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農業用ハウス
説明

農業用ハウス

【課題】中山間地域において、作業負担を軽減しつつ、コストを抑えながらも高付加価値作物を栽培することができる農業用ハウスを提供すること。
【解決手段】本発明の農業用ハウス10では、設置面(ハウス設置面)2と、この設置面2から立ち上がる壁面(温度調整用壁面)3と、この壁面3の上端部3bから水平方向に連続する上段作業道4と、を有する段差地(農業用傾斜地)1に敷設され、壁面3の上端部3bから、鉛直方向に延びる上部側壁11と、設置面2に立設されると共に、上部側壁11の上端部11bに連結する屋根部12と、を備え、壁面3を側壁の一部とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物を栽培する傾斜地に設ける農業用ハウスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
果樹栽培では、緩傾斜地に農業用プラスチックハウスを敷設し、この農業用プラスチックハウス内で栽培する方法がすでに多くの地域でなされている。また、中国では、日光温室が古くから用いられている。この日光温室とは、蓄熱性を有する材質で北壁及び東西両妻面の壁を形成すると共に、南側面を透光性フィルムで被覆することで、壁が有する蓄熱性能を利用して室内温度を確保する作物栽培施設である(例えば、非特許文献1,2参照)。一方、わが国では、傾斜地を活用した新たな温室の敷設技術が発表されている(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】山口智治、畔柳武司、陳青雲、「日光温室の熱環境形成機構に関する研究(第1報)」、農業施設、農業施設学会、2003年6月、第34巻、第1号、P.31-37
【非特許文献2】山口智治、馬承偉、薫仁傑、「中国の施設園芸における工学技術の現状と展望」、農業施設、農業施設学会、2001年6月、第32巻、第1号、P.23-32
【非特許文献3】入口義春 他3名、「中山間傾斜地を活用した多日射・耐風構造ハウスの開発とガーベラの多収栽培」、長崎県総合農林試験場研究報告(農業部門)、第22号、P.23〜33、
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、緩傾斜地に敷設した農業用プラスチックハウスは、すでに温室ミカン等で産地化が図られ、現状のままではこれ以上の高収益を求めることは難しい。さらに、農業用プラスチックハウスを利用すると、冬期の低温対策にボイラー等の加温設備が必要なため、この加温設備に必要なコストが無視できない。また、夏期の高温対策には多くの労力や危険が伴う被覆材の開閉が不可欠なため、作業負担が大きかった。さらには、強風によるハウスの倒壊や、傾斜地での作業による負担増、園主の高齢化等の問題も考えられる。そのため、農業用プラスチックハウスを利用した果樹園では廃園が増えつつある。
【0005】
一方で、野菜等の園芸栽培では、農業用ハウス栽培が高収益をもたらすことから、中山間地域においても農業用ハウスの利用が試みられている。しかし、中山間地域に敷設するハウスであっても、平坦地に敷設されるハウスと構造上はまったく同じである。そのため、中山間地域特有の突風や冬期の厳寒等により、平坦地農業に比べて厳しい気象条件下での栽培競争となり、農業用ハウスの普及が進まないのが現状である。
【0006】
さらに、日光温室は、中国では多く普及しているが、傾斜地において敷設した事例は見あたらないし、温室上部に安全な作業用通路を設けた事例も見当たらない。また、すでに発表されている傾斜地を活用した温室の敷設技術では、温室の構造は開示されているものの、作業性を向上させる工夫は見当たらない。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に着目してなされたものであり、中山間地域において、作業負担を軽減しつつ、コストを抑えながらも高付加価値作物を栽培することができる農業用ハウスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の農業用ハウスでは、設置面と、該設置面から立ち上がる壁面と、該壁面の上端部から水平方向に連続する上段作業道と、を有する段差地に敷設され、前記壁面の上端部から、鉛直方向に延びる上部側壁と、前記設置面に立設されると共に、前記上部側壁の上端部に連結する屋根部と、を備え、前記壁面を側壁の一部とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
よって、本発明の農業用ハウスにあっては、上部作業道を有する段差地の壁面を側壁の一部とすると共に、設置面に立設し、且つ、壁面の上端部から鉛直方向に延びる上部側壁を備えている。
すなわち、段差地の側面を農業用ハウスの側壁の一部とすることで、側壁に相当する部分の骨格パイプや被覆材等のハウス構成資材を節約することができる。また、上段作業道を有する段差地の設置面に立設することで、ハウス上部に上部作業道を配置することができ、この上部作業道から農業用ハウス内部に対して灌水や農薬散布、被覆材の着脱等の必要な作業を行うことができるため、作業負担が軽減される。さらに、上段作業道を利用することで、ハウス上部に被覆材巻上装置等の機材の設置場所を容易に確保することができる。これにより、農業用ハウスにかかる負担を低減し、破損が生じることを防止できる。
この結果、中山間地域において、作業負担を軽減しつつ、コストを抑えながらも高付加価値作物を栽培することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1の農業用ハウスを敷設した段差地の全体を示す概観図である。
【図2】実施例1の農業用ハウスを敷設した段差地の断面を示す説明図である。
【図3】実施例1の農業用ハウスの一部を示す外観斜視図である。
【図4】実施例1の農業用ハウスの一部を破断した断面説明図である。
【図5】実施例1の農業用ハウスにおける屋根部への作業を示す説明図であり、(a)は被覆材の着脱作業を示し、(b)は灌水・農薬散布作業を示す。
【図6】実施例1の農業用ハウスの灌水作業の他の例を示す斜視図である。
【図7】本発明の農業用ハウスの変形例を示す斜視図である。
【図8】本発明の農業用ハウスの被覆材の低減効果を説明するための説明図である。
【図9】本発明の農業用ハウスの使用例を示す斜視図である。
【図10】本発明の農業用ハウスの他の使用例を示す斜視図である。
【図11】実施例1の農業用ハウスの変形例を示す説明図である。
【図12】実施例1の農業用ハウスの他の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の農業用ハウスを実現するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の農業用ハウスを敷設した段差地の全体を示す概観図である。図2は、実施例1の農業用ハウスを設置した段差地の断面を示す説明図である。
【0013】
実施例1の農業用傾斜地(段差地)1は、平野の外縁部から山間地に至るまでの平坦な耕地の少ない地域、いわゆる中山間地域に適用されている。そして、前記農業用傾斜地1は、ハウス設置面(設置面)2と、温度調整用壁面(壁面)3と、上段作業道4と、傾斜畑5と、を備え、農業用ハウス10が敷設されている。
【0014】
前記ハウス設置面2は、中山間地域の傾斜地に造成されたほぼ水平な平坦地であり、等高線に沿って帯状に延びている。このハウス設置面2の等高線に対して直交する方向の幅(以下、単に「幅」という)W1は、野菜や果樹を耕作可能な長さを有する必要がある。ここでは、ハウス設置面2の幅W1を一般的な農業用ハウスの規格に合わせて約3〜6m程度としている。また、このハウス設置面2は、傾斜地のうち、自動車等の通行が可能な幹線道路1aからわずかに高くなった部分に造成されており、傾斜地の中でも比較的高度が低くなっている。
【0015】
前記温度調整用壁面3は、ハウス設置面2から立ち上がった南方に臨む壁面であり、蓄熱性を有する高さH1となっている。この「蓄熱性を有する高さH1」とは、日光が当たったときには日光からの熱を蓄積し、周囲温度が下がったときには蓄積した熱を放出することができる高さであり、この温度調整用壁面3により外気温よりもハウス内の温度変化率を低くすることができる高さである。ここでは、温度調整用壁面3の高さH1をハウス設置面2から約2〜3m程度としている。また、この温度調整用壁面3は鉛直方向に対して上向きに傾斜している。さらにここでは、温度調整用壁面3の全体が高い熱容量を有する蓄熱材3aにより覆われている。蓄熱材3aは、例えばコンクリート製ブロック、レンガ、自然石等であり、温度調整用壁面3の表面に積み重ねることで崩れを防止する擁壁としての機能も併せ持つ。なお、これらの蓄熱材3aの積み方は平積みや布積み等、温度調整用壁面3の形状や傾斜角度等に合わせて選択できる。また、コンクリートはブロック状ではなく、温度調整用壁面3の全面を一体的に覆うものであってもよい。
【0016】
前記上段作業道4は、温度調整用壁面3の上端部3bから水平方向に連続した作業用通路である。この上段作業道4は、ハウス設置面2と同様、等高線に沿って帯状に延びている。そして、この上段作業道4の幅W2は、人又は農作業用機械が通行可能とする長さを有する必要があり、ここでは一般的な作業用通路に合わせて約0.5〜3m程度としている。
【0017】
前記傾斜畑5は、上段作業道4から傾斜地の上方に続く、例えば果樹等の作物を育成する畑面5aが傾斜した畑である。ここでは、畑面5a内に帯状に延びる複数の畑内作業道5b,…を高さ方向に一定間隔で配置している。畑面5aは、これらの畑内作業道5b,…により等高線に沿って区画される。なお、各畑内作業道5bは、例えばスピードスプレーヤーSSや高所作業車KS等の作業機械が走行可能な幅となっている。
【0018】
図3は、実施例1の農業用ハウスの一部を示す外観斜視図である。図4は、実施例1の農業用ハウスの一部を破断した断面説明図である。
【0019】
前記農業用ハウス10は、ハウス設置面2及び温度調整用壁面3を一体的に覆うようにハウス設置面2に立設され、温度調整用壁面3を側壁の一部としている。この農業用ハウス10は、上部側壁11と、屋根部12と、一対の妻側側壁13と、を備えている。
【0020】
前記上部側壁11は、温度調整用壁面3の上端部3bから鉛直方向に延びた側壁であり、上段作業道4よりも上方に突出している。この上部側壁11の高さH2は、上段作業道4からこの上部側壁11越しに、屋根部12に対する作業を許容する高さに設定されており、ここでは、上段作業道4から約0.5〜1.5m程度としている。なお、「屋根部12に対する作業」とは、後述する被覆材10aの着脱作業や張替え作業、屋根部12上からの灌水・農薬散布作業等である。また、この上部側壁11には、農業用ハウス10内の換気を行うための開閉可能な換気窓11aが設けられている。また、この上部側壁11は、後述する被覆材10a及び骨組みパイプ10bにより構成されている。
【0021】
前記屋根部12は、ハウス設置面2及び温度調整用壁面3を一体的に覆うと共に、一端が上部側壁11の上端部11bに連結され、他端がハウス設置面2に固定されて、ここでは円弧状のアーチ形状をかたどっている。また、この屋根部12は、農業用ハウス10の骨格となる骨組みパイプ10bと、この骨組みパイプ10bに対して着脱可能に固定された被覆材10aと、から構成されている。被覆材10aは、農業用ポリオレフィン系フィルムやフッ素樹脂フィルムから構成された透光性を有する合成樹脂フィルムである。なお、この被覆材10aは、透光性を有する合成樹脂フィルムに遮光幕や布団状の断熱被覆材を着脱可能に層状に重ね合わせたシートであってもよい。
【0022】
前記妻側側壁13は、農業用ハウス10の妻面に位置する側壁であり、出入口13aが設けられている。また、この妻側側壁13は、上記被覆材10a及び骨組みパイプ10bにより構成されている。
【0023】
次に、作用を説明する。
まず、本発明に係る「中山間地域における農業用ハウスの技術課題」の説明を行い、続いて、実施例1の農業用傾斜地1における作用を、「作物付加価値向上作用」、「作業性向上作用」、「コスト抑制作用」に分けて説明する。
【0024】
[中山間地域における農業用ハウスの技術課題]
温暖な気候で水はけの良好な土壌の西日本の中山間地域は、柑橘類の栽培が盛んであり、主要な産地を形成している。この地域では、1960年代以降の果実需要の増加に伴い、急傾斜地でも積極的に温州ミカン園が開園されてきた。しかし、今日では温州ミカンの価格低迷の影響等から後継者が見当たらずに廃園する農家が多く発生している。また、継続している園地でも傾斜地での作業の軽労化が求められている。そのため、柑橘産地の活性化や中山間地域の傾斜地の有効利用のためにも、傾斜地の特徴を生かした新たな栽培施設の展開が求められている。
【0025】
しかしながら、従来の農業用ハウスを用いた施設栽培では、冬期の暖房に必要なコストが多額になり、経営を圧迫することがある。また、傾斜果樹園等の傾斜地に敷設された農業用ハウスでは、暖房コストの負担増に加え、平坦地に敷設されるハウスと構造上の違いがないために、中山間地域特有の突風や冬期の厳寒等により、平坦地農業に比べて破損が頻発する。また、傾斜地での作業は平坦地農業に比べて負担が大きい上、農業用ハウスを利用すれば、さらに負担増が考えられる。すなわち、中山間地域における傾斜地では、農業用ハウスを用いて高付加価値の作物栽培を行おうとしても、コスト増や厳しい気象条件等の問題があり、農業用ハウスの普及が困難であった。
【0026】
[作物付加価値向上作用]
実施例1の農業用ハウス10は、ハウス設置面2と、このハウス設置面2から立ち上がる温度調整用壁面3と、温度調整用壁面3の上端部3bから連続した上段作業道4を、有する段差地である農業用傾斜地1に敷設されている。
【0027】
そのため、中山間地域であっても段差地である農業用傾斜地1を利用して敷設した農業用ハウス10を用いて作物を栽培することができるため、中山間地域において一年を通じて作物栽培を行える。これにより、栽培している作物が市場に少ない時期に作物を出荷したり、一定品質の作物を出荷したりでき、露地栽培による作物よりも高い付加価値のある作物を生産することができる。
【0028】
[作業性向上作用]
実施例1の農業用ハウス10を敷設する段差地である農業用傾斜地1は、ハウス設置面2と、このハウス設置面2から立ち上がる温度調整用壁面3と、温度調整用壁面3の上端部3bから連続した上段作業道4を、有している。
【0029】
これにより、上段作業道4から農業用ハウス10の屋根部12や農業用ハウス10内のハウス設置面2への作業を行うことができ、作業負担を抑えて作業性を向上することができる。ここで、屋根部12やハウス設置面2への作業とは、図5(a)に示すような被覆材10aの着脱作業や張替え作業、図5(b)に示すような灌水・農薬散布作業である。
【0030】
また、図5(a)に示すように、被覆材10aを着脱等する際には、図示しない被覆材巻上装置を用いることで、作業をさらに容易に行うことができる。すなわち、被覆材巻上装置を用いて、上段作業道4から骨組みパイプ10bに固定された被覆材10aを巻き取ればよい。なお、農業用傾斜地1が上段作業道4を有するために、この上段作業道4を利用して被覆材巻上装置を設置することができる。これにより、農業用ハウス10の上に被覆材巻上装置を設置する必要がなくなり、農業用ハウス10にかかる負荷を低減し、農業用ハウス10に破損等が生じることを防止できる。
【0031】
さらに、実施例1の農業用ハウス10では、上部側壁11の高さH2を、上段作業道4からこの上部側壁11越しに、屋根部12に対する作業を許容する高さに設定している。このため、作業者S1は円滑に作業を行うことができる上、上部側壁11によって上段作業道4からの落下を防止することができる。これにより、作業を安全に行うことが可能となる。
【0032】
そして、実施例1のハウス設置面2は、傾斜地に設けられ、等高線に沿って延びる帯状をなすと共に、上段作業道4は、等高線に沿って延びる帯状をなしている。そのため、農業用ハウス10は等高線に沿った形状となる。その上、上段作業道4の幅W2を、例えばスピードスプレーヤー等の作業車S2が走行可能な長さにすれば、図5(b)に示すように、被覆材10aを撤去した後、作業車S2を利用して上段作業道4を走行しながら灌水・農薬散布作業を行うように、上段作業道4からの作業を、上段作業道4を走行する作業車S2等の車両から行うことができ、作業の効率化が図られ、さらに作業性を向上させることができる。
特に、屋根部12の形状に沿うブームBを用いることにより、上段作業道4を走行する作業車S2から直接灌水等を行うことが可能となる。そのため、さらに作業負担を軽減することができる。
【0033】
そして、実施例1の農業用傾斜地構造1では、ハウス設置面2が自動車等の通行が可能な幹線道路1aからわずかに高くなった部分に造成されている。これにより、この幹線道路1aを走行する車両から農業用ハウス5内に対する作業を行うことができ、作業性の向上を図ることができる。
【0034】
また、図6に示すように、上段作業道4に灌水のための貯水タンクTを設置すれば、ハウス設置面2と上段作業道4との間の高低差を利用した自然灌水を行うこともできる。この場合、自然灌水であるため、灌水作業の負担を大幅に軽減することができる上、灌水パイプPを用いればその効果は増大する。さらに、貯水タンクTの水を上段作業道4よりも上部にある傾斜畑5の降雨から集めるとより省力化することができる。
【0035】
また、実施例1の農業用ハウス10では、上部側壁11に換気窓11aを設けている。そのため、農業用ハウス10内の温度や湿度が変動した際には、この換気窓11aを開閉して、ハウス内換気を容易に行うことができ、農業用ハウス10内の環境状態の調整を簡単に行うことができる。
なお、図7に示すように、屋根部12のうち、上部側壁11の上端部11bに沿った部分に開閉可能な窓部12aを設けることで、ハウス内の換気をさらに効率的に行うことができ、暑熱対策効率の向上を図ることができる。
【0036】
[コスト抑制作用]
実施例1の農業用傾斜地1では、農業用ハウス10の側壁の一部に温度調整用壁面3を利用しているため、側壁に相当する部分の被覆材10aや骨組みパイプ10b等の資材を節約することができて、コスト抑制を図ることができる。
すなわち、例えば、一般的な農業用ハウスNと実施例1の農業用ハウス10の寸法を、図8に示すようにした場合を考える。このとき、一般的な農業用ハウスNでは、被覆材10aによって覆われる断面長さは、12.2m(=2.5+3.6+3.6+2.5)となる。一方、実施例1の農業用ハウス10では、被覆材10aによって覆われる断面長さは、9.8m(=8.3+1.5)となる。そのため、断面長さの比は、一般的な農業用ハウスNを「1」とすると、実施例1の農業用ハウス10では約「0.8」となり、耕作面積が同じであっても被覆材10aを約20%程度削減することができることが分かる。
【0037】
さらに、温度調整用壁面3自体は、等高線に沿って帯状に延びるハウス設置面2を造成する際に形成されるものである。このように、ハウス設置面2の造成に伴って形成される温度調整用壁面3を農業用ハウス10の蓄熱体として積極的に利用することで、これらの造成費用は、傾斜地の区画整備事業と農業用ハウス10の建設事業の両方で負担することなり、傾斜地造成を安価に行うことが可能となる。
【0038】
また、実施例1の農業用ハウス10では、温度調整用壁面3は、蓄熱性を有する高さとなっている。そのため、日光からの熱を温度調整用壁面3に蓄え、夜間等には温度調整用壁面3から蓄えた熱を放出することで、この温度調整用壁面3を低温期の農業用ハウス10内の温度維持に利用することができる。すなわち、農業用ハウス10の側壁の一部を温度調整用壁面3とすることで、この温度調整用壁面3を低温期の蓄熱体として低温対策に活用することができ、低温対策に必要な暖房費等のコストを抑制することができる。
特に、図9に示すように、屋根部12の全面を遮光幕や布団状の断熱被覆材等からなる被覆部材Dによって覆うことで、ハウス内の温度低下をさらに効果的に防止することができる。
【0039】
そして、この実施例1の農業用ハウス10では、温度調整用壁面3が高い熱容量を有する蓄熱材3aにより覆われている。そのため、温度調整用壁面3に蓄積可能な熱容量が増大し、この温度調整用壁面3にさらに効果的な温度維持機能を持たせることができる。
【0040】
さらに、実施例1の温度調整用壁面3は、上向きに傾斜している。そのため、広い日光照射面積を確保することができ、蓄熱可能な熱容量が増大し、この温度調整用壁面3にさらに効果的な温度維持機能を持たせることができる。
【0041】
一方、夏期等の高温期においては、図10に示すように、屋根部12に設けた窓部12aを開放すると共に、この窓部12aと上部側壁11の上端部11bとの間から温度調整用壁面3の前面に遮光幕や布団状の断熱被覆材等からなる被覆部材Dを垂らすことで、温度調整用壁面3が高温になることを防止し、農業用ハウス10内の温度上昇を抑制することができる。このように、遮光幕等からなる被覆部材Dを利用することで、温度調整用壁面3を高温期の暑熱対策にも利用することができ、管理コストを抑制しつつ通年で良好なハウス内温度環境を提供することができる。
特に、遮光幕を温度調整用壁面3の前面に垂らす場合には、ハウス内に臨む表側を銀色や白色等の光を反射しやすい色にすることで、害虫の忌避や南面からの光の反射が期待でき、高品質な生産物が期待できる。
さらに、春先や晩秋等の昼間と夜間の気温差が大きい場合では、夜間では図9のように被覆部材Dによって屋根部12を覆い、昼間には図10のように被覆部材Dを温度調整用壁面3の前面に垂らすことで、夜間の保温効果と昼間の昇温防止効果を容易に達成することができる。
なお、被覆部材Dの設置を上段作業道4から行うことで、作業性の向上を図ることができる。その上、上段作業道4に被覆部材Dの支持手段を設ければ、農業用ハウス10にかかる負担を抑えて、農業用ハウス10に破損等が生じることを防止できる。
【0042】
次に、効果を説明する。
実施例1の農業用傾斜地1にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0043】
(1) 設置面(ハウス設置面)2と、該設置面2から立ち上がる壁面(温度調整用壁面)3と、該壁面3の上端部3bから水平方向に連続する上段作業道4と、を有する段差地(農業用傾斜地)1に敷設され、前記壁面3の上端部3bから、鉛直方向に延びる上部側壁11と、前記設置面2に立設されると共に、前記上部側壁11の上端部11bに連結する屋根部12と、を備え、前記壁面3を側壁の一部とする構成とする。
このため、中山間地域において、作業負担を軽減しつつ、コストを抑えながら高付加価値作物を栽培することができる。
【0044】
(2) 前記壁面(温度調整用壁面)3は、蓄熱性を有する高さに設定した構成とする。
これにより、温度調整用壁面3に日光による熱を蓄え、この熱を利用して農業用ハウス10内の温度調整を行うことができる。その結果、冬期の必要となる暖房費を節約することができる。
【0045】
(3) 前記上部側壁11は、前記上段作業道4から前記上部側壁11越しに、前記屋根部12に対する作業を許容する高さに設定した構成とする。
これにより、被覆材10aの着脱等の屋根部12に対する作業を行う際に、上部側壁11が邪魔にならず、円滑に作業を行うことができて、作業性を低下させない。
【0046】
(4) 前記上部側壁11は、換気窓11aを有する構成とした。
これにより、換気窓11aを開閉することで、ハウス内換気を容易に行うことができ、農業用ハウス10内の環境状態の調整を簡単に行うことができる。
【0047】
(5) 前記屋根部12は、前記上部側壁11に沿った部分に開閉可能な窓部12bを設けた構成とした。
これにより、窓部12aを開閉することで、ハウス内換気を効率的に行うことができ、暑熱対策の向上を図ることができる。
【0048】
以上、本発明の農業用ハウスを実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0049】
実施例1の農業用ハウスでは、被覆材10aの着脱作業等の作業負担を軽減するために、図示しない被覆材巻取装置を用いる例を示したが、これに限らない。図11に示す農業用ハウス20のように、被覆材20aを蛇腹状に折りたためる形状にすることで、上段作業道4を作業車S3で走行しながら、この作業車S3によって被覆材20aを開閉ことができる。この場合、ハウス設置面2上に、被覆材20aの下端部を摺動可能に支持するレール20cを設ける。これにより、被覆材20aのスムーズな開閉を行うことができる。
【0050】
また、ハウス設置面2は幅方向に水平でなくともよく、幅方向に沿って緩やかに傾斜していてもよい。この場合、水はけの向上を図ることができる。
【0051】
そして、温度調整用壁面3は、実施例1では南方に面しているため、日光照射時間を長く確保することができ、蓄熱可能な熱量が増大し、この温度調整用壁面3にさらに効果的な温度維持機能を持たせることができる。
一方、温度調整用壁面3を真南方向に対して東西に振れた方向に面することで、夏期の高温期において、温度調整用壁面3が高温になりすぎることを防止することができる。さらには、温度調整用壁面3が北方に面していても、生産する作物によっては好適な生育条件とすることもできる。
すなわち、温度調整用壁面3は、南方に面することで効果的な温度維持機能を持たせることができるが、南方方向には限定されず、栽培作物や気候等に応じて適宜選択することが好ましい。
【0052】
また、図12に示すように、妻側側壁の一方は、傾斜面から立ち上がる壁面を利用し、温度調整用壁面3と同様の構造となっていてもよい。つまり、段差地1に対して直交する方向に立ち上がる壁面Hを有する、いわゆる角部のような位置に、農業用ハウス10を敷設する場合では、段差地1に対して直交する方向の壁面Hを農業用ハウス10の妻側側壁の一方としてもよい。なお、この壁面Hを妻側側壁とした場合には、壁面Hが蓄熱性を有することが好ましいが、蓄熱性を有するものでなくともよい。
【0053】
さらに、このハウス設置面2あるいは傾斜畑5は、果樹栽培だけでなく、稲作を行う水田や、トマト、イチゴ等の果実、花卉を栽培する耕作地、あるいは耕作放棄地であってもよい。また、ハウス設置面2では、鉢花の栽培を行ってもよい。本発明の農業用ハウス10は、栽培する作物の種類は限定されず、あらゆる作物栽培に有効な手段である。
【符号の説明】
【0054】
1 農業用傾斜地(段差地)
1a 幹線道路
2 ハウス設置面(設置面)
3 温度調整用壁面(壁面)
3a 蓄熱材
3b 上端部
4 上段作業道
5 傾斜畑
5a 畑面
5b 畑内作業道
10 農業用ハウス
10a 被覆材
10b パイプ
11 上部側壁
11a 換気窓
11b 上端部
12 屋根部
13 妻側側壁
13a 出入口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置面と、該設置面から立ち上がる壁面と、該壁面の上端部から水平方向に連続する上段作業道と、を有する段差地に敷設され、
前記壁面の上端部から、鉛直方向に延びる上部側壁と、
前記設置面に立設されると共に、前記上部側壁の上端部に連結する屋根部と、を備え、
前記壁面を側壁の一部とすることを特徴とする農業用ハウス。
【請求項2】
請求項1に記載された農業用ハウスにおいて、
前記壁面は、蓄熱性を有する高さに設定したことを特徴とする農業用ハウス。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された農業用ハウスにおいて、
前記上部側壁は、前記上段作業道から前記上部側壁越しに、前記屋根部に対する作業を許容する高さに設定したことを特徴とする農業用ハウス。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された農業用ハウスにおいて、
前記上部側壁は、換気窓を有することを特徴とする農業用ハウス。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載された農業用ハウスにおいて、
前記屋根部は、前記上部側壁に沿った部分に開閉可能な窓部を設けたことを特徴とする農業用ハウス。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−205522(P2012−205522A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72604(P2011−72604)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】