説明

農業用マルチフィルム

【課題】保温性に優れ、雑草の生育を抑えることができるマルチフィルムを提供する。
【解決手段】透過する光の主波長が400〜600nmの間にあり、600〜700nmの波長における全光線透過率の平均値が20%以下であり、700〜740nmの波長における全光線透過率の平均値が30%以下であり、750〜850nmの波長における全光線透過率の平均値が20%以上である農業用マルチフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑色系統に着色した農業用マルチフィルムに関する。更に詳しくは、地温の上昇および保温、雑草の生育抑制に優れた農業用マルチフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
農作物を栽培するに際して、地温を高め、かつ、雑草の繁茂を抑える目的で、地表にマルチフィルムを敷設して農作物の生育を促進することが行われている。このとき、主に地温の上昇を目的とする場合は、無色透明マルチフィルムが使用されている。他方、地温の上昇よりも雑草の繁茂抑制を重視する場合には黒色マルチフィルムが使用されている。しかし、無色透明なフィルムは、太陽光線を良く透過するため地温が高くなり、作物の生育促進に有利ではあるが、雑草が肥料や地熱を吸収して繁茂し、繁茂した雑草はフィルムを持ち上げて損傷させてしまい、その結果マルチ効果は低下する。また、しばしばマルチフィルム内の除草が必要となるため、多大の労力が必要となる。
【0003】
一方、黒色フィルムを使用すると、太陽光がほぼ完全に遮蔽されるために雑草の生育が大いに抑制されるが、地温の上昇をはかることは困難である。
【0004】
このように、雑草の繁茂を防止するには太陽光線を遮蔽することが有効であり、地温を上昇させるには太陽光を透過させることが有効であるため、相反する性質を持つ無色透明マルチフィルムと黒色マルチフィルムの二種類が、汎用品として主に使用されている。
【0005】
上記の二種類のマルチフィルムの欠点を解消するために、植物の生育と光の波長の関係が研究され、農作物の生育を高めるためには、赤色系(700nm付近)及び青色系(400nm付近)の波長の光が同時に存在することが必要であるとの知見に基づいて、赤色及び青色の二系統の波長をよく透過させる農業用フィルムが開発検討された。例えば、青色や紫色等に着色したフィルムが商品化されたが、このように着色されたマルチフィルムでは、無色透明マルチフィルムまたは黒色マルチフィルムに比較してさほどの効果は認められなかった。
【0006】
また、保温性に優れ、雑草の生育を抑えるようなマルチフィルムを提供することを目的として、赤色系及び青色系の波長を含んだ茶色系統のフィルムの検討も行われた(特許文献1)。しかしながら、このようなフィルムも保温性の確保と雑草の生育の抑制のバランスが十分にとれたものとはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−153875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、保温性に優れ、雑草の生育を抑えることができるマルチフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、雑草の光合成に関与する600〜700nmの波長の光を実質的に遮蔽する一方、これ以外の可視光線を遮蔽しないことにより保温性と雑草の生育の抑制を両立することができるのではないかと着想し鋭意検討したところ、透過する光の主波長が400〜600nmの間にあり、600〜700nmの波長における全光線透過率の平均値が20%以下であり、700〜740nmの波長における全光線透過率の平均値が30%以下であり、750〜850nmの波長における全光線透過率の平均値が20%以上である農業用マルチフィルムが上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。以下、詳細に説明する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の可視光領域の波長における透過率を制御した緑色系統に着色されたマルチフィルムは、雑草の繁殖抑制及び保温性のバランスに優れることが分かる。従って、本発明により、地温の上昇および保温、雑草の生育抑制に優れた農業用マルチフィルムの提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例及び比較例のマルチフィルムの200〜1000nm全光線透過率のチャート
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の農業用マルチフィルムとして使用する樹脂は、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどのポリエチレン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、塩化ビニルとその誘導体等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの中でも使用後の焼却処分が可能であり、安価に入手できるポリエチレン系樹脂を使用することが好ましく、特に直鎖状低密度ポリエチレンが強度発現の点で好ましい。また、本発明においては、農業用マルチフィルムとして使用する樹脂として、生分解性樹脂を使用することもでき、生分解性樹脂としては、例えば、デンプン系生分解性樹脂や脂肪族ポリエステル系樹脂と芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂との配合物などが挙げられるが、これらに限定されない。また、本発明の農業用マルチフィルムは、単層から構成されていてもよく多層構成であってもよい。
【0013】
樹脂の着色に使用する顔料としては、有機又は無機の染料または顔料を使用すれば良く、緑色顔料、黒色顔料、青色顔料及び黄色顔料を配合して、透過する光の主波長が400〜600nmの間にあり、600〜700nmの波長における全光線透過率の平均値が20%以下であり、700〜740nmの波長における全光線透過率の平均値が30%以下であり、750〜850nmの波長における全光線透過率の平均値が20%以上となるように、緑色系統に着色する。具体的に使用する顔料として、緑色顔料としてフタロシアニン系緑顔料等、青色顔料としてフタロシアニン系青色顔料等、黄色顔料としてベンズイミダゾロン系黄色顔料等、黒色顔料としてカーボンブラック等があげられる。本発明においては、緑色系統として、緑色、濃緑色、青緑色などのいずれでもよいが、青緑色系統に着色することが好ましい。この場合には、青色顔料と黄色顔料を組み合わせて配合することにより青緑色系統に好適に着色することができる。
【0014】
本発明の農業用マルチフィルムは、雑草の光合成に関与する波長の光を実質的に遮蔽するために、600〜700nmの波長における全光線透過率の平均値が20%以下、より好ましくは15%以下、更に好ましくは10%以下である。600〜700nmにおける全光線透過率の平均値が20%より大きいと、雑草の光合成を効果的に阻害することが困難となる。更に、前記全光線透過率の平均値は0%以上であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の農業用マルチフィルムは、雑草の光合成に関与する波長域以外での可視光線の波長域における透過性を確保するため、透過する光の主波長が400〜600nmの間にあるようにするものである。ここで、透過する光の主波長が400〜600nmの間にあるとは、400〜600nmの間に全光線透過率のピークがあることを意味する。
【0016】
また、本発明の農業用マルチフィルムは、700〜740nmの波長における全光線透過率の平均値が30%以下、好ましくは20%以下、更に好ましくは10%以下である。更に、前記全光線透過率の平均値は0%以上であることが好ましい。また、750〜850nmの波長における全光線透過率の平均値が20%以上、好ましくは40%以上、更に好ましくは60%以上である。更に、前記全光線透過率の平均値は100%以下であることが好ましい。前記全光線透過率の平均値が20%以上であると、保温性を一層高め冬場における地温上昇の低下を防ぐことができる。フィルムを緑色系統に着色することにより700〜740nmの波長における全光線透過率の平均値を30%以下、750〜850nmの全光線透過率の平均値を20%以上とすることができ、更に青緑色系統に着色することにより、700〜740nmの全光線透過率の平均値を10%以下、750〜850nmにおける全光線透過率の平均値を60%以上とすることができる。
【0017】
さらに、本発明においては上述の顔料の他に本発明で特定する光線透過性を損なわない範囲で公知の界面活性剤、カップリング剤、滑剤、ブロッキング防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の添加剤を添加することもできる。これらは、粉体状のまま熱可塑性樹脂に添加混合してもよいし、予め熱可塑性樹脂と加熱混合しマスターバッチを調製した後これを熱可塑性樹脂に添加混合してもよい。
【0018】
本発明の農業用マルチフィルムの製造法としては、通常の方法で熱可塑性樹脂と顔料を配合し、フィルムを製造する。例えば、バンバリミキサー、ロールあるいは押出機等を使用して熱可塑性樹脂と顔料を溶融混練してマスターバッチを製造し、次いでマスターバッチとベースとなる熱可塑性樹脂を配合し、インフレーション加工、Tダイ加工等通常の成形方法でフィルム状に成形する。尚、本発明で得られる農業用マルチフィルムは、必要に応じて適当な安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を適宜に加えてよい。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例によって説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
【0020】
直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製ノバテックLL UF240(MFR:2.1、密度0.92)、以後の実施例及び比較例にも使用)、フタロシアニンブルー 15.5重量%及びピグメントイエロー180 3重量%を含有するマスターバッチ(日弘ビックス株式会社製PO‐ET1953B グリーン)とを重量比91.7:8.3で配合し、インフレーション押出機により、厚さ20μmの青緑色フィルムを成形し、600〜700nmの波長の光を実質的に遮蔽し、透過する光の主波長が400〜600nmの間にある本発明の農業用マルチフィルムを得た。
[実施例2]
【0021】
実施例1で使用の直鎖状低密度ポリエチレン、フタロシアニングリーン35重量%マスターバッチ(東京インキ株式会社製 PEX6AB442 GREENカイ)とを重量比94.5:5.5で配合し、インフレーション押出機により、厚さ20μmの緑色フィルムを成形し、600〜700nmの波長の光を実質的に遮蔽し、透過する光の主波長が400〜600nmの間にある本発明の農業用マルチフィルムを得た。
[実施例3]
【0022】
実施例1で使用の直鎖状低密度ポリエチレン、フタロシアニングリーン25重量%及びカーボンブラック5重量%を含有するマスターバッチ(東京インキ株式会社 PEX6AB491 GREENカイ)を重量比92.0:8.0で配合し、インフレーション押出機により、厚さ20μmの濃緑色フィルムを成形し、600〜700nmの波長の光を実質的に遮蔽し、透過する光の主波長が400〜600nmの間にある本発明の農業用マルチフィルムを得た。
【0023】
[比較例1]
実施例1で使用の直鎖状低密度ポリエチレンのみを使って、インフレーション押出機により、厚さ20μmの無色透明フィルムを得た。
【0024】
[比較例2]
実施例1で使用の直鎖状低密度ポリエチレン、カーボンブラック40重量%マスターバッチ(東京インキ株式会社製 PEX998020 BLACK AL)とを重量比92.5:7.5で配合し、インフレーション押出機により、厚さ20μmの黒色フィルムを得た。
【0025】
次に、実施例1〜3及び比較例1〜2のマルチフィルムについて保温性、雑草の繁茂抑制及び全光線透過率について下記の方法で評価した。
【0026】
(1)保温性
長野県松本市内の農地にて平成22年6月初旬に各マルチフィルム被覆下深さ5cmの地温を1時間毎に測定し、24時間の平均温度を求めた。
【0027】
(2)雑草の繁茂抑制
三重県松阪市内の農地にて平成22年4月初旬に各マルチフィルムを展張し、約2ヶ月後の雑草の繁茂抑制効果について黒色フィルムと比較評価した。
◎:ほぼ同等であり良好、○:やや劣る、△:劣る
【0028】
(3)全光線透過率
分光光度計(日立製作所製、U3500型)を用いて、200〜1000nmの波長において、1nm毎で全光線透過率の測定を行った。
【0029】
上記の方法を用いて実施例1〜3及び比較例1〜2のマルチフィルムを評価した結果を、当該フィルム中の各成分の重量比と合わせて表1に示す。また、実施例及び比較例のマルチフィルムの200nm〜1000nmでの全光線透過率のチャートを図1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1の評価結果から、本発明の可視光領域の波長における透過率を制御した緑色系統に着色されたマルチフィルムは、雑草の繁殖抑制及び保温性のバランスに優れることが分かる。従って、本発明により、地温の上昇および保温、雑草の生育抑制に優れた農業用マルチフィルムの提供が可能となる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過する光の主波長が400〜600nmの間にあり、600〜700nmの波長における全光線透過率の平均値が20%以下であり、700〜740nmの波長における全光線透過率の平均値が30%以下であり、750〜850nmの波長における全光線透過率の平均値が20%以上であることを特徴とする農業用マルチフィルム。
【請求項2】
750〜850nmの波長における全光線透過率の平均値が40%以上であることを特徴とする請求項1に記載の農業用マルチフィルム。
【請求項3】
700〜740nmの波長における全光線透過率の平均値が10%以下であり、750〜850nmの波長における全光線透過率の平均値が60%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の農業用マルチフィルム。



【図1】
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