されにくく、燃料を消費する割には暖房効率が悪く、不経済である。
3.広い室内全体を加温すると燃料消費が多くなり、二酸化炭素の排出量が多くなり、地球温暖化の一因となり、地球環境の保全面でも好ましくない。
4.農業用ハウス内で農薬散布する場合、農薬が上方に舞い上がって農薬の無駄が多く不経済である。
5.農業用ハウス内で一部の植物にのみ農薬散布する場合に、散布不要の隣の植物にまで飛散することがある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、前記課題を解決でき、植物の発芽、育苗、栽培に好適な環境を作り出すことのできる農業用ハウスを提供するものである。
【0005】
本願発明の農業用ハウスは請求項1記載のように農業用ハウス内に二以上の小室を設け、夫々の小室は前面、奥面、両側面又は/及び上面が区画材で被覆されて区画材の内側に空間が確保され、夫々の小室の内部空間は植物の発芽、育苗、栽培に適する広さにし、夫々の小室は小室内で発芽、育苗、栽培する植物の背丈よりも高めに設定した。請求項2記載のように小室の前面、奥面、両側面又は/及び上面の区画材を農業用ハウス内に設けた支柱又は/及び支持具の外側に設けて、夫々の小室の内部空間が支柱又は/及び支持具により確実に確保されるようにすることもできる。この場合、請求項3記載のように前記区画材の下端を農業用ハウス内の土壌又は栽培装置まで又はその近くまで下げて、植物栽培する土壌又は栽培装置付近の熱を外部に逃げにくくすることもできる。請求項4記載のように、気体、液体、粉体等が通る通路を小室内に一本又は二本以上配管することも、通路引き込み孔を小室の一又は二以上の箇所に開口することも、小室内に通路を配管した上で更に通路引き込み孔を開口しておくこともできる。請求項5記載のように、通路にその内部を通る気体、液体、粉体等が排出される排出孔を開口しておくことができる。この排出孔は長い通路の軸方向に間隔をあけて多数開口することができる。請求項6記載のように、通路の配管位置又は通路引き込み孔の開口位置を、小室内の土壌又は栽培装置の上又はその近くとすることができる。請求項7記載のように、区画材を開閉可能とすることにより小室内を温度調節できるようにし、小室間の歩行や小室間での作業をし易くすることもできる。請求項8、9記載のように支柱や支持具、小室の区画材を取外したり上方へ収容可能にして、農業用ハウス内の土作り作業、水耕栽培装置等の片付け作業、設置作業などの邪魔にならないようにすることもできる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の農業用ハウスは次のような効果がある。
(1)農業用ハウス内を区画材で仕切って小室にしてあるため、小室内は農業用ハウスの外気の影響を受けにくく、小室内の温度が安定し、植物の発芽、育苗、育成に適した環境を得る事ができる。
(2)小室の区画材の内側に支柱又は/及び支持具があるため、小室の形状が保持され、小室の内部空間が確保される。
(3)小室内に気体、液体、粉体等を送ることのできる通路が配管されているため、通路に温風や湯を送って小室内を加温したり、冷風や冷媒を送って小室内を冷却したり、水を送って小室内の植物に散水したり、農薬を送って農薬散布したり害虫駆除をしたりすることもできる。いずれの場合も、小室ごとに気体、液体を送ることができるので、加熱、冷却、散水、消毒などを短時間で行うことができ、作業能率が良い。このため、例えば、ボイラ等の熱源からの熱風を通路内に送る場合は燃料消費量が低減し、コストも低減し、熱源から排出される排気ガス量が減少し、地球環境にも優しい。農薬散布の場合は農薬が小室の外に飛散しないので農薬の無駄も殆どない。
(4)通路を小室内の土壌又は栽培装置の上又はその近くに導入したので、通路から導入された温風で土壌又は栽培装置付近を加温でき、植物の発芽、育苗、生育環境が向上する。通路引き込み孔を小室内の土壌又は栽培装置の上又はその近くに開口した場合も、その通路引き込み孔に通路を導入することにより前記と同様の効果が得られる。
(5)小室の上面も区画材で被覆した場合は小室内の加温、冷却効率等が特に向上する。
(6)区画材の下端を農業用ハウス内の土壌又は栽培装置まで又はその近くまで下げたため、植物栽培する土壌又は栽培装置付近の放熱、放冷を防止でき、植物の発芽、育苗、育成環境が向上する。
(7)小室内で農薬散布すれば、隣の植物への農薬の飛散を防止でき、散布した農薬が農業用ハウス内に飛散しないので、農薬の無駄がなく、経済的であり、農業用ハウス内の作業環境も悪化しない。
(8)区画材を開閉可能としてあるので、小室内をきめ細かく温度管理することができると同時に、区画材が邪魔になって作業性が悪くなるのを回避することができる。
(9)支柱、支持具、区画材が取外し又は上方へ収容可能であるため、支柱又は/及び支持具が植物栽培後或いは収穫後の農業用ハウス内での機械作業の邪魔にならず、作業し易くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(農業用ハウスについての実施形態)
本願の農業用ハウスAの実施形態の一例を図1から図4に基づいて説明する。これら図に示す農業用ハウスはビニールハウス、ガラスハウスといった農業用ハウスA内を小室aに区画したものであり、農業用ハウスA内に前横バー1(図1、2)、後横バー2(図2)を架設し、それら横バー1、2の前に2本の前縦支柱3(図2)を、後ろに2本の後縦支柱4(図2)を設け、それら前後の縦支柱3、4の上部間に細長の支持具5(図2)を設け、それら支持具5の上に上面を被覆する上面区画材6(図2)を、前縦支柱3と後縦支柱4の間に側面を被覆する側面区画材7(図1、2)を、2本の前縦支柱3の間に前面を被覆する前面区画材8(図1、2)を、2本の後縦支柱4の間に後面を被覆する後面区画材9(図2)を吊り下げて、両側面と前後面及び上面が囲われた小室aを形成してある。支柱3、4や支持具5は図示した以外の箇所に設けることもできる。
【0008】
図1のように小室aは農業用ハウスAの間口方向(横方法)に間隔(歩行路)R(図1、2)をあけて二以上設け、農業用ハウスAの奥行き(前後)方向にも二以上設けることができる。小室aの数や大きさは農業用ハウスAの大きさにより異なるが、各小室a内の横幅、高さ、広さ等は植物の発芽、育苗、育成に適するサイズにするのがよい。高過ぎると導入した温風が上昇して植物栽培土壌Eや水耕栽培装置のベッド付近が加温されにくくなるので、高さは栽培する植物の背丈よりもやや高めに設定するのが良い。場合によっては、植物の生育に合せて高さを調節できるようにすることもできる。この場合は、例えば、前縦支柱3及び後縦支柱4を伸縮式とか折り曲げ式などにしておき、その長さを植物の生育に合せて調節するとか、短い支柱を長い支柱に変えるなどすることもできる。
【0009】
前縦支柱3及び後縦支柱4は前記前横バー1、後横バー2の夫々に図3のように軸10で回動可能に連結して吊り下げ、下端を地面に固定せずにフリーにして、不使用時には図3(a)の状態から図3(b)のように跳ね上げ可能としてあり、跳ね上げることにより農業用ハウスA内の下部に空間ができて、農業用ハウスA内の土壌Eを耕運機で耕したり、水耕栽培装置を取り外したり設置したりする各種作業を容易に行うことができる。跳ね上げた前縦支柱3及び後縦支柱4は図示しない係止具に係止して不用意に戻らないようにする。前縦支柱3及び後縦支柱4は跳ね上げ式ではなく、他の方法、例えば、前横バー1、後横バー2に抜き差し可能としておいて不使用時に抜去できるようにする構成、伸縮式にしておいて使用時に伸ばし不使用時に縮める構成にすることもできる。前縦支柱3及び後縦支柱4の下端は地面に固定することもできる。
【0010】
前横バー1、後横バー2、前縦支柱3、後縦支柱4は金属製、樹脂製、木材製といった丸や角のパイプ、角や丸の棒、線材、紐といった適宜の細長材を使用することができる。これらはいずれも上面区画材6、側面区画材7、前面区画材8、後面区画材9を支持可能な強度が必要である。
【0011】
図示した区画材6〜9には樹脂製のシートやフィルムを使用することができる。区画材6〜9はその下端に取り付けた巻上げ棒11(図2)を回転させることにより巻き上げ可能である。前面、後面の区画材8、9は横に開閉可能としたり、上げたり降ろしたりすることもできる。上面区画材6も開閉可能とすることができる。これら開閉操作により、小室a内の温度を調節することができ、歩行路Rの作業者の通行や、歩行路Rでの作業を容易にすることができる。
【0012】
前記夫々の区画材6〜9には樹脂製の薄板を使用することもできる。この場合は数十cm角程度のサイズの薄板をヒンジ状に連結して折り畳み可能とし、折り畳むことにより小室aを開放し、折り畳みを戻すことにより小室aを閉じることができるようにすることもできる。区画材には透明なもの無色なものが好ましいが、場合によっては着色されているものを使用することもできる。着色した場合は遮光性があり夏場(高温時)に小室内が温度上昇しすぎるのを防止することができる。
【0013】
前記小室aには通路12(図2、4)を引き込むための通路引き込み孔13が開口されている。通路12には定形性のあるもの、可撓性のあるもの、変形可能なもの等を使用することができ、パイプ、ホース、チューブ等を使用可能である。それらの材質も金属、樹脂といった適宜のものを使用可能である。通路引き込み孔13は小室aの二箇所以上に設けて夫々の通路引き込み孔13から通路12を導入し、夫々の通路12から温風、冷風といった気体(媒体)、水、湯、消毒液等の液体、農薬、害虫駆除剤等の粉体等を送ることができる。通路引き込み孔13は小室a内の土壌Eや水耕栽培装置のベッドの近く(小室a内の下端側:図4)に設けると、小室a内の土壌Eが加温される。通路引き込み孔13は小室aの高さ方向に間隔をあけて数個開口しておき、植物の成長につれて通路12を高い位置の通路引き込み孔13に差替えるようにすることもできる。この場合、不使用の通路引き込み孔13には閉塞用の栓を差し込んで閉じることができる。通路引き込み孔13は小室aの上面、前面、後面、側面のいずれに開口してもよい。
【0014】
通路12は各種気体、液体、粉体等の供給に使用できるが、図4のように数本配管して、いずれかを温風供給用、他を農薬供給用といったように使い分けることもできる。必要であれば、通路引き込み孔13の内周面に断熱材14(図2)を設けて、通路12内を通過する温風の熱で区画材(例えば、樹脂フィルム)が変形しないようにすることもできる。通路12はボイラ等の熱源、水道パイプなどの水源、消毒液を送るポンプ等に連結した元パイプからパイプを分岐させ、それら分岐パイプを通路12として各小室aに導入して配管することができる。通路12にはその内部に供給される気体、液体、粉体等を外部に排出するための排出孔15(図4)が間隔をあけて開口されている。排出孔15の数、大きさ、間隔、向き(下向き、上向き)等は通路12の配置位置、栽培する植物に合せて選択する。通路12内の気体、液体、粉体等は循環方式にして気体、液体、粉体等を有効利用できるようにするのが望ましい。例えば、小室a内で鉢物栽培する場合は通路12を小室の上方に配管し、排出孔15を下向きにして温風を下方に排出するのが望ましく、トマト、胡瓜などの果菜の場合は、小室a内の下部に配管するのが適する。通路12は土壌で栽培する植物の生育の邪魔にならないように配管する。通路12の太さ、本数、配管位置等は栽培する植物に合せて選択する。排出孔15は場合によっては必ずしも必要ではない。その場合は、通路12の先端を開口しておき、通路12内の気体や液体をその開口部から排出するようにすることもできる。
【0015】
図示した通路12は小室a内の長手方向ほぼ全域に配管してあるが、通路12は図2のように小室a内に少しだけ導入し、導入した先端開口部12aから温風、冷風等を排出するようにすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の農業用ハウスの全体を示す正面断面図。
【図2】本発明の実施形態の一例を示す斜視説明図。
【図3】本発明の前縦支柱及び後縦支柱と横バーとの連結部の一例を示す斜視説明図。
【図4】本発明の通路の配管説明図。
【符号の説明】
【0017】
1 前横バー
2 後横バー
3 前縦支柱
4 後縦支柱
5 支持具
6 上面区画材
7 側面区画材
8 前面区画材
9 後面区画材
10 軸
11 巻上げ棒
12 通路
12a 先端開口部
13 通路引き込み孔
14 断熱材
15 排出孔
A ハウス
E 土壌
R 歩行路
a 小室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
農業用ハウス内に二以上の小室を設け、夫々の小室は前面、後面、両側面又は/及び上面が区画材で被覆されて区画材の内側に空間が確保され、夫々の小室の内部空間は植物の発芽、育苗、栽培に適する広さであり、夫々の小室は内部空間で発芽、育苗、栽培される植物の背丈よりも高めに設定されたことを特徴とする農業用ハウス。
【請求項2】
請求項1記載の農業用ハウスにおいて、小室の前面、後面、両側面又は/及び上面の区画材が、農業用ハウス内に設けた支柱又は/及び支持具の外側に設けられたことを特徴とする農業用ハウス。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の農業用ハウスにおいて、区画材の下端を農業用ハウス内の土壌又は栽培装置まで又はその近くまで下げたことを特徴とする農業用ハウス。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の農業用ハウスにおいて、気体、液体、粉体等が通る通路が小室内に一本又は二本以上配管されるか又は/及び通路引き込み孔が小室の一又は二以上の箇所に開口されたことを特徴とする農業用ハウス。
【請求項5】
請求項4記載の農業用ハウスにおいて、通路にその内部を通る気体、液体、粉体等が排出される排出孔が開口されたことを特徴とする農業用ハウス。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の農業用ハウスにおいて、通路又は通路引き込み孔が小室内の土壌又は栽培装置の上に又はその近くに配管又は開口されたことを特徴とする農業用ハウス。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の農業用ハウスにおいて、区画材が開閉可能であることを特徴とする農業用ハウス。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の農業用ハウスにおいて、支柱又は/及び支持具は取外し可能又は上方に収容可能であることを特徴とする農業用ハウス。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の農業用ハウスにおいて、小室の区画材が取外し可能又は上方に収容可能であることを特徴とする農業用ハウス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−207365(P2009−207365A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50790(P2008−50790)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(308007099)
【Fターム(参考)】