説明

農業用マルチフィルム

【課題】夏場の畝面に被覆して野菜を栽培する際に野菜の生育促進と病虫害防止が図れる農業用マルチフィルムを提供すること。
【解決手段】本発明の農業用マルチフィルムは、一方の面が黒色層で他方の面が白色層である多層のポリオレフィン系樹脂からなる農業用マルチフィルムにおいて、前記農業用マルチフィルムの厚さが20〜75μmの範囲であり、白色層の二酸化チタン濃度(wt%)の数値と厚さ(μm)の数値の積が600以上であり、波長800nmの太陽光近赤外域反射率が70%以上であることを特徴とする。また、本発明の農業用マルチフィルムは、夏場の野菜栽培用であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作物栽培時に地面を覆い作物の生育に好適な環境を構築する農業用マルチフィルムに関し、詳しくは夏場の野菜栽培において病虫害を防止できる農業用マルチフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、マルチ栽培において、土中水分保持、土壌膨軟性の保持、肥料流亡防止、地温の上昇と抑制、初期成育の促進、初期収量の増加、生産の多収安定化を図るために、ポリオレフィンのようなプラスチックフィルムからなる農業用マルチフィルムが使用されている。
【0003】
かかるプラスチックフィルムとしては、従来、二酸化チタンやアルミ微粒子をフィルムに配合して太陽光線を反射させて地温の上昇を防ぐ反射フィルムが知られている。
【0004】
しかし、かかるプラスチックフィルムでは、地温の低下が裸地並み或いはそれ以下にならず不十分である。地温の抑制効果が低いと、たとえ1℃程度の上昇でも根の活動に影響し、積算すると植物の生育を大幅に遅らせたりあるいは枯死させるという植物栽培に致命的な問題がある。
【0005】
このため特許文献1には、地温を裸地温度以下にすることが出来、栽培の難しい高温期の栽培に使用することにより、作物を良い栽培環境で育て、生育促進させ病害も低減することが出来る農業用フィルムが開示されている。
【特許文献1】特願平11−220513
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の明細書には、地温を裸地温度以下に大幅に低下させることにより、高温期のマルチ栽培において病害を低減できる旨が開示されているが、病害の低減は立証されていない。さらに地温を低下させるため小孔を多数開け水の蒸散による気化熱を利用しており、小孔から雑草が生え野菜の生育に障害となることがある。
【0007】
本発明者らは、さらに研究を進め、マルチフィルムを夏場の畝面に被覆して野菜を栽培する際に、波長800nmの太陽光近赤外域反射率が70%以上である場合に、地温が大きく下がり、生育促進と病虫害防止が図れることを見出し、本発明に至った。
【0008】
そこで、本発明は、夏場の畝面に被覆して野菜を栽培する際に野菜の生育促進と病虫害防止が図れる農業用マルチフィルムを提供することを課題とする。
【0009】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する請求項1記載の農業用マルチフィルムは、一方の面が黒色層で他方の面が白色層である多層のポリオレフィン系樹脂からなる農業用マルチフィルムにおいて、
前記農業用マルチフィルムの厚さが20〜75μmの範囲であり、白色層の二酸化チタン濃度(wt%)の数値と厚さ(μm)の数値の積が600以上であり、波長800nmの太陽光近赤外域反射率が70%以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明の好ましい態様は、夏場の野菜栽培用である請求項1記載の農業用マルチフィルムである。
【0012】
また本発明の他の好ましい態様は、白色層の二酸化チタン濃度(wt%)の数値と厚さ(μm)の数値の積が700以上であり、更に好ましい態様としては、白色層の二酸化チタン濃度(wt%)の数値と厚さ(μm)の数値の積が900以上であることである。
【0013】
更に本発明の他の好ましい態様は、波長800nmの太陽光近赤外域反射率は73%以上であり、より好ましくは80%以上である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、夏場の畝面に被覆して野菜を栽培する際に野菜の生育促進と病虫害防止が図れる農業用マルチフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
本発明の多層フィルムの層構成は、一方の面が黒色層で他方の面が白色層であり、少なくとも2層構成であればよい。この多層フィルムは、白色層と黒色層のベース樹脂としてポリオレフィン系樹脂を用いた軟質の多層フィルムである。また白色層の表面に透明層を有していてもよい。
【0017】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン1共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−デセン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル−メチルメタクリレート共重合体、アイオノマー共重合体等が挙げられる。
【0018】
本発明において、ポリオレフィン系樹脂として好ましいのは、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)であり、より好ましいのは、強度、柔軟性、耐候性、あるいはある程度の耐熱性を発揮する観点から、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)である。
【0019】
本発明の多層フィルムの厚みは、20〜75μmの範囲であり、好ましくは25〜70μmの範囲であり、より好ましくは30〜60μmの範囲である。厚みはフィルム断面の光学顕微鏡観察によって測定することが出来る。
【0020】
本発明において、白色層の二酸化チタン濃度(wt%)の数値と厚さ(μm)の数値の積は600以上である。
【0021】
かかる要件を満足するには、二酸化チタン濃度の数値を上げるか、あるいは白色層の厚みを増すか、あるいは二酸化チタン濃度の数値を上げると共に白色層の厚みを増す方法などがある。白色層の厚みはフィルム断面の光学顕微鏡観察によって測定することができる。
【0022】
白色層の二酸化チタン濃度(wt%)の数値と厚さ(μm)の数値の積は600以上であり、700以上であることがより好ましく、更に好ましい態様としてはその積が900以上であることである。
【0023】
本発明の多層フィルムにおける波長800nmの太陽光近赤外域反射率は70%以上であり、好ましくは73%以上であり、より好ましくは80%以上である。
【0024】
かかる反射率は分光光度計を用いて測定・算出できる。目的の反射率を得るのは二酸化チタンの種類を選び濃度を調整することで達成できる。
【0025】
波長800nmの太陽光線は、近赤外域に属する波長の光線であり、かかる波長領域の太陽光線を70%以上反射すると、上記の要件と相俟って、夏場の野菜栽培における生育の促進と病害の防止ができる。特に夏場の畝面に本発明マルチフィルムを被覆して大根やキャベツ、レタス等低温期栽培野菜を栽培する際に効果を発揮する。
【0026】
黒色層の添加剤としては、カーボンブラックが挙げられる。かかるカーボンブラックの添加量は、特に限定されないが、1〜10wt%の範囲が好ましい。
【0027】
本発明の農業用マルチフィルムに含有できる添加剤としては、耐候安定剤、酸化防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、無滴剤等のような農業用マルチフィルムに使われる各種添加剤を使用することが出来る。
【0028】
本発明の多層フィルムを製造する方法としては、例えばインフレ共押出成形、Tダイ共押出成形、カレンダー、2軸延伸などの成形方法が挙げられる。
【0029】
本発明の農業用マルチフィルムを用いた野菜の栽培は、高冷地夏場の畝面に被覆してキャベツ、レタスなどの野菜を栽培することにも効果がある。ここで「高冷地」というのは、夏場でも平均気温が23℃を越えないところで、信州の場合は標高1000m前後あるいはそれ以上の所であり、作物が成長するのに必要な温度・日照・水分のある所をいい、比較的日照時間が長く、夏に気温が比較的低い状況にある。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例について説明するが、かかる実施例によって本発明が限定されるものではない。
【0031】
実施例1
<樹脂原料及び各層の構成>
【0032】
(1)白色層
下記ベース樹脂に二酸化チタンを添加した。二酸化チタンの濃度は、二酸化チタン濃度(wt%)と厚み(μm)の積が表1になるように決定した。
【0033】
(2)黒色層
下記ベース樹脂95重量部にカーボンブラック5重量部を添加した。
【0034】
(ベース樹脂)
上記白色層と黒色に各々用いるベース樹脂は、直鎖状低密度ポリエチレン(比重0.920、メルトフローレート1.0)とした。
【0035】
<多層フィルム試料の製造>
上記白色層組成物と黒色層組成物を、それぞれ別々の押出機で、160℃の温度で溶融・混練し、1台のインフレーション成形多層ダイに供給して、多層ダイ内で溶融組成物同士を積層させ(白色層と黒色層を積層させ)、次いで円形のスリットから押出し、ブローアップして冷却して、チューブ状に成形して、白色層と黒色層の多層フィルム試料1、2、3、4及び5を得た。
【0036】
<多層フィルムの厚さ>
各フィルム試料の厚さは表1に示したとおりである。
【0037】
<多層フィルムの反射率>
各フィルム試料について、波長800nmの反射率を、日立分光光度計を用いて測定・算出した。その結果を表1に示した。
【0038】
<栽培試験>
(試験場所)
上記フィルム試料1、2、3、4及び5を用いて、夏場に千葉県市原市のみかど化工株式会社の試験農場において、大根のマルチ栽培を行った。
【0039】
(圃場)
試験農場にそれぞれ1区8m(巾1m×長10m)からなる試験区を作り、それぞれのフィルムを被覆して、本発明実験区及び比較対照区を作成した。
【0040】
(品種)
栽培に用いた大根の品種:「献夏」(株式会社サカタのタネ製品)
【0041】
(評価)
<地温の測定>
1)測定法
栽培期間中の畝頂部下10cm地点の地温をTandD社製「おんどとり」を用いて測定した。
【0042】
2)測定結果:8月晴天日の最高地温の平均値を表1に示す。
【0043】
<生育の測定>
8月2日各植穴に大根の種を3粒ずつ播種して、8月25日に間引きを行い、間引いた大根の葉を測定した。
【0044】
<病虫害の測定>
間引いた葉の外観を観察して病虫害の程度を記録した。
【0045】
<結果>
表1に示すとおりである。
【0046】
【表1】

【0047】
以上、表1から、酷暑の時期に播種した大根は本発明のマルチフィルムを被覆することにより順調に生育して、病原菌や虫による障害を防ぎ、良好な大根を収穫することができる。
【0048】
実施例2
<試験フィルム>
実施例1と同様な方法で、他の種類のやや青みがかった二酸化チタンを使い、白色層の二酸化チタン濃度(wt%)と厚み(μm)の積及び多層フィルムの厚さが試料5と同様にして試料6を作成した。
【0049】
これらの試料に実施例1の試料1、2、3、4及び5を加え、地温の測定を行った。
【0050】
<多層フィルムの反射率>
試料6について、波長800nmの反射率を、日立分光光度計を用いて測定・算出した。その結果を表2に示した。
【0051】
<地温の測定>
(試験場所)千葉県市原市みかど化工株式会社の試験農場において、地温試験区を作り、測定を行った。
【0052】
(地温試験)試験農場に巾0.6m×長0.9mの畝を、各フィルム試料について、本発明実験区及び比較対照区を作成し、該畝面上に上記フィルム試料を敷設した。
【0053】
フィルムを被覆しない畝も参考区とした。
【0054】
(測定法)7月晴天日に畝頂部下10cm地点の地温をTandD社製地温測定機「おんどとり」を用いて測定した。
【0055】
(測定結果)表2に示すとおり。
【0056】
【表2】

【0057】
表2から、本発明フィルムは、いずれも比較の試料よりも、2℃以上地温を低下することができ、表1の結果も考慮すれば、比較対照区に比べ、夏場の大根栽培の生育促進と病虫害防止に優れた効果を得ることが予想でき、良好な野菜を収穫することが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面が黒色層で他方の面が白色層である多層のポリオレフィン系樹脂からなる農業用マルチフィルムにおいて、
前記農業用マルチフィルムの厚さが20〜75μmの範囲であり、白色層の二酸化チタン濃度(wt%)の数値と厚さ(μm)の数値の積が600以上であり、波長800nmの太陽光近赤外域反射率が70%以上であることを特徴とする農業用マルチフィルム。
【請求項2】
夏場の野菜栽培用である請求項1記載の農業用マルチフィルム。


【公開番号】特開2007−189986(P2007−189986A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12987(P2006−12987)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000100458)みかど化工株式会社 (8)
【Fターム(参考)】