説明

農業用フィルム

【課題】ハウス栽培や、トンネル栽培などの内張り又は外張り用に用いられる、防曇性及び透湿性に優れた農業用フィルムを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルムに、棘状突起を有するニードルにより孔空け加工を行い得られた微細孔を複数有し、透湿度が500(g/m.24hr)以上であることを特徴とする農業用フィルム、又は微細孔を複数有する熱可塑性樹脂フィルムであって、該微細孔の形状が棘部を有する有棘形状であり、500(g/m.24hr)以上の透湿度を有することを特徴とする農業用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウス栽培や、トンネル栽培などの内張り又は外張り用に用いられる農業用フィルム、特に好ましくは防曇性及び透湿性に優れた農業用フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より農作物を促成栽培する方法として、塩化ビニル系樹脂フィルムやオレフィン系樹脂フィルムなどの農業用フィルム被覆下、植物を栽培する、いわゆるハウス栽培やトンネル栽培が盛んに行われている。
【0003】
このようなハウス栽培、トンネル栽培等において、ハウス又はトンネル内の温度、湿度等は作物の成長に大きな影響を与えるため、気候に応じた調整が必要である。
【0004】
特に近年大型化したハウス栽培では、ハウス骨組みに固定展張する外張り用農業フィルムのほかに、ハウス内に、いわゆるカーテン材として、又は作物を更に被覆する形のベタがけ材として、内張り用農業フィルムを用いる方法が行われてきている。
【0005】
特にこの内張り用農業フィルムにおいては、透湿性(通気性)が低いと、暖かい空気中の水蒸気がフィルム内にこもり、作物に多湿障害を与える恐れがある。また、水蒸気はフィルム内面に付着して水滴を形成し、その結果フィルムの透明性が低下する現象も課題での一つであり、透湿性(通気性)や防曇性が必要とされている。
【0006】
また外張り用農業フィルムとしても、防虫・防雨性を有するとともに、通気性(透湿性)を有するフィルムが好ましいが、いまだその通気性をも有する外張り用農業フィルムは得られていない。また、外張り用農業用フィルムにおいては防曇性は重要な性能であり、従来は、ハウス展張時内面に防曇剤をスプレーで塗布する方法や、界面活性剤をフィルム内面に練りこむ方法、その他特殊な無機微粒子を含有する塗布層をフィルム内面に塗布する方法等が取られているが、手間やコストもかかり充分な防曇性を得ることができない。
【0007】
従来、内張り用農業フィルムにおいて、通気性を有する農業用資材としては、不織布が使用されている。しかしながら不織布は通気性に優れる反面、白色の不透明な素材であって、光線透過率が低いという欠点があり、成長に際して日光照射を十分に必要とする作物に対しては、この素材を使用できないという問題があった。
【0008】
一方、合成樹脂フィルムからなる無孔フィルムに通気孔や通水孔を設けた農業フィルムもいくつか提案されている。たとえば特許文献1には、直径が1.5mm以下の通気孔を、通気孔の総面積がフィルム表面積の10〜60%となるよう設けた農業用フィルムが開示されている。また、特許文献2では、内張りカーテン上に外張り被覆材内面に凝縮した水滴が落下して水溜りを形成する、いわゆる金魚鉢現象を解消するために、水抜きの孔として、合成樹脂フィルムに直径1mm以上4mm以下の透孔を面積1m当たり少なくとも1個以上設けた内張りカーテン用の農業用有孔フィルムを開示している。そして、その孔空け方法の一つとして、針で孔をあけるニードルパンチング法も提案されている。
【0009】
しかしながら、従来の孔あけフィルムでは、防水及び保温性を図るためには孔の大きさを小さくする必要があるが、その反面十分な通気が行われないという欠点があり、通気性を確保するために通気孔の大きさを大きくすると、今度は防水防虫効果や、保温効果が低下するという矛盾した問題があった。
【特許文献1】実開平5−74249号公報
【特許文献2】実公平5−10598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかして、本発明の目的は、透明性を低下することなく、透湿性(通気性)、防曇性、防滴付着性があり、かつ保温性や防水防虫効果を有する農業用フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、熱可塑性樹脂フィルムに、特殊な形状のニードルで孔空け加工を行った微細孔を複数有する有孔樹脂フィルムを用いると、上記課題を解決することを見出し、当該発明について特願2005−103837(優先日2004年3月31日)として特許出願した。その後、更に検討を行った結果、有孔樹脂フィルムの透湿度を制御することにより、上記課題を解決できることに加えて、非常に優れた栽培性が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち本発明の要旨は、
(1)熱可塑性樹脂フィルムに棘状突起を有するニードルにより孔空け加工を行い得られた微細孔を複数有し、透湿度が500(g/m.24hr)以上であることを特徴とする農業用フィルム、
(2)微細孔を複数有する熱可塑性樹脂フィルムで形成された農業用フィルムであって、該微細孔の形状が棘部を有する有棘形状であり、500(g/m.24hr)以上の透湿度を有することを特徴とする農業用フィルム、
(3)熱可塑性樹脂フィルムの片面又は両面側から、棘状突起を有するニードルにより孔空け加工を行い得られた微細孔を複数有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の農業用フィルム、
(4)フィルムの両面に微小突起を有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1に記載の農業用フィルム、
(5)該熱可塑性樹脂フィルムを構成する樹脂が、塩化ビニル系樹脂又はオレフィン系樹脂であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1に記載の農業用フィルム、
(6)該熱可塑性樹脂フィルムが、少なくとも外層、中間層、内層を有する三層以上の多層構成からなる樹脂フィルムであり、外層及び/又は内層を構成する樹脂が、メタロセン系ポリエチレン樹脂を少なくとも含むことを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1に記載の農業用フィルム、及び
(7)スポット穿孔により得られる孔を更に有する、(1)〜(6)のいずれか1に記載の農業用フィルム、
に存する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、透明性を低下することなく、透湿性(通気性)、防曇性、防滴付着性があり、かつ保温性や防水防虫効果を有し、更に、優れた栽培性をもたらす農業用フィルムを得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明の農業用フィルム(透湿性フィルム、防曇性フィルム)は、熱可塑性樹脂フィルムに微細な孔を複数設けた有孔樹脂フィルムである。
【0016】
熱可塑性樹脂フィルムを構成する樹脂としては、例えば塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン、エチレンー酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、フッ素樹脂などの、従来農業用フィルム、透湿性フィルム、防曇性フィルムの材料として知られている任意の公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。好ましくは、軟質である、塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。
【0017】
ポリオレフィン系樹脂としては、α−オレフィン系の単独重合体、α−オレフィンを主成分とする異種単量体との共重合体、α−オレフィンと共役ジエンまたは非共役ジエン等の多不飽和化合物、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニル等との共重合体などがあげられ、例えば高密度、低密度または直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体等が挙げられる。これらのうち、密度が0.910〜0.935の低密度ポリエチレンやエチレン−α−オレフィン共重合体および酢酸ビニル含有量が30重量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体が、透明性や耐候性および価格の点から農業用フィルムとして好ましい。
【0018】
本発明においては、熱可塑性樹脂フィルムを構成する樹脂の少なくとも一成分として、メタロセン系ポリエチレン樹脂、即ちメタロセン触媒で共重合して得られるエチレン−α−オレフィン共重合樹脂を使用することが好ましい。これは、通常、メタロセンポリエチレンといわれているものであり、エチレンとブテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテンなどのα−オレフィンとの共重合体であり、公知の製法により得られる。
【0019】
メタロセン系ポリエチレン樹脂としては、更に以下の物性を示すものを用いるのが好ましい。JIS−K7210により測定されたMFRが0.01〜10g/10分、好ましくは0.1〜5g/10分の値を示し、JIS−K7112により測定された密度が0.880〜0.930g/cm、好ましくは0.880〜0.920g/cmの値を示し、ゲルパーミュレーションクロマトグラフィー(GPC)によって求められる分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は1.5〜3.5、好ましくは1.5〜3.0の値を示すメタロセン系ポリエチレン樹脂。
【0020】
本発明においては、基体フィルムである熱可塑性樹脂フィルムは、単層から構成されていてもよく、2以上の層から構成されている多層フィルムであってもよい。
【0021】
本発明における農業用フィルムの好ましい態様としては、ポリオレフィン系樹脂組成物からなる基体フィルムを、展張時に外側となる外層、中間層、内層の少なくとも3層以上からなる多層フィルムとすることが挙げられる。また、展張時に外側となる外層、又は外層と内層の樹脂成分として、メタロセン触媒で共重合して得られるエチレン−α−オレフィン共重合樹脂を45重量%以上100重量%以下、好ましくは55重量%以上95重量%以下含有する樹脂組成物を用い、中間層又は、中間層と内層に、エチレン−酢酸ビニル共重合体を45重量%以上100重量%以下、好ましくは55重量%以上98重量%以下含有する樹脂組成物を用いることが好ましい。また、本発明においては、外層、中間層、及び内層の樹脂成分として、メタロセン触媒で共重合して得られるエチレン−α−オレフィン共重合樹脂を45重量%以上100重量%以下、好ましくは55重量%以上95重量%以下含有する樹脂組成物を用いることもできる。
【0022】
ここでいう外層とは、農業用フィルムとして使用時に外側となる層を意味し、内層とは使用時に内側となる層を意味する。
【0023】
多層構成の樹脂フィルムの製造方法としては、特に限定されずに公知の製造方法を使用することができ、多層構成の層厚さ比は特に限定されないが、例えば3層構成の場合には、成形性や透明性及び強度の点から1/0.5/1〜1/5/1の範囲が好ましく、1/2/1〜1/4/1の範囲がより好ましい。また、外層と内層の比率としては、特に規定されるものではないが、得られるフィルムのカール性から同程度の比率とするのが好ましい。
【0024】
熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、10〜1000μm、好ましくは20〜200μmであることが好ましい。薄すぎると、孔空け後のフィルムの強度が不十分となりやすい。一方、厚すぎると、孔空け加工が難しくなるので好ましくない。
【0025】
本発明に用いる熱可塑性樹脂フィルムには、その他、その用途に応じた任意の公知の添加剤を配合することが可能である。例えば、可塑剤、紫外線防止剤、光安定剤、保温剤、滑剤その他種々の添加剤が挙げられる。
【0026】
また、本発明の農業用フィルムは、それ以外の塗膜を形成することが出来る。例えば防塵性塗膜をフィルム外層の上に形成しても良いし、更なる防曇塗膜をフィルム内層の上に形成すると、本発明の微細孔による効果と相乗効果をもたらし、好適な防曇効果が得られる。防曇塗膜としては、農業用フィルムの塗布防曇塗膜として公知の種々の塗膜を採用できるが、好ましくは例えば、シリカゾル及び/又はアルミナゾル等の無機質コロイドゾルと、熱可塑性樹脂等のバインダー樹脂を主成分とする組成物等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、疎水性又は親水性のアクリル樹脂、ウレタン樹脂などを挙げることができる。
【0027】
本発明を適用する農業用フィルムとしては、ハウス栽培又はトンネル栽培における内張り用又は外張り用フィルム、植物にそのまま被覆するベタがけフィルム、その他マルチフィルムや育苗用マット等が挙げられるが、特に内張り用又は外張り用フィルムが好ましくあげられる。
【0028】
本発明は、該熱可塑性樹脂フィルムに設けられた微細孔が特殊な微細孔であることを特徴とする。この特殊な微細孔は、具体的には、主に不織布や織物、人工皮革の風合い加工用として使用される機械であるニードルプリッカー加工法を応用した、特殊な針による穿孔法により得られるものである。
【0029】
具体的には、図1に概略図を示すように、ニードル(針)の外周部に1以上の微少な棘1cを有する特殊形状のニードル1を熱可塑性樹脂フィルムに突き刺すことにより得られる。
【0030】
図1は、ニードル1の拡大図であり、図1aは正面図、図1bは側面図を示す。ニードル1は、基部1aから先端部に向けて、尖っており、その先端部には微少幅(W)の切刃1bがある。この先端部の微少幅は、樹脂フィルムに形成される孔の基本部分の大きさに関係するため、好ましくは、10μm〜300μm、更に好ましくは30μm〜150μmであると良い。
【0031】
また、本発明に用いる特殊なニードル1は、先端近くのニードル外周の一部に、微少な棘1cを1以上、好ましくは2以上設けている。棘は、ニードルの軸に対し略直角の方向に突き出しており、棘の形状も基から先端に向けて尖った形をしていればよく、棘1cは、例えばニードルの先端部から300〜1000μmの位置に一つと、800〜2000μmの位置に設けられることが好ましい。棘1c自体の長さは、1μm〜300μmの範囲が好ましい。
【0032】
これらの棘を有するニードル1は、図2に示すように、好ましくはロール体2に複数取付けられたニードルロール2を形成し、平面上若しくは、他のロール体に巻きつけられた被加工用の熱可塑性樹脂フィルム3に対し、そのニードルロールを押付け回転することにより、複数の微細孔を熱可塑性樹脂フィルムに形成することが可能となる。なお、必要な微細孔の数や間隔に応じて、樹脂フィルム3に対して複数のニードルロールによる加工を行ったり、樹脂フィルムを複数回ニードルロールに押し当て加工する方法を採用してもよい。なお、本発明の好ましい態様の1つとしては、後述するように、樹脂フィルムに対して、両面側から孔空け加工を行う方法が、フィルムのカール性を軽減する上で好ましく挙げられる。この場合、両面加工は同時に行ってもよいが、通常、片方の面ごとに孔空け加工を行う方法の方が簡便である。
【0033】
図3はこのような特殊な形状のニードルにより、熱可塑性樹脂フィルムに設けられた個々の微細孔の形状の概略図を示すものである。微細孔の形状は、顕微鏡等の拡大手段により確認可能である。本発明のフィルムに形成された微細孔4の形状は、棘1cの存在により、通常のニードルにより形成される円形の孔形状ではなく、図3の概略図に示すように、基本孔4aとその周囲に微少の棘状切欠き部4bを1以上有する形状となる。ここで、基本孔4aの形状は種々の形をとることができ限定されるものではない。非限定的な例として、図3に示すような略円形や、略三角形や略四角形等の多角形等が挙げられる。また、該棘状切欠き部は1以上、好ましくは2以上形成され、使用したニードル1に設けられた棘1cの数と同じ又は棘1cの数以上となる場合が多い。
【0034】
本発明の優れた防曇効果や透湿効果が得られるメカニズムは定かではないが、このように間隙が大きな基本孔部分と、間隙が小さい棘状切欠き部が連結して形成された形状の相乗効果により得られるものと推察される。
【0035】
該微細孔の大きさとして、基本孔4aが略円形の場合は、その最大直径が少なくとも500μm以下、好ましくは200μm以下、また最小直径が10μm以上、好ましくは20μm以上であることが好ましい。また、基本孔4aが略四角形の場合は、その最大辺長さが少なくとも500μm以下、好ましくは200μm以下、また最小辺長さが10μm以上、好ましくは20μm以上であることが好ましい。更に棘状切欠き部4bの長さは好ましくは100μm以下〜0.05μm以上、更に好ましくは50μm以下〜0.1μm以上あるとよい。
【0036】
図5には、本願発明の微細孔を複数設けたフィルムの概念図を示している。
【0037】
また、棘を有するニードルは、樹脂フィルムに突き刺し引き抜く際に、棘が切欠き部の周りの片を引っ掛けて、突き刺した方向へ棘状切欠き部4bの周りの切片4cを突き出す作用も有する。従って、本発明による特殊なニードル穿孔法により得られる微細孔を複数有するフィルムは、そのフィルム断面を見た場合に特殊な形状を有する。
【0038】
すなわち、本発明のフィルムに設けられた微細孔の横断面図の概略イメージ図を図4に示すが、樹脂フィルム3のうち、微細孔の棘状切欠き部4bの周囲の一部切片4cは、ニードル1を突き刺した方向に若干突出した、微小な突起形状を有する。かかる微小突起は、図4に示すように切片4cがそれぞれ開いた形状であってもよく、また切片4cが部分的或いは全体的に重なり合って形成される凸状の突起であってもよい。
【0039】
その結果、本発明の微細孔を有するフィルムは、ニードルを突き刺した側のフィルム表面(図4中P)の表面粗さRa1が、反対側のフィルム表面(図4中Q)粗さRa2に比べて、Ra1<Ra2という関係を有する。この場合Ra1は、元のフィルムに由来する表面粗さに近い。また、表面粗さRa2は、フィルム厚さによっても異なるが、フィルム厚さ(Ha)に対し、ニードルを突き刺した方向へのフィルム表面の突出高さ(Hc)が、Hc/Ha=0.4〜2、好ましくは0.5〜1程度となる程度の表面粗さである。
【0040】
本発明の農業用フィルムを用いる際に、基本的にはこのフィルムのどちらの面を内側にして利用してもよいが、好ましい使用方法としては、防曇性を有する面側、又は多湿側に、表面粗さが粗い面(Ra2)を配すると好ましい効果が得られる。
【0041】
他方、本発明の農業用フィルムの他の好ましい態様としては、熱可塑性樹脂フィルムに対して、両面側から、ニードルの突き刺し加工を行った両面孔空け加工フィルムを用いることが挙げられる。両面側から孔空け加工を行うことにより、フィルムが一方方向に丸まってしまうカール性を低減することができる。また、両面からの孔空け加工は、同じ条件であってもよいし、異なる条件(孔の大きさ、密度)を採用してもよい。
【0042】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムに設けられる複数の微細孔の単位面積当たりの数としては、設ける孔の面積にもより異なるが、好ましい防曇性及び透湿性を示しかつ他の物性を満たすために、1平方インチ(6.45cm)あたり600〜8000個(即ち、1cmあたり90〜1250個)の範囲、更に好ましくは1平方インチあたり800〜6000個(1cmあたり120〜930個)、更により好ましくは800〜4000(1cmあたり120〜620個)設けることが好ましい。
【0043】
本発明においては、基本孔部分と棘状切欠き部が連結して形成された形状の微細孔がフィルム単位面積当たりに占める総面積を好適に制御することにより、優れた栽培性を得ることができる。ここで、単位面積当たりの微細孔の総面積は、前述した好適な微細孔の大きさと単位面積当たりの数により表すこともできる。その例として、基本孔が略円形の場合は、直径が500μm〜10μmの微細孔が1平方インチあたり600〜8000個の範囲にある場合、基本孔が略四角形の場合は、その最大辺長さが500μm以下、最小辺長さが10μm以上である微細孔が1平方インチあたり600〜8000個の範囲にある場合等が挙げられる。
【0044】
一方、前述のとおり、本発明においては、熱可塑性樹脂フィルムの両面側から孔空け加工を行うことができ、また、複数のロールで孔空け加工も行い得ることから、熱可塑性樹脂フィルムの同一の部位で複数回孔空け加工が行われ得る。かかる場合には、得られた微細孔の大きさと単位面積あたりの微細孔の数だけではフィルムの単位面積当たり微細孔が実質的に占める総面積が適切に表現されない場合もある。このような場合であっても、孔空け加工して得られたフィルムの透湿度が、フィルム単位面積当たりの微細孔の総面積を好適に表現できる。本発明においては、透湿度はJIS L1099−1993の塩化カルシウム法で測定するのが好ましい。
【0045】
本発明における農業用フィルムの透湿度は、好ましくは500(g/m.24hr)以上、更に好ましくは1000(g/m.24hr)以上である。透湿度が500未満であると、後述するとおり栽培性において有意な向上効果を得ることができない。一方、透湿度を上げると、空気の換気の程度(後述する換気率)が増大する結果、良好な栽培性をもたらすため、透湿度が高いほど好ましい。しかしながら、透湿度をあまりに高くすると、有孔樹脂フィルムの強度が低下する懸念があることから、好ましくは20000以下、更に好ましくは16000以下、更により好ましくは12000以下とするのがよい。
【0046】
また、本発明の農業用フィルムは、従来のニードルパンチング法等を用いてスポット的に穿孔して得られる比較的大きな孔(通常mm単位の孔)を有することもできる。この場合は、mm単位の孔を設けた後のフィルムが前記範囲の透湿度を有する。
【0047】
また、本発明の農業用フィルムは、更に透明性を有することが好ましい。具体的には、微細孔を複数有するフィルムの555nmにおける全光線透過率が70%以上、好ましくは75%以上であることが好ましい。この値は周知の測定法により測定することができる。
【0048】
また、本発明においては、夏場の遮光を目的とした、近赤外線吸収剤を含む層を有する遮光性農業用フィルム(例えば、特開2000−14255号を参照)に、ニードルプリッカー法を適用して有孔樹脂フィルムを得ることもできる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明に基づいて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の例に限定されるものではない。
【0050】
(1)基体フィルムの調製
試験用の熱可塑性樹脂フィルムとして、下記のポリオレフィン系樹脂(三層インフレーションダイにて三層構成としたもの)を用いた積層フィルム(0.05mm厚)を基体フィルムとして使用した。
【0051】
基体フィルム:外層樹脂及び内層樹脂として、メタロセン触媒により製造されたポリエチレン樹脂(MePE)を主成分(90重量%)とするポリエチレン樹脂、中間層樹脂として酢酸ビニル含有量15重量%の酢酸ビニル系樹脂を用い、各種添加剤として、保温剤(ハイドロタルサイト)、紫外線吸収剤、光安定剤を適量含有したフィルムを基体フィルムとして用いた。
【0052】
(2)ニードル加工方法
上記基体フィルムに対し、図2に示すようなロール上に複数付けられた図1に示す形状のニードルプリッカー針による穿孔法により、実施例として1平方インチ当たり800個(実施例1)、1000個(実施例2)、2000個(実施例3)の孔を形成できるように、両面に穿孔処理を施したフィルムを用意した。
【0053】
また比較例として、上記基体フィルムにニードルプリッカ−による穿孔を行わなかったフィルム1(比較例1)、1平方インチ当たり100個(比較例2)、400個(比較例3)の孔を形成できるように、穿孔処理を施したフィルム、上記基体フィルムに通常の熱溶融針を用いて、2mm径の孔を、10cm×10cmに1つの間隔でスポット的に穿孔したフィルム(比較例4)を用意した。
【0054】
(3)評価方法
得られた各フィルムについて、次のような評価試験を行った。
1.透明性試験
実施例又は比較例で得られたフィルムの、555ミリミクロンにおける直光線透過率及び全光線透過率を分光光度計(日立製作所U−2000型)によって測定し、その値を示した。
2.透湿度
JIS L1099−1993に記載されている塩化カルシウム法により、実施例及び比較例で得られたフィルムの透湿度を測定した。
3.換気率の測定
次にフィルムの通気性の尺度として換気率を以下の方法により測定した。
ガラス容器(長さ400mm×幅200mm×高さ300mm)上面にフィルムを張り、容器内のCO濃度の経時変化を計測することによって換気回数(回h−1)を求めた。換気回数をフィルム面積で除することによって換気率(m−2−1)を求めた。測定時は容器内外とも無風状態であった。
N=―(lnC−lnC)/(t−t
N:換気回数(回h−1
:時刻tにおけるチャンバー内外CO濃度差(molmol−1
:時刻tにおけるチャンバー内外CO濃度差(molmol−1
換気率(m−2−1)=換気回数(回h−1)/フィルム表面積(m
4.植物栽培試験
MKVプラテック社の試験場に構築した1m×2mのトンネルに実施例及び比較例で得たフィルムを被覆して、栽培試験を行った。平成16年12月に試験を開始し、平成17年3月に収穫し収穫時の生体重量を測定した。栽培した植物は、水菜、チンゲン菜、蕪、ほうれん草、春菊である。栽培した植物の生育の程度と、収穫した植物の生体重量の総重量を栽培試験結果として評価した。
【0055】
【表1】

実施例1〜3及び比較例1〜4で得られたフィルムを用いて、上記1〜4の評価試験を行った結果を表1に示す。表1が示すとおり、本発明の農業用フィルムは、透明性が高く、通気性の尺度としての換気率が従来のスポット穿孔フィルムより高い値を示し、更に栽培性は顕著に優れている。
【0056】
(5)フィルムの熱貫流率の測定
上記の評価結果が示すとおり、本発明の農業用フィルムは、通気性が高いことに加えて、通常の無孔フィルム(比較例1)に比較しても栽培性が非常に優れている。このことは、本発明の農業用フィルムは、微細孔を通じて空気の出入りの頻度が高く作物の代謝を高めることができると同時に、従来の無孔フィルムと同等程度の保温性を有していることが予測される。この点を明らかにするために、フィルムの保温性の尺度として、図6に示す簡易測定装置を用いてフィルムの伝導による熱貫流率を測定した。通気した2つの断熱容器を繋げた。2つの容器間での熱の移動は容器の境に張られたフィルムを介してのみ行われる。片方の容器には発熱量が既知のランプを設置した。断熱容器の流入口と流出口の気温を測定し、定常になったときの気温から熱貫流率を求めた。
熱貫流率(Jm−2−1―1)={流量(m−1)×流入出口の気温差(℃)×熱容量(Jm−3―1)÷両容器内の気温差(℃)}÷フィルム面積(m
【0057】
実施例3と比較例1で得られたフィルムを用いて上記方法により熱還流率を測定した。
【0058】
また、フィルムの換気による熱貫流率は、前記で求めた換気率を用いて次の式で得ることができる。
換気による熱貫流率(Jm−2−1―1)=換気率(m−2−1)×空気の熱容量(Jm−3―1
上記試験方法で得られた結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

表2から分かるとおり、本発明の微細孔を有する農業用フィルムは、驚くべきことに、無孔フィルムとほとんど同じレベルの伝導による熱貫流率を有しており、更に、換気による熱貫流率は伝導による熱貫流率に比べて無視し得るほど値が小さい。このことから、本発明の農業用フィルムは、特定の微細孔を設けることにより微細孔を通して空気の換気レベルを高めるとともに、微細孔からの熱の散逸が非常に小さいために無孔フィルムと同等の保温性を有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1a】本発明の微細孔を形成するための棘状突起を有するニードルの正面図を示す図
【図1b】本発明の微細孔を形成するための棘状突起を有するニードルの側面図を示す図
【図2】本発明の微細孔を形成するためのニードルによるフィルム加工の概念図
【図3】本発明の熱可塑性樹脂フィルムに形成された微細孔の孔形状を示す概念図
【図4】本発明の熱可塑性樹脂フィルムに形成された微細孔の孔形状の横断面を示す概念図
【図5】本発明の、棘部を有する有棘形状の微細孔を複数有する熱可塑性樹脂フィルムを示す概念図
【図6】熱貫流率測定装置の概略図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルムに棘状突起を有するニードルにより孔空け加工を行い得られた微細孔を複数有し、透湿度が500(g/m.24hr)以上であることを特徴とする農業用フィルム。
【請求項2】
微細孔を複数有する熱可塑性樹脂フィルムで形成された農業用フィルムであって、該微細孔の形状が棘部を有する有棘形状であり、500(g/m.24hr)以上の透湿度を有することを特徴とする農業用フィルム。
【請求項3】
熱可塑性樹脂フィルムの片面又は両面側から、棘状突起を有するニードルにより孔空け加工を行い得られた微細孔を複数有することを特徴とする請求項1又は2に記載の農業用フィルム。
【請求項4】
フィルムの両面に微小突起を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の農業用フィルム。
【請求項5】
該熱可塑性樹脂フィルムを構成する樹脂が、塩化ビニル系樹脂又はオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の農業用フィルム。
【請求項6】
該熱可塑性樹脂フィルムが、少なくとも外層、中間層、内層を有する三層以上の多層構成からなる樹脂フィルムであり、外層及び/又は内層を構成する樹脂が、メタロセン系ポリエチレン樹脂を少なくとも含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の農業用フィルム。
【請求項7】
スポット穿孔により得られる孔を更に有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の農業用フィルム。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−89493(P2007−89493A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284137(P2005−284137)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000176774)三菱化学エムケーブイ株式会社 (29)
【出願人】(504129629)中野機工株式会社 (1)
【Fターム(参考)】