説明

農業用ハウス

【課題】農業用ハウスにおいて、昼行性害虫による作物被害の防止効果を高める。
【解決手段】農業用ハウス1は、ハウス空間を形成するための構造体2と、構造体2に支持されハウス空間を覆う光透過性被覆材3とを備える。光透過性被覆材3は、略500〜600nmの波長領域の光に対する透過率が略1%以下の材料が用いられる。作物P1の葉又は茎等は緑色、黄緑色又は黄色の色の光のみを反射するが、被覆材3を透過してハウス空間内に入射する自然光は、それらの色の光が含まれる500〜600nmの波長範囲の光を殆んど含まないので、作物P1は上述の色の光を殆んど反射しない。従って、害虫B1がハウス1内に侵入して作物P1を見たとしても、それを作物P1として認知し難い。そのため、害虫B1が作物P1に留まることが殆んどなくなり、害虫B1による食害等の作物被害の防止効果が高まる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昼行性害虫に対する防虫機能を有する農業用ハウスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、農業用ハウスのハウス空間を覆う光透過性被覆材として、波長領域が500〜620[nm]の光線を選択的に吸収する紫色顔料又は染料を含有し、作物促成のため全光線透過率が50〜89[%]とされたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。上記波長領域の光線は、長日性のほうれん草又は軟弱野菜の生育に寄与しない光線であり、この光透過性被覆材を農業用ハウスに用いれば、ハウス内のほうれん草又は軟弱野菜に照射されるそのような光線を減らすことができる。
【0003】
ところで、農業用ハウスには、作物を食べる昼行性害虫が侵入することがあり、昼行性害虫による作物被害を防ぐことが要請されている。作物の葉又は茎等は緑色、黄緑色又は黄色の光のみを反射し、他の色の光は吸収し、このため、緑色、黄緑色又は黄色に見える。昼行性害虫は、作物から反射されるそれらの色の光を感知し、これにより、視認対象が作物であることを認知する。
【0004】
上記光透過性被覆材を農業用ハウスに用いた場合、500〜620[nm]の波長領域の光のハウス内への出射が光透過性被覆材により抑制されるので、当該波長領域に含まれる緑色、黄緑色及び黄色の光のハウス内への出射が抑えられ、結果として、作物により反射されるそれらの色の光量が少なくなる。このため、昼行性害虫が作物を認知し難くなり、従って、昼行性害虫による作物被害の抑制効果を得られることが想定される。
【0005】
しかしながら、外部からハウスに入射する緑色、黄緑色又は黄色の光のうちの50〜89[%]はハウス内へ出射されるので、昼行性害虫が作物を緑色、黄緑色又は黄色と視認し、作物として認知することは十分に可能である。従って、昼行性害虫による作物被害の十分な防止効果を得ることは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−140500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来の問題を解決するためになされたものであり、昼行性害虫による作物被害防止効果の向上を図ることができる農業用ハウスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、ハウス空間を形成するための構造体と、前記構造体に支持されハウス空間を覆う光透過性被覆材と、を備えた農業用ハウスにおいて、前記光透過性被覆材は、500〜600nmの波長領域の光に対する透過率が1%以下の材料を用いたものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の農業用ハウスにおいて、500〜600nmの波長領域内にピーク波長を持つ特性、又は500〜600nmの波長領域の放射エネルギ総和が他の波長領域の放射エネルギ総和よりも大きい分光特性を有する、害虫を誘引する誘引光を発する誘引光源部と、前記誘引光源部から発せられた誘引光により誘引された害虫を捕獲する捕獲部と、をハウス空間内に設置したものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、作物の葉又は茎等は緑色、黄緑色又は黄色の色の光のみを反射するが、光透過性被覆材を透過してハウス空間内に入射する自然光は、それらの色の光が含まれる500〜600nmの波長範囲の光を殆んど含まないので、昼行性害虫がハウス内に侵入したとしても、作物は上述の色の光を殆んど反射しないことから、昼行性害虫は作物を認知し難い。従って、昼行性害虫が作物に留まることが殆んどなくなり、昼行性害虫による食害等の作物被害の防止効果が高まる。
【0011】
請求項2の発明によれば、誘引光源部から500〜600nmの波長範囲内の光、すなわち、作物の葉又は茎と略同色又はそれに近い色の光が他の波長の光よりも強く照射され、これにより、昼行性害虫は誘引光源部を葉と勘違いしてそれに誘引され、この誘引された昼行性害虫は捕獲部により捕獲されるので、昼行性害虫による作物被害をさらに抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る農業用ハウスの斜視図。
【図2】上記実施形態の一変形例に係る農業用ハウスの光透過性被覆材の分光透過率を示す図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る農業用ハウスの斜視図。
【図4】(a)は上記農業用ハウスの害虫誘引捕獲器の正面図、(b)はその側面図。
【図5】昼行性害虫の分光相対感度と作物の葉の分光反射率とを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の第1の実施形態に係る農業用ハウス(以下、ハウスという)について図1を参照して説明する。図1は、本実施形態のハウスの構成を示す。このハウス1は、ハウス空間を形成するための構造体2と、構造体2に支持されハウス空間を覆う光透過性被覆材(以下、被覆材という)3と、を備えている。ハウス空間内の土壌には作物P1が育成又は栽培されている。被覆材3は、作物P1の葉又は茎等と略同色又はそれに近い色の光、すなわち、作物P1により反射される緑色、黄緑色又は黄色(以下、纏めて緑色という)の光、例えば、略500〜600nmの波長領域の光に対する透過率が所定値以下の材料が用いられる。その値は、緑色の光が作物P1により反射され、昼行性害虫(以下、害虫という)B1が作物P1を見つけたとしても、それが緑色であることを害虫B1が感知できず、そのためにそれが作物P1であることを認知できない程度であり、例えば略1[%]以下である。
【0014】
構造体2は、防錆のためメッキ処理された鋼管により構成された躯体、すなわち、骨組みである。この骨組みは、上記鋼管が円弧状に湾曲形成されて成りハウス前面から背面方向に配列されるアーチ部材21と、ハウス前面から背面方向に延び、これらアーチ部材21と連結される棒状部材22とにより構成される。アーチ部材21の両端は地面に固定される。構造体2には補強用の筋交い等が設けられていてもよい。
【0015】
被覆材3は、フィルム材、板ガラス、又は樹脂板材等により構成される。フィルム材としては、ポリ塩化ビニルフィルム、農業用ポリオレフィン系フィルム又はフッ素樹脂フィルム等を用いることができ、樹脂板材の材料としては、アクリル樹脂又はポリカーボネイト等を用いることができる。被覆材3は、略500〜600nmの波長領域の光透過率が例えば略1[%]以下となるように、例えばフタロシアニンブルー、マゼンタ又はミネラルバイオレット等の顔料若しくは染料が基材中に配合されて成る。フィルム材の場合、当該フィルム材は、パッカ等のプラスチック製又は金属製止め具により構造体2の鋼管に押し付けられて取り付けられる。このフィルム材には、その一方の側部から他方の側部にかけて上方から樹脂紐が渡され、これにより、構造体2への取り付け補強がなされていてもよい。
【0016】
上記のように構成されたハウス1においては、作物P1の葉又は茎等は緑色の光のみを反射するが、被覆材3を透過してハウス空間内に入射する自然光は、その色の光が含まれる500〜600[nm]の波長範囲の光を殆んど含まないので、作物P1は緑色の光を殆んど反射しない。従って、害虫B1がハウス1内に侵入して作物P1を見たとしても、それを作物P1として認知し難い。そのため、害虫B1が作物P1に留まることが殆んどなくなり、害虫B1による食害等の作物被害の防止効果が高まる。
【0017】
次に、上記実施形態の一変形例に係るハウス1について図2を参照して説明する。図2は、本変形例のハウス1の被覆材3の分光透過率を示す。被覆材3は、その光透過率が略500〜520[nm]の波長領域の光に対しては略20[%]以下となり、略520〜560[nm]の波長領域の光に対しては略10[%]以下となり、略560〜600[nm]の波長領域の光に対しては略1[%]以下となるように構成されている。
【0018】
次に、本発明の第2の実施形態に係るハウスについて図3〜図5を参照して説明する。図3は本実施形態のハウスの構成を示し、図4(a)(b)はこのハウスが有する害虫誘引捕獲器の構成を示す。本実施形態のハウス1のハウス空間内には、害虫B1を誘引する誘引光を発する局部照明用の誘引光源部4と、誘引光源部4から発せられた誘引光により誘引された害虫B1を捕獲する捕獲部5とを有する害虫誘引捕獲器6が設置されている。上記の誘引光は、略500〜600nmの波長領域内にピーク波長を有する。このピーク波長は、作物P1の葉又は茎等と略同色若しくはそれに近い色の光の波長範囲内に在ればよく、ピーク波長が在る波長領域は上記に限定されない。害虫誘引捕獲器6は、ハウス1内に複数台、互いに離間して配置されている。
【0019】
誘引光源部4は、放電灯41と、放電灯41の放電を安定させるための安定器42と、それらを支持する支持部材43と、放電灯41、安定器42及び支持部材43を収容する透光性を有したカバー44とを備える。
【0020】
放電灯41は、その放射光が略500〜600[nm]の波長範囲内にピーク波長を有するように分光特性が調整されている。放電灯41は、黄色蛍光ランプ又はナトリウムランプにより構成することができる。放電灯41の替わりとして黄色LEDユニットが設けられていてもよい。
【0021】
カバー44は、光学フィルタ機能を有していてもよい。この場合、放電灯41とカバー44との組み合わせにより上記放電灯41の分光特性が実現することができ、カバー44は黄色カラーフィルタにより、放電灯41は白色蛍光ランプ又は白色HIDランプにより構成することができる。
【0022】
捕獲部5は、捕虫用の粘着シート51と、上面が開口し、内側に粘着シート51が設けられた樋状部材52とを備える。粘着シート51はカバー44の光放射面近傍に配置されている。樋状部材52は、樋状部材52から上方に延びる支持部材52aによりカバー44を支持し、樋状部材52の上方に配置している。また、樋状部材52には脚部52bが取り付けられている。害虫誘引捕獲器6の構成は上記に限定されない。
【0023】
害虫誘引捕獲器6は、例えば、ハウス1内の土壌の上に、畝R1に沿って設置され、適宜、複数又は単数列、設けられる。害虫誘引捕獲器6の誘引光源部4は、土壌付近又は作物P1の側方位置から上方又は側方へ誘引光を発する。害虫誘引捕獲器6は図示された台数及び配置に限定されない。
【0024】
図5は、害虫B1の分光相対感度と、作物P1の葉の分光反射率とを示す。害虫B1は、作物P1と略同色又はそれに近い色の光、すなわち、略500〜600[nm]の波長範囲の光に対して感度を有している。また、作物P1の葉は、略500[nm]以下の波長の光、及び略600[nm]以上の波長の光に対しては反射率が略ゼロであり、略500〜600[nm]の波長範囲の光に対しては反射率が略10[%]程度である。従って、誘引光源部4からの誘引光が作物P1の葉にも照射されるとしても、葉の反射率は10[%]程度であるので、葉よりも誘引光源部4の方がはるかに輝度が高く、そのため、害虫B1は輝度の高い誘引光源部4の方に、より多く誘引される。
【0025】
本実施形態においては、誘引光源部4から500〜600nmの波長範囲内の光、すなわち、作物P1の葉又は茎と略同色又はそれに近い色の光が他の波長の光よりも強く照射され、これにより、害虫B1は誘引光源部4を葉と勘違いしてそれに誘引される。そして、この誘引された害虫B1は捕獲部5により捕獲される。このため、害虫B1による作物被害をさらに抑えることができる。
【0026】
なお、本発明は、上記の各種実施形態の構成に限定されるものでなく、使用目的に応じ、様々な変形が可能である。例えば、構造体2は、コンクリート製の基礎の上に立設された、軽量鉄骨であるH鋼により構成されていてもよい。この場合、H鋼は適宜折り曲げられてハウス1の骨組みを形成する。
【0027】
また、誘引光源部4は、ビニルハウスH1周辺に設置することもできる。また、誘引光源部4は、所定の波長範囲の光を吸収し他の波長範囲の光は反射する反射板等を有していても構わない。また、誘引光源部4は、放射光の略500〜600[nm]の波長範囲の放射エネルギ総和が他の波長範囲の放射エネルギ総和よりも大きくなるように分光特性が調整されていてもよい。また、誘引光源部4は、害虫B1が好む紫外線を放射してもよい。
【0028】
また、捕獲部5は、電撃格子、略水平に置かれたカバー44の上に配置され水が張られた透明な水盤、又はカバー44の光放射面付近に気流を発生させて害虫B1を吸引する吸引装置等を有していてもよい。
【0029】
また、害虫誘引捕獲器6は、誘引光源部4が捕獲部5のみに光を照射するように構成されていてもよい。この場合、例えば、放電灯41を白色蛍光ランプ又は白色HIDランプ等の白色光源とし、捕獲部5は略500〜600[nm]の波長領域の光のみを反射し放射するように構成される。
【符号の説明】
【0030】
1 農業用ハウス
2 構造体
3 光透過性被覆材
4 誘引光源部
5 捕獲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウス空間を形成するための構造体と、前記構造体に支持されハウス空間を覆う光透過性被覆材と、を備えた農業用ハウスにおいて、
前記光透過性被覆材は、500〜600nmの波長領域の光に対する透過率が1%以下の材料を用いたことを特徴とする農業用ハウス。
【請求項2】
500〜600nmの波長領域内にピーク波長を持つ特性、又は500〜600nmの波長領域の放射エネルギ総和が他の波長領域の放射エネルギ総和よりも大きい分光特性を有する、害虫を誘引する誘引光を発する誘引光源部と、前記誘引光源部から発せられた誘引光により誘引された害虫を捕獲する捕獲部と、をハウス空間内に設置したことを特徴とする請求項1に記載の農業用ハウス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−45283(P2011−45283A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195961(P2009−195961)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】