説明

農業用フィルム

【課題】ヒンダードアミン系光安定化剤を用いたとしても、黄変及び臭気の発生が抑制され且つ優れた耐候性及び耐農薬性を有する農業用フィルムを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂、下記一般式(I)で示される基を少なくとも1個有するヒンダードアミン系光安定化剤、及び紫外線吸収剤を含有することを特徴とする農業用フィルム。本発明の農業用フィルムは、光や熱の影響による黄変の発生及び臭気の発生が高く抑制され、酸性雨や農薬を始めとする酸性条件下で長期間に亘って使用されたとしても機械的強度を高く維持することができ耐候性及び耐農薬性に優れる。


(式中、R1は炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数2〜18のアルケニル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物の栽培施設に使用される農業用フィルムに関し、特に、黄変及び臭気の発生が抑制され且つ優れた耐候性及び耐農薬性を有する農業用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、農作物を栽培する手段として、農業用ハウスを用いたハウス栽培が盛んに行なわれている。上記ハウス栽培においては、農業用ハウスによって、ハウス内を農作物の生育に適した条件にしたり、風雨から農作物を守ったり、石や埃などの飛来物による農作物の損傷を防いだりすることができる。
【0003】
農業用ハウスは、ハウスの骨組みに農業用フィルムを展張して被覆することにより形成され、ここで用いられる農業用フィルムとしては、従来、ポリ塩化ビニルフィルムが多く用いられてきた。しかしながら、近年では、環境への安全性の配慮から、ポリエチレン系樹脂フィルムやエチレン酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂フィルムが多く使用されるようになっている。
【0004】
農業用フィルムには、屋外で使用されても長期間に亘って当初の性能を維持できることが求められている。しかしながら、酸性雨や農薬を始めとする酸性条件下に曝されると、農業用フィルムの機械的強度が低下し、耐候性及び耐農薬性が十分でない問題があった。
【0005】
そこで、従来の農業用フィルムでは、分子中にトリアジン骨格を有するヒンダードアミン系光安定化剤や紫外線吸収剤を用いることにより、耐候性及び耐農薬性を向上させている。このようなヒンダードアミン系光安定化剤としては、例えば、BASFジャパンから販売されている製品名TINUVIN NOR 371、CHIMASSORB 944などが知られている。また、紫外線吸収剤としては、BASFジャパから販売されている製品名TINUVIN 326やCHIMASSORB 81が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4167522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のヒンダードアミン系光安定化剤及び紫外線吸収剤を用いた農業用フィルムでは、光や熱の影響により経時的に黄色に変色する問題があった。黄変した農業用フィルムは、外観性が損なわれるだけでなく、光の透過率が低下するために農作物の成育を遅れさせる。さらに、従来の農業用フィルムは、分子中にトリアジン骨格を有するヒンダードアミン系光安定化剤に由来する独特の臭気を発生する問題があった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、ヒンダードアミン系光安定化剤及び紫外線吸収剤を用いたとしても黄変及び臭気の発生が抑制され、且つ優れた耐候性及び耐農薬性を有する農業用フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の農業用フィルムは、熱可塑性樹脂、及び下記一般式(I)で示される基を少なくとも1個有するヒンダードアミン系光安定化剤、及び紫外線吸収剤を含有することを特徴とする。
【化1】


(式中、R1は炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数2〜18のアルケニル基である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の農業用フィルムでは、上述したヒンダードアミン系光安定化剤を紫外線吸収剤と組み合わせて用いることにより、光や熱の影響による黄変の発生が高く抑制され、酸性雨や農薬を始めとする酸性条件下で長期間に亘って使用されたとしても機械的強度を高く維持することができ耐候性及び耐農薬性に優れる。また、本発明の農業用フィルムは、臭気の発生も高く抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ヒンダードアミン系光安定化剤]
ヒンダードアミン系光安定化剤とは、2位および6位が各々2個のアルキル基で置換されているピペリジン環、すなわちヒンダードピペリジン環を有する化合物を意味する。
【0012】
本発明の農業用フィルムに用いられるヒンダードアミン系光安定化剤は、下記一般式(I)で示される基を少なくとも1個有する。
【化2】


(式中、R1は炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数2〜18のアルケニル基である。)
【0013】
上記R1における炭素数1〜18のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、及びオクタデシル基などが挙げられる。
【0014】
上記R1における炭素数2〜18のアルケニル基としては、アリル基、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、4−ヘキセニル基、及び5−ヘキセニル基などが挙げられる。
【0015】
ヒンダードアミン系光安定化剤は、1分子中に上記一般式(I)で示される基を少なくとも1個有し、主鎖がポリオレフィン系樹脂からなるのが好ましい。
【0016】
主鎖を構成するポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、1−ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン−1などのホモポリマ−、エチレンとα−オレフィンとを共重合して得られるエチレン共重合体が挙げられる。α−オレフィンとしては、例えばプロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−オクタデセンなどの炭素数3〜18のα−オレフィンが用いられる。エチレン共重合体としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、エチレン系エラストマー、プロピレン系エラストマー、イソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレンおよび高圧法低密度ポリエチレンなどが挙げられる。
【0017】
ポリオレフィン系樹脂は、架橋されているのが好ましい。ポリオレフィン系樹脂を架橋する方法としては、ポリオレフィン系樹脂にγ線やX線などの電離性放射線を照射してポリオレフィン系樹脂を架橋させるか、あるいは、架橋剤として塩化アルミニウム又はフッ化窒素などの無機化合物や、t−ブチル−クミル−パーオキサイド、ジクミル−パーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、又はアセチレンパーオキサイドなどの有機過酸化物を用いて、ポリオレフィン系樹脂を化学的に架橋させることにより得られる。なかでも、有機過酸化物を用いることにより架橋されたポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0018】
ヒンダードアミン系光安定化剤の重量平均分子量Mwは、1,000以上が好ましく、
4,000〜10,000がより好ましく、5,000〜8,000が特に好ましい。重量平均分子量Mwが1,000未満であるヒンダードアミン系光安定化剤では、ブリードアウトして農業用フィルムを長期間に亘って使用できなくなる恐れがある。
【0019】
なお、本発明においてヒンダードアミン系光安定化剤の重量平均分子量Mwの測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いた一般的な方法により測定することができる。例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、下記条件で標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0020】
測定条件:
装置 :D5280 LCS M−PDA(株式会社島津製作所製)
カラム :Shim−pack GPC−80M(株式会社島津製作所製)
サンプル濃度:0.1g/l(テトラヒドロフランで希釈)
移動相溶媒 :テトラヒドロフラン
流速 :1ml/min
カラム温度 :40℃
【0021】
特に好ましいヒンダードアミン系光安定化剤は下記構造を有し且つ主鎖がポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
【化3】


(式中、R1は上記一般式(I)と同じ定義である。)
【0022】
上記一般式(I)で示される基を少なくとも1個有するヒンダードアミン系光安定化剤は、市販品を用いることもできる。例えば、Clariant社製 Hostavin NOWなどが挙げられる。
【0023】
農業用フィルムにおける上記一般式(I)で示される基を少なくとも1個有するヒンダードアミン系光安定化剤の含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部が好ましく、0.1〜1重量部がより好ましい。ヒンダードアミン系光安定化剤の含有量が0.01重量部未満であるとヒンダードアミン系光安定化剤による十分な効果が得られない恐れがある。また、ヒンダードアミン系光安定化剤の含有量が5重量部を超えると農業用フィルムの初期透明性が低下する恐れがある。
【0024】
また、農業用フィルムは、上記一般式(I)で示される基を少なくとも1個有するヒンダードアミン系光安定化剤の他に、これとは構造が異なる他のヒンダードアミン系光安定化剤を少量であれば含んでいてもよい。他のヒンダードアミン系光安定化剤としては、従来公知のものが用いられ、例えば、BASFジャパン製 TINUVIN NOR371、及びCHIMASSORB 944などが用いられる。
【0025】
農業用フィルムにおける他のヒンダードアミン系光安定化剤の含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.5重量部以下が好ましく、0.1重量部以下がより好ましく、0.01〜0.1重量部が特に好ましい。
【0026】
[紫外線吸収剤]
本発明の農業用フィルムは、紫外線吸収剤をさらに含む。上述したヒンダードアミン系光安定化剤に紫外線吸収剤を組み合わせても、黄変及び臭気の発生がより高く抑制された農業用フィルムを提供することができる。
【0027】
紫外線吸収剤としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、5,5’−メチレンビス(2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン)等のベンゾフェノン系;2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−ジ−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−t−オクチル−6−ベンゾトリアゾリル)フェノール等のベンゾトリアゾール系;フェニルサリシレート、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4−ジ−t−ブチル−フェニル−3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート、2,4−ジ−t−アミルフェニル−3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート系;2−エチル−2’−エトキシオキザニリド、2−エトキシ−4’−ドデシルオキザニリド等の置換オキザニリド系;エチル−Α−シアノ−Β,Β−ジフェニルアクリレート、メチル−2−シアノ−3−メチル−3−(P−メトキシフェニル)アクリレート等のシアノアクリレート系;2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール等のトリアジン系などが挙げられる。これらの紫外線吸収剤は、一種のみを用いてもよく、二種以上を併用して用いてもよい。
【0028】
なかでも、紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤を用いるのが好ましい。上述した一般式(I)で示されるヒンダードアミン系光安定化剤とベンゾフェノン系紫外線吸収剤とを含む農業用フィルムでは、黄変及び臭気の発生がより高く抑制される。
【0029】
農業用フィルムにおける紫外線吸収剤の含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部が好ましく、0.1〜1重量部がより好ましい。紫外線吸収剤の含有量が0.01重量部未満であると紫外線吸収剤による十分な効果が得られない恐れがある。また、紫外線吸収剤の含有量が5重量部を超えると農業用フィルムの初期透明性が低下する恐れがある。
【0030】
[酸化防止剤]
本発明の農業用フィルムは、酸化防止剤をさらに含んでいるのが好ましい。酸化防止剤を用いることにより、黄変及び臭気の発生がより高く抑制された農業用フィルムを提供することができる。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、及びホスファイト系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤は、一種のみが用いられてもよく、二種以上を併用して用いてもよい。
【0031】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、チオジエチレン−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどが好ましく挙げられる。
【0032】
硫黄系酸化防止剤としては、例えば、チオジプロピオン酸ジラウリル、ジミリスチル、ジステアリル等のジアルキルチオジプロピオネート及びペンタエリスリトールテトラ(β−ドデシルメルカプトプロピオネート)等のポリオールのβ−アルキルメルカプトプロピオン酸エステルが挙げられる。
【0033】
ホスファイト系酸化防止剤としては、例えば、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス〔2−t−ブチル−4−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニルチオ)−5−メチルフェニル〕ホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、ジ(デシル)モノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノ(ジノニルフェニル)ビス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジ(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)イソプロピリデンジフェノールジホスファイト、テトラ(トリデシル)イソプロピリデンジフェノールジホスファイト、テトラ(C1215混合アルキル)−4,4’−n−ブチリデンビス(2−t−ブチル−5−メチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)−1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタントリホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ビフェニレンジホスホナイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)( オクチル) ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレン−ジ−ホスホナイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。
【0034】
なかでも、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく挙げられ、2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール及びペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)がより好ましく挙げられる。これらのヒンダードフェノール系酸化防止剤によれば、黄変及び臭気の発生が特に高く抑制された農業用フィルムを提供することができる。
【0035】
農業用フィルムにおける酸化防止剤の含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部が好ましく、0.01〜1重量部がより好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量が0.01重量部未満であるとヒンダードフェノール系酸化防止剤による十分な効果が得られない恐れがある。また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量が5重量部を超えると農業用フィルムの初期透明性が低下する恐れがある。
【0036】
[赤外線吸収剤]
本発明の農業用フィルムは、層間に多量体酸素酸イオンを含む複合水酸化物をさらに含んでいるのが好ましい。このような複合水酸化物を用いることにより、黄変及び臭気の発生が高く抑制されるとともに保温性が付与された農業用フィルムを提供することができる。
【0037】
層間に多量体酸素酸イオンを含む複合水酸化物として、具体的には、下記一般式(1)又は(2)で示される化合物のうち少なくとも一種が挙げられる。

式(1):[{Mgy12+y21-xAlx(OH)2x+・[(A’)z1・(B)z2・bH2O]x-

(式中、M2+はCa、Ni及びZnから選ばれる1種以上の2価金属イオンを示し、A’は珪素系、燐系、硼素系多量体酸素酸イオンの少なくとも1種であることを示し、BはA以外のアニオンの少なくとも1種を示し、x、y1、y2、z1、z2、bは下記条件を満足する;0<x≦0.5、y1+y2=1、y1≦1、y2<1、0<z1、0≦z2、0≦b<2)

式(2):[{Liy12+y2}Al2(OH)6x+・[(A’)z1・(B)z2・bH2O]x-

(式中、G2+はMg、Ca、Ni及びZnから選ばれる1種以上の2価金属イオンを示し、A’は珪素系、燐系、硼素系多量体酸素酸イオンの少なくとも1種であることを示し、BはA’以外のアニオンの少なくとも1種を示し、y1、y2、x、z1、z2、bは下記条件を満足する;0<y1≦1、0≦y2≦1、0.5≦(y1+y2)≦1、x=y1+2y2、0<z1、0≦z2、0≦b<5)
【0038】
式(1)で表される複合水酸化物としては、例えば、商品名マグクリスタ(協和化学工業社製)等が挙げられる。また、式(2)で表される複合水酸化物としては、例えば、商品名フジレイン(富士化学工業社製)等が挙げられる。なお式(1)及び(2)の複合水酸化物は、WO 00/32515号公報、WO 97/00828号公報に記載の方法により製造することができる。
【0039】
本発明で用いられる複合水酸化物の層間に含まれる多量体酸素酸イオンとは、酸素酸が縮合してなるイオンであり、例えば、珪素系、燐系、硼素系などの酸素酸の縮合物が挙げられる。
【0040】
本発明で用いられる層間に多量体酸素酸イオンを含む複合水酸化物(1)または(2)において、アニオン種(A’)は珪素系、燐系、硼素系多量体酸素酸イオンの少なくとも1種であり、例えば、珪素系多量体酸素酸イオンとしては、Si252-、Si372-、Si492-、Si5112-などの(Sin2n+12-、(HSi25-、(HSi37-、(HSi49-などの(HSin2n+1-などが挙げられる(nは2以上の整数)。
【0041】
また、燐系多量体酸素酸イオンとしては、P353-、P4124-などの(Pn3nn-(nは3以上の整数)、P274-、P3105-、あるいは(H2272-のように燐系多量体酸素酸イオンに水素が幾つか付加したものが挙げられる。硼素系としては、[B3(OH)4-、[B56(OH)4-、[B45(OH)42-などが挙げられる。
【0042】
(B)のアニオン種としては、(A’)以外の少なくとも1種のアニオンであれば特に限定されず、具体的には、塩素、臭素などのハロゲンイオン、過塩素酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、珪素系、燐系、硼素系の単量体酸素酸イオン、シアン化鉄イオンなどの無機酸イオンや蟻酸イオン、酢酸イオン、テレフタル酸イオン、アルキルスルホン酸イオンなどの有機酸イオンが挙げられる。
【0043】
農業用フィルムの耐候性、熱安定性、透明性、保温性および加工性などの観点から、(A’)のアニオン種は珪素系多量体酸素酸イオンが、(B)のアニオン種は炭酸および/または硫酸イオンが好ましく用いられる。
【0044】
さらに、農業用フィルムの色相安定性の観点から、層間に多量体酸素酸イオンを含む複合水酸化物としては、リチウムアルミニウムを基本骨格とする式(2)で示される構造のものが特に好ましく用いられる。
【0045】
上記層間に多量体酸素酸イオンを含む複合水酸化物は、樹脂中での分散性を更に向上させるために、分散剤で表面処理を施されていてもよい。分散剤としては、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸等の高級脂肪酸、高級脂肪酸のカルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、バリウム塩、ナトリウム塩等の金属石鹸、高級脂肪族アルコールとリン酸のエステルおよびその金属塩、ワックス類、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、シラン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤等が例示できる。中でもステアリン酸、ステアリン酸ナトリウム塩、ステアリルアルコールとリン酸のモノエステル、ジエステルおよびそのナトリウム塩などが好ましく挙げられる。
【0046】
分散剤の添加量は上記層間に多量体酸素酸イオンを含む複合水酸化物100重量部に対し0.1〜10重量部が好ましく、0.5〜6重量部がより好ましい。0.1重量部以下では分散性、熱安定性が悪化する恐れがあり、10重量部以上では余剰の分散剤がブリードアウトし、フィルムとした場合、表面外観を損なうなどの問題が生じ易くなる。
【0047】
上記層間に多量体酸素酸イオンを含む複合水酸化物の平均粒径は、0.05〜3μmが好ましく、0.1〜2μmがより好ましく、0.2〜1μmが特に好ましい。
【0048】
農業用フィルムにおける複合水酸化物の含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、1〜10重量部が好ましく、1〜5重量部がより好ましい。複合水酸化物の含有量が1重量部未満であると複合水酸化物による十分な効果が得られない恐れがある。また、複合水酸化物の含有量が10重量部を超えると農業用フィルムの初期透明性が低下する恐れがある。
【0049】
本発明の農業用フィルムは、その物性を阻害しない範囲内において、防霧剤、滑剤、及び顔料などの他の添加剤を含んでいてもよい。
【0050】
防霧剤としては、公知のものが用いられ、例えば、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。又、滑剤としては、公知のものが用いられ、例えば、ステアリン酸アマイドなどの飽和脂肪酸アマイド、エルカ酸アマイド、オレイン酸アマイドなどの不飽和脂肪酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイドなどのビスアマイドなどが挙げられる。
【0051】
農業用フィルムには、その表面に生じた結露水を水膜状にして円滑に下方に向かって流下させるために、農業用フィルムの物性を損なわない範囲において防曇剤を含有させてもよい。このような防曇剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、グリセリンステアリン酸エステル、ジグリセリンステアリン酸エステル、ポリグリセリンステアリン酸エステル、ソルビトールグリセリンステアリン酸エステル等の多価アルコール飽和脂肪酸エステル、グリセリンオレイン酸エステル、ジグリセリンオレイン酸エステル等の多価アルコール不飽和脂肪酸エステル等が挙げられ、単独で用いられても二種以上が併用されもよい。
【0052】
[熱可塑性樹脂]
本発明の農業用フィルムを構成している熱可塑性樹脂としては、従来から農業用フィルムに使用されているものが用いられ、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などが挙げられ、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリエチレン系樹脂がより好ましく、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体が特に好ましい。なお、熱可塑性樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されもよい。
【0053】
上記ポリエチレン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。
【0054】
なお、エチレン−α−オレフィン共重合体を構成するα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−へキセン、1−オクテンなどが挙げられ、又、プロピレン−α−オレフィン共重合体を構成するα−オレフィンとしては、エチレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−へキセン、1−オクテンなどが挙げられる。
【0055】
エチレン−酢酸ビニル共重合体のメルトフローレイト(MFR)は、0.4〜4g/10分が好ましく、1.0〜1.5g/10分がより好ましい。エチレン−酢酸ビニル共重合体のMFRが0.4g/10分未満では農業用フィルムの柔軟性が低下する恐れがあり、エチレン−酢酸ビニル共重合体のMFRが4g/10分を超えると農業用フィルムの透明性が低下する恐れがある。
【0056】
なお、本発明においてエチレン−酢酸ビニル共重合体のMFRは、JIS K7210に準拠して、温度190℃、荷重21.18Nの条件で測定された値をいう。
【0057】
また、エチレン−酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニルの含有量は、エチレン−酢酸ビニル共重合体の全量に対して、1〜15重量%が好ましく、1〜5重量%が好ましい。酢酸ビニルの含有量が上記範囲内であるエチレン−酢酸ビニル共重合体は、農業用フィルムにおける経時的な黄変の発生を高く抑制することができる。
【0058】
本発明の農業用フィルムを製造するには、例えば、熱可塑性樹脂、ヒンダードアミン系光安定化剤、紫外線吸収剤、及び必要に応じて酸化防止剤などの他の添加剤を含有する熱可塑性樹脂組成物を押出機に供給し溶融混練して押出機から押出、インフレーション法、Tダイ押出法、カレンダー法などによって農業用フィルムを製造する方法が用いられる。
【0059】
また、農業用フィルムに防曇剤を含有させる代わりに、農業用フィルムの表面に防曇性被膜を形成してもよい。このような防曇性被膜としては、例えば、コロイダルシリカやコロイダルアルミナに代表される無機酸化ゾルのコーティング膜、界面活性剤を主成分とする液のコーティング膜、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、多糖類、ポリアクリル酸などの親水性樹脂を主成分とする膜が挙げられる。なお、コロイダルシリカやコロイダルアルミナを主成分とする無機酸化ゾルのコーティング膜には、必要に応じて、界面活性剤や親水性樹脂を添加してもよい。
【0060】
そして、農業用フィルムの表面に防曇性被膜を形成する方法としては、例えば、グラビアコーターなどを用いたロールコート法、バーコード法、ディップコート法、スプレー法、はけ塗り法などが挙げられる。
【0061】
農業用フィルムの厚さは、薄いと、農業用フィルムの熱線の遮蔽性や機械的強度が低下することがあり、厚いと、農業用フィルムの裁断、接合、展張作業などが困難になり、取扱い性が低下することがあるので、20〜200μmが好ましく、50〜150μmがより好ましい。
【0062】
農業用フィルムの用途としては、例えば、温室ハウスなどの農業用ハウス、農業用トンネル、農業用カーテンなどにおける被覆資材が好ましく挙げられる。
【実施例】
【0063】
以下に、本発明を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0064】
(実施例1)
エチレン−酢酸ビニル共重合体1(酢酸ビニル含有量5重量%、メルトフローレイト1.0g/10分:宇部丸善ポリエチレン株式会社製 VF105G)100重量部、上記一般式(I)で示される基を複数個有するヒンダードアミン系光安定化剤A(Clariant社製 Hostavin NOW)0.7重量部、紫外線吸収剤(BASFジャパン製 キマソープ81 )0.1重量部、上記一般式(1)で示されるMg−Al系赤外線吸収剤A(協和化学工業株式会社製 DHT−4A)5重量部、及びフェノール系酸化防止剤A(2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール:川口化学工業株式会社製 BHT)0.01重量部を押出機に供給し、150℃にて溶融混練し、押出機の先端に取り付けたサーキュラ金型から円筒状に押出した上で空冷インフレーションフィルム成形によって農業用フィルム(厚さ100μm)を得た。
【0065】
(実施例2〜4、及び比較例1〜4)
エチレン−酢酸ビニル共重合体、ヒンダードアミン系光安定化剤、フェノール系酸化防止剤、及び赤外線吸収剤の種類及び配合量をそれぞれ表1に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして農業用フィルムを作製した。
【0066】
なお、表1におけるエチレン−酢酸ビニル共重合体2、ヒンダードアミン系光安定化剤B、ヒンダードアミン系光安定化剤C、Li−Al系赤外線吸収剤B、及びフェノール系酸化防止剤Bは、それぞれ下記の通りである。
エチレン−酢酸ビニル共重合体2(酢酸ビニル含有量5重量%、メルトフローレイト1.5g/10分:宇部丸善ポリエチレン株式会社製 VF105FS)
ヒンダードアミン系光安定化剤B(BASFジャパン製 TINUVIN NOR371)
ヒンダードアミン系光安定化剤C(BASFジャパン製 CHIMASSORB 944)
Li−Al系赤外線吸収剤B(上記一般式(2)で示される化合物、水沢化学工業株式会社製 ミズカラックL)
フェノール系酸化防止剤B(ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート:BASFジャパン株式会社製 IRGANOX1010)
【0067】
(評価)
上記で作製した各農業用フィルムについて、以下の手順に従って、黄変性、臭気性、透明性、保温性、耐候性、及び耐農薬性を評価した。結果をまとめて表1に示す。
【0068】
(黄変性)
農業用フィルムを、温度40℃、相対湿度60%RHの環境下に1週間放置し、放置前と放置後の農業用フィルムの色相(YI値)を色差測定器(SE2000、日本電色工業社製)により測定し、放置前後のYI値の差(ΔYI値)を求め、下記の基準により評価した。なお、ΔYI値が小さいほど、経時的な黄変の増大の程度が小さいことを示す。
◎:ΔYI値が1未満であった。
○:ΔYI値が1以上且つ3未満であった。
×:ΔYI値が3以上であった。
【0069】
(臭気性)
作製直後の農業用フィルムを任意に抽出した成人10名のパネラーによって官能評価し、以下の基準で判定した。
◎:不快なにおいがないと評価した者が8名以上であった。
○:不快なにおいがないと評価した者が2名以上8名未満であった。
×:不快なにおいがないと評価した者が2名未満であった。
【0070】
(透明性)
作製直後の農業用フィルムのヘーズ値(%)を、ヘーズ測定器(NDH2000、日本電色工業社製)により測定し、下記基準により透明性を評価した。
◎:ヘーズ値が15%未満であった。
○:ヘーズ値が15%以上且つ25%未満であった。
×:ヘーズ値が25%以上であった。
【0071】
(保温性)
赤外線分光光度計(日本分光社製 商品名「FT/IR−410」)を用いて農業用フィルムの吸収スペクトルを測定し、各波数の赤外線吸収率に15℃の黒体輻射エネルギー吸収率を乗じて規格化し、400〜2000cm-1の波数範囲に亘って積算する。得られたエネルギー吸収率を総黒体輻射エネルギーで除して百分率とし保温指数とする。下記の基準で保温性の評価を行った。
◎:保温性が80%以上であった。
○:保温性が50%以上かつ80%未満であった。
×:保温性が50%未満であった。
【0072】
(耐候性)
サンシャインスーパーロングライフウェザーメーター(スガ試験株式会社製)を用い、ブラックパネル温度60℃、相対湿度50%RHの環境下に、2000時間、農業用フィルムを暴露した後、JIS K6781に準拠して、農業用フィルムの破断点伸度を測定し、下記判断基準により耐候性を評価した。
◎・・・破断点伸度が600%以上であった。
○・・・破断点伸度が400%以上かつ600%未満であった。
×・・・破断点伸度が300%以上かつ400%未満であった。
【0073】
(耐農薬性)
縦15cm×横15cmに裁断した農業用フィルムを5wt%の亜硫酸水溶液に1日間浸漬した後、取り出して、サンシャインスーパーロングライフウェザーメーター(スガ試験株式会社製)を用い、ブラックパネル温度60℃、相対湿度50%RHの環境下に、2000時間暴露した後、JIS K6781に準拠して、農業用フィルムの破断点伸度を測定し、下記判断基準により促進耐候性を評価した。下記の基準で耐薬品性を評価した。
◎・・・残存破断点伸度が500%以上であった。
○・・・残存破断点伸度が350%以上かつ500%未満であった。
×・・・残存破断点伸度が200%以上かつ350%未満であった。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂、下記一般式(I)で示される基を少なくとも1個有するヒンダードアミン系光安定化剤、及び紫外線吸収剤を含有することを特徴とする農業用フィルム。
【化1】


(式中、R1は炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数2〜18のアルケニル基である。)
【請求項2】
ヒンダードアミン系光安定化剤の重量平均分子量Mwが1,000以上であることを特徴とする請求項1に記載の農業用フィルム。
【請求項3】
ヒンダードアミン系光安定化剤を、熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の農業用フィルム。

【公開番号】特開2012−70662(P2012−70662A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217399(P2010−217399)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(596111276)積水フイルム株式会社 (133)
【Fターム(参考)】