農業用マルチフィルム代替物、その製造方法、及びその製造キット
【課題】 生分解性樹脂製の農業用マルチフィルムよりも遙かに迅速に土中の微生物によって分解されるとともに、合成樹脂製の農業用マルチフィルムと同等に地温の上昇抑制および雑草種子の発芽抑制の効果を有する農業用マルチフィルム代替物、その製造方法、及びその製造キットを提供する。
【解決手段】 農業用マルチフィルム代替物の製造キットは、アルギン酸ナトリウム水溶液と、色素成分を含有するカルシウム塩水溶液とを備えたものである。これら2つの水溶液を地表面に塗布または散布することで、地表面で両水溶液が反応し、色素成分を含有するアルギン酸カルシウムの皮膜、すなわち、農業用マルチフィルム代替物が地表面に形成される。
【解決手段】 農業用マルチフィルム代替物の製造キットは、アルギン酸ナトリウム水溶液と、色素成分を含有するカルシウム塩水溶液とを備えたものである。これら2つの水溶液を地表面に塗布または散布することで、地表面で両水溶液が反応し、色素成分を含有するアルギン酸カルシウムの皮膜、すなわち、農業用マルチフィルム代替物が地表面に形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来の合成樹脂製の農業用マルチフィルムに代えて利用することができる農業用マルチフィルム代替物、その製造方法、及びその製造キットに関する。
【背景技術】
【0002】
農業用マルチフィルムは、地温の上昇を抑制する効果や、雑草生長を遅延する効果、風や雨による土壌浸食を防ぐ効果などを目的に、例えば、露地栽培の畑で畝を覆ったり、柑橘類の果樹の根本周辺を収穫前に覆ったりするなどと、広く利用されている。
【0003】
農業用マルチフィルムは、通常、合成樹脂製であり、一般的には塩化ビニルフィルムやポリエチレンフィルムが使用されている。しかしながら、自然に分解することができず、使用後に農地から取り除き、焼却したり、廃棄処理したりする必要がある。そのため、除去や焼却等に要する作業労力やコストが問題となっている。そこで、除去や焼却等を不要にするために、作物の育成時期が終わった際に分解するような生分解性や光崩壊性の樹脂からなる農業用マルチフィルムが開発されている。
【0004】
これら生分解性樹脂や光崩壊性樹脂製の農業用マルチフィルムは、土中の微生物により分解するか、または太陽光により崩壊するため、農地における除去作業が省力化されるとともに、焼却や廃棄処理による有害物質の発生が起こりにくく、人的作業の省力化や環境にやさしい資材として注目されている。しかしながら、完全に生分解または光崩壊するまでの時間が長いことや、高価なためコスト面で不利になる場合もあるといった問題点がある。
【0005】
一方、合成樹脂製の農業用マルチフィルムの上に、さらに炭酸カルシウムを塗布することで、単にマルチフィルムで覆うよりも地温の上昇をさらに抑制することができ、作物(ホウレンソウ)の生育において株重が重くなる等の効果があったとの報告がなされている(非特許文献1)。
【非特許文献1】井出治,「フルオープンハウスを利用した夏どりホウレンソウの安定生産技術」,農耕と園芸,株式会社誠文堂新光社,2005年、9月号、p.40−44
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、生分解性樹脂製の農業用マルチフィルムよりも遙かに迅速に土中の微生物によって分解されるとともに、合成樹脂製の農業用マルチフィルムと同等に地温の上昇抑制および雑草種子の発芽抑制の効果を有する農業用マルチフィルム代替物、その製造方法、及びその製造キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、その一態様として、農業用マルチフィルム代替物の製造方法であって、アルギン酸ナトリウム水溶液と、色素成分を含有するカルシウム塩水溶液とを地表面に塗布または散布して、前記2つの水溶液が反応することにより前記色素成分を含有するアルギン酸カルシウムの皮膜を前記地表面に形成することを特徴とするものである。
【0008】
前記色素成分としては、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、石膏、クレー、シリカ粉、微粉ケイ酸、珪藻土、カオリン、タルク、塩基性炭酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。また、前記色素成分としては、天然色素または食品添加物として認められている着色材を用いることも好ましい。前記カルシウム塩としては乳酸カルシウムを用いることが好ましい。前記アルギン酸ナトリウム水溶液又は前記カルシウム塩水溶液は、乾燥硬化剤を含有するものが好ましい。また、乾燥硬化剤を含有する場合、前記アルギン酸ナトリウム水溶液又は前記カルシウム塩水溶液は、更に接着剤を含有するものが好ましい。
【0009】
本発明は、別の態様として、農業用マルチフィルム代替物を製造するためのキットであって、アルギン酸ナトリウム水溶液と、色素成分を含有するカルシウム塩水溶液とを備えており、前記2つの水溶液が地表面に塗布または散布されると、反応して前記色素成分を含有するアルギン酸カルシウムの皮膜を前記地表面に形成することを特徴とするものである。
【0010】
本発明は、さらに別の態様として、農業用マルチフィルム代替物であって、色素成分を含有するアルギン酸カルシウムの皮膜からなり、地表面に直接形成されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
このように、アルギン酸ナトリウム水溶液とカルシウム塩水溶液とが反応することにより、水不溶性でゲル状のアルギン酸カルシウムの皮膜が地表面に均一に形成されるとともに、カルシウム塩水溶液中の色素成分がこのゲル状の皮膜全体に分散されることとなる。そして、この皮膜に分散された色素成分により太陽光が反射することから、皮膜で覆われた部分の地温の上昇を抑制することができる。また、地表面はゲル状の皮膜で隙間なく覆われることから、雑草種子の発芽を抑制することができる。さらに、このゲル状の皮膜は容易に破れるとともに、その主成分であるアルギン酸カルシウムも土中の微生物によって迅速に分解されることから、除去も非常に簡単に行える。
【0012】
したがって、本発明によれば、生分解性樹脂製の農業用マルチフィルムよりも遙かに迅速に土中の微生物によって分解されるとともに、合成樹脂製の農業用マルチフィルムと同等に地表面の温度調整および雑草種子の発芽抑制の効果を有する農業用マルチフィルム代替物、その製造方法、及びその製造キットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について説明する。本発明に係る農業用マルチフィルム代替物の製造キットは、アルギン酸ナトリウム水溶液と、色素成分を含有するカルシウム塩水溶液とを備えたものである。
【0014】
アルギン酸ナトリウム水溶液としては、アルギン酸ナトリウムの濃度が0.5〜10.0重量%のものが好ましく、1.0〜4.0重量%のものがより好ましい。また、海藻抽出物には、アルギン酸ナトリウムが多量に含まれていることから、海藻抽出物を使用することもできる。
【0015】
カルシウム塩水溶液のカルシウム塩としては、乳酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、ギ酸カルシウム等の水可溶性カルシウム塩を用いることが好ましく、中でも適度な溶解性の観点から乳酸カルシウムが特に好ましい。乳酸カルシウム水溶液とした場合、乳酸カルシウムの濃度は、0.5〜4.0重量%が好ましく、2.0〜4.0重量%がより好ましい。また、塩化カルシウム水溶液とした場合、塩化カルシウムの濃度は0.5〜20.0重量%が好ましく、1.0〜4.0重量%がより好ましい。
【0016】
アルギン酸ナトリウム水溶液とカルシウム塩水溶液の量の比は、アルギン酸ナトリウム水溶液中のナトリウムイオン1モルに対し、カルシウム塩水溶液中のカルシウムイオンが0.5〜4.0モルの範囲となるようにすることが好ましく、1.0〜2.0モルの範囲となるようにすることがより好ましい。
【0017】
色素成分としては、水不溶性のものとして、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、石膏、クレー、シリカ粉、微粉ケイ酸、珪藻土、カオリン、タルク、塩基性炭酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これらは白色を呈し、太陽光を効率良く反射して、地温の上昇を顕著に抑制することができる。これらの色素成分は、カルシウム塩水溶液200〜2000mLに対して100g含有することが好ましく、カルシウム塩水溶液400〜1000mLに対して100g含有することがより好ましい。
【0018】
また、色素成分としては、例えば、カラメル、ウコン色素、ベニバナ色素などの天然色素または食品添加物として認められている着色材を用いることも好ましい。これらの天然色素または着色材を使用することで、白色以外の色を発現させることができる。これらの色素成分は、カルシウム塩水溶液200〜2000mLに対して100g含有することが好ましく、カルシウム塩水溶液400〜1000mLに対して100g含有することがより好ましい。
【0019】
そして、アルギン酸ナトリウム水溶液と、色素成分を含有するカルシウム塩水溶液とを地表面に塗布または散布することで、この2つの水溶液が反応して色素成分を含有するアルギン酸カルシウムの皮膜が地表面に形成される。
【0020】
これら水溶液を塗布する方法としては、例えば、ローラー、ハケなどにより塗布する方法がある。また、これら水溶液を散布する方法としては、例えば、薬液散布用のスプレーや、動力噴霧器などにより散布する方法がある。
【0021】
塗布または散布する量としては、塗布または散布する地表面1.0m2当たりアルギン酸ナトリウム水溶液が250〜3000mLの範囲、色素成分を含有するカルシウム塩水溶液が250〜3000mLの範囲が好ましい。なお、一方の水溶液を塗布または散布した後、他方の水溶液を塗布または散布するか、または、2つの水溶液を混合して、この混合液を塗布または散布することもできるが、アルギン酸ナトリウム水溶液を散布または塗布した後、色素成分を含有するカルシウム塩水溶液を散布または塗布することが好ましい。また、水溶液を塗布または散布する前の地表面は乾燥状態が好ましい。
【0022】
上記の2つの水溶液が反応することにより、水不溶性でゲル状のアルギン酸カルシウムの皮膜が地表面に均一に形成される。この皮膜には上記の色素成分が分散されていることから、皮膜表面で太陽光が反射し、皮膜で覆われた部分の地温が上昇するのを抑制することができる。また、このゲル状の皮膜は、地表面に固着して地表面を隙間なく覆うことから、地表面から雑草種子が発芽するのを抑制することができる。したがって、農業用マルチシートの代替物として使用することができる。
【0023】
さらに、このゲル状の皮膜は容易に破れるとともに、その主成分であるアルギン酸カルシウムも土中の微生物によって迅速に分解されることから、除去および廃棄処理が非常に簡単に行える。また、この際、カルシウムやその他の塩類が土壌に混ざり、地中に浸透することで、これら塩類特有の肥料効果をもたらすことができる。したがって、作業労力の省力化や、環境負荷の低減化も図ることができる。
【0024】
また、このゲル状の皮膜の付着性、強度、噴霧適性を向上するために、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等の水難溶性の乾燥硬化剤を添加することが好ましい。この乾燥硬化剤は、カルシウム塩水溶液に添加することが好ましい。また、この乾燥硬化剤は、カルシウム塩水溶液200〜2000mLに対して100g含有することが好ましく、カルシウム塩水溶液400〜1000mLに対して100g含有することがより好ましい。
【0025】
ゲル状の皮膜の付着性、強度、噴霧適性を向上するために、上記の乾燥硬化剤に加えて、酢酸ビニル樹脂、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのカルシウム塩、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム等の接着剤を更に添加することが好ましい。この接着剤は、アルギン酸ナトリウム水溶液に添加することが好ましい。また、この接着剤は、アルギン酸ナトリウム水溶液1000〜10000mLに対して100g含有することが好ましく、アルギン酸ナトリウム水溶液1000〜3000mLに対して100g含有することがより好ましい。
【0026】
ゲル状の皮膜の強度、噴霧適性を向上するために、第二リン酸カルシウム、第一リン酸カルシウム等の噴霧向上剤を添加することが好ましい。この噴霧向上剤は、粒子が非常に細かく、また0.2〜2.0%強の難溶解性であることから、噴霧器による噴霧適性に優れる。噴霧向上剤は、カルシウム塩水溶液に添加することが好ましい。また、この噴霧向上剤は、カルシウム塩水溶液500〜2000mLに対して100g含有することが好ましく、カルシウム塩水溶液1000〜1500mLに対して100g含有することがより好ましい。
【0027】
アルギン酸ナトリウム水溶液と、色素成分を含有するカルシウム塩水溶液とを混合した懸濁水溶液の成分割合をまとめると、乾燥重量で、アルギン酸ナトリウム0.5〜5%、水溶性カルシウム塩(乳酸カルシウム換算)1〜6%、色素成分(炭酸カルシウム換算)残部又は40〜98%とすることが好ましい。また、上記の任意成分を加える場合、色素成分の一部を上記任意成分に置き換えることが好ましい。具体的には、アルギン酸ナトリウム0.5〜4%、水溶性カルシウム塩(乳酸カルシウム換算)1〜5%、色素成分(炭酸カルシウム換算)40〜80%、水酸化マグネシウム等の乾燥硬化剤15〜40%、好ましくは30〜40%、酢酸ビニル樹脂等の接着剤1〜15%、好ましくは3〜15%、第二リン酸カルシウム等の噴霧向上剤5〜15%、好ましくは5〜10%とすることが好ましい。
【実施例】
【0028】
(実施例1、2)
濃度1wt%のアルギン酸ナトリウム水溶液と、濃度2wt%の乳酸カルシウム水溶液をそれぞれ調製した。そして、乳酸カルシウム水溶液には、400mL当たり100gの軽質炭酸カルシウム(白石工業社製の商品名シルバーW)を懸濁させた。そして、プランター内に、乾燥した土を盛り上げて約0.3m×約0.1mの模擬の畝をつくり、そこに先ずアルギン酸ナトリウム水溶液を均一に約50mL噴霧した後、炭酸カルシウムが懸濁する乳酸カルシウム水溶液を同様に均一に約50mL噴霧した。アルギン酸ナトリウムと乳酸カルシウムはすぐに反応し、白色を呈したゲル状の皮膜が、噴霧した部分に均等な厚さで形成された(図1の写真の仕切りの右側、および図5の写真の仕切りの左側)。
【0029】
(比較例1)
一方、比較のため、水1000mL当たり200gの炭酸カルシウム水和剤(白石カルシウム社製の商品名クレフノン。炭酸カルシウム95%、展着剤)を懸濁させた炭酸カルシウムスラリーを調製し、上記と同様にプランター内に均一に約50mL噴霧した。炭酸カルシウムの白色を呈した層が形成されたが、水が乾いてくると、層の表面には無数の穴があき、地表面を完全に覆うことはできなかった(図1の写真の左側)。また、多量に噴霧したところは、畝からスラリーが流れ落ちた。
【0030】
(比較例2)
また、水500mL当たり95gの軽質炭酸カルシウム(上記商品名シルバーW)と5gのベントナイトを懸濁させた炭酸カルシウムスラリーを調製し、上記と同様にプランター内に均一に約50mL噴霧した。炭酸カルシウムおよびベントナイトの白色を呈した層が形成されたが、水が乾いてくると、層の表面にひび割れが発生し、地表面を完全に覆うことはできなかった(図5の写真の右側)。
【0031】
(比較例3)
さらに、水1000mL当たり200gの重質炭酸カルシウム(備北粉化工業社製の商品名ソフトン3200)を懸濁させた炭酸カルシウムスラリーを調製し、上記と同様にプランター内に均一に約50mL噴霧した。炭酸カルシウムの白色を呈した層が形成されたが、水が乾いてくると、層の表面にひび割れが発生し、地表面を完全に覆うことはできなかった(図9の写真の右側)。なお、図9の写真の左側は、何も噴霧しなかった場合である。
【0032】
実施例1、2の皮膜および比較例1〜3の層について、その後の経過を観察した。実施例1、2のゲル状の皮膜は、形成した翌日になっても特に変化はなく、白色を呈したゲル状の性状を保った(図2の写真の右側、図6の写真の左側)。一方、比較例1の炭酸カルシウムの層は、層の表面にひび割れが発生した(図2の写真の左側)。また、比較例2、3の炭酸カルシウムの層は、ひび割れが大きくなった(図6の写真の右側、図10の写真の右側)。
【0033】
さらに、皮膜を形成した5日後に降雨があり、実施例1、2の皮膜および比較例1〜3の層もすべて雨に曝された(図3、図7、図11の写真)。雨の翌日、実施例1の皮膜は、雨で一部流れたものの、ゲル状の皮膜が依然として地表面を覆っていた(図4の写真の右側)。実施例2の皮膜は、実施例1の皮膜に比べて雨に流された部分が多く、一部で地表面が露出したものの、ゲル状の性質は維持していた(図8の写真の左側)。一方、比較例1、2の層は、雨で一部流されたことで、随所で地表面が露出した(図4の写真の左側、図8の写真の右側)。比較例3の層は、ほとんど雨に流されてしまい、もはや層と呼べるものではなくなっていた(図12の写真の右側)。
【0034】
(実施例3)
アルギン酸ナトリウム、乳酸カルシウム、炭酸カルシウムに加え、第二リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酢酸ビニル樹脂を表1に示す重量比で添加して懸濁水溶液を調製した。そして、この懸濁水溶液を使用して、試料A〜Gの付着性および強度について試験を行った。なお、いずれの懸濁水溶液も、水で10倍に希釈したものを試験に使用した。10倍に希釈とは、懸濁水溶液200g中に上記の試料が20g溶解または懸濁していることをいう。
【0035】
【表1】
【0036】
付着性の試験として、100mm四方の皮革製の平板の上に、懸濁水溶液200gを噴霧器により吹き付け、乾燥した後、平板上に付着して残ったゲル状の皮膜の重量を測定した。その結果を表1に示す。なお、試料間で比較するため、皮膜が生成した面積1m2当たりの重量に換算した。表1に示すように、水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウムを加えた試料A〜Eは、水酸化マグネシウムも酸化マグネシウムも加えなかった試料F、Gよりも、皮膜重量が大幅に増加しており、付着性に優れていた。中でも、酢酸ビニル樹脂を更に加えた試料A〜Dは、皮膜重量が飛躍的に増加した。
【0037】
強度の試験として、市販のラップフィルムの上に、懸濁水溶液200gを噴霧器により吹き付け、乾燥した後、生成したゲル状の皮膜の圧縮強度を、物性測定装置(サン科学社製のレオメータCR200DX)により測定した。その結果を表1に示す。なお、物性測定装置において皮膜と接触して圧縮強度を感知する感圧軸として、直径20mmのアダプターを使用した。表1に示すように、水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウムを加えた試料A〜Eは、水酸化マグネシウムも酸化マグネシウムも加えなかった試料F、Gよりも、圧縮強度が大幅に向上した。中でも、酢酸ビニル樹脂を更に加えた試料A〜Dは、圧縮強度が飛躍的に向上した。
【0038】
(実施例4)
懸濁水溶液の噴霧適性を試験するため、アルギン酸ナトリウム、乳酸カルシウム、炭酸カルシウムに加え、第二リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酢酸ビニル樹脂を表2に示す重量比で添加するとともに、表2に示す希釈倍率で懸濁水溶液を調製した。そして、ノズル径1mmの噴霧器を使用して、この懸濁水溶液200gを100mm四方の平板に噴霧し、噴霧器のノズルの目詰まりを確認した。その結果を表2に示す。なお、表2において、噴霧中に目詰まりが発生して正常な噴霧ができなくなったものを△、噴霧の際の負荷が増した程度のものを○、何の異常もなかったものを◎の印で示した。
【0039】
【表2】
【0040】
表2に示すように、第二リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウムの合計が試料全体の30%以下であった試料A〜Dは、希釈倍率が7.5〜10倍という薄い濃度でも、噴霧器のノズルに目詰まりが発生した。一方、第二リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウムの合計が試料全体の40%以上であった試料E〜Hは、希釈倍率が5〜7.5倍という濃い濃度でも、目詰まりは発生せず良好な噴霧ができた。また、酢酸ビニル樹脂を10%以上にすることで、噴霧適性の更なる向上が見られた(試料G、H)。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】仕切りの右側に、本発明に係る農業用マルチフィルム代替物の一例を、仕切りの左側に、比較例を表した写真である。
【図2】図1の農業用マルチフィルム代替物の一例および比較例の、形成翌日の状態を表した写真である。
【図3】図1の農業用マルチフィルム代替物の一例および比較例の、降雨当日の状態を表した写真である。
【図4】図1の農業用マルチフィルム代替物の一例および比較例の、降雨翌日の状態を表した写真である。
【図5】仕切りの左側に、本発明に係る農業用マルチフィルム代替物の別の例を、仕切りの右側に、別の比較例を表した写真である。
【図6】図5の農業用マルチフィルム代替物の一例および比較例の、形成翌日の状態を表した写真である。
【図7】図5の農業用マルチフィルム代替物の一例および比較例の、降雨当日の状態を表した写真である。
【図8】図5の農業用マルチフィルム代替物の一例および比較例の、降雨翌日の状態を表した写真である。
【図9】仕切りの右側にさらに別の比較例を表した写真である。
【図10】図9の比較例の、形成翌日の状態を表した写真である。
【図11】図9の比較例の、降雨当日の状態を表した写真である。
【図12】図9の比較例の、降雨翌日の状態を表した写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来の合成樹脂製の農業用マルチフィルムに代えて利用することができる農業用マルチフィルム代替物、その製造方法、及びその製造キットに関する。
【背景技術】
【0002】
農業用マルチフィルムは、地温の上昇を抑制する効果や、雑草生長を遅延する効果、風や雨による土壌浸食を防ぐ効果などを目的に、例えば、露地栽培の畑で畝を覆ったり、柑橘類の果樹の根本周辺を収穫前に覆ったりするなどと、広く利用されている。
【0003】
農業用マルチフィルムは、通常、合成樹脂製であり、一般的には塩化ビニルフィルムやポリエチレンフィルムが使用されている。しかしながら、自然に分解することができず、使用後に農地から取り除き、焼却したり、廃棄処理したりする必要がある。そのため、除去や焼却等に要する作業労力やコストが問題となっている。そこで、除去や焼却等を不要にするために、作物の育成時期が終わった際に分解するような生分解性や光崩壊性の樹脂からなる農業用マルチフィルムが開発されている。
【0004】
これら生分解性樹脂や光崩壊性樹脂製の農業用マルチフィルムは、土中の微生物により分解するか、または太陽光により崩壊するため、農地における除去作業が省力化されるとともに、焼却や廃棄処理による有害物質の発生が起こりにくく、人的作業の省力化や環境にやさしい資材として注目されている。しかしながら、完全に生分解または光崩壊するまでの時間が長いことや、高価なためコスト面で不利になる場合もあるといった問題点がある。
【0005】
一方、合成樹脂製の農業用マルチフィルムの上に、さらに炭酸カルシウムを塗布することで、単にマルチフィルムで覆うよりも地温の上昇をさらに抑制することができ、作物(ホウレンソウ)の生育において株重が重くなる等の効果があったとの報告がなされている(非特許文献1)。
【非特許文献1】井出治,「フルオープンハウスを利用した夏どりホウレンソウの安定生産技術」,農耕と園芸,株式会社誠文堂新光社,2005年、9月号、p.40−44
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、生分解性樹脂製の農業用マルチフィルムよりも遙かに迅速に土中の微生物によって分解されるとともに、合成樹脂製の農業用マルチフィルムと同等に地温の上昇抑制および雑草種子の発芽抑制の効果を有する農業用マルチフィルム代替物、その製造方法、及びその製造キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、その一態様として、農業用マルチフィルム代替物の製造方法であって、アルギン酸ナトリウム水溶液と、色素成分を含有するカルシウム塩水溶液とを地表面に塗布または散布して、前記2つの水溶液が反応することにより前記色素成分を含有するアルギン酸カルシウムの皮膜を前記地表面に形成することを特徴とするものである。
【0008】
前記色素成分としては、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、石膏、クレー、シリカ粉、微粉ケイ酸、珪藻土、カオリン、タルク、塩基性炭酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。また、前記色素成分としては、天然色素または食品添加物として認められている着色材を用いることも好ましい。前記カルシウム塩としては乳酸カルシウムを用いることが好ましい。前記アルギン酸ナトリウム水溶液又は前記カルシウム塩水溶液は、乾燥硬化剤を含有するものが好ましい。また、乾燥硬化剤を含有する場合、前記アルギン酸ナトリウム水溶液又は前記カルシウム塩水溶液は、更に接着剤を含有するものが好ましい。
【0009】
本発明は、別の態様として、農業用マルチフィルム代替物を製造するためのキットであって、アルギン酸ナトリウム水溶液と、色素成分を含有するカルシウム塩水溶液とを備えており、前記2つの水溶液が地表面に塗布または散布されると、反応して前記色素成分を含有するアルギン酸カルシウムの皮膜を前記地表面に形成することを特徴とするものである。
【0010】
本発明は、さらに別の態様として、農業用マルチフィルム代替物であって、色素成分を含有するアルギン酸カルシウムの皮膜からなり、地表面に直接形成されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
このように、アルギン酸ナトリウム水溶液とカルシウム塩水溶液とが反応することにより、水不溶性でゲル状のアルギン酸カルシウムの皮膜が地表面に均一に形成されるとともに、カルシウム塩水溶液中の色素成分がこのゲル状の皮膜全体に分散されることとなる。そして、この皮膜に分散された色素成分により太陽光が反射することから、皮膜で覆われた部分の地温の上昇を抑制することができる。また、地表面はゲル状の皮膜で隙間なく覆われることから、雑草種子の発芽を抑制することができる。さらに、このゲル状の皮膜は容易に破れるとともに、その主成分であるアルギン酸カルシウムも土中の微生物によって迅速に分解されることから、除去も非常に簡単に行える。
【0012】
したがって、本発明によれば、生分解性樹脂製の農業用マルチフィルムよりも遙かに迅速に土中の微生物によって分解されるとともに、合成樹脂製の農業用マルチフィルムと同等に地表面の温度調整および雑草種子の発芽抑制の効果を有する農業用マルチフィルム代替物、その製造方法、及びその製造キットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について説明する。本発明に係る農業用マルチフィルム代替物の製造キットは、アルギン酸ナトリウム水溶液と、色素成分を含有するカルシウム塩水溶液とを備えたものである。
【0014】
アルギン酸ナトリウム水溶液としては、アルギン酸ナトリウムの濃度が0.5〜10.0重量%のものが好ましく、1.0〜4.0重量%のものがより好ましい。また、海藻抽出物には、アルギン酸ナトリウムが多量に含まれていることから、海藻抽出物を使用することもできる。
【0015】
カルシウム塩水溶液のカルシウム塩としては、乳酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、ギ酸カルシウム等の水可溶性カルシウム塩を用いることが好ましく、中でも適度な溶解性の観点から乳酸カルシウムが特に好ましい。乳酸カルシウム水溶液とした場合、乳酸カルシウムの濃度は、0.5〜4.0重量%が好ましく、2.0〜4.0重量%がより好ましい。また、塩化カルシウム水溶液とした場合、塩化カルシウムの濃度は0.5〜20.0重量%が好ましく、1.0〜4.0重量%がより好ましい。
【0016】
アルギン酸ナトリウム水溶液とカルシウム塩水溶液の量の比は、アルギン酸ナトリウム水溶液中のナトリウムイオン1モルに対し、カルシウム塩水溶液中のカルシウムイオンが0.5〜4.0モルの範囲となるようにすることが好ましく、1.0〜2.0モルの範囲となるようにすることがより好ましい。
【0017】
色素成分としては、水不溶性のものとして、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、石膏、クレー、シリカ粉、微粉ケイ酸、珪藻土、カオリン、タルク、塩基性炭酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これらは白色を呈し、太陽光を効率良く反射して、地温の上昇を顕著に抑制することができる。これらの色素成分は、カルシウム塩水溶液200〜2000mLに対して100g含有することが好ましく、カルシウム塩水溶液400〜1000mLに対して100g含有することがより好ましい。
【0018】
また、色素成分としては、例えば、カラメル、ウコン色素、ベニバナ色素などの天然色素または食品添加物として認められている着色材を用いることも好ましい。これらの天然色素または着色材を使用することで、白色以外の色を発現させることができる。これらの色素成分は、カルシウム塩水溶液200〜2000mLに対して100g含有することが好ましく、カルシウム塩水溶液400〜1000mLに対して100g含有することがより好ましい。
【0019】
そして、アルギン酸ナトリウム水溶液と、色素成分を含有するカルシウム塩水溶液とを地表面に塗布または散布することで、この2つの水溶液が反応して色素成分を含有するアルギン酸カルシウムの皮膜が地表面に形成される。
【0020】
これら水溶液を塗布する方法としては、例えば、ローラー、ハケなどにより塗布する方法がある。また、これら水溶液を散布する方法としては、例えば、薬液散布用のスプレーや、動力噴霧器などにより散布する方法がある。
【0021】
塗布または散布する量としては、塗布または散布する地表面1.0m2当たりアルギン酸ナトリウム水溶液が250〜3000mLの範囲、色素成分を含有するカルシウム塩水溶液が250〜3000mLの範囲が好ましい。なお、一方の水溶液を塗布または散布した後、他方の水溶液を塗布または散布するか、または、2つの水溶液を混合して、この混合液を塗布または散布することもできるが、アルギン酸ナトリウム水溶液を散布または塗布した後、色素成分を含有するカルシウム塩水溶液を散布または塗布することが好ましい。また、水溶液を塗布または散布する前の地表面は乾燥状態が好ましい。
【0022】
上記の2つの水溶液が反応することにより、水不溶性でゲル状のアルギン酸カルシウムの皮膜が地表面に均一に形成される。この皮膜には上記の色素成分が分散されていることから、皮膜表面で太陽光が反射し、皮膜で覆われた部分の地温が上昇するのを抑制することができる。また、このゲル状の皮膜は、地表面に固着して地表面を隙間なく覆うことから、地表面から雑草種子が発芽するのを抑制することができる。したがって、農業用マルチシートの代替物として使用することができる。
【0023】
さらに、このゲル状の皮膜は容易に破れるとともに、その主成分であるアルギン酸カルシウムも土中の微生物によって迅速に分解されることから、除去および廃棄処理が非常に簡単に行える。また、この際、カルシウムやその他の塩類が土壌に混ざり、地中に浸透することで、これら塩類特有の肥料効果をもたらすことができる。したがって、作業労力の省力化や、環境負荷の低減化も図ることができる。
【0024】
また、このゲル状の皮膜の付着性、強度、噴霧適性を向上するために、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等の水難溶性の乾燥硬化剤を添加することが好ましい。この乾燥硬化剤は、カルシウム塩水溶液に添加することが好ましい。また、この乾燥硬化剤は、カルシウム塩水溶液200〜2000mLに対して100g含有することが好ましく、カルシウム塩水溶液400〜1000mLに対して100g含有することがより好ましい。
【0025】
ゲル状の皮膜の付着性、強度、噴霧適性を向上するために、上記の乾燥硬化剤に加えて、酢酸ビニル樹脂、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのカルシウム塩、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム等の接着剤を更に添加することが好ましい。この接着剤は、アルギン酸ナトリウム水溶液に添加することが好ましい。また、この接着剤は、アルギン酸ナトリウム水溶液1000〜10000mLに対して100g含有することが好ましく、アルギン酸ナトリウム水溶液1000〜3000mLに対して100g含有することがより好ましい。
【0026】
ゲル状の皮膜の強度、噴霧適性を向上するために、第二リン酸カルシウム、第一リン酸カルシウム等の噴霧向上剤を添加することが好ましい。この噴霧向上剤は、粒子が非常に細かく、また0.2〜2.0%強の難溶解性であることから、噴霧器による噴霧適性に優れる。噴霧向上剤は、カルシウム塩水溶液に添加することが好ましい。また、この噴霧向上剤は、カルシウム塩水溶液500〜2000mLに対して100g含有することが好ましく、カルシウム塩水溶液1000〜1500mLに対して100g含有することがより好ましい。
【0027】
アルギン酸ナトリウム水溶液と、色素成分を含有するカルシウム塩水溶液とを混合した懸濁水溶液の成分割合をまとめると、乾燥重量で、アルギン酸ナトリウム0.5〜5%、水溶性カルシウム塩(乳酸カルシウム換算)1〜6%、色素成分(炭酸カルシウム換算)残部又は40〜98%とすることが好ましい。また、上記の任意成分を加える場合、色素成分の一部を上記任意成分に置き換えることが好ましい。具体的には、アルギン酸ナトリウム0.5〜4%、水溶性カルシウム塩(乳酸カルシウム換算)1〜5%、色素成分(炭酸カルシウム換算)40〜80%、水酸化マグネシウム等の乾燥硬化剤15〜40%、好ましくは30〜40%、酢酸ビニル樹脂等の接着剤1〜15%、好ましくは3〜15%、第二リン酸カルシウム等の噴霧向上剤5〜15%、好ましくは5〜10%とすることが好ましい。
【実施例】
【0028】
(実施例1、2)
濃度1wt%のアルギン酸ナトリウム水溶液と、濃度2wt%の乳酸カルシウム水溶液をそれぞれ調製した。そして、乳酸カルシウム水溶液には、400mL当たり100gの軽質炭酸カルシウム(白石工業社製の商品名シルバーW)を懸濁させた。そして、プランター内に、乾燥した土を盛り上げて約0.3m×約0.1mの模擬の畝をつくり、そこに先ずアルギン酸ナトリウム水溶液を均一に約50mL噴霧した後、炭酸カルシウムが懸濁する乳酸カルシウム水溶液を同様に均一に約50mL噴霧した。アルギン酸ナトリウムと乳酸カルシウムはすぐに反応し、白色を呈したゲル状の皮膜が、噴霧した部分に均等な厚さで形成された(図1の写真の仕切りの右側、および図5の写真の仕切りの左側)。
【0029】
(比較例1)
一方、比較のため、水1000mL当たり200gの炭酸カルシウム水和剤(白石カルシウム社製の商品名クレフノン。炭酸カルシウム95%、展着剤)を懸濁させた炭酸カルシウムスラリーを調製し、上記と同様にプランター内に均一に約50mL噴霧した。炭酸カルシウムの白色を呈した層が形成されたが、水が乾いてくると、層の表面には無数の穴があき、地表面を完全に覆うことはできなかった(図1の写真の左側)。また、多量に噴霧したところは、畝からスラリーが流れ落ちた。
【0030】
(比較例2)
また、水500mL当たり95gの軽質炭酸カルシウム(上記商品名シルバーW)と5gのベントナイトを懸濁させた炭酸カルシウムスラリーを調製し、上記と同様にプランター内に均一に約50mL噴霧した。炭酸カルシウムおよびベントナイトの白色を呈した層が形成されたが、水が乾いてくると、層の表面にひび割れが発生し、地表面を完全に覆うことはできなかった(図5の写真の右側)。
【0031】
(比較例3)
さらに、水1000mL当たり200gの重質炭酸カルシウム(備北粉化工業社製の商品名ソフトン3200)を懸濁させた炭酸カルシウムスラリーを調製し、上記と同様にプランター内に均一に約50mL噴霧した。炭酸カルシウムの白色を呈した層が形成されたが、水が乾いてくると、層の表面にひび割れが発生し、地表面を完全に覆うことはできなかった(図9の写真の右側)。なお、図9の写真の左側は、何も噴霧しなかった場合である。
【0032】
実施例1、2の皮膜および比較例1〜3の層について、その後の経過を観察した。実施例1、2のゲル状の皮膜は、形成した翌日になっても特に変化はなく、白色を呈したゲル状の性状を保った(図2の写真の右側、図6の写真の左側)。一方、比較例1の炭酸カルシウムの層は、層の表面にひび割れが発生した(図2の写真の左側)。また、比較例2、3の炭酸カルシウムの層は、ひび割れが大きくなった(図6の写真の右側、図10の写真の右側)。
【0033】
さらに、皮膜を形成した5日後に降雨があり、実施例1、2の皮膜および比較例1〜3の層もすべて雨に曝された(図3、図7、図11の写真)。雨の翌日、実施例1の皮膜は、雨で一部流れたものの、ゲル状の皮膜が依然として地表面を覆っていた(図4の写真の右側)。実施例2の皮膜は、実施例1の皮膜に比べて雨に流された部分が多く、一部で地表面が露出したものの、ゲル状の性質は維持していた(図8の写真の左側)。一方、比較例1、2の層は、雨で一部流されたことで、随所で地表面が露出した(図4の写真の左側、図8の写真の右側)。比較例3の層は、ほとんど雨に流されてしまい、もはや層と呼べるものではなくなっていた(図12の写真の右側)。
【0034】
(実施例3)
アルギン酸ナトリウム、乳酸カルシウム、炭酸カルシウムに加え、第二リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酢酸ビニル樹脂を表1に示す重量比で添加して懸濁水溶液を調製した。そして、この懸濁水溶液を使用して、試料A〜Gの付着性および強度について試験を行った。なお、いずれの懸濁水溶液も、水で10倍に希釈したものを試験に使用した。10倍に希釈とは、懸濁水溶液200g中に上記の試料が20g溶解または懸濁していることをいう。
【0035】
【表1】
【0036】
付着性の試験として、100mm四方の皮革製の平板の上に、懸濁水溶液200gを噴霧器により吹き付け、乾燥した後、平板上に付着して残ったゲル状の皮膜の重量を測定した。その結果を表1に示す。なお、試料間で比較するため、皮膜が生成した面積1m2当たりの重量に換算した。表1に示すように、水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウムを加えた試料A〜Eは、水酸化マグネシウムも酸化マグネシウムも加えなかった試料F、Gよりも、皮膜重量が大幅に増加しており、付着性に優れていた。中でも、酢酸ビニル樹脂を更に加えた試料A〜Dは、皮膜重量が飛躍的に増加した。
【0037】
強度の試験として、市販のラップフィルムの上に、懸濁水溶液200gを噴霧器により吹き付け、乾燥した後、生成したゲル状の皮膜の圧縮強度を、物性測定装置(サン科学社製のレオメータCR200DX)により測定した。その結果を表1に示す。なお、物性測定装置において皮膜と接触して圧縮強度を感知する感圧軸として、直径20mmのアダプターを使用した。表1に示すように、水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウムを加えた試料A〜Eは、水酸化マグネシウムも酸化マグネシウムも加えなかった試料F、Gよりも、圧縮強度が大幅に向上した。中でも、酢酸ビニル樹脂を更に加えた試料A〜Dは、圧縮強度が飛躍的に向上した。
【0038】
(実施例4)
懸濁水溶液の噴霧適性を試験するため、アルギン酸ナトリウム、乳酸カルシウム、炭酸カルシウムに加え、第二リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酢酸ビニル樹脂を表2に示す重量比で添加するとともに、表2に示す希釈倍率で懸濁水溶液を調製した。そして、ノズル径1mmの噴霧器を使用して、この懸濁水溶液200gを100mm四方の平板に噴霧し、噴霧器のノズルの目詰まりを確認した。その結果を表2に示す。なお、表2において、噴霧中に目詰まりが発生して正常な噴霧ができなくなったものを△、噴霧の際の負荷が増した程度のものを○、何の異常もなかったものを◎の印で示した。
【0039】
【表2】
【0040】
表2に示すように、第二リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウムの合計が試料全体の30%以下であった試料A〜Dは、希釈倍率が7.5〜10倍という薄い濃度でも、噴霧器のノズルに目詰まりが発生した。一方、第二リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウムの合計が試料全体の40%以上であった試料E〜Hは、希釈倍率が5〜7.5倍という濃い濃度でも、目詰まりは発生せず良好な噴霧ができた。また、酢酸ビニル樹脂を10%以上にすることで、噴霧適性の更なる向上が見られた(試料G、H)。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】仕切りの右側に、本発明に係る農業用マルチフィルム代替物の一例を、仕切りの左側に、比較例を表した写真である。
【図2】図1の農業用マルチフィルム代替物の一例および比較例の、形成翌日の状態を表した写真である。
【図3】図1の農業用マルチフィルム代替物の一例および比較例の、降雨当日の状態を表した写真である。
【図4】図1の農業用マルチフィルム代替物の一例および比較例の、降雨翌日の状態を表した写真である。
【図5】仕切りの左側に、本発明に係る農業用マルチフィルム代替物の別の例を、仕切りの右側に、別の比較例を表した写真である。
【図6】図5の農業用マルチフィルム代替物の一例および比較例の、形成翌日の状態を表した写真である。
【図7】図5の農業用マルチフィルム代替物の一例および比較例の、降雨当日の状態を表した写真である。
【図8】図5の農業用マルチフィルム代替物の一例および比較例の、降雨翌日の状態を表した写真である。
【図9】仕切りの右側にさらに別の比較例を表した写真である。
【図10】図9の比較例の、形成翌日の状態を表した写真である。
【図11】図9の比較例の、降雨当日の状態を表した写真である。
【図12】図9の比較例の、降雨翌日の状態を表した写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸ナトリウム水溶液と、色素成分を含有するカルシウム塩水溶液とを地表面に塗布または散布して、前記2つの水溶液が反応することにより前記色素成分を含有するアルギン酸カルシウムの皮膜を前記地表面に形成する農業用マルチフィルム代替物の製造方法。
【請求項2】
前記色素成分が、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、石膏、クレー、シリカ粉、微粉ケイ酸、珪藻土、カオリン、タルク、塩基性炭酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の農業用マルチフィルム代替物の製造方法。
【請求項3】
前記色素成分が、天然色素または食品添加物として認められている着色材である請求項1に記載の農業用マルチフィルム代替物の製造方法。
【請求項4】
前記カルシウム塩が乳酸カルシウムである請求項1に記載の農業用マルチフィルム代替物の製造方法。
【請求項5】
前記アルギン酸ナトリウム水溶液又は前記カルシウム塩水溶液が、乾燥硬化剤を含有する請求項1に記載の農業用マルチフィルム代替物の製造方法。
【請求項6】
前記アルギン酸ナトリウム水溶液又は前記カルシウム塩水溶液が、接着剤を含有する請求項5に記載の農業用マルチフィルム代替物の製造方法。
【請求項7】
アルギン酸ナトリウム水溶液と、色素成分を含有するカルシウム塩水溶液とを備えた農業用マルチフィルム代替物を製造するためのキットであって、前記2つの水溶液は、地表面に塗布または散布されると、反応して前記色素成分を含有するアルギン酸カルシウムの皮膜を前記地表面に形成する製造キット。
【請求項8】
色素成分を含有するアルギン酸カルシウムの皮膜からなり、地表面に直接形成された農業用マルチフィルム代替物。
【請求項1】
アルギン酸ナトリウム水溶液と、色素成分を含有するカルシウム塩水溶液とを地表面に塗布または散布して、前記2つの水溶液が反応することにより前記色素成分を含有するアルギン酸カルシウムの皮膜を前記地表面に形成する農業用マルチフィルム代替物の製造方法。
【請求項2】
前記色素成分が、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、石膏、クレー、シリカ粉、微粉ケイ酸、珪藻土、カオリン、タルク、塩基性炭酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の農業用マルチフィルム代替物の製造方法。
【請求項3】
前記色素成分が、天然色素または食品添加物として認められている着色材である請求項1に記載の農業用マルチフィルム代替物の製造方法。
【請求項4】
前記カルシウム塩が乳酸カルシウムである請求項1に記載の農業用マルチフィルム代替物の製造方法。
【請求項5】
前記アルギン酸ナトリウム水溶液又は前記カルシウム塩水溶液が、乾燥硬化剤を含有する請求項1に記載の農業用マルチフィルム代替物の製造方法。
【請求項6】
前記アルギン酸ナトリウム水溶液又は前記カルシウム塩水溶液が、接着剤を含有する請求項5に記載の農業用マルチフィルム代替物の製造方法。
【請求項7】
アルギン酸ナトリウム水溶液と、色素成分を含有するカルシウム塩水溶液とを備えた農業用マルチフィルム代替物を製造するためのキットであって、前記2つの水溶液は、地表面に塗布または散布されると、反応して前記色素成分を含有するアルギン酸カルシウムの皮膜を前記地表面に形成する製造キット。
【請求項8】
色素成分を含有するアルギン酸カルシウムの皮膜からなり、地表面に直接形成された農業用マルチフィルム代替物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−35860(P2008−35860A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184751(P2007−184751)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(593119527)白石カルシウム株式会社 (17)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(593119527)白石カルシウム株式会社 (17)
【Fターム(参考)】
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