説明

農業用マルチフィルム

【課題】優れた反射率及び断熱性を有することにより、果実を満遍なく色づかせ、光合成を促進し、夏場の地温を抑制することができ、更には、容易かつ安価に製造することができ、リサイクル性に優れた農業用マルチフィルムを提供する。
【解決手段】結晶性を有するポリマーからなり、長尺状の空洞100内部に含有する空洞含有樹脂フィルム1を含むフィルムであって、空洞100の中心から空洞含有樹脂フィルム1の表面1aまでの距離が最も短い10個の前記空洞100について、各中心から前記空洞含有樹脂フィルム1の表面1aまでの距離h(i)を算出し、その算術平均値h(avg)が、h(avg)>T/100(Tは、前記断面における厚みの算術平均値)、の関係を満たし、かつ、空洞100の配向方向に直交する厚み方向における平均長さをr(μm)、空洞100の配向方向における平均長さをL(μm)とした際のL/r比が10以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作物の生育促進や、雑草の生育防止などを目的として、畑の地面に被覆して使用される農業用マルチフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作物の生育促進、雑草の生育防止などを主な目的として、畑の地面(特に、畝など)にマルチフィルムを被覆して栽培する、マルチ栽培が行われている。一般に、農業用マルチフィルムとしては、ポリオレフィンなどのプラスティックフィルムが用いられる。
【0003】
近年、農業用マルチフィルムに反射性を付与することで、果実を満遍なく色づかせて果実の商品価値を上げたり、光合成を促進したり、夏場の地温の上昇を抑制したり、害虫を忌避したりする技術が開示されている。夏場の地温が上昇すると、作物の根の機能が低下して作物の生育が低下することが知られている。
【0004】
反射性が付与された農業用マルチフィルムとしては、例えば、アルミニウム粉末を含む銀色層と緑色色素を含む緑色層からなる害虫忌避マルチフィルムが開示されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の農業用マルチフィルムによれば、アルミニウム粉末による光反射によって害虫を効果的に忌避することができる。
また、反射性が付与された農業用マルチフィルムとして、例えば、ポリオレフィン系の樹脂に二酸化チタンを含有し、太陽光近赤外線反射率が70%以上である農業用マルチフィルムが開示されている(特許文献2参照)。特許文献2に記載の農業用マルチフィルムによれば、地温を大きく下げることができ、生育促進と病虫害防止が図ることができる。
また、反射性を有する農業用フィルムとして、例えば、アルミニウムを含む裏面層と、カーボンブラックを含む黒色層と、酸化チタンを含む表面層とが順次積層されてなる植物等のハウス又はトンネル栽培における遮光保存用カーテン部材として用いる農業用フィルムが開示されている(特許文献3参照)。
【0005】
しかしながら、従来の反射性が付与された農業用マルチフィルムは、反射率及び断熱性があまり高くなく、また、顔料、染料、金属、無機粒子などを含んでいる。農業用マルチフィルムの反射率及び断熱性が低いと、果実を満遍なく色づかせる効果、光合成促進効果及び地温抑制効果が充分ではなく、充分な作物の生育が期待できない。また、農業用マルチフィルムに、顔料、染料、金属、無機粒子などを含む場合には、簡易な構成のものではないために、容易かつ安価に製造することができず、リサイクルが困難である。
【0006】
したがって、優れた反射率及び断熱性を有することにより、果実を満遍なく色づかせ、光合成を促進し、夏場の地温を抑制することができ、更には、容易かつ安価に製造することができ、リサイクル性に優れた農業用マルチフィルムは、未だ満足なものが提供されていないのが現状である。
【特許文献1】特開2008−11773号公報
【特許文献2】特開2007−189986号公報
【特許文献3】特許第3127116号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、優れた反射率及び断熱性を有することにより、果実を満遍なく色づかせ、光合成を促進し、夏場の地温を抑制することができ、更には、容易かつ安価に製造することができ、リサイクル性に優れた、農業用マルチフィルムを提供することを目的とする。
【0008】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PBS(ポリブチレンサクシネート)又はPP(ポリプロピレン)のみからなるポリマーフィルムを高速延伸すると、空洞含有フィルムになり、前記高速延伸されたフィルム(空洞含有フィルム)は、PBT層(屈折率約1.55)と空気(空洞)層(屈折率1)からなる空洞含有(多重層(数十層))構造、PBS層(屈折率約1.5)と空気(空洞)層(屈折率1)からなる空洞含有(多重層(数十層))構造、又は、PP層(屈折率約1.47)と空気(空洞)層(屈折率1)からなる空洞含有(多重層(数十層))構造をとっていたこと;したがって、前記空洞含有樹脂フィルムは、作物を栽培する際に地面に被覆して使用すると、その優れた反射特性及び断熱性により、果実を満遍なく色づかせたり、光合成を促進したり、夏場の地温を抑制したりすることができるので、農業用マルチフィルムとして好適に利用できること;を知見した。
なお、前記空洞含有樹脂フィルムが有する高い反射率は、前記多重層間の構造的な光干渉による。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 結晶性を有するポリマーからなり、長尺状の空洞をその長さ方向が一方向に配向した状態で内部に含有する空洞含有樹脂フィルムを含んでなる農業用マルチフィルムであって、
前記空洞含有樹脂フィルムにおける、前記空洞の配向方向に直交する断面において、前記空洞の中心から前記空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離が最も短い10個の前記空洞について、各中心から前記空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離h(i)を算出し、算出された各前記距離h(i)の算術平均値h(avg)が、次式、h(avg)>T/100、の関係を満たし、
[但し、Tは、前記断面における厚みの算術平均値を表し、10個の前記空洞は、前記厚み方向に平行な任意の一の直線と、前記一の直線に対し平行でかつ20×Tだけ離れて位置する他の直線とで挟まれた領域内に存在する空洞の中から選択される。]
かつ、前記空洞の配向方向に直交する厚み方向における前記空洞の平均長さをr(μm)として、前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さをL(μm)とした際のL/r比が10以上であることを特徴とする農業用マルチフィルムである。
<2> 波長400〜900nmの光に対する平均反射率が、80%以上である<1>に記載の農業用マルチフィルムである。
<3> 熱伝導率が、0.1(W/mK)以下である<1>から<2>のいずれかに記載の農業用マルチフィルムである。
<4> 生分解性ポリマーのみからなる<1>から<3>のいずれかに記載の農業用マルチフィルムである。
<5> 生分解性ポリマーが、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート・アジペート)、ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)、ポリ乳酸/ジオール・ジカルボン酸共重合体、ポリブチレンテレフタレートのうち少なくとものいずれかである<4>に記載の農業用マルチフィルムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、優れた反射率及び断熱性を有することにより、果実を満遍なく色づかせ、光合成を促進し、夏場の地温を抑制することができ、更には、容易かつ安価に製造することができ、リサイクル性に優れた農業用マルチフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(農業用マルチフィルム)
本発明の農業用マルチフィルムは、空洞含有樹脂フィルムを含んでなることを特徴とする。
<空洞含有樹脂フィルム>
前記空洞含有樹脂フィルムは、結晶性を有するポリマーのみからなり、長尺状の空洞をその長さ方向が一方向に配向した状態で内部に含有する。
【0012】
−結晶性を有するポリマー−
一般に、ポリマーは、結晶性を有するポリマーと非晶性(アモルファス)ポリマーとに分けられるが、結晶性を有するポリマーといえども100%結晶ということはなく、分子構造の中に長い鎖状の分子が規則的に並んだ結晶性領域と、規則的に並んでいない非結晶(アモルファス)領域とを含んでいる。
したがって、前記空洞含有樹脂フィルムにおける前記結晶性を有するポリマーとしては、分子構造の中に少なくとも前記結晶性領域を含んでいればよく、結晶性領域と非結晶領域とが混在していてもよい。
【0013】
前記結晶性を有するポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、高密度ポリエチレン、ポリオレフィン類(例えば、ポリプロピレンなど)、ポリアミド類(PA)(例えば、ナイロン−6など)、ポリアセタール類(POM)、ポリエステル類(例えば、PET、PEN、PTT、PBT、PBN、PBS、PES、PBSAなど)、シンジオタクチック・ポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンサルファイド類(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン類(PEEK)、液晶ポリマー類(LCP)、フッ素樹脂、などが挙げられる。その中でも、力学強度や製造の観点から、ポリエステル類、シンジオタクチック・ポリスチレン(SPS)、液晶ポリマー類(LCP)が好ましく、ポリエステル類がより好ましい。また、生分解性の観点から、ポリエステル類が好ましく、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート・アジペート)、ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)、ポリ乳酸/ジオール・ジカルボン酸共重合体、ポリブチレンテレフタレートが特に好ましい。また、これらのうちの2種以上のポリマーをブレンドしたり、共重合させたりして使用してもよい。
【0014】
前記結晶性を有するポリマーの溶融粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50〜700Pa・sが好ましく、70〜500Pa・sがより好ましく、80〜300Pa・sが更に好ましい。前記溶融粘度が50〜700Pa・sであると、溶融製膜時にダイヘッドから吐出される溶融膜の形状が安定し、均一に製膜しやすくなる点で好ましい。また、前記溶融粘度が50〜700Pa・sであると、溶融製膜時の粘度が適切になって押出ししやすくなったり、製膜時の溶融膜がレベリングされて凹凸を低減できたりする点で好ましい。
ここで、前記溶融粘度は、プレートタイプのレオメーターやキャピラリーレオメーターにより測定することができる。
【0015】
前記結晶性を有するポリマーの極限粘度(IV)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.4〜1.2が好ましく、0.6〜1.0がより好ましく、0.7〜0.9が更に好ましい。前記IVが0.4〜1.2であると、製膜されたフィルムの強度が高くなり、効率よく延伸することができる点で好ましい。
ここで、前記IVは、ウベローデ型粘度計により測定することができる。
【0016】
前記結晶性を有するポリマーの融点(Tm)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、40〜350℃が好ましく、80〜300℃がより好ましく、100〜260℃が更に好ましい。前記融点が40〜350℃であると、通常の使用で予想される温度範囲で形を保ちやすくなる点で好ましく、高温での加工に必要とされる特殊な技術を特に用いなくても、均一な製膜ができる点で好ましい。
ここで、前記融点は、示差熱分析装置(DSC)により測定することができる。
【0017】
−−ポリエステル樹脂−−
前記ポリエステル類(以下、「ポリエステル樹脂」と称する。)は、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子化合物の総称を意味する。したがって、前記結晶性を有するポリマーとして好適な前記ポリエステル樹脂としては、前記例示したPET(ポリエチレンテレフタエレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)、PBS(ポリブチレンサクシネート)、PES(ポリエチレンサクシネート)、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート)だけでなく、ジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合反応によって得られる高分子化合物が全て含まれる。
【0018】
前記ジカルボン酸成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、オキシカルボン酸、多官能酸などが挙げられ、中でも、芳香族ジカルボン酸が好ましい。
【0019】
前記芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などが挙げられ、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸がより好ましい。
【0020】
前記脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、エイコ酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、マレイン酸、フマル酸が挙げられる。前記脂環族ジカルボン酸としては、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。前記オキシカルボン酸としては、例えば、p−オキシ安息香酸などが挙げられる。前記多官能酸としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸などが挙げられる。
【0021】
前記ジオール成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脂肪族ジオール、脂環族ジオール、芳香族ジオール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコールなどが挙げられ、中でも、脂肪族ジオールが好ましい。
【0022】
前記脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコールなどが挙げられ、中でも、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールが特に好ましい。前記脂環族ジオールとしては、例えば、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。前記芳香族ジオールとしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどが挙げられる。
【0023】
前記ポリエステル樹脂の溶融粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50〜700Pa・sが好ましく、70〜500Pa・sがより好ましく、80〜300Pa・sが更に好ましい。前記溶融粘度が大きいほうが延伸時にボイドを発現しやすいが、前記溶融粘度が50〜700Pa・sであると、製膜時に押出しがしやすくなったり、樹脂の流れが安定して滞留が発生しづらくなり、品質が安定したりする点で好ましい。また、前記溶融粘度が50〜700Pa・sであると、延伸時に延伸張力が適切に保たれるために、均一に延伸しやすくなり、破断しづらくなる点で好ましい。また、前記溶融粘度が50〜700Pa・sであると、製膜時にダイヘッドから吐出される溶融膜の形態が維持しやすくなって、安定的に成形できたり、製品が破損しにくくなったりするなど、物性が高まる点で好ましい。
【0024】
前記ポリエステル樹脂の極限粘度(IV)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.4〜1.2が好ましく、0.6〜1.0がより好ましく、0.7〜0.9が更に好ましい。前記IVが大きいほうが延伸時にボイドを発現しやすいが、前記IVが0.4〜1.2であると、製膜時に押出しがしやすくなったり、樹脂の流れが安定して滞留が発生しづらくなり、品質が安定したりする点で好ましい。更に、前記IVが0.4〜1.2であると、延伸時に延伸張力が適切に保たれるために、均一に延伸しやすくなり、装置に負荷がかかりにくい点で好ましい。加えて、前記IVが0.4〜1.2であると、製品が破損しにくくなって、物性が高まる点で好ましい。
【0025】
前記ポリエステル樹脂の融点としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、製膜性や取扱い性などの観点から、80〜200℃が好ましく、90〜180℃がより好ましい。
【0026】
なお、前記ポリエステル樹脂として、前記ジカルボン酸成分と前記ジオール成分とが、それぞれ1種で重合してポリマーを形成していてもよく、前記ジカルボン酸成分及び/又は前記ジオール成分が、2種以上で共重合してポリマーを形成していてもよい。また、前記ポリエステル樹脂として、2種以上のポリマーをブレンドして使用してもよい。
【0027】
前記2種以上でのポリマーのブレンドにおいて、主たるポリマーに対して添加されるポリマーは、前記主たるポリマーに対して、溶融粘度及び極限粘度が近く、添加量が少量であるほうが、製膜時や溶融押出し時に物性が高まり、押出ししやすくなる点で好ましい。
【0028】
また、前記ポリエステル樹脂の流動特性の改良、光線透過性の制御、塗布液との密着性の向上などを目的として、前記ポリエステル樹脂に対してポリエステル系以外の樹脂を添加しても良い。
【0029】
このように、前記空洞含有樹脂フィルムは、無機系微粒子、相溶しない樹脂などの空洞形成剤を特に添加しなくても、簡便な工程でボイドを形成させることができる。更に、不活性ガスを予め樹脂の中に溶け込ませるための特殊な設備も必要としない。したがって、前記空洞含有樹脂フィルムを含んでなる本発明の農業用マルチフィルムは、容易にかつ安価に製造することができ、リサイクル性に優れている。
なお、空洞含有樹脂フィルムの製造方法については、後記する。
【0030】
ここで、空洞含有樹脂フィルムは、空洞の発現に寄与しない成分であれば、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。前記その他の成分としては、耐熱安定剤、酸化防止剤、有機の易滑剤、核剤、染料、顔料、分散剤、カップリング剤などが挙げられる。前記その他の成分が空洞の発現に寄与したかどうかは、空洞内又は空洞の界面部分に、結晶性を有するポリマー以外の成分(例えば、後記する各成分など)が検出されるかどうかで判別できる。
【0031】
前記酸化防止剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知のヒンダードフェノール類を添加してもよい。前記ヒンダードフェノール類としては、例えば、イルガノックス1010、同スミライザーBHT、同スミライザーGA−80などの商品名で市販されている酸化防止剤が挙げられる。
また、前記酸化防止剤を一次酸化防止剤として利用し、更に二次酸化防止剤を組み合わせて適用することもできる。前記二次酸化防止剤としては、例えば、スミライザーTPL−R、同スミライザーTPM、同スミライザーTP−Dなどの商品名で市販されている酸化防止剤が挙げられる。
【0032】
−空洞−
前記空洞含有樹脂フィルムは、長尺状の空洞をその長さ方向が一方向に配向した状態で内部に含有し、前記空洞のアスペクト比に特徴を有している。
前記空洞とは、樹脂フィルム内部に存在する、真空状態のドメイン又は気相のドメインを意味する。
【0033】
前記アスペクト比とは、空洞の配向方向に直交する厚み方向における前記空洞の平均長さをr(μm)として、前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さをL(μm)とした際のL/r比を意味する。
前記アスペクト比としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、10以上であることが好ましく、15以上がより好ましく、20以上が更に好ましい。
図2A〜2Cは、アスペクト比を具体的に説明するための図であって、図2Aは、空洞含有樹脂フィルムの斜視図であり、図2Bは、図2Aにおける空洞含有樹脂フィルムのA−A’断面図であり、図2Cは、図2Aにおける空洞含有樹脂フィルムのB−B’断面図である。
【0034】
前記空洞含有樹脂フィルムの製造工程において、前記空洞は、通常、第一の延伸方向に沿って配向する。したがって、前記「空洞の配向方向に直交する厚み方向における前記空洞の平均長さ(r(μm))」は、空洞含有樹脂フィルム1の表面1aに垂直で、かつ、第一の延伸方向に直角な断面(図2AにおけるA−A’断面)における空洞100の平均の厚さr(図2B参照)に相当する。また、「前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さ(L(μm))」は、前記空洞含有樹脂フィルムの表面に垂直で、かつ、前記第一の延伸方向に平行な断面(図2AにおけるB−B’断面)における空洞100の平均の長さL(図2C参照)に相当する。
【0035】
なお、前記第一の延伸方向とは、延伸が1軸のみの場合には、その1軸の延伸方向を示す。通常は、製造時にフィルムの流れる方向に沿って縦延伸を行うため、この縦延伸の方向が前記第一の延伸方向に相当する。
また、延伸が2軸以上の場合には、空洞形成を目的とした延伸方向のうち少なくとも1方向を示す。通常は、2軸以上の延伸においても、製造時にフィルムの流れる方向に沿って縦延伸が行われ、かつ、この縦延伸により空洞を形成することが可能であるため、この縦延伸の方向が前記第一の延伸方向に相当する。
ここで、前記アスペクト比は、光学顕微鏡や電子顕微鏡の画像により測定することができる。
【0036】
また、前記空洞含有樹脂フィルムは、空洞の配向方向に直交する厚み方向における前記空洞の平均の個数P、結晶性を有するポリマー層と空洞層との屈折率差ΔN、及び、前記ΔNと前記Pとの積に、特徴を有している。
前記空洞の配向方向に直交する厚み方向における前記空洞の平均の個数Pとしては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、5個以上が好ましく、10個以上がより好ましく、15個以上が更に好ましい。
【0037】
前記空洞含有樹脂フィルムの製造工程において、前記空洞は、通常、第一の延伸方向に沿って配向する。したがって、前記「空洞の配向方向に直交する厚み方向における前記空洞の個数」は、空洞含有樹脂フィルム1の表面1aに垂直で、かつ、第一の延伸方向に直角な断面(図2AにおけるA−A’断面)において、膜厚方向に含まれる空洞100の個数に相当する。
ここで、前記空洞の配向方向に直交する厚み方向における前記空洞の平均の個数Pは、光学顕微鏡や電子顕微鏡の画像により測定することができる。
【0038】
前記結晶性を有するポリマー層と空洞層との屈折率差ΔNとは、具体的には、波長400〜800nmから選択される1つの波長の光に対する結晶性を有するポリマー層の屈折率をN1として、前記選択される1つの波長の光に対する空洞層の屈折率をN2とした際に、N1とN2との差であるΔN(=N1−N2)の値を意味する。
ここで、結晶性を有するポリマー層や空洞層の屈折率N1、N2は、アッベ屈折計などにより測定することができる。
前記ΔNと前記Pとの積は、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、7以上が更に好ましい。
【0039】
このように、前記空洞含有樹脂フィルムは、前記空洞を含有していることにより、例えば、反射特性、断熱性などにおいて、様々な優れた特性を有している。言い換えると、前記空洞含有樹脂フィルムに含有される空洞の態様を変化させることで、反射特性、断熱性などの特性を調節することができる。前記反射特性としては、例えば、反射率、光沢性、透過率などが挙げられる。前記断熱性としては、例えば、熱伝導率が挙げられる。
【0040】
−−反射率−−
前記反射率とは、前記空洞含有樹脂フィルムの表面に対し、入射角60度以下で、所定波長の光を入射したときの、反射光の光強度/入射光の光強度×100(%)の値を意味する。ただし、前記入射角は、前記空洞含有樹脂フィルムの表面に対して垂直に入射する角度を0度とする。
【0041】
前記空洞含有樹脂フィルムの波長400〜900nmの光に対する平均反射率としては、80%以上であることが好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。
前記平均反射率は、波長400〜900nmを1nm毎に測定し、平均値を算出することで求められる。
ここで、前記平均反射率は、例えば、反射率測定器・積分球により、測定することができる。
本発明の農業用マルチフィルムは、前記空洞含有樹脂フィルムを含んでなり、優れた反射率を有している。したがって、作物の栽培の際に地面を被覆したときに、太陽光線を反射することで、果実を満遍なく色づかせ、作物の光合成を促進し、作物の生育を促進することができる。また、優れた反射率を有していることで、太陽光線を遮蔽することができ、夏場において太陽光線による放射熱によりマルチフィルム下の地面の温度が上昇するのを防ぐことができる。
【0042】
更に、前記空洞含有樹脂フィルムは、前記空洞を含有しつつも、空洞を発現するための無機系微粒子、相溶しない樹脂、不活性ガスなどが添加されていないため、優れた表面平滑性を有している。
前記空洞含有樹脂フィルムの表面平滑性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、Ra=0.3μm以下が好ましく、Ra=0.25μm以下が更に好ましく、Ra=0.1μm以下が特に好ましい。
【0043】
更に、前記空洞含有樹脂フィルムは、フィルム表面だけでなく、フィルム表面から所定の距離においても空洞が形成されていないことを特徴とする。
即ち、前記空洞含有樹脂フィルムにおける、前記空洞の配向方向に直交する断面において、前記空洞の中心から前記空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離が最も短い10個の前記空洞について、各中心から前記空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離h(i)を算出し、算出された各前記距離h(i)の算術平均値h(avg)が、次式、h(avg)>T/100、の関係を満たす。
但し、Tは、前記断面における厚みの算術平均値を表し、10個の前記空洞は、前記厚み方向に平行な任意の一の直線と、前記一の直線に対し平行でかつ20×Tだけ離れて位置する他の直線とで挟まれた領域内に存在する空洞の中から選択される。
【0044】
前記「空洞の中心」とは、前記断面における空洞の断面形状が、真円である場合にはその中心を意味し、それ以外の形状の場合には、例えば、最大二乗中心法により任意に設定した基準円からの偏差の二乗和が最小となる円の中心を決定し、これを空洞の中心とする。
前記「空洞含有樹脂フィルムの表面」とは、厚み方向における、空洞含有樹脂フィルムの最外面を意味する。通常、前記空洞含有樹脂フィルムを載置したときの上面を意味する。
【0045】
具体的には、空洞含有樹脂フィルムの表面に垂直で、かつ、縦延伸方向に直角な断面(図2D参照)を、走査型電子顕微鏡を用いて300〜3000倍の適切な倍率で検鏡し、断面写真を撮像する。前記断面写真内において、厚みの算術平均値Tを算出する。厚みの算術平均値Tとして、ロングレンジ接触式変位計などを用いて測定された厚さを用いてもよい。
次に、前記断面写真内において、厚み方向に平行な任意の一の直線を描画し、更に、前記一の直線に対し平行でかつ20×Tだけ離れて位置する他の直線を描画する。
そして、断面写真内の各空洞において、最大二乗中心法により任意に設定した基準円からの偏差の二乗和が最小となる円の中心を決定し、これを空洞の中心とする。
そして、前記一の直線と前記他の直線とで挟まれた領域内において、空洞の中心から空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離が最も短い10個の空洞を選択する。なお、前記「空洞の中心から空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離」は、前記「空洞の中心」を中心とした円を描画する際に、描画する円の半径を順次大きくし、円弧が最初に空洞含有樹脂フィルムの表面に接したときの円の半径とする。
そして、選択した10個の空洞について、各中心から前記空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離h(i)を算出し、算出された各前記距離h(i)の算術平均値h(avg)を下記(1)式により算出する。
h(avg)=(Σh(i))/10 ・・・(1)
なお、前記「各中心から前記空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離h(i)」は、前記空洞含有樹脂フィルムが、湾曲していたり、応力がかかっていたりすると、正確に測定することができないため、測定の際には平面状に載置した状態で測定することが好ましい。
前記空洞含有樹脂フィルムは、前記空洞を含有しつつも、空洞含有樹脂フィルムの表面近くに空洞が形成されていないため、優れた表面平滑性を有している。
【0046】
−−熱伝導率−−
前記空洞含有樹脂フィルムの熱伝導率としては、0.1(W/mK)以下であることが好ましく、0.09(W/mK)以下であることがより好ましく、0.08(W/mK)以下であることが更に好ましい。ここで、前記熱伝導率は、熱拡散率、比熱、密度の測定値の積によって算出することができる。前記熱拡散率は一般的にはレーザーフラッシュ法(例えば、TC−7000((株)真空理工製))により測定できる。前記比熱はDSCによりJIS K7123に記載の方法に従って測定できる。前記密度は一定面積の質量とその厚みを測定することにより、算出することができる。
また、前記熱伝導率は、相対的な値として規定することもできる。即ち、前記空洞含有樹脂フィルムの熱伝導率をX(W/mK)として、前記空洞含有樹脂フィルムと同じ厚さで、前記空洞含有樹脂フィルムを構成する結晶性を有するポリマーと同一の結晶性を有するポリマーからなり、空洞を含有しないポリマーフィルムの熱伝導率をY(W/mK)とした際のX/Y比が、0.27以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.15以下であることが更に好ましい。
本発明の農業用マルチフィルムは、前記空洞含有樹脂フィルムを含んでなり、優れた断熱性を有しているので、夏場における高い気温によりマルチフィルム下の地面の温度が上昇するのを防ぐことができる。
【0047】
また、前記空洞含有樹脂フィルムの厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20〜300μmが好ましく、25〜250μmがより好ましく、30〜200μmが特に好ましい。前記厚さが、20〜300μmであると、引っ張り時に破れない程度の物理強度を確保しつつ、取扱い性に優れた軽さになる点で好ましい。一方、前記厚さが、前記特に好ましい範囲内であると、反射特性、断熱性、耐久性、取扱い性の点で、有利である。
【0048】
(農業用マルチフィルムの製造方法)
本発明の農業用マルチフィルムの製造方法は、少なくとも空洞含有樹脂フィルムを製造する工程を含み、更に必要に応じて、積層工程や着色工程等のその他の工程を含んでなる。
【0049】
−空洞含有樹脂フィルムの製造方法−
前記空洞含有樹脂フィルムの製造方法としては、少なくともポリマーフィルムを延伸する延伸工程を含み、更に必要に応じて製膜工程などのその他の工程を含んでなる。
なお、前記ポリマーフィルムとは、前記結晶性を有するポリマーのみからなり、特に空洞を含有していないものを示し、例えば、ポリマーフィルム、ポリマーシートなどが挙げられる。
【0050】
−−延伸工程−−
前記延伸工程では、前記ポリマーフィルムが少なくとも1軸に延伸される。そして、前記延伸工程により、ポリマーフィルムが延伸されるとともに、その内部に第一の延伸方向に沿って配向した空洞が形成されることで、空洞含有樹脂フィルムが得られる。
【0051】
延伸により空洞が形成される理由としては、前記ポリマーフィルムを構成する少なくとも1種類の結晶性を有するポリマーが、複数種類の結晶状態からなり、延伸時に伸張し難い結晶を含む相で、硬い結晶間の樹脂が引きちぎられるような形で剥離延伸されることにより、これが空洞形成源となって空洞が形成されるものと考えられる。
なお、このような延伸による空洞形成は、結晶性を有するポリマーが1種類の場合だけではなく、2種類以上の結晶性を有するポリマーが、ブレンド又は共重合されている場合であっても可能である。
【0052】
前記延伸の方法としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、例えば、1軸延伸、逐次2軸延伸、同時2軸延伸が挙げられるが、いずれの延伸方法においても、製造時にフィルムの流れる方向に沿って縦延伸が行われることが好ましい。
【0053】
一般に、縦延伸においては、ロールの組合せやロール間の速度差により、縦延伸の段数や延伸速度を調節することができる。
前記縦延伸の段数としては、1段以上であれば特に制限はないが、より安定して高速に延伸することができる点及び製造の歩留まりや機械の制約の点から、2段以上に縦延伸することが好ましい。また、2段以上に縦延伸することは、1段目の延伸によりネッキングの発生を確認したうえで、2段目の延伸により空洞を形成させることができる点においても、有利である。
【0054】
−−−延伸速度−−−
前記縦延伸の延伸速度としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10〜36,000mm/minが好ましく、800〜24,000mm/minがより好ましく、1,200〜12,000mm/minが更に好ましい。前記延伸速度が、10〜36,000mm/minであると、充分なネッキングを発現させやすく、かつ、均一な延伸がしやすくなり、樹脂が破断しづらくなり、高速延伸を目的とした大型な延伸装置を必要とせずにコストを低減できる点で好ましい。
【0055】
より具体的には、1段延伸の場合の延伸速度としては、1,000〜36,000mm/minが好ましく、1,100〜24,000mm/minがより好ましく、1,200〜12,000mm/minが更に好ましい。
【0056】
2段延伸の場合には、1段目の延伸を、ネッキングを発現させることを主なる目的とした予備的な延伸とすることが好ましい。前記予備的な延伸の延伸速度としては、10〜300mm/minが好ましく、40〜220mm/minがより好ましく、70〜150mm/minが更に好ましい。
【0057】
そして、2段延伸における、前記予備的な延伸(1段目の延伸)によりネッキングを発現させた後の2段目の延伸速度は、前記予備的な延伸の延伸速度と変えることが好ましい。前記予備的延伸によりネッキングを発現させた後の、2段目の延伸速度としては、600〜36,000mm/minが好ましく、800〜24,000mm/minがより好ましく、1,200〜15,000mm/minが更に好ましい。
【0058】
−−−延伸温度−−−
延伸時の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、
延伸温度をT(℃)、ガラス転移温度をTg(℃)としたときに、
(Tg−15)(℃)≦T(℃)≦(Tg+70)(℃)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸することが好ましく、
(Tg−15)(℃)≦T(℃)≦(Tg+60)(℃)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸することがより好ましく、
(Tg−15)(℃)≦T(℃)≦(Tg+50)(℃)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸することが更に好ましい。
【0059】
一般に、延伸温度(℃)が高いほど延伸張力も低めに抑えられて容易に延伸できるが、前記延伸温度(℃)が、{ガラス転移温度(Tg)−15}℃以上、{ガラス転移温度(Tg)+70}℃以下であると、空洞含有率が高くなり、アスペクト比が10以上になりやすく、充分に空洞が発現する点で好ましい。
【0060】
ここで、前記延伸温度T(℃)は、非接触式温度計により測定することができる。また、前記ガラス転移温度Tg(℃)は、示差熱分析装置(DSC)により測定することができる。
【0061】
なお、前記延伸工程において、空洞の発現の妨げにならない範囲で、横延伸はしてもよく、しなくてもよい。また横延伸をする場合には、横延伸工程を利用してフィルムを緩和させたり、熱処理を行ったりしてもよい。
また、延伸後の空洞含有樹脂フィルムは、形状安定化などの目的で、更に熱を加えて熱収縮させたり、張力を加えたりする等の処理をしても良い。
【0062】
前記ポリマーフィルムの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結晶性を有するポリマーがポリエステル樹脂である場合には、溶融製膜方法により好適に製造することができる。
また、前記ポリマーフィルムの製造は、前記延伸工程と独立に行ってもよく、連続的に行ってもよい。
【0063】
図1は、本発明の農業用マルチフィルムにおける空洞含有樹脂フィルムの製造方法の一例を示す図であって、二軸延伸フィルム製造装置のフロー図である。
図1に示すように、原料樹脂11は、押出機12(原料形状や、製造規模によって、二軸押出機を用いたり、単軸押出し機を用いたりする)内部で熱溶融、混練された後、Tダイ13から柔らかい板状(フィルム又はシート状)に吐出される。
次に、吐出されたフィルム又はシートFは、キャスティングロール14で冷却固化されて、製膜される。製膜されたフィルム又はシートF(「ポリマーフィルム」に相当する)は、縦延伸機15に送られる。
そして、製膜されたフィルム又はシートFは、縦延伸機15内で再び加熱され、速度の異なるロール15a間で、縦に延伸される。この縦延伸により、フィルム又はシートFの内部に延伸方向に沿って空洞が形成される。そして、空洞が形成されたフィルム又はシートFは、横延伸機16の左右のクリップ16aで両端を把持されて、巻取機側(図示せず)へ送られながら横に延伸されて、空洞形成樹脂フィルム1となる。なお、前記工程において、縦延伸のみを行ったフィルム又はシートFを横延伸機16に供さず、空洞形成樹脂フィルム1として使用してもよい。
【0064】
以上のようにして、前記空洞含有樹脂フィルムの製造方法により、空洞含有樹脂フィルムを得ることができ、前記空洞含有樹脂フィルムは、そのままで、本発明の農業用マルチフィルムとして使用することができる。
また、前記農業用マルチフィルムに所望の機能を付与する目的で、前記空洞含有樹脂フィルムと、他の機能性ポリマーフィルムとを積層することで、本発明の農業用マルチフィルムとすることもできる。前記空洞含有樹脂フィルムと、前記他の機能性ポリマーフィルムとを積層する方法としては、特に制限はなく、従来公知の積層方法を適宜利用することができる。
また、前記農業用マルチフィルムの反射率を更に高めたり、透過率を更に低下させたりすることを目的として、前記空洞含有樹脂フィルムを着色することで、本発明の農業用マルチフィルムとすることもできる。前記空洞含有樹脂フィルムの着色方法としては、特に制限はなく、従来公知の着色方法を適宜利用することができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全ての本発明の技術的範囲に包含される。
【0066】
本実施例では、本発明の要件を満たす農業用マルチフィルム(実施例1〜5)と、要件を満たさない農業用マルチフィルム(比較例1、2)を調製し、その特性についての評価を行った。
【0067】
<実施例1>
IV=0.72であるPBT1(ポリブチレンテレフタレート100%樹脂)を溶融押出機を用いて245℃でTダイから押出し、キャスティングドラムで固化させて、厚さ約120μmのポリマーフィルムを得た。このポリマーフィルムを1軸延伸(縦延伸)した。
具体的には、40℃の加温雰囲気下で、100mm/minの速度で1軸延伸し、ネッキングが発生したことを確認した後、6,000mm/minの速度で、初めと同一方向に更に1軸延伸した。得られた空洞含有樹脂フィルムを、実施例1の農業用マルチフィルムとして使用した。
【0068】
<実施例2>
IV=0.67であるPBS(ポリブチレンサクシネート100%樹脂)を溶融押出機を用いて245℃でTダイから押出し、キャスティングドラムで固化させて、厚さ約135μmのポリマーフィルムを得た。このポリマーフィルムを1軸延伸(縦延伸)した。
具体的には、15℃の加温雰囲気下で、100mm/minの速度で1軸延伸し、ネッキングが発生したことを確認した後、6,000mm/minの速度で、初めと同一方向に更に1軸延伸した。得られた空洞含有樹脂フィルムを、実施例2の農業用マルチフィルムとして使用した。
【0069】
<実施例3>
アイソタクティック ポリプロピレン(ポリプロピレン100%樹脂、Aldrich社製、重量平均分子量19万、数平均分子量5万、MFI:35g/10min(ASTM D1238、230℃・2.16kg)、Tm:170〜175℃)を溶融押出機を用いて210℃でTダイから押出し、キャスティングドラムで固化させて、厚さ約150μmのポリマーフィルムを得た。このポリマーフィルムを1軸延伸(縦延伸)した。
具体的には、35℃の加温雰囲気下で、12,000mm/minの速度で1軸延伸した。得られた空洞含有樹脂フィルムを、実施例3の農業用マルチフィルムとして使用した。
【0070】
<実施例4>
実施例1において、ポリマーフィルムの厚さを約120μmに代えて100μmにしたこと、1段目の縦延伸速度を100mm/minに代えて2,400mm/minで延伸したこと、2段目の延伸を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして実施例4の農業用マルチフィルムを作成した。
【0071】
<実施例5>
実施例4において、1段目の縦延伸速度を2,400mm/minに代えて11,000mm/minで延伸したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5の農業用マルチフィルムを作成した。
【0072】
<比較例1>
裏面層の樹脂として、低密度ポリエチレン樹脂(MI=1.0g/10分)に、平均粒径が7.6μmのアルミニウム粉末を0.5g/m添加し、ヒンダードアミン系耐候性安定剤「アデカスタブLA68」(株式会社ADEKA製)を0.7%添加したものを使用した。
黒色層の樹脂として、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂(MI=1.5g/10分)に、カーボンブラックを2.0g/m添加したものを使用した。
表面層の樹脂として、低密度ポリエチレン樹脂(MI=1.0g/10分)に、酸化チタン(TiO)を4.4g/m添加し、ヒンダードアミン系耐候性安定剤「アデカスタブLA68」(株式会社ADEKA製)を0.7%添加したものを使用した。
3層のフィルムをインフレーション共押出法により製造した。製造されたフィルム全体の厚さは100μmであり、裏面層の厚さは25μm、黒色層の厚さは50μm、表面層の厚さは25μmであった。得られたフィルムを、比較例1の農業用マルチフィルムとして使用した。
【0073】
<比較例2>
実施例1において、ポリマーフィルムの厚さを約120μmに代えて130μmにしたこと、延伸時の温度を40℃に代えて100にしたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の農業用マルチフィルムを作成した。
比較例2の農業用マルチフィルムにおいては、空洞が形成されなかった。
【0074】
本実施例で作製した実施例1〜5及び比較例1、2の農業用マルチフィルムについて、表1にまとめて示す。
【0075】
なお、表1における厚さ、アスペクト比及びh(avg)は、以下の方法で測定した。
−厚さの測定−
キーエンス社製、ロングレンジ接触式変位計AF030(測定部)、AF350(指示部)を用いて測定した。
【0076】
−アスペクト比の測定−
農業用マルチフィルムの表面に垂直で、かつ、縦延伸方向に直角な断面(図2B参照)と、前記農業用マルチフィルムの表面に垂直で、かつ、前記縦延伸方向に平行な断面(図2C参照)を、走査型電子顕微鏡を用いて300〜3000倍の適切な倍率で検鏡し、前記各断面写真において測定枠をそれぞれ設定した。この測定枠は、その枠内に空洞が50〜100個含まれるように設定した。また、前記走査型電子顕微鏡による検鏡により、空洞が縦延伸方向に沿って配向していることを確認した。
次に、測定枠に含まれる空洞の数を計測し、前記縦延伸方向に直角な断面の測定枠(図2B参照)に含まれる空洞の数をm個、前記縦延伸方向に平行な断面の測定枠(図2C参照)に含まれる空洞の数をn個とした。
そして、前記縦延伸方向に直角な断面の測定枠(図2B参照)に含まれる空洞の1個ずつの厚さ(r)を測定し、その平均の厚さをrとした。また、前記縦延伸方向に平行な断面の測定枠(図2C参照)に含まれる空洞の1個ずつの長さ(L)を測定し、その平均の長さをLとした。
即ち、r及びLは、それぞれ下記の(2)式及び(3)式で表すことができる。
r=(Σr)/m ・・・(2)
L=(ΣL)/n ・・・(3)
そして、L/rを算出し、アスペクト比とした。
【0077】
−フィルム表面に最も近くに位置する空洞からフィルム表面までの距離の測定−
農業用マルチフィルムの表面に垂直で、かつ、縦延伸方向に直角な断面(図2D参照)を、走査型電子顕微鏡を用いて300〜3000倍の適切な倍率で検鏡し、断面写真を撮像した。
撮像の際には、前記農業用マルチフィルムを平面状に載置した状態で走査型電子顕微鏡にセットして撮像した。
前記断面写真内において、厚みの算術平均値Tを算出した。各農業用マルチフィルムにおいて算出された厚みの算術平均値Tは、上記「(3)厚さの測定」で測定された厚さ(表2参照)と同じであった。
次に、前記断面写真内において、厚み方向に平行な任意の一の直線を描画し、更に、前記一の直線に対し平行でかつ20×Tだけ離れて位置する他の直線を描画した。また、前記走査型電子顕微鏡による検鏡により、空洞が縦延伸方向に沿って配向していることを確認した。
そして、断面写真内の各空洞において、最大二乗中心法により任意に設定した基準円からの偏差の二乗和が最小となる円の中心を決定し、これを空洞の中心とした。
そして、前記一の直線と前記他の直線とで挟まれた領域内において、空洞の中心から農業用マルチフィルム上面までの距離が最も近い10個の空洞を選択した。なお、前記「空洞の中心から農業用マルチフィルム上面までの距離」は、前記「空洞の中心」を中心とした円を描画する際に、描画する円の半径を順次大きくし、円弧が最初に農業用マルチフィルムの表面に接したときの円の半径とした。
そして、選択した10個の空洞について、各中心から前記農業用マルチフィルムの上面までの距離h(i)を算出し、算出された各前記距離h(i)の算術平均値h(avg)を下記(1)式により算出した。
h(avg)=(Σh(i))/10 ・・・(1)
【0078】
【表1】

【0079】
−評価方法−
前記実施例1〜5及び比較例1、2の農業用マルチフィルムについて、下記の評価を行った。
【0080】
(1)平均反射率の測定
反射測定器・積分球を用いて測定した。農業用マルチフィルムの表面に垂直の方向から60度傾けて波長400〜900nmの光を入射させ、農業用マルチフィルムを反射する光の強度を、農業用マルチフィルムを置かないブランクの値(入射光の光の強度)と比較した。平均反射率は、波長400〜900nmを1nm毎に測定し、平均値を算出することで求めた。
なお、平均反射率の測定は、農業用マルチフィルムの両面(表面、裏面)について測定を行った。
【0081】
(2)熱伝導率の測定
熱拡散率はTC−7000((株)真空理工製)を用いて測定した。農業用マルチフィルムの両面をスプレーにより黒化し、室温で測定した。密度、比熱は後述の方法で測定し、熱拡散率、比熱、密度の3つの測定値の積から熱伝導率を求めた。
密度は、農業用マルチフィルムから一定面積を切り取り、その質量を天秤で測定し、その厚みを膜厚計で測定し、質量を体積で割ることで求めた。
比熱はJIS K7123に記載の方法で求めた。DSCとしては、Q1000(TAインスツルメント社製)を用いた。
なお、比較例1については、3層のうち最も熱伝導率が低い黒色層について熱伝導率を測定した。
【0082】
以上の評価結果について、表2にまとめた。
【表2】

【0083】
本実施例の結果によれば、実施例1〜5のみが、良好な反射特性及び断熱性を示すことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の農業用マルチフィルムは、優れた反射率及び断熱性を有するので、果実を満遍なく色づかせたり、光合成を促進したり、夏場の地温を抑制したりすることができ、作物の栽培に好適に利用することができる。前記農業用マルチフィルムは、夏場においては、主に夏場の地温を抑制することを目的として利用できるが、優れた反射率に基づいて発揮される、果実を満遍なく色づかせたり、光合成を促進したりする効果は、夏場に限らず、1年を通して発揮できるものである。したがって、前記農業用マルチフィルムは、いずれの季節においても、様々な種類の作物に対して、好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】図1は、本発明の農業用マルチフィルムにおける空洞含有樹脂フィルムの製造方法の一例を示す図であって、二軸延伸フィルム製造装置のフロー図である。
【図2A】図2Aは、アスペクト比を具体的に説明するための図であって、本発明の農業用マルチフィルムにおける空洞含有樹脂フィルムの斜視図である。
【図2B】図2Bは、アスペクト比を具体的に説明するための図であって、図2Aにおける空洞含有樹脂フィルムのA−A’断面図である。
【図2C】図2Cは、アスペクト比を具体的に説明するための図であって、図2Aにおける空洞含有樹脂フィルムのB−B’断面図である。
【図2D】図2Dは、フィルム表面から最も近くに位置する10個の空洞の、フィルム表面からの距離を測定する方法を説明するための図であって、図2AにおけるA−A’断面図である。
【符号の説明】
【0086】
1 空洞含有樹脂フィルム
1a 表面
100 空洞
L アスペクト比における空洞の長さ
r アスペクト比における空洞の厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性を有するポリマーからなり、長尺状の空洞をその長さ方向が一方向に配向した状態で内部に含有する空洞含有樹脂フィルムを含んでなる農業用マルチフィルムであって、
前記空洞含有樹脂フィルムにおける、前記空洞の配向方向に直交する断面において、前記空洞の中心から前記空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離が最も短い10個の前記空洞について、各中心から前記空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離h(i)を算出し、算出された各前記距離h(i)の算術平均値h(avg)が、次式、h(avg)>T/100、の関係を満たし、
[但し、Tは、前記断面における厚みの算術平均値を表し、10個の前記空洞は、前記厚み方向に平行な任意の一の直線と、前記一の直線に対し平行でかつ20×Tだけ離れて位置する他の直線とで挟まれた領域内に存在する空洞の中から選択される。]
かつ、前記空洞の配向方向に直交する厚み方向における前記空洞の平均長さをr(μm)として、前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さをL(μm)とした際のL/r比が10以上であることを特徴とする農業用マルチフィルム。
【請求項2】
波長400〜900nmの光に対する平均反射率が、80%以上である請求項1に記載の農業用マルチフィルム。
【請求項3】
熱伝導率が、0.1(W/mK)以下である請求項1から2のいずれかに記載の農業用マルチフィルム。
【請求項4】
生分解性ポリマーのみからなる請求項1から3のいずれかに記載の農業用マルチフィルム。
【請求項5】
生分解性ポリマーが、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート・アジペート)、ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)、ポリ乳酸/ジオール・ジカルボン酸共重合体、ポリブチレンテレフタレートのうち少なくとも1つである請求項4に記載の農業用マルチフィルム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【公開番号】特開2009−189262(P2009−189262A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31059(P2008−31059)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】